2011.10.12 霧ヶ峰八島ヶ原湿原の秋
八ヶ岳山麓の四季 63

小口隆三
                         

八ヶ岳山麓とは隣同士になる霧ヶ峰高原は茅野市、諏訪市、下諏訪町にまたがって広がる標高1500m前後の広大な高原です。そこには国から天然記念物に指定されている湿原が三つあり、なかでも標高1630mの八島ヶ原(やしまがはら)湿原は高層湿原として湿原研究者の間では有名です。湿原は、冷涼な気候ゆえにバクテリアが活動しないため植物が腐敗せずに堆積し続け、それが泥炭層を形成してできるのですが、八島ヶ原湿原の場合は一年に1mmづつ約8000年に亘って堆積してきて、泥炭層は8mに達しているそうです。
 八島ヶ原湿原は日本の自然保護運動の歴史に深く関わっているところでもあります。新田次郎氏の小説「霧の子孫たち」(1970年)のテーマになっていますが、長野県企業局が有料観光道路(ビーナスライン)の建設を計画、当初予定したコースはこの湿原と旧御射山遺跡(鎌倉時代)を横断するものでした。貴重な湿原と遺跡を守るため地元有志が粘り強い反対運動を展開、湿原と遺跡を迂回するコースに変更させることで決着。これが日本の自然保護運動の発端になったとも言われています。

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《写真(1)》
「八島ヶ池」の全景です。10月初旬には早くも晩秋の雰囲気が漂っていました。

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《写真(2)》
「八島ヶ池」の浮島です。例年9月中旬ころは植物がきれいに紅葉し水面を染めます。

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《写真(3)》
「鎌ヶ池」の畔の草紅葉です。

八島ヶ原湿原を地元の多くの人たちは古くから「七島八島」(ななしまやしま)と呼び慣わしています。湿原には「八島ヶ池」と「鎌ヶ池」の二つの池があり、それぞれの池には浮島があります。今回の撮影時には池の周りの草紅葉(くさもみじ)と湿原をとりまくススキの原野がなかなか見事で強く印象付けられました。

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《写真(4)》
湿原を取り囲むススキの原野です。奥の方の小高い丘もススキで覆われていて近づくと白色に見えました。

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《写真(5)》
青空に漂う秋の雲です。

撮影場所:(1)(2)3)(4)(5)   八島ヶ原湿原(長野県下諏訪町)にて
撮影年月日  (1)(2)3)(4)(5)   2011年10月4日  
2011.09.13 夏から秋にかけて咲く花々
八ヶ岳山麓の四季 62

小口隆三 
               

夜になると虫の声がにぎやかです。紀伊半島など各地に大きな被害をもたらした台風12号が去り、八ケ岳山麓では日ごとに秋の気配が濃くなっています。夏から秋にかけてのこの時期に身近に咲く花々を撮りました。この辺りは標高が千メートル前後の高地ですから花々は小さく可憐なものが多いのですが、ていねいに見ているとそれぞれが精一杯に咲き、次の世代へ引き継いでいく様子が分かるような気がしてきます。

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《写真(1)》
ナデシコにもいろいろありますが、これはシナノナデシコ(信濃撫子)です。信州に多く咲いているのでこの名があります。別名はミヤマナデシコ(深山撫子)。富士見町の中の人目につきにくい野原に群生していましたが、これだけまとまって咲いているのは珍しいそうです。

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《写真(2)》
フシグロセンノウ(節黒仙翁)です。ナデシコ科の多年草で夏に咲きます。国道20号線沿いの山林の中に咲いていました。

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《写真(3)》
シュウカイドウ(秋海棠)です。初秋に咲く花は透き通るような淡紅色で、可憐で儚げです。

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《写真(4)》
オミナエシ(女郎花)は秋の七草のひとつで、お盆(盂蘭盆)に仏前に供える盆花でもあります。たまたま庭の片隅の狭いところで羽化して羽をひろげていたキアゲハをオミナエシの花の上にそっと移し、広いところで羽を乾かせるようにしました。キアゲハはこのあと間もなくどこかへ飛び去っていきました。

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《写真(5)》
ガマズミ(の実です。秋になると紅色の実がきれいです。

撮影場所:(1)(2)(3)(4)(5)  長野県富士見町にて
撮影年月日(1):2011年7月23日(2):8月16日 (4):8月17日
(3)(5):9月8日 
(写真をクリックすると拡大されます)
2011.07.02  梅雨の晴れ間
八ヶ岳山麓の四季 61

小口隆三 

雨天・曇天が続きうっとうしい気分の梅雨期です。それに加えて今年は大震災・放射能汚染が重なり、鬱積したうんざり感は爆発寸前、もう限界です。
そんな中で、6月22日は、久しぶりに青空が出て梅雨の晴れ間の日になりました。折角の貴重な機会を逃さぬようにと、入笠(にゅうかさ)湿原へ出かけてきました。この湿原(標高1734m)は私が住む長野県富士見町西域の入笠山の一郭にあり、高地に生育するさまざまな植物が豊富なところ。今は夏の花々が咲く時期に当ります。
青空の下で山のきれいな空気を胸いっぱいに吸い込んで気分転換してきました。今回は湿原から少し離れたところにある「実験植物園」まで足をのばし、「布袋敦盛草(ホテイアツモリソウ)」を見てきました。布袋敦盛草については《写真(5)》で説明します。

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《写真(1)》
白樺の木が立っている湿原です。赤色の花をつけるレンゲツツジが咲き始めています。時折聞こえてくる郭公(カッコウ)の鳴声を耳にしながら晴れ渡った青空を見上げていると鬱屈した気分はどこかへ消え去り、明るい気分になれました。

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《写真(2)》
湿原のあちらこちらに白い小さな花をびっしりとつけた「小梨(コナシ)」の木が点在しています。小梨は別名「酢実(ズミ)」。この湿原も含まれる入笠山山域には小梨の木がいたるところに生育していて、ちょうど今が花盛りです。

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《写真(3)》
入笠湿原はスズランの群生地としても有名です。湿原の周囲の斜面にはスズランが群生しています。《写真(2)》の斜面全体を覆う緑色は群生しているスズランの葉の色です。
白くて小さい、可憐なスズランの花を写真に撮る際の撮り方はいろいろあるかと思いますが、今回はごく普通の、ありのままの姿を写してみました。

撮影場所 :(1)(2)(3)  長野県富士見町 入笠湿原にて
撮影年月日:(1)(2)(3)とも 2011年6月22日 


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2011.05.22  田植えの準備
     
   八ヶ岳山麓の四季 60

小口隆三 
                         

五月連休の頃から陽光が濃くなり、それにあわせるように八ケ岳連峰の裾野に広がる水田・畑地のあちらこちらで農作業が始まります。田んぼに水を入れてトラクターで耕したり、稲の苗を育てるなどの田植え準備作業を見ていると、山麓全域に何となく活気が湧き出てきたような感じで、爽やかな初夏の日々を迎える喜びを覚えます。
同じ信州でも例えば標高600メートルの松本平、安曇野方面ではすでに田植え作業が始まっているようですが、標高1000メール前後のここ八ケ岳山麓での田植えは約半月遅れの五月下旬です。今回は農作業が始まった水田の周辺、遠景を撮りました。

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《写真(1)》
ここは瀬沢新田(富士見町)という地域にある水田で、なだらかな段々状になって山麓の斜面に広がっています。水田の向うに立っている欅(けやき)の大樹の芽吹きが始まっています。遠景には南アルプスの甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山が見えます。

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《写真(2)》
ここは田端(富士見町)という地区にある水田です。遠景には鳳凰三山が見えます。水田の向うにあるのは樹齢約300年の霞桜(かすみざくら)です。地味な色の小さな花がたくさん霞がかかったように咲き、地域の人々にとってはこの開花は農作業の目安になっています。開花の時期は染井吉野や枝垂桜などお花見の対象になる桜より半月ほど遅く、お花見の桜としての人気はありません。ここ数年、この大樹と甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山とを組み合わせた風景がカメラマンの間で注目され、遠路はるばる撮影に来る人もいます。

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《写真(3)》
稲の苗を育てている原村(諏訪郡)の水田です。遠景は残雪の八ケ岳連峰です。

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《写真(4)》
遠くに八ケ岳連峰を望む田んぼに水を張りトラクターで耕しています。トラクターを運転している人に「写真を撮らせてください」とジェスチュアーで挨拶したらOKの合図をくれました。しばらくして運転を止めて話しかけてきました。85歳だそうで、「10歳の頃父親にカメラを買ってもらって以来、ずっと写真を撮り続けている」のだそうで、脱帽でした。

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《写真(5)》
田んぼの土手にタンポポが咲いています。甲斐駒ヶ岳が遥か遠方に頭を出しています。

撮影場所:
(1)(2)  長野県諏訪郡富士見町にて
(3)(4)(5)長野県諏訪郡原村にて

撮影年月日:
1)(2)2011年5月8日
3)(4)(5)同年5月9日

2011.05.06  今春の桜
   
   八ヶ岳山麓の四季 59

小口隆三

                      
季節の変わり目であるこの時期、ようやく暖かくなったかと思えば寒い日があったりで、自然の動きは単純ではありません。例年ですとそれほど気にすることではないのですが、今年は進行中の大天災・人災に圧倒され脅かされ続けているせいか、このあと大自然が私たち人間にどんな形で啓示を与えてくるのか、いろいろと気懸かりになっていることがあります。
その一つが「今春の桜はつつがなく咲いてくれるだろうか」です。
私が住む富士見町(長野県諏訪郡)は八ヶ岳連峰南麓にあり、標高は千メートル前後。桜が咲くのは4月下旬から5月初旬にかけてです。町内には、残雪の甲斐駒ヶ岳を背景に咲く枝垂桜の老樹もあり、これらが例年通りに咲くかどうか気懸かりでした。
桜が開花する4月下旬は変わりやすい天候の日々が続きがち、ともすると撮影に出るのを躊躇、逸機してしまうこともあるのですが、今年は何が何でも撮りに行こう、行ってこの目で桜の様子を確かめようと思い立ちました。
桜の樹があるあちこちを走り回り、「つつがなく堂々と咲いている桜」の姿に安心しながら撮ってきました。


四季1
《写真(1)》
富士見町・高森(たかもり)地区にある「高森観音堂の枝垂桜」。樹齢約250年。右後の辛夷(こぶし)の大樹の白い花も満開。高森観音堂は無人寺です


四季2
《写真(2)》
富士見町・田端(たばた)地区にある枝垂桜の老樹。前日は雨降りで、後景の甲斐駒ヶ岳には相当量の降雪があった様子がうかがえます


四季3
《写真(3)》
富士見町・乙事(おっこと)地区にある「薬師庵の枝垂桜」


四季4
《写真(4)》
富士見町・乙事地区の畠の中に咲く桜。遠景は甲斐駒ヶ岳

四季5
《写真(5)》
上川(かみかわ)の土手にある桜並木。諏訪市・四賀(しが)地区の河川敷には水仙が植えてあり、桜の花との組み合わせが人気。上川は八ヶ岳山麓に降った雨が諏訪湖へ流れ込む最大の川。

撮影場所:(1)(2)(3)(4) 長野県諏訪郡富士見町で
     (5)長野県諏訪市四賀 上川河川敷で

撮影年月日:(1)(2)2011年4月25日 (3)(4)(5)同年4月30日
2011.04.29 諏訪湖西岸の春
八ヶ岳山麓の四季 58

小口隆三 


八ヶ岳山麓に春の前触れともいえるオオイヌノフグリやヒメオドリコソウ(姫踊り子草)等の可憐な花が咲き始めるのは2月下旬から3月上旬。まだまだ冬が居座って威張っている中で寒風にも屈せずに敢然と小さな花を咲かせている健気な姿をみると、近づいてくる春の足音が聞こえたような明るい気分になり励まされます。

3月中・下旬には梅の蕾がふくらみ、やがて花がちらほらと咲き始め、福寿草も負けじとばかりに花を開きます。長く厳しかった冬がようやく立ち去り、日毎に陽射しが濃くなり日脚も伸びて、例年ですと体の中から開放感が湧きあがってきて心がはずんでくる時期なのですが・・・・・・。今春は東日本大震災、福島原発暴走事故が重くのしかかり、どうにも春をめでる気分になれないままに4月下旬になってしまいました。
諏訪地方は3月11日の大地震では被害はありませんでしたが、余震(震度4)の際には諏訪湖周辺では大きく揺れて、諏訪湖の水がザブンザブンと揺れ動いたそうです。
この地域はホッサマグナ(中央地溝帯)の西縁にあたる糸魚川静岡構造線の上にあり、そう遠くない将来発生すると予想されている東海地震の影響は相当なものになりそうです。日本列島いたるところに地震の巣があるそうですから、東北関東の人々が天災・人災と苦闘している姿は明日のわが身かも知れず、決して他人ごとではありません。

気分転換を図ろうと重い腰をあげて、諏訪湖西岸の岡谷市・湊地区方面へ遅い春を探しに行ってきました。梅の花は最盛期をやや過ぎてはいましたが、まだまだきれいでした。諏訪地方の今は梅の花が終わりにさしかかり、桜が開花し始める、いわば梅と桜が同居する時期。日当たりのよいところでは満開に近い桜もありました。今年の桜、例年通りつつがなく咲いてくれるのか、見届けて後日報告したいと思います。
福寿草が勢いよく群生していて圧倒されました。この花の魅力は咲き始めた頃の清楚な姿にあると決め込んでいましたが、逞しい肝っ玉美女群を連想するような繁殖力旺盛な群落も捨てたものではありません。

諏訪大社・上社付近では自生している連翹(れんぎょう)を見かけ、撮りました。鮮やかな黄色い連翹も春を告げる花で、一般の家の庭先にもよく見かけます。夕日に照らされた連翹を見つめていると、透明な黄金色とでもいえそうな一種ノーブルな雰囲気が醸し出されてくるように思えることもあります。
何故かは分かりませんが、早春の花には黄色いものが多いようです。思いつくだけでも、連翹の外に福寿草、たんぽぽ、菜の花、水仙、たんこうばい(壇香梅:クスノキ科の低木)、あぶらちゃん(油瀝青:クスノキ科の小高木)等々です。
気を取り直して春から初夏にかけての野外の様子を追い求めようと思っています。

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《写真(1)》
小高い丘にある梅ノ木。背後には諏訪湖と、対岸の岡谷・下諏訪の市街地が見える

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《写真(2)》
満開の梅の花。後景に残雪の八ヶ岳連峰が見える

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《写真(3)》
風が当らず日だまりになっているところでは桜が満開状態で元気に咲いていた

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《写真(4)》
福寿草の群落。太陽光を浴びて貪欲に光合成に励み次世代のために栄養分を貯えている姿に、自然の逞しさを見た

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《写真(5)》
山の斜面に自生している連翹(れんぎょう)。鮮やかな黄色が特長

撮影場所
(1) (2) (3) (4)  岡谷市・湊・小坂地区で
(5) 諏訪市中州・諏訪大社上社付近で

撮影年月日
(1)(2)2011年4月20日 (3)(4)(5)同年4月21日

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2011.02.11 真冬の南アルプス北部の山々
八ヶ岳山麓の四季 57          

 
小口隆三 
                   

八ヶ岳山麓から見える南アルプスの山々、すなわち鋸(のこぎり)岳、甲斐駒ヶ岳、早川尾根、鳳凰(ほうおう)三山は、南アルプス最北端の山々です。その奥、つまり南方向には白峰三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)、仙丈ヶ岳、塩見岳、荒川岳、赤石岳、聖岳等々の3千メートル以上の錚々たる山々が連なっているのですが、諏訪側からはそれらの山々の迫力ある姿を見ることはできません。
南アルプスとは、赤石山脈の中の標高が高い部分の山々を指す名称。赤石山脈は長野県、山梨県、静岡県にまたがる広大な山脈です。諏訪湖を頂点とした三角形をイメージすると、釜無川・富士川から駿河湾(静岡県)までの線を東側の辺と見なし、諏訪湖から流れ出る天竜川から遠州灘(静岡県)までの線を西側の辺と見なすことができ、その二つの辺に挟まれた山地が赤石山脈だといえます。
八ヶ岳山麓に降った雨は、富士見町の中に横たわっている分水界によって西側の諏訪湖へ流れ込むものと、東側の釜無川へ流れ込むものとに分かれます。西側は諏訪湖・天竜川を経て遠州灘へ、東側は釜無川・富士川を経て駿河湾へ、それぞれ流れ込みます。八ヶ岳山麓に降った雨は赤石山脈を挟む東側の線と西側の線とに分かれて流れ下り、やがては太平洋で再会するのです。
そんなことを考えながら真冬の南アルプス北部の山を撮りました。

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《写真(1)》
真冬の昼下がりの甲斐駒ヶ岳(2966m)。日本百名山の一つで、いつ見てもほれぼれする山容です。稜線にガスか雪煙かが吹き上げられているのが遠望できます。

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《写真(2)》
右から高嶺(2779m)、地蔵岳(2764m)、観音岳(2840m)。鳳凰三山とは地蔵岳、観音岳、薬師岳(2780m)の三山を指し、日本百名山の一つです。この写真では薬師岳は観音岳の背後に隠れています。地蔵岳山頂には岩塔がピュッと屹立していて遠くからも目につき、地蔵岳オベリスク(巨大な尖塔)とも呼ばれます。高嶺から右は早川尾根に続き、甲斐駒ヶ岳に至ります。

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《写真(3)》
鋸岳(2685m)は山容が鋸の刃に似ています。この山は一般にはあまり知られておらず、登山路は未整備、登るのは高度な登山技術を備えたごく少数の人です。山から西側に張り出す尾根を下ると横岳峠(富士見町)で、釜無川の源流地点です。ここから流れ出た水は釜無川を経て富士川になります。1180年に源氏と平家がこの富士川で行った合戦「富士川の戦い」はよく知られています。その頃富士川を流れていたのも鋸岳から流れ出た水だったのかと思うと地味な鋸岳に歴史の光が当ったような不思議な気持になります。

撮影場所はいずれも長野県富士見町
(1)は高森(たかもり)地区 (2)は烏帽子(えぼし)地区 (3)は葛窪(くずくぼ)地区

撮影年月日
(1)2011年1月10日 (2)(3)同年2月1日
2011.01.29 凍る諏訪湖
八ヶ岳山麓の四季 56

小口隆三 

諏訪湖は標高759m、面積は13.3平方キロm、周囲が15.9kmの湖です。
かつて諏訪盆地に住む人々にとっては、冬になると諏訪湖が全面結氷するのは当然至極のことで、全面結氷の証しである「御神渡り」(おみわたり)ができると季節が尋常に推移しているのを実感して何となく安堵したものです。諏訪湖周辺の小中学校では生徒は朝、直接諏訪湖に集合、湖上に作ってある自分の学校のリンクでスケートをしてから学校へ戻り、午後の授業を受けたという時代もありました。
しかし、いつ頃からか諏訪湖の全面結氷は珍しいことになりました。地球規模の気候変動や温暖化、あるいは高度経済成長に伴う諏訪湖周辺の著しい人口増などの環境変化が影響してのことかもしれませんが、厳寒期になっても湖面にはさざ波がたち、岸辺が少し凍るだけというような年もあります。最近は諏訪湖が部分的にでも結氷すればニュースになり、ましてや全面結氷して「御神渡り」ができれば大ニュースです。
「御神渡り」というのは、全湖面に張った10センチを超える厚い氷が日中、夜間の気温の変化につれて膨張、収縮を繰りかえしているうちに亀裂が入り、それが湖上で山脈状にせり上がってできるものです。
今冬は全国的に厳しい気象が続いていますが、諏訪湖も例外ではなく、全面結氷したり一部がとけたりを繰り返していて、「御神渡り」への期待が高まっています。「御神渡り」ができるかも知れない諏訪湖の様子を撮りました。

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《写真(1)》
岡谷市塩嶺公園展望台付近から見下ろした午後の諏訪湖。中央部から西側(諏訪湖の流出口・天竜川方面)にかけては水面が出ているが、薄く張っていた氷が午後になって溶けたものと思われる。遠景は富士山

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《写真(2)》
岡谷市、下諏訪町、諏訪市の市街地に囲まれた諏訪湖。中央部から東にかけては凍っている部分がかなり広がっているのが分かる。遠景は八ヶ岳連峰

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《写真(3)》
諏訪市大和(おわ)地区の湖岸の凍っている湖面

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《写真(4)》
岡谷市横河川(よこかわがわ)河口付近の白鳥飛来地の様子

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《写真(5)》
岡谷市湊地区湖岸で、背後の山に夕日が落ちた後の凍結した湖面。立ち入り禁止の赤旗が立ててある。対岸は夕日に映える諏訪市市街地と八ヶ岳連峰

撮影年月日  (1)(2)(5)  2011年1月18日撮影
       (3)(4)    2011年1月19日撮影

撮影場所  長野県岡谷市塩嶺公園(1)(2)。横河川河口付近(4)。湊地区(5)。
      長野県諏訪市大和地区(3)

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2011.01.18 厳冬期の八ヶ岳の表情
八ヶ岳山麓の四季 55

小口隆三 

八ヶ岳山麓も連日朝の気温が氷点下10℃前後、日中も気温が氷点下の「真冬日」と、厳しい寒さが続いています。この時期の山には雪が付いて、他の季節では見られないような陰影がくっきりと現れ、立体的且つ間近に見えるように感じます。
今回は山麓のあちらこちらを回り、厳寒期の八ヶ岳の山々を撮りました。

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《写真(1)》
八ヶ岳連峰の南部・全景
主な山々。左から硫黄岳、横岳、赤岳、阿弥陀岳、権現岳、編笠山

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《写真(2)》
主峰・赤岳(2899m)。その左は阿弥陀岳(2805m)

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《写真(3)》
阿弥陀岳)

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《写真(4)》
横岳(2835m)

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《写真(5)》
権現岳(2715m)

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《写真(6)》
左から、天狗岳(2645m)、根石岳、箕冠(みかむり)山

撮影年月日  (1)(4)(5)  2011年1月11日撮影
       (2)(3)(6)  2011年1月10日撮影

撮影場所 長野県茅野市湖東地区(1)(4)(5)(6)同豊平地区(3)
     長野県富士見町入笠山登山道(2)

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2010.11.25   晩秋の「日の出」「月の出」

八ヶ岳山麓の四季 54          

小口隆三
                    
晩秋の「日の出」「月の出」をテーマにして写真を撮りました。
はじめに「日の出」についてです。
八ヶ岳連峰の南麓にある富士見町で見ていると、朝日が昇る位置は秋が深まるにつれて北方向へ移動して、だんだん八ヶ岳連峰に近づいてきます。そして日の出の時には連峰南端の山々(編笠山・西岳)から南にのびる稜線上に太陽が顔を出し、朝の光が山麓に射し込んできます。この瞬間を目にすると、私はいつも何故か改まったような気分になるのです。今回この光景を撮ってみようと思い立ちました。
稜線から太陽が顔を出し始めてから線上に昇りきるまでの時間は約2分半。この間に自分が思い描いている日の出の写真を首尾よく撮れるかどうかが勝負。そのためには日が出るのは稜線のどの辺りかを実際に自分の目で確かめ、画面に稜線の頂上にあたる編笠山が入り且つ邪魔物が写らない位置を山麓のあちらこちらと探し歩いて、早朝その場所で撮影してみて、駄目だったら翌朝は別の場所で再挑戦。これの繰り返しと試行錯誤を重ねていたら、いつの間にか早朝に出かけた回数は6回になっていました。

「月の出」の方は、11月21日夕刻に昇る満月に狙いを定めて月初めから待ちました。日没後間もない暗くなりかけた八ヶ岳連峰の主峰部から昇ってくる満月を自分のイメージ通りに撮れれば万々歳。このシーンは年1回、11月の満月の時だけに出現する貴重な機会で、月を題材とする写真としては第一級と言えましょう。
11月の満月の写真撮影は年一回の一発勝負です。八ヶ岳の主峰部から顔をのぞかせた満月がグングンと昇って中空に浮かぶまでの約6分間、懸命に撮るのですが、情け容赦なくどんどん暗くなってシャッターが切れにくく、さらに徐々に暗闇が増し視界が厳しくなって構図も決めにくくなります。焦り続きの数分間です。今年撮れなければ来年まで待たねばなりませんから、「見事な満月!こんなに神秘的で美しいものがこの世にあるとは・・・」などと、優雅に晩秋の明月鑑賞と洒落てる場合ではありません。撮影の結果は「まあまあ」というところでしょうか。天気がよかったこと、撮影場所がよかったことなど好運でした。
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