2010.04.30 混種語 (hybrid)
ことば (70) 日本語の混種語

松野町夫 (翻訳家)


日本語の語彙には、やまとことば・漢語・外来語がある。これら異種の語を組み合わせたものを混種語という。ゆとり教育・空きスペース・迷惑メール・ハイブリッド車など。

ゆとり教育 = ゆとり(やまとことば) +教育(漢語)
空きスペース = 空き(やまとことば) + スペース(英語)
迷惑メール = 迷惑(漢語) + メール(英語)
ハイブリッド車 = ハイブリッド(英語)+ 車(漢語)

混種語は英語でハイブリッド (hybrid) という。「ハイブリッド」は簡単にいうと「雑種」。ハイブリッド車は、電気自動車とガソリン車の雑種(混血)で、2つの異種のエネルギー源(モーター&エンジン)を搭載している。

混種語は英語にも存在する。英語の混種語は、ギリシア語・ラテン語・仏語などから構成される。television(ギリシア語+ラテン語)、sociology(ラテン語+ギリシア語)、courtship(仏語+英語)、because(英語+仏語)など。

日本語の混種語は伝統的に漢語系(やまとことば+漢語)が多いと思う。重箱読み(=音読み+訓読み: 団子・頭取・両替・外為など)とか、湯桶(ゆとう)読み(訓+音: 雨具・手製・手本・消印など)する語もこの部類に入る。しかし、漢語系の混種語は、日本語化しているうえに両語とも漢字で表記されていたりして、即座に取り出すのは難しい。実際、漢字だけで表記された漢語系の混種語は、混種語というよりも日本語そのものという感じがする。たとえば、石段・背番号・中食・表門・総出・両手・係員・荷馬車・赤頭巾・桜前線・待合室・反対側・連絡先など、混種語だといわれてもすぐにはピンとこない。一方、幕切れ・黒板消し・いちご白書・ゆとり教育・にこにこ作戦・燃え尽き症候群・もったいない精神・思いやり予算などは、一目で漢語系の混種語だとわかる。

石段(いしだん) = 石(やまとことば) + 段(漢語)
背番号 = 背(やまとことば) + 番号(漢語)
中食(なかしょく): = 中(やまとことば) + 食(漢語)
中食とは、総菜などを購入して持ち帰り、家で食べる食事の形態。(対義語:外食)

ここでは、主として英語系の混種語について述べる。なぜ英語系の混種語なのか、理由は英語系の混種語だけがこのところ激増していることによる。非英語系外来語の混種語は少ない。英語系の混種語は通常、カタカナと漢字で表記されるが、新傾向として、HIV 感染など、アルファベットと漢字の表記が次第に増えてきているのは注目に値する。

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