魔獣召還
2014/03/31|Category:甲
例によってピンポイントで産地を名乗る種名なのでここには書かないが、これまで世界でも九州のある一箇所でしか確認されていない。加えて、公式には数十年前の記録を最後に、今世紀に入ってからの記録がまったくない種類。近年、模式産地の洞窟内が観光化されて劣悪な環境となったため、発見がほぼ不可能な状況になっている。
上翅に、わずかながらもはっきりしたスジスジが認められる。本種にはよく似た近似種がいるが、そっちにはこのスジスジがない。間違いなく、探していた種である。
覚悟はしていたが、模式産地の洞窟で2時間くらい粘るもやはり見つけられなかった。そこで、そこから遠からぬ地にある別の洞窟で探したら、洞窟に入って1分で見つけた。その洞窟には長らく生息していないとされていたのだが・・。きっと、模式産地の洞窟とこっちの洞窟は同じ地下の水脈上に偶然あったから、どちらにも生息していたのだろう。近くの山で沢を掘れば、案外簡単に出てくるかも知れない。
前世紀からの時空を越えて、何とか現世に再び呼び戻すことが出来た。いずれ、きちんと然るべき所に報告する必要がある。
メクラチビゴミムシは、基本的に乾燥に対してものすごく弱い。だから、地下水脈にそった分布をしているようである。個々の種は、自分の住む地下水脈周辺から絶対に離れないから、この国にはきっと地下水脈の数だけメクラチビゴミムシの種類が存在するのだろう。かつてはこの仲間は洞窟内にしかいないと思われていたから、その種の産地だった洞窟が破壊されて消滅したら、すなわちその種の絶滅と判断されていた。
でも、その後消滅した洞窟の周辺の地下を掘ったら、その絶滅したと思われていた種が出てきたという話はちらほら耳にする。洞窟がなくなっても、その地中の水脈が無事ならば、メクラチビゴミムシはきっとどこかで人知れず生き続けるのだろう。逆に、外見上は一切環境改変がなされずとも、過剰に地下水をくみ上げて枯渇させたり、道路や建物を作る過程で地下水脈の流路を変えたりすれば、一発で絶滅することになる。
メクラチビゴミムシは日本だけでも400種近く存在しており、生物の種分化を考える上ではガラパゴスの生きもの以上に興味深い研究材料である。それなのに、そのあまりにもな名前から、世間で話題になるのはもっぱら「差別的な名前の生きもの」という側面からのみであるのは、実に悲しいことである。