私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

トルコのエルドアン大統領の犯罪

2016-01-21 20:46:14 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 トルコのエルドアン大統領と米国との関係を注意深く見ていると、我々が戦わなければならない真のテロが、巨大な悪の正体がはっきりと見えてきます。イスラム国(IS)はその巨悪の単なる道具(instrument)に過ぎませし、これまではISを使っていたエルドアン大統領自身も何時使い捨ての運命に見舞われるやも知れません。
 (2015年12月30日)付けのブログ『クルド人は蚊帳の外』で、シリアのロジャバ革命地域(西クルディスタン)の地図を入れるのに失敗したままですが、ウィキペディアの「ロジャヴァ」の項に地図が出ていますので見てください。この記事の「クルド人民防衛隊の攻勢による支配地域の変遷(2015)」を示した地図には、2015年4月25日から8月1日の間に、クルド人の支配地域は大いに拡大したことが示されていますが、この東西750キロほどの横長の地域が大変なことになっています。北側のトルコ/シリア国境線は、ただ2箇所の検問を除いて、二重の鉄条網と地雷敷設帯と点々と敷設された監視塔の列で封鎖されて、食料、医療物資を含めて流入が差し止められています。南側はISの占領地域で、現時点でも、IS側からの執拗な攻撃が続行されているのです。監視塔からの狙撃によって子供の死者が出ているとも報じられています。米欧のマスメディアが先頃でっち上げ写真まで使って騒ぎ立てた「シリアの町マダヤ」のお話より遥かに深刻な事態です。
 このシリアの西クルディスタン地域の北に広がるトルコ東南部のクルド人地域(北クルディスタン)でもエルドアン大統領の暴挙が続いています。ブログ『クルド人は蚊帳の外』で、
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トルコの独裁者エルドアン大統領は、自国トルコ東南部のクルド系住民に理不尽な弾圧を加え、過去数カ月間に、その数百人を殺傷しています。しかも、世界のマスメディアはほとんど完全なダンマリを決め込んでいるのです。パワー米国国連大使のお得意な“R2P”は一体どうなったのでしょう。
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と書きましたが、この地域のクルド人たちの言わば首都に当たるディヤルバキールなど(Diyarbakir, Cizre, Silwan, Sırnak, Silopi )には戒厳令が布かれ、戦車、装甲車を含む重装備の国軍部隊によって包囲されて、その中で、PKKの武力闘争要員と見なされた人々が射殺され、逮捕されています。一般住民たちは住居からの外出が厳しく制限され、電力や水道がしばしば遮断され、食料も不足状態に追い込まれています。病院に行くこともままなりません。トルコの人権団体による一つの公式発表によると、これまでに162人の一般市民がトルコ軍と警察によって殺され、その32人は子供、29人が女性です。PKKの武力闘争要員と見なされて殺された人数は数百人には及ぶでしょう。アラブの春の騒乱でカダフィが殺したリビア市民の数はせいぜい数十名であったと思われます。トルコの独裁者エルドアン大統領が行っていることは、まがいもなく、意図的な自国民の大量虐殺(massacre)です。
 この犯罪に対して、“We will not be a party to this crime(我々は断じてこの犯罪に加担しない)”というタイトルの声明をトルコの有志大学教官たちが発表し、国の内外の大学教官や知識人たちに署名を求めました。次の記事によると、トルコ内の89の大学から1128名、海外から、ノーム・チョムスキーを含む355名の署名が集まっており、署名運動は進行中です。

http://bianet.org/english/human-rights/170978-academics-we-will-not-be-a-party-to-this-crime

しかし、声明の全文は入手できません。トルコ政府が手配したのでしょう。その一部分を上記のサイトからコピーしておきます。:

As academics and researchers of this country, we will not be a party to this crime!
"The Turkish state has effectively condemned its citizens in Sur, Silvan, Nusaybin, Cizre, Silopi, and many other towns and neighborhoods in the Kurdish provinces to hunger through its use of curfews that have been ongoing for weeks. It has attacked these settlements with heavy weapons and equipment that would only be mobilized in wartime. As a result, the right to life, liberty, and security, and in particular the prohibition of torture and ill-treatment protected by the constitution and international conventions have been violated.
This deliberate and planned massacre is in serious violation of Turkey’s own laws and international treaties to which Turkey is a party. These actions are in serious violation of international law.
We demand the state to abandon its deliberate massacre and deportation of Kurdish and other peoples in the region. We also demand the state to lift the curfew, punish those who are responsible for human rights violations, and compensate those citizens who have experienced material and psychological damage. For this purpose we demand that independent national and international observers to be given access to the region and that they be allowed to monitor and report on the incidents.
We demand the government to prepare the conditions for negotiations and create a road map that would lead to a lasting peace which includes the demands of the Kurdish political movement. We demand inclusion of independent observers from broad sections of society in these negotiations. We also declare our willingness to volunteer as observers. We oppose suppression of any kind of the opposition.
We, as academics and researchers working on and/or in Turkey, declare that we will not be a party to this massacre by remaining silent and demand an immediate end to the violence perpetrated by the state. We will continue advocacy with political parties, the parliament, and international public opinion until our demands are met". (BK/TK)
* For international support, please send your signature, name of your university and your title to [email protected] .
* Please click here for the full text of the petition.

この署名運動に対するエルドアン大統領の反応が激烈で、署名した二十数人の大学教官を逮捕し、チョムスキーに対しては、PKKのテロぶりを自分の目で見るようにと、公式に彼を東南部のクルド人地域視察旅行に招待しました。チョムスキーは、その返答で、彼自身のエルドアン批判を展開して、見に行くとすれば自前で行くと答えました。
 シリアの和平会議が1月25日にジュネーヴで開催されますが、ロジャバのクルド人たちをどう扱うかが、非常に重要な問題になって来ました。

藤永茂 (2016年1月21日)

鰐(クロコダイル)の目に涙

2016-01-13 22:59:22 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 1月5日、ホワイトハウスで銃規制強化策を発表したオバマ大統領は、2012年12月にコネチカット州の小学校で多数の児童が犠牲になった無差別乱射について触れた際、「子供たちの事を考えると、気が狂いそうになる」と涙ながらに語りました。これこそ鰐の涙というものです。
 2013年8月21日、シリアの首都ダマスカスの近くのグータにサリン毒ガスを搭載したロケット弾が打ち込まれ、多数の子供達が殺されました。私は、その直後の8月30日付のブログ記事『もう二度と幼い命は尊いと言うな』で次のように書きました。:
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 8月21日、シリアの首都ダマスカスの近くの反政府軍の支配地区に対してロケットによる化学兵器(毒ガス)攻撃が行なわれ、多数の一般市民が殺されました。死者数は初め約1300人と発表され、現在では数百人とされています。宣伝用に動画を含むおびただしい数の映像が流されました。シリア情勢に関心のある人ならば、必ずその幾つかをご覧になったでしょう。今度アメリカが始める戦争はYouTubeの映像から立ち上げられた史上初の戦争として記録されるだろうという声もあり、映像が示されているサイトは無数にあります。ワシントン・ポストの8月23日付けの記事もその一つです。

http://www.washingtonpost.com/world/national-security/in-syria-chemical-attack-allegations-us-and-allies-push-for-immediate-probe/2013/08/22/00f76f2a-0b6f-11e3-8974-f97ab3b3c677_story.html?wpisrc=nl_headlines

そのフォト・ギャラリーには、白布に包まれた幼い子供たちの死体が魚河岸の魚のように並べられた写真があります。他の写真の多くも子供の犠牲者の様子を撮ったものです。ご覧になって下さい。
 この毒ガス使用がアサド政府の行為とは到底考えられない理由と具体的根拠はいくつもあります。第一、前回(3月、アレッポ近郊)の毒ガス使用事件の真相解明のため国連調査団がダマスカスに到着したその8月21日に、わざわざ新しく政府側がダマスカス近郊で毒ガスを大々的に使用して多数の子供たちを殺傷するとは全く考えられません。同じ8月21日、ダマスカス近郊で政府軍と共に戦っていたレバノンのヒズボラ派兵士三人が毒ガスにやられたことがベイルートから報じられています。アサド政府が、化学兵器を使用していないことを国連の調査を通じて立証し、米欧の直接軍事介入を何としても避けたいと思っている時に、毒ガスを使用するわけがありません。
 しかし、今回の毒ガス使用が米欧の直接軍事介入の口実として行なわれたと私が確信する理由は、別のところにあります。それは、今日までの歴史的推移とオバマ大統領をはじめ、ケリー、スーザン・ライス、サマンサ・パワーなどの米政府高官、それに米政府の報道官たちの化学兵器使用に関する発言の“語り口”です。“語り口”など最も脆弱な状況証拠に過ぎないと言わないで下さい。長く生きていると、嘘を吐いている顔は大抵の場合分かるものです。稀代のコンマン、バラク・オバマのポーカーフェイスもちゃんと読めます。嘘つきの顔を読む練習をしたければ、手始めとして、事件直後の8月22日の米国務省報道官サキの顔をよく見て下さい。「反政府側には化学兵器を使うだけの能力が無い」と言い切る彼女の顔を。

http://rt.com/news/syria-chemical-attack-cooperation-841/

また、歴史的事実とは、外交評論誌FP(Foreign Policy)の8月26日付けの記事『Exclusive: CIA Files Prove America Helped Saddam as He Gassed Iran (特ダネ:CIA ファイルはサダム・フセインがイランを毒ガス攻撃した時アメリカが彼を助けたことを証明)』を指しています。この雑誌にこの記事、ちょっと意外な感じですが、裏を返せば記事内容の信憑性の保証でもあります。:

http://www.foreignpolicy.com/articles/2013/08/25/secret_cia_files_prove_america_helped_saddam_as_he_gassed_iran

歴史的に見て、化学兵器あるいはそれに類似する効果を発揮する兵器を使用することにかけては、米国の右に出る国はありません。化学兵器や生物兵器が嫌悪され、国際法で使用禁止となっているのは、それらが老若男女を問わず、人間を残忍無惨に殺傷するからで、二つを合わせて貧者の核兵器と呼ばれることもあります。米国は富者として本物の核兵器を使用した唯一の国であり、またAgent Orange や劣化ウラン弾を最も多量に使用してきた国でもあります。サリンを使って自国民を殺すアサド政権からシリアの老若男女を保護するために武力行使もやむを得ないというアメリカの大嘘を、地獄の閻魔大王はどんな顔をして聞いていることでしょう。
 今回の化学兵器使用に就いて、上のFP掲載の記事にあたる「シリアの毒ガスは、実はCIA(あるいはイスラエル)が用意した」という暴露記事が出るのはいつのことでしょうか。10年後? 20年後? 間もなく降り注ぐ米欧軍のミサイルの雨に打たれて死んで行くシリアの老若男女にとって、それこそ後の祭りというものです。
 しかし、私の心に最も重くのしかかって来るのは、虚々実々の政治的暗闘への嫌悪感ではありません。今度の毒ガス使用のむごたらしい映像を見つめながら、心の底に重く重く沈殿してくるのは、この宣伝映像が幼き者たちの苦悶と死に重点を置いて編集されているという事実に対する怒りです。こうした映像を利用する政治的意図こそ、痛々しい幼き者たちの魂に対するこの上ない冒涜であります。つい二三日前のこと、あるテレビニュースでアメリカの慈善団体がシリア難民キャンプで子供たちのために学校バスを運営していることが報じられていました。文字通りの“スクールバス”で、内部の各座席に一台のパソコンが付いていて、子供たちは嬉々としてお勉強に励んでいました。What is this! と私は叫んでしまいました。なんと不必要に贅沢な学校、ここに明白にディスプレーされているのは米欧の毒々しい偽善の醜悪さであって、幼きものたちに対する愛情とは何の関係もないどころか、彼らの喜ぶイメージを自己宣伝に利用する許し難い背信行為です。もしこんなことをする金があるのなら、例えば、ハイチの子供たちにせめて安全な水道の水を飲ませてやって欲しい。川の泥水を飲んでコレラに罹って死なないように。私の脳裏には、またしても、例のマドレーン・オルブライトの発言が浮かびます。以前にもこのブログで取り上げたことがありますが、今日はウィキペディアから少し引用します。:
■1996年、60 Minutesに出演して、レスリー・ストールから対イラク経済制裁について“これまでに50万人の子どもが死んだと聞いている、ヒロシマより多いと言われる。犠牲を払う価値がある行為なのか?”と問われた際「大変難しい選択だと私は思いますが、でも、その代償、思うに、それだけの値打ちはあるのです」(“I think that is a very hard choice, but the price, we think, the price is worth it. ”)と答えた。なお、オルブライトのこの発言を腹に据え兼ねた国連の経済制裁担当要員3名(デニス・ハリデイ、ハンス・フォン・スポネック、ジュッタ・バーガート)が辞任。このうちハリデイは「私はこれまで(対イラク経済制裁について)“ジェノサイド”という言葉を使ってきた。何故なら、これはイラクの人々を殺戮することを意識的に目指した政策だからだ。私にはこれ以外の見方が出来ないのだ」とコメントを残している。■
そうなのです。幼い子供たちの苦しみを政治宣伝の具に供する狡猾さこそあれ、幼い命の尊重などは、米欧の支配権力にとって、極めて低いプライオリティしか与えられていません。彼らのプライオリティの真の序列を見据えることが我々にとって喫緊の要事です。
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 シリアのアサド政権がこの大量虐殺を行ったとして、すんでに米国軍が直接参戦に踏み切るところでしたが、ロシアの外交的努力が功を奏して、破局は回避されました。当時の米欧のマスメディアは、ニューヨーク・タイムズを先頭に、しきりにアサド政権有罪説を唱えたものでしたが、それから2年あまり経った今、反アサド側の犯行であったという証拠が圧倒的になっています。もしあの暴挙が本当に偽旗作戦だったとすると、これは、ワニの目に涙などと言って済まされることではありません。凶悪極まりない戦争犯罪です。

 1月10日のニューヨーク・タイムズに『Starving Syrians in Madaya Are Denied Aid Amid Political Jockeying(政治的駆け引きの渦中でマダヤの飢餓に瀕したシリア人への支援断絶)』という過激な記事が出ました。私あてにもリワン・ハダッド – Avaaz の名で、次の文章で始まる長いイーメールが私にも送られてきました。沢山の人が同じメールを受け取ったのでしょう。:
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皆さま

シリア政府軍に包囲された、首都ダマスカス郊外の町マダヤ。お腹をすかせた子供たちは、木の葉や猫、虫などを口にし、飢えをしのいでいます。アサド政権により、現在シリアでは4万人以上もの人々が餓死寸前に追いやられている状態です。やせ細る我が子が息絶えるのを、なすすべもなく見ていることしかできない親の心の痛みは、想像を絶します。ですが今、そんな状況を変える方法があります。
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 私の臭覚は、この「シリアの町マダヤ」のお話にグータのサリンガス事件と似たfishy な臭いを嗅ぎつけます。

藤永茂 (2016年1月13日)

いじめ抜いて自殺に追い込みたいのか

2016-01-10 21:38:24 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 北朝鮮が水爆実験を発表したことで、世界中から非難され、痛めつけられています。いじめの総大将に引きずられて「国際社会に対する許しがたい武力挑発だ」と連呼する人々に私は尋ねたい。「窮鼠猫を噛む、ということはある。しかし、鼠が猫を挑発するだろうか」と。一つの思考実験を試みましょう。「米国側が北朝鮮に対する制裁を一方的に停止したらどうなるか?」 皆さん、正直な気持ちで、実験結果を頭の中で想像してみてください。
 北朝鮮に対する制裁については、2013年2月27日のブログ『寄ってたかって北朝鮮をいじめるな』と2013年4月12日のブログ『再び北朝鮮のこと』で論じました。私は上の思考実験の結果予想を4月12日のブログに書いたので、その全文を以下に再録します。:
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 挑発し威嚇しているのは北朝鮮ではなく、米国です。米国は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という国を滅ぼすことを目標にして、あらゆる圧力を北朝鮮に加え、ありとあらゆると術策を弄して北朝鮮に迫っています。北朝鮮は、核兵器による戦闘攻撃の能力を備えることが出来たと内外に声明し、その事を唯一の拠り所にして、米国の意図に抵抗し、生き延びようと必死の努力を続け、パニック状態寸前の気配すら感じられる所まで来てしまいました。
 以上の私の状況判断は米国とそれに追随する諸外国の政府見解とマスコミ報道と180度違いますが、私の見解の方が正しいと思います。私の米国批判(非難)の姿勢は進んで公言してはばかりませんが、私はイデオロギー的な北朝鮮支持者ではありません。私の見解が正しいと主張する理由は他にあります。その第一の理由はアフリカ大陸諸国、特にアフリカの北朝鮮としばしば呼ばれるエリトリアと米国大統領オバマを、この数年、十分の注意を払ってウォッチし続けて来たことです。殆どの日本人は認識していませんが、オバマが大統領に就任した2008年以降、米国のアフリカ大陸再植民地化政策は、恐るべき人命損失を伴いながら、実に目覚ましい成功を収め、実際上、米国の支配下に入っていないのは、エリトリアとジンバブエのただ二国を残すのみとなりました。米国はイサイアス・アフェウェルキ大統領の独裁的政権下にあるエリトリアの政権変化(レジーム・チェンジ)を目指して、北朝鮮に対すると同じく、可能なかぎりのあらゆる圧力と制裁を加えています。しかし、このアフェウェルキという独裁者は、言ってみれば、我が偉大なる独裁政治家、徳川家康に匹敵する苛酷さと賢明さを備えた名政治家であると私は見ています。不幸にも現在の北朝鮮はこうした人材に恵まれていないのではありますまいか。ネット上でエリトリアのウォッチをする手立ては幾らもありますが、政府の機関誌「TesfaNews」を注意深く読み続ければ
http://www.tesfanews.net
かなりの事は分かります。ここから発していろいろ調査しチェックすればよいわけです。東京のエリトリア大使館のサイト、
http://www.eritreaembassy-japan.org
も役に立ちます。北朝鮮について考えようとする場合に、エリトリアに対する米国の振る舞いを参考にするといろいろな事がよく見えて来ます。エリトリアは、以前にも申しましたが、核兵器を持っていませんし、持とうともしていません。それでも、米国は国連をも操作して厳しい経済制裁を加え、いわゆる人権擁護NGOsを動員して、あらゆる嫌がらせをしています。これがオバマのやり方なのです。もし米国が使嗾する国境紛争などの軍事的内政干渉がなければ、農業や鉱業(大して資源が豊かではありませんが)や観光業を盛んにして国を守り立てて行くにちがいありませんが、米国がそうさせないのです。北朝鮮の場合も、もし、外からの異常に執拗な挑発と威嚇がなければ、同じように農業や鉱業、それに軽工業などを振興して国力を充実増大しようとするに違いありません。勿論、朝鮮半島は歴史的な外力によって二分された状態にあり、南北は依然として戦争状態が終結していません。北の人々も南の人々も、一つの国への統一が夢であるのは当然です。現在の緊張した南北朝鮮の状況について、われわれ日本人が持つべき態度の第一は、言葉の最も正しい意味での礼儀に叶った同情でなければなりますまい。
 そしてまた、北朝鮮の核軍備について、また核兵器の使用について真剣に考えようとするならば、何よりも先ず、朝鮮戦争という歴史的事件についての我々の知識の貧しさを反省しなければなりません。次回に議論を試みます。
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 米国が北朝鮮をいじめ抜き、窮地に追い込もうとするのは、現政権下で苦しむ北朝鮮の国民を救うためではありません。自国の利益のためです。そのことが、現時点で一番あらわに分かるのはトルコです。米国とトルコの関係です。トルコのエルドアン政権は、政治的理由からの、自国民に対する抑圧殺傷の行為において、北朝鮮の一桁上の暴力を振るっています。この事実について西側のマスメディアは殆ど何も報じていませんが、ネット上で少し努力すれば、具体的な情報が十分の量見つかります。その上、エルドアン政権とIS(いわゆるイスラム国)との関係は、過去においても現在も、親密という言葉が適切だとさえ思われるものであることが暴露されています。
 最近、重装備のトルコ地上軍がイラク北部の要衝モスルの近くに、イラク政府の許可なしに、進駐しました。石油産出地域に近いこの都市から、2014年7月、比較的少数のIS軍の攻撃を受けたイラク政府軍の大部隊が多量の兵器弾薬を捨てて敗走し、これがISの軍事力の飛躍的増大をもたらしたと伝えられています。この軍事的大fiascoが、どこかのレベルで巧まれた芝居であった可能性は否定しきれません。米国のメディアの報道によれば、昨年2015年1月から、米空軍の支援の下にモスルの奪還作戦が行われていることになっていますが、それから1年経った今も、モスルは ISに掌握されたままです。ところで、今回のトルコ軍のモスル北辺への無断侵攻の目的は何か? イラク政府からの抗議と撤退要求を受けて、エルドアン政権は、ISと戦うための進駐だと答えていますが、これは嘘でしょう。ISがイラク北部の油田地帯から盗んだ石油をトルコ国内にうまく輸送するルートを確保することが、おそらく、その目的だろうと思われます。ISがシリアの油田から盗んでトルコに送り込んでいたシリア北部からトルコに抜けるルートはロシア空軍によって抑えられてしまったので、もう一つのイラク北部のルートを増強確保しようとしたのだと、私は、推測します。
 国内での自国民の大規模な抑圧と凶悪な国際的テロ組織ISとの結託という二つの罪状だけでも、エルドアンのトルコは金正恩の北朝鮮よりも、国際社会にとって、遙かに危険で罪深い国家です。国連で制裁の対象として取り上げなければならないのは、トルコであって北朝鮮でもエリトリアでもありません。

藤永茂 (2016年1月10日)