2016.11.30 Wed
うづりんが炬燵の中でイチャイチャするだけー
仕事終わり、346プロ本社を出たら外は身体が心から冷える陽気というのは、正直、勘弁願いたい。
徐々に雪も降ってきて、さすがに真冬並みの天気は辛いものがある。まだ冬に慣れきっていない身体には、この雪というものはどうも身体に染みて動くことすら辛いと思ってしまう。ゆっくりとなれていくの急に冬になるのは体に毒だ。綺麗だなんだという幻想に浸る間もないほどの吹雪に近いほどの荒れ模様は、そんなロマンチストの心を打ち砕くかのように自由気ままに降り注ぐ。
いつもなら、そういう状況は帰る時間が地獄に等しい。学校の制服を身に纏い、そして、冬装備のコートとマフラーを装備して渋谷凛は隣にいる島村卯月と一緒に、いつも通りの帰路に着く。誰にも邪魔されない、恋人同士の大事な大事な時間で、至福の時というのは、こういうことを言うのだろうと寒い季節でありながらも、その寒気を肉体から追い出すほどの情熱を感じ取る。
「早く行こう。」
「うん。凜ちゃん。」
凜は卯月の手を取り一緒に歩き出す。
卯月の手の体温が凜にも伝わってくる。
「暖かくて卯月の笑顔みたいだ。」
詩人のように呟き一緒に歩き自己陶酔に浸りだす。卯月とは恋人同士。心の中で卯月に振れて恥ずかしいセリフを湯水のような語るのは日常茶飯事のことだ。あくまでも、渋谷凛にとってはだが。
「り、凜ちゃん……」
「い、今の、聞こえてた?」
しかし、こういうことは自然と口に出ていることもあるようで、当然のごとく、今の言葉は卯月に聞こえていた。
「うん……でも、うれしい……」
ただ、天然だったりロマンチストでもある卯月にとって、こういう愛の囁きは真に受けて一緒に嬉しがる。
「凛ちゃん。」
「ん?」
「えへへ」
何を思っているかわからないけど、卯月は此方に微笑むだけ。
嫌味の感じない笑顔だから、純粋に凜に対して喜びを伝えているのだろうと、凜はいつも自分に都合の良い考えを頭の中に描く。それが、なんだか嬉しくなって凜も笑顔になってちょっと、妹ぶって卯月の腕を恋人の同士のように絡めて一緒に歩いた。
卯月を独り占め。
これがファンにとっては、どれだけ贅沢なことだか良く解っているがやりたくなってしまう。
だって、卯月は
(私の彼女だし。)
未央がいれば、突っ込みでも入れていたところだろうが、あいにく、彼女は今日はいない。未央には内緒だけど今日は二人にとって大事な日だ。いや、未央は未央で藍子と蘭子が今日はどっちと過ごすかどうかなんかで、あっちもあっちで忙しいらしい。
(卯月と、こうしてイチャイチャしてると降ってる雪が溶けていくみたい。)
愛の勝利だ。
なんて恥ずかしいセリフを平然と心の中でポエムのように語りながら、いつもより甘える態度をとって卯月に頭を撫でられる。渋谷凛はクールな表情に感情を隠しているが、そして今日は物凄く嬉しいというか、楽しみな日でもある。
歩いて幸せな時間が終わっても、また、今日は幸せな時間が待っている。
嬉しさしかない。
卯月と、こうして腕を絡めて一緒に歩いて卯月の温もりを感じ取れる嬉しさ。これは恋人だけに許された、凜だけの特権。
卯月の表情は少し、お姉さんぶりたいのか、いつも通り優しく受け入れてくれる。
高鳴る鼓動を抑えられない。
こうも密着していると聞こえてしまうのではないか?それが、なんだかうれしくもあるが恥ずかしくもなって卯月の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?凜ちゃん。」
お姉さんのように凜を見つめて囁いてくれる。その心情を察しているのか、察していないのか、でも、そのこちらの言葉を聞こうとする表情が凜にとっては可愛くて仕方ないから、何を言おうとか、そういうことよりも卯月が可愛いから頬が赤く染まるだけ。その反応が可愛かったのか卯月は「ふふっ」と、声を出して笑う。
「凛ちゃん、可愛い。そんなに嬉しい?」
「それもあるけど、あの、いろいろと。」
「今日は、いっぱいあるからね。だって、今日は。」
「今日は……」
高まる高揚感を抑えきれない。小さいころに子供向けアニメが始まる5分ほどの前の時間、テレビの前でそわそわしてたような幼心が蘇る。それに今日は、いつもと違う帰りで卯月と別れる名残惜しさがない。なぜなら、今日は彼女にとって。
「いらっしゃい。凛ちゃん。」
「お邪魔します。」
卯月の家に
「お泊りするんだ。」
考えるだけで心が躍るし、とうとう、卯月の家に上がり込んだ。卯月の母親は漫画かアニメのように都合よく旅行でいない。こういう時にご都合主義というのは非常に便利なものだ。
「雪、本降りになってきたね。卯月。」
「そうですねー。こんな寒い日に、お泊りで良かったです。一人じゃ寂しかったから、ね。」
ウィンクしながら凜に嬉しさを伝える仕草に心臓を鷲掴みにされるほどの歓喜が襲い掛かってきた。
(か、可愛い……卯月、可愛すぎるよぉ……この人が、私の彼女なんだよねー……)
改めて恋人の素晴らしさに酔ってしまいそうになっていた。ドキッとしてしまう感情は心臓に悪いと思いながらも、刺激的で自分を繋ぎ留めておくには、これほどの破壊力のある行為も凜の中には無い。恋人にハマると一つ一つ仕草が瞳や脳裏に焼き付いて恋の病というものになってしまうらしいが、それは、こういうことを言うのか。凜は理解し、その恋の病の幸せを全身で感じ取っていた。
暖房をつけて恥ずかしがりながら制服を脱いで下着になると同時に一瞬で近場にあった至福に卯月が着替えていた。
(早い……)
「あ、凜ちゃん、ピザの出前、取っちゃうね。」
「うん。お願い。」
リビングには大きな炬燵、卯月の部屋にも炬燵。まずはリビングの大きな炬燵で着替えた凜は入り込んで外がどれだけ寒かったのか確かめる。愛の力で確かに寒さは吹き飛んだが、それでも限度があるという現実を改めて思い知る程には身に染みる暖かさだった。
緊張感が抜けていく感触、前に卯月に貸してもらったARIAという漫画に出てくる「アリア社長みたい。」そう、そんな猫の社長みたいに気の抜けたような顔をしていたのだろう。
愛の力も尊いが、それに増しても文明の利器の力は素晴らしいとこうして感じ取る。そして、隣には卯月が入る。密着という状態を知った時、思わず歓喜の絶句をしそうになった。
「ピザ、30分後に届くって。」
「そう……なんだ。」
卯月がいる。
にへらーって、だらしなさと、脱力して生まれるだらしなさ。二重の幸せが渋谷凛を襲う。炬燵に入り、卯月に抱きしめられた瞬間、冷えた体のまま湯船につかった瞬間、芯から熱が肉体を蹂躙するかの如く暖かさという快感が乱暴に襲うかのようだ。それほどまでにあくまでも渋谷凛にとっては危険な快楽であると言ってもいい。このまま幸せの熱にやられてゲル状にでもなってしまいそうだ。
「凛ちゃん、ちょっといい?」
「え?」
言葉を吐いた後に、すぐさま卯月が凜を抱きしめてきた。
「ふあぁぁぁぁ……」
唐突すぎる出来事に思考回路がショートしそうになるほどの電流と衝撃が凜の身体を襲った。卯月が突然、自分を抱きしめてきて、胸に顔を埋める。
それだけで、何をしているのかといくらかの未来を予測しても超能力者でもない凜には予測できるものではない。
「こうすれば、もっとあったかくなるでしょ?」
「え、あ、うん!?」
声が裏返った。
突然のことに反応できるわけがない。
お姉さんぶるが、そういう感情は気取らない。
胸に顔を埋めたまま凜の手を取って上目遣いで見つめてくる仕草は狂気と同じ。凜の中のいけない感情が暴走してしまいそう。しかし、それを抑えて心がホカホカになる。改めて今の自分の幸福感というのは非常に包まれている感覚。
「二人きりだから、ちょっと大胆に……ね?」
「う、卯月……」
好きな人が、いつでも傍にいるというのは幸福なことである。
いつか、愛情なんてものは冷めるし鬱陶しくなると、そんなことを少子化を狙っているかの如く昼のワイドショーでは結婚したら関係が拗れた男女の話を面白おかしく取り上げる。
しかし渋谷凛は、そういうことが実感できずにいた。むしろ、そういう部分に関しては互いに嫌な部分を受け入れてから、より良くなるように関係を発展させるべきだし、そんなことよりも今は幸福だ。
「卯月、暖かい……」
「うん。」
卯月が身体を絡めて抱きしめてくる。
炬燵という限定された空間の中に、卯月が凜に絡みつくように抱きしめられるというのはかなりの心地よさ。ハナコが腕の中で蹲るとき以上の破壊力と温かさが凜の肉体の中に広がった。
(あ、これが幸せオーラって言うんだ。)
暖かさから生まれる幸福感を渋谷凛は今ほど実感したことがない。
このまま身体を楽にして背中からゆっくりと倒れて卯月の温もりを再び受け入れる。
人、それも大好きな人に、こうされるというのはとても幸福なこと。卯月の笑顔が、どこか妖艶だ。二人きりだから大胆になるのが卯月の可愛いところで肌と心で感じる至福の時というのは酷く渋谷凛という少女をクールとは無縁な間抜け面にしてしまうようだ。
ただただ、小難しいことを考えずに高びとと触れ合う時間を楽しむ。
あぁ、これが、アイドルという稼業をしている中で、この瞬間というメディアには出せない部分というのを堪能するというのは背徳的な魅力も強い。ファンに黙って恋人とイチャイチャする感覚、あぁ、ひと昔のアイドルグループに、そういうのが続出したが、これはそういうことなのかと一人納得し悦楽に浸る。
卯月の柔らかな肉感が凛を包み込む感触というのはファンからすれば大金を支払ってでもやりたいことだろう。ちょっとした下心が出て、凜の手が柔らかな卯月の下腹部に這いずり始めた。もっちりとした感触がたまらなく、この両手で揉みしだきたくなる、この暖かさを持ったポカポカした感触、延々と撫でていたくなる。もっちりとした感触というのは非常に官能的で夢中にさせてしまう。性的な好奇心を呼び起こしてしまうのだ。
「だーめ。」
「はーい。」
尻を撫でると卯月から当然の如くお叱りが来るが何かをすることはない。ちょっとお姉さんのような年上ぶる顔を浮かべて悪戯できないように強く抱きしめる。ただ、これが凜にとってつらいことかと言えばむしろ幸福であるのは、その蕩けた顔を見ていれば間違いはない。
表面で反省しつつも内心は卯月に甘えたい年下の恋人としての感情が悦びを上げた。
凜も少し体を絡ませて、ほっこりした悦楽を感じる。これは人間が得る中でセックスよりも心地の良いことではないのか。処女でありながら、そんなことを実感する15歳の高校生は二つ上の妹に見える姉のような年上の可愛すぎる彼女というのは破壊力が強い。
離れたくない。
あぁ、この心地よさ、永遠であってほしい。
ただ、こうして話もせずにくっついて延々と無駄に時間を消費するぜいたくさ、これは、何物にも代えがたい。
「不謹慎だけど、アイドルのお仕事をしてる時よりも、今、凄い幸せかも。」
「う、うじゅきも!?私もだよ!」
「本当に?」
「うん!」
「嬉しいなー」
「私も!」
同じことを考えていた。
アイドルよりも充実したと感じる時間。ふあふあした優しさと温もりというのは人の狂気が蝕んでいる芸能界の空気というのを忘れさせる。深く感じる不快感、週刊文春などのでたらめな記事というものにアイドルは食い物にされる煩わしさ、そういうもの誰かが感じ、ずっと、頬にまとわりつく黒いねっとりとした不快な感情さえ芽生えてくるが、これは、それすらも忘れてくれる心地よさがある。
融解されていく。
自分の中にある不快なものが。人の不快な感情というのはそうして簡単に取り除かれていくのだろう。いや、それは思った以上に凜という人間がシンプルであると同時にいまが幸せの絶頂期ということなのだろう。
自然と頬が紅潮して鼓動も緩やかに高揚感もふわふわとした冬の季節に暖かい布団の中で寝ているような幸福感は最高潮に達しそうになっていた。しかし、幸せだけで人は生きていくことはできない。こうして卯月と絡み合って炬燵の中でぬっくりしているだけだと、家についてから摂取してないものが幸福に包まれていた現実を呼び起こす。
「ピザ、遅いね。」
「そうだね。」
会話していた途端、都合よくチャイムが鳴り響いて宅配していたピザが届く。その後は普通に食べて、テレビを見ないでごろ寝しながらイチャイチャしていたら時間を忘れてしまっていたようだ。
また、部屋で炬燵の中でゆっくり名前を呼びあってイチャイチャするのもいいだろう。そんな予定を話していれば気づけば時計の針は現実に戻すかの如く12時が過ぎていた。
「あ、お風呂、沸かすの忘れてました……シャワーを浴びるにしても寒いし。」
「あ、じゃぁ、明日にしようよ。朝から二人でシャワーを浴びてさ。」
「そうだねー。」
あっさり乗って、今日は、このまま炬燵の中で二人で眠るというのもありだろう。
どうせ、明日から月曜まではオフで明日の金曜は二人だけの秘密として内緒で学校をさぼり、土日はゆっくり、月曜日は二人で仲良く登校。これからの連休は完ぺきと言える。
一日目は、ゆっくりイチャイチャ。この時間は心地よい。難しい言葉で取り繕えば、この幸せはとてつもなく堅苦しいものになるだろう。頭がとろけたように考えるよりも幸せを求めるように蠢いている。これでいい。これから、月曜日までは幸せな、このままでいいのだ。
明日は何をしよう。
そんなこと、ゆっくり考えればいい。だって、今は、卯月とこうしている時間が何よりも幸せなのだから。ぽかぽかする、この幸福の時間、何よりも贅沢だと思えるおめでたい時間、それを噛み締めていたい。
忘れたくない、今日という幸せな時間を。
「大げさ。明日にはどっちかが死ぬ。ってわけじゃないんだから。」
「でも、幸せすぎて夢なんじゃないか。って思えちゃうじゃん?」
「ふふ、凛ちゃん、可愛いんだ。」
突然、額と額をくっつけて卯月は笑い、それが何だかおかしくて凜も笑う。
こういうことだけで幸福に感じるのは、やはり、自分という人間は自分が思う以上にシンプルにできているのだろう。
「大丈夫だよ。夢じゃないように一緒に寝てあげるから。」
「うん。」
二人はパジャマに着替えて卯月の部屋に移動。
眠気を抑えて、卯月がベッドの中に入り込む。それが、あまりにも自然だったので、驚きつつも少し不安になった。
今日は一緒に寝てくれないのだろうか?と、不安になった。
そして、卯月は何気にベッドの真ん中を独占してるし、これは、どういうことなのだろうとなる。何か、粗相を起こしたのだろうか?いや、しかし、これまで卯月と一緒にいて、そういうことは。一度尻を、今日は触ったくらいだし、それは、さっき許してくれたと思う。本心では許してなかったのかもしれない。
だからこそ、この突然の暴挙に近い行動に対して不安になる。嫌われたくないと思っているし、嫌われたら生きていけないし自殺するかもしれない。そういう幸福の領域にいるのだと、今、自分は理解もしている。だからこそ、失いたくないという気持ちも近い。
だから、気になると同時に凜は悩まし気に眉を潜めて、少しの勇気を出して声を潜めながら、小動物のように震え声を出した。なんで、こんなことに、ここまで緊張するのだろう。そんな、思いもあるが、それ以上に嫌われたりしたら。唐突かもしれないが、人間という生き物が人に愛想を尽かす瞬間というのは割と早くドライなもので、それで人間関係が拗れて終わり。なんてことは良くある。
まさか、このまま、自分は床で寝ろ。
とか、そんな突込みのあることを言うのではないのか?
「卯月……一緒に、寝よう?」
「恋人同士でしょ?一緒に寝るのは当たり前だよ。それに、さっき一緒に寝てあげる。って言ったでしょ?凛ちゃん。」
そういうと、卯月は「やっぱり凛ちゃんってかわいい」と言いながら、ベッドに敷いてある布団の上をもぞもぞしながら、卯月のではない、もう一つの枕を取り出した。
「やっぱり、すぐには暖かくならないね。」
「あ、それでいいよ。」
「じゃ、寝ようか。」
「うん!」
この時の凜は犬のように卯月に甘えてベッドの中にもぐりこんだと卯月は言う。その様相は、まるで初めて凛の飼い犬であるハナコと遊んでじゃれてきたときのようだったという。
「ところで、凜ちゃん、どうして一緒に寝ることを聞こうとした時、緊張してたの?」
「き、聞かないで……」
恥ずかしい大出を忘れるためなのか抱き枕にでもするかのように凜は卯月を抱きしめて眠りに入ろうとした。
卯月に何も言わずに凜を抱きしめ返して自分もゆっくりと眠りにつく準備をする。
さて、明日は何をしよう。
徐々に雪も降ってきて、さすがに真冬並みの天気は辛いものがある。まだ冬に慣れきっていない身体には、この雪というものはどうも身体に染みて動くことすら辛いと思ってしまう。ゆっくりとなれていくの急に冬になるのは体に毒だ。綺麗だなんだという幻想に浸る間もないほどの吹雪に近いほどの荒れ模様は、そんなロマンチストの心を打ち砕くかのように自由気ままに降り注ぐ。
いつもなら、そういう状況は帰る時間が地獄に等しい。学校の制服を身に纏い、そして、冬装備のコートとマフラーを装備して渋谷凛は隣にいる島村卯月と一緒に、いつも通りの帰路に着く。誰にも邪魔されない、恋人同士の大事な大事な時間で、至福の時というのは、こういうことを言うのだろうと寒い季節でありながらも、その寒気を肉体から追い出すほどの情熱を感じ取る。
「早く行こう。」
「うん。凜ちゃん。」
凜は卯月の手を取り一緒に歩き出す。
卯月の手の体温が凜にも伝わってくる。
「暖かくて卯月の笑顔みたいだ。」
詩人のように呟き一緒に歩き自己陶酔に浸りだす。卯月とは恋人同士。心の中で卯月に振れて恥ずかしいセリフを湯水のような語るのは日常茶飯事のことだ。あくまでも、渋谷凛にとってはだが。
「り、凜ちゃん……」
「い、今の、聞こえてた?」
しかし、こういうことは自然と口に出ていることもあるようで、当然のごとく、今の言葉は卯月に聞こえていた。
「うん……でも、うれしい……」
ただ、天然だったりロマンチストでもある卯月にとって、こういう愛の囁きは真に受けて一緒に嬉しがる。
「凛ちゃん。」
「ん?」
「えへへ」
何を思っているかわからないけど、卯月は此方に微笑むだけ。
嫌味の感じない笑顔だから、純粋に凜に対して喜びを伝えているのだろうと、凜はいつも自分に都合の良い考えを頭の中に描く。それが、なんだか嬉しくなって凜も笑顔になってちょっと、妹ぶって卯月の腕を恋人の同士のように絡めて一緒に歩いた。
卯月を独り占め。
これがファンにとっては、どれだけ贅沢なことだか良く解っているがやりたくなってしまう。
だって、卯月は
(私の彼女だし。)
未央がいれば、突っ込みでも入れていたところだろうが、あいにく、彼女は今日はいない。未央には内緒だけど今日は二人にとって大事な日だ。いや、未央は未央で藍子と蘭子が今日はどっちと過ごすかどうかなんかで、あっちもあっちで忙しいらしい。
(卯月と、こうしてイチャイチャしてると降ってる雪が溶けていくみたい。)
愛の勝利だ。
なんて恥ずかしいセリフを平然と心の中でポエムのように語りながら、いつもより甘える態度をとって卯月に頭を撫でられる。渋谷凛はクールな表情に感情を隠しているが、そして今日は物凄く嬉しいというか、楽しみな日でもある。
歩いて幸せな時間が終わっても、また、今日は幸せな時間が待っている。
嬉しさしかない。
卯月と、こうして腕を絡めて一緒に歩いて卯月の温もりを感じ取れる嬉しさ。これは恋人だけに許された、凜だけの特権。
卯月の表情は少し、お姉さんぶりたいのか、いつも通り優しく受け入れてくれる。
高鳴る鼓動を抑えられない。
こうも密着していると聞こえてしまうのではないか?それが、なんだかうれしくもあるが恥ずかしくもなって卯月の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?凜ちゃん。」
お姉さんのように凜を見つめて囁いてくれる。その心情を察しているのか、察していないのか、でも、そのこちらの言葉を聞こうとする表情が凜にとっては可愛くて仕方ないから、何を言おうとか、そういうことよりも卯月が可愛いから頬が赤く染まるだけ。その反応が可愛かったのか卯月は「ふふっ」と、声を出して笑う。
「凛ちゃん、可愛い。そんなに嬉しい?」
「それもあるけど、あの、いろいろと。」
「今日は、いっぱいあるからね。だって、今日は。」
「今日は……」
高まる高揚感を抑えきれない。小さいころに子供向けアニメが始まる5分ほどの前の時間、テレビの前でそわそわしてたような幼心が蘇る。それに今日は、いつもと違う帰りで卯月と別れる名残惜しさがない。なぜなら、今日は彼女にとって。
「いらっしゃい。凛ちゃん。」
「お邪魔します。」
卯月の家に
「お泊りするんだ。」
考えるだけで心が躍るし、とうとう、卯月の家に上がり込んだ。卯月の母親は漫画かアニメのように都合よく旅行でいない。こういう時にご都合主義というのは非常に便利なものだ。
「雪、本降りになってきたね。卯月。」
「そうですねー。こんな寒い日に、お泊りで良かったです。一人じゃ寂しかったから、ね。」
ウィンクしながら凜に嬉しさを伝える仕草に心臓を鷲掴みにされるほどの歓喜が襲い掛かってきた。
(か、可愛い……卯月、可愛すぎるよぉ……この人が、私の彼女なんだよねー……)
改めて恋人の素晴らしさに酔ってしまいそうになっていた。ドキッとしてしまう感情は心臓に悪いと思いながらも、刺激的で自分を繋ぎ留めておくには、これほどの破壊力のある行為も凜の中には無い。恋人にハマると一つ一つ仕草が瞳や脳裏に焼き付いて恋の病というものになってしまうらしいが、それは、こういうことを言うのか。凜は理解し、その恋の病の幸せを全身で感じ取っていた。
暖房をつけて恥ずかしがりながら制服を脱いで下着になると同時に一瞬で近場にあった至福に卯月が着替えていた。
(早い……)
「あ、凜ちゃん、ピザの出前、取っちゃうね。」
「うん。お願い。」
リビングには大きな炬燵、卯月の部屋にも炬燵。まずはリビングの大きな炬燵で着替えた凜は入り込んで外がどれだけ寒かったのか確かめる。愛の力で確かに寒さは吹き飛んだが、それでも限度があるという現実を改めて思い知る程には身に染みる暖かさだった。
緊張感が抜けていく感触、前に卯月に貸してもらったARIAという漫画に出てくる「アリア社長みたい。」そう、そんな猫の社長みたいに気の抜けたような顔をしていたのだろう。
愛の力も尊いが、それに増しても文明の利器の力は素晴らしいとこうして感じ取る。そして、隣には卯月が入る。密着という状態を知った時、思わず歓喜の絶句をしそうになった。
「ピザ、30分後に届くって。」
「そう……なんだ。」
卯月がいる。
にへらーって、だらしなさと、脱力して生まれるだらしなさ。二重の幸せが渋谷凛を襲う。炬燵に入り、卯月に抱きしめられた瞬間、冷えた体のまま湯船につかった瞬間、芯から熱が肉体を蹂躙するかの如く暖かさという快感が乱暴に襲うかのようだ。それほどまでにあくまでも渋谷凛にとっては危険な快楽であると言ってもいい。このまま幸せの熱にやられてゲル状にでもなってしまいそうだ。
「凛ちゃん、ちょっといい?」
「え?」
言葉を吐いた後に、すぐさま卯月が凜を抱きしめてきた。
「ふあぁぁぁぁ……」
唐突すぎる出来事に思考回路がショートしそうになるほどの電流と衝撃が凜の身体を襲った。卯月が突然、自分を抱きしめてきて、胸に顔を埋める。
それだけで、何をしているのかといくらかの未来を予測しても超能力者でもない凜には予測できるものではない。
「こうすれば、もっとあったかくなるでしょ?」
「え、あ、うん!?」
声が裏返った。
突然のことに反応できるわけがない。
お姉さんぶるが、そういう感情は気取らない。
胸に顔を埋めたまま凜の手を取って上目遣いで見つめてくる仕草は狂気と同じ。凜の中のいけない感情が暴走してしまいそう。しかし、それを抑えて心がホカホカになる。改めて今の自分の幸福感というのは非常に包まれている感覚。
「二人きりだから、ちょっと大胆に……ね?」
「う、卯月……」
好きな人が、いつでも傍にいるというのは幸福なことである。
いつか、愛情なんてものは冷めるし鬱陶しくなると、そんなことを少子化を狙っているかの如く昼のワイドショーでは結婚したら関係が拗れた男女の話を面白おかしく取り上げる。
しかし渋谷凛は、そういうことが実感できずにいた。むしろ、そういう部分に関しては互いに嫌な部分を受け入れてから、より良くなるように関係を発展させるべきだし、そんなことよりも今は幸福だ。
「卯月、暖かい……」
「うん。」
卯月が身体を絡めて抱きしめてくる。
炬燵という限定された空間の中に、卯月が凜に絡みつくように抱きしめられるというのはかなりの心地よさ。ハナコが腕の中で蹲るとき以上の破壊力と温かさが凜の肉体の中に広がった。
(あ、これが幸せオーラって言うんだ。)
暖かさから生まれる幸福感を渋谷凛は今ほど実感したことがない。
このまま身体を楽にして背中からゆっくりと倒れて卯月の温もりを再び受け入れる。
人、それも大好きな人に、こうされるというのはとても幸福なこと。卯月の笑顔が、どこか妖艶だ。二人きりだから大胆になるのが卯月の可愛いところで肌と心で感じる至福の時というのは酷く渋谷凛という少女をクールとは無縁な間抜け面にしてしまうようだ。
ただただ、小難しいことを考えずに高びとと触れ合う時間を楽しむ。
あぁ、これが、アイドルという稼業をしている中で、この瞬間というメディアには出せない部分というのを堪能するというのは背徳的な魅力も強い。ファンに黙って恋人とイチャイチャする感覚、あぁ、ひと昔のアイドルグループに、そういうのが続出したが、これはそういうことなのかと一人納得し悦楽に浸る。
卯月の柔らかな肉感が凛を包み込む感触というのはファンからすれば大金を支払ってでもやりたいことだろう。ちょっとした下心が出て、凜の手が柔らかな卯月の下腹部に這いずり始めた。もっちりとした感触がたまらなく、この両手で揉みしだきたくなる、この暖かさを持ったポカポカした感触、延々と撫でていたくなる。もっちりとした感触というのは非常に官能的で夢中にさせてしまう。性的な好奇心を呼び起こしてしまうのだ。
「だーめ。」
「はーい。」
尻を撫でると卯月から当然の如くお叱りが来るが何かをすることはない。ちょっとお姉さんのような年上ぶる顔を浮かべて悪戯できないように強く抱きしめる。ただ、これが凜にとってつらいことかと言えばむしろ幸福であるのは、その蕩けた顔を見ていれば間違いはない。
表面で反省しつつも内心は卯月に甘えたい年下の恋人としての感情が悦びを上げた。
凜も少し体を絡ませて、ほっこりした悦楽を感じる。これは人間が得る中でセックスよりも心地の良いことではないのか。処女でありながら、そんなことを実感する15歳の高校生は二つ上の妹に見える姉のような年上の可愛すぎる彼女というのは破壊力が強い。
離れたくない。
あぁ、この心地よさ、永遠であってほしい。
ただ、こうして話もせずにくっついて延々と無駄に時間を消費するぜいたくさ、これは、何物にも代えがたい。
「不謹慎だけど、アイドルのお仕事をしてる時よりも、今、凄い幸せかも。」
「う、うじゅきも!?私もだよ!」
「本当に?」
「うん!」
「嬉しいなー」
「私も!」
同じことを考えていた。
アイドルよりも充実したと感じる時間。ふあふあした優しさと温もりというのは人の狂気が蝕んでいる芸能界の空気というのを忘れさせる。深く感じる不快感、週刊文春などのでたらめな記事というものにアイドルは食い物にされる煩わしさ、そういうもの誰かが感じ、ずっと、頬にまとわりつく黒いねっとりとした不快な感情さえ芽生えてくるが、これは、それすらも忘れてくれる心地よさがある。
融解されていく。
自分の中にある不快なものが。人の不快な感情というのはそうして簡単に取り除かれていくのだろう。いや、それは思った以上に凜という人間がシンプルであると同時にいまが幸せの絶頂期ということなのだろう。
自然と頬が紅潮して鼓動も緩やかに高揚感もふわふわとした冬の季節に暖かい布団の中で寝ているような幸福感は最高潮に達しそうになっていた。しかし、幸せだけで人は生きていくことはできない。こうして卯月と絡み合って炬燵の中でぬっくりしているだけだと、家についてから摂取してないものが幸福に包まれていた現実を呼び起こす。
「ピザ、遅いね。」
「そうだね。」
会話していた途端、都合よくチャイムが鳴り響いて宅配していたピザが届く。その後は普通に食べて、テレビを見ないでごろ寝しながらイチャイチャしていたら時間を忘れてしまっていたようだ。
また、部屋で炬燵の中でゆっくり名前を呼びあってイチャイチャするのもいいだろう。そんな予定を話していれば気づけば時計の針は現実に戻すかの如く12時が過ぎていた。
「あ、お風呂、沸かすの忘れてました……シャワーを浴びるにしても寒いし。」
「あ、じゃぁ、明日にしようよ。朝から二人でシャワーを浴びてさ。」
「そうだねー。」
あっさり乗って、今日は、このまま炬燵の中で二人で眠るというのもありだろう。
どうせ、明日から月曜まではオフで明日の金曜は二人だけの秘密として内緒で学校をさぼり、土日はゆっくり、月曜日は二人で仲良く登校。これからの連休は完ぺきと言える。
一日目は、ゆっくりイチャイチャ。この時間は心地よい。難しい言葉で取り繕えば、この幸せはとてつもなく堅苦しいものになるだろう。頭がとろけたように考えるよりも幸せを求めるように蠢いている。これでいい。これから、月曜日までは幸せな、このままでいいのだ。
明日は何をしよう。
そんなこと、ゆっくり考えればいい。だって、今は、卯月とこうしている時間が何よりも幸せなのだから。ぽかぽかする、この幸福の時間、何よりも贅沢だと思えるおめでたい時間、それを噛み締めていたい。
忘れたくない、今日という幸せな時間を。
「大げさ。明日にはどっちかが死ぬ。ってわけじゃないんだから。」
「でも、幸せすぎて夢なんじゃないか。って思えちゃうじゃん?」
「ふふ、凛ちゃん、可愛いんだ。」
突然、額と額をくっつけて卯月は笑い、それが何だかおかしくて凜も笑う。
こういうことだけで幸福に感じるのは、やはり、自分という人間は自分が思う以上にシンプルにできているのだろう。
「大丈夫だよ。夢じゃないように一緒に寝てあげるから。」
「うん。」
二人はパジャマに着替えて卯月の部屋に移動。
眠気を抑えて、卯月がベッドの中に入り込む。それが、あまりにも自然だったので、驚きつつも少し不安になった。
今日は一緒に寝てくれないのだろうか?と、不安になった。
そして、卯月は何気にベッドの真ん中を独占してるし、これは、どういうことなのだろうとなる。何か、粗相を起こしたのだろうか?いや、しかし、これまで卯月と一緒にいて、そういうことは。一度尻を、今日は触ったくらいだし、それは、さっき許してくれたと思う。本心では許してなかったのかもしれない。
だからこそ、この突然の暴挙に近い行動に対して不安になる。嫌われたくないと思っているし、嫌われたら生きていけないし自殺するかもしれない。そういう幸福の領域にいるのだと、今、自分は理解もしている。だからこそ、失いたくないという気持ちも近い。
だから、気になると同時に凜は悩まし気に眉を潜めて、少しの勇気を出して声を潜めながら、小動物のように震え声を出した。なんで、こんなことに、ここまで緊張するのだろう。そんな、思いもあるが、それ以上に嫌われたりしたら。唐突かもしれないが、人間という生き物が人に愛想を尽かす瞬間というのは割と早くドライなもので、それで人間関係が拗れて終わり。なんてことは良くある。
まさか、このまま、自分は床で寝ろ。
とか、そんな突込みのあることを言うのではないのか?
「卯月……一緒に、寝よう?」
「恋人同士でしょ?一緒に寝るのは当たり前だよ。それに、さっき一緒に寝てあげる。って言ったでしょ?凛ちゃん。」
そういうと、卯月は「やっぱり凛ちゃんってかわいい」と言いながら、ベッドに敷いてある布団の上をもぞもぞしながら、卯月のではない、もう一つの枕を取り出した。
「やっぱり、すぐには暖かくならないね。」
「あ、それでいいよ。」
「じゃ、寝ようか。」
「うん!」
この時の凜は犬のように卯月に甘えてベッドの中にもぐりこんだと卯月は言う。その様相は、まるで初めて凛の飼い犬であるハナコと遊んでじゃれてきたときのようだったという。
「ところで、凜ちゃん、どうして一緒に寝ることを聞こうとした時、緊張してたの?」
「き、聞かないで……」
恥ずかしい大出を忘れるためなのか抱き枕にでもするかのように凜は卯月を抱きしめて眠りに入ろうとした。
卯月に何も言わずに凜を抱きしめ返して自分もゆっくりと眠りにつく準備をする。
さて、明日は何をしよう。
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