このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

[参照用 記事]

「セオリー」は使わざるをえないな

直前の記事「リントンの定理: 概要、実例、注意事項」の「注意事項への注意事項」と「セオリー」で述べたように、「セオリー」という言葉を使うのは出来るだけ避けたい。その理由は:$`
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{ \mathbf{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
`$

  1. 地の文で使う日常語「理論」と紛らわしい。ただし、テクニカルタームとしての "theory" をカタカナ書き「セオリー」にすれば問題は緩和する。
  2. 「セオリー」という言葉から、余計な(ときに有害な)連想をする人がいる。連想が、フォーマルな定義に基づくドライな思考を邪魔する。
  3. 「セオリー」は曖昧多義語である。例えば、論理の文脈では、「導出に関して閉じた〈closed under {derivation | inference}〉論理式の集合」という意味でセオリーを使う。
  4. ローヴェアのセオリーの理論〈theory of theories〉に限っても、ローヴェア圏をセオリーと呼ぶ人と、指標をセオリーと呼ぶ人がいる。

直前の記事の「セオリー」では、「ローヴェア・セオリー/ローヴェア圏」の代わりに「SAT圏〈SAT category〉」を使えばいいだろうと言いました。以前(例えば「ローヴェア・セオリーとその周辺」で) $`\mbf{LawTh}`$ と書いていた圏は $`\mrm{SAT}\mbf{Cat}`$ と書くことになります。

$`\mrm{SAT}\mbf{Cat}`$ は、SAT圏達からなる圏です。SAT圏はデカルト圏の特別なものなので、次の包含関係が成立します。

$`\quad \mrm{SAT}\mbf{Cat} \subseteq \mbf{CartCat} \In 2\mbf{CAT}`$

自然変換も考えれば、$`\mrm{SAT}\mbf{Cat}`$ と $`\mbf{CartCat}`$(小さいデカルト圏達の2-圏)は2-圏です。自然変換が不要なら、$`\mbf{CAT}`$ 内で考えます。

複圏〈オペラッド〉を使うアプローチを採用するなら、$`\mrm{SAT}\mbf{Multicat}`$ を使います。$`\mrm{SAT}\mbf{Multicat}`$ の対象は複圏ですが、複関手〈1-射〉と複自然変換〈2-射〉(「回路代数とグラフ置換モナド」参照)により2-圏になります。SAT複圏は一般的複圏の特別なものなので、次の包含関係が成立します。

$`\quad \mrm{SAT}\mbf{Multicat} \subseteq \mbf{Multicat} \In 2\mbf{CAT}`$

さて、$`\mrm{SAT}\mbf{Cat}`$ や $`\mrm{SAT}\mbf{Multicat}`$ の対象を総称して呼びたいときは何と呼べばいいでしょうか? やっぱり「セオリー」と呼ぶしかないようですね。

SAT〈simple algebraic thoery〉は、ローヴェアのオリジナルの“セオリー”ですが、MAT〈many-sorted albebraic theory〉やGAT〈generalized algebraic theory〉もあります。様々な theory of algebraic theories が対象〈subject matter〉としている構造物は、総称的に「セオリー」です。

リントンの定理の主張をあらためて述べてみると:

  • セオリー(またはセオリーの生成系である指標)に対するモナドを構成可能で、そのモナドのアイレンベルク/ムーア圏と、セオリーの表現の圏(指標のモデルの圏)が圏同値となる。

前半が“モナド-セオリー対応”で、後半が“代数-モデル対応”です。“代数-モデル対応”が成立するようなモナド(リントン/ローヴェア・モナド)を考えるので、“モナド-セオリー対応”が確立すれば自動的に“代数-モデル対応”は成立するとも言えます。

いずれにしても、モナドとセオリーを考えないとリントンの定理のステートメントを書けないので、困った用語でも「セオリー」を避けることは出来ないようです。