私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ハイチは我々にとって何か?(5)

2010-03-17 09:11:32 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 1月12日、マグニチュード7の激震とその余震がハイチの首都ポルトープランスとその周辺を襲いました。この大地震による直接の死者は25万人に及ぶとされています。この大災害で、最も注目しなければならないのは、首都を中心に配備されていた約1万のPKO(国連平和維持軍)も、地震発生直後に到着した約1万の米軍も、救援活動に殆ど何も参加しなかったどころか、むしろ、邪魔になる行動をとったことです。信じがたいことですし、アメリカでも、日本でも、マスメディアは余りこれを報じませんでしたが、これから説明するように、今や、確認された事実です。2万人の兵士達が、彼等の肉体と資材を駆使して、瓦礫を取り除く作業に力を尽くしていれば、沢山の人命が救われたことでしょう。ハイチで大地震発生のニュースに初めて接した時に私が先ず頭に浮かべたのは、そうした国連軍の活躍の様子でした。『ハイチは我々にとって何か?(1)』の冒頭に書いた通りです。しかし、私の期待が裏切られることは、現地の国連軍に付けられていた特別の名称MINUSTAHの意味を充分理解していれば、始めから分かりきったことした。フランス語の“Mission des Nations Unies pour la Stabilizaton en Haïti”の略称ですが、キーワードは「安定化」です。単に平和を維持する(Peace Keeping)のではなく、ハイチの安定化を目指す国連軍特任部隊を意味し、その名にふさわしい作戦行動を、震災以前から、展開していたからです。
 ハイチの首都ポルトープランスの人口は、20年前には、数十万人のオーダーでしたが、その後急激に貧民の集中が進行し、今回の大地震の時点では、2百万から3百万にもふくれ上がっていたと推定されます。この膨大な数の貧民の集中については、直ぐ後で論じますが、首都近傍の貧民居住地域(スラム)の中でも、特に極貧で治安の悪い地区として知られているのがシテ・ソレイユ(太陽の町)です。20万から30万の人口でその大部分を子供と若者が占めています。電力も僅かしか供給されず、上下水道も不整備、治安が極端に悪く、生命の危険を恐れて、警官も役人も常駐在できません。失業率は80%以上、平均寿命は50歳、凄まじいスラム地区で、幾つかの武装集団がお互いに抗争しながら地区を支配していると言われています。外部の無責任な言葉で言えば全くの「無法地帯」ということになりますが、一方、ここは開放神学を奉じる神父たちの活動拠点であり、アリスティド支持のFanmi Lavalas の不退転の支持地盤でもあります。
 国連軍MINUSTAH の主要な作戦目標はシテ・ソレイユの制圧と治安維持にあり、そのために、2004年以来、市民の方に千人をこえる死傷者が出ているようですが、MINUSTAHの重装備の武力をもってしても、「太陽の町」の中の治安を十分よく保つことは出来ていません。赤十字発行の雑誌記事によると、シテ・ソレイユに通じる道路にはMINUSTAH のチェックポイントがあって、出入りする人々は厳しい検問を受けています。
 西半球で最大最悪のスラムの町シテ・ソレイユは何故出現したか?
 1991年9月29日、軍部によるクーデターによって、アリスティド大統領は国外に追放されますが、1994年9月19日、2万人のアメリカ軍がハイチに侵攻し、10月15日、アリスティドはハイチに帰還して大統領に復位しました。これぞアメリカが民主主義の守護神であることの証であると、当時のアメリカ政府(クリントン大統領)は見栄を切りましたが、これは2重の奸計だったのです。そもそも、圧倒的な得票で民主的に選出されたアリスティド大統領を追い出したクーデターを操ったのはCIA でしたが、クーデター後の3年間に、アリスティド大統領を支持した沢山の活動家が殺されました。その後で、依然として人気のあるアリスティドに、厳しい経済政策的条件を押し付けた上で、ハイチに送り戻して、その政策を実行させる計画でした。その経済政策は徹底したネオリベラル政策で、輸出入関税の殆ど完全な撤廃、つまり貿易自由化、と公共事業の私営化(プライベタイゼーション)です。その一つのアイディアは、ハイチの極端に安い労働力を使った衣料製造工場を作り、製品を国際競争に打ち勝てる低価格で輸出することで、それによる就職を期待して集まった貧民達の居住地としてシテ・ソレイユ(太陽の町)が出発したのでした。帰国して数ヶ月後、アリスティド大統領はその座を去りましたが、これは2期連続の大統領が憲法で禁止されている結果で、アメリカ政府は多分そこまで計算していたと思われます。しかし、その後もハイチ政府はアリスティド支持のFanmi Lavalas 系の勢力が維持して、そのアリスティド系勢力がアメリカに約束させられたネオリベラル政策は遂行しながらも、一方では、最低賃金の大幅値上げなど、ネオリベラル政策の実施を困難にする国内政策を進めたので、アメリカは再びハイチ政府とFanmi Lavalasの締め上げに転じ、そのために(太陽の町)の住民の多くは、工場閉鎖のため、職を失うことになりました。以上、粗雑すぎる要約ではありますが、これが大スラム地区シテ・ソレイユ(太陽の町)の発祥のお話です。シテ・ソレイユだけでなく、首都ポルトープランスには百数十万の貧民が集って来たのですが、その大部分は、ネオリベラルな農業政策が実施されたため、それまでハイチ国内全域で農民達がやっていた小規模生産が立ち行かなくなり、生活が出来なくなって首都の周辺に集まって人々です。それまで米などの基礎的食料は国内生産で足りていたのですが、ネオリベラル政策実施後は、ハイチはたちまち食料輸入国に転落しました。こうした状況の進展の中で、2000年11月26日、アリスティドは圧倒的得票数で、またまた、大統領に選出されました。三度目です。もちろん、このアリスティド新政権の存在を、アメリカ政府と、それに結託するハイチの富裕支配層が許す筈はありません。2004年2月29日のクーデターとアリスティド大統領の国外追放は、起るべくして起った一つの政治劇に過ぎません。その後の混乱を押さえ込むためにアメリカ政府は、国連をあやつって、国際的傭兵部隊MINUSTAH を編成してハイチに送り込みます。傭兵のためのお代は世界各国から集金するという狡猾さも見逃してはなりません。そして、この傭兵部隊MINUSTAH は、2004年以降、とりわけ、暗黒の無法地帯「太陽の町」を目の敵にして痛め続けていたのです。これで、シテ・ソレイユについての私の話が一巡しました。
 今回の大地震の発生後、アメリカが先ず取った行動は、トゥサン・ルーヴェルチュール国際空港の軍事制圧で、数千人の兵士とその装備、食料を着地させることでした。今では、総勢1万数千人に達すると推測されます。MINUSTAH の増強のためにも、カナダ軍兵士多数を含む3千5百人が送り込まれました。2007年1月1日に国連事務総長に就任した米国一辺倒のバン・キムンは「米軍も国連軍も駐留期限は今のところ無い」と言っています。これらの軍隊の任務は、始めから、ハイチの治安の維持であって、震災救援ではなかったのです。私たちも知っている「国境のない医師団」は、震災最初の1週間に、85トンの医療関係資材のトゥサン・ルーヴェルチュール国際空港への着地を拒否されたと報じています。派遣された米軍は救援の邪魔になりました。それは、直接間接に、数万人のハイチ人の死を招いたに違いありません。
 2004年のアリスティド大統領国外追放以来ハイチに駐留している国連軍MINUSTAHと、今度の大地震の直後ハイチに急派された米軍の大部隊が、災害救援活動の邪魔になったという事実を、事実として受け入れることに抵抗感を抱く方々も多いでしょうが、それが事実だという証言者は上掲の「国境のない医師団」の他にも多数見つけることが出来ます。私から見て、決定的な証言者の一人はPaul Farmer という人物です。ハイチに関する信頼の置ける著書として、前回を含めて今まで何度も紹介してきた『ハイチの使い道(The Uses of Haiti )』の著者で、ハーバード大学医学部の著名な教授です。地震直後の1月14日のロサンゼルス・タイムズに「国連の救援活動が阻害された」という記事が出て、その中に、国連の ハイチ特使の肩書きを持つファーマーさんの談話が出ています。記事は「地震で壊滅的な打撃を受けたハイチが緊急に求めている救急医療キット、毛布、テントを積んだユニセフの貨物輸送機が、本日、ポルトープランス空港に着陸しようとしたが、理由不明のまま着陸できず、パナマに引き返した」というリポートに始まり、国連特使ポール・ファーマーの言葉を次のように伝えています。「首都(ポルトープランス)の商業港は事実上封鎖され、航空輸送の方も、ほとんど機能していない空港に何とか着陸しようとする航空機で渋滞している。」地震後2日目に不明だった「理由」とは、米軍大部隊の空と海からのハイチ侵攻であったのです。優に1万を越える兵員総勢、装甲車や銃火器、彼等の滞在のための設営機材、食料などの持ち込みの方が救援物資の搬入より優先されたということです。これは、もはや誰も否定することの出来ない事実です。この事実上のハイチ占領によって、オバマ政権は何を達成しようと狙っているのか。次回(最終回)では、そのことを、我々との関連において、論じてみたいと思います。

藤永 茂 (2010年3月17日)



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これまでの「ハイチは我々にとってなにか?」で最近... (佐々木恭治)
2010-03-21 02:17:32
これまでの「ハイチは我々にとってなにか?」で最近のアメリカの実態がよくわかりました。
アメリカ=国連のマッチポンプぶり=八百長も何時もの通りですね。
ハイチ地震の犠牲はあらゆる意味からして99パーセント人災であることが実証されます。
日本のマスコミは犠牲者の実情だけを報道し、犠牲がどうして起こったかは一切報道しません。
マスゴミ=増す塵そのものになって木鐸になど決してなりえないのでしょう。
真実の姿を見抜くにはやはり社会を批判的に見る訓練と経験を磨かねばなりません。
最近鬼塚英昭氏が成甲書房から新版の『二十世紀のファウスト』という衝撃的ドキュメント本を出されました。
この中でオバマの欺瞞的ビヘイビアについても言及しています。
ブログ読者には、否全世界の良識ある人達には、『二十世紀のファウスト』だけは、是非とも読んで頂きたい歴史的名著です。
この本は現代社会や歴史を正しく見る視点を確実に養ってくれます。
鬼塚英昭さんは藤永先生の考え方にも共鳴され、『原爆の秘密』の中で藤永先生のことが引用されています。
佐々木恭治
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はじめまして。ブラジル在住の須衛野と申します。... (須衛野 凉一)
2010-03-21 13:59:29
はじめまして。ブラジル在住の須衛野と申します。こちらでハイチ大地震がどのように報道されたのか、また、どのように見えたかを列挙してみます。

・ブラジルのカトリック教会系NGO主催者である小児科医Zilda Arnsさんがハイチで活動中に被災し、犠牲者となったことで、発生直後からメディア各社が競って情報収集に奔走し、現地の様子が逐次報道された。
・ハイチ駐留国連軍の中核をなしているサンパウロ師団の連隊から犠牲者が多数出たために、発生翌日には国防相が現地入りしようとした。しかし、いち早く展開した『米軍』によって空港使用が規制されて現地入りが大幅に遅れた(ベネズエラと中国は規制前にハイチ入りしている)。
・米軍下請けの占領代行者でしかないブラジル軍を主体とする駐留軍兵士たちは、被災者救出に使用する重機どころかツルハシもスコップも扱えず(人殺しの訓練を受けてはいても人命救助訓練はたいして受けていなかった模様)、ブラジルで消防隊による救援部隊が急遽編成されて現地へ派遣された。しかし、米軍の管制によって着陸を拒否される。伯国外相から米国務長官へ再三にわたる要請(抗議)の末、発生から3日目に現地入り。
・現地で最も早く展開したのはキューバ留学組の医師・看護師たちによって編成された医療団とベネズエラからの救援物資配布部隊、中国の救助隊であった模様。しかし、米軍による空港及び港湾使用規制によってブラジルやベネズエラ、キューバからの後続救助隊の入国はままならず、ドミニカ経由による入国も国連軍(聞き間違いでなければパキスタン部隊)により拒否される。
・発生3日目あたりからCNNやBBC、カナダの放送局の報道素材がブラジルの民放各社で放映され始め、2週間後まで自前の素材を流していたのは大手5社のうち2社であった。ちなみに民放各局の主要なスポンサーは米国等外国資本(GM、フォード、ユニリバー製品、etc.)が大半を占めている。
・CNNの提供映像を用いて報道された暴動や略奪発生に関しては、現地駐留部隊の司令官により、暴動は発生しておらず平穏で住民は協力している、と、再三にわたる否定があったにも拘らず、何度も報道される。ブラジル派遣部隊司令官が電話取材で「何年もかけて築き上げ、醸成してきたハイチの人々との良好な関係と国連軍への信頼が米軍によって破壊されつつある」と言うコメントを出すが、(国営の連邦貯蓄銀行とブラジル石油公社がメインスポンサーである)民放1社が夕方のニュースで一度放送したのみ。他局は該当部分をカットして放送した。
・米海兵隊のヘリコプターが大統領宮殿の庭へ強行着陸した。ブラジルの民放2社は被災市民たちの憤慨した様子や「どうやら国旗を星条旗に変えたほうが良さそうだ」と肩を竦めて皮肉混じりのコメントをする市民の様子を伝えた。他社は無視。
・米メディアによって撮影されたヘリからの救援物資ばらまきと人々が奪い合うシーンを何度も流す放送局がある一方で、秩序を保って配給の列に並び、捜索や復興で助け合う被災者の様子を特集番組(国営のブラジル銀行がメインスポンサー)で放送した民放が1社(ブラジル派遣軍の宣伝目的或いは米国メディアへの対抗か)。
・米国、カナダ、フランスにブラジルを加えた四ヶ国でハイチの復興を(寡占)推進していこうという呼び掛けに対し、ブラジルの大統領府と外務省はベネズエラ、キューバ等近隣諸国を入れた援助国拡大会議を要求。後に、カナダとフランスが提案したとして報道された。
・3月19日、ボリビア経由でブラジルに入国したハイチ人14名が連邦警察へ出頭して難民申請を行い、受理された。法務相による認定待ち。政治亡命か経済難民であるのか現在のところ不明。

ハイチ大地震による犠牲者増大の主要因は、藤永先生が指摘されたように、キューバやベネズエラ、ブラジル等近隣諸国による救助隊派遣や救援物資搬入をほぼ完璧に足止めしてしまった米軍による武力の誇示を目的とする速やかな展開と占領です。米軍は救助活動のために現地に入ったわけではありません。それでも北米のジャーナリストは現地の人の声として「ブラジル軍を中核とする国連軍は救助活動もせず、銃で小突くばかりで暴力的だった。米軍が進駐してきて安心した」などと報道していました。2004年から1200人規模の部隊をハイチに常駐させているブラジルは、合州国(このほうが良いですね)の使いっ走りだと思っていたのですが、現在の中道左派政権は救助活動でベネズエラ、キューバ両国と連携していたらしく、救援物資を積んだ機をカラカスで待機させ、ブラジル空軍の空挺隊輸送機5機を含めた7機が数度にわたって米軍管制空域を一斉に『侵犯』するなど、異様な緊張下で伯国外相と米国務長官との直接交渉が行われた模様です。

合州国は、ハイチ大地震というあまりにも不幸な災害を利用し、自国民を満足させながら洗脳を深化させることと同時に、ブラジル、ベネズエラ、キューバに対して強大な力を見せつけました。とくに、部隊を派遣しているブラジルの現政権に対する揺さ振りと攻勢のための「材料」としてハイチの不幸を使ったのではないかとさえ勘ぐってしまいます。二期目の任期を来年一月一日(実質今年度末)で終えるブラジルのルーラ大統領は一昨年来80%以上という高支持率を維持しています。しかし、オバマ就任あたりから展開され始め、拡大されてきたメディア各社による巧妙な世論誘導で、今年はチリと同様の政権交代が起こる可能性が大きくなっていることも無視できません。

チリでは実質的にクリントン米国務長官の肝いりで仕掛けたとみられる巧妙なプロパガンダ戦術がメディア展開され、任期末まで圧倒的な支持を得ていた中道左派のバシェレ大統領によって指名された後継候補が敗れ、親米右派の「大富豪」が勝ったことで結果的に政権転覆しています。ブラジルでも『労働者党』を中核に『ブラジル共産党』から『ブラジル民主運動』まで糾合した中道左派連立政権の政策に対する支持率が75%、大統領に対する支持率が83%であるにも拘らず、次期大統領選に関するメディアによる世論調査では、『民主主義者たち』(旧軍事独裁政権の流れを汲んだ親米右翼の自由戦線が気味の悪い冗談としか思えない党名に変えただけ)と『緑の党』(決選投票になれば保守派へ合流。ご多分に漏れず、この国でも植民地主義者の隠れ蓑。法務相が懸念していると口を滑らせたのですが、資金はUSAID/CIAと欧米資本→NGO→党。環境政党であるのに右派や保守派と政策連合を組んでいます)の推す『ブラジル社会民主党』(看板に偽りあり。社会民主主義とは縁遠い新自由主義路線。最近の言動から、党の重鎮カルドーゾ元大統領はロン・ポール顔負けのリバタリアンに転向した模様)所属のサン・パウロ州知事が不思議なことにいつもリードしています。もし政権交代となれば、ブラジルでは再び北米資本への隷属が強いられるネオリベラル路線が復活するでしょうし、合州国にとってはキューバに続いてベネズエラを封じ込め、チャベス政権転覆のための軍事侵攻さえ可能となる絶好の布陣が得られます。

実際問題として、中南米諸国を政治的に「解放」するという大義名分を声高らかに謳い上げ、バナナ共和国にはバナナ共和国としての身の程を弁えさせ、支配者が誰であるのかを知らしめる、という、オバマ─クリントン・ドクトリンに則った「スマート・パワー」による政治介入(彼らにとっての植民地管理)は、中南米諸国にとって思った以上に手強い様相を呈してきました。南米で暮らしていると自分が「殺される側」にいることを緊々と感じます。と同時に、日本や北米にいた頃の自分が「殺す側」の論理に搦め捕られていたことも、今更ながらに再確認させられます。

さて、ホンジュラスのクーデター(事変が発生したとき、体良く拉致・誘拐され、追放されたハイチのアリスティド大統領のことを真っ先に思い出しました)、ハイチ再占領、エクアドル似非反米左派政権との談合によるコロンビアの実質占領及びベネズエラ、ブラジル国境地帯を睨んだ米軍基地移設、チリにおける中道左派から親米右派への政権交代、と、一連の「出来事」でもって合州国の覇権力を存分に見せ付けてきたヒラリー・クリントン米国務長官ですが、先日、ブラジルを含む中南米5ヶ国を訪問していました。外相会談、クリントンによる表敬訪問及び外相も混えた会談の直後、ルーラ大統領はイランに対する制裁強化に同意しない旨を表明し、翌々日、合州国の農産物補助金政策への制裁措置として米国製品に対する関税率の大幅引上げを発表しました。そして、翌週にはイスラエル及び中東各国を訪問しています。ルーラ氏は本気で、ロシア・東欧まで含んだ欧米諸国が資源価格の上昇や財政赤字の粉飾と景気回復の為に願ってやまないイスラエルによるイラン爆撃と誘発されるであろう戦争を止めさせようとしてるのかもしれません(合衆国政府は取って付けたような強い調子でイスラエルを批判していますが、大義名分を声高に表明してみせるお得意のポーズではないでしょうか。不吉な出来事が起こる前兆のようで薄気味悪い感じさえします)。この一見奇妙な反応と行動から、クリントンの恫喝外交プラス仲間に引き込もうとした姑息なやり方に対して、普段はきわめて温厚なブラジル政府が「激怒した」ことは容易に伺えます。オバマとヒラリー(クリントン夫妻は中南米を選挙運動で生じた借金のカタにしてしまったと噂されています)が、中南米各国や中国、メキシコ、ベネズエラ、ブラジルにパワーを見せつける為に大地震に遭ったハイチの悲惨な状況を利用し、それが故に数十万人単位で瓦礫に埋もれた被災者に対する救助活動が大幅に遅れ、二十二万人余の死者が出たことを考えれば、ブラジル政府が大国のエゴを綺麗事で取り繕おうとする合州国のやり方に対して怒りを顕わにしてもおかしくはないし、むしろ足りないくらいです。普通の神経を持っている人なら誰もが憤慨する。

ここで、なぜ、私がエクアドルのラファエル・コレアを似非反米左派と疑っているのか、簡単に説明します。ベネズエラのチャベス大統領を嵌めるための妙なアーカイブが出てきたFARCナンバー・ツー暗殺事件やブラジル開発銀行へのモラトリアムなど一連の疑惑と南米経済の混乱を招こうとした事件にエクアドル政府が深く関与していることからも伺えますが、地図を見るともっと分りやすい。コロンビア、ペルーという親米右派政権国家に挟まれているエクアドルは、基地の使用期限が切れた米軍に対して撤退要請し、あっさりと要請を受け入れた米政府・軍は、エクアドルを引き払って「ベネズエラ、ブラジルの両国と国境を接するコロンビア」で数万人規模の兵力を大展開することになりました。ちなみにエクアドルの国内通貨は米ドルで通貨発行権は合州国です。中南米では日々の生活でさえ味方だと思っていたら足元を掬われてしまうことなど日常茶飯事ですが、逆のケースもまた存在するようです。

この地にある国々は帝国主義の犠牲者と言うより、国民の多くが直接、間接に加害者でもある人々によって作られている国が殆どですので、政治情勢に関する分析はかなり困難です。例えばブラジル政府が最後まで匿っていたホンジュラスのセラヤ大統領は、右派として当選しながら左派に変身しています。過去にはブラジルのヴァルガス、クァドロス、ゴラール、アルゼンチンのペロンらも不十分とはいえ当時では精一杯の左旋回をしている。コロンビア最高裁によって発表された大統領多選禁止判決、元国防相の立候補や大統領が関わったという汚職疑惑などの報道に接したとき、最大限の善意でもって解釈すれば、コロンビアのウリベにしても次回選挙で再選されて長期政権への足掛かりを得たところで左旋回・反米化する手筈だったのかもしれません。アメリカ帝国主義の傀儡として子々孫々蔑まれるよりも民衆のために立ち上がった人民の指導者として歴史に残り、たとえドン・キホーテと呼ばれても伝説として語り継がれたい、という名誉欲に駆られ易いポピュリスト政治家の行動原理については、米国務省やらシン
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2010å¹´04月26日月曜日 15:40、晴れ、最低気温;14... (togami yosihiko)
2010-04-26 22:56:35
2010年04月26日月曜日 15:40、晴れ、最低気温;14'5ºC、最高気温;21ºC、BARCELONA県から
週間金曜日2010年04月02日号(793号)の本多勝一氏の貧困なる精神の429回で、藤永茂氏の
電網日誌(BLOG)をしりました。自分は、スペインにもう20年以上住み着いています。そして
新型インフルエンザ(ブタ風邪)の電網日誌[http://togamiyosihiko.blogspot.com]
と海外旅行やスペインの生活事情などについての
電網日誌[http://yosihikoyasuhito.blogspot.com]を書いています.
あなたの本格的な調査電網日誌は、玄人のようで、非常に参考になります。
やっと、本格的な調査?報道?電網日誌に出会えた。私はまだ始めたばかりですが、そちらの電網日誌を
参考にして、じりじり続けて行きたいとおもいます。
砥上良彦
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 須衛野さま、いまさらにアメリカこそ、世界の中... (池辺幸惠)
2010-05-06 09:48:19
 須衛野さま、いまさらにアメリカこそ、世界の中でも最たる連続殺人国家であり、それらを牛耳っている恥知らずたちに憤りをとおりこして、ここまで人間はエゴイストになれるのかと悲しみでいっぱいになります。
 須衛野さまのこの文章もわたしのHPのブログにあげさせてください、日本人は南米におけるアメリカの悪巧みをあまりに知らなさすぎます。
 その知らないことが、この占領されたままの日本、アメリカ軍基地で住民たちが、沖縄が虐げられてきたのをほうっておける“元凶”なのでしょう。
 
 このインターネットがあるかぎり、わたしたちは、知らないことは罪ですし、知っていることを伝えないのも又罪かと思います、どうぞ、どんどん発信なさってください、そして、わたしは、理解できた文だけでも、多くの人たちにつたえたいと思っています。よろしくお願いいたします。
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