2009.02.09 朝日新聞はこんな報道でいいのか
レイプされた女性を自爆犯に勧誘した、という記事
坂井定雄(中東ジャーナリスト)

 2月7日朝刊9面。「イラクで勧誘活動―女性80人を自爆犯に」。1段の小さな記事だが、報道の倫理と基本的手法に反した、見逃せない報道だ。

 「[カイロ=田井中雅人]イラクでレイプ被害にあった女性らに近づき、80人以上の女性自爆犯に仕立てた女が、このほどイラク当局に捕まった。女性自爆犯は国内各地で28回の自爆テロを実行していた。イラクでは最近、女性による自爆テロが増えているが、その背景が女性の供述から明らかになった」と書き出している。AP通信の報道をカイロ支局で仕立て直した記事だが、報道責任は朝日新聞にある。

 AP通信の独自取材か、イラク当局の発表が情報源のようだが、この朝日新聞記事には、どのように取材したのか、誰があるいはどの機関が、どのように情報提供したのか、まったく書いていない。イラクでは(もちろんイラクに限らないが)、米軍やイラク軍、警察の発表や情報提供には、嘘や事実の歪曲が多々あることを、記者もデスクも知っているはずだ。だからこそ、重要なニュースほど、現地通信員の判断を聞いたり他の情報、報道とのクロスチェックをしなければならないのだが、この朝日記事は、あっさり「その背景が女性の供述から明らかになった」と断定しているのだ。
 イラクでも、アフガニスタンでも、パレスチナでも、母親から女子学生までが実行する女性の自爆テロは、最も悲惨な、やめてほしい、とても深刻な出来事だ。「なぜ、どうして」と多くのの人々が深い疑問を持っている。だからこそ、米軍やイラク治安当局が、捕まえた女性自爆犯や指導者を拷問と恩賞で寝返らせ、都合のいい自供を作り出したのかもしれない、とチェックするのが、イロハじゃないのか。

 BBCの報道を電子版でチェックしてみた。2月4日12:44GMTの「Iraq’s “female bomber recruiter“」をぜひ読んでほしい。まずBBCは、治安当局が逮捕した女性ジャシムの所属や「80人の女性を自爆犯としてリクルートした」といった事がらについて、すべて「イラク治安当局者によると」「軍スポークスマンが記者会見で述べた」と、情報源を特定している。さらに、記者会見で、ジャシムの自供を記録したというフィルムを見せた、と伝えている。そして、BBCはこの報道の終わりに、記者会見の前にAP通信がジャシムと単独インタビューしたことについて、次のように書いているー「1月21日に彼女が逮捕された1週間後、APが行った単独インタビューのなかで、ジャシムは、反乱勢力がより多くの自爆攻撃者を作り出すために、組織的レイプを利用したやり方について述べた。彼女の役割は、レイプされたことを苦しむ女性たちに対し、自爆攻撃だけが苦しみから逃れる唯一の道だと説得することだった。APは、彼女の主張を検証することは不可能だ、インタビューのあいだ警察の尋問官が続き部屋に座っていた、と述べている。しかし、レイプは被害者にとって非常に恥ずべきことされる文化の中で、彼女の主張は信じがたいと現地特派員たちはいっている」

 AP通信自身が「検証できない」といっているジャシムの自供についての記事から、どうして朝日新聞は「明らかになった」と事実認定できるのだろうか。

Comment
はじめまして。はてなブックマーク経由できました。
僕もこの事件について記事を書いているので、知っている情報を書かせて頂きます。

まず僕の記事はコチラ。
http://digimaga.net/2009/02/iraqi-woman-recruited-a-suicide-bomber.html

News.com.auの第一報を翻訳し、独自情報を混ぜ込んだものです。
多少過激になっていますが、そこはサイトの方向性だと理解して下さい。

この記事から数時間後、アルジャジーラが報じた内容を知ったのですが
(記事は失念しました。英語記事です。報道時間は不明)
女性はたしかにアンサール・アル・スンナに属していましたが、
同時に脅迫をされていました。

サミラには家族がおり、協力しない場合はその家族を殺す
(正確には家を爆破する)と脅されていたのです。
そのため、彼女は協力していたとアルジャジーラは報道しています。

参考になれば幸いです。
Shinohara (URL) 2009/02/10 Tue 09:25 [ Edit ]
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