好きな百人一首の歌
- Wed
- 15:54
- 考察
和歌だけでも結構幅広い分野があるのですが、その中でも好きなのは平安時代の和歌。奈良時代など初期の和歌の方が直接的で力強いなどという評価も数多いですが、私としては技巧と直情のバランスが程よい平安和歌の方を贔屓してしまいますね。小倉百人一首の撰者・藤原定家の時代である鎌倉時代は、技巧に走りすぎの観があってちょっと好きになれないかな。
そういうわけで、百人一首の歌と言ってもここでは平安時代に作られた和歌を中心として紹介します。
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
作者は中納言朝忠。ちなみにこの人の娘は、後に藤原道長の正室・倫子の母となってひ孫の皇子の即位まで見ています。
この歌を意訳すると、こうなります。
あなたと会って、愛し合うことが一度もなかったのならば、 かえってあなたのつれない仕打ちも、 私の身の不幸も、こんなに恨むことはなかったでしょうに。
あなたと結ばれてしまった今となっては、この苦しみにはとても耐えられそうにありません。
深いです。私の勝手な解釈を入れるとするなら、本気でこういう事を思っておらず、本当はそれでも一緒になれてよかったと感じつつも弱音がぽろっと出てしまったのではと感じています。だからこそ、こんなにも胸に響く作品になり得たのではないでしょうか。
あと、個人的に共感する歌も多くあります。
例えば、この歌。
あひみての 後の心に くらぶれば
むかしは物を 思はざりけり
作者は権中納言敦忠。今で言うイケメンの遊び人だった模様。
この歌を意訳すると、こうなります。
ゆうべあなたと結ばれた後の、今のこの苦しさにくらべたら、 付き合いたい結ばれたいと思っていた頃の恋の辛さなんか、何も物思いをしないのと同じようなものでした。
遊び人に教えられるのも正直ムカつきますが、気持ちは分かります。付き合う前も結構想ったものですが(そこ、笑うな!)、その後の想いに比べれば浅いものだったと実感しています。
あと、他にもこの歌に共感。
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
なほ恨めしき 朝ぼらけかな
作者は藤原道信朝臣。この人は23歳という短命で亡くなっています。
この歌を意訳すると、こうなります。
夜が明けてしまっても、やがてまた日が暮れればあなたに会うことができると、 理屈ではわかっています。
それでもやっぱり、わたしには、 夜明けは恨めしく思われます。
これは現代でも理解する人は多いのではないでしょうか?楽しい時間ほど、あっという間に過ぎ去ってしまうような気がして、それで惜しむというのは古今東西変化しないと思うのです。
あと、この歌も心に残りました。
君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひぬるかな
作者は藤原義孝。この人も短命で、21歳という若さで病没してます。ただ、唯一の実子・行成はこの後道長の右腕として活躍した上、書道の世界では「三蹟」の一人として名を残してます。
この歌を意訳すると、こうなります。
あなたを知る以前は惜しくもなかった我が命でしたが、あなたと結ばれてから変わりました。
これからはあなたのために長生きをしたいと思います。
短命で終わった事を思いつつこの歌を読むと、すごく切なくなるのです。
…何か、長くなってしまいました。いつもの事ながらすみません。
餡子を月に連れてって。
- Wed
- 23:28
- 考察
人は意識的にしろ無意識的にしろ、月とは深い繋りがあるのです」
とある高名な音楽家が、ラジオで語った言葉です。
さもありなん。
私自身、月という題材に心惹かれている一人なので、ついつい力強く頷いてしまいます。
数ある月の歌の中で1、2を争うほど好きなのは「Fly Me To The Moon」という歌です。
高校時代に友人から題名も知らされずに聞かされて以来ずっと気になっていた歌で、最近マサル宅で観たエヴァンゲリオンのエンディングテーマでその名をやっと知りました(宇多田ヒカルが歌っているのが一番好きです)。
和訳の歌詞は、こんな感じです。
私を月に連れてって
星たちの間で遊ばせて
木星や火星の春がどんな風か見てみたいわ
言い換えるなら、手を握ってほしいの
言い換えるなら、キスしてほしいの
私の心を歌で満たして
私は永遠に歌うわ
私が待ちこがれるのはあなただけ
あなただけを崇拝し敬愛してるの
言い換えるなら、真実であってほしい
言い換えるなら、あなたを愛してます
…大胆ですねえ(苦笑)。とてもロマンチックです。
けれども、20年以上数々の音楽家から愛されてきた歌ですから、心の奥底では誰もが共感しているんじゃないでしょうか。ただ、照れくさいだけで。
この歌が発表された年は、アポロ11号の月面着陸が間近だった希望あふれる時代だったので、なおさら受け入れられたのでしょう。
あと、この曲を聴くと南イタリアの伝承を思い出します。
「満月の夜の女は、いつもの女とは違う。
普段では考えられないほど美しく大胆になり、
してはいけないことをしてしまうのだ」
…してはいけないことって、アレの派手バージョンってことでしょうか(笑)。
もしくは、不義密通とか(古っ)。
酒乱や破壊工作とか(ありそう)。
北イタリアでは狼男が人を食うという伝承がありますが、私は南イタリアのほうが好きですね。
人間的だし、人は死なないし…月に一回くらい、羽目はずすくらい許してもいいじゃないかと、女に甘い私はそう思ってしまうのです。