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夏のアルバムから。
2677.jpg屋久島の夕刻。夕陽を浴びて路面の随所にキラキラ輝いて見えるのは、車と衝突したウスバキトンボPantala flavescensの死骸。

夏季、屋久島では多数のウスバキトンボが飛び交っており、それらの多くが走行中の車にぶつかって死ぬ。路面に沿って歩くと、数え切れない程の死骸が落ちている。ここに限ったことではないが、自動車にはねられたりぶつかって死ぬ昆虫の数たるや、すさまじいものがある。いたずらに自然破壊の槍玉に挙げられがちな虫マニアが捕獲して殺す数など、クルマの足下にも及ぶまい(特定種のみ狙うマニアと、種を問わず無差別に殺す自動車を同列に語るのもどうかと思うが・・)。
ちなみに俺はペーパーなので四輪など怖くて運転できない。

殺戮量の尋常でなさにも関わらず、昆虫保護の現場において交通禍はザル状態と相場が決まっている。長野県では高山蝶のオオイチモンジを天然記念物として厳重に保護しており、成虫はおろか幼虫や卵の採集も徹底的に禁止している。この蝶の生息圏内でちょっとでも妙なそぶりをしていると即座に通報され、実際にはそういう目的でいた訳でなくとも監視員やら警察やらに痛くもない腹を探られる羽目になるほど。
しかし一方で、この蝶はしばしば吸水や路傍の獣糞を吸う目的で、しょっちゅう地べたに降りる。この時、林道工事の車両に少なからぬ個体が轢き殺されているのだ。悪いことに、この蝶は同種の仲間が止まっている場所に釣られて降りる癖がある。だから、一匹轢かれて路上に死体が出来ると、周りの個体もみなそこに降りてきてしまい、次々後続車に轢かれていく。それを見た周りの個体がさらにそこに降り、という死の永久機関が完成してしまうことになる。
前に上高地でオオイチモンジの撮影をしていた時、たまたまそこへ監視員(リタイア老人の再雇用)の車がさしかかり、こちらに対して「お前密猟してんじゃねーだろうな?」と因縁じみた尋問をふっかけてきた。こちらが他意のないこと、採集用の道具を一切持っていないことを示すと、向こうは疑念をなおも晴らさぬような顔をしつつ車で立ち去っていった。目の前の吸水中のオオイチモンジを轢きつぶしながら。

昆虫にとって、あらゆる意味で真の敵たり得るのは虫マニアではなく、普段虫の生き死になど毛ほども考えずに生きている人間である。

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夏のアルバムから。
2678.jpgドウシグモAsceua japonica。屋久島にて。

この種の南西諸島での記録は比較的貴重と思われる。樹幹で日没後に見つけたが、よりによって撮影時にレンズとカメラの接触障害が発生。撮影後に標本を確保するつもりだったのに、泡を食ってうんにゃらかんにゃらやってる間に命拾いされた。

夏のアルバムから。
2679.jpgシロマダラDinodon orientaleの幼蛇。屋久島にて。

ほんのすぐ南の奄美からは、同属のアカマタに置き換わってしまう。島の成り立ちが関係している訳だが、こうも分布がカッチリ分かれているのも面白い。

夏のアルバムから。
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クロイワツクツクMeimuna kuroiwae。屋久島にて。

九州本土の大隅あたりからいるものの、基本的には南西諸島の生物。ツクツクボウシの仲間だが、本家のツクツクボウシほどリズミカルで軽快な鳴き方をしない。「ヴーーーーエ゛ッエ゛ヴーーーーエ゛ッエ゛ヴーーー・・」と、シャックリするように気だるく夏を唄う。こいつの合唱以上に、夏の沖縄の昼下がりを演出するBGMなどない。
小笠原にいる天然記念物オガサワラゼミは、苗木に混ざって人為的に沖縄から持ち込まれたクロイワツクツクだという説が昔あった。今日、あの議論は結局どう決着したのだろうか。

屋久島には本家ツクツクボウシも分布するが、ここの個体群は鳴き方がおかしい。本土の奴と違い、歌の末尾を「ウィーヨーシ、ウィーヨーシ」でしめず、ずっとツクツクボーシツクツクボーシを早口で言ってそのままジューーーで終わってしまう。ツクツクボウシは地域により鳴き方に方言があるらしく、台湾にいる、おそらく日本のツクツクボウシと同種だと思うが、それは歌の末尾になると突然声が裏返って首を絞められたようなものすごい鳴き方に変わる。台湾の森で最初にそれを聞いたとき、何が起きたのかと思わず同行の日本人と顔を見合わせてしまった。

2673.jpgサガノセキメクラチビゴミムシRakantrechus fretensis

九州中部沿岸の限られたエリア(などと隠すも野暮な名前だが)に分布する地下性生物で、近接して分布するウスケメクラチビゴミムシの友達。外見ではウスケと全く区別できないが、交尾器形態は異なる。要領さえ分かっていれば、この手の生物としては見るのは簡単な部類だが、そうでない者には一匹も見つけられない。そしてその方がこの虫の安寧のためである。

ラカンメクラチビゴミムシ属は、さらに複数の亜属に分かれている。その一つウスケメクラチビゴミムシ亜属Pilosotrechiamaは、長らくウスケ1種のみからなるとされてきたが、近年このサガノセキをはじめ複数の新種が見出され、4種からなることになっている。うち3種は九州産なのに対し、残り1種は豊後水道を挟んで対岸の四国沿岸に分布が飛ぶ。かつてこの二つの地が地続きだったことを物語る、まさに生きた歴史書である。
そんなわけで、最新版である環境省レッドデータブック2014(昆虫編)95ページのウスケメクラチビゴミムシの解説文にある、「本種のみからなるウスケメクラチビゴミムシ亜属」という記述は正しくない。

誠に申し上げにくいが、最新版の環境省レッドデータブック昆虫編におけるメクラチビゴミムシ類の解説文は、しばしば最新の文献をフォローせずに書かれており、現行に即していない。例えばマスゾウメクラチビゴミムシの解説文中に「原記載以後採れていない」とあるが、実際は近年まとまって採れている。


Ueno S (2008) The Blind Trechines of the Subgenus Pilosotrechiama (Coleoptera, Trechinae) from Eastern Kyushu, Southwest Japan. Elytra 36(2), 369-376.
北山健司 (2007) マスゾウメクラチビゴミムシの追加記録。ねじればね 119:15-16.

2674.jpgマアジTrachurus japonicus。大分にて。

恐らく将来、関アジと呼ばれるものになる幼魚。俺が釣ったわけではない。

2665.jpgサナエ。九州にて。

オナガサナエだろうか。

2666.jpg川の上流から流されてきた、クサガメMauremys reevesiiの形の腐肉。九州にて。

すでに息はなくとも、貫禄十分。手足を投げ出し、「もうどうにでもしやがれ!」とでも言い出しそう。

2667.jpgアゲハモドキEpicopeia hainesii。宮崎にて。

毒を持つジャコウアゲハにそっくりなのだが、それより遥かに小さい。鳥などはモデルと体サイズが著しく違っていても、色彩さえ似ていれば騙されるのだろうか。
東南アジアには、後翅に白い模様のあるベニモンアゲハ風のジャコウが分布する。確かタイだったと思うが、前に東南アジアのジャングルで、全く同じように後翅に白紋のあるアゲハモドキを見つけたときは、ここまで似せるのかと心底びびった。もしかしたらアゲハモドキではなくマダラガかも知れない。

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キイトトンボCeriagrion melanurum。オスの腹部だけが首根っこを握ったままのメス。九州にて。

イトトンボは雌雄が連結したまま産卵する。大抵、抽水植物の茎に止まり、それを伝ってメスは潜水するが、オスは水面から出ていることが多い。また、この時オスは腹部のみでピンと直立した体制となるので、遠目に見ても非常に目立つ。そのため、産卵中に水面から目立つ体制でじっとしているオスは、しばしば捕食動物の恰好の標的となる。
池でイトトンボを見ていると、時々オスの残骸に首を掴まれたままのメスを見かけることがあるが、それはそういうことがあったためと考えられる。少なくとも、ネット界隈で囁かれている「カマキリのように交尾中メスがオスを食い殺したから」ではない。

限りなく嘘くせー話だと思っているが、一説ではオスは産卵中のメスが天敵に襲われないよう、わざと目立つ体制でメスに寄り添い、敵襲の際には自分が身代わりになってメスを逃がすのだもと言われている。

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オグラコウホネNuphar oguraense。九州にて。

公共機関に配ったら、あまりの地味さとキモさに即座に丸めてゴミ箱に直行しそうな、「守りたい日本の絶滅危惧種ポスター河川流域編」。2663.jpg2662.jpg申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

※訂正。ヤホシホソマダラは準絶滅危惧カテゴリ。

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シオマネキを見た川の上に通してあった電線に、釣りマニアが投げて引っかけて放置したルアーがあった。いつから引っかかっているのだろうか。

静岡のとある河口には、上に橋が通してあり、ここでしばしば釣りマニアがルアーを投げる。しかし、その橋の傍には平行に電線が通してあり、しばしば釣りマニアは投げた仕掛けをそれに誤って引っかけ、そのまま放置していく。俺が幼稚園くらいの頃そこに引っかかっていたある仕掛けは、その後もずっとそこにあり続け、俺が大学に入った後まで同じ場所にあり続けた。ある時見あたらなくなったので、電力会社が来て取り除いたか、何かの偶然でようやく千切れて下に落ちたかのどっちか。
後者の場合、今度は落ちた先の海の底に引っかかり、そこでまた生き物の命を脅かし続けているであろう。要するに、電線のある場所で投げ釣りなぞすんなということである。

2629.jpgシオマネキUca arcuata。九州にて。

せっかくこっちにいる以上、一度は見に行かねばならないと思って見に行った。やや硬くしまった泥のある塩性湿地のような環境を好むらしい。ハクセンシオマネキなら比較的九州のどこでも見るが、無印のやつはかなり珍しく、決まった場所に行かないとまず見られない。しかし、そのエリア内では多産する。極めて大型でカッコいい。

2628.jpgシオマネキは鋏を振って求愛するので知られるが、種によってその動きはかなり異なる。ハクセンはブルンブルン回転させるように素早く振るのに対し、無印はゆっくり伸びをするように真上に挙げ、ストンと落とすような動きをして見せた。
もう繁殖期は過ぎているものの、それでもオスはメスが近くまで来たときに限り、求愛ダンスをしてみせた。できれば正面を向いてほしかった。

最近はすっかり離れてしまったが、中学くらいの頃カニに相当はまった時期があった。たまたま書店で「カニ百科」(成美堂出版)という本を立ち読みして、一気にとりつかれてしまったのだ。特にスナガニ科の仲間は大好きで、数あるカニの中でも一番洗練された部類に入ると思う。
カニ百科は、日本で見られる代表的なカニを多数カラーページにて紹介するばかりか、採集や飼育の方法、はては食い方や伝承に至るまでさまざまなアプローチでカニに親しむための情報が満載の良書だった。俺は当時店頭で見た瞬間に買ったが、その後あっという間に絶版になったらしく、二度と書店で見かけることはなかった。今でも時々この本を開いて当時をしのぶ。

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キキョウPlatycodon grandiflorus。山口にて。

2618.jpgスズムシHomoeogryllus japonicus。山口にて。

西日本では割と普通だが、東日本から殆ど出たことがなかった身としては、その辺にスズムシやマツムシが沢山いるという状況は大層希有に思える。特にスズムシなど、幼い頃から出店で売られているか近所の家で飼われているものしか見たことがなかったため、本当にこれが日本において野生でも生存している生物なのか本気で疑った時期さえあった。

ある草原を夜中歩いていたら、沢山の個体が地面に出てきていた。そして、彼らは道端に落ちているキツネやタヌキの糞に集まり、一心不乱にそれを暴食しているのだった。万葉の和歌にも詠われた美声のスズムシは、一方で下手物喰いを平気でする昆虫なのだ。
もっともスズムシは雑食なので、ウンコを食い散らかすのは別に不思議でも何でもない。飼育する際にも、ナスやキュウリのみならずちゃんと煮干しやカツブシを喰わせないと、仲間内で共食いしてしまう。動物のウンコはタンパク質を豊富に含むため、彼らにとっては重要な餌の一つだ。

俺が今まで生きてきた中で見てきたスズムシの姿は、ほとんど全てが人間の家の中でケージに飼われていた姿だった。小綺麗にセットされたケージ内で、小綺麗な野菜を食いながら美声で鳴く、人間に媚びたような姿ばかりだった。そのスズムシが、人目も憚らず野生をむき出しにして、吐き気を催す腐臭・死臭を放つウンコを食い荒らしている様をみて、ああ、これはまさしく野生の生物だったんだなと思い、妙に嬉しくなったのである。

2627.jpgヒロバネヒナバッタStenobothrus fumatus。大阪にて。

少し山手に入らないと見ない。オスは後脚内側を翅にこすりつけ、シュルルルルーー・・と言う。ヒナバッタ類は皆鳴くが、種により多少鳴き方が違う。この仲間も長野じゃクソほど見たが、今ではすっかり遠い存在になってしまった。

2623.jpgヒゲナガケアリLasius productus。大阪にて。

大木の幹に木屑でトンネルをこしらえ、その内側でアブラムシを保護する。

2626.jpgサカハチチョウAraschnia burejana。大阪にて。

2625.jpgテングアワフキPhilagra albinotata。大阪にて。

久々に見かけた。やや山手に入らないと見られない種で、長野にいた頃は掃いて捨てるほど見た。遠くなって分かる有り難みをひしひしと感じる。

2624.jpgキスジホソマダラBalataea gracilis。大阪にて。

比較的標高の高い、涼しめの所で見かける。

2622.jpgオナガグモAriamnes cylindrogaster。大阪にて。

普通種だが、普段あまりにもクモ離れした体勢をとって静止するため、知らないと一つもこれを森で見つけられない。

枝葉の間に1-2本の粘着しない糸を張り、そこで細い体を一直線にしている。たまたま糸を伝って他のクモが歩いてくると、本性を現して襲いかかる。

2620.jpgクチベニマイマイEuhadra amaliae。大阪にて。

東海・近畿を中心に分布する大型カタツムリ。生息圏内ではド普通種だが、その圏内に普段いない身としては珍しいもの。初めてまともにその姿を拝んだと思う。名前の通り、殻口の紅色が美しいのだが、それ以上に俺は殻全体の白磁を思わす象牙色のほうに息を飲んだ。関西に住んでいる人間どもは、こんな美しいものを近所で見ながら生きてるのか。ズルいにも程がある。

カタツムリには地上性のものと樹上性のものがいて、基本的にそれぞれがそれぞれの領分を侵さず生活している。この種は樹上性で、みな判で押したように木の幹で見つかる。カタツムリは、どうやって自分が地面にいるとか樹上にいるとかを自覚しているんだろうか。

2621.jpgナガゴミムシ一種Pterostichus sp.。大阪にて。

土木作業の傍ら出土したもの。赤脚プテロは至高の存在。これと見た目変わらないものを、犬型県と黒糖焼酎島で見たいのである。後者に関しては、おそらく現地協力者の多大な助力なしには達成できない。現在、秘密裏にその精霊に会うための諸手続きを進めている。

2619.jpgキボシマルウンカIshiharanus iguchii。大阪にて。

大きさも見た目もテントウムシそっくり。不味いモデルに擬態しているものと思われるが、そんな姑息な威を借る真似せずとも危険が迫ると瞬間的に吹っ飛んでいなくなる脚力をもつ。

ホームセンターの殺虫剤コーナーにでも張られそうな「守ろう日本の絶滅危惧種ポスター里山編」。
2616.jpg2617.jpg蝶と蜻蛉とカブトクワガタを徹底的に排除した仕様。そもそも環境省レッドに掲載された陸上節足動物およそ800種強のうち、8割方はそういう有象無象で構成されている。
申し訳ないが「環境省レッドにおいて準絶と情不は絶滅危惧種の範疇ではない」等の言いがかりはNG。

2613.jpg今回ケニアで見た様々な好蟻性類の、ごくごく片鱗の氷山の一角。ほぼ全て、生きた姿で撮影されるのが史上初の面々だ。皆々様の多大なるご支援が、俺を彼らと出会わせてくれた。しかし、その全貌を明かすのはまだ時期尚早である。

サスライアリ共生者、ヒゲブトオサムシ、オオキノコシロアリ共生者を中心に大きな成果があった。こんなものまでいるのか!と思うようなものも幾つか発見できた。反面、期待していたツムギアリが一匹も見つからなかったのは意外だった。また、アリ共生アカシアも全くなかった。ケニア自体にはあるらしいのだが、我々が出向いた調査地にピンポイントで生えてなかったらしい。
現地で、ナイロビの街すぐそばにそのアカシアが多産する場所があることを案内人から聞いた。だが、そこに行くことは出来なかった。ケニアの野外調査の規則で、あらかじめ調査許可申請書に書いた場所以外の場所に行って即興調査することは、許されていないのだ。後ろ髪引かれる思いで、ケニアをあとにした…とはいかなかった。




今だから書くが、帰国前日になって突然帰りの便の航空会社がストライキを決行することになり、飛行機が飛ばなくなってしまったのだ。
しかもそのスト決行の事実を、俺が当時利用した某代理店(仮にも国内最大手の一つ)が一切こちらに連絡してこなかったばかりか、別便手配すらしてくれず、大変な事に。ストに関する諸々の情報は、全て上記とは別会社の代理店を利用した同行者から聞いたもの。つまり、この同行者がもしいなかったら、俺は当日何も知らずに意気揚々と空港へ出向いて、その場でfxで有り金全部溶かす顔になっていた訳である。宿もなく、普通に建物内で強盗殺人銃撃乱射が起きるあの空港で。

俺らの知った事じゃねーからてめーでどうにかしろ(の意の丁寧な言い方)と代理店に言われ、ただでさえ危険なナイロビ市街地の一番ヤバい区画を同行者と右往左往して、現地の航空会社に直談判しに行く羽目になった。電話なんか通じない。境遇を同じくする皆が同時に航空会社にかけまくってるから。
結果、別便を取ることは出来たが、代理店が「俺らの知った事じゃねー云々」をこちらに知らせてくるのが余りに遅過ぎたせいで初動が遅れ、予約可能な直近の便がなんと二日後のしか残ってなかった。そのため、俺は世紀末都市にただ一人取り残され、一歩も宿から出られず、二日間瞑想するか同行者が残していった小説「殺し合う家族」を熟読して過ごす他なかった訳である。泣きっ面にファービー。

そんな生命の危機もあったが、好蟻性図鑑世界編を完成させるまでは殺されても死ねないため、三途の川の船頭をサスライアリ責めにして、隙をついて逃げ帰ってきた。よって、好蟻性図鑑世界編は近未来のうちに必ず完成します。

2615.jpg日本に帰る前日、ナイロビの博物館で昆虫標本を見せて貰った。博物館から眺めた下町の一角。

標本の中に、睡魔族の王ツェツェバエの標本が沢山あった。このハエに刺されると冗談で済まないことになるため、アフリカでは最も気をつけねばならない存在の一つ。しかし一方で、俺はこの不思議で奇妙な生物をひとまず見るだけは見てみたかったのだ。アフリカ大陸の真の支配者たる彼らに会わずして、アフリカの土を踏んだことにはならない。

ケニアのサバナと言えば絶対ツェツェバエに会えると思っていたのだが、今回野外でとうとう一度も見ることはなかった。実はケニアは、ツェツェバエの駆除がアフリカで一番成功した国らしく、ほとんどもう野生に生息しないらしい。タンザニアのほうがまだツェツェバエの個体数が多いという話を後で人づてに聞いた。またアフリカに行く理由が出来た。

2614.jpgナイロビへと戻る。この後何が起きるかも知らずに。

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ドナドナされていく家畜。

マリガットを離れる日の朝、ちょうど朝市が開かれる日だったらしく、多くの人々が広場に家畜を連れて集まってきていた。普段こっちの人々は、家畜を野放しにして育てているため、縄で繋ぐようなことはしない。家畜が繋がれるのは、出荷されるとき。つまり、死ぬとき。
昨日まで自由気ままに生きていたのに、今朝起きたらいきなり足をロープで繋がれて無理矢理どこかへ引きずられていくので、あるものは泣き叫びながら逆走を試み、あるものはその場に座り込んで動かない。肉体的な苦痛に加えて、自分がこの後どうなるかを周りの雰囲気で察しているのかも知れない。
見ていて沈痛な気分になったが、その後普通に肉料理はガツガツ食った。人間と家畜の関係とは、そういうものである。