世の中、面白い漫画家がいくらでも埋まっている。
重要なのは探すバイタルと出会い。
面白い漫画に出会うことが、楽しみの一つである
蔵間マリコです。
昨日は、数日前の大雪の影響で入荷していませんでしたが、広島県でも購入できましたよ~。
コミックフラッパー出身、
週刊少年ジャンプで連載していた『
サムライうさぎ』で有名な漫画家、
福島鉄平の短編集『
スイミング』と『
アマリリス』を。
いや~、これは今月発売の漫画の中でも、特に買いたかった作品だったんですよねえ。雑種多様のジャンルがひしめく集英社の青年誌の中、突然として現れた
福島鉄平先生。自分は
サムライうさぎの存在こそ知れど、福島先生の作品そのものに触れたことが無かったから、どんな漫画を書くのかと読んだら、まさにハンマーで頭をガツンと殴られたような感覚に襲われましたからねえ。
WJの媒体では受けが悪いのも仕方ないと思うと同時に、こんなに素晴らしい漫画家が埋まっていたなんて思いませんでしたよ。ホント、素晴らしい漫画に出会うということはまさにこのことだ。
とまあ、
福島先生の作品に出会った日をちょっと思い出していましたが、今回はその初めて出会ったという表題にもなっている
アマリリスについてちょっと感想を書きたい。まあ、少しネタバレにはなるかもしれませんが、そこは許してください。
物語の主人公は、親に捨てられ、借金返済のために「へんたいのおじさん」に売られ、男婦として働く11歳の少年、ジャン。歌だけでなく、性的なサービスなどを強要される日々に嫌気がさしたある日、サッカー好きの少年、ポールと出会う。すぐに打ち解け、彼といる時間が楽しくなるが、その一方で自身の隠している秘密に後ろめたさを感じ……。そして……。
あさりよしとおや吾妻ひでおに通ずるメルヘンチックな画風である一方、それに見合わぬ暗くて重たいストーリーに、「へんたいのおじさん」というダイレクトにインパクトのあるキャラクター名、男婦という普通じゃあ扱わない設定。このアンバランスでとことん尖った作風は、
アマリリス以降の青年誌作品にも見受けられるが、
アマリリスがまさに転換期といえるほどの強烈なものとして仕上がっている。これは、当時ネットで少し騒ぎになったのも十分すぎる。
だけど、この作品はBLといったものではない。少年ジャンが、ポールに対してへの純愛を描いた純文学的な作品である。ポールのことが親友として好きだ。しかしながら、自分が男婦などという誰にも悟られてはならない仕事をしている。そして、ポールを汚してはならない。そんなアンビバレンツな感情をジャンは抱いており、苛み、涙させる。そして、それを守るために取った行為がポールへの接吻。
結果として、秘密を守ることは出来たが、ポールから嫌われてしまった。しかし、ポールはポールで、ジャンを守るために裏で庇っていた。そして、ラストの男婦として店に籠もり、いつものように歌を唄うジャンの姿には希望の光が無いただただ絶望の暗い道が広がるばかり。これを悲劇と言わずしてなんと言う。見た目や設定ばかりが目を引くが、作品として描いたものはまさに純文学そのものである。
でも、書き下ろしのオマケ漫画もとても良かった。暗澹たる結末で終わった読みきりだったけど、書き下ろし漫画があったおかげでジャンもポールも救われた。男婦などという枷などなく、ただただ普通の親友として描かれていたのだから。掲載時にこの場面は必要ないけど、単行本だからこそ許される技であろう。
珠玉の名作ばかりが連なる『
スイミング』と『
アマリリス』。
今回はアマリリスの話題に終始したけど、他の読み切りもなかなか面白い。スイミングスクールに通う中学校卒業間近の少年少女の青春を描いた『
月・水・金はスイミング』、料理屋を切り盛りする兄と日々武術に勤しむ弟の『
イーサン飯店の兄弟は今日も仲良し』、孤児院に送られた領主の娘の遭遇した不思議な出来事『
ルチア・オンゾーネ、待つ』などなど……。画風と作風が好き嫌い分かれるだろうけど、間違いなく質の高い作品が読める。興味がある方は、ぜひ買うと良いかもしれない。きっと、新たな世界が広がるから……。