物理の副読本にしたい:【本】E=mc2
副題が「世界一有名な方程式の『伝記』」というのだが、
E=mc2という方程式にまつわる登場人物を見ていると、
現代物理学史の『伝記』と言ってもいいくらいだった。
歴史というのは、起きた「コト」以上に、それを起こした「ヒト」が面白いと言う事に改めて気付かされた。
だから年号と事象の暗記では、面白さは伝わらない。
そこに、科学者と呼ばれる「人」がいた事、そして科学者の『人間的な』活動が科学の発見なのだということを知るには最適な本だと思う。
物理学の歴史を学ぶ副読本にして欲しいと思った。
元々、アルファブロガーのブログエントリで本の存在を知って買ったのだけど、
読むのに時間がかかってしまった。
文庫とはいえ本文306ページ、さらに丁寧な注と文献案内も漏らさず翻訳しているから432ページの大部なのだ。
さすがに早川書房で、この注と文献案内が、この本をさらに魅惑的なものにしている。
目次(404 blog not foundのエントリからコピー)
はじめに
第1部 誕生
1 一九〇五年、ベルン特許局
第2部 E=mc2の先祖
2 エネルギーのE
3 = (イコール)
4 質量(mass)のm
5 速度(celeritas)のc
6 2(二乗)
第3部 若かりし頃
7 アインシュタインとE=mc2
8 原子の内部へ
9 真昼の雪の中、ひっそりと
第4部 成熟期
10 先手、ドイツ
11 ノルウェー
12 後手、アメリカ
13 午前八時十六分 広島上空
第5部 時間が果てるまで
14 太陽の炎
15 地球をつくる
16 インドのバラモンが天空に目をむける
エピローグ アインシュタインのほかの業績
付録 他の重要人物のその後
謝辞
解説 アインシュタインがみんな悪い 池内了
文献案内
注
この目次を見て分かるように、この本はE=mc2を説明するというよりは
その構成要素であるE(エネルギー)、=(イコール)、m(質量)、c(光速)、2(二乗)という「登場人物」がどのようなものであり、
なぜ二乗するかを含めて「この式にたどり着く」までを描き、
さらに、たどり着いたアインシュタインについては最小限にとどめつつ、
その式が何を意味するのか、さらに何を生み出すことになるのか(原爆と原発を含め)
そして、その行きつく先(宇宙の果てまで)までを詳細に描いている。
その途中に、物理の時間、とくに量子力学、現代物理学で習う人物が総出演する。
そして、そこにあふれた愛憎渦巻く出来事を「文系的」に描いていく。
そう、この本は「理系」の本ではなく「文系」のための本であり、
科学の本ではなく、科学史の本なのだ。
サイエンスコミュニケーションのある種の形と言ってもいいけれど、
その専門家にはこの手の本は書けないのではないだろうか。
実に広範な下調べと、サスペンスドラマかノンフィクションのベルのような筆致が
スリルと発見と驚きを次々に与えてくれる本なのだ。
特に原爆製造をめぐる連合軍とドイツ軍の駆け引き、そこに現れる人物の妙は
まさに「その時●●は動いた」という感じである。
この本は日本では書けないと思うのは、能力の問題ばかりではなく、
執筆環境の問題でもある。
ロンドン大学ユニヴァーシティカレッジの科学図書館や
セント・ジェイムズ・スクエアのロンドン図書館にような施設も文献も、
そして実際に、本書に出てくる歴史的な事象が起きた場所もない国で、
この本が書けるとは到底思えないのだから。(335pの謝辞参照)
下手な歴史書を読むよりも、20世紀前半の時代背景が分かり、
下手な物理学の教科書を読むよりも、物理学史と体系的な知識が学べる。
この本を読みながら往復した成田ー香港間は実に幸せなフライト時間だった。
E=mc2という方程式にまつわる登場人物を見ていると、
現代物理学史の『伝記』と言ってもいいくらいだった。
歴史というのは、起きた「コト」以上に、それを起こした「ヒト」が面白いと言う事に改めて気付かされた。
だから年号と事象の暗記では、面白さは伝わらない。
そこに、科学者と呼ばれる「人」がいた事、そして科学者の『人間的な』活動が科学の発見なのだということを知るには最適な本だと思う。
物理学の歴史を学ぶ副読本にして欲しいと思った。
元々、アルファブロガーのブログエントリで本の存在を知って買ったのだけど、
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E=mc2――世界一有名な方程式の「伝記」 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) ディヴィッド・ボダニス David Bodanis 伊藤 文英 早川書房 2010-09-22 売り上げランキング : 81688 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
さすがに早川書房で、この注と文献案内が、この本をさらに魅惑的なものにしている。
目次(404 blog not foundのエントリからコピー)
はじめに
第1部 誕生
1 一九〇五年、ベルン特許局
第2部 E=mc2の先祖
2 エネルギーのE
3 = (イコール)
4 質量(mass)のm
5 速度(celeritas)のc
6 2(二乗)
第3部 若かりし頃
7 アインシュタインとE=mc2
8 原子の内部へ
9 真昼の雪の中、ひっそりと
第4部 成熟期
10 先手、ドイツ
11 ノルウェー
12 後手、アメリカ
13 午前八時十六分 広島上空
第5部 時間が果てるまで
14 太陽の炎
15 地球をつくる
16 インドのバラモンが天空に目をむける
エピローグ アインシュタインのほかの業績
付録 他の重要人物のその後
謝辞
解説 アインシュタインがみんな悪い 池内了
文献案内
注
この目次を見て分かるように、この本はE=mc2を説明するというよりは
その構成要素であるE(エネルギー)、=(イコール)、m(質量)、c(光速)、2(二乗)という「登場人物」がどのようなものであり、
なぜ二乗するかを含めて「この式にたどり着く」までを描き、
さらに、たどり着いたアインシュタインについては最小限にとどめつつ、
その式が何を意味するのか、さらに何を生み出すことになるのか(原爆と原発を含め)
そして、その行きつく先(宇宙の果てまで)までを詳細に描いている。
その途中に、物理の時間、とくに量子力学、現代物理学で習う人物が総出演する。
そして、そこにあふれた愛憎渦巻く出来事を「文系的」に描いていく。
そう、この本は「理系」の本ではなく「文系」のための本であり、
科学の本ではなく、科学史の本なのだ。
サイエンスコミュニケーションのある種の形と言ってもいいけれど、
その専門家にはこの手の本は書けないのではないだろうか。
実に広範な下調べと、サスペンスドラマかノンフィクションのベルのような筆致が
スリルと発見と驚きを次々に与えてくれる本なのだ。
特に原爆製造をめぐる連合軍とドイツ軍の駆け引き、そこに現れる人物の妙は
まさに「その時●●は動いた」という感じである。
この本は日本では書けないと思うのは、能力の問題ばかりではなく、
執筆環境の問題でもある。
ロンドン大学ユニヴァーシティカレッジの科学図書館や
セント・ジェイムズ・スクエアのロンドン図書館にような施設も文献も、
そして実際に、本書に出てくる歴史的な事象が起きた場所もない国で、
この本が書けるとは到底思えないのだから。(335pの謝辞参照)
下手な歴史書を読むよりも、20世紀前半の時代背景が分かり、
下手な物理学の教科書を読むよりも、物理学史と体系的な知識が学べる。
この本を読みながら往復した成田ー香港間は実に幸せなフライト時間だった。
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