私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

Oseitutu Miki さんのコメントへのお答え(3)

2007-09-26 10:04:56 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 Mikiさんのコメントから引用させていただきます。
「夫がガーナ人であり、さずかった娘はどうみても黒人の血を引く美しい子です。しかし彼女が背負った歴史と未来は今後彼女にとって重い足かせとなるのでしょうか、それとも彼女を支える礎となるのでしょうか。」
大きくなった娘さんを迎える世界が、いまの私たちの世界よりずっとよくなっているように、私たちは精一杯努力しなければなりますまい。過去の歴史が彼女にとって重い足かせになることを許してはなりません。私が強くそれを想うのには、個人的な理由もあります。
 私の二人の息子の妻は両方ともフランス系白人で、孫は女子一人、男子二人です。「異人種間の結婚が増えれば、それだけ人種偏見が減る」と長男が言ったことがあります。私の家族を見守っていると、私の想いもその方向に沿って励まされます。二人の人間が恋仲になる:肌の色のどんな組み合わせにも訪れる心あたたまる事態です。フランツ・ファノンは、その事について、美しい言葉を残しています。彼の主著の一冊『黒い皮膚・白い仮面』の結語の最後の部分にあります。
「優越感? 劣等感? そんなのはぬきにして、ただ単純に他者に触れ、他者を感じ、他者を自分自身によく分からせるようにしようではないか。」
ファノンの妻は白人(Marie-Joséph Dublé)でした。これはファノンが自らに言い聞かせ続けた言葉もであったのでしょう。
 しかし、過去の歴史に照らすかぎり、この世界は混血者にも寛容ではありません。Mikiさんはシャーデーの歌詞「黒人であることはここではとても大変なこと。店員はつり銭を渡す時にも私の手に触れるのを嫌がる」を引いておられます。美しい歌姫シャーデー・アデュ(Helen Folasade Adu)をCDやDVDで御存知の方は多いと思いますが、父はナイジェリア人、母はイギリス人の混血です。ここに歌われている世界の存続を許すわけには参りません。ファノンが繰り返し強調するように、これは「人間が人間をどう扱うか」という、私たちにとって最も基本的な問題なのですから。
 白人社会での黒人差別-これは、日本に住んでいる日本人は勿論のこと、アメリカに3年、4年とまとまった期間生活した経験のある人々にも、なかなかよく把握できない根強さを持ち続けているものなのです。私はアメリカで3年、カナダで39年生活しました。長ければそれだけ良く分かるというものでもありますまいが、私には、アメリカ通をもって自認しておられる政治家、経済人、学者、知識人、ジャーナリストにも、黒人差別の問題については甘く皮相的な見解を持っている人が多いように思われてなりません。次回は、そのことについて書いてみます。

藤永 茂 (2007年9月26日)



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