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新幹線「のぞみ」年末年始は全席指定 混雑と戦った歴史

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

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2023年(令和5年)も残りあとわずかとなった。このタイミングで鉄道に関する大きな変更があると知って、驚いた方もいるのではないだろうか。12月28日から年が明けて1月4日までの年末年始の時期、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」が全席指定席となるのだ。

東海道・山陽新幹線の「のぞみ」は16両編成で運転されていて、通常は1号車から3号車までが自由席となっている。指定席は4号車から16号車までで、うち8号車から10号車までがグリーン車だ。16両編成で基本的に1318席(うち普通車が1118席、グリーン車200席)あるうち、自由席は3両合わせて250席ある。よほどの大人数でもない限り、東京駅発・新大阪駅方面行きの「のぞみ」に途中駅の品川駅や新横浜駅から乗っても立ったままとなる事態はそれほどない。

ところが、年末年始やゴールデンウイーク、お盆といったピーク時になると、多くの場合、自由席は始発駅の東京駅で満席となり、デッキや通路に立つ人まで現れるほどの混み具合となる。途中駅からでは自由席の車内に入ることすらできないケースもあり、それではと東京駅までわざわざ出向く人までいて、東京駅の改札口やホームの混雑はさらに増す。

全車「のぞみ」を全席指定席とすることで途中駅からの利用者も乗りやすくなる。「のぞみ」の始発駅となる東京駅などの混雑も緩和されて一石二鳥だ。

鉄道会社も客の動向把握がより容易に

鉄道会社側にもメリットは多い。経験上、ピーク時の旅客数は予想できるとして、全席指定席であれば、より正確にその動向をつかめるから、予約状況を見ながら可能な範囲でさらに臨時列車を増発する芸当も可能だ。

指定席を増やせばその分、車内では一般に検札と呼ばれる車内改札の手間が省けて都合がよい。今日、どの席がどこからどこまで利用されるのかといった指定席に関する情報は車掌の携帯端末に自動的に送られる。車内を巡回する車掌は自由席の客や予約のない指定席に座っている客などに対してだけ、車内改札を実施すればよい。

しかし自由席の混雑が激しいと一苦労だ。専用の中間改札口が設置された新幹線では起きづらいものの、在来線の特急列車では乗車券だけで乗ってきた客が車内での精算を終える前に目的地へ到着し、結局自由席特急料金が未払いとなる例も生じる。鉄道会社にとっては減収だし、正規の料金を支払って乗車した旅客にしてみれば不公平に感じられ、ともによいことではない。

一方、ピーク時に自由席を設けるメリットもある。指定席を確保できなかった客がとにかく立ってでも目的地に行きたいとのニーズに応えられるからだ。

全席指定実現、背景に「さらなる増発」

この年末年始から「のぞみ」を全席指定席にできた理由のひとつとして考えられるのはピーク時であっても自由席に旅客を詰め込む必要がなくなった点があるだろう。東海道新幹線では20年(令和2年)3月14日のダイヤ改正以降、信号設備の改良などで1時間当たり片方向での「のぞみ」の本数を最大10本から12本へと増やすことが可能となった。

この結果、東京駅ではピーク時に1時間当たり「ひかり」や「こだま」と合わせてそれまでよりも2本多い16本、例外的に17本の営業列車を出発させられるようになったのだ。JR東海の担当者に筆者が聞いたところ、「のぞみ」増発のおかげで計算上、ピーク時でも旅客が全員座席を確保できるめどが立ったのだという。

JR東海の担当者の発言を検証したい。新型コロナウイルス禍前の18年度(平成30年度)の年末年始、12月29日に新大阪駅方面へ向かう下り列車を利用した旅客の数はJR東海によれば30万1300人に達した。一方、23年12月29日の東京駅発の時刻表を見ると、午前6時ちょうどから午後10時48分まで「のぞみ」「ひかり」「こだま」を合わせて248本の列車が出発予定で、「のぞみ」だけでも181本に達する。16時間48分に248本の列車が設定されていて、平均4分4秒程度に1本と通勤電車並みだ。

冒頭で記したように「のぞみ」「ひかり」「こだま」とも1本の列車の定員を1318人として計算すると、用意される座席の数は248本で32万6864席となる。18年12月29日の旅客数の30万1300人と比べて2万5000人分以上多い。

もしも「のぞみ」を1時間当たり片方向で10本しか設定できなかったとしよう。23年12月29日の時刻表を見ると、「のぞみ」が12本出発する時間帯は午前7時台から午後6時台までの12の時間帯があり、午後7時台にも11本が出発する。結果として25本の「のぞみ」が姿を消す。248本から25本減って223本の列車しか設定できないので、総座席数は29万3914席にとどまる。18年12月29日の旅客数の30万1300人と比べると7400人分近く足りない。

言うまでもなく、東海道新幹線では途中駅の名古屋駅や京都駅などで旅客が降りて結構な数の座席が空く。代わりに途中駅から乗車する旅客も多いから、座れずじまいの人の数はもっと少ないだろう。訪日客が戻りつつある状況でもあって旅客が増える可能性はあるが、計算上、18年の年末ピーク時の旅客数を上回る座席が用意された23年12月29日は紹介した数値よりも余裕が生じるのではないだろうか。

自由席を指定席にして運行 国鉄時代にも

さて、通常期に設定されている自由席をピーク時には全席指定席にするケースは国鉄時代にも見られた。特に同一の愛称の特急列車に共通して自由席を設けた通称「L特急」が誕生した1972年度(昭和47年度)の年末年始から増えていく。当時の時刻表を見たところ、72年12月26日から翌73年(昭和48年)1月7日までの間、昼間に運転される特急列車の大部分から自由席が姿を消し、全席指定席となっていた。

当時の特急列車も増発のおかげでピーク時でも旅客全員が座って行けたと思いたくなるが、実際はそうではない。全席指定席の特急列車のあおりを食ったのは自由席主体の急行列車だ。

かつては窓から乗り込む光景が

ピーク時には急行列車の多くで指定席は自由席となり、それどころか通常連結されている寝台車やグリーン車を座席車に置き換え、自由席とするケースも多かった。自由席の混雑のひどさは言うまでもない。東京の北の玄関口である上野駅では76年(昭和51年)の時点でもピーク時には窓から旅客が乗ることがあった。そのときの状況を当時の国鉄東京北鉄道管理局営業部長の中島克己氏は国鉄の部内誌「国鉄線」77年(昭和52年)9月号掲載「北口輸送のきょう・あす」で次のように振り返る。

「(前略)まず若い女性を先頭にし、窓が開いたら数人の男女を乗せてしまう技術を助役さんや助勤の人々がフルに発揮する光景には、初めは驚かされたが、一年も一緒にいると、何だか戦後の輸送が、まだ上野駅にだけ残っているようで悲しくなる」

急行列車の大混雑は78年度(昭和53年度)の年末年始にはかなり緩和された。特急列車の自由席を指定席にする措置を取りやめて混雑が分散されたほか、飛行機やバスに旅客を奪われて国鉄自体の利用が減ってしまったためと考えられた。

ピーク時の旅行はいまでも大変だが、それでも昭和の時代に比べればずいぶんと楽になった。この年末年始は新幹線の座席に腰掛け、快適な旅を楽しんでほしい。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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