双想ノ唄オリエンタリス・サード
2012/01/31|Category:好蟻性昆虫・東南アジア
つい先日まで南米ペルーまで調査に行ってきたが、それに関してはまだ出し惜しむ。
オオズアリPheidole sp.の巣にいたヒゲブトアリヅカムシ一種Pseudacerus sp.。アリヅカムシの仲間としては極めて特殊な形態になった部類。何となくオオズアリのメジャーワーカー(大型働き蟻)の頭の形に似ていなくもない。マレーにて。
樹幹についたミノガ科らしい蛾の幼虫の巣。巣の材料が、一部他のものも混ざっているが、殆どがアリの死骸。しかもオオアリ属Camponotusとトゲアリ属Polyrhachisのものばかり。残念ながら既に中身は出てったあと。一カ所に同じものが4つあった。タイにて。
たぶんミジングモ属の一種Dipoena sp.?。同じ種類のシリアゲアリCrematogaster sp.をまとめて捕獲し、団子にして吸収する。タイにて。
オビハエトリ一種Siler sp.?。アシナガキアリAnoplolepis gracilipesを捕らえた。マレーにて。
凶暴な肉食ハシリハリアリLeptogenys sp.の引っ越しについて行くアリシミ。アリの運ぶ繭にもしがみつく。マレーにて。
フサヒゲサシガメの一種Holoptilinae spp.。属不明。宇宙生物のような奇怪な姿。この仲間はアリ捕食に究極に特化した生物の一つで、数十種が知られるがどれも破滅的に珍種で滅多に見られない。一部の種を除き、野外で生きた姿が殆ど人類に撮影されたことがないと思う。腹面に刷毛のような毛束をもち、ここから特殊な液滴を分泌する。これは特定種のアリを著しく魅了する成分が含まれている。マレーにて。
別種のフサヒゲサシガメPtilocerus sp.がオモビロルリアリPhilidris sp.を誘惑する。アリは喜んでこの虫の分泌物を舐めるが、これにはアリの動きを止めてしまう毒が盛られているため、すぐにアリは昏倒する。その後犠牲者は、この捕食者の鋭く凶悪な針状の口吻に頭を刺し貫かれる。タイにて。
カギカ属の一種Malaya sp.。多分オキナワカギカM. genurostrisと同種。蚊では数少ない好蟻性種である彼らは、アジア・アフリカ熱帯地域に広く分布する。彼らは動物から一切吸血せず、もっぱら樹上性シリアゲアリから餌をもらっているとされる。アリ行列上をホバリングし、時折アリの真上に押さえつけるように降り立ち、胃の内容物を吐かせて吸い上げるというのだ。マレーにて。
カギカの最大の特徴は、棍棒状に先端のふくらんだ口吻。ふくらんだ部分から先端は上方に曲げられる。アリとの関係時にどうにか動かすのだろう。この蚊とアリとの関係は今から100年も前から知られているが、実際に観察された例はとても少ない。成虫になるとどこかに分散してしまい、発見が困難になるのだ。マレーにて。
クワズイモの葉腋にたまった雨水にいるカギカの幼虫。この仲間の蚊はサトイモ科植物の葉腋からしか発生しないらしい。成虫の発見が困難なカギカも、幼虫のボーフラは容易に多量に見つかる。上の成虫個体は、ここからボーフラを取って羽化させたもの。マレー・クアラルンプールにおけるオキナワカギカの生息密度は極めて高いことが知られている。いつか成虫がアリから餌をもらう姿を見てみたい。マレーにて。
ヨコヅナアリPheidologeton diversusの行列をいくハネカクシ。マレーにて。
テングシロアリNasutitermes sp.巣内にいたツヤケシシロアリガムシ(仮名)Oreomicrus sp.。マレーにて。
ケブカヒメサスライアリAenictus gracilisの巣にいたキリタンポノミバエ(仮名)Vestigipoda maschwitzi。翅も脚もないハエの一種で、これで立派な成虫。アリの幼虫の姿に似せており、アリは自分の幼虫としてこいつらを扱う。この姿をしているのは雌。雄はまだ発見されていないが、他の好蟻性ノミバエの生態から察するに、恐らく普通のハエの姿をしていると思う。マレーにて。
ケブカヒメサスライアリに引っ越し時に運ばれるキリタンポノミバエ。手前のアリがくわえている黄色い奴。目が見えず、においと手触りで仲間を識別するしかないこのアリの行動パタンを完全に手玉に取っており、究極の詐欺師と呼ばれる。マレーにて。
ケブカヒメサスライアリの引っ越し。女王の背にハネカクシが便乗する。マレーにて。
木の枝上に、カタアリDolichoderus sp.が守るナミセツノゼミEbhul formicarius。マレーにて。
アリヤドリトンボコバチ(仮名)。コバチ上科であるのは確実だが分類群不明。樹上に営巣するツムギアリOecophylla smaragdinaの巣が破壊されるとどこからともなく現れ、幼虫や蛹をかき集めて巣に運び戻すアリの頭上をホバリングする。そして一瞬の隙をついてアリのくわえる幼虫に止まって寄生する。後脚がとてもたくましいが、その理由は寄生の瞬間を自分の目で観察するまでは分からなかった。
余談。海野和男の「大昆虫記」のツムギアリのページで、ページの下の脇に小さくこのハチの写真が載っているのを見て以来、どうしても現物を自分の目で見たかったが、方々で探してきたにもかかわらずなかなか出会うことができなかった。しかも、この種類は「大昆虫記」のものとは体の模様が異なり、明らかに同属だが同種ではなさそうだ。タイにて。
寄生の瞬間。アリの幼虫に止まるや、長い腹部を複雑怪奇な形に変形させて細い針を獲物に打ち込み、用が済んだら素早く空中に飛び立つ。この時、あの後脚で獲物の体表面を思い切りけっ飛ばしてジャンプするのだ。寄生直後、空中に離脱するハチの姿を見れば、寄生の最中のように翅をたたんだままであることが分かる。ツムギアリはけっこう運動神経がいいので、寄生後もたくさしていればすぐに捕まってしまう。だから高速ジャンプで瞬間的に逃走せねばならないのだ。アリ幼虫に取り付いてから離脱するまで、1秒もかからないので撮影は困難を極める。ちなみに、これはタイで行われた国際学会終了後のエクスカーション時に見つけて撮影したもの。自分の本来の職務をさぼってたわけじゃないよ。タイにて。
寄生したはいいが、一瞬逃げ遅れたため取り巻きのアリに捕らわれ、これから衆人環視のもと八つ裂かれる予定のハチ。好蟻性生物は、アリの巣でのうのうと食う寝るだけの情けない居候のダメ虫のように、しばしば蘊蓄本のたぐいで面白おかしく茶化して紹介される。
とんでもない。彼らがアリの社会システムをだまし欺くための巧妙な能力を得るために、進化の歴史の中でいったいどれほどの時間を要したと思っているのだ。そして、その能力は今ですら完璧ではない。万が一隙を見せたり、化けの皮をはがされればいつでもアリどもに吊し上げられ、なぶり殺しにされる過酷な現実が待っている。好蟻性生物達は、いつでも死と死の狭間のうちにいる。タイにて。