私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

リビアとハイチで何が見えるか(5)

2011-06-29 10:41:02 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 カダフィが兵士たちにバイアグラを与えて反政府の女性たちの集団レイプを行なわせたというニュースを米国国連大使スーザン・ライスが国連で公式に取り上げたことをガーディアン紙が報じたのは4月29日でした。スーザン・ライスがあまりにも汚らわしく思えて、取り上げる気にもなりませんでしたが、6月8日になって国際刑事裁判所(ICC)の主席検事ルイス・モレノ‐オカンポが同じ罪状に加えてカダフィ自身もレイプを実行した疑いでカダフィを告訴したことを知って、もはや黙過できなくなりました。無法国家アメリカの暴虐もここに極まったと言わなければなりません。
 1990年の第1次湾岸戦争へ米国世論を駆り立てた事件として、米国下院の委員会で15歳のクエイト人女性がイラク軍兵士の野蛮行為の証言をしたことがありました。ボランティアの看護婦だった彼女は、サダム・フセインの兵士たちが産院に乱入して、保育器をひっくり返して赤ん坊たちを床に落として殺してしまうのを目撃したと証言したのです。ところが、後で、これは大変なヤラセであり、その女性は当時ワシントン在住のクエイト大使の娘でワシントンを離れたこともなかったことが明るみに出てしまいました。
 去る3月26日、リビアの首都トリポリの最高級ホテル「リクソス」のダイニング・ホールに一人の若いリビア人女性が飛び込んで来て、リビア政府の警備要員たちが二日間にわたって彼女を集団レイプしたとホテルの客たちに訴えました。このホテルには、リビア政府の指令で集団的に多数の外国人記者が宿泊していました。彼女の名はEman el?Obeida、3月28日のFT.com (Financial Times) には彼女の写真と詳しい話が出ています。また、心理学者Seham Sergewa博士なる人物が出てきて、レイプの犠牲者140人のインタビューを行なったと言い、これが最も具体的な証拠になっているのですが、アムネスティ・インタナショナルの女性要員が犠牲者に会わせてくれと言っても「もう何処にいるのか分からないから、無理だ」との返事しかしないようです。これら二人の女性たちもクエイト大使の娘さんのように誰かに頼まれての偽証言者である疑いが濃厚だと思われます。実は、カダフィのバイアグラ事件の方も、それが捏造されたものであることが、複数の国際人権団体によって、すでに示されているのです。
  アメリカの歴史には、これに類似のでっち上げ事件が幾らも記録されています。本格的なアメリカ史の本であれば、たとえそれが保守的な学者によるものでも、そうした事例を探すことができますが、リビアのレイプ事件についての論文、Japan Focus: The Asia-Pacific Journalの“Rape in Libya”の中にも幾つか言及してあります。
 しかし、私にとって、リビアについてのもっと重要な事件が国連内で起っていました。日本にも国連関係の専門家がいくらもおいででしょうから、そうした方々による信頼の置ける解説があれば真に有難いのですが、見当たらないようなので、素人の手探りでお話をします。国連人権理事会(UNHRC, UN Human Rights Council)という国際機構があります。周期的に加盟各国の人権状況について調査や討議を行なって報告書を作成するのがその役目の一つです。2010年6月にアルゼンチン、ノールウエイ、セネガルの三国からの委員がリビア(正式には、リビア・アラブ人民共和国、Libyan Arab Jamahiriya)の人権状況の調査を主導し、何回かの会合のあと11月初めに報告書を採択しました。この2011年1月4日付けの23頁の国連人権理事会報告書はネット上で入手出来ます。内容は、報告書作成までの事の次第とリビアの現状に対する多数の国からの評価と今後の人権状況改善に向けての勧告の列記から成り立っています。日本の発言は、まず教育と保健の面での成果を認める一方、拷問を禁じることを勧告しています。イスラエルやアメリカの意地の悪い評価を除けば、殆どの国からの評価は暖かいトーンのものです。
 ところがその直後の2月15日、リビアの東部の都市ベンガジで反政府反乱が起り、内戦が始まりました。米欧とイスラエルは直ちに反乱軍の支持を表明し、そのあおりを食らって、この国連人権理事会報告書は国連総会で採択されなかったどころか、リビアは国連人権理事会からも除名されてしまいました。私がこの注目すべき報告書に行き着いたのは、3月はじめに出たニューヨーク・タイムズの記事を通してでした。それは『Libya’s Late, Great Rights Record』(リビアのお蔵になった偉大なる人権報告書)という意地の悪いタイトルの記事です。私にとってはいささか吐き気を催す文章なので訳出しませんが、書き出しの所を写しておきますから、興味のある方はお読み下さい。:

#Until Col. Muammar el-Qaddafi’s violent suppression of unrest in recent weeks, the United Nations Human Rights Council was kind in its judgment of Libya. In January, it produced a draft report on the country that reads like an international roll call of fulsome praise, when not delicately suggesting improvements. Evidently, within the 47-nation council, some pots are loath to call kettles black, at least until events force their hand. Last week Libya was suspended from the body, and the report was shelved. Here are excerpts. TOM KUNTZ #

ここで、“an international roll call of fulsome praise”とは“むかつくような称賛の国際点呼”と訳せます。
 この記事に似た、しかしもっと毒性の強い記事が UN Watch というサイトにも出ていました。『Hall of Shame: Un Human Rights Council to adopt praising Gaddafi Regime』というものです。Gaddafi Regime は「カダフィ政権」です。UN Watch というNGO 組織はイスラエルに不利な行動を国連が取らないように監視しているアメリカのユダヤ人団体です。イスラエルが国連人権理事会(UNHRC)を目の敵にするのには十分の理由があります。
 2008年12月28日から2009年1月18日にかけてイスラエル軍がガザ地区に激しい武力攻撃を行い、パレスチナ側死者約1400人、負傷者約5500人、イスラエル側死者13人を出しました。パレスチナ人1万5千人が自宅を失って難民化し、国連が用意したキャンプに収容されました。2009年10月16日、元国連戦争犯罪検察官リチャード・ゴールドストーンが作成した「ガザ紛争」についての報告書を支持する決議が国連人権理事会で採択されました。イスラエル軍の行動を戦争犯罪と極め付けた内容で、47の理事国中、賛成25、米国、イスラエルなど反対6、16カ国棄権、その中に日本が入っていました。2010年5月31日、ガザ地区に向かっていた国際支援船をイスラエル軍が襲撃してトルコ人9人が殺されました。2010年9月22日、国連人権理事会の調査委員会は「人権法や国際人道法にたいする重大な違反」があったと結論を下しました。そこに持ってきて、今回のカダフィのリビア称賛の報告書です。カダフィつぶしの決定をしたばかりのアメリカの堪忍袋の緒が切れたというわけです。もっとも、この表現は正確ではありません。ブッシュ前政権はほぼ完全に国連人権理事会の外に立っていたのですが、オバマ大統領は例の偽善者ぶりを発揮して国連人権理事会への復帰を2009年3月に宣言したばかりだったのです。
 これだけすべてのことが政治化して来ると、リビアについての国連人権理事会報告書もどこまで信じてよいのか、迷わざるをえません。今のリビアの問題が、いわゆるアラブの春、北アフリカの春とは、ほとんど完全に別の問題であるという私の勘は間違ってはいないと今も信じていますが、カダフィの下でのリビアの人々がどのような生活状態にあったのかという、ごく簡単な問いの答を見つけることが大変困難であるということは、情報というものに関して現世界が如何に病的な状況下に置かれているかを示しています。
 私が今知りたいと思っていることは実に簡単なことです。カダフィに好意的な人々から度々聞こえて来る声があります。典型的な一例を掲げます。:

#As despots go, he's not all bad. Under his 1999 Decision No. 111, all Libyans get free healthcare, education, training, rehabilitation, housing assistance, disability and old-age benefits, interest-free state loans, subsidies to study abroad and for couples when they marry, and practically free gasoline. Moreover, Libya's hospitals and private clinics are some of the region's best.(暴君ということでは、彼(カダフィ)はましなほうだ。彼の1999年の決定事項111番の下で、すべてのリビア人は無料で、保健医療、教育、職業訓練、リハビリが受けられ、住宅補助、障害と老年給付金、無利子国家貸付金、海外留学助成、結婚奨励金、そして、事実上ただのガソリンが得られる。その上、リビアの病院と私的なクリニックは近隣国中一番のレベルだ。)#
話が良すぎてこのまま鵜呑みは出来ませんが、米欧のマスメディアが描くリビアとはあまりにかけ離れ過ぎています。どのあたりに真相が横たわっているのか、われわれ市井の人間におよその真実を探る手だては果たしてあるのか。こうした問題を次回には論じてみたいと思います。

藤永 茂 (2011年6月29日)



最新の画像[もっと見る]

1 ã‚³ãƒ¡ãƒ³ãƒˆ

コメント日が  古い順  |   新しい順
http://www.nhk.or.jp/genpatsu/  みなさん、ア... (池辺幸恵)
2011-07-01 08:13:29
http://www.nhk.or.jp/genpatsu/  みなさん、アンケートにどんどんこたえましょう。 

 福島原発は500ガルで配管損傷。2000年から地震は1482-2037-2515-2933ガルといや増している(文殊は600ガル対応)のんびりしてるひまはない。この夏の原発の発電量はたった1280万KW、自家発電は6000万kwこれらを解放すれば電力は十二分にある。そのためには送電線を解放すべき。
 とりかえしのつかない事故を起こして、福島だけでなく日本を世界を放射能汚染し、多くの人たちの家を奪い故郷を捨てさせて、多くのいのちをこれからも奪おうとしている、これはまさに社会的犯罪です。東電の幹部は逮捕されるべきだし、東電は解体されるべき「一大犯罪企業」です。

 ただいま膨大な燃料棒は溶けて塊となってふつふつと熱くなり大地を溶かして落ちてゆきます、地下水で冷やされるでしょうか、或は水蒸気爆発か核爆発まで至るかも・・見えなくなったからもう責任のとりようがない・・とは無責任な東電の言い草になるだろう。

参考 http://t.co/8YaHpoG グラフで読む真相!
返信する

コメントを投稿