2016/09/30|Category:未分類
屋久島の夕刻。夕陽を浴びて路面の随所にキラキラ輝いて見えるのは、車と衝突したウスバキトンボPantala flavescensの死骸。
夏季、屋久島では多数のウスバキトンボが飛び交っており、それらの多くが走行中の車にぶつかって死ぬ。路面に沿って歩くと、数え切れない程の死骸が落ちている。ここに限ったことではないが、自動車にはねられたりぶつかって死ぬ昆虫の数たるや、すさまじいものがある。いたずらに自然破壊の槍玉に挙げられがちな虫マニアが捕獲して殺す数など、クルマの足下にも及ぶまい(特定種のみ狙うマニアと、種を問わず無差別に殺す自動車を同列に語るのもどうかと思うが・・)。
ちなみに俺はペーパーなので四輪など怖くて運転できない。
殺戮量の尋常でなさにも関わらず、昆虫保護の現場において交通禍はザル状態と相場が決まっている。長野県では高山蝶のオオイチモンジを天然記念物として厳重に保護しており、成虫はおろか幼虫や卵の採集も徹底的に禁止している。この蝶の生息圏内でちょっとでも妙なそぶりをしていると即座に通報され、実際にはそういう目的でいた訳でなくとも監視員やら警察やらに痛くもない腹を探られる羽目になるほど。
しかし一方で、この蝶はしばしば吸水や路傍の獣糞を吸う目的で、しょっちゅう地べたに降りる。この時、林道工事の車両に少なからぬ個体が轢き殺されているのだ。悪いことに、この蝶は同種の仲間が止まっている場所に釣られて降りる癖がある。だから、一匹轢かれて路上に死体が出来ると、周りの個体もみなそこに降りてきてしまい、次々後続車に轢かれていく。それを見た周りの個体がさらにそこに降り、という死の永久機関が完成してしまうことになる。
前に上高地でオオイチモンジの撮影をしていた時、たまたまそこへ監視員(リタイア老人の再雇用)の車がさしかかり、こちらに対して「お前密猟してんじゃねーだろうな?」と因縁じみた尋問をふっかけてきた。こちらが他意のないこと、採集用の道具を一切持っていないことを示すと、向こうは疑念をなおも晴らさぬような顔をしつつ車で立ち去っていった。目の前の吸水中のオオイチモンジを轢きつぶしながら。
昆虫にとって、あらゆる意味で真の敵たり得るのは虫マニアではなく、普段虫の生き死になど毛ほども考えずに生きている人間である。