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マレーグマHelarctos malayanusの爪痕。マレーグマにはまだ遭遇したことはない。世界最小の熊なので、そんなにおっかない動物ではないだろうとたかをくくっている。せいぜい小学6年生くらいの大きさだろうから、小6と戦って勝つくらいの戦闘力があればギリギリ引き分けくらいには持ち込めるかも知れない。

マレーにて。

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よくわからない鳥。勝手にチメドリ科Timaliidae sp.?と思っているが、多分違うだろう。日本のメジロくらいの小さい鳥だが、声はよく通る。宿舎脇の決まった木の梢で元気よくさえずる。

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夜、その脇の植え込みで眠りにつく。毎晩そこにいた。お休み中邪魔したね。

マレーにて。

素晴らしき大自然()

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ハシリハリアリLeptogenys sp.。軍隊蟻とは見なされないが、軍隊蟻同様に肉食性で、定期的に放浪しながら周囲の小動物を殺戮して回る。この属には多くの種が存在するが、この写真の赤黒い種類は特に大型の部類に入る。夜になると、恐らく数千以上のワーカーが森床を大挙してねり歩く。

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餌場を見つけると広範囲に行列が広がり、絨毯爆撃のごとくその場にいるあらゆる生物に襲いかかる。強力な毒バリを持っており、人間も集団で襲われると無事では済まない。しかし、このアリには結構いい好蟻性生物が居候するので、多少の危険をはらんでも喧嘩を売る価値はある。
この種はコロニーサイズが例外的に巨大だが、他の種類はワーカー数が数十から数百程度の小さいコロニーのものが多いと思う。
マレーにて。



数年前、タイの国立公園に行った。林内の歩道脇にしゃがんでこのアリの行列を見ていたとき、頭上の枝に手長猿がやってきた。すると、それを追うようにエコツーリズムか何かの白人が団体で来た。全員、ツバ広帽子と偏光サングラス、やたらポケットの多い迷彩柄のベストを装着し、肩にバズーカのような望遠鏡、首に双眼鏡という「自然愛好者」の風貌。傍らの日本人には目もくれず、頭上の手長猿を見ながら「かわいい!」だの「素晴らしき大自然だ!」だの「動物最高!」だの歓声を上げていた。やがて手長猿が移動すると、連中もそれを追って上を見ながら歩き去っていった。その時、足下の俺が見ていたアリを全部踏んでいったのを、俺は絶対に忘れない。

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チョウショウバトGeopelia striata。ムクドリくらいの小さいハトで、英名zebra dove。街中に普通にいる。マレーにて。

真珠の瞳

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シンジュメキガエルNyctixalus sp.。アオガエルだが全然青くない。海外のアオガエルにはこういう色のが多い。

夜間、低い葉上で鳴き袋を膨らませず「ピッッッピッッピッピピピ・・」と次第にテンポを上げて囁く。樹上性の傾向が強いアオガエル類を熱帯のジャングルで見ることは、殆ど奇跡に近い。

マレーにて。

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アタマアブ一種Pipunculidae sp.。マレーで撮影したが、全く見た目同じようなのが日本にも普通にいる。体の割に大きな頭が特徴。見た目はとぼけた感じのハエだが、これでもヨコバイなどの捕食寄生者。

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複眼が恐ろしく巨大で、顔の面積のうち殆どを占める。

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身繕い。自分の頭を自分で取り外そうとしてるようにしか見えない。もっと頭が外れているように見える瞬間がある。なお、この仲間は乾燥標本にするとすぐ頭が取れてしまう。

東南アジアのアリども。
IMG_5859.jpgナナフシアリMyrmicaria sp.。全身ごつごつしている。名前のナナフシというのは触角が7節からなるというだけの意味で、擬態の名人とは何の関係もない。マレーにて。

IMG_6026.jpgヒラフシアリTechnomyrmexかルリアリOchetellusのどっちか。小型種ながら、全身メタリックの美麗種。アリで全身青メタリックのものは、世界的に見てもそんなに普通ではない。マレーにて。

IMG_6084.jpgシリアゲアリCrematogaster sp.。おっとりした顔つきだが、結構短気。マレーにて。

IMG_8297.jpg別種のシリアゲアリ。シリアゲアリ属はとても種類が多く、生活様式も様々。マレーにて。

IMG_6398.jpgシワアリTetramorium sp.。日本の南西諸島に見られるイカリゲシワアリT. lanuginosumと恐らく同じ種。荒れた場所にいる。マレーにて。

IMG_7006.jpgヘラアゴハリアリMystrium sp.。鮫肌状の体にクワガタの頭をくっつけたようなアリ。地中に住み、肉食。マレーにて。

IMG_7238.jpgオオアリCamponotus sp.。森林で見られ、樹洞に営巣する。かなり大形で、噛まれると出血する。マレーにて。

Eighth Wonder of the World

ジャングルの愉快な仲間達。
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マダニ一種。マレーシアの調査地の森にはダニとヒルが無尽蔵にいる。元々多かったが、最近森でイノシシが増えているらしく、なおさらそれに付く寄生虫も数を増しているようだ。その筋の人曰く、この森のマダニはタカサゴキララマダニAmblyomma testudinariumにごく近縁な別種らしい。大きなものは吸血前ですらぞっとするほどのサイズだが、そういう大型の個体は人間を襲わない。面倒なのは、その子供と思われる体長1-3ミリの小さい奴。アリの行列を見るために長時間森に座ると、知らない間に服の中に入り込んできて素肌を刺す。

この森のマダニは、恐らくよそのマダニにはない禍々しい性質を持っている。刺されること自体に一切自覚症状がない(それもそれで困る)のだが、ふと刺されている事に気付き、ダニを外そうと患部に触れたとたん、この世のものとは思えない激痛が走るのだ。このダニは吸血時に患部の神経を局所的に過敏にする成分を注入するようで、たった1ミリ程度の虫の所行とは思えないほどの、まるで高圧電流を流されたような痛み。こうして、万が一寄主に現行犯を押さえられても、寄主に苦痛を与えて容易にむしり取られないようにしているらしい。実にやることがえげつない。
しかもこのダニ、人間の体には全身どこにでも取り付くのだが、特に言うのを憚られるような大事な部位にやたら取り付きたがる傾向がある。もはや嫌がらせのための生物としか思えない。しかし、マダニは伝染病リスクのある危険な寄生虫なのでずっと付けておく訳にもいかず、文字通り泣く泣く外すことになる。外した後は先の尖ったピンセットで八つ裂き。

常々思うこと。ダニ、ヒル、カ、ブユ、ナンキンムシ、シラミ、ノミその他、吸血動物は世の中に数あれど、どうしてどいつもこいつも揃いも揃って寄主を不快にさせるものばかりなのだろうか。絶対、進化的にみて適応的ではないと思うのに。長い地球の歴史の中で、寄主を心地よい気分にさせる吸血動物がこの世に1種類たりとも出現しなかったことは、世界八不思議の八番目に数えられるべきだと思う。

黄帯戦隊ドッペルゲンガー

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キオビシリアゲアリCrematogaster inflata。マレー半島やボルネオの森で見かける顕著なアリで、多くの個体が樹幹を上り下りしているのですぐ見つかる。。黄色く目立つ胸部が特徴だが、これは毒のあるサイン。このアリは毒アリで、敵に捕まるとこの黄色い胸から毒を出して身を守る。

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胸部後方に穴が空いているが、ここから白い毒液がでる。とても粘着性が強く、致命的ではないがかなり不味い味らしい。毒を出している所を撮影したくて何度か試みたが、うまくいかない。アリをピンセットでつまむと、つまんだときには出すのだが、暫くすると出した毒液を引っ込めてしまうのだ。毒液は少量なので、無駄遣いしたくないらしい。

ともあれ、森の捕食動物の多くはこの不味い毒アリを好きこのんで食べようとしない。こんな顕著に目立つ色彩、さらに個体数の多い有毒動物が存在すれば、それに似せることで身を守る別の生物が現れるというのは熱帯ではよくあること。実は、この毒アリに常に寄り添って生きている驚くべき擬態生物がいる。



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オオアリ一種Camponotus sp.。未記載なので種名はまだない。色彩、体サイズともに毒アリそっくりなこの無毒アリは、単独で見かけることはない。必ず、キオビシリアゲアリの行列周辺で見つかる。数は少なく、毒アリ50匹の中に1匹混ざっているかいないかくらいの頻度。よくよく見れば黄色い部位が違うので別物だと分かるが、野外ではしばらく見つけるのに時間を要する。

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本物と偽物が偶然交錯する瞬間。基本的に双方はあまり仲がよくなく、餌を分け与えあうことも原則ない。しかし、シリアゲアリは積極的にオオアリを追い払うことはせず、オオアリの方もつかず離れずシリアゲアリの居住区を拠点にして生活している。なんとも不思議な関係。ちなみに、この2者の関係はベイツ型擬態であることが実験的に確かめられている。

毒アリがいて、それに擬態したアリがいれば、絶対近くに「ヤツ」がいるはずだと思い、探してみた。

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やっぱりいた。好蟻性ハネカクシの一種Drusilla inflata。これは幹にはあまり登らず、キオビシリアゲアリの巣くう木の根本の地面に多い。力尽きて上から落ちてくるアリを捕らえて食い殺すようだ。恐らく、この毒アリを自発的に食う唯一の敵かも知れない。

毒アリがいて、それにそっくりなアリと好蟻性生物が存在するという現在の状態になるまでに、どんな進化的なイベントを経たのだろうか。どれだけの年月がかかったのだろうか。

マレーにて。

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イチジクの果実(花嚢)に集まった尾長の寄生蜂(Goniogaster sp.?)。この手の蜂は長い産卵管を果実に突き刺し、内部に住むイチジクコバチ科Agaontidaeに寄生するらしい。マレーにて。

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コガネムシ一種。夜間、植え込みのユリみたいな花に来る。マレーにて。

ガ・ミノガ一種1
ミノガ科一種Psychidae sp.。日本のキタクロミノガCanephora pungeleriiに似た雰囲気だが、これはマレーで撮影した種。明け方に羽化していた。

日本人は蓑虫の巣を「蓑」と表現する関係で、蓑虫を寒い地方の生物と思っている人が多いようだ。しかし、熱帯にもミノガ科は非常に繁栄している。あの巣は防寒というよりも、天敵の攻撃を防ぐ鎧としての意味合いが大きいように思える。

また、東南アジアの蓑虫には、蛹になる際に蓑を枝や家の壁などの基質に直に固着させず、写真のように1センチくらい糸を出して蓑を吊すものがいる。予想するに、東南アジアは肉食性が強いアリの個体数がとても多い。そのため、鎧たる蓑を着ているとはいえ、なるべく蓑を基質から離した状態にして少しでもアリに気付かれる確率を低くしたいのではないだろうか。

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ヤマアリ亜科の一種Euprenolepis procera。東南アジアでは異例の、キノコを主食にするアリ。夜行性で、夜キノコの多い時期に森に入ればあちこちで行列を組んでキノコを収穫するのが見られる。

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柔らかいキノコを見つけると、よってたかって囓り取って巣へ運んでいく。一匹が手頃な大きさの欠片に切り取るのに、1分もかからない。彼らがキノコの少ない時期に何を食っているのかは、よく分かっていない。飼育下では虫の死骸も食べるらしいが・・。
彼らの働きにより、小さなキノコはたちまちぼろぼろにされてしまう。

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傍若無人なキノコ狩りの猛威に、キノコ食いの専門家オオキノコムシErotylidae sp.もたじたじ。「俺のキノコなのに・・」という吹き出しを付けたい。

マレーにて。

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カマバチ科一種Dryinidae sp.。無翅の種が多いが、これは有翅の大型種。この仲間は半翅目を捕らえて一時的に麻痺させ、その体内に産卵してから解放する。

一昔前、「ミミック」という映画があった。害虫駆除に利用すべく何かの虫をいろいろ交配して作った生物が、やがて人間に擬態して人間を捕食するようになるという内容だったが、その生物が物凄くカマバチに似ている。

マレーにて。

夏色逢瀬

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キタクロミノガCanephora pungeleriiのオス。蓑虫は誰でも知ってるし、見たこともあるはず。でもそれの親を野外で見たことがある人間はどれだけ居るだろうか。蓑虫はミノガ科Psychidaeに属する蛾の幼虫の総称で、種毎に意匠を凝らした巣を作ることで知られる。しかし、その成虫は限られた時期の決まった時間にしか羽化せず、しかも短時間しか活動しない種が多いため、飼育でもしない限りそうそう見られるものではない。

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数年前、ひょんなことからこの種類の蓑虫が、6月半ばの明け方に羽化することを知った。

長野にて。

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ベニシジミLycaena phlaeas。長野にて。

筒がない友ガキ

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たぶんアカツツガムシ属Leptotrombidium sp.?一種。まるでぬいぐるみのウサギみたいで可愛い。丸っこくてフワフワしている。でも、あまりに仲良くしすぎるのは危険。

「恙ない」という言葉の語源がツツガムシにあるという説があるが、どうやら実際はそうではないらしい。

長野にて。

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ミヤマヒサゴコメツキHypolithus motschulskyi。主に高標高地に生息する、飛べないコメツキ。なで肩の甲虫は、飛翔筋が退化している種が多く大抵飛べない。本州では各地に生息するが、移動能力を欠くために各地で固有の亜種に分化している。これは八ヶ岳山塊特有の亜種で、親しい知人の名前が付いているのだが綴りが分からない・・

※亜種名は、Hypolithus motschulskyi ryoheiiでした。らな・ぽろささん、ありがとうございます。

長野にて。

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サイハイランCremastra appendiculata。長野にて。

デビルマンの故郷

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ギンランCephalanthera erecta。クロミドリシジミの幼虫が降りる頃、薄暗い森の中でひっそりと花を咲かせる。ここにはいくつかの株があって、年々減っている気がするが今年は多かったと思う。

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どの株もあまりパッと花を開かないが、一株だけかなり大きく開いたのがあった。だが、恥ずかしがって顔を隠しぎみ。住宅街のすぐ脇の雑木林だが、ここは野生ランに残された貴重な聖地。誰も知らない知られちゃいけない。
長野にて。

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クロミドリシジミFavonius yuasai幼虫。ミドリシジミ類は、オスの翅表がまるでモルフォ蝶のように美しく光り輝くので有名だが、これはオスの翅が渋い銅色の地味な種。でも、分布が限られている上に採りづらいので、マニアからの人気は根強い。本種は、長野県の天竜峡から新種記載された。
成虫を見るのはかなり困難で面倒だが、幼虫を見るのは楽。5月中旬に成熟した幼虫は、食樹であるクヌギの大木幹のかなり低いところに日中定位し、夜に梢へ移動して葉を食べ、朝には再び幹の低いところに戻る習性を持つ。日に日に定位位置は低くなり、やがて地面に降りて蛹になる。行きつけの秘密の森では、毎年5月のある日に行けば絶対に目線の高さまで降りてきているのを見られる。

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幼虫は、まるで地衣類のような模様をしているため、しばしば地衣類に擬態していると言われる。確かにクヌギにはよく地衣類が生えるし、こいつが地衣類の上にいる時は非常に見つけにくい。でも、虫本人には特異的に地衣類上で定位しようとする性質はないため、場所によってはむしろかなり目立ってしまう。かくして人間にはあっさり見つかってしまうのだが、本職の天敵である鳥などをごまかすにはこれで十分なのだろう。紛れるのでなく、自らが小さな地衣類の断片として振る舞いたいのかもしれない。

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定位場所によっては、地衣類が周囲になくても相当見つけづらい。なお、ミドリシジミの仲間は一部の種類を除いてアリとの関係を絶っている。アリに積極的にたかられることはないが、逆にアリに攻撃されることもほとんどないようだ。

長野にて。

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ホシミスジNeptis pryeri幼虫。植栽されたユキヤナギで見られる、典型的な人里の蝶のひとつ。若齢幼虫で越冬し、春のユキヤナギの芽吹きとともに急速に成長する。茶褐色の体はごつごつしており、しかも大抵体を微妙にひねった状態で枝に定位している。枯れたユキヤナギの葉にそっくりで、見つけがたい。

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遠目に見ると、生き物が居る感じがしない。野外で継続観察していても、やがて所在が分からなくなってしまうことが多い。

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冬に使っていた越冬巣の傍で。越冬後も令が若い内は越冬巣の周辺から離れない。

この蝶の幼虫が凄いのは、全身茶褐色なのではなく、一部緑の箇所があること(老齢幼虫で顕著)。ユキヤナギの茂みの中という、背景が常に緑の場所で全身茶褐色でいるよりは、この方が擬装効果が高まるのだろう。
長野にて。

ミクロウエスタン村

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マダラアブラバチPauesia japonica。初夏にクリの木の枝に大発生するクリオオアブラムシに寄生する。アブラバチ類は小型種が多いが、大型アブラムシに寄生する本種はかなりの大型種(といっても5ミリ程度)。クリオオアブラムシのコロニーはアリがしばしば守っているが、このハチはアリに対して特に対策を持たない。だから、アリの守りの手が及んでいないコロニーだけを狙って襲う。

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ホールドアップ!手を挙げろ。

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別のハチも姿を現した。これは寄生性のタマバチ類で、たぶんキジラミタマバチ科Charipidae sp.。これも次々にアブラムシに産卵管を刺していくが、こいつはアブラムシそのものでなくアブラムシ体内に既に生み付けられて育っているマダラアブラバチの幼虫に寄生する。だから、このハチは寄生するアブラムシを慎重に吟味して産卵に取りかかねばならない。このように寄生虫に別の寄生虫が寄生するのを二次寄生と呼ぶ。

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アブラバチは標的アブラムシの横から腹を伸ばして産卵するが、タマバチはアブラムシの背に乗って産卵する。産卵管を突き刺されるのは痛いのか、アブラムシはバタバタ脚を動かして背中のハチを蹴落とそうとする。それを振り落とされまいとしがみつく姿はロデオガールさながら。

アブラムシを直接攻撃するアブラバチと、それを攻撃するタマバチ。どちらも最後にはアブラムシを殺して食い破り、外へ出てくる。どちらが勝っても、アブラムシに未来はない。
長野にて。

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ヒラタアオコガネAnomala octiescostata。長野にて。本県では最近、分布域を拡大している。

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コツバメCallophrys ferrea。長野にて。

生キノコるには

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シリグロオオケシキスイOxycnemus lewisi。森でたまたま飛んでいるのをはたき落として採ったが、特徴的な色彩ゆえ飛翔中の段階で本種とわかった。この虫は分布は広いが、採りたいときに採れない珍虫の部類に入る。なぜなら、この虫はキノコの一種スッポンタケの仲間Phallaceaeにしか集まらないからだ。

スッポンタケは、ある日突然森の地面からニョキニョキ生えてきて(兆候は本当は事前にあるのだが)、ほんの数日で腐って消滅してしまう神出鬼没のキノコ。この虫は、恐らくこのキノコのかなり若い段階のものをめざとく見つけて産卵するのだろう。そして、すぐ孵化した幼虫はキノコが腐って消滅する数日以内にキノコを食って急速に成長し、蛹にならねばならない。短命なキノコに依存した甲虫は多く、いずれもこうした忙しない一生を送るようだ。

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昔、上高地に登山に行ったときに、森の中で偶然あの神出鬼没なスッポンタケが十数本まとまって生えている場所を見つけた。しかし、それらは全部根元からぶち折られ、縦に裂かれた状態で地面に散乱していた。件の甲虫を捕るためにマニアがやったのは一目見て明白で、せめて1-2本残しとけば、また来たときに採れるだろうにと思わずにいられなかった(上高地は、国立公園の特別保護地域なので全面採集禁止区域です!)。

スッポンタケの仲間は、そこそこ自然度の高い場所でないとなかなか見られない。環境が悪くなってキノコが生えなくなれば、シリグロオオケシキスイもいなくなっていく。

長野にて。

「メンマだ」「やわらぎだ」「まま、メンマで面倒起こさずに」という桃屋のCM

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ハリブトシリアゲアリCrematogaster matsumuraiが、餌を互いに引っ張り合って先に進めない。真ん中のヤツが仲裁に入ってそう。長野にて。

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たぶんニッポンツヤバチAlysson cameroni。ヨコバイ類を毒バリで麻痺させて狩り、巣にため込んで幼虫に食わせる狩人蜂の一種。前脚フ節が奇怪な形状をしている。長野にて。

今でこそアリ関連ごときの研究に傾倒してしまったが、幼い頃は愛読書のファーブル昆虫記の影響により、ハチの研究で名を成すつもりでいた。ハチというのは一般的な社会性のミツバチスズメバチの類でなく、こうした単独性の狩人蜂のことである。実のところ、俺はむしろアリがとても嫌いだった。嫌いというより、気にくわない生物だった。ファーブル昆虫記の中でもアリの扱いはとても軽く、内容の随所で悪逆な生物として描かれていたのを覚えている。

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オビマルツノゼミGargara katoi。ツノゼミだけど角はない。今の時期、日本の山野で続々と成虫に羽化している。図鑑には数少ない種類としばしば書いてあるが、群生しないだけで実際にはかなり多い種だと思う。むしろ、文献上では普通種のように見なされるただのマルツノゼミGargara genistaeのほうが明らかに近年珍しい。また、図鑑にはフジに付くと書いてあるが、クヌギやコナラにも割と居る。

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幼虫。大抵はアリが集まるがこれはたまたまフリー。ネット上では、本種の幼虫写真が高頻度でトビイロツノゼミMachaerotypus sibiricusと勘違いされて掲載されており、大手出版社の出す図鑑でさえも間違えることがある。オビマルは夏に成虫が羽化し、秋には産卵を終えて成虫は死に絶える。トビイロは逆に秋に成虫が羽化し、成虫で越冬する。原則、夏前に幼虫なのがオビマル、夏後に幼虫なのがトビイロで、両種は同時期に幼虫が存在しない。
長野にて。

なぞのキララ

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ヒューイットソンキララシジミPoritia hewitsoniのオス。タイにて。
キララシジミの仲間は東南アジアにいくつか種類がいて、いずれも小型ながら青く輝くきれいな翅を持つ。これをわざわざ採るor撮るために東南アジアに出向くマニアも多いようだ。画像検索すると、結構これを撮影した日本人のブログが引っかかってくる。その日本人の多くが顔見知り・・

そんな大人気のキララシジミだが、この蝶には大きな謎があって、幼虫が見つかっていない。この「見つかっていない」というのが、殆どなのか全くなのかはよく分からないのだが、とにかく幼虫期の生態が明らかにされていない。食草も分かっていないので、探しようがない。
生態の判明しているアフリカ産の近縁群(コケシジミ亜科Lipteninae)の生態から判断して、全身が白く長い毛で覆われた毛虫で、多数個体が群生しているのではないかと言われている。また、シジミチョウ科の蝶は幼虫期にアリと仲がいい種類が多いが、どうやらキララはアリと共生しない可能性が高いという。体毛が長過ぎるため、物理的にアリと接触できないというのが理由。

でも、これはあくまで推測なので、実際のところどんな姿の幼虫なのかはよく分からない。大体、成虫があれだけ多くの人間に撮影されている蝶なのだから、決して珍しい訳ではないはずだ。白い毛で覆われた目立つ姿というならば、歴戦の蝶マニアがもう発見していてもおかしくないのに。毛虫だから、蛾の幼虫と思われてスルーされているだけかもしれない。とにかく、謎。

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薄暗い森にたたずむメス。種名は分からない。マレーにて。
※種名はPoritia sumatoraeであると、数人の方から教えて頂きました。ありがとうございます。

俺の海外での調査地である山間部の森では、ある区画にいつもメスが見られる。日の光も差さない森の葉上に止まっては少し飛ぶという動きを延々繰り返している。蝶のメスがこういう飛び方をするのは、決まって産卵場所を求めているときなので、あれの跡をひたすら追えば絶対に食草まで導いてくれるはずだ。
しかし、奴はまだその神秘のベールを人間ごときに剥がさせる気がないらしい。ちょっと追いかけると、すぐに高い木の樹冠へ舞い上がり、追跡を強制終了させられるのが落ちだ。

好蟻性であるか否かに関係なく、いつかこの蝶の幼虫を探し出したいと思っている。きっと、誰かに先を越されそうな気はしているが。虫の世界は、まだまだ分からないことだらけだ。