今回のペルー調査では、俺は殆どツノゼミばかり探していた。そのせいで、本職の好蟻性昆虫の探索が恐ろしくおろそかになってしまった。同行者ばかりがビギナーズラックでそれらを発見しまくり、俺はタッチ一秒の差でそれを見られず出し抜かれることばかりだった。「くやしいのうwwwくやしいのうwww」状態である。
なので、以前調査に行ったエクアドルの写真もまぜこぜに出すことにした。俺が写真家として大成するかどうかも分からぬ中、これらをハードディスクの肥やしにし続けることに意義を見出せないからだ。
今回の好蟻性関連の写真は、こっちの方が遙かに充実している。まさに好蟻性生物写真家の名折れだ。
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バーチェルグンタイアリの行列脇にうろうろしているハネカクシ
Tetradonia sp.。ちっこいくせにものすごく力強く、凶暴。死臭をかぎつけることに長けているようで、傷ついたアリをめざとく見つけ出す。そして、獲物の触角や脚にかじりつくとズルズル引きずり、他のアリが邪魔しにこないように行列から離す。その後暗がりにアリを連れ込んで、首を掻き切って殺す。ピラニアのように数匹の集団で、徒党を組んでアリにリンチを加える事も多い。しかし、ひとたび獲物を倒したあとは、仲間内でみにくくそれを奪い合う。エクアドルにて。
バーチェルグンタイアリの兵隊アリの大顎にくっついたダニ一種
Circocylliba sp.。特殊な分類群のものだが、大雑把にはイトダニの類らしい。このアリの兵隊のこの部分に好んで付く。兵隊は顎が巨大すぎて自分で身なりを整えられないため、小型働き蟻にやらせる。目が見えない彼らは、においと手触りで仲間の体表に付いた異物を除こうとする。そのため、この兵隊の大顎の内側に細かい毛が生えているのに合わせて、ダニは背中に毛を生やしている。エクアドルにて。
バーチェルグンタイアリの行列にいたノミバエPhoridae spp.。翅が退化している。すごいスピードで移動する。似た姿の複数種が同居しているようだ。この手のハエは、ゴミあさりかアリの幼虫に寄生しようとしているのだろう。エクアドルにて。
ハマタグンタイアリの行列を行くアリシミの仲間
Trichatelura manni。アリと共生するシミとしてはかなり大型。高速でアリの傍らを走り去っていく。エクアドルにて。
ハマタグンタイアリの行列を行くアリヅカエンマムシ
Euxenister sp.。アリヅカエンマムシの仲間は世界中にいるが、殆どが新大陸にいる。そして、その殆どがグンタイアリと関係しているらしい。クモのような長い脚で素早く走る。エクアドルにて。
バーチェルグンタイアリの捕食行列の脇でじっとそれを見つめるノミバエ。最初何を目的に行列を見ているのか分からなかった。ペルーにて。
このノミバエは、白い色をした他種のアリの蛹や幼虫を狩って運ぶアリが来たときだけ飛び立つ。そして素早くその運ぶ獲物に止まり、数秒一緒に運ばれた後にまた飛び立ち、傍らに舞い降りるという行動を繰り返した。恐らく獲物に産卵することで獲物と一緒にアリに卵を運ばせ、巣内の餌を盗むなどするのかもしれない。ペルーにて。
バーチェルグンタイアリの行列を行くアリヅカエンマムシ一種。分類群不明。1コロニー内に生息するエンマムシの個体数はとても少ない。ペルーにて。
バーチェルグンタイアリの行列を行くシリホソハネカクシ一種
Vatesus sp.。雫型の大型ハネカクシ。あまり化学的に防御していない居候らしく、ときどきアリにこづかれる。しかし、ツルッツルの木魚頭とつかみ所のない体型により、アリの攻撃は彼らにとって脅威たり得ない。ペルーにて。
バーチェルグンタイアリの行列を行く大型ハネカクシ。たぶん
Termitoquediusの一種か。極めて大型の居候。頭の幅の広さからみて、顎がかなり頑丈であろうと予想される。つまり、巣内で大型の生きたアリを襲っている捕食者である可能性を示唆させる。しかし、アリの行列の中にアリとは姿形も大きさも違う生き物が平然といる様は、いつ見ても異様だ。ペルーにて。
バーチェルグンタイアリの行列を行くアリに似たハネカクシ。たぶん
Ecitomorphaの一種。アリに似た姿と肌の質感で、周囲の目の見えないアリどもを偽る。サイズの大きめの個体と小さめの個体とがいて、形態も少し違う。別種だろうか。ペルーにて。
このハネカクシのすごいのは、形だけでなく色彩もアリそっくりなこと。目の見えないアリをだますのに色彩は関係ないと思うのだが、これはアリでなく鳥をだますためだという説がある。グンタイアリの行列周辺には、彼らの進軍に驚いて逃げ出す虫をついばむ「アリ鳥」という連中がうろつく場合がある。いわば混乱に乗じてアリの獲物を奪い取る火事場ドロ。アリ鳥はアリそのものは食いたがらない。視覚でアリとそれ以外の虫を見分ける鳥に食われないためには、姿形だけでなく色も似せないといけないというわけだ。ペルーにて。
行列を歩くだけでなく、小型の個体はアリの運ぶ荷物に取り付き、運んでもらうこともある。ペルーにて。
オイアリヤドリバエ(仮名)
Calodexia sp.。グンタイアリの行列脇でよく見つかる彼らは、しかしアリに直接の用はない。本来ゴキブリの寄生蝿である彼らは、グンタイアリに追い立てられて地中から逃げ出すゴキブリを攻撃する火事場ドロである。大型のゴキブリはたいてい夜行性で、昼間は落ち葉の下やらに隠れているが、このハエは恐らく日中しか活動しない。非力な彼らにとって、夜行性のゴキブリを自力で探し出すよりはアリの力を借りた方が遙かに楽なのだろう。
しかし、せっかくそうやって寄生しても、その後ほとんどのゴキブリがアリに捕らわれ、ハエの卵ごと食われるであろうことを考えれば、この戦略がどれほど効率的かは大いに議論の余地がある。ペルーにて。
ハラボソメバエ
Stylogaster sp.。火事場ドロ二号。上のヤドリバエと同じ事をするが、こいつらは同類であるそのヤドリバエにすら攻撃を仕掛ける。また、上のヤドリバエと違ってアリの捕食行軍の先頭にしかいない。華麗に宙を舞い、地上の惨劇を眼下に見下ろす。地面には降りない。
余談。俺は数あるグンタイアリの腰巾着どものなかでも、特にこいつを撮影したかった。しかし、十日近くの調査日の中でこいつに会ったのはたった一度。しかも、公共交通機関を使わねば行けない山奥。帰りの便がくる数分前に見つけてしまったため、ろくな写真も撮れぬうちに帰らねばならなかった。もう行けない場所かも知れないのに。ペルーにて。
グンタイアリの巣に居候するハエヤドリクロバチ一種
Mimopria sp.。ハエヤドリクロバチ科はとても種数の多い寄生蜂の一群で、なぜかかなりの種類がアリやシロアリの巣に居候することで知られる。中にはその居候生活にかなり特化した種も知られ、これもその一つだろう。最初は翅をもち飛び回るが、グンタイアリの行列を見つけるとそこへ飛び込み、翅を落として同居生活に入る。翅を落とした姿はアリそのもので、アリと一緒に行列を走るという。残念ながらその様を俺だけは観察できなかったが、偶然現地で「変わった翅アリ」程度に撮影したものが、どうやら翅を落とす前のそいつらしいことに後で気付いた。彼らがアリの巣にいる理由は、アリそのものに寄生するためとも、アリの巣にわくハエに寄生するためとも言われる。ペルーにて。