私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

コメントをくださった方々への御礼

2023-06-25 11:18:29 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 旅路の終わりが近くなったせいでしょうか、近頃は、これまでこのブログ『私の闇の奥』に寄せて頂いたコメントの数々を頻りと読み返す様になりました。

昔は“健忘症”という言葉がありました。まことに“健やかに”色々のことを忘れる様になって参りました。そのせいで、過去に拝読した筈のコメントの多くが初めて読むような驚くべき新鮮さで胸に響いて参ります。貴重なご意見を沢山頂いて今日に至りましたが、思うところあって、或いは、懶惰の故に、多くの場合、然るべき答えを申し上げることを怠ってきました。無礼をご容赦戴ければ幸甚です。

『私の闇の奥』という妙なタイトルについては2016年2月に「ブログを書くということ」と題して説明したことがありますので宜しければご覧ください:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/eaff48d4ac558da1df6411a179f78a1f

その中に名前を引かせて頂いたお二方を始め、ご意見の開陳を通じてパーソナルなお付き合いまでしていただく様になった方々に対する感謝の気持ちはとても数行の文章で尽くす事はできません。この老齢を支える何よりの生きがいになっています。

 何故ブログを書くのか、結局のところ、自己顕示欲の発露ではないか、と悩んだこともよくありましたが、この頃はその迷いも消えて、世の中の人々とブログを通じてお付き合いする事はいいことだ、健康なことだ、と思うようになりました。一方、釈迦に説法の愚挙ではないか、と思うことは、近頃、特にしばしばですが、真っ当な立派な考えをお持ちの方々が世の中に沢山居られるからこそ、この世界が破滅せずに何とか維持されているのだと思う様になっています。日本国内だけではなく、オーストリアやアメリカから貴重なご意見や感想を送ってくださる方がいることを本当に有り難く思っています。今しばらくはブログを書き続けるつもりですので、今後ともよろしく。

藤永茂(2023年6月25日)


ジャン・ブリクモン著の『人道的帝国主義』と『「知」の欺瞞』

2023-06-12 13:41:34 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 ジャン・ブリクモン著の『Humanitarian Imperialism』は2000年初版、その改訂版『Humanitarian Imperialism: Using Human Rights to Sell War』は2006年に出版され、菊池昌実訳『人道的帝国主義:民主国家アメリカの偽善と反戦運動の実像』(新評論)は2011年末に出版されました。以下に訳出するインタービュー記事は米国が操作したクーデターによるウクライナ政権変化の翌年の2015年11月27日付のものです。この早い時点でのジャン・ブリクモンの優れた先見性を意識しながらお読み下さい:

https://libya360.wordpress.com/2015/11/27/the-ideology-of-humanitarian-imperialism/

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アンヘル・フェレーロ:『人道的帝国主義』がスペイン語で出版されてから10年が経ちました。この本を書かれたきっかけは何だったのでしょうか?

それは、1999年のコソボ戦争の間、人道的ということで、左翼の人々が概ねそれを容認していたその態度と2003年のイラク侵攻前の平和運動の反対がかなり弱かったことへの反発から始まりました: 例えば、多くの「平和主義者」は、1991年の第一次湾岸戦争当時、そしてその後も制裁政策を受け入れ、戦争につながった査察に好意的で、それが国民に戦争を受け入れる準備をさせるための作戦だったとは気づかなかった(この事は、その後に、ダウニング街メモのような事後の情報漏洩によって広く知られるようになった)ことです。

この人道的介入のイデオロギーは、国際法を尊重するという概念や、メディアに対する批判的な態度を、左派の人たちが完全に破棄してしまったように、私には思えたのです。

アンヘル・フェレーロ: この10年で何が変わったと思いますか?

多くの事が変わりましたが、しかし、私の本のせいなどではなく、イラクの混乱に始まり、リビアの混乱、そしてシリアとウクライナの混乱、難民問題、ロシアとの戦争に近い容易ならぬ事態など、これらの現実が自己主張しているのです。

人道主義的帝国主義者たちは、今もなお、私たちをさらなる戦争へと向かわせることに余念がありません。しかし、今では、世論のかなり大きな部分がこのような政策に反対を表明しています;この部分は、おそらく、左派においてよりも右派において、より重要です。

アンヘル・フェレーロ: 欧米の介入や干渉を正当化する知識人の役割は、その象徴的な行動(公文書やマニフェストへの署名)と同様に、激しく批判されています。なぜでしょうか?

「知識人たち」の問題点は、権力に対する批判者であるかのように装いながら、実際には権力を正当化することが好きなことです。例えば、彼らは欧米の政府が(介入や政権転覆を通じて)「我々の価値観」を促進するために十分なことをしていないと文句を言う。もちろん、「我々の側」や「我々の政府」は善意であるという考え方を強化するわけですが、これは、私の著書で説明を試みている通り、高度にいかがわしい考え方です。

そうした知識人が批判されることもありますが、誰が批判するかというと、一般的には、周辺的な人たちだと私は思います。「知識人たち」は今でもメディアや知的領域を支配しているのです。

アンヘル・フェレーロ: あなたの本のもう一つの主題は、世間の言論の劣化です。状況は悪化したとお考えですか?ソーシャルメディアの影響をどのように評価していますか?

少なくともフランスでは、世上での言説は一段と悪い方向に進んでいます。これは、訴訟や相手を悪者化するキャンペーンを通じて、いわゆる「ポリティカルにコレクト」でない言論が常に検閲されていることと関係しています。この検閲の中には、戦争相手の戦犯とか戦争の正当化に関する支配的言説に対するブリクモン流の疑問投げ掛けも含まれています。

ソーシャルメディアは「反体制派」に残された唯一の選択肢ですが、そこでは荒唐無稽な空想も含めて何でもありになってしまうという欠点があります。

<訳者注:これは我々にとって大変重要なポイントですので、後ほど議論します>

アンヘル・フェレーロ: ロシアは今、クリミアへの介入やシリアでの「イスラム国」に対する空爆を正当化するために、彼等なりの「人権思想」を使っていると指摘するコメンテーターもいます。それは妥当なことなのでしょうか?

ロシアは、人道的な理由で介入していると主張することさえしていないと私は思います。クリミアの場合、住民は基本的にロシア人であり、1954年に恣意的にウクライナに併合されても、当時、ウクライナはソ連の一部だったので、どうということもなかったが、キエフに狂信的反ロシア政府が出現すると、それを恐れる理由が十分あった住民たちが自決権を行使したという事です。

シリアについては、外国が支援するいわゆる「テロリスト」と戦うために、シリア政府からの支援要請に応えたものです。フランスがマリに介入した際(同じくマリ政府の要請による)、あるいは米国がイラクでISISに対抗して介入した際と比較して、その正当性が劣るとは思えません。

もちろん、こうしたロシアの動きは賢明でないことが証明されるかもしれないし、「平和主義」の観点からは議論の余地があるかもしれない。しかし、根本的な問題は、国連憲章とすべての国の平等な主権を前提とした国際秩序の完全な解体を誰が始めたのか、という事です。その答えは、明らかに米国とその「同盟国」達(昔は「下僕(lackeys)」と呼んだものだが)です。ロシアはその無秩序に対応しているだけで、かなり合法的な方法でそうしています。

アンヘル・フェレーロ: シリアの話を続けましょう。ヨーロッパの複数の政治家が、秩序を回復し、EUへの難民の流入を止めるために、シリアとリビアへの軍事介入を要求しています。この危機とEUが提案する解決策についてどう思われますか?

彼らは、自分たちが作り出した問題をどう解決すればいいのかわからないのです。シリア危機を解決する前提としてアサドの退陣を要求し、いわゆる穏健派反政府勢力(穏健派というレッテルは、実際には「我々」によって選ばれたことを意味する)を支援することによって、彼らはシリアにおけるあらゆる可能な解決を妨げています。実際、政治的解決は外交に基づくべきであり、後者は力の現実的な評価を前提とするものです。シリアの場合、現実主義とは、アサドが軍隊を掌握し、イランとロシアという外国の同盟者を抱えているという事実を受け入れることであり、これを無視することは、現実を否定し、外交にチャンスを与えることを拒むことに他なりません。

そして、難民危機が発生した。これはおそらく予想されていなかったことだが、欧州市民が移民や「欧州建設」に対する敵意を強めているときに発生しました。殆どのの欧州政府は、彼らが「ポピュリスト運動」と呼ぶ、自国の主権強化を求める運動に直面しています。難民の流入は、欧州の政府から見れば最悪のタイミングでした。

そこで、ハンガリーのような周辺国に壁を作らせたり(公の場では非難しているが、内心では喜んでいるでしょう)、国境管理を復活させたり、トルコにお金を払って難民を預けたりするなど、できる範囲で問題を解決しようとしているのです。

もちろん、問題を「根本的に」解決するためにシリアに介入しようという声もあります。しかし、今、何ができるのだろうか。例えば、飛行禁止区域を設けるなどして反政府勢力をさらに支援し、ロシアとの直接対決のリスクを冒すのか、それとも、ロシアのように、シリア軍が反体制派と戦うのを助けるのか?しかし、それは長年にわたる反アサドのプロパガンダと政策を覆すことになります。

要するに、彼らは自分で自分の首を絞めているようなもので、いつの世でも不愉快な状況です。

アンヘル・フェレーロ: グリーン党諸派や新左翼が、人道的介入を頑強に擁護するのはなぜだと思いますか?

究極的には、「新左翼」の階級分析をしなければなりません。旧来の左翼は労働者階級を基盤としており、その指導者はしばしばその階級出身者でしたが、新左翼は殆どプチブルジョアの知識人達に支配されています。これらの知識人は、生産手段の所有者という意味での「ブルジョアジー」でもなければ、生産手段所有者によって搾取されているわけでもありません。

その社会的機能は、最終的には武力に基づく経済システムと一連の国際関係を高らかに正当化するためのイデオロギーを提供することにあります。人権イデオロギーは、その観点からは完璧で、それは十分に「理想主義的」でもありますが、一貫して実践することは不可能なので(もしすべての「人権侵害者」に対して戦争をしなければならないとしたら、自分自身を含む全世界とすぐに戦争になってしまう)、それらの擁護者は政府に対して批判的に見える機会を与えられる(彼らは十分に介入していないとする)のです。しかし、世界の現実の力関係から注意をそらすことによって、人権イデオロギーは、現実の権力を持つ人々にも、自分たちの行動を道徳的に正当化することを提供する。つまり、「新左翼」のプチ・ブルジョワ知識人は、権力に仕えていながら、反政府的であるかのように装うことが出来るのです。一つのイデオロギーにこれ以上何を求めることが出来るでしょうか。

アンヘル・フェレーロ:著書の結論では、欧米の読者が欧米の覇権の終焉と国際関係における新秩序の出現を受け入れられるように、ある種の教育法を推奨していますね。私たちはどのようにそれに貢献できるのでしょうか?

前述したように、欧米の聴衆に変化を迫っているのは眼前の現実です。終わりのない戦争によって人権が育まれると考えるのは、いつの世でも完全な愚行でしたが、今、我々はその愚行の結果を自分の目で見ているわけです。違法な介入によって他国の問題を解決しようとするのではなく、西側諸国の政府に国際法の厳格な尊重、他国、特にロシア、イラン、中国との平和的協力、NATOのような攻撃的軍事同盟の解体を要求すべきです。

<訳者注:2015年11月の時点でこの発言、まさに先見の明>

アンヘル・フェレーロ:あなたを一般の人々に知らしめたもう一冊の本、『ファッショナブル・ナンセンス』についてお聞きしたいのですが。この本は、アラン・ソーカルとの共著で、ポストモダニズムに対する批評書です。現在、学者や世論の間でポストモダニズムはどのような影響を及ぼしているのでしょうか。風化していくのか、それともまだ生きているのか?

その問いに私が答えるのは難しいことです。なぜなら、それには社会学的な研究が必要で、私にはその手段がないからだ。しかし、ポストモダニズムは、人道的介入への方向転換と同様に、左翼が自滅してしまったもう一つの形態であると言うべきでしょう。ただ、ここでの様相は、戦争という劇的な結果はもたらさず、被害は「エリート」の知的サークルに限られました。

 もし左翼がより公正な社会を作りたいのであれば、正義の概念を持たなければならない。もし倫理に関して相対主義的な態度をとるのであれば、どうやってその目標を正当化できるでしょうか。また、支配的な言説の幻想性や神秘性を非難するのであれば、ただ単に「社会的構築」ではない真理の概念に依拠した方がよろしい。ポストモダニズムは、左翼の理性、客観性、倫理の破壊に大きく寄与しており、それが左翼をその自殺に導いているのです。

This interview was conducted by Àngel Ferrero ([email protected]) for the Spanish newspaper, Publico.

JEAN BRICMONT teaches physics at the University of Louvain in Belgium. He is author of Humanitarian Imperialism.  He can be reached at [email protected]

**********(インタービュー記事翻訳終わり)

 訳出の途中で予告したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、また、ソーシャル・メディアという言葉も使われます)について注意しなければならない事柄の議論をします。もう一度ブリクモンの言葉に耳を傾けましょう:「ソーシャルメディアは「反体制派」に残された唯一の選択肢ですが、そこでは荒唐無稽な空想も含めて何でもありになってしまうという欠点があります。」

 我々の日常にとってSNS(TwitterやYouTubeなどなど)は情報源あるいは発言や相互通信の場として欠かせないものになっています。しかし、もっと小規模の「反体制派」的サイトも含めて、情報源として、つまり、本当のことを正確に知る手段としての信頼度は高くありません。ある事柄について、正確な知識や結論を得るには、今でも、いや、以前にも増して、しっかりとした印刷出版物、つまり、昔ながらの意味の「良い本」に頼らなければならないと私は考えます。これに関して、読み応えのある論説をエドワード・カーティンが良いウェブ・サイトDISSIDENT VOICEに出していますのでお読みください:

https://dissidentvoice.org/2023/06/rehearsed-lives-and-planned-history/

因みに、サイト『マスコミに載らない海外記事』の最近の記事の後に、 Twitterを通じてのタッカー・カールソンの極めて大胆かつ挑戦的な発言(日本語字幕付き)が紹介してあります。ぜひぜひご視聴ください:

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2023/06/post-5fc6c9.html

このタッカー・カールソンのTwitter利用、タダではすみますまい。

藤永茂(2023年6月12日)


Jean Bricmontの最近の発言: NATOを解体すべし

2023-06-11 21:53:58 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

ジャン・ブリクモンを覚えていますか?『「知」の欺瞞』(岩波現代文庫)のブリクモンです。以前、このブログでの記事『ジャン・ブリクモン(Jean Bricmont)』(2016年6月29日)でこの人のことを取り上げたことがあります:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/m/201606

 『「知」の欺瞞』(岩波、2000年)の原著は1997年フランスで発行され、英語版は1998年の出版です。フランス語原題はImpostures Intellectuelles(インテリ詐欺師達)で明快辛辣、これはジャン・ブリクモンの発言の持ち味と言えます。

 昨年2022年11月5日付の下掲の記事で、ジャン・ブリクモンはNATOの解消を求めています。日本のNATO加盟が取り沙汰されている今、一読に値しますので、この記事の翻訳から始めます:

https://libya360.wordpress.com/2022/11/05/jean-bricmont-we-must-dissolve-nato/

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ベルギーのルーバン・カトリック大学名誉教授でベルギー王立アカデミー会員のジャン・ブリクモンは、「大西洋同盟は建設的な用途がない」から、解散しなければならないと断固として主張している。「欧米人は、世界の他の国の内政に干渉する、まるで神聖な権利を持っていると考えている」と、彼はこのインタビューで語っている。

Mohsen Abdelmoumen: 現在、ウクライナで展開されている紛争をどのように見ていますか?

ジャン・ブリックモン  これは21世紀の最も重要な紛争であり、今のところ、問題になっているのはウクライナやウクライナ東部ではなく、すべての南北関係に関わるものです。その証拠に、人類の大多数(80%以上)を占める国々は、アメリカの対ロシア制裁の適用を拒否しました。一方、「特別軍事作戦」は、南の国々から見れば神聖なものである国際法の明確な違反です。国連で特殊作戦を非難したのは必要最低限のことで、その後は何もしなかった。

ソ連崩壊後、自分たちだけが一極世界を主導すると決め、イラク(2回)、ユーゴスラビア、リビア、シリア、アフガニスタン、そして制裁を通じてキューバ、ベネズエラ、イラン、ニカラグアなどを何の咎めも受けずに攻撃できたアメリカにとって、ロシアがそれに抵抗していること、そして南の国々がこの抵抗を見て同情しているという事実は、ひどい衝撃で、おそらく驚きでもあるでしょう。

しかも、この紛争とそれに伴っているアメリカの傲慢さは、ロシアと中国(さらにはインド)を隔てるどころか、彼らを接近させており、これまた、アメリカにとって極めて不愉快なことです。

もちろん、紛争の結果がどうなるかを知るには時期尚早です: NATOは自軍の大部分を投入しているが、ロシアも、そうせざるを得なくなれば、そうするでしょう。この結果次第で、世界の未来は大きく変わるでしょう。

欧州はすでにウクライナに190億ユーロを供与しており、今後も毎月15億ユーロを供与する予定です。ヨーロッパの人々が最も不安定な生活を送っているときに、欧州委員会がウクライナ政権にこれだけの資金を提供するのは、ウクライナが欧州連合に加盟していないことをどう説明するのですか?

ヨーロッパ、つまりEU(ヨーロッパ連合)ということですが、これには民主主義的なところが何もなく、全然ヨーロッパの民意に依存していません。だから、彼女は自分の好きなように、一般的にはアメリカの政策に従います。

プーチンは、欧米は "自力で人類を導くことはできないのに、必死にそうしようとしているが、世界のほとんどの国は、もはやそれに我慢する気はない "と断言しています。私たちは、アメリカの覇権の終焉と新しい世界秩序の到来を経験しているのでしょうか。

私はその考えに傾いていて、長期的には避けられないことだと思いますが、ウクライナでロシア軍が敗北する可能性は常にあるので、そうなるとこの時期ははかなり遅れるでしょう。

欧米を支配する少数派のオリガルヒが、ロシアに戦争を仕掛けて完全に狂ってしまったのではないでしょうか。

失敗したらイエス、成功したらノー。すべては、ウクライナという地上での戦いの結果次第です。

あなたは、大西洋主義のプロパガンダを支持しない特定の声が受ける検閲をどのように説明しますか?

あらゆる権力システムの検閲者がそうであるように、彼らは自分たちに抵抗する意見を出来る限り検閲する傾向があります。

NATOは解散すべきでしょうか?

そうです。しかし、建設的な目的が役立たないというまさにその理由から、この組織で生活している官僚たちは、この組織が解体することを望んでいないし、そのような事態に反対するためのプロパガンダの手段もかなり潤沢に持っています。

アルジェでパレスチナの諸派閥が集まり、「アルジェ宣言」が生まれた。パレスチナの人々をレジスタンスとして再活性化させたこの会合をどのように見ていますか?

これらの派閥が団結するのは良いことです。しかし、力のバランスは依然として不釣り合いにイスラエルの方に有利です。アラブ諸国からの有効な支援はほとんどなく、イスラエルに有利なアメリカからの大規模な支援、親イスラエルのロビーの側からの西側での非常に有効な情報検閲があります。

サハラウィ民族の正当な闘争は、欧米では知られていません。サハラウィ民族の独立を取り戻すための正当な闘いに関する問題なのに、この問題を隠蔽しようとする欧米の偽善を、あなたはどう説明しますか。

西側諸国の政府は、闘争が妥当かどうかなど、本当はどうでもいいのだと思う。サハラウィの人々の大義名分など西側にとっては些細なことで、モロッコとの良好な関係のほうが彼らにとっては重要なのは明らかです。

アルジェリアがロシアの兵器を購入していることを理由に制裁すると脅したアメリカの代表者に続き、ベルギーのユーグ・バイエ副代表も、サハラウィの人々の闘いを支援していることを理由に、アルジェリアを各国から追放すると脅しました。欧米の支配層特有のこの傲慢さを、あなたはどう説明しますか。

これは人道的干渉のイデオロギーです。何世紀にもわたって、欧米人は、世界の他の国の内政に干渉するほとん神聖な権利があると信じてきました。ここに新しいことは何もない。

ヨーロッパの人々を不幸と危険な不安定に陥れたこの寡頭政治に対するヨーロッパで大規模な社会運動に立ち会うことはないのでしょうか。

私はそう望んでいますが、そうなるかどうかわかりません:一方では、弾圧が非常に強く、危機が自然な現象、あるいはもっと悪いことに、完全にロシア人のせいだと提示されることもあります。社会運動が成功するためには、状況を明確に把握した指導者がいなければなりません。しかし、私の知る限り、この危機と反ロシア制裁の間に明確な関連性を持たせた運動は存在しません。

欧米におけるロシア恐怖症の波について、どのようにお考えでしょうか。

それは、プーチンが西側の覇権主義的な意思にあからさまに異議を唱えていることもあるし、旧ロシア帝国の住民たちの子孫(ポーランド人、バルト人、ウクライナ人、ユダヤ人)から来る民族的憎悪のせいでもあります。また、はっきりそうと口には出さないドイツの報復主義もあります。

ノーム・チョムスキーと共著で本を出されていますね。チョムスキーとハーマンの『マニュファクチャリング・コンセント(合意の捏造)』での分析は、常に的を射抜いていて、必読の書ではないでしょうか?

もちろんそうです。しかし、まさにその故に、現システムの批判者を自認する人たちの間でも、ほとんど無視されているのです。

<訳者注:以上で、2022年11月に行われたインタービューは終わり、続いて、ジャン・ブリクモンその人の紹介が続きます。この部分は原文のままコピーしておきます。なお、次回もジャン・ブリクモンを取り上げます。>

Jean Bricmont is a Belgian physicist. He is Emeritus Professor of Theoretical Physics at the Catholic University of Louvain (Belgium) and is a member of the Royal Academy of Belgium. He obtained his doctorate in 1976 at the Catholic University of Louvain. He worked as a researcher at Rutgers University and later taught at Princeton University, USA. His research earned him two distinctions: the J. Deruyts prize from the Royal Academy of Belgium in 1996 and the five-year FNRS prize (A. Leeuw-Damry-Bourlart) in 2005. Member of the scientific sponsorship committee of the French Association for scientific information (AFIS), he was its president from 2001 to 2006 and has since been one of the two honorary presidents

Jean Bricmont is also known as a rationalist activist who associates himself with American intellectuals such as Noam Chomsky, Alan Sokal, etc. He is the author of several works including: “  Intellectual Impostures  ” (2003) with Alan Sokal; Humanitarian imperialism: Human rights, right of interference, right of the strongest? with Francois Houtar (2005); Making Sense of Quantum Mechanics  (2016); Chomsky Notebook  (2010) with Julie Franck and Noam Chomsky;  Hidden Worlds in Quantum Physics  with Dr. Gérard Gouesbet (2013); Occupy  with Noam Chomsky (2013); Reason versus power: Pascal’s bet  with Noam Chomsky (2009); The world that could be: Socialism, anarchism and anarcho-syndicalism  with Bertrand Russel (2014); In the Shadow of the Lights: Debate between a Philosopher and a Scientist  with Régis Debray (2003), etc.

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藤永茂(2023年6月11日)


ロバート・F・ケネディ・ジュニアの「アメリカ」

2023-06-02 09:39:47 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 

 エドワード・カーティンによると、RFK・ジュニアはTo Heal the Great Divide (大いなる分裂を癒すために)立候補したことになっていますが、今の米国社会の分裂亀裂とは何を意味しているのでしょうか?

 広島G7では嘘くさい反核芝居が上演されました。これに関する米国国内での分裂を見てみましょう。まず世界終末時計(Doomsday Clock)で名高い雑誌『原子力科学者会報』(Bulletin of the Atomic Scientists、通称BAS)が広島G7を機に掲載した記事についてコメントします。

https://thebulletin.org/2020/08/counting-the-dead-at-hiroshima-and-nagasaki/#post-heading

Alex Wellerstein という人のこの記事『広島と長崎の死者を数える(Counting the dead at Hiroshima and Nagasaki)』は2020年8月4日付ですが、2023年5月19日開催のG7会議に関連して再掲載するとはっきり編集者が付言しています。そして、著者は「この問題に関わった誰もが同意することは<答えは本質的にあり得ない>ということだ」と冒頭で強調します。私にとって初見の多数の写真を含む長文の論考のこの結論は、アカデミックには、多分正しいでしょう。しかし、この論文に対する九つのコメントを読んでいるうちに私の気持ちは底のない暗闇に落ちて行きました。核兵器の出現という人類にとって未曾有の事態の意識がここには見当たりません。コメンテーター達が引き合いに持ち出してくる南京、ドレスデン、スターリングラード、ウクライナ・・これらの名詞は―いささかの暴言を許して頂ければ―反核問題の本質とは何の関係もありません。この雑誌は昔私が愛読したBASではありません。私が親しんでいた「アメリカ」、RFK・ジュニアの「アメリカ」ではないもう一つの「アメリカ」に乗っ取られてしまったBASです。

 では、広島G7の反核に関するRFK・ジュニアの「アメリカ」からの発言はどこにあるのでしょうか? 普段より少し気を入れて探してみましたが、今のところ見つかりません。アメリカのAmy Goodmanのウェブサイト『Democracy Now!』は、広島G7でバイデン大統領が原爆投下の謝罪をしなかった事をはっきり問題にしましたが、これに関する発言者は日本人であって、米国人ではありません。つまり、RFK・ジュニアの「アメリカ」から発せられた声ではありません:

https://www.democracynow.org/2023/5/22/g7_meeting_hiroshima_nuclear_weapons

WSWS(World Socialist Web Site)というサイトがあります。5月20日付の記事『高まる核戦争の脅威の中で G7の首脳が広島に集合』の冒頭の三節を読んでみましょう:

https://www.wsws.org/en/articles/2023/05/20/sxfb-m20.html

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主要強国である米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダのG7の首脳は、今週末のサミットに先立ち、広島市の平和記念公園内にある原爆死没者慰霊碑に昨日、花輪を捧げて、恥知らずの偽善を開陳した。

この式典は、核兵器を二度と決して使わないという誓いの表明から全くかけ離れて、この帝国主義の徒党は、ウクライナにおけるロシアとのNATO紛争の急速な激化と、人類を核兵器によるホロコーストに巻き込む恐れのある中国との米国の対立の加速に集中している。

第二次世界大戦後、アメリカの指導者として初めて広島を訪れたオバマ大統領と同様に、バイデン大統領も、1945年8月6日にアメリカ帝国主義が行った極悪非道の戦争犯罪に対して、謝罪はしないことを事前に明言していた。広島とその3日後の長崎への原爆投下の犯罪性について、形だけでも認めることを拒否したことは、米国が戦略的利益を追求するためならば再び核兵器を使用するであろうことへの鋭い警告である。

・・・・・(訳出終わり)

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 明哲な論旨ですが、この発言者はオーストラリア在住の急進的な社会主義者で、RFK・ジュニアの「アメリカ」からの発言とすることはできません。

RFK・ジュニアは今69歳、私は30歳近く年上ですが、彼が取り戻したいと思っている「アメリカ」がどんなものかよく分かる気がします。多数の米国白人市民にとって、自分たちの国が結構立派な国に見えた時期が確かにありました。過去に滞米経験のある日本人の多くもそうした思いを抱いている筈です。一般の市民だけではなく、リチャード・ローティ(Richard McKay Rorty、1931å¹´10月4æ—¥ - 2007å¹´6月8日)という米国の高名な哲学者も同じ思い違いをしました。ローティは、1998年、『Achieving Our Country』(Harvard University Press, 1998) というアメリカ論を出版しましたが、この本の小澤輝彦氏による全和訳は、原著者ローティの助言に従って『アメリカ 未完のプロジェクト』というタイトルで2000年に出版されました。アメリカという国が革命的に立派な理念に立脚したプロジェクトとして出発し、未だ完成はしていないが、マルキシズムではなく、プラグマティズムに基づいて完成に向かっているとするのがローティの考えでしたが、今やこの考えが全く見当違いであったことが日々明白になっています。

 米国史の専門家でなければ、1921年のオクラホマ州タルサ市で発生した黒人大虐殺事件(公式名称はTulsa race massacre、和訳では「タルサ人種虐殺」)をご存知ないでしょう。ウィキペディアに詳しい記事が出ていますのでご覧ください:

https://ja.wikipedia.org/wiki/タルサ人種虐殺

リチャード・ローティも多分知らなかったのだろうと思います。オクラホマについては以前に原住民に関連して取り上げたことがあります:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/783cfb152622baa7c1891c65f47ccba8

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/9992fa2a2ecd3ef2249a4b34ea0cbe2a

 トランプ元大統領の標語 Make America Great Again(MAGA)の意味ははっきりしています。これが全くの空語になってしまったこともはっきりしています。アメリカが、軍事的に経済的に、全世界に君臨した時期があったのは事実ですが、その状態に再び戻れると本気で信じている人間は、トランプの最も熱烈な支持者を含めて、今や、皆無に近いと思われます。

こうなると、RFK・ジュニアの「アメリカ」も、これ又、幻の存在に過ぎないと断定を下すべきでしょう。しかし、彼が米国大統領立候補者として発言していることには、私として、やはり、一縷の望みをかけたくなります。この人が米国大統領になる確率はゼロでしょう。けれども、この人と同じように考える米国人が多数出てくれば、これは世界にとって悪い事ではありません。

 SNSで、RFK・ジュニアに関連するものがたくさん出るようになっていますが、興味のある人々に一つだけ視聴をお勧めするとすれば、今はフォックス・ニューズから追放されてしまった看板キャスター、タッカー・カールソンが、1ヶ月ほど前に、RFK・ジュニアと交わした問答です。5分25秒の短さですし、英語の字幕もついています:

https://www.youtube.com/watch?v=68MhtliIAvk

やっぱり日本語がいいという方は、次の記事をご覧ください:

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75144

この記事を教えて下さったのは、芸術家として人間としてのマイケル・ジャクソンを称揚し、我々の啓蒙に大いに力を尽くしている方です。この記事は、RFK・ジュニアが「米国の外交政策は破綻している。国外にある800の米軍基地を閉鎖し、直ちに米軍を帰還させて、米国を模範的な民主主義国家にすべき」であり、また、「戦争好きな帝国(米国)が自らの意志で武装解除をすれば、それは世界中の平和の雛形になるはずだ」と言っていると報じています。これは素晴らしい提言です。以前(2022/08/25)『一方的核軍備廃絶』と題するブログで、私も論じたことがあります。しかし今の米国にそれを期待することはできません。

 マイケル・ジャクソンといえば、最近、マイケル・ジャクソンの真似をする事で(ムーンウォ―ク!!)街の人気者にもなっていたジョルダン・ニーリーというホームレスの30歳の黒人男性を、ニューヨークの地下鉄車両内で、元海兵隊員であった24歳の白人男性が絞殺する事件が起こりました。ニーリーが「俺には、食べ物もない、飲み物もない、・・・」と車内でわめき出したのが事の始まりでした。この事件に関連して『住む所がないと死刑になる(The Death Penalty for Homelessness)』という記事が出ました:

https://www.counterpunch.org/2023/05/26/the-death-penalty-for-homelessness/

この記事を読めば、住宅問題という視点から見ただけでも、米国が直面している危機が如何に深刻で絶望的なものであるかがよくわかります。ウクライナ戦争でロシアを痛めつけることが出来たにしても、今のままの米国に未来はありません。

藤永茂(2023年6月2日)