萱嶋蜘蛛。台湾にて。この仲間の分類に関する文献がなぜか恐ろしく入手困難なのでまったく種名がわからないが、たぶん無印のカヤシマグモ
Filistata marginataではなかろうか。
民家の壁面の隙間などにロウト状の巣をつくり、獲物を待ち伏せる小型のクモ。台湾では勇名とどろくド普通種だが、日本では大昔に南西諸島でほんのわずか得られてそれっきりの、幻のクモである。
巣はこれといって特徴のない雰囲気。しいて言うならば、例外なく汚らしい。獲物の食いカスをそのまま入り口に引っ掛けてある場合が多い。派手ではないし珍奇な生態を持つわけでもなし、別に取り立ててどうということのない、ほんとにしょうもないクモ。しかし、俺は以前からこれを見たいと切望していた。その理由は、日本で見られないからというのが一つだが、もう一つある。
ハラナガカヤシマグモ
F. longiventrisという精霊がいる(環境省の出版したレッドデータブックでは、新旧版とも綴りがlongi
bentrisと誤記されている)。九州のとある洞窟から記載されたもので、原則熱帯・亜熱帯に分布するこの仲間のクモとしては最北に分布する種である。名前の通り、異常に腹部の長い奇怪なプロポーションで、ウナギイヌを思わせる。
しかもオリジナルのカヤシマグモと双璧をなす珍種で、模式産地以外からはいっさい見つかっていないばかりか、1960年代の記録を最後に誰も見ていない。環境省の絶滅危惧種(情報不足カテゴリ、2012年版)にも指定されているが、いかんせん地味でクソほどのありがたみもない小グモなので、わざわざ趣味でこれを辺鄙なその洞窟まで探しに行く人間がろくにいない。だから、存続の有無がまったく不明のまま現在に至る。
いずれこの精霊をデレさせる算段でいるため、カヤシマグモというのがどういうクモなのかをまず実際に見ておこうと思ったのである。幸い首尾よく見つけられたので、これでいつ洞窟で件の精霊と接触しても大丈夫そうだ。
しかし、先日そこへ行ってかなり執拗に探すも発見に至らなかったので、その霊力封印には相当難儀する様相を呈する。おそらく本来は洞窟にいない種である可能性が高い。※イベント告知
2月14日、豊田ホタルの里ミュージアム(山口県下関市)にて特別講演会「消えゆく、どうでもいい虫」を行わせていただきます。絶滅危惧種の地味な虫への愛を語ります。 http://www.hotaru-museum.jp/index.html
さらに、3月7日、ジュンク堂書店福岡店(福岡市中央区天神)にて講演会「暴け!裏山の虫の謎」を行わせていただきます。昨年度好評を博した、ジュンク堂池袋本店での講演が、九州に帰ってきます。 http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=8102
詳細は、各ホームページをご確認下さい。