まじいなぁ~ ・・・ No29
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- 2018/04/07(Sat) -
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錦糸町警察署はJR錦糸町駅から直ぐ北側、錦糸公園沿いの四つ目通りから、スカイツリーへ向かう中間点に位置する。 昔から本所警察署と呼ばれていて、錦糸町警察署とは呼ばれていない。 地元では本所(ほんじょ)が訛って、「ポンジョ警察」と呼ばれ、駅からゆっくり歩いても10分もかからない。 正面入り口の左側へ会社から乗ってきたS500を駐車場へ駐め、時計に目を落とす12時15分をまわっていた。 車から降り、示談書の入った鞄を持ち、正面玄関へ向かいながらフォンの姿を探す。 40過ぎのタイ人女性なら、ひと目でフォンと気づくはずだ。 あたりを注意深く見渡したが姿は見えない。 警察署の正面玄関から中を覗くと受付の警官から用件を尋ねられたが、友人と待ち合わせだと、軽くあしらって駐車場へ戻った。 フォンの姿が見えるまで車の中で待つ事にした。 車に戻り禁煙車のサンルーフを全開にする。 運転席と助手席の窓ガラスも一番下まで下げる。 タバコに火をつけながら昨日のフォントの会話を思い出していた。 「こわい・・・」と確かに口にした彼女の言葉が耳に残っていた。 実家へ飛ばした取り立て屋の奇襲が効をそうした。 タイ国の実家をも巻き込んで、どうしても混乱の内にフォンから示談と告訴取り下げを取り付ける必要があった。 関係者が逮捕後、20日以内にもみ消さなくては実刑は確定なのだから・・・。 気が付くと12時を40分ほど回っていた。 ここまで待たされると流石にこっちが不安になる。 本当に来るのか心配になり始めた。 そんな時だった。 警察署の正面に1台のTAXIが停まった。 運転手へ代金を支払い、TAXIから降りて正門前で直立不動のままで今来たばかりの駅の方を向いている女の後ろ姿を見ながら、車内で吸っていたタバコを半ドアにして車外へ落とし、投げ出した足で踏み消した。 サンルーフと窓を閉めながら彼女の動きを目でおって、ゆっくりと車から降りてドアをロックした。 駐車場からゆっくりと彼女の方へと近寄って行く。 と、警察署の正面で振り返った彼女と目と目が合った。 40歳台には見えないほど若作りをしている女だった。 一瞬後退りをしたがその場を動かなかった。 彼女の目の前まで行って声をかけた。 「フォンさん かい?」 「ええ」 「昨日、電話をした者だけど、ゲオチャイへ行って来たのかい?」 「今、行って来ました・・・けど」 「じゃ、お金は受け取ってるね」 「ママさんから受け取りました」 「OK, じゃ約束通りだよね」 「待って、本当にもうタイの実家には取り立ては行かないわよね・・・」 「ああ、約束通り、もう行かない予定だけど」 「予定ってなに?」 「あなたが、フォンさんが約束を守ってくれれば心配は無いハズ」 「・・・・・分かりました」 「約束通り、この前の事件の件での、告訴を取り下げてもらえればそれで良い事だからさ」 「・・・・」 「難しくないから、任せてくれ」 「はい」 「まずは俺が持って来ている書類へサインをしてもらいたいんだけど、警察署の中で書こう」 「ええ」 2人で正面玄関から署内の左奥にある免許証書き換えセンターのテーブルに向かおうとすると、受付の警察から声をかけられた。 「どういった用件ですか?」 「済みません、今、書類を書き終えてから伺いますので。 そこの机、お借りします」 「どうぞ」 怪訝そうな顔で俺とフォンの2人の顔を2度見、3度見している。 受付の2人の警官を無視して奥の机に向かった。 後ろからフォンがついてくる。 カウンター式の机に鞄を置いて中から書類を2枚を取りだして、1枚をフォンへ手渡した。 同じ中身の書類だ。 手渡された書類を見ているが、中身は日本語なので分からないと、言うジェスチャーをした。 「フォンさん、あんた本当に俺を怒らせてしまったんだよ、今回は・・・」 「・・・・・」 「だから借金を返せなければ、実家も親戚の子供達の通っている学校まで火をつけてやろうかと思ったさぁ」 「・・・・」 「言っておくけど、俺はあんたのおかげで最後に逮捕されたタエちゃんの友達なんでね」 「彼女の友達から今回の事を聞いたけど、随分と話が違う気がするんだよ」 「で、友達までが逮捕されてしまったんで、あんたの実家まで巻き込んだ訳さ」 「・・・・・」 「でも、昨日、あんたと約束をした通り、借金は無しにして、プラス100万円で事件を取り下げると言う事で、あんたも約束を守るなら俺の方も約束を守るからさぁ」 「それで、いいよね」 「・・・ええ」 「もし、いやだと、言われたら火事を起こして、火をつけた犯人達の全員をラオスへ逃がす予定だったのさ」 「・・・・」 「まぁ、約束を守ると言う事なんで、話を進めるけどさぁ」 「この書類の内容は、今回の事件に付いて勘違いや、事実と異なる供述を間違ってしてしまったので、当事者の家族との示談を納得して受け入れ、告訴を全面的に取り下げます。 また、慰謝料名目で現金100万円を受け取りました。 と、言う内容が日本語で書かれているから、あなた、フォンさんは書類のここへサインをして」 彼女の持っている書類の一番下の右端にサインをせがんだ。 フォンは何も考えずに簡単にサインをした。 続けて、2枚目の控えにもサインをさせた。 簡単だが、示談書の完成だ。 1枚はここの警察署へ提出して、同じ物のもう1枚は担当の検事へ知り合いの弁護士を通じて送りつけるのである。 2枚の書類にフォンからサインをもらい、1枚は提出しなくてはならないので、もう1度、2人で受付へ向かった。 「すみませんが、刑事事件の告訴の取り下げをしたいのですが」 受付でわざと大声で話した 「え? どう言う事ですか?」 「告訴の取り下げをしたいんです」 「取り下げ?」 「はい」 「どんな事件ですか? 担当の刑事は分かりますか?」 「フォンさん、担当の刑事さんの名刺でも持ってないかな?」 振り返ってフォンに尋ねた 「え~と、名前は忘れたけど、名刺はこれです」 しめた 「担当は刑事1課の橋本さんです」 名刺を読みながら受付に手渡した。 「少々、お待ち下さい。 お二人のお名前をここへ書いて下さい」 受付票を渡された フォンはローマ字で書き終え、受付票を俺に手渡した。 俺も名前を書いて2枚を受付に渡した。 「上から人(刑事)が来るまで、そちらのソファーでお待ち下さい」 受付が目の前の長椅子を指さした 「おまちします。 フォンさんも座って」 彼女から座らせた いきなり受付が慌ただしくなった。 担当が誰だとか、事件の告訴を取り下げに来ているとか、パニクっている。 多分、上の刑事1課でも同じ事が起きていることだろう。 何よりもフォンが刑事の名刺を財布の中に入れて有ったことが幸いだった。 面倒な手間が省ける。 フォンは腹を決めた様に見えた。 この事件の件は俺から言われるように取り下げて、借金はチャラで+100万円を手にした方が利口な事くらいは気が付いているんだろう。 あとは俺と刑事との勝負だ。 告訴の取り下げなど、刑事にとってこれ以上の最悪で屈辱的な事はない。 フォンは他人ごとの様に成り行きに身を委ねていた。 「1課の橋本が取り調べ中なので、別の者が来ますから」 受付から若い警官が伝言で来た 「分かりました。 お待ちします」 誰が来ようとも示談書と取り下げは受理させる気でいる腹でいた 5分ほどすると奥のエレベーターから若い刑事が降りてきた。 「え~と、めめさんとフォンさんですか?」 「ええ、そうです」 「では、お話を聞きますので、2階の部屋の方で・・・」 「わかりました」 他人ごとの様な顔をしているフォンを促して3人でエレベーターで2階の刑事課へ向かった。 相談室、と言うよりもは・・・広めの取り調べ室へ案内された。 フォンの顔がこわばってきていた。 「私の方で話をお聞きしますので・・・・」 若い刑事とベテラン刑事が入れ替わった 拗(こじ)れさせると面倒になるので、要点、要点に注意をして伝える事にした。 まじいなぁ~ ・・・ No30
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