「武勇伝語る上司」を部下が嫌いな本当の理由
【相談】 過去の成功体験、武勇伝を語るほどメンバーたちのやる気が失せていく
何が問題なのかは明白です。この相談者の経験談に、ニーズがないのです。つまり、メンバーは、そんな話を聞きたいとは思っていないということです。
過去と現在とでは、様々な条件が異なっています。それなのに、過去の話を繰り返すのは「この薬は自分には効いたので、飲むといい」と、その人が何の病気であるかに頓着せず、闇雲に薬を勧めるようなものです。しかし、ここですべきことはこれではありません。目の前の人は何の病気であるのかを、把握するのが第一歩です。
リーダーの役割は、自分のコピーを作ることではありません。仮にそうだとしても、コピーなどつくりようがありません。ではリーダーの役割とは何かというと、部下が現実をどのようにとらえているのかを、具体的に理解することです。
そのためには、自分の先入観をいったん脇に置き、部下が見ている現実、部下が考える課題、解決のためのアイデア(ない場合も多い)、そして上司には何をしてほしいのか、支援内容を徹底的に聞くことです。
このヒアリングは、部下のためにもなります。ヒアリングに答える過程で頭の中が整理され、自ら解決のヒントに気づくことも多々あるのです。部下は、自分で気づいたことには素直に、そして自発的に取り組みます。気づきは人間の行動変容の源泉なのです。その境地に部下を導くことも、上司の役目です。
もし、ヒアリングで気づきが生まれなければ、目標を再確認します。適切な行動が取れないのは、目標認識が誤っているからです。
多くのリーダーは、ビジョンにせよ目標にせよ、言いっぱなしになりがちです。言うだけで、正しく理解できているかというと、そんなことはありません。目標の理解にすれ違いがある状況では、上司の思う行動を、部下が取れなくて当たり前です。ところが、多くの上司は、目標の再確認というプロセスを飛ばして、部下の行動だけを変えようとします。これでは、うまくいくはずがありません。また、目的の確認方法にも作法があります。よく、上司が説明をし、部下に同意を求めるシーンを目にしますが、これは確認とは言えません。
自分が若かった時代を思い出してください。上司の説明に「分からない」「違うと思う」とはっきり言える部下がどれだけいるでしょう。
あなたの説明に「YES」と答えている部下が、本当に理解しているとは限りません。ですから上司の皆さんは、部下に対して説明をした後には、必ず質問をしてください。重要なポイントについて質問をすることで、部下の言葉で回答を受けられます。その達成の意味や意義についてさらに補足していくのです。
これによって目標や上司が求める意図が部下に腹落ちし、適切な行動が生まれます。
「この話、聞きたいか?」と聞く
また、経験の浅いメンバーに対して、体験談を披露したければ、ニーズを作り出すことです。話す前に、メンバーに「自分も昔同じような状況になったことがあって…。この話、聞きたいか?」と一言断りを入れることです。経験不足を自覚しているメンバーであれば、拒否はしないでしょう。それでも、それはあくまで参考です。他人の体験を100%理解できる人などいないからです。
リーダーが示すべきは、まずはDo(やり方)ではありません。Be(あり方)です。Beがなくては、Doは生きません。それに、Doは、メンバーの中からも比較的簡単に集めることができます(図1)。
ある目標に対して「どうしたら達成できると思う?」と声をかけ、Doのプランを集めます。プレーヤーはリーダーではなくメンバーなのですから、メンバーの意見を尊重することは重要です。そして、例えばそのうちのいくつかを1週間試しにやってみて、できそうならその方法を採用すればいいだけです。
ただ、このDoがたくさん集まるには、条件があります。それは、チームの目標が明確になっていることです。目指す方向が定まらなければ、向かい方もまた、決められません。
しかし、どうしてもリーダーは、経験に基づいたDoの話をしたがります。こうなってしまうのには、人事評価制度の問題もあります。リーダーを任される地位にたどり着くまでの間、人はDoしか評価されません。そこに目が向きがちなのは、仕方がないといえるでしょう。
だからこそリーダーは、自分がDoにはまりがちなことを自覚し、BeとDoの共創を支えることが自分の役割なのだと、何度も自覚をし直す必要があります。
リーダーは孤独な存在です。過去の経験を話し「すごい」と言ってもらい、承認してほしいという気持ちを理解できないわけではありません。しかし、リーダーはそこで欲求を満たしていてはいけないのです。
【相談】上から落ちてくる目標を伝えると部下が反発する
先日、サービスのプロモーションのために、SNSを活用すると決まりました。これを決めたのは、私の上司です。「取りあえず1年間、SNSをやってみろ」というわけです。そこで私は、チームの中で最もインターネットに長けている若手に、この仕事を任せました。するとその若手が「どういった成果を期待しているのか」「達成すべき数値目標を教えてください」と尋ねてきました。しかし、このチームに課せられたミッションは取りあえずやってみることなのですから、私はそのように答えました。
それから3カ月が過ぎたところで、「SNSでもプロモーション強化」と方針が変わりました。スタッフを1人から2人に増やしました。さらに3カ月が過ぎたところで、「SNSでのプロモーション中止」とさらに方針が変わりました。私は部下にその旨を伝えました。すると、彼らは激怒しました。「何のための半年間だったのか」と。そんなことを聞かれても、私には答えられません。
ビジョンといえば上から落ちてくる数値目標だけを流す漏斗型のリーダーは、チームを成長させることができません。ミドルマネジャーの最大の役割は、上から降りてくるビジョンに、価値を与えることです。
もちろん、上が方針をコロコロ変える部署のミドルマネジャーは大変だとは思います。しかし、それを上のせいにしていては、チームのメンバーは納得しません。どんな目標を与えられても、そこに「やってみよう」と思わせる価値を付加し、チームをファシリテートしてください。
チームづくりが必要な理由
チームのメンバーの多くは、本人の意思とは無関係にそのチームに所属しています。下手をすると、給料さえもらえればいいというメンバーだっているかもしれません。これでは、チームとしてのパフォーマンスは上がりません。だからこそ、チームビルディングが必要なのです。
チームの成長段階が初期段階では、チーム目標そのものがチームのモチベーションに大きな影響を与えます。このケースのようにコロコロと変わることで、チームのモチベーションは急激に低下していきます。
しかし、最終段階の達成期(トランスフォーミング)に入ると、どのような目標であれ達成することがチームの喜びとなり、達成そのものが目的化していきます。この段階のチームであればチーム目標が変わっても柔軟に対応することが可能です。
さて、上から与えられた目標をメンバーに伝える時には、そこに価値を与える必要があります。なぜそれをやるのか、やるとどういう成果が得られるのか。上からそのビジョンを与えられないのなら、それをつくり出さなくてはなりません。ミドルマネジャーは、ビジョニングのリーダーでもあるのです。
チームとしての関係性が出来上がっていれば、その「価値付け」をチームでディスカッションすることもできます。その目標の達成を通じて、どんな意味や価値を見いだすかを、メンバー全員で考えるのです。
こうやって、味気ない目標にも価値が見いだせ、共有できれば重要な目標になります。この「大切で重要な目標」になることの意味は言葉以上に絶大な効用を持っています。私たちの認知は自分にとって大切なもの、重要なものに強い影響を受けます。仕事の目標が大切、重要と腹落ちすることで、おのずとそのための情報も集まってくるからです。
では、どうしたらチーム目標が大切、重要と腹落ちさせることができるか。答えは、繰り返しになりますが、しっかりとチームが形成できていることが条件になるのです。
アクションラーニングソリューションズ代表取締役、一般社団法人チームビルディング協会代表理事。富士通、システムインテグレーションベンダー、KPMGコンサルティング(現Bearing Point)の人事コンサルタントを経て独立。ジョージワシントン大学大学院人材開発学部マイケルJ.マーコード教授より直接、アクションラーニングコーチ養成プログラムを受け、GIALジャパン設立(現:NPO法人 日本アクションラーニング協会)に参加、ディレクター就任する。
[nikkei Woman Online 2013年3月25日付を基に再構成]