国境の監視施設は空っぽのまま放置されていた。かつて厳しく目を光らせていたはずの兵士はいない。入国審査や税関があった場所では、銃を持った反体制派の戦闘員らが行き交う人をながめている。このうち1人が車の中をのぞき込んできて、笑顔で言った。「ウエルカム・トゥ・シリア(シリアへようこそ)」
レバノン東部の国境から、独裁体制を続けていたアサド政権が崩壊したシリアの首都ダマスカスに12日、入った。アサド政権は父子2代で50年以上にわたって厳しい監視社会を築いていただけに、シリアに戻る住民らは皆、「解放」の喜びを口にした。
「これからシリアは良くなると思う。いい政権になり、仕事が増えればうれしい」。レバノン側の国境でシリアへの出国手続きを待っていたハーミド・ハラフさん(44)はほっとしたような様子で語った。
ハラフさんはシリア東部デリゾール出身。1990年代からレバノンの首都ベイルートで暮らし、食堂の従業員として働いていた。そんな中、シリアで2011年、苛烈な内戦が始まり、母国に帰れなくなった。「シリアで生活基盤を整え、ベイルートにいる家族を呼びたい。いまは何も怖くない」
国境では、シリア側の入国審査は行われず、税関手続きなどもなかった。母国に戻るシリア人たちはレバノン側の手続きを終えると、そのまま続々と車でシリアへと向かっていく。
カメラを向けると皆、ピースサインを掲げてうれしそうな笑顔を見せた。2年前からベイルートで暮らしていたムハンマドさん(30)は、反体制派の大きな旗を掲げながら「とてもうれしい。出身地の(北西部)イドリブ県に帰れる」と語った。
反体制派は11月27日、イドリブ県から大規模な攻勢を仕掛け、北部アレッポや中部ホムスなどの主要都市を次々と制圧。12月8日にダマスカスに入り、アサド氏はロシアへと亡命した。
シリア政府軍はほとんど抵抗しなかったとされるが、国境やダマスカスへ向かう道には、壊れた戦車や焼け焦げた建物が放置されており、激しい戦闘を静かに物語っていた。ただ、ダマスカス市内では多くの商店が再開しており、家族連れも行き交っていた。地元記者は「もう日常は戻っている。平和だ」としみじみとつぶやいた。【ダマスカス金子淳】
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