『銀平飯科帳』の“江戸チャーハン”を再現!
- Tue
- 23:00
- 再現料理
それは『平家物語』のヒロインとして名高い建礼門院徳子で、壇之浦の戦いで海に入水したものの助けられて京都の大原で隠棲していた時、周囲の里人たちが気遣って地元特産の赤紫蘇の漬物を差し入れたところ、大いに気に入って「紫葉(むらさきは)漬け」と名付け、それがいつの間にかなまって「しば漬け」となったとのことでした。
太宰府天満宮に祀られている菅原道真も、配流先の太宰府に住む姥から梅の花を添えたお餅を差し入れされたエピソードが残っていますし、庶民と貴人の心理的距離間ってむしろ現代より近かったんじゃなかろうか…と思う今日この頃です。
どうも、建礼門院徳子が住職を務めていた寂光院は鎌倉時代からの建物を現代まで伝えていたものの、2000年の火災が原因で焼失して建て直されたと知り、「むしろ最近まで残っていたんだ」と驚愕した当ブログの管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『銀平飯科帳』にて銀次さんが江戸で流行していたある病対策をきっかけに考案した新作料理・“江戸チャーハン”です!
銀次さんと時代を超えたメシ友になっている、江戸幕府第11代征夷大将軍・徳川家斉こと家さんですが、その三枚目っぽい風貌からは想像もつかない程派手なリア充生活を送っています。
中でも飛びぬけているのが女性関係で、何と生涯で側室20人&お手付き20人の約40人以上存在、子どもは55人以上ももうけており、昨今巷に溢れている異世界ハーレム系小説と見比べてもケタ外れなレベルです。
ほぼ同年代の人物だった、“最愛王”との異名を持つフランスのルイ15世と比べても遜色のないステータスで、当時でも国際的に十分対抗できたその多大なる精力を、誇っていいのか恥じ入るべきなのか、未だ判断できていません。
多産系で結婚政策によりヨーロッパ各国へ勢力を伸ばしたオーストリアのハプスブルク家同様、多くの子を縁組政策で各地へ送りこむことで徳川家の影響力を増そうとしたのか…と考えられなくもないですが、正直それで金銭的負担が増した各藩から恨みをかっていたケースも多々あったようですので、家さんやらかしてるな~と感じました;。
そして、そんな家さんに内心怒りを覚え、「カンザシを刺し直そうとしたら手がすべってしまいましたの」という名目で飛び道具風にカンザシ投げをするという、まるで『シグルイ』の舟木千加さんの如き可憐なる抗議をしたのが、家さんの正室である御台所寔子さん。
当時では珍しいことに、3歳頃婚約が決まってからは家さんと同じ屋敷で共に育てられている、史料に「美女」とはっきり記録が残っている女性で、ある意味二次元創作物では親の顔よりよく見る「隣の家に住むかわいい幼なじみ」ジャンルの奥さまです(←その上、家さんが亡くなった後に嫁いでいた側室の娘達を自分の御殿へ里帰りさせることも度々しているので、「面倒見のいい幼なじみ」という属性も併せ持っています)。
そのせいか、作中では将軍の家さん相手でも堂々とした意思表示や、ストレートなアドバイスをするシーンが多いです。
仮に結婚が決まっていて同じ家に住んでいたとしても、正式に婚儀が行われるまでは清い仲でいるのが一般的なルールだったのですが、家さんは慣習をあっさり破ってとうの昔に初夜を迎えていたり、次々と側室との間に子供をもうけていても毎回寔子さんの子どもという扱いにするという過剰なまでの待遇にしたりなど、円満とまで言えるかどうかはさておき、良好な夫婦関係は終始あったものかと推測されました(←子どもに「従一位で正室の子」という箔をつける意味合いがあったとしても、後継ぎ男女問わず全員そこまでする必要はありませんので、何らかの強いこだわりはあったかと思われます)。
ある日、多すぎる側室と子どもによって財政が圧迫されていること、庶民から「オットセイ将軍」と揶揄されていることを家さんに注意していた寔子さんでしたが、当時江戸市中で流行していたある奇病によって急に倒れてしまいます(←関係ないですが、徳川の歴代将軍は綱吉の「犬公方」といい、家重の「小便公方」といい、慶喜の「豚一様」といい、噂した庶民が打ち首にならないのが不思議なくらい辛辣なあだ名ばかりで気の毒。『キテレツ大百科』のブタゴリラ並にひどいネーミングセンスです)。
その奇病とは、江戸わずらい。
全身に倦怠感・食欲不振・手足のしびれ・全身のむくみ・動悸・息切れが発生し、体中に力が入らなくなり最悪の場合死に至る恐ろしい症状で、何故か江戸の地から離れるとケロリと治ってしまうという、まさに奇病としか言いようのない不気味な病。
実は明治時代になってやっと判明したのですが、これは脚気というビタミンB1不足が原因で発症する病気で、江戸時代は白米中心でおかず少量の食生活が原因のケースが多数だったと書かれていました。
故郷へ帰ると改善するというのは、江戸以外はまだ玄米・麦・野菜中心のビタミン豊富な食事が主流で、自動的にビタミンB1不足が解消されて治るというのが真相だったようで、江戸市民も徐々に経験則的に知ったのか、ぬか漬け・蕎麦・麦茶といった現代でも脚気防止に効果的な食べ物が急速に広まっていったそうです。
本職農家の方が「現実よりもキツイ」と話していたリアル以上にリアルな農業ゲーム『天穂のサクナヒメ』の食事パートで、主食以外にも汁・菜・菓子・飲物というバランスのいい4要素を含ませたり、白米以外にも玄米・かて飯・茶漬け・丼・うどんなど複数の選択肢を設定しているのは、栄養が偏らないようバランスよく色々食べてねという制作チームのメッセージなのかもしれません。
その後、現代に戻って江戸わずらいの正体と治療法を知った銀次さんは、ぬか漬けがお手軽かつ効果的に病気を改善させられるとして寔子さんへ差し入れさせるよう家さんにお願いするのですが、当時貴人の方々は奈良漬けや塩漬けしか食べておらず、ぬか漬けは下賤な食べ物として抵抗感があった寔子さんは「嫌です」と拒絶します。
ほとほと参った家さんの為、銀次さんは飾り切りにしたぬか漬けや海苔で家さんの顔をご飯の上に再現した“江戸伽羅弁当”を作り、江戸城へ差し入れをするのですが、大好きな家さんの顔そっくりのお弁当に気がほぐれた寔子さんはやっとぬか漬けに手を伸ばし、その美味しさに気づいて以降は素直に食べるようになって無事回復していました(←単行本にその“江戸伽羅弁当”の再現写真が載っていますが、結構な力作なので一見の価値ありです!)
今回作るのは、一件落着した後に銀次さんが平蔵さんの兄・主税さんより聞いていた鯖のへしこの話をヒントに、江戸わずらい解消の為に試作していた根菜のぬか漬けを使って現代のお店で考案した“江戸チャーハン”です!
作り方は簡単で、豚ロース肉・にんじん・カブ・レンコン・ゴボウ・タクアンをぬか床へ漬け込んでぬか漬けにし、ぬかを取ってから細かく刻み、チャーハンの具として炒め混ぜたらもう出来上がりです。
ポイントは、炒める際に普通の油ではなくぬか漬けにしたラードを使用すること、豚ロース肉は他の野菜のぬか漬けと違って少しサイズの大きい賽の目切りにすることで、こうすると全体の味がまとまり何とも言えないコクのある仕上がりになるとのことでした。
塩麴といい、お味噌といい、おからといい、大根おろしといい、ヨーグルトといい、大概のものにお肉を漬け込んできた当管理人だったものの、ぬか床は最初のハードルが高く試していませんでしたが、ぬか漬けにしたお肉は塩分がそこまで強くない上に柔らかくビタミンなど栄養素もプラスされるとのことで、これには驚いたものです。
最近は捨て漬けをしなくてもすぐに漬けられるぬか床が気軽に購入できるようになり、前々からどういう出来栄えになるのか気になっていたこともあり再現することにしました。
作中には大体のレシピが記載されていますので、早速その通りに作ってみようと思います!
ということで、レッツ再現調理!
まずは、ぬか漬け作り。
豚ロース肉の切り身は、ぬか床のぬかを両面へまんべんなく塗り付けてジップロックに入れ、そのまま冷蔵庫にしまって保存。
にんじんとカブは、皮を剥いてから全体へ塩をすり込み、少し経ったら表面に浮かんだ水分をキッチンペーパー等でふき取り、そのままぬか床へ漬け込み。
レンコンとゴボウは、皮を剥いてから電子レンジで軽く熱を通し、爪楊枝がスッと程よく刺さるくらいになったら、粗熱を取れたのを確認してぬか床へ漬け込み。
タクアンは、漬け汁を洗い流してキッチンペーパー等で水分をふき取ってから漬け込みます(←本来は大根の糠漬けですので、そのまま使用してもいいはずですが、風味を統一したかったので一緒に漬け込みました)。
※実は、先々月くらいからぬか床を育て始めていたのですが、なかなか思うような味にならなかった矢先、無印良品の発酵ぬか床の分かりやすい酸味が自分好みで「これだ!」と思い、足し床用として購入していました。今回は自前のぬか床に足す際味が深まるようにと、無印良品のぬか床オンリーで漬けています。
三日くらい経過したらそれぞれの素材をぬか床から取り出し、旨味が抜けない程度に流水でさっとぬかを洗い流してから、キッチンペーパー等で水分をきっちりふき取ります。
この時、豚ロース肉の脂身はラード代わりに使用する為、あらかじめ切り取っておきます。
次は、ぬか漬けの下準備。
野菜類のぬか漬けはすべて細かく刻み、豚ロース肉のぬか漬けはサイコロよりもちょっと小さいくらいの賽の目切りにします。
その間、フライパンへ切り取っておいた豚ロース肉の脂身を入れ、ごく弱火でじっくり熱を通して溶かし、即席なんちゃってラードを用意しておきます(←本当は油かすを取ったり濾したりが必要ですが、油かすもいい具になりそうなので、今回はそのまま使っちゃうことにしました)。
ここまできたら、いよいよ炒め作業。
中火で熱したら先ほどのフライパンへ豚ロース肉を入れてざっと炒め、焼き目がついてきたら強火にして溶き卵→ご飯の順に投入し、手早く炒め合わせます。
ご飯に溶き卵が馴染み、豚ロース肉が全体にまんべんなく行き渡ってきたら、今度は野菜類のぬか漬けを多めにざっと加え、さらに混ぜ合わせます。
味付けは特に記載がなく、漬け物と相性のいい醤油を少しだけ鍋肌に沿って入れました。
ご飯全域にぬか漬け類が混ざり切ったらすぐ火からおろし、お皿へ丸く盛り付ければ“江戸チャーハン”の完成です!
ぬか漬け特有のほのかに酸味を感じさせる風味がラードの香ばしい匂いの湯気に混ざり、一風変わった感じではありますが食欲をそそります。
漬物をチャーハンに使ったことは何度かありますが、ここまでぬか漬けを大胆かつ主役に据えたチャーハンは見たことも食べたこともありませんので、どんな味がするのかワクワクします!
それでは、熱々の内にいざ実食!
いただきまーすっ!
さて、感想ですが…ほぼ味付けしていないのに、びっくりするほど味がピシャッと決まっていて美味!〆にもおつまみにもなりそうなあっさりチャーハンなので、居酒屋さんにあれば人気が出そうです!
作中で葉瑠さんが「レモンのきいたライスサラダを食べてるみたい」と言っている通り、さっぱりした酸味が全体にピンと染み渡っており、ラードが結構入っているのにとても爽やかな後口なのが特徴的です。
舌にキュッとくる感じは生のレモンっぽいですが、それよりも尖ったところのない遥かに奥深い酸味は、例えるなら長期熟成したお酢というイメージで、ぬか床の乳酸菌パワーに感心しました。
ぬか漬けにした豚肉は、塩麹に漬けた豚肉みたいに柔らかく旨味が濃くなっており、ご飯一粒一粒に何とも濃厚で和テイストなコクが効いているのがよかったです(←強いて塩麴肉との違いを挙げるとするなら、こちらは甘みはほとんどないことで、こちらの方がキレのある味付け)。
ラードは入れすぎると後々しつこくなるのがネックですが、糠漬けにしたラードはくどさの欠片もなく風味がいいのに、こってり感も両立しているチートすぎる旨さで、パンチェッタや生ハムの脂身を彷彿とさせました。
根菜の量が多い為、カリカリ・サクサク・コリコリ・ザクザクといった様々な小気味良い食感が歯に心地よく、一度食べ出すと止まりません。
カブやタクアンだけで食べるとサラダ風漬け物チャーハンといった醍醐味ですが、ゴボウやレンコンを噛み当てた時は一変して豚肉入り五目炊き込みご飯っぽい感じでもあり、具によって印象が変化するのが面白かったです(←にんじんはちょうど中間でした)。
ぬか漬けにしたレンコンはまろやかな酢レンコン風、ゴボウやカブは和風ピクルスといった味わいで、他の料理に使ってみても意外に合いそうだと思いました。
根菜をぬか漬けにするには下ごしらえが必要ですのでちょっと面倒ですが、正直このチャーハンの為だけにまた根菜ぬか漬けを作りたいと思うくらい美味しかったです!
P.S.
マーサさん、kawajunさん、ファングさん、焼鳥009さん、波多野鵡鯨さん、コメントをしていただきありがとうございます!
マーサさん、当管理人もあの独特な昭和時代の空気を味わいたくて、YouTubeの美味しんぼチャンネルをたまに見ています…現在視聴すると、目立たない所の作画でも細かいくらい書き込んでいるのに気づき、地味に驚きます。今となっては国産牛すじ肉も結構な購入品となってしまったので、一周して「おごりやがった」発言が的外れでなくなってきているのが切ないです。
kawajunさん、「ロストグルメ」で漫画料理…それは私もぜひ見てみたかったです!納豆モンブランは納豆嫌いの夫が未だに認めていない味っ子料理ですので、加藤浩次さんの反応はリアルでした;。福岡は観光名所に乏しいのでお恥ずかしいですが、食べ物だけはそこそこ美味しいですので、その際には穴場グルメを紹介できればと幸いです。コロナ終息を祈ります。
ファングさん、ご飯フライも含めどちらの定食もかなりレベルが高かったので、おっしゃっている通り当管理人も「別に2店舗ともそのまま営業したらいいんじゃ…」と社員目線でみてしまったものでした。うどん対決の時は、そういう結果だったのでよかったですね。腕は優秀なだけに、『ミスター味っ子Ⅱ』でもわからなかった阿部兄弟のその後が気になります…。
焼鳥009さん、いつも楽しく見ていただいているとのお言葉、大変嬉しく拝見しております。感謝です。おっしゃる通り、ポトフに近い味わいと作り方なのですが、ペンネが本当にいい働きをしていて、これがあるのとないのとではまさに雲泥の差です。こっそり申しますと、手間に見合わないほど美味しく作れて体も温まる為、最近はこればかり作っています;。
波多野鵡鯨さん、お久しぶりです。それは災難でしたね…現在は、お体の具合は如何でしょうか?厄は何故か連鎖して起こりやすいので、「変な引き寄せやめれ!」と思わず天に言いたくなりますよね…お疲れ様です。『姉のおなかをふくらませるのは僕おかわり』は、以前ちょこっと表紙を見たことはあったのですが、恩田チロ先生の絵に思い入れがあるばかり、ずっと目をそらしていた経緯があります。けれども、前作の決着をつけられているのなら見過ごすわけにもいけませんので、一度勇気を出して読もうと思います!博多食べ歩きに八女市など、地元民でもかなりニッチと思われる素材の漫画も気になりますので、そちらもチェックしてみます。あと、余談ですが、『お父さんは心配性』と『新装版ルナティック雑技団』は本棚にあるものの、何故か『こいつら100%伝説』だけは買われておらず、何とまだ読んでいない状態です…夫に原因究明後、機会があったら読んでみます。
●出典)『銀平飯科帳』 河合単/小学館
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。
※レシピの分量や詳しい内容は、以前こちらでご説明した通り完全非公開に致しております。