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I'm curious

565.jpgアシナガキアリAnoplolepis gracilipes。インドネシアにて。

宿泊したホテルの壁に常時行列を組んでたくさん歩いていた。夜間灯りに飛んできた他種の翅アリを襲ったり、ヤモリの糞を拾うためである。
アシナガキアリは侵略的外来種として知られており、昨今世間ではただ害虫としてしか見なされていない雰囲気がある。しかし、海外でこいつ以上に、いかなる環境条件下でも気前よくアリヅカコオロギを採らせてくれるアリなど存在しない。

インドネシア滞在中に泊まった、このアリの沢山いたとあるホテルは、嬉しいことにケーブルテレビで日本のアニメが見放題だった。日本語の台詞に英語(あるいはインドネシア語)の字幕が出ており、多少は勉強になった。かなり新しいものも放送していた。



外来種として世界各地に広まったアシナガキアリだが、その原産国はいまだに特定されていない。気になります。

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ヤモリ同士の戦いは、体サイズのでかい方がいつも勝つ。しかし、サイズが同じ個体同士では、尻尾の欠けていない「完全な体の個体」が強いようだった。

578.jpg右端をサイバイマンα、左端をサイバイマンβ、間に挟まれた大きなのをカカロットと名付けた。

この灯り周辺には5-6匹のヤモリが常駐していたが、そのなかで一番図体の大きいカカロットが一番虫の来やすい光源に陣取っており、飛んでくる虫をほぼ独り占めした。サイズの小さい奴等は少し離れたところにいるが、そいつら同士で今度は争いを始め、より弱く小さい個体がより光源から遠い場所へ追いやられていた。
この灯り界隈で一番強いカカロットに対して、逆に一番弱いのは尻尾の短いサイバイマンαだった。サイバイマンαは過去に事故で尾を失っており、短い再生尾を生やした個体だ。サイバイマンαは、もし尾が完全であれば周囲の他の弱い個体と同等サイズのはずだが、どの個体と対峙したときでもすぐ逃げ出した。外見が小さく見えるのも、仲間同士の闘いにおいてはマイナス要因である。
サイバイマンβはサイバイマンαよりは上位戦士で、より光源に近い場所に定位していた。上の状況では、偶然カカロットの死角にいるため追い払われていない。だが、この後まもなくカカロットに見つかって叩き出された。

一見、強い者を頂点とするカーストが出来上がっているように見えたが、実際のところ弱い奴等はずっと大人しくしているわけでなく、隙あらば強者のテリトリーを侵しにいく。

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581.jpgサイバイマンαは、弱いなりにも度々カカロットの縄張りを侵犯しに行くが、その度にカカロットに追われた。サイバイマンαは、根はチキンなので、カカロットにちょっとすごまれただけで一目散に逃走した。ヤモリにも機嫌の良し悪しがあるのか、カカロットは侵犯者を光源からほんの十数cmだけ追撃してやめる時もあれば、「そこまでやらずともいいのに」と思うほどの勢いで、2-3mも追撃する時もあった。
こうしてカカロットが追撃のために縄張りを開けているときに、周囲の他の弱者が侵犯しに来る。カカロットの気が休まるときはない。

582.jpg元気玉をかかえるカカロット。このように、強い個体が光源を抱くように定位すると、弱い奴らは容易に仕掛けに行くことが出来ない。
見ていてだんだんサイバイマンαが不憫に思えてきたので、たまには花を持たせてやろうと思い立ち、棒でカカロットをつついて遠ざけてみた。すると、端っこでしょぼくれていたサイバイマンαが、すぐに光源にやってきた。

583.jpgつかの間のサイバイマンα王朝時代。しかし、数分後に戻ってきたカカロットによって、こてんぱんに伸された。


爬虫類は鳥獣に比べて下等生物と思われがちだが、実のところ彼らは想像以上に賢い。特に一箇所に複数個体が同居するトカゲ類では、それら個体同士でゆるいコミュニティーを形成し、個体間で力の順位関係が発生する。トカゲたちは、自分のコミュニティー内に属する他個体の状態をよく観察し、把握している。
尻尾が切れたりして体が欠損した個体は、周りの奴等から弱っちいグズの烙印を押され、縄張り争いから配偶者捜しに至るまで、日常生活のあらゆる側面で不利益を被る。また、尻尾がないと栄養を蓄えておくことが出来ないため、餌の欠乏で絶食せねばならない時に餓死しやすくなる。だから、「どうせまた生えてくるから」といって、イタズラ半分に野外のトカゲの尻尾は切ってはいけないのである。


※元ネタのサイバイマンはカカロットよりは弱いと思うが、自爆してヤムチャを一撃で爆死させたほどなので結構強いと思う。

576.jpgヤモリ一種。インドネシアにて。

尻尾の付け根の幅広さと後脚の太ももの皮がたるんだ感じからオンナダケヤモリGehyra mutilataのように思えるが、よく分からない。泊まったホテルの天井の灯りに、多くの個体が出てきていた。「キャッキャッキャッ・・」と、かわいい声で鳴く。
※ヒラオヤモリ Cosymbotus platyurus( or Hemidactylus platyurus)とのご指摘を頂きました。教えて下さった方、ありがとうございました。



ホテルは市街地のまっただ中にあるため、虫の種類が少ない。だから、夜間灯火にはヤモリの好物である中小の蛾類がほとんど来ない。ヤモリどもは、灯りにたまにくる腹の足しにもならなそうな2-3mmの羽虫を、血眼になって拾っていた。
虫の少なさの割に、なぜかヤモリの方は数が多かった。ただでさえ飛んでくる餌が少ないので、少しでも餌が採りやすい場所を巡って壮絶なヤモリ同士の喧嘩が繰り広げられていた。より大きな個体が常に勝利し、より小型の個体を灯りの周囲から激しく追い立てた。

577.jpg光源から追われた弱者同士のいがみ合い。ヤモリの闘いは、相手の首もとに直接かじりつく実力行使。この時「ギギギギ」と、ドアのきしむような声を発するが、咬んだほうと咬まれたほうのどちらの声かはわからない。すぐに勝負はつき、負けた方はすごすごと逃げ出す。実力行使は体サイズが拮抗した相手同士の場合のみ起き、体格差がある個体同士では例外なく小さい方があっさり逃げ出す。



ヤモリといえば、東南アジアの街のスーパーへいくと、殺虫剤売り場にゴキブリホイホイならぬヤモリホイホイがある。時には、ヤモリを殺す専用の「殺ヤモリ剤」まで売られていたように記憶している。家の守り神たるヤモリを殺すたぁ罰当たりも甚だしく思えるが、彼らは多量の糞を家中ところかまわず撒き散らす。飲食店などでは、ヤモリの存在を快く思わないのかも知れない。

563.jpgアメイロアリ一種Nylanderia sp.。日本の南西諸島にいるケブカアメイロアリN. amiaに似ている。インドネシアにて。

ホテルの部屋の便所の壁にひびが入っており、そこに巣くっていた。この手のアメイロアリは、熱帯アジアの市街地ではよく見かける。

564.jpgよほど高級なホテルでもないかぎり、向こうの宿泊施設は内と外の区別があいまいな作りなので、いろんな生き物が入ってくる。

562.jpg初めて調査で行った、インドネシア・ジャワ島の郊外。インドネシアは、他のアジア諸国では見られない不思議で珍しい生き物どもが潜む、魅力的な楽園。

しかしその反面、インドネシアはアジア諸国としては比較的危険な国の部類に入る。いつも行くマレー半島に比べて、都市部を中心に治安は格段に良くない。「住めば都」なのかもしれないが、右も左も分からないお登りの身としては、世紀末ドラドの街を歩くに等しかった。いつ強盗ひったくりの類に遭遇するかと、常時ビクビクしながら外を歩かねばならず、精神の休まるときがなかった。だから、街中でカメラを取り出すのがおっかなくて、街の写真は一枚たりとも撮っていない。
幸い、生命の危険にさらされることはなかったものの、初めてジャワ島の空港に到着したしょっぱなに、換金所で盛大にぼったくられる洗礼を受けた(ことに、後になって勘定して気付いた)。

ジャワ島での唯一の救いは、街に野犬がまったくいないこと。この島全体で犬を飼う習慣がないためである。これが隣のバリ島となると、野犬が大繁殖してもうとんでもない状況らしい。数年前から、狂犬病非常事態宣言が出されたまま現在に至っているほどだ。何だかんだ言って、やはり日本が一番いい。

849.jpgツブエンマ系の、超小型エンマムシ。1mm前後しかない。

暗い林内のじめじめした倒木を裏返すと見つかる。とにかく小さくて目立たず、よほど他に見るべきものがいない時でないと注目する気にもならない。すなわち、こいつを撮影した林にはろくなものがいなかったという証拠。

福岡にて。

白龍=パイロン

888.jpg洞窟性オビヤスデEpanerchodus sp.。蛍光灯で照らされた観光洞で唯一出会えた生物。

890.jpg純白の美しい、繊細な動物。まるで象牙でこしらえたネックレスのよう。洞窟内のわずかな有機物を餌に生きていると思われる。

889.jpg目は完全にない。

3時間くらい探して、ようやく一匹。この洞窟は奥行きがかなりあって、一般に公開されているのは入り口からほんの少しの範囲だけ。そこから先は、本格的なケービングの技術がなければ物理的に進めない。
一般に公開されている領域内は、完全に環境が死んでいるので、このヤスデもやがては人間の来ない奥の方へと引っ込んでしまうだろう。

青の洞窟

887.jpg九州のとある洞窟内。設置された蛍光灯の下で育つ植物。観光洞ではお約束の光景。

観光客誘致のために整備された洞窟には、たいてい天井に照明が取り付けられる。その直下では、光と熱を受けてコケやシダなどの植物が青々と茂る。特殊な種類の植物ではなく、地上の日陰などでよく見かけるシダコケと同じもの。本来、日光が絶対に照射しない地下の洞窟内ではありえない状況である。
これによって洞窟内の生物にいかなる影響が及ぶかは分からないが、自然下では起こらないイレギュラーな状況である以上、けっしてプラスの方向には働かないだろう。洞窟壁面を青く染める地上性植物の群落は、洞窟生態系における人為攪乱の典型だと思う。

なお、植物の有無はともかく、洞窟内の照明はあきらかに洞窟性生物の生息に悪影響を与える。今までいろんな場所の洞窟に行ったが、灯りで照らされた観光洞で生き物が豊富にいる場所を、一例とて見た試しがない。完全な闇に生きる洞窟性生物にとって、人工光はストレスになる上、照明の熱で洞内が徐々に乾燥していってしまうのだと思う。微少な洞窟性生物は、とにかく乾燥に弱い。洞窟性生物にとって洞窟の観光地化は、百害あって一利もない。

だから、洞窟というものを安易に観光の山車に使うのは、好きくない。本当に入りたい人間だけが、相応の装備を身につけた上で自己責任で入ればいいと思う。ヒトが洞窟に合わせるのであって、洞窟がヒトに合わせるのではない。

880.jpg抱卵するツチカニムシ。地下浅層を掘りくずしたとき、小さな部屋が出てきてその中にいた。

正確には、腹部腹面にある孵卵室と呼ばれる、袋状の器官に卵を産んで入れた状態。母体から卵へ栄養が供給されている。この内部で孵った子供は、数回脱皮してから外へ出てくる。この個体の場合、すでに子供が孵化している。

福岡にて。

星空に架かる橋

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886.jpgホタルイカの発光。人間に捕まり、威嚇のために発光する。ホタルイカ漁の見学船から見た。

884.jpgホタルイカを巡る、ヒトとウミネコの戦い。漁師はかっこいいと思った。


北陸にて。

881.jpgギフチョウLuehdorfia japonica

見た目が綺麗なうえ、全国各地で絶滅しそうだと言われているため、手厚く手厚く保護されがちな虫の筆頭。警戒心が強く、飛翔は素早い。世の中の写真家は、よくこんなのが飛んでいるさまを至近で撮影できると思う。


日本には、国・都道府県レベルの別なく、レッドリストに載せられている虫がたくさんいる。いずれも、数が減ったり最近の発見例が途絶えたりなどしており、多少とも絶滅の危険が差し迫っていると判断される種がリストアップされるのだが、それに載ったからと言ってそれらの虫が平等に保護されたり注目される訳ではない。
ハエやカや取るに足らなそうな羽虫の中にだって、ギフチョウやゲンジボタル以上に希少なものはいくらでもいるのだが、そうしたものどもは別段人々に顧みられることもなく、ただ「レッドリストに載せられたまま」一般に特に周知されることもなく、保護も何もされずに予後を過ごす。自然保護や動物愛護などというものは、結局は人間側の色眼鏡に過ぎないというのがよくわかる。

昆虫版レッドリストをよく見れば、ヨナグニウォレスブユだのハネダピソンだの、名前だけ聞いたのではどんな物体かも想像つかない、本当にその筋の専門家しか知らないようなマイナー種もリストアップされている。しかし、よほどそれらに顕著な特徴かつ保全上重要な意義が見出されない限り、大抵は保護対策どころか、実際にそれがそこに生息しているのか確かめようなどという試み自体が行われない。
ただでさえ発見困難なのに加え、本職の研究者には研究しても金がとれないので無視され、一般の虫マニアには集めても面白みがないので無視され、結局「レッドリストに載せられたまま」誰からも無視されて、生態の解明どころか現在の消息が全くつかめない虫は多い。ケカゲロウなど、まさにその典型だろう。
そういう虫に関する生態情報の蓄積は、結局のところごくまれに日本に出現する「どういう訳か限りある私費を投じてまでそんなつまらない虫を探し出す行為に、異様な快感を覚える奇人変人」の活躍によるほかない。

俺はそんな奇人変人の筆頭として、名乗りを上げたい。「凡人共が無視する目立たない命にまで気を配る俺tueee」という中二じみた自尊心を手堅く満たすのに最適であるし、究極的にはその虫の保護や保全に関して多かれ少なかれ役に立つ知見も得られるなら、一石二鳥である。
それに、いくらちっぽけな小虫の類であろうと、それがそこにしかいない珍しいものだというのなら、むざむざ知らない間に生息環境を破壊して滅ぼしてしまうのはもったいないことだと思う。生き物というのは、何か知らないが今そこに適当にいるわけではない。過去に起きた地理的・気候的なイベント、他の生き物との競争、様々な歴史が複合的に絡んだ結果、今そこに生息している。言わば、その土地の歴史を背負った「生ける古文書」と言っても過言ではない。

それが美麗なチョウだろうと小汚いハエだろうと、今その生き物が、その場所にいるべくしているという事実は、もっと大切にされてしかるべきである。しかし今の日本は、そこに住んでいることが既に分かっている天然記念物の魚の生息地さえ、当然のように潰してサッカー場を作ろうなどと意味不明なことを平然とやる、下衆な国に成り下がってしまった。黙っていれば、いるかどうかも分からない小虫の生息地なんて瞬く間に消滅してしまうだろう。

それまで存在の知られていなかった新種の虫を見つけることは意義深い。しかし、長年にわたり発見されていない虫が今もその場で生き続けていることを定期的・継続的に示し続けることも、同等に意義深いはずである。だから、これからは長年記録の途絶えた地味な虫を、一種類でも多く黄泉の国から現世に呼び戻すことを人生のライフワークとしたい。




882.jpgそういう訳で、所詮人間の色眼鏡でちやほやされている生き物はとても気にくわないので、日常的にギフチョウやゲンジボタルのことをディスるように心がけている。それでも生きた現物を目の前にしてしまえば、やっぱりその美しさに見とれてしまう。

北陸にて。

883.jpgヤスマツケシタマムシAphanisticus yasumatsui。日陰のカンスゲの葉に付く、微少なタマムシ。形と色合いが絶妙で、わずか4mmぽっちしかないのが悔やまれる。

北陸にて。

石田石蹴り逃げたなら

764ミカワホラヒメグモNesticus mikawanus。世界でも日本の東海地方に点在するいくつかの洞窟にしか生息しない、洞窟性クモ類。

786.jpgこの仲間としては比較的大型種で、とてもカッコイイ。ホラヒメグモ科のクモは日本国内だけでもすさまじく種分化しているが、本種は形態的に見て近縁とおぼしき種類が他に全くおらず、分類上きわめて特異とされる。

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生息地を含む愛知県では、本種を県の希少野生動物に指定している。勝手に捕まえられないので注意。

850.jpgコアカザトウムシProscotolemon sauteri。静岡にて。

暖地の森の石下にいて、ゆっくり歩く。昔のチューハイのCMに出てきたタコのキャラクターに似ている。

796.jpgスズキダニザトウムシSuzukielus sauteri。ダニそっくりの小型ザトウムシ。

日本だけに住み、なぜか伊豆半島を中心として関東西部に局所的に分布する。スポット的に多産し、いない場所には絶対いない。
年間を通じて乾燥しすぎない、鬱蒼とした森林がないと生息しづらいようである。一方で、都内でも人の居住区域内で思いのほか簡単に見られる場所がある。

静岡にて。

論文を一本通した。裏山に住む幻の蜉蝣、ケカゲロウを卵から成虫まで育て上げることに成功した。先日、オープンになった論文。
Komatsu T (2014) Larvae of the Japanese termitophilous predator Isoscelipteron okamotonis (Neuroptera, Berothidae) use their mandibles and silk web to prey on termites. Insectes Sociaux 61:203-205

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脈翅目昆虫であるケカゲロウIsoscelipteron okamotonisはケカゲロウ科Berothidae唯一の邦産種で、これまで成虫が夏に灯火にたまに来る以外の生態が何一つ分かっていない謎の羽虫だった。ところが、一昨年の夜に偶然裏山でこの謎の羽虫が樹幹で産卵しているのを見た。それをきっかけに、これの幼虫期を解明してやろうと思い立ち、数々の失敗を繰り返しながらも昨年ようやく成功したのだった。

ケカゲロウ科は世界中に広く分布するが、世界中どこの種も夜行性でとにかく採集が容易でなく、生態的な研究は遅々として進んでいない。ことに幼虫期の生態は未知で、生態どころか幼虫そのものの発見例が世界的に稀である。これまで唯一、北米のLomamyia属の2,3種で卵から成虫まで飼育された例があるのみ。
それによると、幼虫はヤマトシロアリ属Reticulitermesの巣で暮らし、シロアリに特殊な毒ガスを浴びせて眠らせ捕食するという、人知を越えた捕食戦略を持つという(Tauber and Tauber 1968など)。もしかしたら、その人知を越えたさまを観察できるかも知れないとの憶測を胸に、俺は日本のケカゲロウの幼虫飼育を試みたのである。海外の似た種がシロアリで育つなら、日本の奴だってシロアリで育つはずだ。

日本でこの虫の幼虫を野外で見つけて採ってくるのは、先例がないので事実上不可能である。だから、メスの成虫を採ってきて採卵し、幼虫を孵すのが確実なのだが、そのメス成虫を野外で採ってくるのがまた筆舌に尽くしがたい程に難しい(元々個体数が少ない上、夜行性なのに灯火にほとんど来ず、灯火採集が通用しない)。
だが、俺は独自に開発した特殊な方法で、闇夜の森からメスのケカゲロウを連れ出すことが出来た。そしてそいつから採卵し孵化させた一令幼虫を、あらかじめカゲロウの採集地である森から採集し室内飼育していたヤマトシロアリR. speratusの巣内に投入し、行動観察しながら飼育したのである。

805.jpg孵化直後の一令幼虫。体長2mm前後しかない糸くずのような生物。

806.jpgシロアリを倒し、吸汁する。

結論から申せば、日本のケカゲロウもやはりシロアリを食った。しかし残念なことに、日本のケカゲロウは毒ガスなどという高尚な技を持っていなかった。複数の幼虫個体で捕食シーンを観察しても、近寄ってきたシロアリにひたすら噛み付き、弱らせるだけの戦略しかもたないようだった。ただ、この噛み付きはシロアリに対して恐ろしく有効で、数回咬まれただけでシロアリは全身が麻痺してしまい、あとは幼虫の駿河まま。北米の種では毒ガスにくわえて、キバで神経毒をシロアリに注入するそうなので、これと同じことをしていると思われる。
こうして立て続けに数匹のシロアリを倒すと、幼虫は自身で分泌した絹糸でそれらを縛り、死体の山を築いた。その死体の山を隠れ家にしながら、時折死体に噛み付いて吸汁しつつ、通りかかる新たなシロアリを捕らえた。面白いことに、幼虫は自分の管理する死体の山の周囲にも荒く糸を引き回しており、シロアリが近づくと必ずこれに脚をとられた。そしてもがいているシロアリの所へ幼虫は素早く駆け寄り、あっという間に倒すのだ。幼虫にとって糸は、倒した獲物を固定すると共に、新たな獲物を捕らえる罠の役割も果たしているらしい。

807.jpg一令幼虫はみるみる成長し、ほんの5日かそこらで二令になった。北米の種もそうだが、驚くことに二令は完全に絶食する。狭い隙間で脱皮すると、尾端で体を固定し、そのまま体をCの字にかがめてじっとしている。死んだようにピクリとも動かない。俺は昨年度からこの虫の幼虫飼育を試みていたのだが、恥ずかしいことに当時はこの休眠の習性を知らず、せっかく育っていた二令幼虫を死んだと勘違いして捨ててしまう醜態をさらした。
この休眠状態でまた5日くらい過ごすと、脱皮して最終令である三令になる。

三令はすさまじい。一令期同様にシロアリ捕食を再開するのだが、その食う勢いが半端ではない。一令期以上に多量のシロアリを殺して死体の山を築き、ひたすら吸い尽くす。そして、翌日になるととんでもないことが起きる。この日の朝、一番最初に見たとき何が起きたのか理解するのに、若干の時間を要した。なんとたった一晩で、胴体の長さと太さを倍にするのだ。辺りにはシロアリの残骸だらけ。

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809.jpg上が三令の一日目。下がその翌日。周囲のシロアリの大きさから、巨大化の程度が如何ほどのものかわかる。この変化がほんの一日の間に起きる。

三令期はとても短く、ほんの3日そこらでもう繭を紡いで蛹になった。そして20日ほどの蛹期間を経たのち、とうとう成虫が羽化したのである。これにより日本産ケカゲロウは、旧世界(アジア、アフリカ)地域で初めて、卵から成虫まで人工飼育下で育ったケカゲロウ科の種となった。

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811.jpgただの小汚い虫が皮を脱ぐ姿と言ってしまえばそれまで。しかし、この国始まって以来この状況に立ち会った日本人は存在しない。その記念すべき一人目に、俺はなったのだ。世界的に見ても、ケカゲロウの羽化を目撃した人間は史上十数人もいない。

日本のケカゲロウの幼虫は、ヤマトシロアリを餌に成虫まで育つ能力があることが判明した。彼らが野外でもシロアリ以外のものを食べないのかどうかは、いまだ不明である。しかし、シロアリに対して非常に効果的な攻撃・捕食戦略をもつことや、海外にいる同じ亜科の近縁属がシロアリ捕食にきわめて特化しているのを考えると、恐らく日本産種も好白蟻性のスペシャリスト捕食者と考えて差し支えないのではないかと思う。




驚くべきことに、ケカゲロウ科が地球に出現した歴史はとても古い(ジュラ紀中期; Makarkin et al. 2011)。海外では、成虫が頻繁にコハクに閉じこめられた化石として出土している。最近、ケカゲロウ科の幼虫の化石がまとまって出土した(Wedmann et al. 2009; そんなマイナーな虫の幼虫がコハクに閉じこめられて、今更掘り出されるということ自体が驚きだが)。
Wedmann et al. (2013)によると、現生するケカゲロウ科内の5亜科のうち4亜科は、シロアリが地球上に出現した年代以前には既に存在していたらしい(シロアリの起源はジュラ紀後期から白亜紀前期とされる; Engel et al. 2009)。つまり、これらのケカゲロウ類に関しては好白蟻性ではない可能性が高いという。シロアリを食う日本産種と北米産種が含まれる残りの1亜科は、シロアリが出現した後に出現したらしい。Wedmann et al. (2013)は、おそらくケカゲロウ科で好白蟻性を獲得したのはこの1亜科に含まれるメンバーのみであろうと推測しているが、今回の当方の発見は測らずともその仮説を支持するものになった。
裏山で採ったただの羽虫の観察日記が、よもや昆虫の起源と進化などという話にまで首を突っ込むことになろうとは。


その数の少なさと採集の至難さから、日本産脈翅の中でも生態解明が最も困難と思われ、今までどんな大層な昆虫図鑑にも「成虫は夏に灯火に来るが稀」以外何も書くことがなかったケカゲロウ。
日本歴代の脈翅専門家すら誰も手を出さなかった、難攻不落なこの虫の幼虫期を平らげることができて、とても気分がスカッとした。こいつを倒せたなら、ほかの日本産脈翅なぞ全部刺身のつまだ。次はクシヒゲカゲロウとオオ(イクビ)カマキリモドキの幼虫期の解明だろうか。


引用文献:
Engel, M.S., Grimaldi, D.A. & Krishna, K. (2009) Termites (Isoptera): their phylogeny, classification, and rise to ecological dominance. American Museum novitates, 3650, 1–27.
Makarkin, V.N., Ren D. & Yang Q. (2011) Two new species of Sinosmylites Hong (Neuroptera: Berothidae) from the Middle Jurassic of China, with notes on Mesoberothidae. ZooKeys, 130, 199–215.
Tauber C.A. and Tauber M.J. 1968. Lomamyia latipennis (Neuroptera:Berothidae) life history and larval descriptions. Can. Entomol.100: 623–629
Wedmann S., Makarkin V.N., Weiterschan T. and Ho¨rnschemeyer T.2013. First fossil larvae of Berothidae (Neuroptera) from Baltic amber, with notes on the biology and termitophily of the family. Zootaxa 3716: 236–258

879.jpg体の割にハサミの異様に小さい、かわいいカニムシ。コケカニムシ系の幼体かとも思ったが、この鋏角のでかさはツチカニムシ系だろう。

かつて贔屓にした子供向けのクモ図鑑「学研の図鑑 クモ」は、日本で見られる代表的なクモを写真と共に美麗なイラストで紹介する素晴らしい本で、最後のページにオマケとしてサソリ・ダニなどクモ以外のクモガタ類の概説が載っていた。その中のカニムシに関する項目で、仮にも図鑑の解説文なのに「カニムシはクモガタ類中でもっともかわいらしい」と書いてあったのが印象的だった。
あの本は、日本のクモ学の権威的な相当のエライ人が書いていた気がするが、そんな専門家をして私情を挟みたくなるほどに、カニムシは愛らしい生きものである。

「学研の図鑑 クモ」は、他にも世界の不思議な形のクモを紹介するページがあったり、自然界におけるクモの役割、クモにまつわる伝承、さらに採り方や飼い方など、いろんな情報が満載だった。子供向けのクモ専門書としては特筆して秀逸なもので、正直なところ日本国内であれ以上の本はないと断言する。俺はあの本を幼少期に見て、クモガタ類という分類群に対する親愛と忠誠を確実にした。

この本は、かなり早くに絶版になってしまい、今や入手どころか図書館で探すことすら極めて至難な状況である。心から復刻して欲しいと願う、日本で唯一の本である。


福岡にて。

868.jpg美しいケダニ。しかもぬいぐるみのようで可愛い。赤いビーズのような瞳がポイント。

福岡にて。

872.jpgトゲナベブタムシAphelocheirus nawai。まさか野生の生きた奴を拝む日が来るとは。

河川に住む水生カメムシで、鍋蓋のように平べったい円盤状の姿。その体型を生かして、水底の石や砂利の間に潜り込んで生活している。他の水生カメムシと違い、水中の溶存酸素を取り込んで呼吸できるため、息継ぎをしに水面へ出る必要がない。一生、水から出ずに生きていられる。

873.jpg少し困り気味の愛嬌ある顔をしていながら、性格は冷酷で残忍。鋭い針状の口吻で、他の水生生物を殺して中身を吸い取る。人間も下手に手づかみすると、刺されて相当に痛い目を見るらしい。

本州西部より南の、水質がよい限られた河川にしか生息しない。全国的に絶滅が危ぶまれる。

機銃掃射でバヒュンバヒュン

874.jpg裏山の林道を歩いていたとき、道脇の土壁がまるでガトリング銃をぶっ放したように穴だらけになっているのを見た。ケブカコシブトハナバチAnthophora plumipesの集団営巣地だった。

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863.jpgケブカコシブトハナバチは西日本に分布する愛らしいハナバチで、関東以北ではまず見ない。単独性で、春から初夏にかけて発生する。垂直の土壁に穴を空けて巣を作り、蜜や花粉を集める。条件の良い場所には、多数の個体が集まって営巣するため、営巣地はしばしばすさまじいハチの大群が巻き起こる。一見恐ろしげだが、まったく無害。

毛深いので、北方のハイイロマルハナバチ類に雰囲気が似る。マルハナバチと違って南方系のハチなのに、なぜ不必要に毛深いのかはよくわからない。もう少し北日本でも見られる他のコシブトハナバチ類は、こんなに毛深くはないのに。西日本とはいえ肌寒い春先に出るからだろうか。

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862.jpgとても素早く、あまり長時間ホバリングしないので撮影は難しい。無数の巣穴が近接して空いているため、ハチ自身もどれが自分の巣穴なのか、にわかには判別できないらしい。しばしば穴の中に飛び込んでは、そこの主に追い出される様子が見られた。

877.jpgコシブトハナバチ類は、舌がとても長い。他の虫が手を出せないような、距の長い花からも蜜を吸い取ることが出来る。東南アジアには、自分の体長以上の長い舌を持つ種も知られる(Amegilla elephasなど)。
植物の中にはこの仲間のハチに受粉を依存するものが結構いるらしい。中南米の熱帯にいる、舌の長いシタバチ類とニッチが被っている。


福岡にて。

860.jpgハンミョウCicindela japonica。福岡にて。

最近、新居の周辺で新しい裏山を開拓した。すぐ近くとは言えない距離の場所だが、定点観測には最適な環境である。その山の麓で、ハンミョウの生息密度がものすごく濃い場所を見つけた。一歩踏み出せば、10匹くらい足下から飛び出す。
ハンミョウは拡大してみれば極めつきの派手な虫だが、実際に野外で見ると思いのほか目立たない。動かないと、すぐに見失ってしまう。灰色っぽい砂利道では、この色彩の方がかえって周囲の景色にとけ込んでしまうのである。

861.jpg今年はなるべく多くの種類のハンミョウを撮影するつもりでいるので、練習台になってもらったのだが、かなり難しい。射程に近寄るまではどうにかなるが、それから腰を下ろして姿勢をかがめる段階で必ずどの個体も逃げるかそっぽを向く。物体の上下運動には敏感なのだろうか。

859.jpg晴天時に撮影したが、こういうただでさえギラついた虫は、曇天に撮った方が成績が良いように思う。いずれ出直さねばならない。

865.jpgシロツノトビムシSinella (Sinella) straminea。シワクシケアリMyrmica kotokui巣内にいた。

九州以北の平地から亜高山帯にかけてアリの巣をほじれば、ほぼ100%どこでも出る。体色は若干褐色がかった白で、遠目には薄ピンクに見える。目がちゃんとついてて、せな毛が濃い。いろんな書物で「アリノストビムシ」と間違って掲載されている。体長2mm以上。
この属はもともと海岸などで得られるトビムシの一群らしいが、シロツノトビムシは韓国でアリの巣から得られると記録されている(Park and Lee 2000)。日本でも、基本的にアリの気配がない場所からは得られないので、好蟻性と考えていいものと見ている。ただし、寄主アリ種特異性はあきらかにないし、アリが引っ越して捨てた古巣の坑道から高密度で見出されることもある。

866.jpg真のアリノストビムシ科(おそらくジャワアリノスCyphoderus javanus)。ハヤシクロヤマアリFormica hayashi巣内にいた。

シロツノよりもはるかに小型で、純白。拡大すると、真珠色の美しい光沢をたたえているのがわかる。目がなく、せな毛もない。一つのアリの巣内から、シロツノも真のアリノストビムシも両方出ることは普通。体長1mm前後。

両方とも長野にて。


参考文献:
Park KH, Lee BH (2000) Six collembolan species Insecta new to Korea including two species from ant nests. Korean Journal of Systematic Zoology. October; 162: 227-237

864.jpgオカメワラジムシの一種Exallononiscus sp.。アリの巣に住むワラジムシ。

職場の前にあったクロオオアリCamponotus japonicusの巣から出した。全身白くて目が退化傾向を示し、地下性傾向が強いことをうかがわせる。元々は地下空隙に住んでいたグループで、餌となる有機物の多いアリの巣へとメインハビタットを移したのだろう。

かつて、日本でアリの巣から見つかるワラジムシは、全部とりあえず「アリノスワラジムシ」と呼ばれていた。昔に出版されたアリや好蟻性生物の生態写真本を見ると、たいていアリノスワラジムシの名で紹介されている。しかし、本当のアリノスワラジムシ属Platyarthrusは日本では確認されていないため、それらは基本的に全部オカメワラジムシ属の同定間違い。ただし、オカメワラジムシ属には日本国内だけでも数種の近似種がおり、それらは素人目には同定できない。
北海道の北部で徹底的に調べたら、本当のアリノスワラジムシも見つかりそうな気はするが・・。

同様に、日本(特に本州)のアリの巣内からは高頻度で白っぽいトビムシが得られ、それらは条件反射的に「アリノストビムシ」という名前で生態写真本に載せられる事が多い。しかし、実際それらの多くは本当のアリノストビムシ科の種ではなく、アヤトビムシ科のシロツノトビムシSinella (Sinella) stramineaである。


福岡にて。

魔獣錬成魔法=スティジオ・トレックス

867.jpgきのう、新種(?)を採った。大都会の裏山で。引っ越してきてたったの3週間目にして。

近距離と言える範囲内に一種類、この属の奴が分布してはいるが、根本的に山塊がちがうしな・・。

853.jpgオドリバエ一種。緑メタリックな美麗種で、似たものを関東甲信越界隈で見たことがない。

今の時期、職場敷地内のいたるところで配偶のための群飛を行っている。物凄い数のハエが、空中のある場所に集まってブワーッと飛び回り、その全員が同じ場所をグルグル循環し続けている。
オドリバエは、交尾の際にオスがメスにプレゼントを渡す婚姻贈呈の習性で知られる。特急電車に乗る時いつも高速で通過する駅名を読んで鍛えた動体視力で、めまぐるしく飛び回るハエをみていると、ときどき一際大きなハエが混ざっているのが分かる。これが、プレゼントを抱えて飛ぶオスだ。


856.jpgすさまじいハエの大群。しかし、どういうわけか通行人は誰一人これに関心を示さない。


餌を持ったオスは、やがてメスらしきある特定の一個体を後ろに引き連れたまま、群れから離れて飛んでいく。そして、空中で後ろから付いてきたメスに追突されて落下する。落下している間に素早く交尾連結と餌の受け渡しがなされ、地面に落ちる前に体制を立て直し、交尾体勢で飛び上がる。そして、近くの適当な枝先に止まる。

854.jpg
855.jpg20ペアくらい見たが、どのペアも餌として自分とほぼ同大のイエバエ科を使っていた。1ペアだけ、正体不明の極小の羽虫を使っていたが、基本的にこの種はイエバエ使いなのかもしれない。
オドリバエの中には、特定の昆虫しかプレゼントに使わない種がいくつもいる。ある種は造網性クモ類を網からたたき落として餌に使うし、ある種は別種の小型オドリバエだけを捕まえて餌に使う。


857.jpg
枝の入り組んだ場所に止まりたがるので、撮影が難しい。最近開発したストロボディフューザは、狭いところに突っ込むことが出来ないため、必ず枝をはじいてハエを飛ばしてしまう。しかも悪いことに、ハエどもが人通りの多い歩道脇で群飛をやってくれているお陰で、エイリアンのようなイカつい改造カメラを携えて始終中腰で道脇の植え込みを徘徊せねばならず、かなり通行人の視線が痛い。
不思議なことに、オドリバエの群飛というのは、毎年同じ場所の同じ空間に形成されるらしい。寿命が短い虫なので、同じ個体が翌年まで群飛した場所を覚えていてやってくるのではない。子世代のハエが、親世代のハエから場所を教えてもらうのでもない。そのオドリバエの種が好む明るさや空間的な広さなどの環境条件があって、それに合致する場所で群飛をしようとするから、結果的に毎年同じ場所に同じ種のオドリバエがやってくるのだろう。

だから、いくら通行人の好奇の目にさらされようとも、通報職質されようとも、「この場所がいい」とハエが譲らないのであれば、撮影する側もそれに従うしかない。

膝丸燈

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オオミノガEumeta japonica。福岡にて。

風にフラフラ揺れる紡錘形の大形ミノムシで、ミノムシの代表格と言ってもいいほど。しかし、90年代半ばに大陸から侵入した寄生バエの猛威によって、たちまち日本中から姿を消してしまった。今や、あちこちの都道府県で絶滅危惧種として祭り上げられている。
九州でも衰亡著しく、特に福岡市内では90年代後半でほぼ完全に絶滅状態となったらしい。

それから10年近く経ったいま、市内では僅かながらオオミノガは復活の兆しを見せている。一度絶滅したため寄生バエも共倒れで減り、その後近隣地域から流入してきた個体群が寄生されずに生き残る機会を得た結果だろう。
死ぬ気で探し回ると、あちこちでぽつぽつ見つけられる。なるべく都市部から離れた山際の神社などがいいように思える。それでも、一日に二桁届くかどうかくらいの少なさ。

考えると、世間的にはミノムシの代表格とは言われていても、個人的にはオオミノガは馴染みがない。今まで見た大形ミノムシのほとんどは、枝にミノの口をガッチリ固定してしまうため風に揺れないチャミノガばかりだった。どちらかというと、オオミノガは西日本に多いものだったのかもしれない。

844.jpg
キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum。冬眠明け。九州にて。

845.jpg
プライヤキリバGoniocraspidum pryeri。成虫で越冬する蛾。

洞窟特有の生き物ではないのだが、越冬の際には好んで洞窟に入ることで知られる。時には相当数の個体が固まって洞内の壁面に止まっているのを見る。

過去に、この蛾の幼虫がアリを集めていたという観察例が一例のみ報告されており、若干気になっている。しかし、その一例の報告以外にこの蛾とアリの関係を示唆させる報告がまったく出てきてないので、何らかの偶然にすぎないかもしれない。


九州にて。

ゾンターク邪鬼王

847.jpg九州の洞窟で見た、とても恐ろしい姿の生物。目はない。今年に入って、この類を見るのはこれで3種類目。

846.jpg口元の小ハサミが、何となくこいつとかこいつに比べて長いような気がするが、気のせいかも知れない。メクラチビゴミムシと同じで、これも地下水脈にそって国内各地で種が分かれているのだと思う。
乾燥した洞窟には絶対に生息せず、かといって地面がビチャビチャすぎる所もあまりよくない。しっとり湿った粘土の地面に、浅くはまった石があれば、それを起こすとたいてい見つかるように思う。

842.jpg洞窟性クモ、ホラヒメグモ一種Nesticus sp.。種類は分からないが、この地域一帯の固有種であるのは確か。この仲間は地域ごとに細かく種分化している。
ホラヒメグモ類のオスの触肢は、複雑な形をしていて面白い。

843.jpg
ホラヒメグモは洞窟に住むのでその名があるのだが、どこの洞窟のどの種類でも、基本的に多いのは洞窟の入り口付近だけ。入り口からほんの数メートル奥へ進むと、途端に個体数を減じる。
洞窟の入り口付近は、風や水の力で外から有機物が入ってきて溜まるので、クモの餌になる小動物が発生しやすいのである。

九州にて。