半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の日本進出が、長く冬の時代が続いてきた日本の半導体産業を変え始めている。国内で半導体サプライチェーン(供給網)の再構築が進む。世界で5割のシェアを握る材料分野も、投資が日本に戻ってきた。
■本連載のラインアップ(予定)
・TSMC半導体新系列に群がる企業 JX金属、1500億円新工場の勝算(今回)
・しっくい大手も半導体に照準 TSMCの現地調達で新顔にも商機
・TSMCの右腕・オルガノに学べ 「超純水」ほぼ独占で株価5倍
・熊本県知事「世界最先端品の生産を」 TSMC第3工場を要請
・日本通運、TSMC工場に「門前倉庫」 先行投資で狙う熊本の次
・半導体人材が激減 TSMCから学んで取り戻す30年の空白
・子どもも大人も半導体人材に 産官学が連携、学び直しにも熱
・日本の材料・装置メーカー、TSMCと一体で狙う次世代技術覇権
・TSMC頼みから脱却へ 半導体ニッポン復権への難路
茨城県ひたちなか市にある24万平方メートルという巨大な更地で10月、本格的な工事が始まった。工事関係者やトラックが頻繁に往来し、2025年度中の完成を目指して急ピッチで建設が進む。TSMCが進出した九州と、最先端半導体の量産を目指すラピダス(東京・千代田)が新工場を建設する北海道。日本列島の両端から放たれる半導体投資の熱気が、遠く離れた茨城県にも届いている。
半導体の微細な回路形成に使う金属材料「スパッタリングターゲット」で世界シェア6割を誇る、JX金属。24年3月には、ひたちなか市で建設を予定していた工場の投資計画の変更を発表した。22年3月の建設発表時はスマホなど向け材料も手掛ける計画だったが、半導体材料のみに転換したのだ。社長の林陽一氏はこう腹を決めた。「半導体向けの一大工場にする」
背景にあったのは、半導体事業の成長への確信だ。半導体の世界市場はスマホ向けが市況悪化などで23年には前年割れとなったが、長期的には先端分野を中心に伸びが期待できる。高品質が売りのJX金属には追い風だ。「半導体向けは目に見えて伸びている」(林氏)
1500億円の投資額は同分野では過去最大となる。スパッタリングターゲット用の地金(インゴット)の生産能力は、27年度段階で23年度比6割増える見通しで、今後の拡張余地も残す。足元で急速に立ち上がりつつある半導体向けの次世代金属材料などの生産も検討する考えだ。時価総額7000億円規模と目される大型上場を25年に控え、半導体分野で成長する姿勢を鮮明にする。
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