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それはそれは果てない旅、虫を探す男の物語

1291.jpgウスケメクラチビゴミムシRakantrechus mirabilis

メクラ、チビ、ゴミで既にあんまりなのに、ダメ押しで薄毛とは。しかし、かねてからどうしても出会いたかった生物。さる方のご好意により、対面が実現した。

古い時代、九州のとある海沿いにあった小さな洞窟で見つかり、新種記載された。しかし、その洞窟はやがて石灰岩採掘工事により木っ端微塵に破壊され、そこが唯一の生息地だったこの虫も、ともにこの世から消え去った。
かに思えたのだが、実際には元の産地からやや離れた別の場所にまだ生存していることが、かなり最近になって判明した。首の皮一枚で絶滅を免れていたのである。一度は隣界にロストしたものの、再び「現界」した精霊。環境省の絶滅危惧種(絶滅危惧ⅠB類、2012年度)に指定されている。生きた姿が撮影されるのは前代未聞の生物。

環境省の絶滅危惧ⅠBともなれば、同ランクに位置づけられた他のチョウやトンボの扱いを見ればさぞや厳重に保護されているかと思いきや、これが全然何もなされていない。それ以前に、そんなものがいること自体が一般に周知されていない。一応、環境省に加えて生息する県のレッドリストにも名前「だけ」は載っているが、おそらく地域住民の10人が10人、この虫の事を聞いてもまったく知らないだろう。
これがもしカブトムシくらいのサイズだったり、美しい声で鳴く虫だったら、今頃ウスケメクラチビゴミムシを守る会でも立ち上がっているに違いない。絶滅危惧のランクだけ見たら、こいつとかこいつと同等以上にちやほやされていいはずのもの。

そもそも自然の中に生かされている人間ごときが、「自然を守る」だの「生き物を守る」などと言うこと自体おこがましさの極みなので、レッドリストに載せられた生物種全てに対して平等に「守る会」を立ち上げるべきだなどとは思わない。しかしそれでも、リストの上では同等に並べられているはずの種の中で、たかだか人間の色眼鏡により「人間が綺麗と思うもの」「人間にとって心地よいもの」だけを選び出し、それらばかり大事にして「自然保護」とかのたまいつつ他は知ったことかという世間の様は、昔から解せなかったし気に入らなかったし、見ていて胃袋が逆さまになりそうな思いであった。

昔から夢があって、いつか絶滅寸前のムシの写真集を出したいと思っていた。それは、チョウとトンボと大型甲虫の類は一種たりとも載せてやらない。ひたすらしょうもない、蛾やらハエやらアリやらクモやらヤスデやら、「レッドリストに名前を載せられただけのムシ」「レッドリストにすら写真も図もなく、解説文一行しかないようなムシ」だけの生きた姿を載せる。ページをめくれどめくれど、延々とメクラチビゴミムシとかの写真ばかり出てくる、夢のような本である。世の中にチョウやトンボやカブトムシの本があれだけ出てるんだから、そういう本が一つや二つあってもいい。
どこに需要があるのか分からない代物だが、ここ最近になって、もしかしたらそれが実現できるかもしれない機運になってきた。まだ不確定要素が多いし、どういう形で完成するかも定まっていないのだが。

1292.jpg予想していたよりも、遙かにカッコよすぎてやばい。ほっそりした体型。ヒョウタン型にくびれて出る所出て引っ込む所ひっこんでる。目はそぎ落としたように無く、ムダを極限まで削った雰囲気。そして、体表から鋭く伸びた無数のアンテナ状の毛。地下生活にかなり特殊化している。しかし、これですらまだぜんぜん究極最強に特殊化した部類ではないというから驚きだ。



関係ないが、アニソン「Day to Story」(佐土原かおり)は、「絶滅」したメクラチビゴミムシを探しに行く前に聞くと、異常に士気が上がる。未知なる土地へ希少な地下性生物を探しに行く者が、誰しも抱く希望・不安・そして最後に手にする勝利の喜びを、驚愕するレベルで見事に全て歌い上げている。土木作業員は必聴。

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狙いを外し、地面を捕まえてしまったメダマグモ。生き物なので、たまには失敗する。自身の直下に獲物が来ていなくても、射程まで来たとクモ自身が判断すれば、多少無理して身を乗り出し、捕獲を試みる。そうやってスカした。

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網が壊れたから新しく作り直すと思いきや、地面に張り付いた網を器用に剥がし、また元の通りに持ち直して待ち伏せを再開した。二度三度グワッと脚を開いて網を広げ、予行演習して再利用に障らないことを確認する。この網を作るのは時間も労力もものすごくかかるので、なるべく同じものを使いまわしたいのだろう。
このクモは網を作り終えると、何回か網を広げて予行演習する。その広げた瞬間を逆光で撮ったらどんなに美しいだろうと思っている。

タイでこのクモを見つけた時、わが目を疑った。メダマグモ科は世界中の熱帯から知られるが、多くがアフリカや中南米におり、アジアからはわずか。今までアジアのどこでもこれを見たことがなく、存在を疑っていた。数々の精霊を隠すタイのジャングル、奥が深い。

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メダマグモ。タイにて。

普通のクモは、枝の間などに網を張る。しかし、この夜行性のクモは驚くべきことに自身の脚先の間に網を張る。四角い網を前半分の四本脚で保持し、地面すれすれに下を向いてぶら下がって獲物を待つ。

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そして、目の前を獲物が通過すると、バサァッと投網のようにかぶせて捕まえる。捕まえた後は、空中に引き上げて糸で縛り、そのまま食う。投げ縄グモとともに、狩りの仕方が面白いクモとして、「どうぶつ奇想天外」みたいな番組で取り上げられる頻度が高い。
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狩りの仕方のすごさで霞んでしまいがちだが、このクモは顔がすごい。名の通り目が巨大。きわめて集光効率がよい目で、わずかな月明かり程度の光のもとでも獲物を見逃さない。ハエトリグモにも似た顔だが、目の配置は根本的に違う。メダマグモは、ハエトリグモの親戚ではない。

1263.jpg森の宿舎の便所で、なぜか便器にはまっていたネズミ。クマネズミの子らしい。タイにて。

この後救助した。しかし、海外においてネズミはペスト、レプトスピラ、赤痢その他危険な伝染病の媒介動物であることを考えると、日本にいる感覚で安易に野生動物を助けるべきではなかったかもしれない。
森で都会の安い正義を振りかざすと、たいてい恩を仇で返される。「ガンバの冒険」のカラス岳の話を思い出した。

「もはや、のがれることはできんぞ。」by

1015.jpgクラヤミスズメバチVespa binghami。精霊で、珍種。

彼女はヤミスズメバチと違い、日本にもいる一般的なスズメバチの一族にあって、完全な夜行性種と言われている。ロシアからアジア中央部にかけて広く分布するが、何せ闇にまぎれて行動するうえ個体数がきわめて少ないため、遭遇は難しい。海外の専門サイトにもだいたいvery rareとか書いてある。ただし、地域によっては必ずしもその限りではないらしい。

この精霊は、夜の8時過ぎにジャングルの樹幹をかじって樹液をなめていた。夜行性らしく、スズメバチにしては目が大きくてかわいい。サイズは日本のヒメスズメくらいあり、大型。生態写真の少ないこのハチが、野生でふるまっているさまを写真に写した意味は、それなりにある。

なお、気付いている人も多いと思うが、これがいる場所と昨日のヤミスズメがいる場所は同じ。さきにクラヤミスズメが来てかじった場所に、翌晩ヤミスズメが来た。だから、時系列的にはあべこべ。

タイにて。

1016.jpgヤミスズメバチProvespa sp.。タイにて。

ヤミスズメバチ属はアジア熱帯に3種が知られ、いずれも夜行性。夜間灯火をたくと、すぐに誘引されてたくさん集まってくる。そのため姿を見ること自体は容易だが、それ以外の手段で野外で生きた姿を見る機会がなかなかない。

ヤミスズメバチとかProvespaで画像検索すると、出てくる画像のうちかなりのものが、灯火に飛来して白い布や壁にとまった姿の写真。俺自身、今まで何度も東南アジアへ出向いてヤミスズメバチを見てきたが、すべてそういう個体ばかりだった。
今回、夜間ジャングルの立木の幹上で、樹皮をかじって樹液をなめる姿を見ることができた。たったそれしきのことだが、生まれて初めて目にした本来のままのヤミスズメバチだ。

ヤミスズメバチはいずれも小型種で、日本のアシナガバチとほとんど変わらないサイズに見える。しかし、仮にもスズメバチなので、刺されれば相応のダメージを受ける。特に、ヘッドライトを付けて行動する場合、顔めがけて飛んでくることが多く、しばしば危険である。

1264.jpg堅パン。この西の土地に移り住んだら、豚骨ラーメンよりもチャンポンよりも食いたいと切望していた餌。

北九州の名物で、一見普通の乾パンみたいなものだが、その人畜無害そうな外見からは想像も出来ないほど凶悪な堅さを誇る。加工次第では凶器に転用できるんじゃないかと思うほどの、尋常ではない堅さ。知らずにいきなり齧り付いて歯を粉砕した者は数知れぬと言われる、ハイパー瓦せんべい。「気をつけて食え」と、注意書きが書いてあるほど。

かの山奥の辺境に住んでいた頃から、九州固有のこの物体をどうしても囓りたいと望んでいた。ごく最近、すぐ近所のスーパーに売っていることが発覚して、以後常に買い漁っている。一袋に5枚入り。
たかだか名刺入れサイズおよび厚さだが、あまりの堅さに一枚完食するだけで30分かかる。山へ籠もった時、食費を浮かせたい時、腹が立って誰かに八つ当たりしたい時、これにひたすらガジガジ噛みついていると、安らぎを得られる。味はまろやかな甘さがあってよい。

近所のスーパーには普通のやつと胚芽入りのやつの2種しか生息していないのだが、どうやら姉妹品でココア・イチゴなどの亜種が確認されているらしい。それをどうしても入手したい。

1283.jpgナガサキアゲハPapilio memnon。福岡にて。

基本的に駄蝶だが、意外に落ち着いて撮影できる場所がない。とある離れ小島に行ったとき、ヒガンバナがやたら植えてある場所があって、そこにうじゃうじゃいた。普通種とはいえ、メスは物凄く美しい。南国の女王といって差し支えない。

ナガサキのメスは、日本では南に行くほど翅の地色がなぜか白っぽくなる。最強に真っ白いのは西表産だが、不思議なことに沖縄本島までは鬼のように多産するこの蝶は、八重山に行くととても少なくなり、西表ではほとんどいなくなる。これまで西表でこの蝶が見つかった例は、ほんの数例しか知られていない。本土では取り立てて見向きもされないナガサキも、西表のものは多くの蝶マニアが恋いこがれる。

1251.jpgタイワンウチワヤンマIctinogomphus pertinax。福岡にて。

オニヤンマよりずっと小さいのに、オニヤンマよりずっと強靱な体格に見える。必ず枝先に体を水平にし、中脚と後脚だけで枝を掴んで止まる。
性格はすさまじく凶暴で、自分の体格にそぐわぬ大柄の飛翔生物を空中で捕らえる。他のトンボはもちろん、スズメバチさえ捕らえて、頭からバリバリ食い散らかす。

シャッターを切る瞬間、こちらをギロリと睨んで消えた。しばらく待つと、上空から何か他の生物の破片をバラバラ落としながら急降下してきて、またもとの枝に止まった。

1249.jpgナガコガネグモArgiope bruennichiの卵嚢。熊本にて。

不思議な洋梨型の卵嚢。晩秋にメスのクモが作り上げる芸術作品。外側はセメントのようにカチカチに硬いが、内部にはワタのように柔らかい糸のクッションが詰まっており、卵塊を包み込む。先に蓋に相当する上側を作り、その裏側に卵塊をぶら下げるように生み出してくっつけ、その周りを糸でくるんで包むうちにこういう形になる。
卵嚢の作成はメスのクモにとって著しく体力を消耗する一世一代の大仕事。完了すると、遅かれ早かれそのまま死ぬ。

ファーブルの住んでいたフランスにもこのクモは分布するため、かの有名な昆虫記にも登場している。しかしその内容を見ると、およそ事実とは異なるメチャクチャな話が書かれているのには驚かされる。
「ナガコガネグモの卵嚢は外皮が硬くて小グモは自力で外へ出られない。しかし、春になって気温が上がると卵嚢内部の空気が膨張することで卵嚢の蓋が破裂して吹っ飛び、小グモが外へ出られる」といった趣旨の話が書いてある。しかし今のところ、このクモの卵嚢が気温上昇に伴い破裂する事実は確認されていない。また、卵嚢の作り方に関しても、実際の手順とはほぼ真逆の内容が昆虫記には記載されている(洋梨を先に完成させてから、上からペースト状の卵塊を流し込んで蓋をするという趣旨)。本当に観察したのであれば、絶対に書けるはずのないことがしれっと書いてある。

他にも狩人蜂の項目で、芋虫を毒バリで刺すときの手順をごまかして書いていたりなど、昆虫記の中にはファーブルの見間違いなのか、あるいは話を盛ってわざとウソを書いているとしか思えない箇所がかなり多い。ファーブルは言うまでもなく類い希なる観察者ではあるのだが、その文章を読む際には十分に注意を要する。昆虫記はあくまで文学作品であり、昆虫を知らない人(特に大人)が昆虫を知る教科書として読むべき本ではないかもしれない。
幼い頃、あれだけ克明に虫の研究をしたファーブルがなぜ世間で「学者、科学者」として扱われていないのか、なぜ学校の理科の資料集に名前が出ていないのか、不思議に思っていた。その理由が、それであった。

1248.jpgアリノタカラEumyrmococcus smithiをくわえるミツバアリAcropyga sauteriの新女王。熊本にて。

文献上では本州以南の分布になっているが、南西諸島以外でこのアリを見つけるのは、アンチョコなしに神岸あかりを攻略する以上に不可能に近い。本土で見たという人間を、身近でほぼ聞かない。
雨上がりの秋の終わりの曇天日に、道脇ですごい蚊柱みたいなのが立ち上がっており、よく見たらコレの結婚飛行だった。こんな時期にやるのか。こんな日に限って、大してムシなんかいないと思ってカメラを持ってきていない。本当はコレの交尾を撮りたかったのだが叶わず、脱翅した女王を家まで連れて帰った。

ミツバアリは、カイガラムシの一種アリノタカラと絶対的共生関係を築いている。結婚飛行時、翅の生えた新女王は出身巣から必ず一匹のアリノタカラを口にくわえてから飛び立つ。まるで、先祖代々秘伝のぬか床を抱えて嫁ぎに行く花嫁のごとく。
交尾を終えて地上に降りた女王は、すみやかに敵の目を避けて地面の隙間などに潜り込む。そこでさらに地中を掘り進んで営巣し、コロニーを構築していくものと思われる。アリノタカラは単為生殖で、一匹だけでどんどん増える。

アリノタカラは他種のアリではだめで、絶対にミツバアリの世話を受けなければ死ぬ。ミツバアリも、餌源を100%アリノタカラの出す甘露に依存すると言われているため、アリノタカラを紛失することは新女王にとってそのまま死に直結する。
だから新女王は、外へ飛び出してから交尾を終えて地面の隙間に潜り込むまでの間、文字通り死んでもアリノタカラを放さない。アルコール標本にされても、アリノタカラをくわえたまま事切れる。

今更ながら、東海大学出版会「アリの巣の生きもの図鑑」には、ミツバアリのほか同属のイツツバアリ、ヒラセヨツバアリなど、これまで撮影されたことがほとんどないアリおよびそれと絶対共生するシズクアリノタカラ、キノムラアリノタカラの姿を堪能できます。堪能しましょう。

蒼い蒼い時が溶け出す

1247.jpgルリクチブトカメムシZicrona caerulea。熊本にて。

平地の草原や畑など明るい環境に生息し、甲虫のハムシ類を好んで捕殺する獰猛な生き物。

1246.jpg息をのむほどの美しさ。なぜ今頃ネットで大騒ぎになっていないのかがわからないほどの美麗な虫。相当な小型種なのが惜しいが、それゆえにこの虫は、いろんな意味で平穏に生きていられる。
しかしメタリック類の例に漏れず、写真にするとぜんぜん自然な色が出ない。かなり努力したほうだが、これでも肉眼で見たのと全く同じ色ではない。

さほど珍しい虫とはみなされていないものの、決して普通種でもない。かく言う俺も、この個体が人生2,3匹目。

1257.jpgたぶんシロスジムカシハナバチヤドリDoeringiella ventralis。福岡にて。

この仲間は秋に出現し、ムカシハナバチ類など単独営巣性ハナバチの巣に寄生する。基本的に多くないが、ここでは多かった。この場所には同時に、やたらアシブトムカシハナバチColletes patellatusが多かった。

1250.jpgホソクビキマワリ一種Stenophanes sp.。福岡にて。

ヒサゴゴミムシダマシ系と思ったが、それにしてはあまりに低標高の分布域なので不思議に思っていた。夜間、多数の個体が樹幹や倒木上をうろついている。ネットで調べると比較的珍種との評が下されている仲間らしいが、いつもの裏山にはクソほどいる。ただし、この仲間は酷似した数種がおり、専門家以外は同定不可のようである。
夜の森はゴミムシダマシの天下。あらゆる環境に、あらゆる種類が見られる。そしてその傾向は、より南方地域で顕著。

アラメゴミムシダマシDerosphaerus foveolatusという虫がいて、大昔に九州でたった2度きり採れて以後誰も見ていない。探しに行きたいが、一方であまりにも見つからなさすぎるので、たまたま何かに紛れて外国から入っただけの虫ではないかと見る向きもある。

1261.jpgランブータンの実。タイにて。

東南アジアでは果物屋に普通に売っている、ライチの親戚。昔はさほど美味いものと思わなかったが、今は好物。僻地の宿舎に泊まっているとき、一番嬉しい差し入れ。

1260.jpg食べようと一個手に取ったら、果皮にカイガラムシが付いていた。ランブータンには、カイガラムシが非常に高頻度で付いている。こういうのがいるせいで、海外の生の果物は日本へ持ち帰れない。

1262.jpgドジョウの類。タイにて。

極めて敏感で臆病。音速で移動し、日中は姿すら見ることができない。しかし日没後は一転して異常に鈍くなり、頭を撫でられるほど。

1040.jpgオオモモブトハムシSagra sp.。タイにて。

大型かつ美麗な甲虫で、マメ科植物の上で見かけることが多い。メタリックな色は、写真にすると再現しがたい。青っぽい色が出ているがこれはストロボのせいで、自然光下では出ない不自然な発色である。薄暗い夕方だったので、ストロボを使わざるを得なかった。
この派手な甲虫の仲間が、驚いたことに日本にいる。近年、どこかのマニアが勝手に国内に持ち込んで放ったものが、ある地域で定着・繁殖してしまい、問題になっているのである。農作物の害虫になることが懸念されており、駆除も行われているようだが、それも追いつかないほどに増えてしまっているらしい。

屋上へ行こうぜ

1072.jpgトゲオオハリアリ一種Diacamma sp.。タイにて。

2cm弱ある巨大なアリ。この属のアリはたいていその半分程度のサイズしかない。毒針を持つので、怒らせると痛い目を見る。しかし、これの巣の中にはいろいろと宝が隠されているので、喧嘩を売る価値は十分にある。

飛竜

1075.jpgフライングスネーク。おそらくゴールデントビヘビChrysopelea ornataの幼蛇。タイにて。

トビヘビ類は熱帯アジアのジャングルの高木樹冠に住む、とてもエレガントな蛇の一族。名前のとおり、枝から枝へと滑空する蛇として世界的に有名である。枝先まで行くと、一度体を曲げてバネを利かせ、一気に体を伸ばしてジャンプする。そのとき、左右の肋骨を目いっぱい広げて扁平な姿になり、空気抵抗を少しでも増やして滞空時間を稼ぐ。
熱帯の樹冠は高いため、隣の木に移る場合一度地面に降りてもう一度登りなおすのは疲れる。地上で敵にも襲われる。だから、降りずに飛び移ったほうがはるかに楽である。その結果、熱帯のジャングルでは蛇どころか蛙も蜥蜴も守宮も飛ぶようになった。もっとも、蜥蜴を除けばほとんど飛ぶというより「斜め下方向に飛び降りる」が正しい。今いる枝よりも高い位置に飛び移ることは、基本的にできない。

トビヘビといっても、どの種も滑空できるわけでなく、本種は残念ながらできない種らしい。当時それを知らず、掴み取って芝生で真上にぶん投げたが普通に真下に落ちたので、不思議に思っていた。申し訳ない。しかし、滑空できずともジャンプはする。そして行動は矢のように俊敏。

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眼球が正面を向いて付いているので、ある程度立体視ができる。飛び移る目的地を見定めるには、視力がよくなければ話にならない。
飛竜たちは天空の楽園から容易に下界に降りてこないため、地べたを這いずる人間風情がそう簡単に出会っていい生き物ではない。毎年ジャングルへ行く生活をかれこれ何年も続けているが、これが今年になって人生初めて出会った個体。

1076.jpg目が大きくてかわいい。顔だけ見れば、魚か蛙とほぼ変わらない。世界の蛇が全部この顔なら、もう少しは人気も出ただろう。

トビヘビ類は、すべて弱毒。獲物である蜥蜴類を短時間で眠らせることはできても、人間に対しては特に危害はないとされている。しかし、蛇を語るときにしばしば出てくるこの「弱毒」というワードは、実にいやらしい。
ナミヘビ科は基本的に無毒の種で構成されているが、その中でも一定数の有毒種が存在する。そのほとんどは対人毒性の低い弱毒種とされる。だが、すでにいくつかの「弱毒種」において、その限りでないことが判明している(鳥羽 2001)。すなわち、毒牙の構造上の問題で、たまたま致死量の毒を人間に注入できないだけで、毒成分自体は相当強いらしい。弱毒とされる熱帯のマングローブヘビに咬まれて、しばしば重篤な症状に陥るケースがあるというのは、そういうことも一因であろう。もちろん個人の体質にもよる。

日本のヤマカガシはかつては無毒と考えられ、図鑑にすらそう書いてあった。しかし、それは奇跡的に近代までこの国で本種に執拗に咬まれた人間がいなくて分からなかっただけで、実際には猛毒蛇だった。八重山のサキシマハブも本島のホンハブよりは弱毒とされるが、それでも咬まれれば場合により腕や足の一本は失う可能性がある。「弱毒」という言葉に踊らされないように注意したい。今回こいつと遊ぶときにも、軍手と長袖を装着して、万が一でも毒牙を受けないようにした。

参考文献:
鳥羽通久(2001)弱毒のヘビの危険性について。Scale 11: 78-82.

カニベース

1043.jpgヒゲブトサシガメ一種Carcinocoris sp.。タイにて。

全身トゲだらけの奇怪な虫だが、もっと奇怪なのは前脚。ハサミになっている。生き物の進化は、本当になんでもありだ。

1044.jpgこの仲間は前脚がカマになった種もいて、北米にはかなり普通にいるらしい。画像検索すると、北米の種の写真はいくらでも出てくる。しかし、東南アジアに住むこのハサミの奴は、かなりの珍種らしい。画像どころか、生態情報もろくずっぽ引っかかってこない。生態が分からないから、探しようがない虫だった。
今まで東南アジア各地で、ひそかにこのハサミ野郎を探していたのだが、タイ北部の山でようやく初めて見つけた。局所的に多産するらしく、周囲に何匹もいた。そしてその周辺より外では、まったく見なかった。

1045.jpgこのハサミを武器に、草上の弱小昆虫を捕食するものと思われる。同サイズの虫の間では、おそらく相当に強力な捕食者として振舞っているだろう。
しかし、そんな獰猛な極悪超人も、環境破壊とジャンケンには圧倒的に弱い。

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1019.jpgニジュウシトリバの類。小型だがとても細密に作られた美しい生き物。ほぼ翅脈しかない翅には、鳥の羽のように毛が生えている。一枚の翅には脈が6分岐しているため、6×4=24で、二十四鳥羽。

タイにて。

1254.jpgヨコバイを捕らえた瞬間のヨコバイバチ。長野にて。

この仲間は標本がなければ種まで同定できないのだが、おそらくシワヨコバイバチPsen exaratusだと思っている。草原を低空で飛び回り、ヨモギなどに付くヨコバイを狩る。巣は日陰の朽木を穿って作り、そこへヨコバイを数匹溜め込む。
狩りの仕方はギングチとほぼ同じ。茎についた獲物を見つけるとしばらくホバリングして狙いを定め、一気に突撃する。攻撃が成功すると、たいていそのまま獲物とともに落下してしまい、下草にまぎれてしまう。もしくは、すぐさま獲物を抱えて空中に飛び上がり、空中で毒針を刺すため、麻酔行動を撮影するのが筆舌に尽くしがたいほど至難を極める。

13年前、長野に移り住んだその年に、裏山ではじめてこのハチが狩り終えた獲物を運ぶ姿を見て以来、なんとかして麻酔する瞬間を撮ってやろうと散々努力してきた。しかし、このハチはとにかく野外では数が少なく、遭遇自体が困難である。被写体たるこのハチを、ひたすら歩いて草原の中から見つけ出すまでの段階で、すでに疲弊してしまう。くわえて、たかだか1cmしかないこの黒いハチを真夏の炎天下の中、草ぼうぼうで足場が悪い山の斜面の草原で、背後1mの距離を保ちつつ30分も40分も追い続けるのは容易なことではない。
この背後1mというのは、長年小型の狩人蜂を野外で追い続けた経験上はじき出された黄金比である。これより離れると、こちらがハチを見失ってしまう。これより近づくと、ハチが嫌がって姿を消してしまう。必ず相手からこの距離を保って歩かねばならない。しかし、気をつけるべきことはまだある。

フィールドでこういう動きの早い小さい飛ぶ虫を追うときには、標的そのものを見つめてはならない。一点のみ見つめ続けると、ふと視線から標的が大きく外れたときに簡単に見失うから。目に見えている視界そのものを全部うすぼんやりと見て、その中で動いている標的を常にその視界の内側に何となく入れ続けるようにして追うと、決して見失わない。
さらに、足場を踏み外したり障害物に足を引っ掛けてこけたら一巻の終わりなので、流れ行く視界の中でこれから足を踏み出して次に置く場所も的確に判断しながら歩かねばならない。一個でも失敗すると全てがだめになる複数の事柄を同時に処理する能力、さらにそれを標的が行動を起こすまで永遠に続ける根気がないと、草原にすむ小型の狩人蜂の麻酔行動は絶対に観察できない。

それほどの苦労を重ねて、ようやく撮影した一枚が上のやつ。偶然、獲物を捕まえた後下草に落ちたり、空中に飛び上がらなかった、非常に稀なシチュ。彼女との最初の出会いから、実に8年かかってようやく撮ることを許してくれたカット。

1255.jpg一番最初に出会った年に、当時持っていた200万画素のオモチャデジカメで撮影した彼女。まさかこれをデレさせるのに8年かかるとは、この時知るよしもなかった。このハチは獲物を運ぶ際、なぜか中脚だけでしか獲物を掴まない。

1252.jpgギングチバチ一種。ヒラタアブを毒バリで仕留めた瞬間。長野にて。

小型アナバチ類の中で、ギングチは比較的野外で麻酔行動を観察しやすい部類に入る。決まった場所で獲物の待ち伏せをするので、その場所さえ見つけて辛抱強く待てばそのうち見られる。問題はその「決まった場所」を広大なフィールドの中から探し出さねばならないことだが。

低空を時々飛びながら、近くの葉に止まり、大きな目で辺りをキョロキョロ見渡す。目の前にハエやアブが来ると、パッと飛び立って数十㎝後ろからホバリングしつつ観察し、ある瞬間一気に突撃する。失敗する確率は高い。ピンセットでその辺のハエをつまんで、葉上にいるハチに見せると、直接ハチに渡すことが出来る。
ハチは渡した瞬間毒バリで獲物を刺す。麻酔行動はほんの5秒くらいで終わるので、その間に手近な葉上にハチを置いて撮影せねばならない。置き方が雑だとハチは嫌がって獲物を捨て、飛び去ってしまう。

ギングチは多くの種がいるが、種によっては飛びながら獲物を探し回る。長野でかつて見た、体長13mm程で腰の付け根がほっそりしてて、腰の付け根近くに一対の小さい紋があるほかは全身黒い種の狩りはすごかった。草原でフラフラ飛んでいるのを後ろから30分くらいずっとつけ回してたら、突然ピタッと空中で止まった。その前方30㎝ほどの葉上にハエがいて、それを狙っているのだが、その時にハチの取った行動はにわかには信じがたいものだった。

ハエの方向にずっと頭を向けたまま、後ずさりして飛び始めたのだ。ハチが前を向きながら真後ろに向かって飛べることを初めて知った。しかも、どんどんハエから距離を離し、最終的に1m位まで離れてしまった。一体これからどうするのかと思ったその刹那、一気にハチは高速でまっすぐ一直線に、前方へ飛び出した。まるで透明のバネの片方にハエ、片方にハチが取り付けられていて、ハチが付いている側をギリギリまで引っ張って伸ばし、急に手を放したかのようだった。ハッとした時には、既に1m先の葉上でハエがハチに捕まっていた。麻酔行動はすぐ終わり、あっという間にハチはハエを抱えて飛び去ってしまった。

あの飛び方の異様さもさることながら、たかだか1cmぽっちのハチに、1m先の葉上にいる小さなハエがちゃんと見えていることも驚きだった。とんでもなく視力がいいハチらしい。葉上に止まっているギングチの2m先で人間が軽く手を振ると、ハチがこちらの方向に向き直るのが分かる。

1253.jpgサルハムシを狩るヒメツチスガリCerceris carinalis。長野にて。

昔コンデジで撮ったやつ。本当は一眼で撮り直したいのだが、撮り直そうと思って出来るシーンではないので、恐らく相当年数がかかる。
昔から、狩人蜂が獲物を捕らえて毒バリで仕留める瞬間を写真に納めるのが趣味なのだが、しかしそれは非常に困難を極める。狩人蜂はとにかく人間を嫌がり、傍に人間が居ると本来の自然なままの行動を頑なにとろうとしないから。特に小型アナバチ類は筆舌に尽くしがたいほど観察が難しい。警戒心の強さに、行動の素早さとサイズの小ささが加わる。観察しやすい要素が何一つない。

さらに小型アナバチ類では、大型種で使える狩りのヤラセ(獲物を仕留め終えて運搬している時に獲物をピンセットで動かし、まだ麻酔が効いてないと勘違いさせてもう一度獲物を刺させる)が原則通用しない。狩りの瞬間が見たければ、自分の足と眼で広大なフィールドを歩き回り、自然状態で偶然それをやっているところに出くわす以外にないのだ。
それだけに、何日も裏山へ足繁く通ってようやくその場面に遭遇し、あまつさえ撮影まで出来たときの嬉しさたるや、感無量だ。全てをかなぐり捨てて真にハチに全てを捧げた者だけに、森の女神が見せてくれる至宝以外の何だというのか。いくら画素数の荒い写真だったとて、俺はこの写真を見るだけであの日の暑い日差し、むせかえるような草いきれ、撮影中容赦なくゴム草履の足を刺すアブの痛みを、昨日のことのように思い出せる。

ヒメツチスガリはゾウムシを狩るとネットには書かれているが、この場所では13年間、草本に付く小型のサルハムシを狩る姿以外見ていない。

1188.jpgオンタケナガチビゴミムシTrechiama lewisi。高山アリの調査時に見つけた副産物。長野にて。

本州中部山岳地域に固有。いわゆる「メクラチビゴミムシ」の一種だが、バッチリ眼はある。地表浅くの石下に住み、ナガチビゴミムシ属ではもっとも地下生活に特化しなかった部類。
一般に産地での個体数は多い。採集にかかる労力も一番かからないため、メクラチビゴミムシ中かなり格下に見られがちの種らしいが、その割に生きた姿の写真が世の中にほとんど出回っていない。ちなみにこの個体を見つけ出すのは、本当のメクラチビゴミムシを見つけ出す以上に苦労した。

1187.jpg甲虫図鑑では森林限界上部にある沢の源頭で、石下に見られると書いてある。しかし、この時の調査ではそうした環境では一匹たりとも見ず、森林限界の相当下部にある鬱蒼とした森で見つけた。沢の脇にある、ぬかるみに足場として渡してあった板の下にいた。
名前と違い、ぜんぜんチビではない。予想外の体サイズの生物だったため、最初に見た時それと気づくのに時間がかかったほど。タイシャクナガチビゴミムシのサイズを見ていなければ、他種のゴミムシと勘違いしてスルーしていたに違いない。

1189.jpgこいつのおかげで、盲目種のメクラチビゴミムシが眼を失う前の姿をしのぶことができる。コレコレコレコレコレがこいつと同属だとか、言われなきゃ絶対に信じられない。

名前と違って長野県内の一定標高以上の山に、この虫は広く分布する。しかし、この虫の総本山たる御嶽山は、現在惨憺たる状況である。人的被害は計り知れないが、生き物達の行く末も心配である。

メイサ瞳

1190.jpgクロキクシケアリMyrmica kurokiiの有翅女王。長野にて。

タカネクロヤマアリFormica gagatoidesとともに本州中部山岳を代表する、高山アリの一種。森林限界周辺に分布中心を持ち、秋に結婚飛行を行う。ある目的があって観察しに行ったが、時期が悪かったようで当てが外れた。

クロキクシケアリという名は、長らく単に黒っぽいからそういう名が付いたのだと思っていたが、それは違った。この仲間の分類に詳しい人曰く、勇猛な気性により国内外で恐れられた日本の軍人・黒木為楨にちなんでいるらしい。

1184.jpgカエデクチナガオオアブラムシStomaphis aceris。ヒゲナガケアリLasius productusが護る。

イタヤカエデなど、いわゆる「モミジ」っぽくないカエデ類の樹幹根元に寄生し、常にアリをまとう。この仲間のアブラムシは、本当にいろんな樹種に取り付いている。本気で探せば、日本国内だけでもさらにいろんな樹種から見つかるのではなかろうか。

1183.jpg都内にて。

1186.jpgヨウザワメクラチビゴミムシTrechiama tamaensis。地下性昆虫。都内にて。

東京都西部から神奈川の一部にかけての山林一帯に分布し、この手の仲間としては例外的に分布域が広い。ちゃんと確認しなかったが、たしか僅か数個の個眼からなる痕跡的な複眼がある種のはず。地下数十cm以下の、大きめの石が堆積して大きめの隙間がある地層にいる。

この狭い日本には、300-400種近くにものぼるメクラチビゴミムシの仲間達が、原則異所的に生息している。すなわち、個々の種の生息範囲はとても狭いのが普通である(西日本でとくに顕著)ため、軽はずみに山一つ谷一つ開発で潰してしまえば、容易に種を一つこの世から消してしまいかねない。地下水脈に依存して生きているため、生息地そのものでなく周辺地域の開発で地下水脈が分断されても、一発で絶滅するおそれがある。
事実、そうしてこの世からすでに消えた、あるいは消えそうなメクラチビゴミムシの仲間が沢山いる。結果、何十種ものメクラチビゴミムシが、国や都道府県レベルのレッドリストに名を連ねる状況になっている。

しかし、メクラチビゴミムシは万人に愛される蝶やトンボではないから、いくら滅びそうになったところで一部の虫マニア以外誰も後世に残せなどとは騒がない。それに、この虫の仲間はしばしば鉱山業が盛んな石灰岩地帯に集中して何種も分布するため、人の生活としばしばかち合う。そういう仕事で生計を立てている人々は、こんな可愛げもなく何の役にも立たないゴミムシ如きのため、生活の糧たる山崩しをやめることなどできない。
だから、いくら国や地方の偉い人やらがレッドリストにその名前を載せたところで、これからもメクラチビゴミムシ達の生息地破壊は容赦なく続くし、今後さらに多くの種が滅ぶのはすでに決定事項であろう。目に見えている生き物の保護保全さえ場合によってはうまくいってないのに、目に見えない生き物ならばなおさら。そして気が付いたら一種、また一種といなくなっているに決まっているのだ。

1185.jpgメクラチビゴミムシは、本当はアメ細工のように繊細で美しい姿の生物だが、その生きた姿を美しく撮影する人間が日本にはとても少ない(そもそも生きた姿を撮影する目的で、この仲間を探す人間が少ない)。せめて滅びる前に、なるべく多くの種の生きた姿を「より美しく」記録として残しておきたいと思う。

1192.jpgキンボシハネカクシOcypus weisei。予想外の収穫。

水田脇の道路を歩いているのを偶然見つけた。動く姿は、大きさといい色彩といい体型といい、似たような環境に住むミイデラゴミムシPheropsophus jessoensisそっくり。写真は撮影のために警戒させて足止めしている状態だが、通常歩くときには長い腹部の先端を下にかがめているので、背面から見た姿がことさらゴミムシじみて見える。
なお、やはり似たような環境に住むキイロサシガメSirthenea flavipes というのも、ミイデラゴミムシに酷似する。絶対、こいつらは擬態関係にあるとしか思えない。

1193.jpgキンボシハネカクシは、日本産ハネカクシの中では大形かつ顕著な美麗種である。国内での分布も広く、少なくともかつては普通種と見なされていたようで、ハネカクシ類を扱った日本の昆虫図鑑にはまず必ず載っている。
しかし、俺はこの30年あまりの間、日本全国のどこでもこの虫を普通に見たことなどない。幼い頃たった一度だけ、これらしき虫を庭で見たような曖昧な記憶がある程度。下手をすれば、これが人生初めて出会った個体かもしれない。
どうも平地の、あまり乾燥しすぎないそこそこな広さの草地が本来の生息環境らしい。そしてそんな環境は今の日本にはほとんど残されていないため、この虫は今の日本では明らかに絶滅危惧種である。事実、いくつかの都道府県ではすでにこの珍虫を希少種に定めている。

1194.jpgこの虫を見ていて、面白いことに気付いた。顔面全体に光沢のあるビロード状の毛が覆っているのだが、それの光の絶妙な反射具合により、正中線を境に顔の右半分と左半分とで色が違って見えるのだ。

1195.jpg
この阿修羅男爵顔は、斜め横方向から見たときだけ発動する。正面から見ると、別に普通。

埼玉にて。

1196.jpg埼玉にかつて住んでいた頃、しばしば通った田園。

先日用事があって上京した際に、ふと様子を見に足を伸ばして行った。高校生の時に行ったのが最後だったので、実に10数年ぶり。
あれ以来相当な年月を経ているのでそれなりに覚悟はしていたが、予想を上回るひどい変わり様だった。当時は水田脇の用水路は浅い土造りだったのだが、すべて深いコンクリ三面張りになっていた。しかも、当時はいなかったアメリカザリガニまで入っていた。誰かが養ってるんじゃないかと思うほど丸々と太ったザリガニが、用水路を何匹も闊歩していた。

この用水路には、当時おびただしい数のある種の両生類が生息していたのだが、一匹たりとも見つからなかった。環境がだめになったせいなのか、時期的に遅かっただけなのかは分からない。とにかく、完全に当てが外れた。本当は、この種の両生類を糧とするらしい「かの精霊」を探す目論見があったのだが、そもそも秋にあの精霊を探そうとすること自体が失敗だったかも知れない。
姿を見ることすら困難と言われていた「かの精霊」だが、最近になって成体があちこちで採れ始めているようなので、早くヤツの精霊の力を封印してしまわないと、他の人間に先を越されかねない。来年の初夏あたりが山場だろう。