『今朝の春―みをつくし料理帖』の“ひょっとこ温寿司”を再現!
- Wed
- 18:00
- 再現料理
他にも、ソース入れがフラスコに似ていたり、大きいグラスかと思いきや実はメニュー入れだったり、メニュー名がユニークな物ばかりだったり(そのまんまの料理名は伏せますが、「シチリアの潮風」とかそんなイメージの名称)と、田舎者な当管理人は少し気後れし、その都度「面白いけど、いつもの安心できる居酒屋が恋しい…」と、ホームシックならぬ居酒屋シックにかかってしまいました(^^;)。
どうも、知人の居酒屋選びの基準が「イケメン店員がいるかどうか」になっていると聞いて「イケメン優先!そういうのもあるのか」と五郎ちゃんみたいに呟いた管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『今朝の春―みをつくし料理帖』にて主人公・澪ちゃんが昔お母さんが作ってくれたのを思い出しながらこしらえた“ひょっとこ温寿司”です!
澪ちゃんが戯作者・清右衛門先生に“里の白雪”を食べてもらい、この時代の女性にとっては途方もない目標を示された日から、少し経った頃の事。
冬至を迎えた朝、澪ちゃんは思い出深い化け物稲荷へお参りをしに行き、改めて「料理に身を尽くす」と決意するのですが、その帰りに偶然、<つる家>をいつも手伝ってくれているおりょうさんの夫・伊佐三さんが、ほろ酔い気分で千鳥足になっている若い女性と二人きりで歩いているのを目撃します。
これだけでも十分怪しい場面だと思いますが、会話の方も「憎い人だよ。ここまで追い駆けて来たのに、手も出しゃしないなんて」と女性は意味深な言葉を漏らしており、その上しなだれかかる女性を伊佐三さんは拒もうともしなかった為、澪ちゃんは思わず目をそらして「後姿が似ているだけで、人違いだ」と無理やり考え、こっそり<つる家>へ帰ります。
正直、普段から遊び人な男性だったならまだしも、伊佐三さんは非常に真面目で寡黙な人なので、はっきり目撃しても心の奥底では「まさか」という想いがどうしても拭えなかったのだと思います。
それに、限りなく際どいけれども浮気かどうかはっきりしないシーンを見たら、本当かどうか分かるまでモヤモヤしつつも黙って見守る澪ちゃんみたいなパターンがほとんどだと思う為、初見時は澪ちゃんに共感しながらも冷や汗が流れたのを覚えています;。
けれどもその数日後、おりょうさんと澪ちゃんは伊佐三さんの勤め先の上司である大工頭さんから「新宿の水茶屋のお牧って娘に入れあげているようで、仕事には影響はないが仲間内では随分噂になっている」「俺がちゃんと言って聞かせて女とはすっぱり手を切らせるから、短気は起こさねぇでくれ」と衝撃的な事実を伝えられたり(幸い、このときはおりょうさんはまだ「あの無口な人がどうやって若い娘を口説いたのかと思うと、あたしゃ可笑しくて」と笑う余裕がありました)、澪ちゃんが化け物稲荷で見た女性・お牧さんが<つるや>まで単身やって来て「伊佐三さんは私のいい人さ。おりょうさん、あんたあの人と別れとくれ」と宣戦布告に来たり、その直後におりょうさんと養子・太一ちゃんがどれだけすがっても伊佐三さんは新宿へ毎日出向くようになったりと、『みをつくし料理帖』シリーズには珍しく女の戦いがメインになったお話になっているのに驚きました;。
はっきり言って、これだけだったらひたすら重いエピソードになっていたと思いますが、後々重要なキーパーソンになる七歳でまだあどけない太一ちゃんが、養父・伊佐三さんを止めようと必死に追い求める描写が痛々しくもいじらしく、「子はかすがいっていうのは、本当その通りだな…」としみじみ実感させられます(実は、太一ちゃんは伊佐三さんの同僚だった実の両親を火事で亡くして以来声を失っている為、呼び止めようにももがくしか手段がなく、そのくだりを読むと切なさの余り胸が痛みます…)。
結局、伊佐三さんはお牧さんへ会う為ではなく全く別の理由で新宿へ通っており、一方お牧さんの方も浮気相手どころか実際は片思い状態で一度も伊佐三さんに触れられていない事に業を煮やし、ある事件を起こして自滅してしまいます(詳細は、『今朝の春―みをつくし料理帖』の第三話「寒紅」で描かれています)。
個人的に、伊佐三さん・おりょうさん・太一ちゃんの気持ちも理解出来た反面、(やり過ぎな所はややあったものの)お牧さんの心境も同情の余地があると思ったので、少々複雑な気持ちになったエピソードでした(´・ω・`)。
今回作ってみるのは、全てが丸く収まってひと段落ついた後、澪ちゃんが遠い昔お母さんが作ってくれた味を料理人として手を加え<つる家>のみんなに振舞った“ひょっとこ温寿司”!
作り方は手間がかかるものの基本は簡単で、出汁や醤油などでコトコト味を煮含めた干ししいたけ・かんぴょう・にんじんを茹でエビと一緒に酢飯へ入れて混ぜたら器に盛り、その上に錦糸卵を乗せて蒸し器で熱々になるまで温めたら出来上がりです。
澪ちゃん曰く、今は亡きお母さんが「底冷えのする大阪の冬に、何か温かいものを」と工夫して出してくれた懐かしい家庭料理だそうで、冬になるたび思い出す一品だと話していました。
当初、<つる家>の店主・種市さんは「酢飯を温めるなんてのは、おれはどうも…」と気が乗らない様子でしたが、いざ食べ始めるとひょっとこみたいに熱い湯気をふうふうしながら「こいつぁ案外」と夢中になって食べていたのが微笑ましかったです。
南にある福岡の地もようやく寒さが厳しくなってきた為、再現を決定しました。
知り合いの方から頂いた大ぶりで立派などんこ椎茸を使い、巻末のレシピ通り早速作ってみようと思います!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、材料の下ごしらえ。一晩水に浸けて戻した干ししいたけを、戻し汁・砂糖・醤油・みりんを煮立てて作った調味液入りの小鍋へ投入し、じっくり味を煮付けます。
中まで味が染みたら冷ましてギュッと絞り(絞りすぎてもスカスカになるので、「少し煮汁が残ってるけど、ベチャつかない」くらいでやめておいた方がいいです)、食べやすい大きさに切ります。
にんじんは小豆粒(五ミリ程度)くらいのサイズになるよう刻み、カツオと昆布の合わせ出汁・砂糖・塩を沸騰させて作った調味液入りの小鍋に加えて、柔らかくなるまでじっくり煮ます。
かんぴょうは二十~三十分水に浸けて戻し、よく水気を絞ったらカツオと昆布の合わせ出汁・砂糖・塩・醤油を煮立てて用意した別の調味液入りの小鍋に入れて味をよく煮含め、冷ましたらしっかり絞って食べやすい長さに切り揃えます。
その間、出汁・お酒・塩で味付けした溶き卵で錦糸卵を作ったり、背ワタを取って茹でて殻や尾を外したエビを用意したり(最後にちょっと寿司酢をかけておきます)、昆布とお酒を入れて炊いたご飯へお酢・砂糖・塩で作った合わせ酢をかけてさっくり混ぜた酢飯を準備します。
これで、下ごしらえはOKです!
※昆布はお米に水を吸わせる時に一緒にいれ、炊く直前に取り出します。
次は、混ぜ込み&蒸し作業。
先程の酢飯に、干ししいたけ、かんぴょう、水気をきったにんじん、茹でエビを入れて練らないようざっくりと底から混ぜ合わせ、人数分だけ茶碗へよそいます。
その茶碗の上に錦糸卵を散らしてフタをし(フタが無い場合は小皿やアルミホイルで代用出来ます)、蒸気の上がった蒸し器に並べて約二十分蒸します。
時間が経って寿司全体が温まったらすぐに取り出し、熱い内にお箸と共に机へ運べば“ひょっとこ温寿司”の完成です!
寿司全体から立ち上る蒸気と、器ごしに伝わってくる熱さが印象的で、じっとしているだけで凍えそうな今の季節にぴったりな料理だと感じました。
干ししいたけ、かんぴょう、にんじん、エビ、錦糸卵と具は質素ですが、蒸気から香ってくる濃い出汁の匂いが「これは絶対美味しい」という予感をかき立てます。
人肌のお寿司は食べた事があるものの、熱々の物は初めてなので、一体どんな味がするのか楽しみです!
それでは、熱いうちにいざ実食!
いっただっきまーす。
さて、味はと言いますと…寒い時期に食べると一際格別な、心温まる味。その名通り、否応なしにひょっとこのような顔になる一品です。
ほんのり甘酸っぱい酢飯と、薄くなるギリギリ手前で品よく甘く煮られた具が口の中で徐々に一体化していくのが何ともほっとする感じで、派手さはないんですが飽きのこない素朴な味わいです。
昆布と日本酒によって香り高く艶のある炊き上がりになった酢飯が美味で、酢を十分に吸い込みつつもベシャッとならずふっくらしたままなのに感心しました。
熟成された旨味が堪えられない干ししいたけのグニグニシコシコした歯触り、まるで上等な和菓子のようにじんわり甘いかんぴょうのコリコリ感、ふんわり炊かれて合わせ出汁が芯まで染み通ったにんじんのサクサクした食感が歯に心地よく、どんなに噛み続けても下味がしっかりにじみ出てくる為、スルメのようにいつまでも噛んでしまう魅力があります。
最初の内は熱々の蒸気をハッホッと逃しながら食べるので少し慌ただしいのですが、酢の酸味を帯びた爽やかな湯気の中に、様々な具の香りが入り交じって鼻をくすぐるのが全体の味わいをさらに高めるのに役立っており、改めて匂いも旨さと密接に結び付いている重要な要素なのだと感じ入りました。
錦糸卵のフワッとした口当たりと淡泊な味わい、エビのプリプリした弾力とほのかな塩気が時折箸休めのような役割を果たしているのもよく、最後までほのぼのしながら頂けます。
冷えきった酢飯はどうしても酸味が尖りがちなので好き嫌いが分かれますが、温めると優しくまろやかな酸味に変化する為、酸っぱいのが苦手な方にも受け入れやすい仕上がりになっていると思いました。
一つ一つ別の煮汁で丁寧に煮含めると、素材の個性がそれぞれくっきり浮き上がるので、一緒に煮なくて正解だと感じました。
定番のままの具もいいですが、鮭・れんこん・白ゴマを加えてみても美味しくなりそうです。
○おまけ
巻末レシピによると、三つ葉を散らして食べてもいいとの事でしたので、おかわりした時に早速試してみました。
食べてみると、確かに三つ葉のしゃっきりした食感とすっきりした香気が“ひょっとこ温寿司”の奥行きを高めてくれていましたので、こちらの方もおすすめします!
●出典)『今朝の春―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。
『クッキングカンタンタン』の“和風きのこスパゲティ”を再現!
- Sun
- 18:00
- 再現料理
調べてみると、何と天ぷらにヒントを得て考え出したお菓子だそうで、どういう経緯でもちに衣をつけようと考えたのだろうと思うと興味が尽きません。
どうも、その後もまた食べようとして買いに行ったものの何故かとんと仕入れられなくなり、渋々最近はまったブラックサンダーをおやつにしている管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『クッキングカンタンタン』にて富豪パパが簡単でおいしいスパゲティと紹介した“和風きのこスパゲティ”です!
前回は長男のヨシオさんに受け継がれた“たらこスパ”をご紹介しましたが、今回はいつも柔道着を着ていて見るからにゴツく強そうな次男・ヨシヒロさんが受け継いだ“和風きのこスパゲティ”を取り上げてみようと思います。
これで、六人兄弟中未紹介なのは三男・ヨシカズさんの“カルボナーラ”のみになりますので、「残りあと一人!ラストスパートだ!」とワクワクが止まりません(^^*)。
作り方は“中華スパ”、“ホタテのペペロンチーノスパ”、“イタリア風ソーセージスパ鍋”、“たらこスパ”同様これまた意外で、しめじ・えのき・にんにく・日本酒・塩・こしょう・オリーブ油を炒めた物にゆでたスパゲティと三つ葉を入れて混ぜ、最後に大根おろし、ポン酢、海苔をかけたら出来上がりです!
ポン酢を調味料に使うパスタ自体はそこまで珍しくありませんが、仕上げの段階でぶっかけるというのは今まで聞いた事がなかったので、初見時は内心「洋風ぶっかけうどんか!」と突っ込んだのを覚えています;。
しかし、ネットで調べてみた所、ポン酢をそのままかける事よりも完全な和風食材でポン酢スパゲティを作る事の方が異端だったらしく、不思議な事にシンプルなきのこと大根おろしを使った作り方はほとんど見つかりませんでした(どちらかと言いますと、肉類やツナが加えられた洋風レシピの方が多かったです)。
その為、この“和風きのこスパゲティ”もたけだみりこ先生の完全オリジナルだと思います。
ちなみに、富豪パパがヨシヒロさんにこのスパゲティを教えたのは、「男らしい作り方のスパだから男らしいお前にぴったりだ!」と考えたからだそうで、どうやら「大根おろしをどさっと乗せて、ポン酢しょうゆをかけて食べる」「最終的な味は皿の上でかけるポン酢しょうゆの量で決まるから、各自で好きなだけどうぞという事にすれば細かい味付けも不要」という二点のポイントで一番男らしいレシピだと判断したようでした;。
確かに、「炒める!乗せる!かける!以上!!」と難しい理屈抜きの調理行程なので、富豪パパの気持ちも分かるような気がします。
が、レシピを教え終える直前に「硬派なお前がササッと作ると、女性に受けると思うんだがな」とアドバイスしたのには、ヨシヒロさんと同じく「余計なお世話だ!」と言ってあげたいです(まあ、確かに女性と縁遠そうな印象だったので、つい親心が騒いだのかな~と思うと気の毒ですが^^;)。
近所のスーパーでホ○トのきのこが大安売りされていたので、ちょうどいい機会かと思い再現する事にしました。
ちゃんと分量つきの詳しいレシピが載っている事ですし、早速作ってみようと思います!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、具の準備。弱火に熱したフライパンへオリーブオイルとみじん切りにしたにんにくを入れ、焦げてしまわないよう慎重に火を通します。
にんにくからいい匂いがしてきたら強火にし、軸を取ってほぐしておいたえのきとしめじを投入して炒めながら日本酒をふりかけ、全体がしんなりして少し水分が出てきたら塩こしょうで味付けします。
塩加減が整ったら火を止め、茹でて水気を切った熱々のスパゲティと、粗く刻んでおいた三つ葉を加えてざっと混ぜます。
具とスパゲティが混ざりきったら、すぐにお皿へ高く盛り付けます。
盛ったスパゲティの上へ軽く水分を絞った大根おろしと千切った海苔を乗せ、ポン酢を回しかければ“和風きのこスパゲティ”の完成です!
スパゲティを高く盛り付けるのは難しいのでいつも苦労しているのですが、えのきがたくさん入っているせいか麺が滑りにくくなり、うまい具合にまとまったので助かりました(^^;)。
一見地味ですが、きのこ類の芳しい香りが食欲をそそります。
大根おろしにポン酢とくると、真っ先に脳裏に浮かぶのは豚しゃぶですが、果たしてスパゲティには合うのかどうか…味が楽しみです!
それでは、麺が伸びない内にいざ実食!
いただきま~す。
さて、味はと言いますと…富豪パパの言った通り、漢らしい旨さのパスタ!小細工一切なしのストレートな味で美味しかったです!
エノキやしめじの奥深いコクと、ポン酢のさっぱりした酸味がスパゲティに程よく染み込んでいるのがしみじみ美味しく、おろしそば感覚でスルスル頂く事が出来ます。
当初は「ポン酢を使った分、やや酸っぱめの味になるだろうな~」と予想していたのですが、にんにくの力強い風味が溶け込んだオリーブオイルの油分が酸味を和らげてまろやかな味わいにしている為、そこまで酸っぱくはありませんでした。
えのきからにじみ出た、とろみのある旨味成分たっぷりのエキスがスパゲティ全体に絡んでいるせいか、少しトロンとした優しい口当たりなのが特徴的です。
しめじのプリプリ感、三つ葉のシャキシャキした歯触り、えのきのシコシコザキュッとした食感のどれもがいいアクセントになっており、あっさりしたおろしポン酢味のスパゲティでもなかなかのボリューム感を楽しむ事が出来ました。
中でもえのきは、スパゲティと一緒に食べるとかなり食べ応えのある感じが増すのがナイスで、一種の麺っぽく食べられたのがよかったです(その為、ダイエット中にスパゲティの半量をえのきに置き換えたら味を落とさずカロリーダウン出来そうです)。
絞ったおかげでふんわりした大根おろしを口に入れた途端、甘苦い水分がジュッと出てきて後味を軽やかにしてくれるのがまたよく、和風スパゲティ好きには大満足な一皿でした。
ポン酢味のスパゲティとは意外でしたが、食べてみるとそこまで違和感はありませんでした。
使うきのこを代えてみたら面白そうなので(舞茸やエリンギでも合いそうです)、今度試してみようと思います。
●出典)『クッキングカンタンタン』 たけだみりこ/永岡書店
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『クッキングパパ』の“スば”を再現!
- Wed
- 18:00
- 再現料理
決してまずくはなく、むしろ美味しい方でしたが、「これはサンドイッチと言うより、思いっきりラフなケーキってイメージだなぁ…」と、以前作った再現料理が頭を駆け巡りました。
どうも、たまごサンドを食べるたびに『あずきちゃん』の初デート回を思い出す管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『クッキングパパ』にて荒岩係長が金丸産業の会長のリクエストに応えて作った“スば”です!
それは、田中君が「渋くてかっこいい大人になるぜ!」と言い出したものの、またもや挫折した直後の頃の出来事(詳しくはこちら)。
仕事をほとんど息子の社長・正一さんに任せるようになって久しい金丸産業の会長(残念ながら、名前は不明です;)が、営業第二課へやって来ます。
ちなみにこの時、夜中にアポなしの唐突な訪問だった為、すっかり会長の顔を忘れていた田中君は油断してやや偉そうな態度で荒岩係長の所へ案内したのですが、荒岩係長が慌てて「かっ、会長!どうされたんですか、こんな時間にー」と言ったことから自分の失態に気付き、後でかなり小さくなっていました;。
確かに、畏れ多くも会長相手に「じっちゃん、何か用ね?」「ダメだよ、ちゃんと電話して知らせておかないと。俺たちだって忙しいんだから」「ホラホラ、こっちこっち。ここで待ってな、俺が呼んできてやるから」など、通常の来客者相手でも十分失礼な態度を取っていたのだから当然の事といえます(言っている内容自体はもっともですが、オブラートに包まない時点で全部台無しですね^^;)。
幸い、会長は器の大きい人で田中君の無礼っぷりは全く気にしていない様子だったので、荒岩係長も田中君もほっと一安心していました。
とりあえず、再犯防止の為に田中君はもう一度新人研修を受けさせるべきだと思います。
さて、会長が何故荒岩係長を尋ねてわざわざやって来たかと言いますと、「料理上手な荒岩君に、変わったそばを作ってもらいたい」というお願いをする為。
というのも、息子の正一さんはうどん好きですが、反対に会長は根っからのそば好きで、ほぼ毎日お昼になると近所のそば屋さんで盛りそばと日本酒のセットを食べるのが生き甲斐だと語るほどの徹底っぷり。
何でも、昔からそば屋で軽く一杯やりながらそばを食べるひと時が唯一ほっとくつろげる時間だったそうで、歳をとってゆっくり出来るようになってからはますますそばが大好きになったとの事。
正直、飲む時は自宅でないと心から安らげない貧乏性な管理人は会長の気持ちが完全には分かりませんでしたが;、こういう落ち着けるお店がある人は大人だな~と憧れます。
おかげで、正一さんは「うちでもお昼は用意してるのに…」と面白くない奥さんと、「ふん、どーせカレーかうどんじゃろ」と嫌がる会長の板ばさみにあって困っていますが(どこの家も大変ですね;)、それでもそばだけは譲れないほどの熱の入れようで、八十歳になる今も新しいそばを求めて止まないと熱く語っていました。
最初は謙遜して乗り気じゃなかった荒岩係長ですが、同じ食べ物好きとして血が騒いだらしく、最終的に「分かりました。やれるだけやってみましょう」と引き受けます。
会長直々の以来という事もあり、当初は悩んでいた荒岩係長ですが、以前飲み会でイタリア人のティートさんから「そばを使った面白いスパゲティ」の話を聞いた事を思い出し、急遽ティートさん(と、たまたま暇だった田中君;)に協力を要請して会長宅へそばを作りに行くことにします。
こうして、荒岩係長が会長の「変わったそばを食べたい」という希望に応える為作り上げたのが、この“スば”です!
作り方はやや手間がかかるものの基本的に簡単で、そば粉・小麦粉・山芋・水・塩を入れてこねた生地を薄く伸ばしてフェットチーネ状になるよう切って茹で、にんにく・パルミジャーノチーズ・生クリーム・塩・こしょうで作ったソースを絡めてパセリを振ったら出来上がりです。
ティートさん曰く、「イタリアにもそばしか育たないような土地があって、その地方ではほとんど日本の二・八そばと変わらないパスタを食べるんですよ」だそうで、調べてみると北イタリアはロンバルディア州のヴァルテッリーナというところの郷土料理だという事が分かりました。
北イタリアではそばの栽培同様畜産も盛んとの事で、だからこそ自然とチーズソース&そばという、日本人にとっては度肝を抜かれるような組み合わせが誕生した模様です;。
幸い、会長は“スば”を大変気に入ったようで、「こんな面白いそばがあるなら、まだまだ死ねんの~」と実に楽しそうに笑って満足していました。
うどんは何度か打った事はありますが、さすがにそば風スパゲティはまだ作った事がなかった為、俄然やる気が出てきました。
詳細なレシピもある事ですし、早速作ってみようと思います!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、麺作り。そば粉:小麦粉=8:2の割合でボウルに粉をいれて軽く混ぜ、すりおろした山芋と水を合わせた物や塩少々を投入して全体を混ぜ合わせ、一つにまとまるまで手でよくこねます。
※こねる作業が不十分だと、茹でる時にブチブチ千切れたり口当たりがボソボソになったりするので、念には念を入れてよ~く混ぜる事をお勧めします。
生地をこね終えたら打ち粉をした台に置き、麺棒で厚さ二ミリになるまで薄く伸ばします。
やがて、生地が十分に伸びたら周りのボロボロした所を切り取り、ピザカッターで幅一センチになるよう切ります(フェットチーネより若干幅広めのイメージ)。
この切った生地を、たっぷりの熱湯で茹でておきます(当然の事ですが、乾麺のそばを茹でている時の匂いそっくりで、ちょっと複雑な気持ちになりました;)。
茹で上がったらザルにあけて軽く水洗いし、そのまま水気をきっておきます。
これで、麺の用意はOKです!
次は、ソース作り。
何も引いていないフライパンに、芯を取ってスライスしたにんにくを入れて中火にかけ、焦がさないよう軽く火を通します。
にんにくのいい香りがし出したら生クリームを注ぎ、あらかじめすりおろしておいたパルミジャーノチーズをどっさり加えて木ベラで絶えず丁寧に混ぜ、その内チーズが溶けてきたら先程の麺を投入してよく絡ませます。
※麺の水切りが十分でないとソースが絡みにくいので、要注意です!
麺とソースが混ざったら塩とこしょうで味付けしてお皿へ盛り付け、仕上げに刻んだパセリを上からパラリと散らせば“スば”の完成です!
幅広いそばというだけでも珍しいのに、その上さらに白いソースがかかっている為、一瞬目が点になります(^^;)。
香りの方はチーズの芳しい香りがガツンと来た後に、そばの風味が控えめながらもそろそろと追いかけてくる幹事で、そこまで違和感はありませんでした。
味の想像がつかないだけに少し勇気が要りますが、一体どんな味がするのかという好奇心をくすぐられますので、早速食べてみようと思います。
それでは、麺が延びないうちにいざ実食!
いただきま~す!
さて、味の感想ですが…意外にもしっくりくる乙な味で旨し!イタリア風な味付けがそばと見事に調和しています!
普段食べる日本そばはツルツルッとした喉越しを楽しむ傾向にありますが、このそばは幅が広い分「クミクミ」「モチモチ」した弾力が特徴的で、どちらかといえば噛み応えの方を楽しむ感じのそばです。
そば粉の割合を八割にして練ったせいか、そば独特のしみじみさせられる素朴な香りが噛むごとに立ち上ぼってくるのが印象的で、濃いにんにくの匂いに負けないくらいでした。
当初は「フェットチーネみたいな感じかな?」と想像していたのですが、食べた瞬間に真っ先に思ったのは「太めでしっかりしたきしめんみいな食感」で、うどんと違って表面がザラザラしている分ソースがよく絡む為、食べやすかったです。
一方ソースは、にんにくのこってりした風味とパルミジャーノチーズの濃厚なコクがねっとり舌に絡むクリームソースが美味で、予想以上にそばとぴったりな相性だったので驚きました(そばのほのかな苦味をチーズのまろやかさが包みこみ、バランスのとれた味わいです)。
大抵、チーズクリームソースを合わせると大抵の麺は存在感がかき消えて「ソースが主役」の料理になりがちなのですが、そばの力強い味わいがチーズの旨味に押される事なく両立している為、「ソースも麺も主役」になりえている素晴らしい一皿だと思いました。
ただ、強烈な個性がぶつかり合っている分癖のある美味しさで万人受けはしない味になっている為、評価は真っ二つに分かれそうです;。
そばとチーズの相性が、意外にもいい事に驚かされた再現でした。
今のところ、そばはトマト系・チーズ系・ホワイトソース系のソースと合う事が判明していますので、次はガーリックきのこ醤油ソースや納豆ソース、ジェノベーゼソースとも合うかどうか試してみようと考えています。
●出典)『クッキングパパ』 うえやまとち/講談社
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『華中華』の“肉詰め獅子唐チャーハン”を再現!
- Sun
- 18:00
- 再現料理
表にぶら下がっている、今時珍しい手書きの木札で「開店中」か「閉店中」かが分かるのですが、先日「開店中」の大文字の上に「不況に負けず」と小さく書かれているのを発見し、思わず胸が熱くなりました。
おやじさん、おかみさん、いつも安くておいしい定食をありがとうございますm(_ _)m。
どうも、某トンカツチェーン店が「お得な定食を990円で大サービス!」というのぼりをあげているのを見て「全然お得じゃないよ!」と心の中で突っ込んでしまった管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『華中華』にてハナちゃんが師匠・島野さんの京野菜チャーハンに刺激を受けて作った三百円チャーハン第十弾・“肉詰め獅子唐チャーハン”です!
前回、島野さんが考え出した“賀茂茄子チャーハン”が大好評を博して満点大飯店は今までにない程の賑わいを見せ、連日お客さんが殺到するという嬉しい事態になります。
おかげでお昼のお客さんの平均単価が四千円近くに跳ね上がり、その上「ランチが美味しかったから、夜もいってみよう!」というお客さんが増えて日に日に売上げは上昇した為、少し前まで下り坂気味だった満点大飯店は一気に華やぎを取り戻していきます(但し、お昼は“賀茂茄子チャーハン”ランチしか注文が来なくなった為料理人の大半が暇をもてあます事になり、その結果こっそりサボる人間まで出るという嘆かわしい状態になってました;)。
けれども、そんな中ハナちゃん一人はある事で頭が一杯で、上海亭へ向かう途中思わず憂い顔になってしまいます。
その悩みとは、何とか三百円でも利益が出る京野菜チャーハンを作れないかというもの。
どうやら、目の前で“賀茂茄子チャーハン”が生み出されるのを見たハナちゃんは同じ料理人として大きな衝撃を受けたらしく、「自分も京野菜でチャーハンを作ってみたい!」という欲がどうしても止まらなくなってしまったとの事。
しかし、島野さんが使っているような最高級の賀茂茄子は一個六百円はする代物で、とてもじゃないですが三百円で売り出すのは夢のまた夢である為、ハナちゃんは最終手段として野菜のプロである夫・康彦さんに相談します。
すると、康彦さんは京野菜の仲間だというある食材を上海亭へ持ってきます。
その野菜とは獅子唐で、康彦さん曰く京野菜として有名な田中唐辛子・伏見唐辛子・万願寺唐辛子・鷹峯唐辛子と獅子唐は全てピーマンの仲間だそうで、多少味に違いはあっても高い品質の獅子唐は京野菜に勝るとも劣らないと力説していました。
調べてみた所、田中唐辛子は「大きめの獅子唐辛子」と言われるくらい獅子唐と似た品種であるらしく、康彦さんの言う通りこれなら京野菜と同じクオリティで三百円チャーハンが作れると感心したのを覚えています。
ちなみに、康彦さんがその日上海亭に持ってきたのは三浦半島産の獅子唐で、京野菜同様丁寧に栽培されていて味もいいのに価格はリーズナブルだから、無理せずに上海亭らしいチャーハンを作るにはこれを使った方がいいと思うと現実的なアドバイスをし、おじいさんとおばあさんも賛成していました。
「高価格な分、味も品質も高級なチャーハン」は確かに魅力的ですし、だからこそ未だに京野菜料理は根強いファンが増え続けているのだと思いますが、上海亭の「低価格なのに創意工夫で安さを感じさせない美味しさのチャーハン」の虜になったお客さん達が、それを望んでいるとは限りません。
そもそも、上海亭でチャーハンを作るようになったのは自分が作りたい料理を押し付けるためではなく、お客さんが毎日でも気軽に来れて笑顔になれるチャーハンを作りたいと思ったからだという初心を思い出したハナちゃんは、やっと冷静さを取り戻します。
そして、「康彦さんが持ってきて下さったこの三浦半島の獅子唐で、島野さんチャーハンに勝てなくても…少しでも近づけるチャーハンを作ります!!」と心を決めるのでした。
正直、島野さんに勝とうとして強引に京野菜を仕入れ、値段を高くしたチャーハンを作ったら散々な結果になっていたと思いますので、これは英断だったと思います(`・ω・´)。
こうして、康彦さんの持ってきた獅子唐を見て閃いたアイディアを十二分に活かし、お客さんに喜んでもらえるようにとの願いを込めてハナちゃんが考え出したのが、この“肉詰め獅子唐チャーハン”です!
作り方は結構手が込んでおり、下処理した獅子唐の中に塩コショウで調味して練りこんだ鶏ひき肉を詰めてフライパンで焼き、ケチャップ味に仕立てて水溶き片栗粉でとろみをつけた餡を加えて煮込んだものを、輪切り獅子唐入りの基本チャーハンの上へかけたら出来上がりです!
獅子唐と鶏ひき肉のチャーハンとだけ聞くと平凡なイメージですが、小さな獅子唐を一つ一つヘタやタネを取り除いたり、みっちり肉詰めしたりという苦労を考えると、実はとんでもなく手間のかかっている贅沢チャーハンです(^^;)。
普通のお店だったら五百円以上かかりそうなチャーハンですが、上海亭は康彦さんとおばあさんの二人が肉詰めしてギリギリまで手間賃をカットしている為、何とお値段据え置きの三百円(?!)という低価格で“肉詰め獅子唐チャーハン”は提供されていました;。
一日限定・売り切れ御免・小規模店・作り手がハナちゃんだからこそ出来る出血大サービスだと思うので、この時ほど『華中華』ワールドへ三百円を握り締めてワープしたいと願った事はありません(つД`)。
島野さんの“賀茂茄子チャーハン”ランチの約十三分の一の価格でここまで魅惑的な一品を作り出せるハナちゃんの才能を、改めてすごいと実感させられます。
残念ながら、現実世界には上海亭は存在しませんので(同じくらいサービスのいい中華料理店もありませんorz)、自分で再現することにしました。
巻末に詳細なレシピがあるので、なるべく忠実に作ってみようと思います!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、獅子唐の下ごしらえ。洗って水気を拭き取った獅子唐のヘタと種を取って半分に分け、一方は輪切りにし(これは後にチャーハンへ混ぜ込む分なので、別皿にとっておきます)、もう一方は塩とこしょうで味付けしてしっかり練った鶏ひき肉を詰め込んでおきます。
なお、この作業は予想以上に肩と腕と目に負担がかかるので、体力気力が充実している時にしないと筋肉痛になる恐れがあるのでご注意を;。
※作中では「菜箸の根元を使って鶏ひき肉を押し込む」と書いてありましたが、実際に色々試した結果、竹串の根元で少しずつ詰め込んだ方がやりやすかったのでそちらの方をおすすめします。
この肉詰め獅子唐を薄く油を引いて熱したフライパンに並べて両面を焼き、中にまで火が通ったのを確認したら、中華スープ・砂糖・醤油・日本酒・ケチャップ・お酢・水溶き片栗粉を小鍋で煮て作っておいたケチャップ餡を入れ、全体に絡ませながら少し煮ます(獅子唐の緑色が消えない程度が目安です)。
※これだけでも十分白いご飯に会うおかずになります!
次は、仕上げのチャーハン作り。
あらかじめ、以前に作り方をご紹介したハナちゃん流基本チャーハンのレシピ通りに中華鍋かフライパンで基本チャーハンを作っておき、そこへ輪切りにした獅子唐を投入してざっと混ぜ合わせます。
獅子唐がチャーハン全体に行き渡ったら火からおろし、お皿へ丸く盛ります。
チャーハンの上に肉詰め獅子唐を飾りつけ、さらにケチャップ餡をトロ~ッとかければ“肉詰め獅子唐チャーハン”の完成です!
獅子唐の緑、ケチャップ餡の赤、チャーハンの黄色の対比がとても鮮やかで、思ったよりもカラフルな出来栄えのチャーハンになりました。
「あの詰め方でよかったんだろうか?」とちょっと気になったので肉詰め獅子唐を包丁で切ってみた所、ちゃんと鶏ひき肉が隅々まで詰まっていた為ほっと一安心です。
肉詰めにした獅子唐を食べるのは初めてなので、一体どんな味がするのか楽しみです!
それでは、熱々の内にいざ実食!
いっただっきま~すっ!
さて、味の感想ですが…「こんな身近な材料で、よくぞここまで完成度を高めた!」と感動する程旨し!獅子唐の良さを十二分に楽しめます。
肉詰め獅子唐はピーマンの肉詰めにかなり近い味わいですが、ピーマンに比べると獅子唐の方はやや肉薄でパリパリした張りのある食感で、そっくりというには決定的な差異が目立つ為不思議な感覚に陥ります。
時々ロシアンルーレットのように先祖返りしてビリッと強烈に辛い物を噛み当てる場合もあるので、なかなかスリリングなのが印象的でした。
獅子唐のちょっと癖のある強い苦味をケチャップのフルーティな甘さが程よく和らげているのが食べやすく、食が進みます。
獅子唐の表面をパキッと噛み破った途端、柔らかな鶏ひき肉の中からそれまで封じ込められていた熱々の肉汁がピュッと勢いよく飛び出してくるのが美味で、まるで小籠包みたいでした。
鶏ひき肉のジューシーかつあっさりした旨味が獅子唐のさっぱりした後口と相性抜群の組み合わせです。
肉汁が少し混じったケチャップ餡は結構濃いめの味付けでしたが、塩気を控え目にしたシンプルなチャーハンのいいおかずになっており、ちゃんと味のバランスが取れていた為ちっともくどくありませんでした。
あと、このまったりしたケチャップ餡は酢豚によく絡んでいる昔懐かしい味わいの甘酢餡によく似ていた為、もっと名前を詳しく表記するなら「酢豚餡風獅子唐の肉詰めチャーハン」がぴったりじゃないかな~と思いました。
獅子唐に鶏ひき肉をせっせと詰める作業はなかなか骨が折れましたが、苦労した甲斐のある美味しさで満足しました。
ネットで調べてみると、縦に割ったしし唐で肉詰めにするレシピがほとんどで「これは便利!楽!」と感心しましたが、中に詰め込む方式だと肉汁が一気に溢れ出す醍醐味がたまらないので、少しゴージャス感を出したい時はこちらをお勧めしたいです。
○おまけ
作中の完成図だと肉詰め獅子唐は三本のみなので、やむなく上記のような盛り付けにしましたが、実際に三本だけだと少し物足りないので;、下の完成写真のように大盛り状態にするとさらに満足度がアップします(但し、見た目がちょっとグロい感じになるのが難点;)。
●出典)『華中華』 原作:西ゆうじ 作画:ひきの真二/小学館
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。
『バナナブレッドのプディング』の“衣良流バナナブレッドのプディング”を再現!
- Thu
- 18:00
- 再現料理
住職さんが言うには、「ようご飯を食べるな~と思ったら、いつの間にか大きくなっとった」との事で、改めて猫の成長はあっという間なんだな~と実感した出来事でした。
どうも、先日ウィキペディアの某項目の片隅に曽祖父の名前がちょろっと載っているのを発見し、調べてみたら本当に曽祖父の事らしくびっくりした管理人・あんこです。
※注意:今回はオチに至るまでの全ストーリーを書いている為長文で、おまけにネタバレがひどい回です。未読の方は、あらすじ部分を飛ばすことをお勧めいたします。
本日再現する漫画料理は、『バナナブレッドのプディング』にて主人公・三浦衣良さんが雑誌で読んで以来憧れのお菓子だと話している“衣良流バナナブレッドのプディング”です!
『バナナブレッドのプディング』とは、独自の理論で突飛な行動をとる事から周囲より変人扱いされ、密かに傷ついている感受性の強い女子高生・三浦衣良さんが主人公。
唯一の良き理解者だった姉・沙良さんの結婚が決まって「血液がフリーズドライ化」するような恐怖を感じ、両親から影で「精神鑑定をさせようか」と言われている事に大ショックを受けていた衣良さんは、転校先で運よく再会した小学校時代の幼なじみ・御茶屋さえ子さんからそのあまりにも幼い言動(高校生の今でも公園で草冠を作って遊ぶ、夜中の十時過ぎにおとぎ話のお化けが怖くて一人でトイレに行けないetc)を心配され、ボーイフレンドを紹介される事になります。
しかし、衣良さんから「うしろめたさを感じている男色家の男性」が理想だと告げられた事から、さえ子さんのボーイフレンド探しはかなり難航。
おかげで、さえ子さんは以前から憧れていたサッカー部の奥上君が男色家だというありがたくない事実を知ってしまい、思いがけずショックを受けます;。
けれども、偶然さえ子さんの大学二年の兄・御茶屋峠さん(男色家どころか、プレイボーイで不特定多数の女性と遊ぶタイプ;)と衣良さんがたまたま再会した事から、話は一変!
ひょんな成り行きから峠さんを男色家だと勘違いした衣良さんは、峠さんと久々に石けり勝負をする事になり、「私が勝ったら結婚してください」と申し込んで本当に勝ってしまいます。
まさか本気だとは思っていなかった峠さんは軽くOKし、衣良さんが引越し前の家にあった大好きな薔薇のしげみの話を聞きながら「いいムードだなあ」とのん気にしみじみします。
…が、翌日さえ子さんの手紙で全ての真実を知った峠さんは、「俺は女が大好きなんだぞ!」と大慌て(この時、さえ子さんからの手紙の書き出しに「お兄様」とあったのを見て「おにいさま?!よくない予感がするぞ…」と峠さんは言っているのですが、勘が鋭いな~と感心しました;)!
結局、何だかんだいいつつも婚姻届なしの同居という、形だけの結婚生活が始まります(ちなみに、御茶屋家はさえ子さんと峠さんの二人暮らし)。
正直、当初読んだ時は「両親は反対しないのかな?」と疑問でしたが、娘のエキセントリックな行動にほとほと困惑していた様子の両親は、割とすんなりこの結婚を受け入れています。
一応愛情はある様子なのですが、理解しようとするより「どうして姉のようにまともにならないのか」という一念の方が強い感じで、「決まっている事だ。衣良のすること、なすこと、ことごとく母は泣く。父はため息をつく」という衣良さんの絶望に近い諦めがズンと胸に伝わってきたのを覚えています。
その後、衣良さんへのカモフラージュとして恋人役を引き受けたものの、本当に峠さんの事を恋してしまう奥上君・普段は隠しているものの実は男色家で、恋人の奥上くんに対して並々ならぬ執着を持つ新潟教授・奥上君への諦めきれない気持ちを持てあまし、時々峠さんそっくりに男装してはさ迷うさえ子さんも加わり、衣良さんと峠さんの関係はますます複雑化していくのですが(詳しいエピソードはこちら)、どのキャラも真剣に葛藤している様子が事細かに描かれており、大変読み応えがあります。
中でも当管理人がほほえましかったのが、物語中期でさえ子さんと一緒にお化粧をして遊んでいる様子を峠さんに見られた衣良さんが、「ヌードよりも露骨よ、髪に花をつけて、口紅ぬって、ほおべにつけて…自分がいや!」と恥ずかしがってこの世の終わりのように泣くシーン。
大人になると、化粧によって表現される「こういう人に見られたい」という願望(一言で化粧と言っても、清楚系・色気系・元気系など、打ち出したいアピールによってやり方はガラッと変わります)を他人から読み取られてもビクともしなくなりますが、元から繊細な性格で尚且つ少女である衣良さんのような子だと、それを露骨に読み取られるのを死ぬほど恥ずかしく思うケースもままあります。
この頃、異性として峠さんに初恋の感情を抱いていた衣良さんは、尚更そんな赤裸々な姿で自分の心を覗き見られてしまうのを恥じたのだと思います。
一方、大人の女性としか付き合ったことがない峠さんは、そんな少女らし過ぎる感情を目の前で見せ付けられたのに戸惑い、「俺ははじめから大人相手にしてたから、ああいう心理に出くわすと戸惑ってしまう。何とも、いいようがなくなる―」とため息をつくものの放っておけなくなり、いつしか成り行き上の仮初め妻から、毛布でくるむようにして守りたい存在にまで衣良さんは峠さんの中で急成長する事になるのです。
しかし、いい雰囲気になったのもつかの間、峠さんは本当は男色家でない事を知って混乱した衣良さんは、奥上君の件で激しく峠さんを嫉妬していた新潟教授の「衣良を同居させて自分に夢中にさせる→峠はこの上ないダメージを受ける→復讐完了(゜д゜)ウマー」という作戦実行の為に巧みな口上で同居を申し込まれ、今度は新潟教授とヘルパーさんの二人がいる家へ居候する事に。
今度こそ理想の男性と生活出来た衣良さんですが、気付かない内に峠さんへの恋心は抑えようもないくらい育っており、落ち着かない日々を過ごします。
そんな時、衣良さんが気分転換の為に作って新潟教授とヘルパーさんにご馳走したのが、この“衣良流バナナブレッドのプディング”!
作り方は案外簡単で、牛乳・卵・砂糖・バニラエッセンスで作ったプリン液をちぎったパンの入った器へ流し込み、バナナの薄きりを乗せてオーブンで焼いたら出来上がりです。
衣良さん曰く、転校する前日に雑誌で見て以来ずっと食べたかったお菓子だそうで、一体どんな味がするのか胸をときめかせながら作ったのですが、いざ一緒に食べてみても全く心躍りません。
それどころか、「はがしてみたいすりきずの、カサカサかさぶたの味がした」「かさかさ枯れ葉の味もした」という有様で、味自体は新潟教授達から「んまあよいお味。香りがなんざんすね、バナナのいい香りで」「実に興味深い味だ」と誉められるのですが、返って寂しさを募らせてしまうのです。
恐らく、衣良さんは無意識の内に思い知ったのだと思います。
本当に“衣良流バナナブレッドのプディング”を共に食べたかったのは峠さんで、それを押し隠しながら別の人間と理想のお菓子を食べた所で、なかなか癒えない傷をえぐられたような気分になり「カサカサかさぶたの味」のようにしか感じられないという事を。
けれども、自分の感情のコントロールの仕方が分からない衣良さんは自分が壊れてしまいそうな理由が分からず、ただただ混乱する羽目になるのです。
この日を境に、衣良さんは人食いおばけに食べられるという変な夢を見たり、ヤケになって峠さんを憎んでいると叫んで愕然としたり、最終的に「こういう事を考えてしまう自分は、鬼になってしまったんだ」と精神的に追い詰められていきます。
終盤、ある夜中に衣良さんは酔った新潟教授から奥上君と勘違いされて首を絞められ、とっさに握ったナイフで反撃して怪我をさせてしまって錯乱し、無我夢中で御茶屋家に逃げ込んで峠さんと久方ぶりの再会を果たします。
結局、新潟教授はただのかすり傷で大事はなく、峠さんは改めて衣良さんに一緒にまた暮らさないかと言うのですが、自分がまた誰かを傷つけてしまう事を恐れた衣良さんは、「私はあなたも憎んだの。これが鬼の仕業じゃないとどうして言えて?!」「私は自分を閉じ込めなきゃいけない。私は人に危害を加えるの」と、まるで逆毛を立てた子猫のように激しく拒絶します。
しかし、それでも峠さんは「それは誰にだってあるよ。憎しみを抱く事は」と軽くいなし、温かいミルクを差し出しながら、「うーん、眠っていてぶっすりやられりゃこっちの負けだ。君にここにいてくれと頼む以上、僕は身のかわし方を身につけねばならない」と、真面目に話に付き合います。
恋人同士というより、ここまできたらもはや父性愛かもしれません。
そして、どこへ行っても変人・奇人扱いで、いつまた「鬼」になるのか怖くて仕方がなくてガチガチの衣良さんに向かって、峠さんは「それでも構わない」「ぼくはきみが大好きだ。薔薇のしげみのところからずっとね」と、過去から現在まで全てを包み込むようにして受け止められるのです。
その際、衣良さんは下記のように独白します。
わたし、薔薇の木は大好きだった。
でも、薔薇の木から好きだよなんて言ってもらえるなんて
夢にも思わなかった。
夢にも、思わなかったわ―。
これまで、衣良さんの見ていた世界はどこかおとぎ話めいた非現実的なフィルターを通した物でしたが、いばら姫が百年ぶりのキスで目覚めるかのごとく、衣良さんはこの峠さんの言葉と温かいミルクによってようやく目を見開き、一人で完結する世界から誰かと共に同じ方向へ歩んでいく現実的な世界へと、第一歩を踏み出すのです。
正直、だからといって一概にめでたしめでたしと片付く問題ではありません。
誰かと共に生きるという事は、ケンカしたり、すれ違いがあったり、傷つけあったり、最終的に離れてしまったりという可能性がゼロではないので、自分一人の殻に閉じこもるより精神的にハードな生活が求められます。
ただでさえ自分に自信がなかった衣良さんは、多分にそういった大人の世界で突き放される事によって本格的に立ち直れなくなるのを潜在意識的に恐れたからこそ、「うしろめたさを感じている(=だからこちらにも干渉し過ぎない)男色家の男性(=自分に対して身体的にも精神的にも踏み込んでこない絶対の安心感)」という、自分を傷つけようがない存在に惹かれたのだと思います。
けれども、遠くて手に届かないはずの「薔薇の木」が自分を好きだと言い、その上不完全なままでもいいから一緒にいて欲しいと打ち明けられた事から思いがけない感動を味わい、衣良さんは未だ大人の世界を恐ろしいと思いつつも、何が待ち構えているか分からない未知数の未来へ進む勇気を手に入れました。
傷つく事がない代わりに何の変化もない「永遠の死」を体現しているような箱庭の世界から、やっと少女は不幸も大きい分喜びも大きい大人になる為、初めて誰かと旅立ちする事を決意するのです。
この直後、峠さんと衣良さんは二人暮らしをする事を決めてラストを迎えるのですが、その数ページ後に意味深なエピローグがつづられています。
それは、沙良さんがお母さんに宛てて書いた手紙。
夢の中で、まだ生まれていない赤ちゃんから「男と女のどちらがいいか」と聞かれて「どっちも同じように生きやすいという事はない」と沙良さんが答えたのに赤ちゃんは「生まれるのが怖い、ひとりぼっちは嫌だ」と言ったそうなのですが、沙良さんは自信たっぷりに「生まれてきてごらんなさい」「最高に素晴らしい事が待っているから」と答えて目が覚めた、というのです。
この言葉の解釈は多種多様で、ファンの間でも明確な結論はでていないそうですが、当管理人はこのシーンを見て「恋愛や友情、同性同士や異性同士、どんな形であっても、誰かと精神的に結びついて心を通わす事」が「最高に素晴らしい事」なのでは、と解釈しました。
それは男でも女でも傷つく事を避けては手に入らない物だからこそ、「生きやすいという事はない」と沙良さんは答えたのだと思いますが、それでも何度も諦めずに飛びこんでいけば「最高に素晴らしい事が待っている」。
これは推測ですが、作者の大島弓子先生は衣良さんと峠さんのカップルだけではなく、兄と自分を切り離して考える為に留学を決意するさえ子さんにも、峠さんへの本気の恋で教授とのズルズルした関係を清算した奥上君にも向けて、エールとしてこの言葉を送ったのではなのではないか、と当管理人は考えています。
殻を破ってやっと外へ出てきた、子ども以上大人未満の少年少女が最高の幸福を得られるようにとの願いが込められた、素晴らしい作品だと思います。
レシピがなかったので当初は躊躇したのですが、極めて簡易的な作り方はあるので後は空想で補いながら再現してみようと決めました;。
何とかそれらしく作れるよう、早速頑張ってみようと思います(ここまでお経のような長文に付き合ってくださった寛大な皆様、誠にありがとうございます)!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、材料の下準備。カチカチのフランスパンを薄切りにし、器に入れます(調べてみた所、パンプディングに使うパンは柔らかい物よりも出来るだけ固い物がいいとの事でした。勿論、他のパンでもOKです)。
そこへ、卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスをよく混ぜ合わせて漉しておいたプリン液を流し込み、冷蔵庫に入れて数時間放置しておきます。
時間が経ってパンの中心にまでプリン液がじんわり染み込んだら、バターを塗ったグラタン皿へ大雑把にちぎりながらプリン液ごとフランスパンを移して上に輪切りにしたバナナを飾り、蜂蜜を少々たらして高温のオーブンで焼き上げます。
ちなみに、焼きあがった直後だとパンがぷーっと膨れるので面白いです。
全体に火が通っている事を確認したらシナモンパウダーをお好みでふりかけ、冷めないうちにテーブルへ運べば“衣良流バナナブレッドのプディング”の完成です!
レモン汁をかけるなどの対処をしなかった為、バナナが黒ずんで見栄えが悪くなってしまいました…orz。
ただ、作中で言われている通り「バナナのいい香り」がふわっと漂うのが心地よく、見た目はともかく味は大丈夫そうだと一安心;。
パンプディングは数回食べた事があるものの、バナナ入りのものは初めてなので、いったいどんな味がするのか楽しみです。
それでは、焼きたてほやほやの内にいざ実食!
いっただっきま~す!
さて、味の感想ですが…一口食べた途端、バナナとハチミツの自然な甘さが広がって旨し!意外にも優しい口当たりで、驚きました!
元はガチガチに硬いフランスパンだったというのに、プリンみたいにフルフルッとした卵と区別がつかない程柔らかいホワホワな舌触りで、噛むまでもなくホワワ~ッと舌の上でとろけるのに感動しました。
上に飛び出た部分はちょっぴり焦げていたものの、カリカリした食感と香ばしい風味が病み付きになる感じでなかなかいけます(個人的に、アメリカンドックの串にこびりついたあの部分に通じる味わいだと思いました)。
卵の部分は「ややしっかりめに固まったシンプルなカスタードプリン」、フランスパンの部分は「焼かずに蒸した焦げ目のないふっくらフレンチトースト」という印象で、両方ともバナナの香りや卵黄のコクが効いててひと味違う仕上がりになっています。
焼いたバナナは意外と酸味が強くて大分甘酸っぱく、生に比べるとわずかに苦味のある後口だったのですが、ハチミツの滋養のあるねっとりした甘味と組み合わさっていた為ちょうどよく調和していました。
シナモン特有の風味が程よいアクセントになっていたのもナイスで、おかげで冷めてもおいしく頂けます。
あと、何故かグラタン皿の側面に、カラメルっぽい甘さとほろ苦さを持ったフランスパンの耳部分がやわやわになってこびりついているのですが、これが妙~に美味で、スプーンでつい夢中になってこそげる事必至でした;。
パンと牛乳とバナナの相性の良さを、改めて実感した再現でした。
似たような材料のお菓子ではフレンチトーストがありますが、あちらよりも使う油の量が少なく済む分、ずっとヘルシーな印象を受けました。
●出典)『バナナブレッドのプディング』 大島弓子/白泉社
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