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409.jpgコツノアリCarebara yamatonis。暖地の照葉樹林帯の林床によく見られる、極めて小型のアリ。申し訳程度の点目がかわいい。静岡にて。

ワーカーに大きいのと小さいのの2型があり、大きいのでも2mm、小さいのだと1mmくらいしかない。そのうえ動きも鈍いため、その気で探さないと目の前にいたとて気付くのは難しい。大きいのは腹にそこそこな量の液状餌をため込むことが出来、パンパンに膨らむと宝石のようで美しい。
コツノアリは日本産アリ類では屈指の極小アリだが、それでも最小ではない。南西諸島のヒメコツノアリC. hannyaのほうが、まだ小さい。

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416.jpgクロヤマアリFormica japonicaの巣から慌てて逃げ出すエサキアリヤドリコバチEucharis esakii。物凄い数のハチが、次々にアリの巣から飛び出していった。アリにつままれ、巣から離れた場所までまるでゴミか何かのように引きずられて捨てられる個体もいた。

アリヤドリコバチの仲間はアリの幼虫に寄生して育つ。その辺の植物に生み付けられた卵はふ化後、そこを偶然通りかかる「取り付くべき種のアリ」の体に取り付き、まんまと巣内へ侵入する。その後、アリの巣内を探索してアリの幼虫に取り付くらしい。
エサキアリヤドリは朝鮮半島にも分布し、そこではクロヤマアリに寄生することが既に分かっている。だから、日本の個体群も当然クロヤマアリに寄生するであろうことは疑うべくもなかったが、今まで日本のクロヤマアリの巣からこのハチが見つかったという報告は全くなかったようである(東浦 2008)。だから、これが恐らく日本で初めて、このハチが寄主アリと絡んでいる現場を押さえた写真になる。

もう少しイイ写真も撮れたが、もったいなくて出せない。


本州中部にて。

参考文献:
東浦祥光 (2008) エサキアリヤドリコバチ.平嶋義宏・森本桂(編)新訂原色昆虫大図鑑第3巻: p. 522.北隆館・東京.

413.jpgハダカアリCardiocondyla kagutsuchi。暑い地域には普通にいるが、小さい、細い、素早いと三拍子揃っており、たいそう人の目を引かない。

二匹が連れ立って出かけようとしている(タンデムと呼ばれる)。一匹では運べない大きさの餌を見つけたアリがいったん巣へ戻り、仲間を動員してもう一度餌を回収しに行く行動と言われることが多い。前方のやつは、何らかの理由で後方のやつの足が遅れると、その場で立ち止まって追いつくのを待ってやる。後ろのやつに触角で尻を叩かれると、前のやつは再び前進する。一定時間尻を叩かれない状態が続くと、前のやつは後ろの奴が完全にはぐれたと判断するらしく、見捨てて先に行く。
しかしこのハダカアリの場合、餌もないのになぜか巣から50cmほど離れた時点で突然タンデムを解消してしまった。巣口から何ペアもタンデムを組んだアリが出かけていったが、すべてが巣からそのくらいの距離離れるとタンデムを解消した。

ちなみに、ハダカアリという名は体表面に立った毛が生えておらず、全体的にのっぺりした雰囲気に見えることによる(寝た毛は生えている)。だから、この名に関して「アリはもともとどの種類も服なんて着てねーじゃんか」という批判は当たらない。

静岡にて。

415.jpg
ササキリConocephalus melaenus。成虫になれば緑色のキリギリスなのだが、幼虫期は赤くて毒々しい色彩をしている。何らかのサシガメに擬態しているように思える。この幼虫は8月に見たが、てっきりこの時期は全て成虫になっているものだと思っていた。

静岡にて。

麒麟の如く

387.jpgつい先日、泣くほど嬉しいことがあった。人類史始まって以来この国で、いや東洋で、いや旧大陸全域で、今まで何人たりとも見ることが叶わなかった状況を、一番最初に見た人間になれたから。この一年間、これを見たいがために生きてきたようなものだった。

この奇怪な一角獣に関して、まだ多くを明かせない。一刻も早く明かせる状況にすべく尽力したい。

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キバネツノトンボAscalaphus ramburiの孵化。全国的には希少種なのだが、本州の中部では場所により結構多く、決して珍しくない。行きつけの草むらでは、馬に食わすほど沢山いる。逆に、図鑑などではしばしば「普通種」と書かれている本当のツノトンボHybris subjacensというツノトンボは、今まで生きてて見た試しがない。本当に実在するかも疑わしく思っている。

ウスバカゲロウの親戚であるツノトンボは、幼虫の姿も非常にウスバカゲロウのそれと似ている。しかし、ツノトンボのほうが頭がでかく、脚もしっかりしている。ウスバカゲロウの幼虫は、アリ地獄を作る種では脚がほとんど機能せず、腹部を伸縮させて後ずさるしかできない。でも、ツノトンボの幼虫は、ちゃんと脚で前に歩ける。

361.jpg孵化した幼虫は、やがて三々五々散っていき、地面に降りる。ツノトンボの幼虫はアリ地獄を作らず、物陰にただ隠れて獲物を待ち伏せる。アリ地獄を作らない種類のウスバカゲロウの幼虫同様に、見つけるのがとても難しい。簡単に見つかるのは、このように孵化した直後の状態だけ。でも、今年は秋に頑張って老齢幼虫を探してみようと思う。

なお、その名前からしばしば勘違いされることがあるようだが、アリ地獄(=ウスバカゲロウ)は好蟻性昆虫ではない。別にアリに生存を依存している訳でなく、目の前を通りかかったり罠に掛かった生き物なら何でも食うから。それを考慮すると、脈翅目昆虫で好蟻性と呼べるものは、きわめてわずかな種しか存在しない。しかし、そのわずかな種というのは、本当に奇妙奇天烈な生態を持つ選りすぐりの精鋭のみで構成されている。

長野にて。

373_20130724184045.jpgヤクハナノミYakuhananomia yakui。似た種が多いが、有名産地で見たのでたぶんヤクハナノミでいいと思う。


北日本に生息する珍しい甲虫で、最近ではほぼ東北地方と長野でしか見つかっていないらしい。名前から屋久島と関係あるのかと思ったがそうではなく、発見者か記載者の名前に由来するようだ。長野への分布依存度はかなり高いという。
大木の残る神社の屋敷林で見つかることが多いようで、そういう環境さえ残っていれば周囲が住宅街でも生息している。希少種のわりに、ネットで調べても何故かこの虫に関する情報がほとんど引っかかってこない。

374_20130724184049.jpgプロレスごっこ。交尾を試みる雌雄かと思ったが、いつまでも始めずにつっつき合うだけだったので、オス同士の争いだろうか。目が大きくてかわいい。

長野にて。

359.jpgケブカツヤオオアリCamponotus nipponensis。オオアリ属としては小型種で、雑木林の縁にあるマント群落的な環境でよく遭遇する。全国的に記録が多くない種で、環境省の希少種にも指定された(2012年度で情報不足カテゴリ)。しかし、実際には各地にそこそこいるもののような気がする。

長野にて。

396.jpgクロヒョウタンカスミカメPilophorus typicus。一見してアリそっくりのカメムシで、幼虫はとくにアリそのものにしか見えない。葉上でアブラムシやコナジラミなど、農作物を荒らす害虫を次々に襲い、鋭い針のような口吻で成敗してまわる。生きた農薬として、その方面ではよく研究されているようだ。

最近、訳あってこのカメムシの仲間が好きになった。想像以上に面白いグループである。

静岡にて。

397.jpg種類のよくわからない、ウスバカゲロウの幼虫。肩にある突起が妙に気になる。山間部の神社の境内にある、日当たり良い乾いた地面にいた。いわゆるすり鉢状の「蟻地獄」を作らず、ただ土砂に浅く潜っているだけだった。
偶然、アリを捕食していたため存在に気づけた。地面にまるで張り付けのようになったアリがジタバタしているのを不審に思い、砂を払ったら見つかった。

ウスバカゲロウの仲間には、幼虫期に巣を作らない種類がいくつもいる(と言われている)。それらはそれゆえ、自身がそこに存在する目印をいっさい残さないため、発見するのが究極に難しい昆虫の部類に入る。
ただ、それらのうちコマダラウスバDendroleon jesoensisは、生息する微環境がかなりピンポイントで限定されているため探しやすい。広大かつ柔らかい砂浜に住むオオウスバHeoclisis japonicaも、夜のうちに地表を這い回った跡を辿ることで、まあ発見できなくもない。しかし、それ以外の種類(特に内陸部に住む種)に関しては、いるポイントが全く特定できない。たとえそこにいるさまを肉眼で見ても、我々はいることに気づけない。今回のように、運命のいたずらがなければ、基本的に発見のチャンスはない。

そのため世界のウスバカゲロウ類の中には、この21世紀の世の中にあって幼虫が未だ発見されていない種類がたくさんいるはずだ(逆に言えば、幼虫の知られていない種類の多くは、おそらく巣を作る習性がない種だともいえるかもしれない)。世間では蟻地獄という言葉は、「決して抜け出せない厄災」の喩えでばかり使われている、景気の悪い言葉の筆頭だ。しかし、本当の蟻地獄の中には、限りない夢が詰まっている。

静岡にて。


※カスリウスバカゲロウDistoleon nigricansの幼虫とのご指摘を頂きました。hamusi様、ありがとうございます。

392.jpgクサカゲロウ一種幼虫。アオバハゴロモの幼虫がたかっていたらしき枝にいた。ハゴロモの幼虫は、体から綿状のワックスを多量に分泌して体に纏う。クサカゲロウはこれをかき集めて背負うことでハゴロモの幼虫になりきり、仲間のふりをしてハゴロモに接近し、捕食する。

クサカゲロウ類の幼虫は、ハゴロモやキジラミ、アブラムシなどを食い殺しながら成長するが、こうした虫(同翅亜目)はしばしばアリによってガードされている。さらに、同翅亜目には体を綿で覆うものが少なからずいる。そのため、クサカゲロウは獲物の綿を奪って身に纏うことで、ガードマンであるアリをだます小道具に使う。まさに羊の皮を被った狼。

静岡にて。

ぽっぽ

388.jpgアオバハゴロモGeisha distinctissima。暖かい地方の樹木にたくさん付いており、脅かすとはたはた飛ぶ。ガのような見た目だが、セミの親戚。体長は1cm弱。

理由は全く知らないが、地域によってこの虫のことを「はと」と呼ぶ。幼い頃、今は亡き祖母が「庭木にはとがたかって困る」とよく言っていたのを覚えている。集団で植物の茎に取り付き汁を吸ってしまうので、園芸関係の人々からは嫌われている害虫である。

幼心に祖母のためになりたいと思い、俺はよく庭の畑でカマキリやクモその他いろんな肉食昆虫と協力して「はと退治」をした。指ではとを生け捕りにしては半殺しにし、庭に住み着いている肉食昆虫どもに片っ端から渡していった。一番面白いのはシオカラトンボだった。竿の先に止まっているやつを見つけ、そいつの目の前で空中にはとを投げる。すると、一瞬のうちにトンボが飛び上がり、空中で見事にはとを捕まえて元の竿に戻るのだ。

祖母の亡き後は畑も閑散として、以前ほどトンボもはともいなくなった。

静岡にて。

消防訓練

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キノコバエ一種Sciaridae sp.。名前はハエでも蚊の仲間。とても種類が多く、さまざまな有機物から発生する。

キノコバエやその親戚筋であるタマバエの仲間は、しばしばクモの糸に掴まってぶら下がりながら止まる姿が見られる。その理由はよくわかっていない。クモのいる場所の近くにいれば、他の天敵に襲われにくくなるからだという説もあるらしい(Marshall 2012)が、クモそのものはこいつらにとって脅威ではないのだろうか。それにクモ本人が不在の、ただクモが歩いたときに引いた「しおり糸」にも普通にぶら下がっているので、上の説は疑わしい。

長野にて。


参考文献
Marshall SA (2012) Flies: The Natural History & Diversity of Diptera. Firefly Books Ltd, 616pp.

335.jpgヒシバッタ一種。小さな騎士。しかし、決して戦わない。タイにて。

350.jpgコメツキ一種。有毒のベニボタル類を意識したような、派手な色彩。東南アジア某所にて。

293.jpgコバネジョウカイ一種Ichthyurus? sp.。甲虫なのだが、飛ぶ姿はどう見てもハチに見える。東南アジアでは、時期と場所によっては多い虫で、大きさ2cm程度。

タイにて。5mmサイズの小型種ならば、日本にもこれとほぼ同じ姿形のものが身近な雑木林で見られる。

348.jpg
344.jpg毒蝶と、それそっくりな毒蛾。上はコウトウマダラ(スジグロシロマダラ)Danaus melanippus、下はマダラガ一種。飛んでいると区別しがたいが、蛾の方は止まり方が蝶とぜんぜん違う。両方とも、体内に毒を持っているので味が不味く、天敵に襲われにくい。毒を持つもの同士がそっくりになる、ミュラー型擬態の一例かもしれない。
しかしそうはいっても、時にはこいつらも天敵に襲われる。こいつらの味の悪さをまだ学習していない天敵は、そこらにうようよいるはずだからだ。上の毒蝶の後翅を見ると、左右対称に欠けている。左右の翅を閉じて休んでいる時に、何らかの敵に後ろから噛みつかれてこうなったのだ。

マダラチョウの中には青い翅をもつルリマダラ類というのがいるが、これがいる地域にはやはり青い翅をもつ有毒のマダラガが生息する。どちらも美しい。

東南アジア某所にて。

343.jpgハナカマキリの一令幼虫。生まれたばかりの頃はまったく花に似ておらず、赤と黒の毒々しい出で立ち。同所的に生息する、サシガメの一種に擬態しているらしい。タイにて。

327.jpgボクサーカマキリ。幅の広いカマが特徴の小型種。こういうカマをもつカマキリは、いくつかの分類群にまたがって存在するらしい。灯火によく飛んでくる。タイにて。

黄桜

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ヒラタミミズク一種Tituria sp.。河童という生き物がいるなら、おそらくこういう顔をしている。タイにて。

351.jpgハムシ一種。いわゆる「トゲナシトゲトゲ」と呼ばれていた仲間で、バナナの葉を食べる。3cm弱もある、かなりの大形種。

349.jpgこれも「トゲナシトゲトゲ」系のハムシ。どこかから飛んできて、宿舎の柱に止まった。1cm程度の種。この仲間は、脚のフ節の幅が広くてかっこいい。いずれも東南アジア某所にて。


本日、某国の小遠征から帰還。時期が全体的によくなかったため、収穫の量はいまいちだった。しかし、最後の最後にとんでもないものを見事に当てることができた。妖精の王に感謝。

かんかんのう

376.jpgベッコウタマユラアブ(ベッコウクサアブ)Pseudoerinna fuscata。全国的にきわめて希少で、めったに発見されない大珍種の巨大バエ。ほぼ例外なく豊かな森林が残されている場所だけでのみ得られる、「もののけ姫」のコダマみたいな奴。何物にも染まらぬ漆黒の体に、ベッコウ細工のような美しい翅を持つ顕著な種で、少なくとも日本でこれに似たハエアブの類は他に思いつかない。分類学的に見ても、現状では所属があいまいである。

成虫は夏に発生するが、行動生態的な情報はほぼない。成虫の発生時期がとても短いそうで、それが容易に発見できない理由の一つと思われる。たまゆらの名のゆかりだ。
さらに、幼虫がどこでどうやって育つのかが分かっていない。近縁属の生態から察するに、おそらく土壌中か水中で他の虫を捕食している。

375.jpg残念ながら、これは既に死んでいる個体。なので、上の写真は死体の脚をそれらしく整えて葉上に乗せて撮った、いわゆる「らくだ写真」である。偶然、山道の路上でアリがこの死体を引きずっていたのを見つけ、奪い取ったもの。生きたものが周辺にいないか、草の根分けて探したが無駄骨だった。発見場所は、すぐそばに清らかな川が流れている立地。発見時の死体はまだ新鮮で柔らかかった。
なお、「らくだ写真」というのは俺の造語で、「野外で死んでいた生き物の脚を動かしてずらし、生きているような姿にして撮影した死に物写真」のこと。古典落語「らくだ」の中で、死んだ男の体を後ろから羽交い締めにして、手足を動かして踊らせるシーンがあるところからとっている。

動物・植物の別なく、生き物の和名はしばしばセンスに欠けるものが多い。その中で「たまゆら」という美しい言葉を、よりによって一般にはなかなか日の目を見ないハエの仲間に付けた先人の英断をたたえたい。

本州中部にて。間違いなく都道府県レベルで初記録の場所。

なお、本日から海外へ小遠征。

緋鹿ノ子蝶

382.jpgベニモンマダラZygaena niphona。寒冷地の高原に住む美しいガで、昼行性のためチョウと間違われることが多い。大昔の長野県ではヒカノコチョウというあだ名で呼ばれていたらしい。体内にはきわめて強力な毒を持っているため、派手な色彩は警戒色の役目を持っている。毒があるのは体内なので、口にしない限り特に危険はないと思う。
近年分布が縮小しており、環境省の絶滅危惧種になっている。近所では道ばたに掃いて捨てるほどいるつもりでいたが、今年ふと思い立って探したら、意外と見つけるのに難儀した。本州中部は多産地とされているが、それでも少しずつ減ってきている。

日本にはこれ一種類しかいないが、ヨーロッパにはもっと沢山の種類がおり、バーネットの名で親しまれている。

長野にて。

381.jpgアマゴイルリトンボPlatycnemis echigoana。本州中部にて。

本州だけに住む大形の美麗な糸トンボで、中部・北陸・東北に点在するごく限られた池でしか見られない。地域によってこれを見る難易度は変わると思われるが、少なくとも中部界隈ではすさまじく辺鄙な山奥にしかおらず、気安く会いに行けない。
でも、だからこそ、大変な苦労をしてたどり着いたその先に見る青い宝石は、あまりにも美しく光り輝いて見えるのである。

これでも十分綺麗なのだが、ネットで調べるとさらに青みが強い個体の写真が幾つか出てくる。もう少し成熟した個体の方が、より青みが濃くなって綺麗になるのだろうか。大変な道のりだが、一ヶ月後にもう一度会いに行きたい。