それはそれは果てない旅、虫を探す男の物語
2014/11/30|Category:甲
メクラ、チビ、ゴミで既にあんまりなのに、ダメ押しで薄毛とは。しかし、かねてからどうしても出会いたかった生物。さる方のご好意により、対面が実現した。
古い時代、九州のとある海沿いにあった小さな洞窟で見つかり、新種記載された。しかし、その洞窟はやがて石灰岩採掘工事により木っ端微塵に破壊され、そこが唯一の生息地だったこの虫も、ともにこの世から消え去った。
かに思えたのだが、実際には元の産地からやや離れた別の場所にまだ生存していることが、かなり最近になって判明した。首の皮一枚で絶滅を免れていたのである。一度は隣界にロストしたものの、再び「現界」した精霊。環境省の絶滅危惧種(絶滅危惧ⅠB類、2012年度)に指定されている。生きた姿が撮影されるのは前代未聞の生物。
環境省の絶滅危惧ⅠBともなれば、同ランクに位置づけられた他のチョウやトンボの扱いを見ればさぞや厳重に保護されているかと思いきや、これが全然何もなされていない。それ以前に、そんなものがいること自体が一般に周知されていない。一応、環境省に加えて生息する県のレッドリストにも名前「だけ」は載っているが、おそらく地域住民の10人が10人、この虫の事を聞いてもまったく知らないだろう。
これがもしカブトムシくらいのサイズだったり、美しい声で鳴く虫だったら、今頃ウスケメクラチビゴミムシを守る会でも立ち上がっているに違いない。絶滅危惧のランクだけ見たら、こいつとかこいつと同等以上にちやほやされていいはずのもの。
そもそも自然の中に生かされている人間ごときが、「自然を守る」だの「生き物を守る」などと言うこと自体おこがましさの極みなので、レッドリストに載せられた生物種全てに対して平等に「守る会」を立ち上げるべきだなどとは思わない。しかしそれでも、リストの上では同等に並べられているはずの種の中で、たかだか人間の色眼鏡により「人間が綺麗と思うもの」「人間にとって心地よいもの」だけを選び出し、それらばかり大事にして「自然保護」とかのたまいつつ他は知ったことかという世間の様は、昔から解せなかったし気に入らなかったし、見ていて胃袋が逆さまになりそうな思いであった。
昔から夢があって、いつか絶滅寸前のムシの写真集を出したいと思っていた。それは、チョウとトンボと大型甲虫の類は一種たりとも載せてやらない。ひたすらしょうもない、蛾やらハエやらアリやらクモやらヤスデやら、「レッドリストに名前を載せられただけのムシ」「レッドリストにすら写真も図もなく、解説文一行しかないようなムシ」だけの生きた姿を載せる。ページをめくれどめくれど、延々とメクラチビゴミムシとかの写真ばかり出てくる、夢のような本である。世の中にチョウやトンボやカブトムシの本があれだけ出てるんだから、そういう本が一つや二つあってもいい。
どこに需要があるのか分からない代物だが、ここ最近になって、もしかしたらそれが実現できるかもしれない機運になってきた。まだ不確定要素が多いし、どういう形で完成するかも定まっていないのだが。
予想していたよりも、遙かにカッコよすぎてやばい。ほっそりした体型。ヒョウタン型にくびれて出る所出て引っ込む所ひっこんでる。目はそぎ落としたように無く、ムダを極限まで削った雰囲気。そして、体表から鋭く伸びた無数のアンテナ状の毛。地下生活にかなり特殊化している。しかし、これですらまだぜんぜん究極最強に特殊化した部類ではないというから驚きだ。
関係ないが、アニソン「Day to Story」(佐土原かおり)は、「絶滅」したメクラチビゴミムシを探しに行く前に聞くと、異常に士気が上がる。未知なる土地へ希少な地下性生物を探しに行く者が、誰しも抱く希望・不安・そして最後に手にする勝利の喜びを、驚愕するレベルで見事に全て歌い上げている。土木作業員は必聴。