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駒治安大昇鯉(こまっちゃんだいしょうり)

319.jpg先日、少し遠出して某県の某山へ行った。広大なブナ林が残るこの山のどこかに、とある珍種アリがいるに違いないという疑念を以前から持っており、それを実際に確かめるためである。

その珍種アリを、ミヤマアメイロケアリLasius hikosanusという。本種は日本だけで見つかっているアリで、公式には3都道府県に含まれる3,4カ所からしか記録がない。くわえて、近年の生息が全国的にまったく確認されておらず、環境省の絶滅危惧種にも指定されている(2012年版で情報不足カテゴリー)。今までこのアリが得られている環境は、いずれもブナ林が残っているような奥深い原生林らしい。
そこで、ある日突然その幻のアリを探そうと思い立ち、家から一番近いところにあるブナの原生林へ探しに行くことにした。俺が探さなきゃ、向こう50年は誰も探さないし見つけないと思ったので、ここらで俺が奴を希少種の玉座から引きずりおろしてやろうと思ったのである。その県では今までミヤマの記録が知られていないのだが、きっといるに違いない、そしているならその場所はこのブナ林しかないと、13年前から思っていた。

345.jpg一番近いと言っても、原付で走りっぱなしで数時間もかかる、本当に遠い場所である。その上、そこへ行くため通らねばならない街道は隣接県をつなぐ重要路のため、大形ダンプカーがひっきりなしに通る。それがおっかなくて13年間ずっと行く気がしないでいたのだが、勇気を出して大型ダンプの間を原付で縫いながら命からがら到達することに成功した。

そこで一日がかりで必死こいて探した結果、怪しい雰囲気のアリコロニーを複数発見できた。種同定に自信がなかったが、後にそのスジの専門家からお墨付きを得ることが出来た。間違いなく珍種アリだ!





















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317.jpg史上初めて生きた姿が撮影されたミヤマアメイロケアリのワーカーの勇姿。言ってもただのアリなのだが。

ミヤマアメイロケアリの属するアメイロケアリ亜属Chthonolasiusは、いずれもワーカーの体色が黄色い仲間で、日本から3種が知られている。そのうちミヤマ以外の2種、すなわちただのアメイロL. umbratusとヒゲナガアメイロL. meridionalisは、平地で普通に見られる駄アリだ。じつは、この駄アリと珍アリの区別がけっこう難しいのである。
外見でこの珍アリを駄アリと識別する唯一のポイントは、胸部の後方(前伸腹節)の形だ。珍種ミヤマは、この部分の傾斜が丸くカーブを描くのに対し、近似の駄アリ2種はスパッと裁断したように平らである。

347.jpgなお、駄アリことただのアメイロとヒゲナガアメイロの2種は、ワーカーでの種同定ができない。結婚飛行の時期にメスの翅アリを採ってこないとだめ(非公式には、ワーカーで区別する方法が秘密裏に開発されたとも聞くが・・)。ただ、経験則では市街地の公園など攪乱されたつまらない環境ほどヒゲナガが多いように思う。
ワーカーの体色の濃淡は、基本的にこの仲間の同定には使えないのだが、上記のブナ林で得た複数コロニーの個体は、平地で見る駄アリより格段にくすんで濁った色合いだった。ミヤマに関しては、もしかしたら体色もある程度は種判別の尺度として使えるかも知れない。

この山は、都道府県レベルで従来知られていなかったミヤマの新産地である。いずれ、何らかの形で発表したい。また、アメイロケアリ亜属のアリは社会寄生性のグループで、駄アリのアメイロやヒゲナガアメイロでは、新女王が近縁のケアリ亜属Lasiusの巣に巧みな方法で侵入し、これを乗っ取る習性が観察されている。ミヤマも同じことをするのは疑いようもないが、まだ誰も観察に成功していない。うまく結婚飛行の時期に再び出かけることが出来ればいいのだが。いかんせん遠すぎて気軽に行けないのがネックだ。


318.jpgおまけ。石下のミヤマアメイロケアリの坑道から得られた、大型ムネトゲ系アリヅカムシの失敗写真。いつも家の近所でヤマアリ類の巣から出るヨコヅナトゲアリヅカBatrisodellus palpalisに一見似ていたが、上半身がやけにほっそりと長い。今までどこでも見た覚えがない種なので、たぶん珍種の好蟻性種と思いたい。頭部後方の黄色い毛束がとくに怪しい。
この山塊は虫マニアには割と有名だが、好蟻性昆虫という観点では誰も調査に入った歴史がない所なので、俺の「駿河まま」。同じケアリ属のクサアリ亜属では、特定種のクサアリの巣に固有な好蟻性昆虫がいくつか知られているので、ミヤマアメイロケアリにだけ専門につく居候だっていないとは言い切れない。絶対見つけてやる。

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297.jpgオオミズスマシDineutus orientalis。水面をスイスイ滑るように泳ぐ、ミニチュアの潜水艇。びびらせると水底に隠れる。うっすら金属光沢があって美しい。長野にて。

日本のミズスマシ類はかなりの種類がいるようだが、すべて例外なく絶滅に瀕している。水質汚染、外来魚の捕食などなどによる。今住んでるクソ田舎にやってくるまで、俺は日本の何処でもミズスマシという生物自体を見たことがなく、その存在すら疑っていたほどだ。そしてそのクソ田舎でも、どんどん見られる場所がなくなってきた。流水性のオナガミズスマシ類なんか、近所の生息地では一時姿を見ない時期が数年も続いた。日本においてこの先、このひょうきんな生物が減ることはあっても、増えることは絶対にない。ゲンゴロウより危機的な状況にあると、俺は思う。

298.jpg今から10年前に、上の個体を撮影した場所で撮影した写真。スイカのタネを水面にぶちまけたような大群が見られた。今ではもうこんな光景は見られない。いや、少ないながらもまだ生息しているだけマシだろう。この生息地は岸辺がごく浅く、そこに芦が密生している。バスとギルに汚染された池だが、岸辺にはこういう魚が寄って来にくい立地のため、なんとか水生昆虫たちはそこを避難場所として生き残っている。

305.jpgオオムツボシタマムシChrysobothris ohbayashii。タマムシとしては小型だが、この属の中では破格の巨大種。倒木に集まり産卵するが、まるでハエのように動きが素早い。ダダダッと走ってすぐパッと飛んでいってしまうので、観察はとても難しい。ムツボシタマムシの仲間はいくつか似た種類がいる。いずれもみんな目が大きく発達しており、そのせいか人の気配にとても敏感だ。
地味な色彩の種と思いきや、ルリ色のあでやかな靴が奴の自慢。本州中部にて。

324.jpgトカラウロコアリPyramica membranifera。土壌性の小さなアリで、日本では温暖な地域からときどき見つかる。このアリは、地球上の相当に広範囲な地域で見られる種として知られる。彼らがどのような経緯で世界征服に成功したのかは、よく分かっていない。ただ、俺には人為以外の要因が強く影響しているように思える。静岡にて。

黒のセプター

302.jpgサラサヤンマSarasaeschna pryeri。薄暗い杉林の中の湿地で、テリトリーを張っていた。分布は広いが、なかなか見られないトンボの一種。愛知にて。

ニンテンドー64用ソフト「時空戦士テュロック」は、高校時代に俺が執心していたテレビゲーム。なぜかインデヤン風の主人公を操り、襲い来る兵士やら恐竜やらを無駄に多彩な武器で倒していく内容なのだが、このゲームに出てくる敵キャラにリアルなトンボがいるのだ。
見た目は普通のヤンマ(体型的にはトラフトンボが近い)で、大きさがカラスほどもある。こちらの姿を認めた途端にジグザグを描いて迫ってきて、後頭部に齧り付いてくるのだ。弓矢一発で殺せるひ弱な敵なのだが、動きがべらぼうにすばしっこく、倒せぬままに後ろを取られることが多い。そして、殺しても光の柱と共に突然また出現して襲ってくる。痛み無くして倒しがたい強敵である。

日本ではトンボを益虫としてあがめ奉っている雰囲気だが、西洋圏など海外では不吉な「悪魔の虫」と見なされているらしい。「時空戦士テュロック」は、もともとアメリカでヒットして日本に持ち込まれたゲームなので、トンボが敵として出てくるのだと思う。日本人の感覚では、「何でトンボ?」と思わずにおれない。

301.jpgエサキキンヘリタマムシScintillatrix kamikochiana。河原にみられる、小さいながらも美しいタマムシ。さえぎるもののない直射日光のもとで、メタリックの体は遠くからでもよく輝いて見える。だが、この手の虫の例に漏れず、色を写真で再現しがたい。
人の気配にかなり敏感だが、食樹から離れるのを嫌がるので、下心なく待てばまた戻ってくる。

本州中部にて。

346.jpgテラニシケアリLasius orientalis。山梨にて。

寒冷地に分布の中心があるようで、本州の平地ではまず見ない。クサアリ亜属の中ではもともと遭遇頻度の少ない珍種であるのにくわえ、地球温暖化に伴い分布縮小の懸念があることから、環境省の希少種(2012年度版で準絶滅危惧)にも指定された。他のクサアリ亜属の種と一見して区別しがたいが、こいつは樹幹に長大な土砂のシェルターを組んでその中を行進する。この習性をもつクサアリ亜属は日本じゃ他にいない。
俺は山梨のすこぶる辺鄙な某山しか生息地を知らないので、このアリを見るためにはわざわざ高い金と時間をかけて電車を乗り継ぎ、そこへ行く。先日、一年ぶりくらいにそこへ行った。アリンコそのものにくわえ、このアリとしか共生しないアリヅカムシの写真を撮り直したかったからだ。

しかし、この日の遠征で印象に残ったのはこのアリではなく、途で下車した駅前の民家で野良猫がツバメの雛を捕まえる瞬間を見た事だった。生まれて初めて、猫が野鳥を食い殺す瞬間を目撃した。歩道を歩いててふと目をやったとき、車道の反対側の民家の垂直な壁を、まるでヤモリのように猫がスルスル登っていた。その先にはツバメの巣があり、だいたい地上3m位の高さだったと思う。あっという間に上り詰め、巣の中にいた巣立ち間近の若鳥に噛みついて地面に飛び降り、くわえたまますぐ走り去った。
すぐ目の前であれば、猫の足を掴んで引きずりおろしたのだが、少し距離が遠かった。たまたま同じくその光景を目撃していたオバハンが、助けようと猫を追いかけていったが、もうだめだろう。猫に見込まれた小動物はまず奪い返せないし、奪い返せても五体満足ではあるまい。

これがヘビとか猛禽とか野生の捕食動物の所行であれば俺は何とも思わないのだが、人間の眷属である猫がやったのは、何だか見ていて無性に腹が立った。

320.jpgカタビロハムシColobaspis japonica。あまり多くない種で、なかなか見かけない。分類的にも少し特異な種で、日本には近縁種がいない。トネリコなどにつく。長野にて。

322.jpgアキヤマアカザトウムシLdzubius akiyamae。静岡にて。

名前を知ったのはごく最近のこと。古代のロボか、深海魚の頭骨の唐揚げを彷彿とさせる、なかなかかっこいい生物だ。調べてみると比較的珍しいとされる種類らしい。しかし、俺は行きつけの静岡の山では佃煮にするくらいよく見ているので、希少価値がぜんぜんない。むしろ、これより遙かにかっこいい「アゴ軍曹」こと某ザトウムシを探しているのに、こいつばかり出てくるのでうっとうしいほどだ。
俺はネット上にまったく生態写真が載っていない2種の日本産ザトウムシをずっと探し続けている。そのうち片方は、最近知り合いに先を越されてしまったので、もう片方たる「アゴ軍曹」は絶対に先に見つけるつもりでいる。

263.jpgチビクワガタFigulus binodulus。西日本では普通種。雄も雌も姿が同じで、区別しがたい。朽ち木からほとんど出てこないので、数の多さの割に姿を見る機会は少ない。兵庫にて。

スポンジ墓部

279.jpgヌマカイメンSpongilla lacustris。珍しい淡水カイメンで、原則水の綺麗な湖沼でしか見られない。海にいるはずのカイメンが純淡水にいるということが、単純に驚きだ。今年は、このカイメンだけしか食わないという例のアイツを発見するのが懸案の一つ。

長野にて。

288.jpgヨモギの上にいたヒメシジミの終令幼虫。トビイロケアリが随伴する。長野にて。

ヒメシジミの幼虫は、数の多さの割に見つけにくい。しかし、葉に特徴的な食痕を残すので、それを目印にすれば探せないことはない。本種に限った話ではないが、シジミチョウの幼虫は葉っぱを普通にバリバリ食わず、内部の葉肉だけを食べる独特の食い方をする。
ヒメシジミの幼虫は、どちらかというと夜間活発に動くようにも思える。これは薄暮にみつけたもの。

ヒメシジミは、蝶としては異様なほど食草分類群の幅が広い。その気になれば、大抵の草本植物は食えるんじゃないかと思えるほどだ。それでも、一つの生息地内で食う食草は比較的限られていると思う。
何でも食べられるのだから生存戦略的には成功している部類の蝶のはずなのだが、その割には全国的に減少傾向が著しい。本州中部ではまだ掃いて捨てるほどいるが、生息範囲はあきらかに年々市街地から遠ざかっている。

287.jpgオカヒドラ。近年発見された、世にも珍しい陸生のヒドラである。腔腸動物全体を見渡しても、陸生種は例がない。











というのはもちろんウソ。ただのヒメシジミPlebejus argusの幼虫の伸縮突起。
285.jpg野原で石を裏返したらトビイロケアリの巣ができており、そこからヒメシジミの蛹がゴロゴロ出てきた。これは人の手で撮影用に置いたのではなく、もともとこういう状態で見つかったものである。蛹はみな石にしっかりと固定されていた。一匹だけ、まだ蛹になる前の幼虫がいた。
ヒメシジミは、幼虫期はふつうに植物上で過ごしているが、蛹になる際には好んでアリの巣内に侵入する。幼虫期は体からアリの好む蜜を出すが、蛹になって以後は出さない。だから、アリにとってこいつを巣内に入れることは別段利益にならないのに、それでも甘んじて迎え入れてやる。どんな種類のアリでもいいはずだが、トビイロケアリの巣に入ることが多いように思われる。そして、トビイロケアリの巣はその辺にいくらでもある割に、シジミチョウはそれらのうち特定の巣に大量に押しかける傾向がある。理由は分からない。

286.jpgシジミチョウ類の多くは、幼虫期に体の後方に伸縮突起というへんなものを付けている。危険を感じたときなどに、これを瞬間的にパッパッと出したり引っ込めたりする。アリが近くにいるときにシジミチョウがこれをやると、どういうわけかアリが突然興奮し出す。そして、周囲にいるアリとシジミチョウ以外の生き物にやたら攻撃を仕掛けるようになる。匂いや視覚、さらに音響的な刺激をアリに与えることでアリを興奮させ、天敵から守るように仕向けているとも言われている。

長野にて。

309.jpgオオハンミョウモドキElaphrus japonicus。この仲間は北方系の生物らしく、北日本もしくは高標高ほど遭遇頻度が高い。湿原の水際におり、泥の上をすばやく駆ける。ちっこい虫だが、まるで宝石をちりばめたような美麗種。ヨーロッパ中世の骨董品の趣がある。泥をはいずる小虫が、こんな宝石を得るに至った進化的な背景とは何だ。

ただしこいつ、見た目こそ美しいが手づかみすると洗ってねー靴下の匂いを放つので、やや消沈させられる。

長野にて。

321.jpgダルマアリヅカムシ一種Paracyathiger sp.。触角の先端がぷっくり膨らんだ愛らしい虫で、暖地の森林地帯の土壌中に見られる。子供が落書きした虫の絵が実体化したようなやつ。そして、ものすごく小さい。

人から聞いた話では、このへんな触角は交尾の時に相手を押さえつけるのに役立つらしい。オスがメスの上に覆い被さって交尾するのだが、メスの触角の表側の形が、オスの触角の裏側の形と「鍵と鍵穴」のようにピッタリ合致するのだそうだ。熱帯のジャングルには、もっとウサギっぽい触角の可愛い種類もいる。なお、こんな不思議な形をしているくせに、アリとは一切関わりがない。

静岡にて。

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ウスバサイシンAsarum sieboldii。「アレ」の産地で見つけた。親は時期的に遅すぎて見られなかったが、しっかり卵は残したらしい。長野にて。

260.jpgムクドリSturnus cineraceusが、田んぼの畦でアマガエルを八つ裂きにしていた。普段、木の実とか小さい虫とか食っているイメージだが、脊椎動物を襲うのは初めて見た。その場で食わず、どこかへ持ち去ったので、恐らく巣で待つ雛に食わせるための餌だろう。
子育ての盛りを迎えた小鳥どもは、雛に与えるタンパク質を確保するため、普段捕らないような獲物を冷酷な手段で仕留める。こういうのを見るにつけ、やはり奴らは肉食恐竜の御眷属なのだと再認識させられる。

長野にて。

311.jpg
クロサンショウウオHynobius nigrescens。大学時代、学部のOBの方に教えて貰った秘密の場所。毎年決まった時期、産卵のため集まってくる。

310.jpg一体ふだんどこに隠れているのかと思うくらい、ものすごい数が集まる。水中に沈んだ枝に、アケビ型の卵のうを引っかける。本種の卵のうは、なぜか黄色く濁った色をしているが、地域によって濁らない卵のうを産む集団があるらしい。

280.jpgタチツボスミレViola grypoceras。タネが熟して、子房が裂けた。三つ叉に裂けた子房のさやは乾燥とともに縮んでいき、間に挟まっていたタネが勢いよくはじき出されていく。かなりの距離を飛ばされるらしい。

281.jpg飛ばされることで親株から離れることに成功したタネは、地面に落下する。そのあと、アリによって拾われ、さらに遠くへと運ばれることで分布を広げる。タネにはアリを誘引するエライオソームが目立つ。

282.jpgアズマオオズアリがいたので、例によってむりやり押しつけた。アリが種子散布するさまの写真は、書籍や学会・講演など、各方面で意外と利用価値が高い。今年はアリ散布植物にかなり注目している。

長野にて。

アリの巣図鑑の2刷を記念して、今週だけは一日2回更新しよう。

277.jpgセイヨウミツバチApis melliferaの分蜂群。この時期、ミツバチは巣分かれを行う。出て行く方の家族は新しい営巣先が見つかるまで、その辺の木の枝など適当な場所に大群でへばりつく。群れの最深部に女王がいる。

偶然、道ばたの木にかかっているのを見つけた。俺はいつかミツバチを家で育てて観察してみたいと思っているのだが、さすがに今の家では飼えないし、これを持って帰る方法もないので、下手に手を出すのをやめておいた。そもそも、こういうのは養蜂家が回収することになっているのかも知れないが。
夜になっても同じ所にいた。見た目のすさまじさとは異なり、実はこの状態が一番人間にとっては危険のない状態である。何しろ、守るべき巣がまだない状態だから。近寄ってそっと撫でてみたら、少し暖かい感じがした。内部に手を突っ込んでみようとも思ったが、触れたハチがみな腹部を上に反らして威嚇の体勢をとっていたので断念した。翌朝、この群れは綺麗さっぱり消えていたが、誰か回収したのか、それとも野良になったか。仮にセイヨウミツバチが野良になっても、夏にはスズメバチの襲撃でかならず全滅する。

長野にて。

243.jpgタゴガエルRana tagoi。国内に、核型や鳴き方が違ういくつもの集団がいるらしい。もしかしたら新種も混ざっているかも知れない。長野にて。

257.jpg東南アジア某所で発見したダニザトウムシ一種Sironidae sp.。夜、宿舎の離れにある便所小屋の前に普通に歩いていた。ダニザトウムシ科は、ウィキペディアや手近な文献を見る限りでは、世界的にきわめて変則的な分布をしているように書いてある。多くは北米とヨーロッパにおり、アジアではこれまで日本から1種知られているだけとある。
だから、これを発見したときにはとんでもないものを見つけたのではないかと思って小躍りしたが、実は東洋区でも最近そこそこ見つかっているという話を詳しい方から伺った。とんだぬか喜びだった。かつて南米エクアドルの森でも、この仲間を見たことがある。実際には地球上どこにでもいるのだろう。

226.jpgマメジカ一種Tragulus sp.。夜のジャングルで、目の前をよぎった。ウサギくらいの小さい動物で、とても用心深くて近寄れない。闇雲にシャッターを切ったら、亡霊の如くかろうじて写り込んでいた。
マメジカは、本物のシカとは分類的に遠い動物らしい。タイにて。

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アジアジムグリガエルKaloula pulchra。地上1.5mほどの木の洞から顔を出していた。木登りが得意ではない体型なのに、どうやってこの高さまで登ったのだろうか。タイにて。

229.jpg種類の分からないバッタの幼虫。親になったら、そこそこの姿に化けそう。ダニはオプション。タイにて。

獲物を屠る遺影ガー

289.jpgカマバエ一種Ochthera sp.。タイにて。

水たまりなどのぬかるみにいるハエで、信じがたいほどカマキリにそっくり。そして、見た目通りカマキリのように他の虫を捕食する。B級の怪獣映画に絶対出てきそう。

290.jpgユスリカの幼虫を、浅い水面下から引きずり出した。咀嚼できるアゴがないので、口を突き刺して吸うようである。なお、これと見た目遜色変わらないものが、ごく普通に日本にもいる。

291.jpgトゲアワフキ一種Machaerota sp.。意地悪な魔術師を彷彿とさせる。どうしてこんな姿になった。タイにて。

292.jpg虹色ゴミムシダマシ。実際に見た色彩を写真で再現するのが恐ろしく困難な生物の筆頭。日本にもニジゴミムシダマシというのがいるが、果たしてこれと近縁だろうか。
あいまいなものの喩えで「玉虫色」という言葉があるが、ニジゴミムシダマシ色のほうがしっくりくる。タイにて。

276.jpg信州の某湖。いにしえの伝説では、この辺りの湖には宇宙船が隠されているらしい。そして、近くの立ち枯れの木には地球人と宇宙人の接触した痕跡が残されているというのだが、探しても見つからなかった。そしてこれは何よりも驚くべき事実なのだが、なんとイチカ先輩も檸檬先輩も、どこにも姿がなかったのである。

どうでもいいことだが、あのご当地アニメのDVDがマレーシアのデパートで売られていた。すごい時代になったものだ。

275.jpgハシリドコロScopolia japonica。春先につりがね状の花を咲かせる。山菜と間違えて食べると発狂して死ぬと評判の、有名な毒草。別名キ○ガイナスビの称号は伊達ではない。さすがに実際に食べてどうなるかは試せないが、前に誰かが俺に「でもお前が食ったら、むしろ正気になってから死ぬんじゃないか?」と失礼な事を言った。

273.jpg扉温泉の周りにある森では、ちょっとしたギャップ的空間によく生える。というより、これ以外生えてない。シカが、これ以外の下草をみんな食い尽くしてしまうから。

扉温泉は、現在でも全国から多くの虫マニアが訪れているらしい(その割に、それらしい人間に遭遇しないが)。しかし、正直なところ、もうここは言うほどに虫探しに向いている場所ではなくなった。かつては山林から木材の切り出しを行っていた関係で、森の中に貯木場があり、そこが絶好のカミキリ採集ポイントだったという。しかし、今は山林が放置されて鬱蒼としすぎてしまい、カミキリはもう採りづらい。
それより何より、シカの食害が深刻を極めている。下草が何もない。俺が8年くらい前、原付免許を取って初めてここに来た時は、まだ下草がそれなりに生えており、珍しい花もあった。今では、草の代わりにシカの糞が地面に隙間なく敷き詰められているのみ。閑散期であれば、真っ昼間でさえシカの群れに眼前で出くわすことも普通だ。ここ最近のうちに、いかにシカが爆発的に増えたかを物語っている。やがては林床の乾燥化がすすみ、ゴミムシ類など地表性昆虫類も少なからぬ影響を受けるだろう。

長野にて。