はてなキーワード: テュルク系民族とは
「ウイグル」は民族名だ。地名じゃない。「新疆」とか「東トルキスタン」とか「ウイグリスタン」ってのが地名だ。
「ウイグルでひどいことが起きている」のように「ウイグル」を地名のように扱うのは見ていて恥ずかしいので即刻やめろ。何もわかっていないのが丸わかりだ。「ウイグル人にひどいことが行われている」のように民族名として扱え。
「アイヌ」と同じだ。「アイヌ」という民族はいるが「アイヌ」という土地はない。「北海道」や「アィヌモシㇼ」が地名であって、「アイヌ」は地名じゃない。
北海道でアイヌの伝統的なサケ漁が禁じられていることを「アイヌで漁を禁止された」と言ったらおかしいだろう? 「アィヌモシㇼで漁を禁止された」か「アイヌが漁を禁止された」と言うべきだ。
「チベット」や「モンゴル」は民族名でも地名でもある。「日本」や「朝鮮」と同じだな。「朝鮮で弾圧が起きた」でも「朝鮮人が弾圧された」でもOKなように、「チベットで弾圧が起きた」でも「チベット人が弾圧された」でもどっちでもよろしい。
話をウイグル人に戻すと、「新疆ウイグル自治区」ってのは「新疆」にある「ウイグル人の自治区」って意味だ。
中国は民族区域自治を採用しているから、少数民族が集まって住んでるところには「○○(地名)・××族自治州」みたいなのが設置されている。その一番でかいやつ(省と同格)が自治区だ。
だからたとえば、内モンゴル自治区の外にモンゴル人が大勢住んでいるところがあれば、そこは「○○・モンゴル族自治県」のような行政区域になる。
新疆ウイグル自治区にはウイグル人以外の少数民族もそれなりに住んでいるので、新疆ウイグル自治区の内側にはイリ・カザフ自治州があり、さらにその内側にはホボクサル・モンゴル自治県というのがある。これを「カザフ」や「モンゴル」とするのは間違いだ。それはあくまでも「イリにあるカザフ人の自治州」「ホボクサルにあるモンゴル人の自治県」であって、土地の名前は「新疆」にある「イリ」や「ホボクサル」だ。
仮にサンフランシスコの日本人が自治権を獲得して、「サンフランシスコ日本人自治区」ができたとして、それを「日本」と呼ぶのはどう考えてもおかしいだろう? 「新疆ウイグル自治区」を「ウイグル」と略すのも文法的にはそれと同じことだ(ウイグル人は日系アメリカ人と違って先住民族なので政治的には大違いなのだが、そこはひとまず措いておく)。
世界の国名の中には、「○○人の国」という意味の国名がいくつもある。英語で考えてみると、東欧のスロバキアはSlovakiaで、スロバキア人はSlovaksという。Slovakの国だからSlovakiaなのだ。Croatsの国だからCroatiaで、Scotsの国だからScotlandだ。これは、日本や朝鮮や琉球のように、「○○」という国がまずあって、そこの国民だから「○○人」、という名付け方とは真逆になる。
日本語ではそこを考えず「スロバキア人」「クロアチア人」「スコットランド人」としているわけだが、いくつかの民族については、日本語でも厳密に民族名と地名を区別している。
わかりやすい例を挙げると、「アラブ」がそれだ。「アラブ人」の土地だから「アラビア」なのであり、「アラブ諸国で」「アラビアで」とは言うが「アラブで」とは基本的に言わないはずだ(ところで、言語名が「アラビア語」なのはよくよく考えるとおかしいと思う。言語は土地じゃなくて民族にくっついてるんだから「アラブ語」だろうJK)。
そして、中央アジアでは、このへんきちんと区別されている。カザフスタンの基幹民族はカザフ人だ。民族名の「カザフ」に「~の土地」を意味する「~スタン」をつけて「カザフスタン」だ。同様に、トルクメン人の国だから「トルクメニスタン」で、ウズベク人の国だから「ウズベキスタン」で、歴史的にテュルク系民族がいっぱい住んでた土地だから「トルキスタン」なのだ。
「ウイグル」もこれに当てはまる。「ウイグル」は民族名であって、地名に使うのは間違いだ。「ウイグル人の土地」と言いたければ「ウイグリスタン」、中国語で「新しい土地」と言いたいなら「新疆」、「歴史的にトルキスタンと呼ばれてきた地域の東半分」と呼ぶのなら「東トルキスタン」だ。
ウイグル問題に関心を持つ人が大勢いるのはとても良いことだ。東トルキスタンで起きているジェノサイドは許されるべきではないし、中国政府の所業は大々的に糾弾されるに値する。だが、もうちょっと正確な語法を使ってもらえまいか。少し事情を知っている者からすれば、「ウイグルで弾圧が起きた」のような文章を見ると「書き手はウイグル問題の基礎知識を理解できていないのでは?」と不安になってしまうのだ。せめてそれが民族名であり、地名ではないことくらいは意識しておいてもらいたい。
自治州・自治県レベルだと新疆の外にウイグル人の自治領域はないっぽい。これはウイグル人が新疆に集住してるという事情があるからだと思う。ていうかウイグル人(テュルク系)が集住してるからトルキスタンっていうわけで。
回人の自治州が寧夏の外にもあちこちにあるのは、彼らが散らばって住んでるからだよね。モンゴル人自治州があちこちにあるのと同じ。この2民族は歴史的経緯から居住地が広範囲にわたっている。
チベット人自治州は青海省とかチベット自治区の周りに集中してるけど、これは自治区がチベット人の居住地に比べて狭すぎるからだよな。あのへん、前近代は清朝とガンデンポタンの勢力圏が重なり合う地域で、現在の中国の行政区画はそういう曖昧な領域の多くを自治区から外してるから、自治区の外にたくさんのチベット人地域が取り残された形になってる。
Black Lives Matter運動、違和感がありつつもうまく言語化できなかったんだけど、色々読んでいくうちに違和感の正体がわかった気がした。
たとえばロヒンギャへの支援を訴える運動は、ビルマ政府のロヒンギャ弾圧はひどいよね! ビルマに圧力をかけてロヒンギャ弾圧をやめさせよう! というものであり、世界中でひどい扱いを受けているイスラーム教徒として連帯しよう! みたいな運動ではない。
ウイグル人やチベット人の抑圧を訴える人たちも、中国政府の扱いはひどい、中国政府は弾圧をやめろ、と言っているのであって、全世界的に仏教徒やテュルク系民族は弾圧されてる! ということが言いたいのではない。
本来、Black Lives Matterもそういう運動、つまりアメリカの黒人はアメリカ政府やアメリカの警察に弾圧されている、アメリカ政府ひどいよね、世界のみんな、アメリカに圧力をかけてくれ! という話だったらよく理解できるんだよね。
でも、全世界的に黒人がひどい扱いを受けてる! それぞれの国でBlack Lives Matterを叫ぼう! 日本でもBlack Lives Matterのデモをしよう! って言われると、は? ってなる。
確かに日本にも黒人差別はあるし、オコエ瑠偉とか大坂なおみとかが差別された体験を語ってるから、日本にそんな問題はない! って言うつもりは毛頭ないけど、警察官が特定人種ばかり狙って射殺してくるとか、無抵抗の被疑者の首を押さえつけて窒息死させたとか、若い黒人男性が刑務所にブチ込まれまくってて黒人コミュニティが崩壊してるとか、そんなんはアメリカだけの問題だろ!
10年以上前にFree Tibetが盛り上がってて日本でもデモをやってたけど、あれは中国はチベット人への弾圧をやめろ! 日本からも中国に圧力をかけるのを手伝うぞ! という運動であって、日本のチベット人差別はけしからん! という訴えではなかった。
でもBlack Lives Matterは、少なくとも東京で行われたデモは、アメリカは黒人差別をやめろ! 日本からもアメリカの警察に圧力をかけるぞ! という運動ではなく、日本の黒人差別はけしからん! という運動になっている。
なんかおかしくね?
なんでアメリカ人って自分たちの問題=世界の問題だって思い込んじゃうの?
こういう、自分たちの問題=世界の問題、アメリカの差別事情=世界の差別事情だって思い込むアメリカ人の自己中心性っていうかアメリカ中心主義、見事にアメリカおよび英語圏の持ってる権力に由来するものだし、非英語圏出身のアジア人からすると「け、権力勾配~~~!!!」って感じがすごいするんだよね。
ローカル事情を自分たちの母語で叫んでるだけで全世界に訴えを聞いてもらえる身分の人たち、肌が白いか黒いかを問わず普通に特権階級だと思うんだけど、どうも連中にはその自覚がないらしい。
まずは自分たちの特権を自覚したらいかが? 日頃自分で言ってることなんだからできるでしょ? としか言えない。
それでもってそのローカル事情に基づいて出来上がったローカル基準をまるでグローバルスタンダードみたいな風に装って他国にも押し付けてくるし、押し付けることのできる権力を持ってるわけでしょ。アメリカ人が自国内でブラックフェイスをタブーにしてる分には知ったこっちゃないけど、全然文脈が違う日本にそれを持ち込んで、褐色キャラのコスをするレイヤーさんに文句つけてるのとかもうわけがわからんよ。
繰り返しになるけど、日本にも黒人差別はあるし、それは是正されるべきですよ。でもそれはアメリカにある差別とは違うものだし(日本の方がマシと言いたいんじゃなくて、歴史的背景も社会の人種間関係も違うんだから当然問題点も処方箋も違ってくるでしょという話)、アメリカ大使館に向けてならともかく日本社会に向けてBlack Lives MatterとかI Can't Breatheとか言われても日本の警察に捕まった外国人はちゃんと息しとるわお前らの国の警察とは違うんじゃという話になるわけで(日本の警察の人質司法や外国人差別を無視していいとは言ってない)。
というか日本では白人も「ガイジン」として差別されてて、黒人とのハーフだけじゃなく白人とのハーフだっていじめやからかいの対象になるんだから、日本の黒人は日本の白人と連帯して非日系のエスニック・グループとして日本人による差別と闘った方がいいんじゃねーのと思うんだけど、まあ彼らは“全世界的な白人至上主義”(これ指を頭の横でクイクイしながら言うフレーズね)と闘う方が重要らしいから、白人と「同じマイノリティ」として連帯する気はなさそう。あのね、知らなかったかもしれないけどこの日本では白人もマイノリティなんだわ。お前らの国のローカルな人種間関係を無邪気にヨソの国に適用するのやめてくんない? というか、グローバルな白人支配を問題にするなら、まずその英語帝国主義をやめてくれない? っていう話。
東京のローカルニュースでもそれに価値があるなら全国放送で流せばいいと思うし(たとえば、香港やパレスチナや西パプアの弾圧もローカルニュースだけど、国際的に注目されるべき人権問題だよね)、災害とかで都民が苦しんでいるなら「都民がんばれ!」みたいなムーブメントが起きてもいいと思うんだけど、都知事や都庁だけがめっちゃ腐敗してるという話なのに、「都庁けしからん」ではなく「日本の政治腐敗は深刻で」みたいな話にされたり、東京だけが被災した災害で「がんばろう日本」ってスローガンが掲げられたら他地方の人はカチンと来るよね、という話。