私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

アサド大統領に物申す:ロジャバを救いなさい(3)

2017-12-18 20:34:07 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 シリアの人々の苦難はまだ長く続くことになります。平和な生活の日々の到来は遠い未来の中に霞んでいてまだ見通しがつきません。当面、最大の問題は、米国がISとSDFを操ってシリア国土内に獲得した米国の勢力圏をどうするかということです。そして、私の最大の関心は「米国とイルラエルはロジャバ革命という革命的現象に対してどのような政策をとるか?」にあります。
 ロジャバ革命の思想的最高指導者は勿論アブドゥッラー・オジャランその人ですが、1999年以来トルコ政府によってイムラル島の独房に隔離されて、この2年ほど、外部との連絡は全く絶たれています。現在のロジャバ革命勢力の政治的な決断は集団的に行われていると思われます。オバマ政権とYPG/YPJ/PKKとの間でどのような取引が行われて、YPG/YPJが、SDFという呼称でシリアでの米国の代理地上軍の役を引き受けたかについては、多数の憶測はあっても、真の真相は明らかになっていません。しかし、ロジャバ革命勢力にとって、この決断が苦渋に満ちたものであった事に間違いはありません。ISとそれを殆ど大っぴらに支持するトルコから身を守るための唯一の選択であったのではないかと私は推測します。ロジャバ革命勢力の指導者とみなされる人々の発言には米国から受けた大きな軍事的支援に直接感謝する文言が見当たりません。ただ、米国としては、トルコ(エルドアン大統領)の不興は買ったにしても、ISが占領していたシリア内のかなり広大な土地(石油埋蔵地域)をSDFの占領地に肩代わりをさせる事で、米国はシリアの今後について堅固な発言の足場を確保したのは事実です。国際法的には全くの違法行為ですが、米国は、そんなことは歯牙にもかけていません。米国は、シリア東部の“占領地域”でラッカから救出移動させた旧IS軍兵士を再訓練して、アサド政府軍との戦いを続行しようとしているとさえ報告されています:

http://www.presstv.com/Detail/2017/12/17/545892/Daesh-Syria-Iraq-Putin

https://syria360.wordpress.com/2017/12/16/us-creating-new-terrorist-army-in-southern-syria/

 私は、SDFの支配地域(つまりシリア内の米国支配地域)でYPG/YPJ/PKKがロジャバ革命の思想に基づくコミューン的自治組織と社会制度の設立に懸命の努力を続けていることを重視したいと思います。そして、ロジャバ革命の思想を広げようと努力しているクルド人たちは、何よりもまず、極悪なISをシリア国内から排除することを目指していて、その点ではロシア政府、イラク政府、シリア政府との協力も進んで行っています:

https://www.rt.com/news/411945-syria-kurds-russian-support/

https://anfenglish.com/news/sdf-iraqi-army-to-establish-joint-coordination-center-at-border-23591

https://anfenglish.com/news/sdf-commander-we-are-in-harmony-with-iraq-for-border-security-23682

上の最後の記事は次の文章で結ばれています:
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“OUR DOOR IS OPEN TO ALL”
Qamişlo said: “Our door is open to all. We are prepared to offer any kind of help to develop solutions to the present issues in Syria with anybody in or outside of Syria, with neighboring countries, domestic powers and forces fighting against terror, on the basis of the interests of the peoples.”
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ここで、ロジャバ革命を推進しているシリア北部のクルド人たちは、イラク北部の(マスード・バルザニ大統領下の)クルド人たちと違って、クルド人国家の設立を目指してはいない事に注目しなければなりません。オジャランの革命思想の中心には民族国家設立の希求の放棄、諸民族、諸宗教、諸文化の共存の必要性が置かれています。ロジャバ憲法には、現在のシリア国家の領土の枠を尊重することがはっきり書き込まれているのは以前に報告した通りです。
 シリアをめぐる政治状況は極めて流動的でその近未来は見通すのが困難ですが、国家としてのシリアがロジャバ革命の望むような形態に移行するのはなかなか困難であろうと思われます。例えば、Dmitry Minnという人の論考:

https://syria360.wordpress.com/2017/12/12/why-syria-would-not-survive-a-transition-to-a-federal-system/

によれば、アサド大統領はシリアを民族と宗教に基づいた自治的行政地区の連邦国家に変化させることにはっきり反対の立場をとっているとされています。最近(11月)首都ダマスカスで行われた「Arab Forum on Confronting the US-Zionist reactionary Alliance and Supporting the Palestinian People's Resistance」というフォーラムの出席者たちとの会合で、アサド大統領は汎アラブ主義(pan-Arabism)という考えの重要性を強調しました:

http://syriatimes.sy/index.php/speeches/33511-president-al-assad-hitting-national-belongingness-weakens-defense-line-against-cultural-invasion-attempts

現在のシリア国家と汎アラブ主義との連関には長い歴史がありますが、アサド大統領は「汎アラブ主義の考えは民族概念を超えるものだ」と言います:
“It is necessary now to refute the ethnic concept. There are people who talk about federalism, nationalism, and federalism on national basis. We have to assert that the concept of Arabism is an inclusive civilized concept that includes everyone, which means that Arabism is greater than being ethnic, the cultural concept includes everyone, includes all ethnicities, religions, and sects,”
民族として、アラブ人とクルド人は区別されます。ロジャバ革命の革命概念によれば、それぞれの地域で出来上がるコミュニティー(コミューン)の性格はその地域に住む多数派民族によって自然に左右されるでしょうが、多数派が少数派を抑圧することは許されません。例えば、コバニはクルド人の町ですが、米軍の指導支援下でSDFが占領したラッカ(ISの元の首都)は、クルド人ではなく、アラブ人住民が多数派です。ラッカをロジャバのクルド人が圧政的に支配することはロジャバ革命の革命概念の許すところではあり得ません。
 アサド政権側の発言者として注目すべき人物に、Bouthaina Shaabanという女性がいます。アサド大統領のトップの側近の一人だと思われます。その11月7日の発言:

https://southfront.org/assads-top-advisor-what-happened-in-iraqi-kurdistan-should-be-a-lesson-to-the-sdf/

では、シリア国領土内にあるトルコ軍勢力と米国軍勢力は「不法侵略軍」と見なしていることを明言し、いま米国軍の統率のもとにあるSDFが占領しているラッカをシリア政府が取り戻す決意を表明しています。シリアの人々に平和な日々が戻ってくるのは、まだまだ先のようです。しかし、ロジャバ革命の憲法(憲章)(あるいはオジャランの思想)とアサド大統領の汎アラブ主義思想には共通する思想的成分が十分に含まれていると私は考えます。そこに私は最後の希望をかけたいと思うのです。
 最近(11月16日)の外交問題評論誌「FP, Foreign Policy」に
#The Kurdish Explosion Is Unleashing Demons(クルド問題の爆発はディーモン達を解き放つ)#
と題する論評が出ました:

http://foreignpolicy.com/2017/11/16/the-kurdish-explosion-is-unleashing-demons/

結論は刺激的ですが、米国の政治評論の痛々しい貧しさが露呈しています:
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The fuse has been lit and further explosions are likely. The breakdown in state control in Iraq and Syria has led Kurdish groups in both countries to take dangerous and precipitous moves in pursuit of their national ambitions. These moves will be met with force from the governments of Turkey, Syria, Iraq, and Iran, who believe their border — if not their national existence — is at risk. A responsible U.S. policy would be to pursue de-escalation and to make clear to all parties, but especially the PYD-YPG, that the United States will not condone or accept challenges to the status quo.
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トルコ、シリア、イラク、イランをめぐる現状に対する挑戦を米国は容赦しないことを、とりわけロジャバのYPG/YPJによく分からせるようにしろ、という勧告は、的外れも甚だしく、また、ロジャバ革命に対する死刑宣告とも受け取れます。この暴論あるいはナンセンスに対して、ロジャバ革命勢力としてのYPG/YPJは見事な論駁を展開しました:

https://anfenglish.com/features/democratic-federation-of-northern-syria-a-challenge-to-status-quo-23592

その結語の部分を下に掲げます。an alternative とあるのは、米国が採用すべき「クルド問題」に対する政策としてFPの論者が唱える“現状維持”に対する代替を意味します:
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The Democratic Federation of Northern Syria presents an alternative-- one that has survived and grown under adverse conditions. Its constitution structurally empowers women and ethnic minorities. Its military force is not only the most effective force against the Islamic State, but is also responsible for the fewest civilian casualties of any major party to the conflict. Outside powers did not impose its democratic system. Rather, it was developed by and for the people it serves—which gives it far greater legitimacy than the democracy imposed through occupation that so often follows outside interventions. It provides a model for all oppressed groups in the region to look to, and an alternative to dictatorship and intervention in a region whose people have seen too much of both. A responsible international policy would be to continue to support it, and to end support for the regimes that oppress the people of Rojava and of all four parts of Kurdistan.
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 私には国際政治評論家の振りをするつもりも、未来の予言を試みるつもりもありません。程なくこの世界から決別する一老人として、この人間世界の未来が今よりも生きやすい和やかなものであってほしいと願っているだけです。
 これからのシリアについては、現大統領のバッシャール・ハーフィズ・アル=アサドに私の希望をかけています。元々は政治軍事に関心が薄い穏やかな性格の男で、父親の後継者とみなされていた兄が交通事故でなくなったので、眼科医としてのロンドン留学を途中で断念してシリアに帰国し、シリアの指導者としての父親の後を継ぎました。私はアサド大統領のこの経歴にも興味を感じますが、この人物に関する私の気持ちと判断は、私がこれまで接した多数の講演やインタビューの録音内容の全文(英語訳)から来ています。インターネットという便利なもののおかげで、こちらが求めれば、そうした資料を、時間的にも数年という十分長い時間にわたって、大量に入手することができます。他の例をあげれば、バラク・オバマ、私はこの人物の発言の数々に大統領就任以前から接しはじめ、早い時期に「稀代のコン・マン」と位置づけましたが、それからの十余年、この位置付けの正しさを確認し続けて現在に至っています。私は「文は人なり」という言葉を信ずる者の一人です。
 バッシャール・ハーフィズ・アル=アサドは、これまで、残忍非情な独裁者ではなく、将来もなり得ません。天才的ではなく凡人的ですが、真剣に正確に物事を考える十分の知性と人間らしい感性の持ち主です。個人としては、ロジャバ革命を推進するクルド人たちの心情と熱意と決意を充分理解している筈だと私には思われます。
 ロジャバは北部シリアのトルコとの国境線に沿って東西に並ぶ三つのカントン(行政区画、県のような)、西からアフリン、コバニ、ジィジラ(Afrin, Kobanî, Cizîrê )、からなっています。シリア紛争の結果、コバニとジィジラの二つのカントンはうまく繋がりましたがアフリン地域とコバニ・ジィジラ地域との間にはトルコ軍が北から南に越境進出してロジャバは二つの部分に分断されています。現在、トルコ軍はアフリン地域に侵攻して占領することを目論んでおり、また、コバニに対しても攻撃をかけています。トルコはロジャバ革命に引導を渡したいのです。潰してしまいたいのです。このあたりを中心に今後のシリア情勢は展開すると思われます。米国とイスラエル、それに対する、ロシア、イラン、イラク、それにトルコがどう動くかによって、シリアの近未来は決められるのでしょうが、私が信を置くアサド大統領が、北からの侵入したトルコを北に押し返し、国境線に沿って、アフリン、コバニ、ジィジラの三つのカントンを連続した行政地区として、それまでロジャバ革命を推進して来たクルド人とその地区のアラブ人その他の人々の大幅な自治に委ねる決断を下すことを、私は切に願ってやみません。

藤永茂(2017年12月18日)

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ロジャバ革命の性格について (Hitoshi Yokoo)
2017-12-25 00:49:21
先日、YouTubeロジャバ革命の実践を紹介する優れたビデオを観ましたので、紹介したいと思います。

ROJAVA: A Utopia in the Heart of Syria's Chaos

私は長らく、ロジャバ革命やサパティスタ運動は、それ以前の変革運動と何かが違うと感じていました。

私は、サパティスタ支持者のサークルにも参加していますが、彼らが好んで投稿する絵の特長には、強く押し出される「幼児性」があります。宮沢賢治の童話やシャガールの絵を彷彿させます。いつか、ある人に、スペイン語の字幕付きのアニメ「銀河鉄道の夜」 を紹介し、その感想を求めたところ、大変感動したとの返事を貰いました。彼らは、解放の神学の立場に立つカトリックでありながら、先住民族の生存権を擁護し、先住民族の伝統と思想のなかに近代を超克する方法を探ろうとさえしています。「幼児性」の復権は、先住民族の思想との出逢いから来ているのかも知れません。この運動は、旧来の革命運動とは、まるで様相が異なります。女性の解放は彼らの課題であり、彼らは現在、メキシコ大統領選に女性候補を立てて盛り上がっています。

ロジャバ革命の特長は、女性の解放を優先し、民族や宗教の共存を求めるところにあります。「女性の解放」と「共存の思想」に基づくロジャバ革命もまた、旧来の革命運動に見られない雰囲気を醸し出している様に感じます。「反革命であるブルジョア階級を打倒しプロレタリア独裁政権を打ち立てる革命運動」とは、何か根本に於て異質ではないかと感じられるのです。彼らは、ISISとの死闘を演じながらも、彼らの内側では大きな抗争を起こす事なく革命運動を持続しています。外から参加しているトルコのマオイストやアナキストも内部抗争を起こす事なく連帯し続けています。「共存の思想」は、革命運動参加者の中にも浸透して、革命観を異にする参加者同士の共存さえ可能にしているのかも知れません。スペイン革命は内部抗争によって内からも崩壊していきましたが、ロジャバ革命にはその様な兆候は見られません。

「幼児性の復権」、「女性の解放」、「共存の思想」、「環境の維持」等、現代の注目すべき変革運動は、旧来の勇ましい男性原理の運動とはまるで異質な運動なのではないでしょうか。クルド人が横一列に並び手を繋いで踊る動画をよく見ますが、ロジャバ革命の性格は、あの踊りのなかに体現されている様に思われます。
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