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2016.10.12 Wed

エピローグ
一先ず、これで終わり。
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「こいつ最新鋭よ?なんで、あんた、ここまで動かせるの……?」
命の操縦技術は基本、乃木坂0046時代に培われたものである。しかも、それで実戦を繰り返したのだから。シュミレーターで、新統合軍のパイロットを軽く撃墜してしまったことから話は始まる。ただ、エースパイロットの集まりであるSMSには苦戦を強いられた敗北はした相手はいたものの、それでも数人はギリギリ勝利。
何気に本来の世界での戦闘経験がこうしてバルキリーを使った戦闘にも生かされるのだから、世の中、どうなるかーなんてのはわからないものだ。そして、本来の芸能弾圧などを行っていた、連中と戦うための兵器ライブスーツ。
いわゆる、彼女たち専用の人型戦闘用兵器。
前の世界においては、いまだに長く続く芸能弾圧組織であるDESやら、その他もろもろの厄介な組織と戦うことにもなる。そういう連中と戦うために開発されたのが、鳥人型兵器である、NOGIZAKAライブスーツだ。所謂、00グループの持つ少女たちの専用マシンである。主翼を展開することで、亜音速飛行が可能で、戦車と戦闘機を合わせた特性とライブ支援機能も併せ持つ。例の鳥人兵器の運用が、こういう場所で役に立つとは正直、命自身、驚きを隠せなかった。
コクピット周りのパーツが多少の形状は違えどライブスーツとバルキリーはかなり共通している部分が多くある。バサラのバルキリーのコクピットは特別製だが、後にマクロス7船団でバルキリーのコクピットを覗いたときは、基本、そのスーツの操縦方法がバルキリーシリーズと、ある程度、似ており、その所謂、相互性には驚かされたものだ。
「でも、さすがにバサラのバルキリーは驚いたけどね。」
「あー、操縦桿がギターって……」
一番驚いたのは初めて搭乗したバルキリーであるYF-29改の操縦……では、あったが。マクロス7船団でレイ・ラブロックとミレーヌから基本レクチャーを受ければ、ある程度は同じという命の感覚には流石に周りを驚かせていた。
ある程度の応用を生かせば、ファイター、バトロイドの操作方法も簡単に覚えてしまう。何気に、あの世界での戦闘が、こうも応用で役に立つとは。しかし、今回は……
「鍛えれば伸びるわね……」
「ほんとに……アイドルじゃなくても、ある程度、鍛えればSMSでも良いところ行くわ。売れなかったら転向させたいくらい。」
「それにしても、どんだけ、命の世界のアイドルって厳しいのよ。」
「昔はかなりひどかったらしいけど……」
思い返せば、母たちは週に3回以上は芸能弾圧組織であるDESと戦闘していたというし、考えてみれば、あのアイドルグループに所属するということは必然的にエースパイロットになることを短期間で求められているということもあるのだろう。
そうこうして、バルキリーとライブスーツの違いを思い浮かべると、ファイターになった形態は確実に空を飛んでいるような気分にもなる。ある種、一つの形態に何種の容量を詰め込んだライブスーツよりもメリハリというものが「バルキリーにはあるから、そっちのが使いやすい。って思ったけどね。」と、口にしながら、シュミレーターを命はやめた。
「ライブスーツも、あれはあれでバルキリーに勝る長所はあるけど、でも、こっちのほうが柔らかい気がする。」
それが、芸術家的センスから生まれる言葉なのかどうかはわからないが、バルキリーを柔らかいと評するのは、この少女くらいだろうと見つめながら、自分の持てる操縦技術というものに関して両手を握ったり開いたりして確かめていた。ついでに、母智恵理のゾディアックのランカスター支部でシュミレーターで遊んでいたことを思い出すと、それは、あながち無駄ではなかったのだろうと、こうしてバルキリーのシュミレーターをしていて思う。
本来、アイドルには不要な技能ではあるかもしれないが、あの機械の塊を自在に動かすというのは結構、楽しかった。そして、格納庫の巨大モニターで見せられた戦績に周りの反応がゾワっとざわめいた。
「このイサム・ダイソンって人、倒せないんだけど……VF-19ってマシンの設定で、こっちはYF-EX使ってるのに。気づけば、一撃で終わっちゃうんだし。」
「今、SMSで彼を撃墜できるほどのパイロットはいないわよ。もし、熱気バサラがSMS所属で戦闘とかするパイロットだったら解らないけどね。とりあえず、YF-EXの1機を任されてるくらいだし。シュミレーターでだって、私が倒せたのは100回やって、7回勝ったんだし。」
「バサラは誰かに歌を聞かせる為に唄うだけだしね。自分の熱いハートを聞かせたい相手に聞かせる……私の忘れていたこと。」
シュミレーターから出て頭を軽く掻きながら、この化け物パイロットの存在に対して一瞬、師であるバサラの歌の思いを思い出し、命は目の前にいる二人の女の為に唄っているのだと自覚して、何故だか、それがとてもうれしくなって、とびっきりの笑顔を見せた。
この世界に来て、正直に言えば、音楽のほうに夢中になってパイロット側の勉強をするのを忘れていたことに気付く。
「まぁ、これはママから聞かされたことなんだけどさ。」
陽美が母であるテレーズから聞かされたことを話し出す。自身も戦い、そして敗北してしまった存在であるイサム・ダイソンという歴代パイロット。大体が、イサム・ダイソンの起こした無茶のせいで、後の地球統合軍第727独立戦隊VF-Xレイヴンズも、かなり無茶な作戦をさせられてしまったという。
基本、ジーナス家の最強パイロット系統の血を引く陽美が、そう口にしているのだから間違いはないのだろう。そして美月も頷いた。この二人が溜息を吐くほど厄介な存在というのは、どういうパイロットなのだろう。
「ってか、私たちにバルキリーで勝てなかったくせに、イサム・ダイソンに勝てるとか生意気だよ。」
「そうかも……」
イサム・ダイソンを超えられないのは、考えてみれば、まだ、10代前半の少女が、そこまでの技量を得ていたら、それだけで恐ろしい。終盤のバジュラ戦役ではVF-19EF/A エクスカリバー・アドバンスにて、大量のゴーストV-9やバジュラを血祭りに上げて、さらには「ハイテクに頼りすぎ」という機会すらも超越したイサム・ダイソンはVF-27を撃墜して中指を立てながら、前述の台詞を吐き捨てて、さらに墜落死しかけたが、地面スレスレで機体を立て直し、そのまま戦闘を続行するという、まさに化け物と形容してもいい。そういう伝説を知ってしまえばだ。
「無理だね。」
「そうね。無理よ。」
「無理ねぇ……私たちだって無理なんだし。」
「あんたの爺さんと婆さんと比べて、どっちが強いんだろ。」
「どっちだろ。うちの爺さんと婆さんも化け物だし。」
伝説的なパイロットと言われているマクシミリアン・ジーナスとミリア・ファリーナ・ジーナス。想像するだけで恐ろしいというか、オペレーションスターゲイザーでのマックスの活躍や、バジュラ戦役に参加したマックスとミリアがデートと称してVF-27の群れを血祭りにあげたという伝説を含めて、今の年齢を含めて化け物と形容したくなる気分もわからんでもない。70に入って、いまだに、20代前半と見紛うほどの容姿を含めて、このまま若い姿のまま死んでいくのではないのか。前に見た漫画の影響で、何か不思議な石の仮面を付けたりとか。そういう噂もあったが、陽美の母であるテレーズも、考えてみれば7人の子供を産んでおきながら、あの容姿を保っているのだから「そう変わらないか」と片付ける、それしか言いようがないのだから仕方は無いのだろう。ジーナス一家の何もしない自然とそうなる若作りというのは未だに、この世界でも謎に包まれている。
「この人、マクロス7船団……バトル7の艦長さんと、シティ7の市長さんだよね?」
「そうよ。最初のマクロスに登場してたりとか、おばあちゃんはメルトランだったりとか。」
「凄いよね。凄い若々しい。前にも教えてもらったし、ミレーヌさんから聞いたし、実際にあったけど本当に外見が。」
「コミリアおばちゃんも、まったく外見、変わらないんだよね。」
「あ、エミリアさんにもあったけど、凄い美人さんだったよ。」
イサム・ダイソンの戦績の話から、ジーナス家の話に、昼間のOLのような会話はシフトチェンジし、久しく、こういう女子トークをしていなかったことを思い出す。そして、この時間を二人の嫁と、こうして語り合うと言うのは何かしら、忘れていたものを思い出すような気がする。ぬるま湯に浸かっているような何もない普通の時間のありがたみを、思い出す。バサラとの旅では考えられなかったことでもあるから。楽しくはあったが、こうしてまったりして女子と話す時間なんて存在はしていなかった。熟年男と15にも満たない少女の珍道中は惑星ARIAで一度は終えた。今度は女だけの海賊船に乗って、この世界を旅するのとなると、変わったことと言えば、賑やかになったことくらいか。
「そういえば、私のバルキリー作るんだっけ?」
「あぁ、そうだったわね。」
今回の適正は、そのバルキリーの適正を図るため。これで、適性がなければどちらかのバルキリーに乗せて歌うということになったが、予想以上の力を持っているがために、改めて、今回、ハンドメイドとしての新しいバルキリーを制作することになった。とはいえ、新たにVF-32だ、46だ、48を作るわけでもなく。従来の開発されたバルキリーの専用カスタマイズをするということになる。陽美の専用機であるYF-EX「命」と、美月専用のVF-XX「命」、そして、園命専用のバルキリーを開発するわけではあるが、
「とりあえず、サウンドバルキリータイプでいいんじゃない?」
「まぁ、命のことを考えると殺しをさせるわけにはいかないわね。」
「そのサポートとして、私たちか。」
「あの……ありがとう。そう考えてくれるの、結構うれしい。」
最初は武器と言うものを使い戦闘することも止む無しという、あの本来の世界のことを考えていたが、二人は、それを良しとしなかった。あの命を取り合った二人の女は命の恋人であることを自負すると同時に、命の最初のファンであるというのを自惚れながら、それを決める。
それほど二人にとって命の歌というものは大きかった。
与えるものは確実に歌を伝えるためのマシンである。兵士としての殺気感情が前面に芽生えた、あの戦場にいた二人の殺気を浄化した命の歌。だからこそだろう。あの時の殺気の感情を覚えているからこそ、あの場で、バルキリーに乗せるなら、ミサイルも全てを搭載せずに歌という武器を最大限に発揮する。
バサラ専用のYF-29改のデータもハッキングしていた甲斐というのもある。
見事にハートをぶつけてくれた命の歌、まさに、バサラの教えを自分らしく消化させた命の歌の力に相応しい、彼女専用の彼女のためだけのバルキリーを作り上げる。
SMSマクロス・リリィ支社とSMSリーリヤ支社の合同機。
新型機でも創造できそうな勢いではあるが、まずは、それ以上に、これから来るVF-31を味見してからということもあるようだ。自分専用のバルキリー……兵器は人の使い方しだいによって殺す道具にも平和をもたらす道具にも変わる。過去の歴史から学び、そして、一番優しい平和をもたらす兵器である熱気バサラのYF-29改が最初に思い浮かぶ。
あれほどの力があれば……そう思う。
だが、それでも、そこに一瞬、自分の中で傲慢さを見つけると首を振り冷静になる。子供ではあるが、これだけのことを体験してしまえば達観してしまう。だからこそ……
「私は……」
「いい?貴女の世界では、貴女は戦いながら歌う存在だったようだけどさ。」
「これからの、貴女の戦場は地味泥臭いところじゃなくて、歌の世界よ。」
「そして、私たちを含め、ここにいるすべての人間が、貴女を助けるために動くの。」
その言葉に、この場所にいたすべての兵士たちが頷いた。惑星ARIAに集う人々は、あれ以来、園命のファンになったのだ。その光景は、まさに、今まで歌で震撼させてきた歌姫たちのようである。己の心の殻を破り、解放されて発揮された、ありのままの彼女の歌。光の翼を羽ばたかせて歌う少女の姿は、まさに、天使という言葉が似あっていた。
「うん。」
「だから……」
「汚い仕事は私たちに任せなさい。」
こうして自分のために、そこまでしてくれるのなら、命は、その期待に応えるのも、また自分の大切なことと考える。そして、そう言ってくれる、かつて自分を奪い合おうとして傷つけた女たちの、自分に対する本当の想いが好きだ。
「あ、できれば、バサラのバルキリーが一番理想なんだけど。」
キリッとした顔で、かつての師のバルキリーを二人に頼んだ。偉大であり、大切なことを教えてくれた師のバルキリー。そして、自分の歌を最大限にまで引き出してくれる翼を持つ、己の魂を直接、伝えてくれるバルキリーであると。実質、あのバルキリーに搭載された機能とキララの力、そして自分の歌の感触を肌で感じたときに、これだ!と、確かに感じた、その優しい力。
「YF-29タイプか……まぁ、うちの生産プラントを使えばできるか。」
「やるにしても、フォールドクォーツが必要でしょ?」
「百カラットくらいのフォールドクォーツは、かなり余ってるのよね。」
「なんで……」
「まえに、どっかのクイーンクラスのバジュラを殺ったときに、クイッと。」
「クイって……」
「あんたのEXにも同じの搭載してやるから。」
そういうことではないのだろうというのは、陽美の反応を見ていて思った。そこまで希少なものをこうして持っているというのは、さすがは海賊だということなのだろうと自己完結し感心してしまう。マクロス・リリィ政府とリーリヤの繋がりというのは独自のパイプを築くに至る。
この自然に覆われた惑星を自然を尊重し共存させて大きく発展し始める。所謂、人々は偽物の空から抜け出して好き勝手に生活し始める。現代、マクロス・リリィを含める、その他の船団の艦は巨大な湖に浸かり、そのまま、周りに地球で言う下町のようなものを形成しながら、徐々に発展していく。
リーリヤの襲撃によって混乱した都市部は機能を回復。
シティ・リリィは都会的なものではあるが、まだ、この惑星の街自体は田舎という言葉が似合う。
それでも祭りのように露店などができ、再び、活気を取り戻す。今や、マクロス・リリィ船団のアイドルである園命の歌を活気に、ここで発展を遂げている。
熱気バサラは、この惑星から去ったのは、ほんの二日前のこと。
リーリヤの集団は、アグレッサーと認識された瞬間、ここでは人的被害は出ていないし、マクロス・リリィの不正を暴いたがゆえに暖かく迎え入れられた。それに対して、その歓迎を受ける。無論、マクロス・リリィの住民と恋に落ちることもあったが、全員が全員、女性に恋をし、厄介なことが起きそうなころには男という生き物は磔にされたりと、人が多いと、その分、トラブルも多い。
無論、リーリヤの女たちが既婚者の女性やらを魅了して寝取るなんてことも多かったそうだが。と、余計な話は、ここまでにしておき、元よりリーリヤの長である美月は、マクロス・リリィの艦長がレズビアンでSMSマクロス・リリィ支社の隊長と出来ているというのだから、そういう意味で意気投合するのも出会ってから運命に等しかった。
大統領とも長い交渉で話を付けて、互いに様々な貿易を開始し、そして利益をもたらす。とはいえ、リーリヤ自体の軍事技術の提供は信用できるSMSのみに留まるということになっている。
「ついでに、フォールドクォーツがいっぱい埋まってる惑星……いえ、フォールドクォーツで出来てる惑星も知ってるし。仮にここで足りなかったら、そっから持ってくるし。もし、あれなら、そこに。」
「ちょっと……フォールドクォーツって、自然界じゃほとんど存在しない希少物質よ?!」
それだけ宇宙は広いということか。
誰もが、その言葉、ある種の世界の理を超越した言葉を平然とはくことに頭痛が痛いと、そんな言葉が似合う。これが海賊ゆえの自由さというものなのだろうか。この星の歴史を、まだ、そんなに勉強していない命にとって、どういうことなのかは解らないが、何かしら凄いことなのだろうと片付けて、ただ、二人の会話に聞き耳を立てていた。
ただただ、じっくりと話を聞く顔をしつつも、この世界の銀河の広さというのは圧倒されるものであるのだと感じさせ、同時に、それを響かせた己の歌の力というものを、己の歌の力の強大さを理解する。
「さて、話を進めるとしてフォールドクォーツとキララの力、そして命の歌の共鳴は確かなものだし。」
陽美の反応を無視して、美月は話を進める。とりあえずはYF-29改の製作は可能ということはよくわかった。細かいことを突っ込んではいけないのだと、そう自分に言い聞かせる。
「だから、そういう世界よ。伊達に、無駄に艦隊を率いてるわけじゃないの。ついでに、すべてのバルキリーの設計データはハッキングして盗んだ。」
「最低だ……」
陽美の呆れ顔も気にせずに、そもそも、そこまで、そういう機密情報はザルなのかと考えざるを得ない。いや、おそらく、リーリヤ自体が異常なのだろう。文化に影響されつつも闘争本能を抑えられずに如何にして勝つか、その勝利の要因を得るために常々、何もかもを研究してきた母達の遺伝子を受け継いできたからこそ、このようなことも出来る。
だからこそ……と、言うべきなのだろう。ゼネラルギャラクシーや、新星インダストリー等に投資する代わりに設計データ等の見返りを受けつつ、戦力を増強させてきた。文化を学んでから行われてきた、これらの投資は無駄ではなく、オーロラン、ブロンコⅡ、スパルタス、ローガン、レギオス、モスピーダ、ザーメ=ザウ、ヴィルデ=ザウ、ハードスーツ、モトスレイヴ等、そんな兵器が、ここに羅列しているのは。
そして、エース専用として、こちらで独自に開発されたVF-αなどなど。それが、失われたマクロス5の復元にも役に立ったりと、ハンドメイドでオリジナルのバルキリーを作り、さらに従来のものを改造するのことも出来る。ここまでくると、一つの企業として経営者としてリーリヤは動いた方が良いのではないか、なんて話すらも出るほどだ。
「ってか、ここまであるとさ。サウンドブースターもあるわけ?」
あちこちにあるレアとも言える兵器を見ていると、さすがに、SMSリリィ支社にとっては驚きも隠せずにいられなかったのは言うまでもない。
「そうねー。まぁ、こういうこともあろうかと。って感じで、命に出会った時から発注してた。」
まさに、欲しいものは何でも手に入る海賊そのものであると言うのが解る。その思考、もし、そうならなかったら、どうするつもりだったというのだろうか。あの頃のホンの出会いから始まった時から、そうしようと思ったというのなら大した自信だ。言葉を聞くだけで誰もがあきれ果てる。
「そういえば、命は少なくても10万チバソングはあるのよね。」
「10万チバソング?」
「あぁ、ここでいう、貴女の歌の力を数値化したもの。」
「なんで、そんな変な単位なの……?」
「まぁ、自己顕示欲が強いんじゃない?マクロス7船団のドクター千葉は。」
「マクロス7船団にいたんだ。」
とはいえ、接触していないものは接触していないのだから覚えようもないが、今度、会ったときには挨拶くらいはしようと胸に近いながら、表示されているYF-29のデータパネルを眺めていた。戦争を止めるための兵器……
「よし。頑張ろう。私も……私として輝けることを証明するんだから。」
命は胸に、かつての思いを秘めて改めて本来の世界に戻ることに対する決意を、このバルキリーを見て胸に誓う。誰かの名前を借りなくても、自分は自分として永遠に輝いていられるということを。それを、この世界の人達は教えてくれた。ここで得たものを伝えていきたい。
「陽美……美月……」
「お?」
「ん?」
命は頬を染めつつも、陽美と美月の腰を両手で引き寄せた。表情をあえて見つめずに二人は、その行動を受け入れていく。
「ありがと……」
切欠を教えてくれた二人。
本当に大切に思ってくれていた二人。
改めて、この二人がいなければ、もっともっと時間はかかっていたことだろうと考える。もしかしたら、この世界でアイドルをやめて、バルキリーのパイロットをやっていたかもしれないと言う、今となっては、そういう未来もあるかもしれない。そういうことを思う。
俯き、恥ずかしそうな顔を浮かべながら切欠を与えてくれた二人を強く強く抱きしめる。
「きっかけを与えたのはバサラの言葉じゃない?」
「でも、もっと、深く考えられるようになったの……二人のお陰だし……」
バサラの言葉は抽象的過ぎて、理解できそうにもなかった時、二人が打開するようなことを言ってくれたからこそ、今のような自分がいることに対誰よりも感謝はしてる。瞳は器用に一瞬だけ左右にいる二人を見て、それからさらに強く抱きしめた。
「いいよ。」
「それくらいならね。」
二人一緒に抱きしめて銀河を唄わせたアイドルは一瞬だけ一人の少女に戻る。
感謝の言葉を放ち、二人が恋人を気取った顔を浮かべて左右から一人の少女を包み込んだ。バサラはもちろんだが、この二人がいなければ今の自分だっていなかったのだから。その感謝の思いを言葉にせず、行動に示し、陽美と美月は、その感謝の思いを受け取った。早速、目の前の機械たちがデータを受信し、YF-29改を作り始める。
「ふふ……」
「どしたの?」
「私、今まで、あの世界で私は私として名前を刻みたい。って、そんなことを考えていたの思い出して。」
「じゃぁ、命はなんで歌うの?」
改めて問われると、それに関して、なぜ、野望的なものを取っ払った自分。
歌う理由、それは。
「なんだろう。たぶん、唄いたいからなんだよ。私だけの輝きを持った、私だけの歌を。」
「師匠譲りね。そこは。」
「でも、仕方ないし。何か、この世界のアイドルには枷があって、それから解き放たれた人だから銀河を震わせることが出来たんだと思う。」
「その枷だったものが翼に形を変えて……」
「歴史に名を遺したか……」
そこにはかつての野心を抱いて、自然に心を殻に閉じこもらせていた少女の姿は無い。ただ、彼女は熱気バサラのように唄いたいから唄う。そう屈託のない笑顔で、どこか嬉しそうに話した。
乃木坂0046とAKB0048が合同ライブの音がランカスターに響く。熱狂的なファンの声が楽屋裏まで響くものの、一人の少女は疲れなのか、それとも、何か一つ大切なものを失ってから虚無に満ちたような顔を浮かべている。心にぽっかりと穴が開いて、外ではファンに笑顔を振りまいているものの、命にいないことに対する虚無感がプライベートでは嫌でも出てしまう。まだ、命の求めていたことについて理解できていなかった。なぜ……あの時……自分に……そのことを……そう語るが、その先を考える恐れから瞼が全力で開き、喉の渇きが襲い掛かる。命がいなくなってから、その答えを必死に探しているのに見つかることはない。
あれから、一条流歌が立ち直りマイクを手に持ち命の穴を埋めるかのように努力した穴を埋めようとしても、誰しもが認めていた二代目齋藤飛鳥としての穴は埋めることが出来ずに、乃木坂0046には一抹の不安が残されていた。
今回のAKB0048との合同ライブも、そういう部分を解消するためのところがあるのだが、ファンの望まぬ形を出すとはいえ、抜群のポテンシャルを持っていた園命が抜けた穴は乃木坂0046にとって、大きな失敗であるともいえよう。それをカバーするために頑張ってはいたのだが、ファンの歓声は、あのころと違う。
身を震わせて、官能的な気分に浸らせるほどの、その快楽すらも、命がいないだけで存在しない。何曲か終わっても、その隣に彼女がいないだけで不安になる。好いていたし、愛していたと、いなくなってから、何度も何度も、この肉体には自分でした手淫の痕が刻まれている。
いなくなったことで初めて気づく恋心はじわじわと少女を追い詰める。あれから、どれくらい、この虚空に身を使っているような人生を過ごしてきたのだろうか。
流歌に対して命は問いかけていた。
相談をしていた。
理解していなかった自分の浅はかさというのは嫌悪に等しい。
「次の楽曲、お願いします!!」
それでも、本番となれば向かっていかなければならない。
今は、ただ、一人、その思いをも振り払い二代目松村沙友理として、乃木坂を代表するセンターとして立ち上がる。
0048側では園家の長女と次女が、その位置に立つことになった。しかし、いなくなってから、その辛さを罪悪としてとらえてしまった流歌自体、もう歌うことすら、何かを裏切っているかのようでつらい。
「大丈夫なの?」
「咲蘭……お姉さん。大丈夫です。」
命に、どことなく似ている一人の少女、園命の姉である園咲蘭……手に肩を置いて察しているかのように言葉をかける。相変わらずの人見知りな部分が多いのか、クールを装って、手から伝わってくる震えが、この状況、どれだけ話しかけることに苦労したのかが解り、思わず苦笑してしまう。
「疲れたの?大丈夫?」
「いえ……」
命がいない。
考えてはいけないと思いながらも、己の中にある蟠りを隠して全力でパフォーマンスをした、あの人の影を、常に追っていた。己は己として輝く。その道を突き進みながら光の作った虚空の中へと消えていった、あの人の存在。
「私たちは、個人的な感傷をライブで出すことは許されない存在……そうしなければ人に希望なんて与えられないわ。偶像でなければならない哀しみなんてのもある。あの子は、それに、誰よりも敏感すぎた。」
「なんで、いなくなったのに……」「私たちはママの言葉を信じてるだけ。あの子は生きてる。いずれ、戻ってくる。凪沙ママは憶測だけでモノをいう人じゃないわ。」
「一応、あの子の姉だから……何かある前に、相談はしてほしかったけどね。でも、時折、あの子の価値観は、この世界のアイドルの常識を超えてしまうものだから。不思議なものね。芸能弾圧の前の世界では、それが当たり前だったはずなのに、気づけば、この世界は誰かの名前を借りなければ注目されなくなってしまった。むしろ、今の芸能事情に、この世界は毒されているのよね。」
「私は、まだわかりません……」
そう評さなければならないほどに、この世界の芸能界というものは、より偶像を求めてしまう傾向にある。それほど、偉大であるというのは解ってはいるし、命の考えも姉として応援はしていた。
しかし、まだ、この世界は新しいアイドルを受け入れるほどやさしくもないのだと、そういうのは肌で感じる。未だに、過去の偶像に縛られて、この世界のアイドルたちは成長できずにいる。
「偶像になり切れなければ、しかも、自分らしくではなく他人らしさを求められてしまえば、己を考える時期に、それはきついもの。ママたちの時は、そこまででは無かったようだけど。ただ、それだけ、乃木坂46の中で美を司った斎藤飛鳥という存在は大きかった。って見ることが出来る。私も、最初はそうだったけど、不思議なモノね。あの子を見てしまうと、自分も、もう一つの名前を捨てて、もっと輝きたいと思えてくる。」
「私は襲名するだけで満足でした……」
「そうね。本当は、皆、そう。あの子しか、解らない何かだった。」
しかし、斎藤飛鳥と命はあまりにも違いすぎたし、逸脱した行動、つまり自分として振舞っていた。そして、それがファンから顰蹙を買うというのは映像などを通してオリジナルを知ってしまえば反感が来るのも仕方は無い。
「器用に思えたけど、意外と、あの子は不器用だったのかも。」
全てを演じろとは言わないが、襲名したメンバーらしい振る舞いをしながら己を混ぜ合わせるのが襲名メンバーのスタイルである。だが、あくまでも自分として輝こうとする命にとっては、それさえも苦痛に近い何かを味わっていたのだろう。名誉であることが命にとっては。
「まぁ、贅沢な悩みだとは思うけど、自分というスタイルを表に出したかった命からすれば苦痛なことなのかもね。だから、私たちにはあの子のことがわからない。」
「どうしたら……」
「帰ることを祈るしかないわ。」
現存するがゆえに、そうではないにしろ、オリジナルの48Gや、46Gの映像がある限り、オリジナルと比較はされる。それでも、自分というものを出し続けるなら……。
「でも、それだったら……」
「智沙、一人は怖いものよ。それに、あこがれるグループだから自分は自分でいたいというのもあるわ。それに、AKBや乃木坂だって、あの子は好きだった。そんな好きなグループに自分の名前を、自分として、刻めることというのは、それだって、素敵なことよ。」
よりオリジナルから離れれば離れるほど強く比較するようになった。襲名という部分が色濃く残り、2代目橋本奈々未を襲名した流歌は己の愚かさを恥じる。彼女の中の園命……
「でも、帰ってきたら、あの子は、もっと、私たちの知らない凄い存在になっているかもしれないわね。」
「すごい……存在……」
「覚悟しなきゃ。姉として負けちゃう。」
そして、三人はライブに移動した。今、こうして、彼女のことを考えながら歌うと、襲名の先にある世界というものを理解できない。襲名、オリジナルメンバーの名前を得ることの、何がいけなかったのだろう。
唄っていても、答えはまるで出ない。
自分として、この組織に名を残したいと思っていた、その気持ちがあるから。
命の姉である二人は、それが解っているようだ。
だが、一緒に暮して来た自分にはなぜ、分からないのか。
オリジナルのメンバーの名前を受け継ぐ。
それとて、素晴らしいことだし、先輩メンバーに対する敬意というのは無いのだろうか。
解らない。
わからないから、自分を磨き、流歌は努力し、己を磨き、さらにはセンターを獲得できるまでに、今の地位を得た。しかし、頑張っても、解らなかった。彼女の思考は、乃木坂0046という組織に所属する人としてあまりにも一般的過ぎたからこそ、襲名で満足をしてしまう、その気持ちから抗うことはできなかった。
ただ、襲名に甘んじて、あとは、そのまま名前を受け継いだまま卒業してしまうという、そのことが、命には解らなかったが流歌は、なぜ、そうなのかが解らなかった。あまりにも理解しようとしても理解できないがゆえに利己的に扱ってしまう己の感情はついていけなくなる。
だが、それでも、彼女の気を惹きたくて、ただただ、話だけを聞いていた。
「それじゃぁ!聞いてください!裸足でsummer!」
ここで復活したAKB0048と乃木坂0046の二つのグループが入り乱れあう。
しかし、その時だった。
空を埋め尽くすほどの軍勢がワープして登場したのは。これを狙っていたかのようにDES軍の兵器が大量に攻めてくる。観客たちは焦り、そして、当然のごとく現場は混乱し、自分たちは当然のように戦闘態勢に入る。全員が戦闘態勢を取りつつ、これから、血みどろの戦争が行われる。誰かが嫌でも傷つく。それは仕方のないこと。傷つけないことは大切だが、それ以上に、この場を守ることの方が大切なのだと、咲蘭や智沙達が活躍する中で、自分も動き出す。
それでも覚悟しなければならないと解りつつも、それでも、恐怖心を煽るように、アキバスターを責めてきた時以上の軍勢がコンサート会場に迫る。AKB0048も、乃木坂0046も唄いながら、戦場を駆け抜けて戦う。歌いながら戦場で人々に勇気を与え、そして、自分たちを鼓舞するために荒ぶるのだ。歌にならない酷い声が響くときもある。
それでも、命ある限り……
この理不尽とは戦わなければならない。
覚悟した時だった。
流歌、咲蘭、智沙の全身にゾクゾクと走る感覚が襲い掛かる。
これは、なんだ。
ドクドクと心臓の鼓動が全身に響き渡るように聞こえてくる。
この激しい戦場の世界にいるというのに、緊張感以上の興奮が、この場所に近づいてきている。
確かな、それを感じさせる何か。
戦闘など、そんなことすらも笹生なことに思えてしまうほどに、気分は、早くそれを求めてしまっている全身と精神に張り巡らされたサーキットに電流が走り、戦闘中だというのに、そっちに全神経が集中しているのだから、恐らく、この場にいるアイドルと呼ばれる存在は、すべて、神経がビンビンに世界というものを、この事態すらも小さなことと感じさせる。
何が来る。
そこに、何が来るというのか。
大気が微妙に振動し、徐々に大きくなっているのを感じる。
大気が震えると同時に、己の体さえも震え始めていることに気付き、呼吸が荒くなる。ビリッと電流が恍惚な愉悦となって駆け抜ける。
悦びを感じているのだ。
この身体に、徐々に灼熱を帯びてくるのを感じ取り、まさか、なぜ、こうなっているのか。
予想だにしない反応に、思わず、戦場だというのに一瞬、動きを止めてアイドルたちは天を仰ぎ見た。
それを当然、隙と捉えたDES軍は好機と見て捕獲装置を起動させたが、それ以上にアイドルたちの周りに飛び交うキララ達が、それを守護する。
異様にキララ達が、そのアイドルたちの肉体に突き刺すような感触に反応するかのように肥大化している。
何だ。
何が来るというのだ。
誰もが、この光景を見て、一大プロモーション的なものだというのだろうかと考えた。
だが、それにしては、それにしては、DES軍の動きはあまりにもプロモーションと呼ぶには統制が取れすぎている。
「ママ……これは……」
凪沙と智恵理たちも、それを感じ取っていないというわけではない。
むしろ、まだ、アイドルとしてやっていけるほどにまで、細胞が活性化しているのを、この肉体に感じ取っている。
いったい、これは。
「帰ってくる……」
疼く。
肉体が、細胞が、精神が。
「凪沙……?」
「お腹を痛めて産んだ子供だよ?解るよ。」
その言葉と同時に、全てのキララが震えあがる。
それは恐怖ではない。
明らかに、アイドルたちと同じように興奮している震えだ。
『何?この酷い歌……』
ランカスターのライブ会場を揺らすほどに大きな声が響き渡り、流歌は、その声の持ち主が誰なのか、流歌は、すぐに理解する。
「やっぱり……あの子だ。」
「命……今なら、確かに私にも感じ取れる。」
そのタイミングでキララフォールドから抜けた、赤と青で彩られた一機の戦闘機が出現した。
それは一瞬にして、巨大な人に変形し、同時に現れた巨大戦艦から発進したブースター状の何かと合体した。
全てが、あれは何なのだと、流石に全て、動きを止めざるを得ない。DES軍は本来の目的である外宇宙からの侵略者を迎え撃つ存在ではあったが、明らかに、その規模に対して恐怖を抱いていた。アイドルたちとは、まさに真逆の反応を見せていたわけだ。人型に変形した、その戦闘機だったモノ、その周りに2機の戦闘機が守護するように飛び交う。
あそこに弾丸を打ち込んだ時点で、どうなるか、DES軍も流石に、愚かではない。
戦艦、いや、機動要塞と言えるほどの巨大な群れが、上空に現れたというのだから。
「やっぱ、皆で来たらこうなるよね。」
「あら、ここからが本番でしょ。」
「この艦隊よりもすごいサウンドを……」
『それじゃ、始めようか。』
この世界において全く知らないイントロが流れ始めた時、園命の声が銀河を震わせるほどのサウンドが響いた。全ての者たちの細胞が活性化するほどの心地よさが肉体を襲う。
「命……!」
この世界において、それは全く新しい歌だった。
全く、聞いたことのない、AKBでも、乃木坂でもない、新たな歌のスタイル。
コクピットから出現し、小型化された歌エネルギー変換システムに繋がれたサウンドブースターが光り輝き、全ての者たちに園命は己のサウンドを響かせた。
「あの子、私たちと全く違う光を身に着けてる……」
誰もが、驚く。
ランカスターに光が走った。
歌が生んだエネルギーの美しさ、キララと合わさることによって、この場にいるすべてのキララを支配した。
「私たちの時と同じ?」
「ううん、それ以上かも。相当、凄かったんだろうね。向こうでの体験は。」
二人の母親から映る帰ってきた娘の強さというのは予想以上のことだった。良い出会いをしたのだろう。その歌を聞いていれば、手に取るようにわかるし伝わってくる。
「あの子、もう、超えられないところにいるのね……」
「お姉ちゃん……」
「咲蘭……」
鮮やかな音色たちが踊るように命の周りを飛び交い、全ての人達に入り込んで戦いというものを忘れさせる。
広がった色たちは銀河を照らし、そして、神々しく、その場に君臨する光を与えて、夜の世界を内なる人の力で光の世界に作り替える。銀河の震えを素肌で感じた、この感覚は、どうにもならないほどの圧倒的な差を付けられて、今に、君臨している。
しかし、同時にわくわくするほど、咲蘭も、智沙も、この状態に対して高鳴りを隠せない。
いや、ここにいる全てのアイドルたちが、そうだ。これが、園命の目指した、この世界にもう一度復活させたアイドルの形であると言っても良いだろう。昔、それは当たり前で、マクロスという要塞があった世界でも、それは当たり前で、今まで、この世界ではありえなかったこと。
そう言っても過言ではない。
蒼と紅の色持つマシンから拡大される命の歌の演出はプロ意識すらも忘れさせるほどに大きく、そして、激しい。
「こんなの、知らない……」
流歌は全身が別の生き物になっているのを感じ取った。確かに、ここにいるというのに、目の前の存在に、良く解らない感情を抱く。唐突に来る、この全身に走る痛みとも快楽ともわからない、いや両方かもしれない、幼馴染の姿に対して肉体に痛みが走る。
この感情は、この思いは、それは、何。
問いかけて、問いかけて、彼女の歌の光を取り込み、情報を得ようと脳が必死に処理をする。
この感情は何だ。
求める先にあるものを感じ取ろうとしたが、大気の震えと同時に振動する肉体の鼓動の激しさは、快楽を求めてしまっている。
この歌は、そういう力がある歌であった。
その目の前の艦隊以上に迫力のあるサウンドを響かせて全ての人を艦隊以上に魅了しているその歌。
そして、自分も魅了されている、この現実に気付き、この全身に走る電流のような感覚の中で麻痺してしまいそうなほどの中で考える。恋愛、そして、電流、脳のシナプスは、すでに、彼女が遠い世界の領域にいる存在だと知っている。
彼女は自分のことなんか見ていない。
羨望と嫉妬と歓喜
(本当に全てが止まった。)
唄う中で、この世界の理、それを改めて理解したとき、命の中にあるのは、今という時代を喜んでいるという、この歓喜と快楽の感情が身を包み込む。
唄う事の楽しさ、この凱旋はあらゆる人に一つの可能性をもたらした。
フライングプレートに乗りながら、近づいてくる二人の姉が近づいてくる。
命の存在は、この世界の、ランカスターにいるアイドルを中心に、他のアイドルたちにも一つの希望を与えたのだ。
この日、園命は本来の世界で一つの可能性を示した。
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| マクロスLily
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≫ EDIT
2016.10.01 Sat

はてさて、10月1日だから、神無月の巫女になるから、神無月のSSなのでは?と、まぁ、思わねーだろうけど、そう思う人も、このブログに来る人は思う人もいるだろうけど、どのみち、今後、やるかどうかわからないけどマクロスLilyの続きをやるなら園命の娘の長女と次女の名前は「姫子」と「千歌音」と、言う名前にする予定だったので、敢えて、ここで。
とりあえず、一応、これで最終回だけど、まだエピローグがあります。

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「凪沙?」
その日、ランカスターの太陽は燦々と輝いていた。松村沙友理を襲名した一条流歌は、休業という形でランカスターに暫くはいたが、命の心を知るために再び芸能活動へと戻る。
その様子は、まさに一条家のこじれた女に似てる。と、智恵理は評するほどで元気が無い。一条家の女はこじれると、そういう風になる。ただ、裏を返せば、それほど大切な人を心配していると言うことだ。
ランカスターでは、そういう状況は変わらないと言うのに、凪沙は晴れやかな笑顔で外を見つめていた。年を取ったと言うのに、互いに若い肉体のままでランカスターで余生を過ごしている。これがセンターノヴァになった人間の人外的な力なのだろうが、そういう部分があるからこそ、どこか、超常現象的な力を持っている。
そして娘である、園命が、この世界から消えたという報告を受けた。しかし、二人は生きていると完全に導かれた訳ではないと言うことを口にし、こうして帰りを待っている。
「どうしたの?外に、何かある?」
「あぁ、智恵理……」
言われて、初めて気付いた。そういうような表情を浮かべて、「ひゃぅっ!?」智恵理は凪沙の尻を抓った。驚きながら、すぐさま智恵理は後ろから凪沙を抱きしめた。
「もうすぐ、帰ってくるよ。あの子……」
「え……どうして……」
「お腹を痛めて産んだ子だからかな。」
ふふっと、笑いながら、智恵理を見つめて凪沙は空を眺めていた。何かを掴み取ったかのような、キララを通して全てを理解する。母親としての、それこそ、本当に理屈の無い母親としての感が、そう訴えているのだろうか。ただただ、智恵理に感じることの出来なかったことが、凪沙には感じることが出来て、一緒に窓の外にある青い空を眺めていた。
「ねぇ、私、命を助ける夢を見たの。」
「智恵理も?私もだよ。」
『お疲れ。命。』
目の前にいれば、頭を撫でられている自分がいるだろうと、ミレーヌ・ジーナスの声が入ってきたのは、二人が戦う前夜になってからのことである。そろそろ寝る時間であり、流石に眠気がピークに達している己の身体は、これ以上ミレーヌの声が聞来とれそうにもなかった。
最後に「お休み」と、言う声を聞きながら眠りにつき、キララの淡い光が自分を照らした時、ふと、眠りにつきそうな合間に、この1週間のことを考えていた。
「だったら、私が二人の戦いを止めるほど凄い曲を作るから!1週間待って!!」
この言葉から始まった曲制作はバサラを巻き込み、そして、Fire Bomberまで巻き込んで行った。しかし、この時代、良く頑張った物だと自分で言い聞かせたい。限界と感じたとき、もう少し先に行けると言う話を、乃木坂のオリジナルのメンバーから聞いたことを思い出して、限界を超えてから確かなものを作り上げたと言う感慨深さのような物は、この心に刻み込まれている。
「疲れた……まさか、1週間で出来るとは思って無かった……」
出来あがった曲を聞いて、思わず、そう口にしてしまうほど横にぐったりと疲労が全身を襲い倒れ込んで、思わず眠りについてしまった。決戦が始まる時間まで、後、数時間、暫く眠りにつきたくもなる。この1週間、バサラを含めて、さらにFire Bomberのメンバーに通信して協力してもらって完成した曲だ。
1週間で、だいぶ無茶をしたとは思う。
今までの拾い上げた歌の材料をおしみなく使い、そして、完成したものと言うものは、最終的に自分の力だけで解決する歌ではない物の、恐らく壮大になるだろうと、そういうことを思いつつ、あの二人のことを考える。
切っ掛けをくれた二人の言葉が染み込み、気づかせてくれて、シビルが銀河に連れて行った瞬間に共有された三人の心。キララとプロトデビルンの力が共鳴し、そこで見せた3人の心の内と言うのは醜い下心もありながらも、それ以上の純粋な感情とでも言うべきか。ただ、それ以上に、そうでなければ、この今の命の中にある陽美と美月に対する情念が無ければ、ここまでの思いを綴った楽曲は抱くことは出来なかっただろう。
出会いがあり、そして、ヒントを貰い、あの世界の中で見た者が、確かじゃないにしても、自分なりの答えを創らせてくれた。未完成であろうとも、それは、とても尊いものだと自分の中で思う。自分で満足する答えを出せると言うのは、そういうことなのかもしれないと、そういうことを知って、一つ、大人になったような気がした。ここで、培った物を。この世界に来てからのことを思い出すと、それは輝かしい思い出と呼べるものでもある。
そして純粋なほどに狂おしい愛情と言う物は一つの狂気になると言うことも知る。しかし、それを輝かしいものと感じたのは、あの二人が、そこまで外見的に美しいからだろうか。そうは思いながらも、ただ、向けられる愛情と言うのは嬉しいものだ。アイドルをしていた時の、研究生時代のことを思い出す。
自分として見てくれたファン達がいたいうことを思い出して、なんだか嬉しくなった。ただ、二人が自分に抱いていた下心的な物は、当時のファンと呼べる存在は抱いていたのだろうと思うと、それはそれで嫌悪感的な物は出てきてしまう部分もある。
ただ、それでも、陽美と美月の二人が、何故、自分に構ってくれたのか。何故、自分を……そこにある純粋な愛情。性格を知るだけでは解らないこともあるとは言うが、純粋な愛情と言うのは、一方的な心配であることを解っていながらも、ただただ、嬉しくなってしまうのはどうしてなのだろう。あそこまで愛情と言うのは浴びていて心地の良い物なのだろうか。
「それが、好きってことなのかな?」
だとしたら、自分の思いとて届いたはず。それでも、自分を巡って戦いをやめようとしないのは、そこまで人の抱く感情と言うのは愚かなのだろうかとも考えてしまう。
かつて、プロトデビルンや、ゼントランと解りあえても、こういう状況は続くわけで。それは、また自分の世界でも。未だに人と人の間に蟠りがある。世界の歴史を見た瞬間、そういう部分をも垣間見て来た。ただ、それを繋ぐのが、この世界で言う歌と言うものであれば、それは、それで素敵な物なのだろうと、乙女チックなファンタジーに身を酔わせながら、意識を夢の世界に落とし込んで行く。
「話がずれた。」
そういう物を意識したことは、正直、無かったかもしれない。あの世界の中で、3人の意識が共有された時、その自分に向けられている愛情に、どうしても答えたくなったのは……
「ミレーヌさん、これを人を好きになる最初の一歩って言ってたなー……」
ふと、この1週間、この曲に対して綴った思いと言うのをミレーヌ・ジーナスに聞いてもらった時、彼女は、そう評した。そう言われてみればと言われれば、おかしいけど、あの体験をして二人を知ってから、妙に疼くモノが肉体に宿った。嬉しくて、言葉にすると少し恥ずかしいような、そういう淡い感情。
少女が知った、その時、思えば母達も、この年齢で互いに意識し合ったと、そういう話をしていたのを思い出す。そして、そんな風に、今、淡い思いを抱かせた二人が戦うのは心苦しいと思ってしまうのも無理もないことなのだろう。世間的な物を言えば、そういうのはビッチだなんだと呼ぶのかもしれないが、人として、そういう風に好きになってしまったのは仕方の無いことだろうと自分に言い訳しながら、思えば、全ての出会いは全てが繋がっていたのだろう。
二人が露骨に好意を前に出していたのに、それに応えようとしなかったのは……考えるだけで自分は子供なのだと、そういうことを肌で感じる。一定の距離でいることが大切だと思っていたし、いつの間にか、自分からそうしていた時、それは他人を不快な思いにさせていたのではないのだろうかと考えてしまう。
いままで、気づくことも無かった、この感情と言う物を理解し、いつしか、全てのイベントを能面でも被ったかのように全てをこなしていた、あの日々と言うのはどちらにしても不快そのものだったかもしれない。それが負の連鎖となって、誰よりも、そうなることを求められたと言うのなら、それは、また因果応報的な何かだったのかもしれない。
ただ、この恋愛と言う物を、まだ解っていないこ娘と言う立場を十重に承知しつつも、やはり、あの二人が争うと言うのは嫌だった。そこで、二人の喧嘩を止めるために思いついたことが、バサラを通して己の力と言う物をフルに発揮できると感じた、歌だった。
「歌で、喧嘩を止める……まだ、私には、争いを止めることは難しいかもしれないけど……でも、二人に私の感情を伝えたい。」
それでも、自分の真心的な物をちゃんと、捉えたい。
「お前の今の熱いハートをサウンドにして届ければ良いんだ。そうすれば大丈夫さ。」
寝言が聞こえていたのかバサラが命の頭を撫でた。
「熱いハートか……」
三人だけになった時、シビルとキララの力によって3人の心が通った。そして、命は二人のことを止めるために歌った。自分で唄っていて泳いでいるような心地良さがあったこと。それが、高揚感なって身震いしてしまうのは熱気に包まれたような、これが恋であると思えてしまう。
今まで、似たようなことはあったのかもしれないが、恐らく、この恋と感じた物は錯覚だと言われても自分を高みへ昇らせるための物。そうして抱いた恋心のような感情は、もっと二人のことを想いたくなるし、知りたくなってくる。だからこそ、その思いが頭の中でいっぱいになっている時の歌詞は、いつも以上に楽しく早くかけてしまった。
これは、義務感ではなく、自分の抱く本当の心。
しかし、今度はちゃんと出来るだろうか。また、通じずに二人が最悪の結果になってしまったらと思うと恐怖で身震いして自然と明日など来なければいいのにと思ってしまう。それでも、目の前の時計は刻一刻と進んで行く。こうしていると、器であることを強要される辛さを受け入れる前の明日が来ることへの憂鬱な、あの感情を思い出してしまう。
正直、歌を作っている、この時期は楽しかったし、自然と、そのまま溢れ出る思いをストレートに歌詞に載せた。自分の中では、一番、良く出来た方かもしれないと口にしながら、まだ、義務感や、そういう物に囚われた殻に閉じこもってしまわないだろうか。
そのことを考えると呼吸が乱れて不安に駆られてしまう。唄い方を忘れたカナリアである自分に戻ってしまいそうになった時だった。バサラがゆっくりとギターを優しく掻き鳴らしていた。その音を聞くだけで不安は取り除かれるような気がして、より、深い眠りにつきそうになる。
何かを考えなければと言う思考は眠りに誘われ、意識は夜の闇と一緒に瞼を閉じて共に溶けていく。意識を眠りに委ねると、ここ最近の疲れがどっと出て来たよう気がして、そのまま、ゆっくりと眠りについてしまっていた。夢の中で、久しぶりに母達に出会い、姉達に優しくされる夢を見た。思えば、この旅は、いつ終わるのだろうか。
意識が消える前に、そんなことを考えていたら、これまでのことが走馬灯のように頭を過ぎった。様々な世界をバサラと一緒に見た。皆、懐かしい思い出ばかり。Fire Bomberの人達にギターを教えてもらったり、別惑星ではプロトカルチャーが神と呼び慕われた光の巨人を模した巨神像を祀ったと言う遺跡を見学したり、そういう場所に辿りついた。これまでの時間は無駄ではないとは思うし、これから、それが試される。
「今まで回ってきた人たちは、今……」
過ぎるように出てくる、その旅の思い出の中……何をしているのだろうと、思い出を追体験して、優しさに抱かれたような気がして、そのまま眠りについた。意識を眠りにゆだねてから、どれくらいの思い出を巡ったのだろう。何かが語りかけてくるような声で、瞼を開いた先の世界は、真っ白な太陽の光に包みこまれていた。
「あさ……眩しい……ウルトラマンが始まる……」
この世界で見た巨大特撮ヒーローの再放送の時間を思い出し、バルキリーのコクピットに燦々と受ける太陽の光が完全に少女の体を叩き起こす。
「もう、こんな時間……早い……」
光が溶け込み体が優しさに包まれたかのような感傷と呼べるような物に完全に意識が覚醒した。惑星ARIAで受けた陽の光が、この太陽の光は、この世界に初めて来て一番心地よかった。
これから、これから始まるのだと心地良い光を浴びて気持ちをリラックスさせて、周りを見渡せば自然や野生動物たちの優しい歌声が響く。地球と言う惑星の4分の1のサイズらしい、この惑星の朝の来訪を祝福しているかのようだ。
惑星ARIAに住んでいる動物たちは、自分達の世界で見せた猫を素体としたかのような生物達が多い。並行世界と考えている、この世界と言うのは恐らく根本と言うのは変わらないが人類の出生など、そういうのは変わらないのだろう。人間と言うのが生まれるのは変わらない世界。あの銀河を巡る旅行の中で見た世界の旅と言うのは気が狂いそうになるとでも言うべきか、そのよく解らない感情、ただ、何処か、その後の経験は自分を新たに一歩自分を前に進めるための出来事である。
両手を握ったり、開いたりして、今、自分が此処にいると言うことを確かめた。足を動かし、そして首を回し、その瞳で世界を見る。
やれる。
大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせたときだ。
「も、もう、始まろうとしてる!?」
爆発音がした瞬間、流石に焦り、バサラとシビルを叩き起こし、急ぎ支度をし終えて少女はバルキリーに乗り込み戦場に向かう。あまりにも深い眠りだった。ここは惑星ARIAの裏側。マクロス・リリィと反対側の場所にある場所。そこに、もう一つの決断を抱いて動きだす。
歌は楽しむこと。
忘れていた感情を取り戻し、胸に刻みながら。
1人の少女が光に包まれ、宇宙と共鳴した時、そこにいたのは殻に閉じこもっていた少女ではなく少女は人ではなく翼を持った人になった。光の人、自分が守りたいと思った、本に影響された姫様そのもの。そこにあったのは彼女を見た瞬間と言うのは恋人として結ばれた時のキス以上の快楽だったと陽美は自覚していた。そして、その少女を欲しいと思った。誰よりも独占したいと。
「うぅん、贅沢。」
恋人と言う名の新型可変戦闘機の資料に目を通しながら、目の前の純白のボディに黒のラインが入ったVF-EX「MIKOTO(陽美名称)」……正式ペットネームはスメオオミカミのデータを見つめながら、性能に感嘆していたのと同時に、こういうマシンを回されたことを嬉しく思う。
完熟飛行をして、すぐに、この体に染みついたと感じた瞬間、心地よかった。自分の思い通りに自分らしく飛べるマシンというのはありがたいものだ。VF-25、27+でも得ることのできなかったエクスタシーのようなものを全身で感じたと樹里に伝えた気は「変態」と言われたことを思い出した。
「顔も良い。」
VF-31が正式採用量産型なら、VF-EXは採用コンペティションで敗北した量産型である。持てる現代界での最高峰での技術と限界を突き詰めて開発されたのだが、「スペックがあまりに高すぎる」という、兵器にとって致命的な欠陥を持ってしまい、パイロット全員が化け物ならまだしも、それに対応できる兵士はあまりにも少なく、結果的に性能は勝っていたが、最も肝心な部分で敗北してしまったという訳だ。それこそ、この世界においてはイサム・ダイソンや熱気バサラクラスのパイロットでしか扱えないために、その分、7機しか製造されていない。そして案の定、SMSに全て買い取られて、パイロットの技量トップ7に入る者達に配られたという訳だ。だが、それくらいのパイロットが最高だというのだからVF-EXは贅沢に贅沢を駆使したマシンであると言っても良いだろう。コクピットは非透過選択式の装甲キャノピーを採用しており、バトロイド形態と同様に外部カメラの映像をコクピット内壁に投影する方式。
それゆえに、特別性もあり、全7機の、このマシンは1機1機にペットネームがあるのも特徴である。既に生産ラインには入っているのだろうが、ここでの30型のデータを取得して正式採用としての量産型としてVF-31ジークフリードのポテンシャルを完全な物にするのだろう。試験管の中で知識を埋めこまれるベビーのようだと口にした。
武装は新型重量子MDEビームガンポッド、頭部の左右に2門ずつある12.7ミリ対空ビーム砲、日本刀・百合華(陽美専用)、ガンポッド・ブレード2丁、外翼エンジンポッド・ビフォーズMBL-02 マイクロミサイルランチャー、外翼エンジンポッド・MDEビームランチャー、マルチパーパス・コンテナユニット、小型無人攻撃機・言霊が装備されている。
「ISC(慣性蓄積コンバーター)」や「EX-ギア・システム」は標準装備、「フォールドクォーツ」関連の装備も当然の如く標準装備されている。SMSに所属する7人のパイロットが選ばれ、この現代技術をフルに駆使するYF-EXは7機が製造され、そのうちの1機が陽美に回されたと言うのは、それほどパイロットの腕は性格等はある程度考慮されて信用されていると言うことでもある。
「あ、一人はイサム・ダイソン中佐らしいわよ。後、あんたの爺さんと婆さん。あとは、わかんないけど。ママって可能性もあるんじゃない?」
「ママか。ありえそう。パパの場合もあり得そうだけど。」
「そですか。」
VF-19と同様の前進翼と、VF-27と同様の4発式エンジンが特徴的であり、左右の脚部と外翼に各1基ずつ、計4基のステージII熱核反応タービンエンジンが搭載されている。さらにフォールドウェーブシステムも得てMDE関連の武装も安定を図ろうとしたものの、そう簡単に希少価値の大きい1000カラット級の超高純度フォールド・クォーツが7機分も手に入るわけが無く、純度が下がるし、サイズも違うフォールドカーボンを使用することとなった為、フォールド関係の装備は従来のYF-29、YF-30に比べると大きく低下しているため、それを補うためにも求められたのがフォールド関係の装備に頼らぬ高性能化である。
こればっかりはどうしようもないことだが、フォールドクォーツと言う部分を抜いた面に対しての性能は最新鋭機らしく、YF-29、YF-30を凌駕しているものの、求めていたものは揃わずに本来、想定していたはずの性能は得られず開発主任はとうとう、YF-EXでYF-29、30を越える性能のマシンを作れることは出来なかった。と、嘆いていたらしい。それでも、29や30に使われるフォールドクォーツを使用すれば言うまでも無く化け物になることは絶対なのだが。
純度の落ちるフォールドカーボンの欠片を利用して、なんとかMDEビーム兵器を利用してもエネルギー切れと言うわけには行かないが、回復よりも消費のほうが上回るというのが現状ともいうべきか。ただ、それでも、29の特徴であるスーパーパックが標準装備になっているマシンであり、さらに専用の従来のスーパーパックとアーマードパックを統合したオプションパックであるブレイヴパックまであると言うのだから、これで、高純度のフォールドクォーツまで求めるというのは、本当に贅沢だろう。
ただ、ここまで高価な物になるのなら、正規の量産機として採用されずにデチューンバージョンと評しても良いVF-31が正式な量産機として認められるのも無理はない。高すぎるのだ。そして、陽美的には、このYF-EXというのは。
「VF-31って、顔が不細工なのよ。でも、このYF-EXはVF-19みたいで、この子は良い。」
「顔が不細工ね……面だけで扱うかどうかを決められちゃ、こいつも不安なんじゃない?」
「そうかな?美人面のバルキリーは長持ちするのよ。VF-1や、VF-17、VF-19だって、そうでしょ?」
「あー、はいはい。あんたの面食い好きは女好きじゃなくて、バルキリーにも出てたわね。」
「頭の左右に対空ビーム方が付いてる子で良かった。エクスカリバーもそうだけど、やっぱ、こういうタイプが一番良いのよね。」
「そうですか。」
ペットネームは生産されたYF-EXの1機1機に日本神話の神々の名前をつけられており、それほどまでに高価なマシンと言うことが名前からも感じることが出来る。
「……何で、また?」
「作者の趣味じゃない?」
YF-30の思想も取り入れられており、マルチパーパス・コンテナユニットは、その代表格と言っても良い。ただ、YF-EXはYF-30に比べて、上方に展開・可動するだけではなく、期待的な見栄えも考慮されて両腰にコンテナが展開されるように装備されており、そこから、片方18門のマイクロミサイルポッド、合計全36門のマイクロミサイルポッドと、36門MDEビーム砲にも換装が可能と言うYF-30の長所も受け継がれている。
全てのバルキリーを総括し、次世代へつなぐためにヤン・ノイマン主任の元に主軸で造られた新次世代全領域可変戦闘機と、でも言ったところか。この機体とYF-30を元にして、これから、VF-31は生まれていく。YF-EXは、それに比べて個々の癖の強すぎるエースパイロットではVF-31では満足できないだろうと言う配慮から生まれた、ある種の、スーパーエースパイロット専用のバルキリーと言っても良いだろう。
まさに、最新鋭、YF-29とYF-30やら、様々なマシンの良いところを乗せた分、当然の如く高性能になり、その高性能を突き詰めた結果、 すぐにヒステリーを起こす人間の如く扱いが難しいマシンは操縦する人間を選ぶ。しかも、普通のエースパイロットではなく、スーパーエースパイロットと呼ばれるほどまでの腕を持っていなければ宝の持ち腐れその物だ。
普通の人間が操るのであれば、それこそ、真に改造人間にならなければダメだろう。噂ではとある事件に置いて、イサム・ダイソンが搭乗したYF-29や、試乗してみたYF-30の評判に嫉妬したヤン・ノイマンの意地とヤン・ノイマンの設計した19シリーズの信者の暴走と言う噂もあるが、それは定かではない。それでも7機揃えば戦局が面白いほどに覆りそうな超高性能マシンを作り上げたのは流石とも言えるだろう。
武装面に置いての特徴は銃剣スタイルになっているアサルトナイフとガンポッドの特徴を併せ持ったガンポッド・ブレード。これに関しては言うまでも無いし、大型の日本刀に関しても言う必要もないだろう。新型重量子DMEビームガンポッドは、YF-30のものよりも出力が高く、用途は全てYF-30と同じだが、エネルギーを多く食いすぎるために専用のエネルギーパックが必要であり、ポッド本体に5つ、場とロイド変形時の腰部後方のアーマー左右に各5発ずつのエネルギーパックがある。本来のフォールドクォーツ搭載型であれば本体に接続すれば、無尽蔵に撃てるのではあるが、そうそう上手くいくことはない。
また、活動時間は、そういう攻撃力のある武器を多めに搭載したこともあって、VF-25よりも少なく、短期決戦型とも言えるだろう。そして、このマシンの特徴の一つは言霊と呼ばれる小型の無人攻撃機を随伴させることもできることもある。RVF-25のゴーストよりもさらに小型で、3門のレーザー砲門を持ち、本体から離れた標的を攻撃することが可能になっている。VF-31の周囲に展開し同時に攻撃したり、YF-EX本体がドッグ・ファイトで後ろを取られた場合に、本体を援護するなどの用途がある。
VF-31本体1機につき、最大5基の言霊を同時に随伴させている例が確認されている。そして、ここまでの物を自在に扱うのだ。ある程度の自立型人工知能を搭載し、さらに細かい命令を実行するために簡易的なBDIシステムも搭載されている。しかし、ここまでの物を使用すると言うのは非常に高価であり、コストが非常に悪く、そういう面でも課題が残るマシンである。
先行量産型であるが故に試験的な装備も追加された。と、言う部分もあるのだが。正式量産型であるVF-31は、これのデチューン版としてマルチドローンプレートなるものを採用するらしい。
そして、これが後のVF-2SSのスクアイアーとして採用されるのだが、それはまた別の話だ。
「昔、ガンダムってアニメでファンネルって武器を使ってる奴がいたけど、これは、そういう感じかな?」
「まぁ、そうね。ついでに、これ1機の生産コスト。」
「……こいつは、勿体ないから、あまり使用しない方が良いかもね……」
「そう、ね。一機で最新ゴーストが5機が買えるらしいし……」
「マジで……?」
「えぇ……ホント、好き勝手やり過ぎ。こんだけ、贅沢を詰め込んじゃ使いこなせないっての。あ、でも、あんたは出来るか。」
「ん?」
さらに、試験的に関節駆動部にゼントラーディ系のパワード・スーツの技術が使われており、変形時における構造上の脆弱さを克服しており、変形時間も短縮されている。まさに、至れり尽くせり、先行量産型と言うのをいいことに好き勝手詰め込みすぎたマシンであると言えよう。
また、余談だが、VF-27δ+のデータも流用されているため、無理なく武装としての日本刀を使用する時にかかる負荷を大幅に軽減している。もっとも、ここ最近の整備で知ることの出来たことではあるが。最近、地方で起きているヴァール現象なるものに苦しむ者たちの浄化のために結成が準備されているアイドル、それらを警備する小隊にフォールドクォーツ搭載のVF-31が制作されていると言う噂もあるが、その真相は不明。そんな辺境でのことよりも、此方のことが重要と言えば、それまでだが。
「それで、あいつのバルキリーのデータは?」
「あぁ、生産ラインは完全に、30とは違う独立したものね。どこぞのマクロスで開発した30のデータを盗んだものか、どうか。それとも、データを互いに交換しあって作り上げた。ってところだけど、試作段階で打ち切られたトレッドシリーズの試作機のブレイバーまで装備してるし、相当弄ってるんだろうけど。あんたの話が本当だと、こいつ、いきなり最終決戦仕様で出なきゃいけないんだけど。」
「ってか、見ただけで、そこまで?」
「そこまで……。伊達に戦闘機マニアをやってんじゃないのよ。あのクァドランで、死者を出さなかったとはいえリリィに所属してる新統合軍の連中、どれだけ血祭りにあげられたと思ってるの?」
「……結構、ヤバい?」
「プライド、ズッタズタ。新統合政府なんて、何回も地球に打診してるけど、明確な答えは出てこないし、艦長なんてもう大変よ。嫁のところに帰れない、下手に色々と出来ないーって。」
「あぁ、そう。」
「興味ない感じね。」
「そこまではね。」
「後、あんたと戦うバルキリー。試作段階で10機製造されて、そのままSMSじゃ打ち切りになったAFC-01レギオスの血まで入ってるんだから。こいつ。とはいえ、独立犯罪国家と化したマクロス・ロベリアじゃ、こいつが主力だったようだけど。」
「マクロス・ロベリアって……」
流石に驚いた顔を見せる。良くない噂は聞いていたし、何か悪いことでもするのではないか?と飛び交っていたものの、直前に滅びてしまったいわくつきの船団。まさか、それを潰したのが連中だったとは陽美も流石に驚かずにはいられなかった。
「そう。あんたと戦う海賊がぶっ潰した奴。メカ事情通からすれば、レギオスを使用してるマクロス船団なんて、そこしか思いつかないし、そこから奪ったんじゃないかな。」
「それを見ただけで判断できるの、あんただけだと思う。」
基本性能はメサイアを追い抜いていたし、カタログスペックだけ見ると27すらも凌駕していた。レギオスと言うペットネームが付けられた、そのマシンは追加兵装のアドバンスドパックだけでなく、指揮官用可変戦闘支援機AB-00ブレイバーと一般兵用可変戦闘支援機AB-01トレッドと言う今までのアーマードパックやストライカーパック、スーパーパック等のオプション兵装を一纏めにした支援爆撃機まで開発され、1セットとしての運用を目的とされた物の、その分、コストはVF-25の5倍はかかるようになってしまった。
だが、レギオスシリーズとブレイバーシリーズが一つになったアタッキング・フォーメーションから生まれる絶大的な火力は脅威そのものと言っても良いが操作性は悪く、使いづらい期待だったと言う話しがある。特に、レギオス最大の特徴であるアタッキング・フォーメーション時は機動性の低下を招かないように各部ブースターを装備して従来の機動性を保ってはいたが、結局、その制御の難しさによりアタッキング・フォーメーション時の操作性は劣悪。
また、活動時間の少なさと言う部分を見て競争相手であるVF-25メサイアの汎用性の方が高いと言うことで、コスト関係も含めてVF-25メイサアが採用されたが新星インダストリーが、このレギオスの性能に危機的状況を感じて賄賂を送ったと言う話だ。どの道、レギオスを採用していた時点でコストが莫大だし、統合軍の兵には扱いづらい兵器になっていたとことを思うとメサイアの採用は正しかったのかもしれない。
そのYF-XXシリーズと曰くつきだが慣れればルシファーをも凌駕する強力なAFCの混血児を相手にするのだから、面倒と言う樹理の言うことは解る。
「さらに、バルキリーを脳波で遠隔操作か……」
「まさに、贅沢だらけのバルキリー対決ね。しかも、それが18にも満たない1人の少女を巡って……聞いてるだけであほらしい。これよりも、私は私の乗るVF-31のことが気になるけど。」
樹理が溜息を吐きながら、こんなことのために、この高価なバルキリーを使うと言うことに対して、前にもとあるファイルで見た事件を思い出す。最新鋭のバルキリーを使って派手な喧嘩をする。それをやらかしたのもイサム・ダイソンと、その親友だったと、とある人の話を聞いて思い出す。
「……ああいう艦隊がギャラクシー艦隊みたいに宣戦布告しなくて良かったわよ。」
考えてみればばかばかしくなって、その話題をすぐに樹理は切り替える。表情の変化に気づくことも無く、陽美は単純に返事を返した。
「解る。」
下手すれば、あの艦隊の戦力はゼントラーディ軍第118基幹艦隊レベルの戦力だろう。
「悪い奴では無くて良かったけどね。」
樹理が能天気なことを言いながら、YF-EXの調整に入る。
「噂じゃ、新統合軍か、ブリタイ直営の、そういう機関だ。って噂もあるし。」
「それは……気のせいでしょ。」
「まぁ、かもしれないけどね。」
「あと、あいつ、悪い奴だと思うよ。無理やり、人の女を自分の女にするんだから。」
「あんたも同じだよ。ただ、嫌いなだけでしょ?」
「そう?」
自覚は無いのだろう。天才という物は。
「あんたさ。あの子の心のこと、考えたことある?勝手に盛り上がってるけど。」
「んー、でも、それは、ちゃんと落としたし。」
「どんな手を使ったのやら……」
「樹理には解らないこと?」
「そうね。解る気にもなれないわ。」
淡々と続けながら、命を自分のものにした瞬間、どういうことをしようかという妄想を繰り広げる。ただ、考えていた時、ふと忘れていたことが脳裏によぎる。
「そう言えば、隊長は?」
「まぁ、今回のことについて色々と根回し。今頃は艦長とベッドの上で、交渉し終わって仲良くやってるんじゃない?」
「あー、そうなんだ。」
そう言えば、あの時もあの時も出撃していたと言いつつ、すっかり忘れてた。
「あんた、酷い女ね。とりあえずは、この戦いにリリィ側が勝利すれば惑星ARIAから手を引くとか、そういう条件だった筈。まぁ、良くは覚えてないけど。」
往々にして、勝者の条件や、そういう物は忘れやすいものがある。だが、陽美はこれからの勝負に比べれば、上の勝手に決めたことなど興味はなかった。あるのは、命を、この手にする権利を得るということ。
「勝つわよ。」
両手で頬を叩き、その人は目の前にいる。
目の前のバルキリーを見て口にする。追加武装の性質故に、一般的なバルキリーよりも大型のVF-XXゼントラーディアン・バルキリー、愛する人の名前をもじって「MIKOTO」と名付けた、この兵器、相手側の……
「YF-EXと渡り合えるほどか。」
「カタログスペック上では。さらに、レギオスの血まで混ぜたので、それ以上だと思います。」
そうして、口では言うものの、声は普通に重みのあるような言い方だったが、あえて触れずに美月は話を進めた。美月の中にある、その先にある命との甘い生活だけを思い浮かべる。
とはいえ死んでしまえば、それで終わり。あの女は、今回のことで、余計に自分を殺しに来るだろう。そう考えると背筋に快楽に近い電流が流れてくる。何せ、こういう感じの物は久しぶりだ。命のやり取りと言うのは、何故、こうもと思いながらも、その表情を察したのか……
「本当は、こういうバカなことはやめていただきたかったんですが。」
釘を刺すように先ほどまで説明していた技師が、この艦隊に所属するメンバー全員の気持ちを代弁して、そう口にした。
「ごめん。」
本来、このような死ぬかもしれないバカなことをしてしまえば、自分達は路頭に迷うと言うのを平然と口にする。
「ホントは、こんな星はぶっ壊してでも連れていくべきだったんだけどさー。でも、あの娘、泣いちゃうでしょ?」
「まぁ、そうではありますが。」
それでも夢中にさせた女は、反省しつつも、反省したそぶりの見せない台詞を吐きながら、コクピットに移動した。これで、暫くはバカなことは出来ないだろうと思いつつも、勝利を願う女たちの希望を背に受けて出撃する。既に独立国家としても動くことのできる、この艦隊に、これ以上、何かを得るものなど女以外はありはしない。
世界征服なんて大いなる欲よりも、人間としての性的欲求と愛を先に求める。とりあえずは、陽美に殺されようが、陽美を殺そうが新統合軍のアグレッサーという形で処理された、この海賊集団は、これで負ければ正式なアグレッサーとして新統合軍に所属されてしまうことになる。それでも、自分達の人権と言う物は、今までの功績を湛えて帳消しになるらしい。
勝てば今迄通り略奪しほうだい、負ければ政府から支援を受けられるアグレッサー艦隊、それもそれで悪くはないだろうし、また、どれだけ下手に扱えば、自分たちがどうするかというのをわかっている。別に、受けても受けなくてもいいが、こういう形で一人の女をかけて戦う勝負というのも悪くはない。だからこそ、彼女は動く。ある意味では、自分が死んだときのための、ここにいる女たちの保険とでも言うべきか。
問題は自分の命に二度と触れることが出来ずに、ここで消えるかもしれないと言うことか。あの女の癖というのは、確実に自分を殺すというのが、それがよくわかる。自分と同じように、自分だけで独占しないと気が済まない。ここ数日の会話や、邂逅でよくわかる。だから、同じような存在を見ているようで殺したくなる。
「決闘か。この時代に、古いかもね。」
決闘がしやすいようにレクリエーションとして、最新鋭をぶつけ合い、殺しあう。
実にシンプルだ。
そして、戦い合う理由も全てシンプルだ。
この時代、物事、全てがシンプルであるのは良い。
物事が全て単純だからこそ、悩まずに済む。
あの出会いからだ。
出会ってから、籠の中にいる歌い方を忘れたカナリアを自分の中にいる静かなバケモノと称する、もう一人の自分をどうにかするために我武者羅に動く命を愛してしまったのだから、それはしょうがないことなのだと自分に、すべての物事は正当化されるのだと、恋は人を変える。
独占したい。愛したい。この身で調教してみたいとすら思う。周りからは、やたらワイルドになったと言われるようになったが、恐らく、愛する女を求めている態度が露骨になっているのだろう。
常に欲しい。
得る物は常に得られるほどの力はあった。
裏を使い、暴力を使い、何もかもを。だが、今回に限って、あの少女の気を引きたいがためか、正攻法に出るなど、かっこつける。捉えて調教すれば、自分好みにも出来るだろうに、彼女を捉えた瞬間、それをしようとは思わなかった。あの出会いから、彼女の歌を聴くようになった。
そして、彼女を知るようになった。愛していたのだ。
アイドルとファンが、こうなることとてあるだろう。
だが、それに自分がなり、こうも一人の女に執着して凶暴になれるのかとコクピットの中で自分は笑う。ゼントラーディアンバルキリーと言う名の存在だった、この魔改造のマシンは充分に、ここに来るまでの戦いで実戦慣れしている。
自分のコンディションも最高だ。
「さて、あいつか。」
最初は自分の獲物に近付いてくるのは許せなかったが、ああして接してみると、どうして中々、余計に殺したい存在だと、また一人笑う。だが、これから、好きな女のことで合法的に殺しあうというのなら、喜んで、それができる。あの一度の心の邂逅で命の中に二人がいたと言うこと。
自分と、そして、陽美と言う女……好きになったきっかけと言うのは些細なことだ。些細なことだが、立派な理由でもある。そして、共通した、その思いは溶け込んで、体にしみこみ、角が凶暴になった今の自分そのものになった。
「レギオスアーマーパックとブレイバーの様子は良いようだ。」
追加装甲として開発されたレギオスアーマーと、さらに、トレッドタイプのサポートメカであるブレイバー、これを全て外せばゼントラーディアンバルキリーとしての素体が現れる。
勝てるだろうか。
あの女に。
少し不安な感情が芽生えたが、捕えることが出来れば、あの女を殺すのも良いだろう。
「私、今、そういう風になれば良いのに。って思ってる。」
再び自分の変化に気づく。
その感情に物騒さ、そして、これが恋愛と言うことかと気づく。だが、それでも、彼女自身からすれば気に入らない女は殺してきたし、やはり、そう来ると、一番許せない存在と命が一緒に好きになっているとでも言うのかと思うと変な笑いがこみあげてきた。
気づけば露店など、そういうのが出てきていた。どうやら、本当にレクリエーションとして扱われているらしい。ただ、目の前にいる女を……YF-EXのカメラで、外を舐めまわすように見まわした時、そういう物が出ていることに陽美は1人、笑っていた。
この状況、ここまで遊ばれている。ただ、そうでもしないと、こういう決闘というものは成り立たないのだろう。
「そろそろか。」
あくまでも、明るいものに、地味泥的なものは感じさせない。しかし、ここで、誰かが死ねばどうなるのか。
「さぁ、ギャラリーはいっぱいだ。やりあおうか?」
ふと、人深呼吸をした時、コクピットのモニターが突如、別空間を映す。赤色の髪を揺らし、下はバスローブ、先ほどまでセックスしていたなと、平然と思わせるほどに、性の色香を出し、たわわに実った巨大な果実を揺らしながら、その人はYF-EXの回線を開けて登場した。SMSマクロス・リリィ支社の社長兼隊長のサツキ・ウェインライト……
「今まで、聞いてました?」
「えぇ。此処から、思い切り。」
「盗聴はダメですよ?」
「あら、それは隊長の特権。」
「セクハラです。」
乗機は好みとあってか魔改造を施したSDP-25スタンピード・メサイアバルキリーを専用機として使用する。所謂、ここは、そういう魔改造好きな連中もいれば、正規品好きの連中もいる。皆、この人に影響された。そう言っても良い。
「今まで、どこに。全く顔を見せなかったじゃないですか。」
「まぁ、色々と事後承諾。」
「そうですか。」
よく考えごとが解った物だと言うような満足な顔を浮かべて、それでこそ自分の選んだ女だと、口にする。
「あら、こっちは建前を作り上げるために苦労したんだけど?」
腕よりも先に交渉する、一種のネゴシエーター的な役職についており、主に好みの女性となればベッドの上での交渉がモットーと言われており、その過程で昔、世話をした艦長であるレイカと肉体関係に発展したと言う。そして、いつしか、夫婦関係になり、気づけば子宝に恵まれているというのにベッドの上でのネゴシエーターは変わらないがゆえに、彼女の経歴や顔を見るたびに陽美としては、レズサキュバスの名前は彼女の方がふさわしいのではなかろうか。そう考えたくなる。
「艦長とお昼寝の邪魔をしました?」
背後にゆっくりと蠢く女体を確認して、その髪の色や肌の色など、確認しなくてもすぐに分る。あの艦長と一緒に寝ていたと、誰もが理解している。このマクロス・リリィ支社のSMSには、レズビアンしかいない。それが、社長兼隊長の趣味であり、方針でもある。 「いいえ。彼女、寝ちゃったから、何となく回線ジャックしてたら、こういう感じ。貴女の会話が聞こえてきただけ。」
「隊長……」
この人も、そう変わりはしないか。思えば、連中や、美月と。どうも、考えてみれば、異様に仲良くなれたように感じられたのは此処の雰囲気と似ていたのだろう。いや、美月に関しては仲良く放っていない。ただ、気が合っただけかと考えを改める。
ふと、あの宣言から、数日経って思ったことは危険性。早々に排除してしまった方が、こちらの恋時は楽に開ける。それは、それで楽になれることではあるのだろう。
「そういう感情を理解してんでしょ?」
「さぁ、どうかしら。」
捕えてしまえば、そのまま。
「独占欲……」
「そうね。そういうのもあるわ。好きな人に対しては。」
確たる信念がありつつも、一度、互いの心を見せ合った仲だからなのか。それとも、やはり、独占欲のような物なのだろうと一人思う。多分、殺すことになれば命は、こちらに振り向いてもくれないだろうし、勝手に怒るだろうが邪魔な存在は邪魔。嫌われてしまうこともあるだろうが、それは、それで、こっちが好きに出来るチャンスでもある。
そう行くと命の思いに応えるのであれば殺さないことが重要だが、戦場では、それほどの技術を持つこと自体は難しい。さらに、相手は、恐らく同じ技量。いっそのこと、この手っ取り早い戦いをやめれば良いのではあるが、どうも、恋する獣の性としては、それを許してはくれないらしい。それに、一応は戦場。何があるかどうかは解らない。
この戦いによって、誰が命の一番になるかを決める、いわば、交尾でもあると同時に求愛にも等しいものであると捉えているのだろう。互いに死ぬことくらいは覚悟していることだ。そうなれば、独占できるし、それがベストだと命のことも考えずに二人は考えている。恐らく、既に命に自分たちの思いは、あの段階で伝わっているはず。
その覚悟を理解して互いに今回の決闘に挑むことにした。
楽しみなのは、この後に、命と送る楽しい薔薇色の人生とでも言ったところか。脳内が蕩けるほどに甘い妄想が駆け抜けて、肉体が熱く火照り始めた。パイロットスーツを身に纏っても解るほどに大きな乳房が、さらに目立つ程の胸の先端にある蕾が大きく実り始めていた。
股間が熱く濡れて、このまま、思いに果ててしまいそうにもなった。鼓動の高鳴りも激しい。こうまで夢中にさせる。この戦いは主導権を争う戦いでもあるのだと、そう自分に言い聞かせながら、甘い生活へと一番に辿りつくのは自分。そうまでして、好きになりたいと思える子、守りたいと思える子、支配してでも独り占めしたいと思える女。あの本の中のお姫様のような存在が現れた。そうして欲しいとまで思わせる少女が出てくると言うのは幸福なことだ。
愛したいと思える少女が、こうして、今、自分の物になろうとしている。手を伸ばせば、もう届きそうな人。鏡になったモニターの瞳を見て、自分の表情は、とても自信に満ちているのが良く解る。色気づきながらも、想像しただけで感じ取ることの出来る暖かい感触を思い出し、彼女との思い出を振り返る。
あの唇の感触や、何もかも。そして、あの心に触れた瞬間の何もかもだ。妄想を脳内で切り捨てて貪欲に求めることを、今は考える。心に触れてから、何もかもが愛しいし、ますます、自分が守りたいと考え、そして、愛を受けたい。
「よし。頑張ろうか。」
外で呑気に焼きそばを食いながら見つめている観客達を見ながら、YF-EXはファイターモードで表に出た。
「さて、そろそろ来るかな。」
レーダーに反応する一機の影を、この目に見た。それはあいつであると理解する。自然溢れて恵まれた、この年の湖に浮かぶ巨大なかつての伝説の性能と名前を受け継いだマクロスと言う戦艦。先住民はいない、自然の惑星。そして、目の前には。
「VF-XX……」
名前を呟き、その白い姿が視界に入った瞬間にマイクロミサイルを12発ほど撃ち放つのを見て、思わず、舌打ちして、その大型のアーマーを身に纏わせた純白のバルキリーが舞い降りる。あのとき、見たやつだ。
ゼントラーディアンバルキリーという名の未知の新型マシン。
この小さな惑星の都市の中で好き勝手に動き回る姿を見て、挨拶代わりに撃ってきたミサイルを後退しながら2丁のガンポッドを即座に構えた。
ミサイルと言うのは意外と単調だ。
自分に対して、ある種、バカ正直に直進に向かってくる。
それを挨拶だと理解したのは、あの女が馬鹿正直にバルキリーのミサイルを真正面の自分に撃ち放ってきたからだ。全弾撃ち落とし、さらに、自分は瞬時に新型重量子MDEビームガンポッドを構えようとしたが、相手が何で来るのか、ミサイルが爆発した瞬間に理解し、それはベストな判断では無いと脳が訴え、その言うことを聞いた。
ミサイルの中にある爆煙がボワッと産まれ、視界が黒色に染まると同時に一瞬だけ閃光が惑星に走った。あれは、ただの挨拶では無かった。と、言うのを理解した時には、流石に陽美は舌打ちをせざるを得なかった。
「っ!?」
さらにファイターのまま自機の上空を突っ切り、そのすぐさま背後で瞬時にバトロイドに変形し、姿勢制御を取りながら、その重い装備を持ったバルキリーは腰にマウントされている掌いっぱいに持てる筒のような物を暗闇の中で取り出した。
「煙幕でも兼ねてる訳ね……」
なるほど。
決闘とはいえ戦争だ。
己の中にある脳をフル稼働させて、奴の戦術を分析する。
「接近戦で来る……」
最も確実な方法だ。
此処で、静かに仕留めると言うのであれば。戦いに卑怯もクソも無いと言うことか。開幕からいきなり入り込む、そのスタイル、やはり、嫌いになれない。目の前に登場した二つの最新鋭バルキリーが邂逅する。どちらも本当の最新式。決闘と言えども、二人だけの戦争。そこに、先制攻撃など無いと勘違いしていた自分が腹立たしい。
流石に、街に堕ちるのは不味いと思考、あのミサイルとて、それを理解して隙を作る上での行動と、今、理解する。ミサイルの衝撃がコクピットの中に強い波を受けた時のような衝動が走る。このわずか、数秒の間に感情を吐露し、相手の持った武器を理解しつつ、己も腰にあるコーティングブレードを本能で取り出していた。
場所なら、すぐに解るとは思ったが、どうやらデコイがばら撒かれているようで、何処にいるのか解らない。周りには数百を超えるゼントラーディアンバルキリーの反応がある。しかし、美月は、己のバルキリーの光を発する物を切り、コクピットのモニターを自分の目で確かめられるようにセッティングし近づいてきた。
「その事後処理をしてくれると思っていた……だから、初弾のミサイルには爆散するとチャフを仕込んでおいた。」
SMSの兵隊である陽美が、このようにミサイルを放っておくわけではない。コクピットの中で吼えながら美月は言葉とは裏腹に冷静な処理を行いつつ手に持っている筒を起動させた。
レーザーブレード
バルキリーの上半身程あるだろう青白い光の刀身が展開されて、迫りくる。さらに、それは敵も解っていることだろう。
「後ろから来ることくら……!?」
陽美は察していたつもりだった。だが、それは、装甲を纏ったゼントラーディアンバルキリーでは無かった。コーティングブレードに当たった形状は、これではない。バルキリーの感触ではないと理解した瞬間、すぐさま、危機を煽るようなアラームが鳴り響く。後ろにあるのは支援兵器であるブレイバー、そして、前にいるのが
「お前か!!」
ブレイバーを蹴りつけ、レーザーブレードを突き刺そうと襲い来る美月・バルキリーの攻撃を防いだ。コーティングブレードは相手のレーザーブレードの刃を受け流した。
「流石……」
バルキリーと言う兵器の性質上、ブレードのような兵器を使うパイロットは少ない。主に真に近接戦になった場合は、その拳で殴りつけるかアサルトナイフの使用がデフォルトである。それを読み取り、ブレードで仕掛けようとしたのだが、向こうも同じことを考えていたとは思えず、その次に来る行動を考え、一度、距離を取ろうとした。所謂、二人の技量と言うのはナイフよりもブレードの方が扱いやすい。
「鋭い蛇を相手にしているような感覚だった。」
額には汗がべっとりと付いていることに陽美が気づいた。わずか、十数秒の間の出来事だ。
「相手は機転が良い。」
美月は、その気もちだった。心臓がバクバク行っている。馬鹿正直にブレイバーに先行させていたら、殺気に勘付いて殺されていたことだろう。
「「でも、まだ……」」
炎と煙が舞う中で、初手の挨拶は終わった。
装甲を霞めた程度ではあるが、あれで、ある種の手のうちに近い物は理解したような気が互いにした。
「白い奴……じゃない……」
あの黒い装甲を取っ払えば、この前の白い奴が出てくるのだろう。それが、本来の姿。あの時、見たものだ。ガンポッドの薬莢が地面に落ち、轟音を立てながら外れた弾は地面を抉る。音に隠れながら、ブレイバーと一つになって変形したゼントラーディアン・バルキリーは全ての武装を一斉に発射した。
「当たれば良い。」
これだけの物を避けるだけでも、かなりの神経を使うだろう。撃った瞬間に分離をし、美月は己のバルキリーを急降下させて湖の中に潜り込んだ。
「あいつ、いない!?」
このミサイルパーティとも呼びたくなるミサイルの雨をよけることで必死になっていた。
ミサイルパーティに紛れ込みつつ、さらにはブレイバーの三連装レーザーボンブランチャーやら、何やらまで放ってくる。相手の攻撃を回避する度に、動かす度に襲いかかる強烈なGを諸共しないほどに脳内麻薬は分泌されており、脳の揺さ振りと言うのは些細なことではあるが、時折、途切れる瞬間に隙は生まれやすい。
その瞬間を如何にカバーするのかと同時に、この現状を楽しんでいる自分がいる。ブレイバーの一斉射攻撃を潜り抜けつつ、ビットでも出そうかと考えているが出した瞬間に落とされるのが目に見えている。こういうことなら、先にビットを出しておくか、電子兵器でも搭載してくれるように頼むべきだったと、後悔する。
内蔵ミサイル最大48発。腕に三連装レーザーカノンを装備して、適格に命令に忠実な兵士のように動く、その様は脅威そのものだ。目先の物に気を使いつつも、視界からいなくなった奴の行動も気になっていた時だった。
「バカみたいにミサイルとレーザーのプレゼントを与えるなら……」
思考に少しのラグがある。
それは、このブレイバーでも変わりないことを理解はしているが、こうも馬鹿撃ちされると流石に困る。だが、機械の愚かさを持つ者への一瞬の隙は、確かに存在する。その隙を見せた瞬間だった。
「貴女が、それを利用することは解ってた。」
その弱点を利用すること。
しかし、そこに僅かな隙が生まれれば。
「私の勝ち。ただの獣のような野生的な戦法だけじゃどうにもならない時もある。怖いけどさぁ。」
一応は、これでも多量の海賊たちを束ね、組織戦なんてものもやってきたつもりだ。新型の重量子ビームガンポッドをスナイパーモードにし、銃身を展開して狙いを付ける。一瞬でも隙を見せた瞬間が負け。水と言う壁がありながらも、これは、軽く突破するほどの高威力がある。しかし、美月は水上に微かな銃身の顔を出して即座に狙いを付けて光を放つ。
「見事に使いこなしてぇぇぇぇ!」
嫌な嫌な嫌な嫌な奴。
微かに掠っただけではあるものの、確かなバランスを崩すだけなら、それでいい。
「見事……」
クァドランでくればまだやれると思いたくもなる。翼の生えた人間の戦いと言うのは、こういう物なのだろうと想起させるほどの3次元の戦いと言う物に人は見入ってしまっている。
「終わり……」
美月のバルキリーが第二射目を放とうとした刹那の瞬間だった。
「!?」
ブレイバーの隙を突いたことは無駄ではない。ブレイバーを盾にして近づいてくる。ビームの発射した場所は良く解る。なおかつ、この湖と平野しか無い、まだ未開の土地だからこそ、やりようと言う物は出てくるのだ。バトロイド形態で湖の中にいる美月・バルキリーに向かってYF-EXのブーストをフル稼働して無理やり、押して突っ込んでくる。
小回りの効かないブレイバーだからこそ、ここまで密着してしまえば、何も出来ずに本来、いる場所へ近づける。構えていたところを、これからのアクションが出来ずに自分が成せばならなければならないも出来ず、他のアクションを求められると、それは、どのエースパイロットであろうともベテランパイロットであろうとも困る時もある。
「さすがにやるわ……」
ましてや、止めの時になると、まさにだ。
「わからいでか。」
「流石は私と同じ女を愛した女だこと!!」
「ありがとっ!!」
そうか。
こういう風に自分を見てくれるからこそ、敵として誰よりも嫌いになるほど殺したいが、こいつは、どんな相手でも接する時は1人の人間として扱うことへの心地良さがある。今日、初めて口にした。そして、今、思った。嫌な女だと思ったが接して初めて嫌いだが、嫌いになり切ることが出来ない思ったその理由。
互いにファイターになり、今度はドッグファイトを仕掛けた。どちらが、後ろ、又は上になるか、そういう物で勝負が決まる、この勝負に、双方の癖を本能的に理解したのかすぐさまの、それは見せようとしなかった。ブレイバーを遠隔操作にし、美月はツーマンセルで波状攻撃に追い込む戦法に翻弄されつつも、その重量があるからか、ブレイバーは遅い。
YF-XXに比べて遥かに遅いことを見抜き、最初に、バーニアを破壊して、もうアタッカーフォーメーションを組まれる前に向こうにする。こうなれば、ただの二足歩行しかできない木偶だ。
「ただじゃ、終わらないか……!」
ブレイバーは、鈍重である分、ブースターを使わなければしかし、同時に稼働時間も消費するブースターの分だけ限られてくる。最初に、それを樹理から聞いておいて正解だったと理解する。ならば、このレギオスアーマーに搭載したすべてのミサイルを撃ち放った後にレギオスアーマーをパージして、本来を姿を見せて絡みあうように2機のバルキリーはドッグファイトを繰り広げた。
「執った。」
そう思えば、執られて、それの繰り返しだ。長すぎる狩猟を繰り返し、ニ機は互いの背面を取りながらロケットのように上昇する。食ったら食い合う。光の軌跡を描きつつ何かを全力で食い合うスタイルだ。
互いの武器を駆使した光のサーカスには、あまりにも派手すぎる。閃光が霞める度に失禁しそうになる。光の兵器と言うのは未だに、それほどの恐怖を醸し出すには十分な存在だ。常々、戦場に出れば恐怖は感じ取る。光学兵器はショックは来ないし、ある程度のコーディングはされている物の、直撃を受ければ、やはり恐れてしまう物がある。そして、さらにオーバードライブをまで駆使して互いを追いかけ逃げ回り、猟奇的な存在として後ろを奪ろうとする、その姿はまるで光の翼そのものだ。
冷やりとした汗が二人。
「っ!?」
一瞬、機体に衝動が走り、チッチッチッと言う音が耳を痛く掠め、恐らく、機体の何処かが焼けたのだろうと悟る。膨大な光がコクピットを照らし、確かな殺意の光を感じ取った瞬間、確かに自分は失禁したと陽美は感じ取った。マシン全体を揺らしたが、そのショックの大半はアブソーバが吸収してくれるが、
「微かに天国に導くモノなんじゃないか。って思うと、これほど怖い物はない……」
双方に与えるショックは怖い。
「でも、なんとかなるはず……」
そう自分に言い聞かせた美月は惑星ARIAの上空をジグザグに走り、バトロイドに変形し、弾幕としてのミサイルをばら撒きながら新型重量子ビームガンポッドを構えた。美月の対応の早さ、あそこまで多機能すぎて人では扱いきれないほどの武器を搭載している。おそらく、BDIシステムを利用し、脳と肉体、精神、すべてを統一させて全ての機能をフル活用している。こいつはのさばらせておけば危険すぎる。倒さなければならない、いや、殺さなければならない敵だと認識して動き出す。
「っ!!!」
陽美はすぐさま野生的な本能で感じ取る。
此処で逃げつつ、こちらも牽制用にビームガンポッドを連射モードにし、さらにガウォーク形態に変形しつつ撃ち放ち、此方に照準を付けにくいように這うように動く。
「さすがに、そうさせちゃくれないか……」
いつの間に、上昇をかけても上手くはさせてくれない。野生的、本能的な感情で動きを読み取る姿は脅威だ。だが、こっちに気を取られているだけで、それでいい。ブレイバーは、完全に死んだわけではない。完ぺきに破壊しなかったことは後悔するべきだ。そう思わせるほどには、この一撃を確実にするために牽制、当たれば最高。その思考を得てブレイバーは相手に向かってミサイルを撃ち放つ。それに気付いた陽美はマシンを躍らせるように避けようとしつつも、それに対応するように、展開されたマルチパーパスコンテナユニットからは迎撃用にミサイルを撃ち放った。食いあうようにくっつき、爆発する。
このまま、バカなパイロットであれば、安心するだろうが、安心した瞬間に食い殺される瞬間と言うのは避けたい。上空から奴はミサイル等を放ちながら、鷹のように獲物を狙っている。
解っているかのようにブレイバーのミサイルは美月のバルキリーが開幕同時に撒いたチャフには引っ掛かってくれはしなかった。既に、効果でも切れたのか、相手のミサイルを無効化し、こちらのミサイルはコードを売っておけば思いのまま使用可能と言う環境に優しいチャフと言う触れ込みで商人から購入したが、既に、この惑星の大気に消えたのかもしれない。無害物質に変換されて消えたのかもしれない。
「糞みたいなものを買わせやがってっ!」
「来るっ!」
その言葉の通りに相手を食らう蛇が素早く、こっちに走ってきた。変形を駆使して、それを避けつつ、恐らく、これはブラフ。先ほどと似た手を使うに違いはあるまい。誤作動を起こしながら、反応しつつ、此方の迎撃のミサイルは美月の放った弾丸に食われたりするが、それ以上に、その条件は美月も同じこと。
此方も、それを持っていればと思うモノの、そうは……避けた瞬間、僅かな空気の圧迫を感じた。奴は、この上にいる。
「この戦闘、飛び道具は意味を為さない。」
全ての武装を使いきって、このまま近接戦闘に持って行く流れにしたい。このまま、何処かに辺り、そのままダメージを蓄積させて行けばいいのだが、互いの技量、バルキリーに乗れば互角であること。
「それは、美月も解ってるし、私も解ってる。」
コーティングブレードを再び、手に持ち、レーザーブレードを手に持ったバルキリーと刃が重なり、スパークが走った。激昂等することは無い。これが、兵士の役割であると互いの肉体と魂に危機が迫る戦場では、常にこうして来たのだから。
「おいおい……最新鋭機の戦いが白兵戦かよ……ドッグファイト見せろ。ドッグファイト。マジンガーじゃないんだからさ。」
呆れたように樹理は、二人の戦闘を見て口にする。SMSの巨大モニターで、その様子を見つめつつ呆れるように中指を立てて呟いた。
「撃った瞬間には既に変形して近づく。ビームが弾丸であり、あのバルキリーも弾丸である。VF-XXの特性を知ってなければ出来ない芸当ね。」
「隊長、あのマシン、知ってたんですか。」
「もちろん。これでも、SMSの隊長だし。」
「VF-XXはゼントランの技術を混ぜ合わせた、まさに、バルキリーと地球人の真のハイブリットバルキリー。」
ビームが湖に落ちて水蒸気の煙が上がる。
やはり、確実に殺すことを主としているような生命的な危険反応を感じた。
戦場で出てしまう殺しの癖というのは、そう簡単に止まるべきものではなく、変わることもない。同じ位置の次元で戦っているはずだというのに、この距離感というのは、戦場というのはすでに二人の緊張感は、この時点でフェスティバルや、パフォーマンスの領域を超えた殺気に捉えられていた。
重火器、その延長線上にあるバルキリーという人類の作った最高なまでに美しい戦闘兵器越しに感じる感覚は精神と肉体と思考力と殺気の融合によって確実に、この場所を人殺しの空間へと変貌させていた。全てにおいての最初の準備、ほらいなら組織を使って卑怯と言われても確実に殺す存在でもあるのだろう。そして、殺すためにこちらに来ている。急所、バルキリーにおける脊髄の切断はすでに自立を不可能とする。それをどうにかするための強度も、どうにかなっているはずだというのに、あのレーザーブレードから伝わる狂気というのは紛れも無く殺される前の殺気を実感させた。
この、何も無いからこそ、ある程度の攻撃は想定可能であるからこそ、装備による作戦が重要とはなるが、まさか、こうなるとは。野生の勘を常にフル稼働させていたのが自分の戦闘スタイルであったが、向こうも、それと同時に策をめぐらせる、その姿勢にぴりぴりとした殺気を覚えた。青く白い剣の軌道を見た瞬間、確実に殺すのだと陽美は感じ取った。
剣を抜いたとき、そこにあるのは確かな殺意。
戦場において抜けられない癖というのは、実弾が走る感覚というのは、その弾丸の軌道、ビームの軌道、そこにある確かなさっきと言うものが、改めて戦場に入り、そこから兵士としての本能だけが汲み取られたかのように殺気に満ちた攻撃をし続けた。あの時あった感情というのは、所詮は絵空事であるかのように、すぐに、そこにいるバルキリーを危険なものだと思い込んだ。この兵器の拡張機能を使い、策を張り巡らせた装備を使った攻撃をしても、まともな攻撃など受けることは無いだろうというのが美月の抱いた静かな殺気を纏ったレーザーブレードの攻撃というのを、あの状況で防いだこと、そして、その状況になって初めて、調教すべき女ではなく殺すべき兵士だという長年、殺しの場において培った根底にある意識的なものが肉体と精神を支配する。
侍と呼べる種族がかつて、その種族が刀という近接武器を使うときに生まれた隙は刀を抜き攻撃する瞬間と、刀を納めるときという認識が自分の中にはあった。その点、レーザーブレードというのは実体の刀を使うときに生まれる隙を、さらに限りなく0に近い状態で振り下ろした。ゼントランとして生まれた戦闘民族としての遺伝子は、さらに、それに特化しているはずだと思っていたのだが・・・・・・
食い合う本能が蘇る。ゾクゾクとした、あの戦場独特の臭いが感覚。目の前にいる的と動く上の獲物を食らい、生き伸びる、それが兵士……
「ただの女兵士であれば、どれだけよかったか……」
「メルトラン……」
今になって、ガードを無視するほどの轟音が耳の中に入り込んできた。鼓膜が破れると言うことはないが、やはり、それが脳を揺らしているような気持ち悪さは、慣れる物ではない。
踊るように、テリトリーを争いをするかのように攻撃をし合う二匹の獣たち。基本、空中と言う重力の井戸に引っ張られる、この空と言う戦場の中で、泳ぐように自在に戦う。肉迫も出来なければ蹂躙も出来ない。同じ技量をもっているとは、そういうことだ。肉を斬らせて骨を断ったとしても、それ以上に自分と言う物は、斬られる。斬られる覚悟で斬りに行けば、斬られてしまうのだ。
「どうなっているのか、嫌でも解る……」
どちらも、この、ただ、軌道を修正つつ撃ち合っているだけでは、もう、埒が明かないことくらいは理解している。ミサイルや火球が湖に落ちて爆発の花を咲かせながらも、それは、ただ、観客達を喜ばすだけ。互いの癖が、どうしてだか解ってしまう、この感触に、流石に苦笑しつつ、どうにか飛び道具を使い、こちらに有利な状況を与えた隙にどうにか出来ないかという欲求もある。
だからこそ、陽美は、そういう風に動こうとしないものの、それに気付いている美月は、そういう風に仕掛けようとする。あくまでも自分に有利な手段で。考えている瞬間に、美月・バルキリーがガクッと揺れた。
ビームで、何処かが焼けたのだと解った瞬間、その空気の層の向こうに陽美のバルキリーがいるのを知った。このまま、どういう手段で来る。互いに殺気を発しながら、馬鹿正直にファイター形態で突っ込んでくるようなこともしないだろう。
人型が突っ込んで来るよりも、ある種の恐怖ではあるが。接近してくる形態をモニターが拡大し、バトロイド形態だと解った瞬間にニヤッと笑った。
「私の場合は、デコイやデコイ、煙幕があるからこそ、それを駆使して、その戦法が出来る。でも、あなたの場合は……」
此処で踏んだか。美月は確かな勝利の確信を予測した。それこそ、手を伸ばせば掴めるほどの距離だ。真上から来る。しかし、非情だ。そこに、ビームガンポッドを単射形態で構えて心の中で勝利のカウントダウンを始めようとした瞬間だ。一瞬、意識がクラッとなった。
そして、その一瞬が己の危機を生んだ。
戦いの興奮で忘れていた。
どれだけ、愚かなことをしたのか。
つい、対等の人間と一緒にいると言うだけで戦闘と言う物は楽しく思えてしまう。その興奮が産んでしまった大切なこと。地の利……いや、この場合、空の利とでも言うべきか。全て、此方が用意したこと、全てにおいて己が制空権を支配出来るとタカを括っていた。だが、忘れていた。
この私が認めた女であると言うことをすっかりと忘れ、そのバトルフィールドであるという驕りが、この初歩的なミスを生んだのだ。その背には太陽がある。うっかりにもほどがある。対等に闘いあえることの悦びと言うのは、ここまで強いものか。愉悦感が身を包み、さらに、己の戦法を利用される。
互いに、あのドッグファイトで弾薬は尽きかけていることだろう。向こうは無駄にミサイルを撃たなければならない状況に追い込んだが、こちらは祭りのようにミサイルをばら撒いた。この状況を作り上げるために。ガンポッドなどを駆使して、さらに近接戦や、様々な状況を作り上げたが、全て思うように行かなかった。
それが、闘争心を強くしたのだと理解する。
一瞬の眩しさがチャンスを壊す。だから、このまま、両腕にピンポイントバリアを拳に纏わせ、コーティングブレードをぶっ叩き折る。ついでに、このまま奴のマシンを叩き潰す。だが、このままでは勝てないだろう。決闘と言う部分から外れ、二人の兵士としての本能が呼び覚まされる。
「「殺す……」」
恐らく、この邂逅での一撃で、この戦いは終わるだろう。
「最新鋭機同士の戦いの、良いデータが取れてるけどやることがアホすぎかよ……」
樹理は流石に呆れ、このまま、そそくさと戻ろうとした時だった。
「いや、あの子は間に合ったよ。」
「隊長?」
そうして、サツキの視界に太陽よりも真紅に燃える存在が瞳の中に入り込んだ。それは2機のバルキリーの拳と拳が混ざり合いそうな瞬間……
「勝手に二人で盛り上がって!勝手に私をかけて戦って!私は、二人の言葉のお陰で、今があるの!そんな二人のどっちかが死んだら、どうなるか解らないの!?」
叫びながら、そんな二人の間にファイヤーバルキリーが横切った。YF-29改が割って入ったことによって、二人は必然的に距離を取らざるを得なくなった。
「今の声……」
「命?!」
その声に、思わず、二人は対峙したまま、呆気に取られそうになった。
「貴女に限っても、今回で正攻法だなんて!それで、誰かが死んだら、私は、貴女達を見捨てます!バサラと一緒に、この世界から、2度と会わないようにします!」
母親に説教されているようだった。
胸がズキッとした。
だが、主導権を握るための戦いは止めるわけにはいかない。意味のある戦い、意味の無い戦い、それがあることくらいは解っているが、それでも、こうして自分を賭けて戦うと言うのは、景品に等しい自分からすれば、これほど迷惑なことも無い。
「こんな子供の喧嘩のようなことして、誰が喜ぶと思ってるの!?」
命自身、キララを通して二人の中にある闘争心が邪な部分で囚われている、確かな殺意が、そこにある事が解っている。己の歌で、その殺意を取り除くようなことまでする。何処まで、それが出来るのか。自分に、それが出来るのだろうかと1人呟く。しかし、それでも……優劣はつけたいと思うのは人間的な根源的な争いの要因となる物
(でも、二人とも……よかった……まだ、生きてた……)
それは、本音に近い思いだ。
「本来の目的が来たか……」
「見せつけるには……」
命の思いと裏腹に兵士として人としての危険な存在として感じ取った二人の女は、その意思を汲み取らずに戦いをやめようとはしなかった。そこで、戦いをやめても、そこに存在する女の危険性と言うのは、何れ、殺される気がする。好きな女を巡ってと言う、人によっては小さくとも、本人達にとってはとても大きな理由によって。
先ほどのビームガンポッドを手に取りながら、連射モードで確実に仕留める。動きは止めようも無く、マクロスの影に隠れている。「ちっ!!」ブレイバーとのエネルギーチューブを合わせて、さらに高威力のビームガンポッドを向けて、確実にだ。
「ダメ、だから……」
「たぶん、今は……」
両者とも、この技量と言う物、確実に殺さなければならないと言う思いの元に抱いた戦いは、確実な殺意を持って繰り出される。まだ、重火器で殺せるほどの弾薬や、エネルギーとて存在している。命の声でも、それだけは聞けない。
やはり、戦いあう者同士、どちらかが優劣を決めなければならないと言う本能に掻き立てられる。二人のパイロットはビームを放ち、そして、命の歌は戦場に響く。
「でも、二人が傷つくのは嫌!命を落とすなんて、もってのほかだよ!!」
もう迷っている暇はない。それは、まだ、二人がビームガンポッドから、高出力のビームを発する前だった。互いの生の感情がぶつかり合う、命からすれば、痛ましい信念のぶつかり合い。
解っていながらも、言葉で止められないのなら、自分は自分の力を行使しなければなるまい。だからこそ、その歌を響かせなければならない。二人の中にある殺気は消えることが無い。何かが、そこにある。生の人の生の感情と言うのは、そう簡単に取り除ける訳ではないと、これまでの旅で、Fire Bomberや、様々な人間達の会話で理解はしている。
それを為すことの難しさと言うのも自分では理解しているつもりだ。まず、どうする。
解っていることだ。
唄う、この合間合間にも自分の心が不安で押し潰されそうになる。不安というものが、明確な形を持って修羅となり、少女に襲い掛かる。
あの二人のために、今は。
そうして、脳内で二人のことを考える。あの二人、切っ掛けを与えてくれた二人の女性、自分と言う存在を的確に表現し、教えてくれたことであり、自分に確かな成長を促させるきっかけ考えるきっかけを与えてくれた。
そして、シビルが宇宙を見せ、そして、自分と言う存在を、二つのヒントを合わせて全てを理解し、今日までの全ての答えを見つけ出し、そして、それを全て歌に載せた。
生まれてから、そして、此処に来た出会い、二人に関して、もっと……純粋に届けたい。今、それが出来るかどうかを試されているのだと、その場にいる。一瞬、自分の視界が真っ暗になっているのが解る。その間に夥しいほどの思考が流れては堕ちるのだと実感はする。
もう、何かを、アクションを起こさなければ解決することはないのだと、大丈夫だろうか。不安が前に進ませるのを止める。このまま、前に進むことを恐れようとしたときだ。
「大丈夫だよ。」
「これまで、頑張ってきたんでしょ?」
「ママ……」
二人の言葉が光となって放出される。忘れていたといえば、それまでだが、この二人が自分の中にいる。
「でも……」
「怖くないよ。」
「自分と貴女を思う人たちを信じて。」
光となった二人の母親の言葉が尊を前に進める翼となって導こうとした。すでに、兵士としての本能にとらわれて、殺すことを確実としている二人の女が、そこにいる。そして、その二人は自分が……目を開けた瞬間、既に二人が巨大なビーム砲を持って退治して確実に殺すということを証明しているシーンだった。
もう、迷っている暇は無い。
そう確信した少女は口を開き師匠である熱気バサラのように叫んだ。
「園命の歌を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
その言葉を待っていたかのように熱気バサラは命の作った楽曲のメロディをギターで掻き鳴らした。
「光在れば陰ほど……移ろう幻」
最初のフレーズが命の口から走り、二人の放ったビームをYF-29改のサウンドブースターから発せられたサウンドビームが翼のように広がり、それを防いだ。サウンドビームとキララの光が共鳴して命の求めた形へと変貌したのだ。さらに、翼は大きく伸びて命の二人への思いが形となって二人のバルキリーを包みこむ。
自分にとって、大切なことを気づかせてくれた二人であるからこそ、大切であり、傷つけあってほしくない。正直、この思いが恋愛なのかどうなのか、まだ、その経験が今回、初めてだからこそ、未だに解らない部分がある。
「でも……」
それでも、何度も思ったことを命は歌に乗せて叫ぶ。最初の命の叫び声が銀河中に響かせた。命の思いによって分裂したキララの4台のうち3台は巨大なモニターに変化し、予め解っていたかのようにマクロス7船団と繋がり、そしてFire Bomberの面々がモニターに映る。
繋がったと理解した瞬間に、バサラを初めとするFire Bomberのメンバーが銀河に向けて演奏を響かせた。
この銀河ジャックはレイ・ラブロックを通して全てのマクロス船団に流されており、そして園命の存在が、ここで認知されている。命自身は、そこまで頼んでは無かったが、レイとミレーヌ自身が興味を持って勝手に行っているのだろう。そして、もう一つの分裂したキララは小型の移動型浮遊ステージことフライングプレートに変化し、命は、その上に乗りバサラのギターに合わせて唄い始めた。
最初の歌詞から言葉を繋いできた歌は、自分で創って自分で唄っておきながら燃えるほどの熱が肉体を襲う。そして、それが歌うことに対する快楽へと肉体と精神は変貌していくことを、心臓の鼓動の速さで感じ取る。一瞬、バサラの顔を見た瞬間、優しく師は微笑んだ。唄う前のことを思い出す。
「一緒に唄わないの?」
「お前の歌だろ?お前が、二人を止めるための歌なんだ。俺たちは手助けするだけさ。」
そう促されて、バサラは、今回、二人のために唄う曲に関してはサポートに徹すると言っていた。
恐らく、これはバサラが命の歌を信じているが故のことだろう。だからこそ、命も己と己を支えてくれる全ての人を信じて全ての想いを歌を命に委ねた。バサラを含むFire Bomberと園命のセッションに合わせて魂が響くほどに強烈なサウンドとでも言うべきか。
2機の撃ち放ったビーム兵器が消えていく。
完全に消失したビームの光に戸惑い、今度は顔面を砕き、そしてコクピットを潰して狙うためにブーストを使用して、コクピットを狙った互いのピンポイントバリアパンチはギリギリ、命の歌で回避されたと言うことになるのだろうか。いつの間にか、コクピットの二人は、その予想だにしない行動に操縦桿のミスをし、最悪の事態を避けることは出来た。
いや、止めたのだ。
途端に、何か邪気の様なものが取り除かれたような気がして、歌が心を浄化する。確かに、己の身体が、何処か、歌によって生まれた翼が、それを可能にした。
(あぁ、良かった……)
真剣に二人の戦いを止めるために行っていても、ただ、この状況の今、心から、唄えて楽しいと思える瞬間がある。唄っていて楽しいと思えている。その思いが、キララと一緒にバサラの機体を輝かせた。だからこそ、フルに己の作った歌を力強く、そして繊細に歌い上げていた。
船団を超えた超時空セッションは銀河を震わせた。確かな、邪気という名の殺気を歌が確かに取り除いた瞬間をフライングプレートに乗り、二人の様子を見に行く。コクピットの中で命を見つめる二人の女性は戦をすることを止め、コクピットを解放し、唄う命の姿を見つめていた。まさに、命の洗濯をする歌と言うわけか。
戦いは終わった。
確かに、一人の少女の歌によって。
「濁った水しか無かった沼が何かによって、綺麗な泉に変わってしまったかのようだった。」
後に美月と陽美が、そう口にする。命を選択する歌は、そのまま響き渡り、誰もが安らかな笑顔を浮かべた。その日、マクロス・リリィから一人のアイドルがデビューした。
これほど、アイドルとして鮮烈と呼べるほどに派手なデモンストレーションは無いだろう。パフォーマンスとしての2体のバルキリーのデモンストレーションと、それを止めるほどの力を持つ園命の歌……いや、銀河を震撼させた歌なのだから、そのようなデモンストレーションをせずとも……しかし、このデモンストレーションは命にとって大事な試練であったと言える。
クリスタルが爆発して弾けたように光が舞ったように、一つの試練を乗り越えて覚醒した園命は確かなアイドルとして、この世界に幅いた瞬間を見た気がする。歌エネルギーとキララの光は命に光の翼を与えた。それは、元の世界に戻れる力を得たことでもあったが、それ以上に、少女は一つの歌を楽しんだ。
広がる光と歌の奇跡が生むファンタジーの世界が惑星ARIAを包みこむ。
「暖かい歌……」
「そうね……取り戻したのよ。カナリヤが歌を。私たちは、彼女に負けたのね。」
二人のバルキリーが地上に降り立ち、気づけば手を繋いで二人は地上に降りて、その歌を聞いていた。
「あんま、傷ついてないんだ。」
「そりゃ、互いにギリギリのところを避けたりして攻撃してたし。」
だから、あそこで近接戦に運ぼうとしたのだが、その直前で命の歌が二人の闘争心を消したと言うことだ。そこまでやられてしまえば、兵士は負けなのだと二人は悟り、思わず笑いあった。
そうして、出撃前の精神が戻ってきた。
また、角の取れた、あの頃の自分達が。浄化されていく闘争本能が、何もかもが薄れて自分の肉体の中に響く歌が確かな形となって、自分の背中をゾクゾクと響かせて、まさに戦争なんかくだらない、それ以上に素敵なことが、この肉体に刻まれた。
命自身も、その確かな二人の中にある殺意を消したことを感じ取っていた。
ふわっとした優しさが二人の精神を包んでいくのを感じ取って、今まで以上に最高の笑顔を浮かべていることに気付かず、そして、精神は何よりも今、自分の中でアイドルをやってきてよかった。と、そういう高揚感に包み込まれて、もっと力強く歌を銀河に響かせた。満たされていく心地よさ、この全身が震える感覚を何なのだろうと響きあう歓声の中で一つの答えを見つけるのは難しいことではなかった。
これは感動の共有……
この状況、すべて、この言葉に集束された。
「「園命!!!!」」
二人が、その名前を叫んだとき、命の顔は、かつてアキバスターの暴動を止めた時の母、凪沙の顔を浮かべていた。
それを知るのは二人がアキバスターで、そのアルバムを見た時だった。
安らかな顔つきと笑顔に再び頬を染めて初恋をした少女のような感覚となって、園命の、その姿が、この身に刻まれた。
「さて、この勝負、私の負けであり陽美の負けとして見て良いのかしら。」
美月の艦隊はアグレッサーだったとマクロス・リリィ政府は公表し、ことなきを得ると同時に、世間の認める、まさに水戸黄門的な存在だったと述べ、かつてのマクロス7船団に襲いかかったクロエの艦隊のような存在のように、ゼントランの治安部隊として扱われることとなった。
そうすることで、怠慢を貪ってる地球の政府は簡単に受け入れてしまう。
本国に面倒事を持ち込みたくない彼等の精神が、ある種、彼女たちを助けたと言うことにもなる。
SMS・リーリヤ支社として、生まれ変わることになった。ただ、これより、アグレッサーとしての事例を受け取る。命の光によって、ある種、心を蹂躙され、すっかり、毒の抜けた海賊集団に対して、何を思うかと言えば、彼女たち自身、美月に愛されていれば、それで良いので、毒が抜けようとどうしようと、もとより、略奪をする必要もない位には資源も揃えているし。
これよりは、そういう風に生まれ変わっても良いのだろう。
蛹が蝶に変化して、最初に浴びた風が、とても心地良いままに飛び去っていくように、少女の歌は色とりどりの音と波が共鳴し、そして、自分の歌声と合わせてダンスして銀河を響かせて震わせる。
最初のライブで己の殻、檻、そして鎖から解き放たれた少女が二人を思った恋の歌が……銀河に響き、そして、歌い終わった瞬間、全ての歌を聴いていた人の歓声が響きとなって己の肉体にフィードバックするように共鳴して……全身が身震いした。そして、銀河の震え、それを銀河が自分に合わせて歌っているのだと思った。
「銀河が、お前と歌っているぜ……命……」
命の輝きを見て熱気バサラは満足した顔を浮かべながら、ギターを掻き鳴らしていた。
そして理解したのだ。
「私……今、だいじに思っている人に熱いハートを叩きつけてる……これが私の歌だ!!」
最高の歌による快楽を身に着けた時、初めてバサラの言うことを理解し、更なる自分の未来を見た。
「ありがとうございました!!!!」
かつては驚異だった海賊集団の長を引き連れて凱旋した、命の姿は、幼き女王の異名を取る。
光の衣を身に纏い、少女は、この世界で一つ進化したアイドルへと変化し、戦場で得られる以上のゾクゾクとした高揚感を自分の愛する少女が唄う歌を、その身に染み込ませた。
その後の唐突なデビューとなった、このライブ、園命のコンサートはマクロス7船団と繋いだ、Fire Bomberの楽曲を共に歌い、惑星を初めとして銀河全体に響き、人々の歓声と共に全ての人に認知された。
ライブが終わり、そして数日、経った後、バサラは既に、ここから出る準備を始めていた。ある種、熱気バサラとしては満足のいくものであったのだろう。バサラの問い掛けに、どうするべきか。しかし、その思いは、もう決まっているような覚悟を持った顔つきで、バサラは聞くまでも無いか。そう思いながらも一緒に旅を続けて来た中だからこそ、勝手に行くのも自分が許せなかったのだ。
「命、俺はそろそろ行くけど、お前はどうする?」
「私、もう少し、ここにいて頑張ってみたい。」
それが、この世界の真のアイドルとして、誰かの為に唄う素晴らしさから芽生える情熱で輝き始めた第一歩に経った少女の言葉だった。その目にある確かな信念を理解した。
「それで、いつか、バサラやFire Bomberの皆と一緒に、また唄う。」
「あぁ。楽しみに待ってるぜ。もう大事なこと忘れんなよ!」
くしゃくしゃと、頭を撫でながら、バサラは己のバルキリーに乗って惑星ARIAから飛びだって行く。
いつの間にか、そのサウンドフォースとしての地位やら、そういう物に敬意を表していたのか、マクロス・リリィ政府は最大のお持て成しをし、見送っていた。
「さぁて、私は、ここで少しだけ唄おう。」
暫く、命は、この場所に居続けると同時に、マクロス・リリィの代表的なアイドルとなり、7船団、フロンティア船団等にも、その歌は届き、この世界の代表的なアイドルとなるが、暫くして美月、陽美を連れてバサラのように放浪することになる。これに関しては本来の世界に戻るためと言う話もあり、時折、新曲を引っ提げては、ひょっこり戻ってくることも多かったようだ。
「ありがとう。私の出会った、最高のアーティスト。」
熱気バサラとの共演は、その後、Fire Bomberのメンバーと共に何回か行われたと言われ、そのたびに、園命の存在も、その素性のせいで伝説的な存在になっていったと言う。
そして、この惑星ARIAで命は決めなければならないこともあったが、それは、まだ、決断が速い。
「それで、どっちを選んでくれるの?」
棘の抜けた二人は、そわそわしながら、その言葉を今か今かと待っている。だが、命は、その答えに関しては、まだ、四捨五入して十代にも満たないのだ。まだ、そんなことを決断できる年頃でもないからこそ、命は照れながら口に言う。
「それは……まだ、決めない。だって、二人とも大好きなことに気づいたんだから。でも、二人が良ければ……二人と一緒に……」
頬を紅く染めて、だいぶ、恥ずかしそうにしながら、もぞもぞと口籠りはしたが、その先の言うことが二人にはすぐに解り、発情した犬のように命を抱きしめた。
「じゃぁー、今すぐしよう。そうしよう。思ったら吉日っていうし。」
「そうね。どうせなら、ここで。」
陽美と美月が命を抱きしめながら、そう口にして満更でも無さそうに告げている。命は、それも悪くないかな。って表情を隠しながら、小声で口にし、そのまま口にする。
そして園命は美月・イルマ、陽美・マリアフォキナ・フォミュラ・ジーナスと恋に堕ち、3人と結婚してたくさんの子供をもうけることになり、何度も本来の世界と、この世界を行き来したと言われている。噂には光の巨人と出会い、子供の名前は姫子と千歌音と名付けられ、後に陽の巫女と月の巫女に選ばれるとか、どうとかあるそうだ。
不確定なのは、あまりにも彼女に対する資料は少なく、本当に両方を選んだのか、そして、この後、3人目も加わり4人で結婚……なんて話もあるが上記の話も含めて真相は不明。一生の全てを愛する女の歌を唄うために捧げたと言う。素性は、この世界で知らないまま、彼女もまた、この世界の中で代表されるアイドル歌手となっていく。
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| マクロスLily
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≫ EDIT
2016.09.26 Mon

第5話。
エピローグ含めれば、あと、2話です。
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「ファイア……」
「私の歌、聞いてくださーい!」
初めて、その少女が唄った時は全身に鳥肌が立ったことを覚えている。思わず全身が一瞬だけでも震えたことすらも。そのあと、園命と言う名前を知り、熱気バサラと一緒にいる事を知った。その最初に聞いた少女の歌のタイトルは「RPG」と言ったか、日本スタイルのタイトルだったので、印象に残り、黄金の脳髄が脳内を駆け巡るほどには、自分の好みの歌だったことを覚えている。
初めて、その歌を聞いたときは麗しの歌声とでも言うべきか、自然とリズムを取りたくなる歌と言うものが、そこにあり、最初に足を止めたのは陽美だった。ゆっくりと、聞き惚れる鍛えられた声の先にある世界。ずっと、歌を学んでいて、何かしらの枷から解き放たれた、そういう歌だった。陽美が初めて命に出会ったのはSMSの休暇で、別の惑星に飛んでいるときだった。
こういう組織にいれば嫌でも、戦場で感じ取った黒い感情と言うものは闘争心の残り粕とも呼べるもの。それがたまればたまってしまうほど、兵士と言う存在には戦場の高揚感が黒い闘争心となって残り、所謂、サイコパスなんて存在も出来ることがある。所謂、戦場に出れば死に急ぐタイプや、狂乱する人間は、そういう闘争心の粕の塊が徐々に形を成すものである。そうならないように、戦場とは無縁に近い場所で、ある程度、忘れろとは言うが、そういうのは気休めにならない。どこかの女でもたぶらかして、性的な快感で、そういうものを遠ざけようとしていた時だ。
リゾートアイランドで好き勝手に遊んでいた時に、その歌を聞いた。沢山の人の前で、臆することなく、自分の作った歌を披露する少女の姿に何となく目を奪われていたことを思い出す。
最初は、多くの人は隣にいるギターを弾いているバサラに夢中になっていた。
しかし、徐々に、徐々に、その雰囲気を変えるように最初はバサラ目当てで、止まっているのかと思ったが、徐々に、園命の歌が浸透してきたように、その歌声が人々の中に入り込んだ。それが全身を駆け巡り、脳髄が大きな脈動へと至ったのと同時に魅了されていく。
元より、男に興味の無い陽美はバサラよりも、少女の方に興味があったし、当然、そちらの方に目が行くのは当然のことだった。徐々に、その音楽が人を魅了しながらも義務的な感じで本気で唄っていないことに気付いた人たちが流れていく瞬間、延々と、そこに立ちつくしていた。聞いてて、開放感のあるような、そういう歌を聞いたような気がする。
様々なアイドルの歌と言うのを、祖父を通して聞いてきたものの、いまいち、ハマれる物が無く、そのままだった。しかし、目の前で、その歌を聞いたとき、胸の中でときめいてくる何かが、そこにある。
何かを聞こうとしていた時は、他の女が離していたし、音楽が終わって、その後、ネットを駆使して彼女の動画を漁って音源抽出。まだ、園命の楽曲のデータはどこにも置いてなかった。ディスクもおいてすらいない。ただ、画像は多量に撮影されてネットに流出しているが故に拾える。そうして一番気に入った好みの顔を待ち受け画面にし、今に至る。好みの少女がいると言うのは良い。
抱いていた黒い闘争心のようなものが、確かに微々たるモノではあるが、消えていくのを、この肉体は感じ取っていた。
そして、その歌から聞こえてくる、彼女の挫折と同時に、目を隠して我武者羅に努力をしても実らない、危うさを感じるような無茶をしているのが、その歌声から、なんとなく伝わってくる。最初は気づかなかったが、徐々に、その表情に苦しさが宿っていることに気付く。無理して唄うかのような、その声色、明らかにバサラやミレーヌとは違う。
この娘は、自分以上に苦労している。女と付き合ってきた女としての直感が、それを理解する。 その歌には、確かな落ち着かせるものを感じたが、歌の持つ言葉の力を感じることは無かった。瞳には、何かの焦りのようなもの、それが、寧ろ、聞いていくうちに苦しくなってくる。
そういった、それに近い大きな挫折があっても、なお立ち向かう姿、その危うさに庇護欲を駆られて、気づけば守りたい存在として命は陽美の中に存在していた。
顔から伝わってくる必死さと、言葉、そして、額から流れる汗は自分の知っている歌とはあまりにも無縁の形だった。
戦場の高揚感から生まれる黒い残りかすが消えたのは、それ以上に、彼女のことが心配になったからだろうか、庇護欲が動いたから……ただ、陽美自身は、ただ、これを恋だと思いたかった。
「あの娘……」
「私の歌、聞いてくださーい!」
美月が初めて命に出会ったのは、旅行と称してお忍びで艦隊から離れた時のこと。美月の耳の中に、入り込んだ少女の歌に足を止めて、ゆっくり腰を降ろして終わるまで聞いていた。
久しぶりに、聞き応えのある歌声だった。
歌声だけで言えば、様々な女性アイドルを聞いてきたし、それに並ぶほどかもしれない。
別段、好き勝手に色々とやってきた分、何か悩みがあった訳ではないし、そういうことも無かったが、何処か、自分にとってリラックスさせるような、そういう疲れの様なものを感じていたのだろうか。
リゾートスターに来訪して、初めて心休まる歌と言う物を聞いた気がする。今までの女性アイドルの歌に、聞き洩らしているだけかもしれないが、自分で作ったと言う部分を感じさせず、他人の人生を肩代わりして歌っているようなアイドルソングに共感はしたことはなかった。そういう部分から、彼女の歌と言うのは、いや、曲の内容以上に、その姿に惚れたと言った方が良いだろう。
10代の少女の作る薄っぺらさと言うのも、それはそれで良いものかもしれない。考えてみれば、そういう艦隊の長をやっているのだ。それを、さらに統率している。気づけば、そう言う疲れという物は溜まっていたのかもしれない。しかし、その瞳の奥にある挫折感と我武者羅に努力し、どこか、壊れたおもちゃのようになってしまうような危険さに、気づけば夢中になっていたのだ。
そんな危うさを持つ少女が人を癒す歌を唄う。
そういう少女に対して庇護欲を掻き立てられる。
「この歌、貴女が作ったの?」
「まあ、作曲は多少、手伝ってもらいましたけど、作詞は……自分で。」
内容は、少ない人生経験をしている女性っぽさがあって可愛らしい。そういうところも好きなのだろう。
「ふぅん……」
それから、調べてみれば、どうやら色々と有名になっているらしい。熱気バサラとミレーヌ・ジーナスの娘、それか、弟子。リン・ミンメイと一条輝の隠し子。
そんなことを言われてはいるが、確証は無し。
娘にしては似ていないし、髪はどちらかと言えば、マクシミリアン・ジーナスに似ている。
そういうことになれば、隔世遺伝的な部分も出てくるが、名前を知って、血の繋がりは無いと片付ける。
「何か、貴女の歌のデータは無いの?」
「まだ、作ってないし、バサラも、そういう場所とか行かないので。」
「そう、なの……」
歌の内容と言うよりは……と、言う部分も多いが、しかし、バサラとの旅の影響なのか、色々と曲を出す度に良くなっている。
「残念。」
「気に入ってくれて、ありがとうございます。」
「まぁ……」
「何か?」
「貴女の歌には力を感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が、それを封じた。貴方、楽しませるとか、そういう考えの前に野心と心の枷が歌の魅力を封じちゃってるのかしら。」
最初は、その少女の笑顔と歌声は嬉しさに満ちていた瞬間、少女から笑顔が消えて真剣な顔つきになった。美月が、そう彼女の言葉に対して言葉を告げた。
力を感じる歌なのに、歌に乗せて放出が出来ていない。
バサラと同じように戦いを歌で止めたい。
そういう部分があるようだが、この時にですら、無い物が、戦場と言う特殊な場所で唄う時には無い。所謂、そこには人間らしい俗物的な欲求がある。だが、彼女は、なぜ、そうしたいのか、戦場に出ながら歌う覚悟と言うものは何処か軽はずみに見えてしまう部分も。いや、それはバサラの「歌を山を聴かせて動かしたい」と、そういう部分からも……今では銀河を響かせてはいるが。それは、きっかけとしては十分なものなのかもしれない。
そこまですれば、あの世界で認めてくれる的なことを口にしてはいたが。それではダメなのだろう。何れ、この子は、それが出来なければ壊れてしまうのではないか。
いや、壊れるにしても、足りない物に気づかず唄って、虚しく空ぶって才能が無いと思い込んでしまうのではないか。そうなったとき、自分と言う世界があれば。バサラは恋人ではない。ならば、自分が入る隙は十分にある。
しかし、そんな状態の彼女に二人は拍手を送る気にはなれなかった。だから、声をかけた。歌声は14とはいえ、持っている資質は素晴らしいし、確かに人の脚を引きとめる物はいるのだが、誰もが違和感を抱くから、聞き終われば帰っていく人間もいれば、その違和感に気づかなければ聞いて終わるだけ。
そこにある笑顔は、本当の笑顔と言えるのだろうか。
何かしらの世界で、そのスマイルは造られた物なのだろう。
歌には惹かれる物があるが、自然と、そうなってしまっているからこそ命の歌は何処か殻に籠っているような気がして、それに気付かずに空回りしているような虚しさが、歌には秘められていた。そして、素人は騙せてしまう極限までアイドルの仕草をしながら、アイドルらしい笑顔。しかし、それは芸能界に入る人間特有の誰にでも向ける八方美人的な笑顔と歌だ。
「聞いてくれる人はいたけど、感想を言ってくれる人はいなかったね。」
「まだまだ、ハートを解放で来てないのさ。」
「そういうもの?」
「そうだよ。」
熱気バサラは気づいているのだろう。
命の頭をくしゃくしゃ撫でながら、アドバイスをするが、だが、敢えて口には出さずに、命が自分で気づくように促している。そして、陽美や美月のような何人も女を抱いてきた女には、その勘から解るのだろう。
本当の笑顔ではない。
自然と、彼女は心を閉ざしていることに陽美と美月は気づいていた。
彼女は本当の自分を自分でも知らずに隠してアイドルと言う自分を演じて歌っているからこそ、アイドルと言うからに隠れて歌を放つ。本当の笑顔の中で花開く歌は、どんなに素晴らしいものなるのだろう。その先にあるものを陽美と美月は気になった。だからかもしれない。園命の本当の笑顔を見てみたいと言う思いから、彼女を笑顔に出来るのは自分だけという根拠の無い自身から命を、この手に収めたいと思ったのは。
そういうことで、求めようとした瞬間、自分と同じ考えを抱いている女はそこにいた。あの陽美とキャットファイトモドキを行った後に、命の思考と言う物は理解できた。あそこで、陽美の相手ではなく命の相手をする。そうすれば、好感度は上がるだろうと呼んでいた矢先に、あの蹴りだ。
似た者同士であるが故に、それだけは確かだと思っていたのだが、あの不意打ちは不覚だった。
ただ、命が叫んだときに自分の状況を顧みずに、命の心配をしたことに少し興味を惹かれた。あの、自分達のことを歌で止めようとしていたこと、それが出来ないからこそ、どうにかしようと思ったこと。目の前にいる女は、そういうのを自分以上に欲しい物は何でも欲しがるタイプの、そういう相手だったようだと、そういうことを、今、実感していた。
ドッグファイトや、ああやって直接対峙するだけで、何かしらつかめてくる物はある。
これを陽美に対する恋心だとは思いたくはない。ただ、ライバル的な、そういう心が芽生えているだけだと思いたかった。興味は出た。
陽美は陽美で、この画面の向こうでヘラヘラ笑い、自分を蹴り飛ばした女に向かって、互いに初めて出会った話をしてから、色々と考えていた。最初は険悪だった。だが、連絡をしているうちに気づけばライバルとなっていた。それでも、相手は相手。好きな女を巡って戦う存在だと解っていても、あの場所に出れば戦場だが、こうして、そういう戦場だと関係ない場所で会話は平然とできる。人とは不思議なものだ。これが命の歌の力であると同時に、好きな人を好きになった者同士のシンパシーがそうさせるのかもしれない。
「それにしても、私達にここまでしても問題にしない本国政府はどうなってるのかしら。」
実際、そこまでマクロス・リリィのバルキリー隊は死人は出なかったものの壊滅に近い状態になって相手にされてないのも、この本国とは程遠い惑星に関して、基本は報告をするも状況知らずの老人たちが自由気侭にと、でも言えば言い過ぎだが、現状、それに近い状態で新統合軍の状況は、だいぶ曖昧に伝わっているようでもある。事実、その扱いに関しては巻き込まれた側のマクロス・リリィ側に委ねられたような感じだ。外に出てしまえば見捨てられた艦隊として扱われることも珍しくはない。
「結構、いい加減ね……」
「新統合軍の腐敗なんて、そんなもんよ。権力なんていつまでも、そこに絶対にある訳じゃないし腐敗するものよ。ウィンダミア王国との不平等条約を見ればね。また、あれは戦争になるわ。」
だからこそ、色々とワチャワチャしてる状況で、どうにかできるのかもしれないが。
これは、マクロス・リリィSMS支社から、直接リーリヤに交渉をしたことに他ならない。園命に関連するバカらしい理由でテロをいちいち、起こされてもたまったものじゃないという、至極真っ当な理由で、あえて、こちらが一度は白旗を上げることによって支社長が直接交渉をし、乗り込んでリーリヤサイドにも有効な条件を掲示されることによって全ての交渉を受け入れることになった。美月自身、殺されることを憂慮して、ここにいるメンバーや、全兵器をSMSマクロス・リーリヤ支部に配属させることや、その他、もろもろの条件を受け入れてネゴシエーターは成功させる。
どうするかは、これからのことを解決させるために掲示されたものが代理戦闘という名の、美月と陽美の決闘であり、これで美月が負ければ、リーリヤサイドはSMSマクロス・リリィ支社に配属されることになり、そして、陽美が負ければ資源やYF-EXのデータが提供されることになる。
それなりの代償ということで、掲示された条件を読み込み、支社長兼隊長は、この交渉をすべて問題なく成功させると同時に互いの連絡先を交換してから円滑に全ての細かい交渉は進んだ。
決闘までの時間まで暫くかかる。
その間に、何をトチ狂ったのか、与えられた連作先で、暇潰しと称して互いに連絡を取り合い、そして会話を繰り返す。こうして腹の探り合いをして、相手がどういう風に来るのかと探っているものの、互いに諦め、好きな女を好きになった者同士で、園命について語り合う。気にくわない部分もあれど、やはり、共感してしまう部分があるが故に妙に話が盛り上がる。一応、連絡先を渡すついでに、美月の連絡先を盗み出し、何となく、こうして連絡を取り合っている。こういうことをすれば、どういう反応があるか、ある程度は予想通りだったが、なんやかんやで丸めこめて、会話をして見ると、意外と通じる部分があったようだ。
そもそも、最初は、相手と言うか、美月も美月で自分の好きな女を好きになった女が、どういう人間かと言う部分は興味を持ったらしい。それが、こんな淫乱だとは……と、言うのが最初の互いの印象だったのは言うまでも無い。その淫乱に送られた心のオアシスとでも呼ぶべきが園命の出会いだったようにも思える。
「思えば、そこで、運命の3人は出会っていた。って事かな。」
「だとしたら、最悪の出会いね。」
間髪いれずに、そう返す。やはり気にくわないが嫌いでは無い気がする。元よりレズビアンであるが故に、あぁ、シンパシー的な物を感じてしまうのだろう。
こういう女がパートナーであれば危険だが役には立つだろう。画面越しの女に向かってつばを飛ばしたくなる。あのキャットファイトで、勝てるチャンスはあった。言い訳をしても意味はないが。
「私に連絡先を送るって、どういう神経してるの?」
「同じ女を好きになった者同士。」
この女はいけ好かない処はあるが、それは自分と同じ思考をしているからであって、恐らく鏡の向こうの自分を見ているからなのだろうと思う。
最初に、この会話をして抱いた感想と言うのは、不信感に近いものがあった。大体、この通信を許してしまっている時点で、マクロス・リリィ自体は、また混乱に陥っているらしい。どうやら、電子ハッキングをしてしまった瞬間、色々と出てきてしまってはいたようだ。
「何で、こんな奴と……」
「ってか、どうすんの?ジャックは不味いっしょ。」
「欲しい物は何をしても手に入れるの。でも今回は楽な方なんだけど……」
「そうっすか……まぁ、あんたが電子ジャックしたら、幕僚たちの悪い噂はいっぱい、出てきて、現在査問中だけどね。これで、また、新統合軍からは、ある程度、目を瞑る海賊集団よ。あんた、そういうの狙ってる?」
「んなわけないでしょ。」
「そりゃ、そうよね。」
園命に関すること、最初の強行偵察、一応、被害と呼べる被害は人命という観点においてはゼロという現状、全てがブラフだったのではないか。今となっては、美月の率いる海賊集団の行動すら政府の特務機関か何かなのではないかと言う噂だが、この美月と言う女は、そこまで考えていない。
女は虜にし、男を殺す。
そして、そうやって文化が成り立っている集団。
女同士で子供も出来る時代、そういう女だけの社会があってもおかしくは無い。だが、世界は、この集団に神でも宿らせるかのように、この出来事は毎回、起こっている。興味が出てきたと言えば、それは、それで神と言う存在を味方にした存在に興味はある。
「変なことね……」
今までは奪う立場だった存在だと思っていたのに、変な方向に作用すると言うのはおかしいことではあるが命の歌を聞いた瞬間に、命だけは哀しませないように自分のものにしようと思っていた。これが人を好きになることなのだろうと思えば思うほど、愛しくもなってくるし、考えれば考えるほど、命が欲しくなる。そう行くと、美月は命に出会うために、これまで、そう神に愛された物になったのではないのかと運命的な物を感じずにはいられなかった。
「そろそろ、本題に入れば?」
不機嫌な顔を崩すことなく、目の前の金髪に対して美月は言葉を紡ぐ。
「まぁ、それもそうなんだけどさ。それよか、あんたの船にあったのフォールドクォーツよね?それも大量の。」
「ちょっと前にバジュラの大群と偶然、遭遇した時、襲われたから返り討ちにして狩った。」
「ゲームじゃないんだし……」
群れの各個体はフォールドクォーツの小片を持つと言うが、そういうのを得たと言うわけでもないらしい。所謂、バジュラ戦役のころに得た杵柄的なものなのだろうか如何に企画外な船団なのかと言うのが良く解る。
「まぁ、なんか、バジュラの方について行ったら、フォールドクォーツがいっぱいの惑星があったり……」
「あんた、それだけで、この宇宙を手に入れられるほどの力を……」
「興味ないし。」
そこから、必要最低限のモノを得て今に至るらしい。
「それより、本題。いい加減にしないと、切るけど?」
何かしら、あの場所に行けば気になる物が出てくるらしい。興味本位からして、あのバルキリー博物館が出来るほどの試作バルキリーやら、何やらが多量にあった。試作段階で打ち切られた筈のAFC-01レギオスや、AB-01トレッド、AB-00ブレイバー、ブロンコⅡ、ATAC・01-SCAスパルタス等、何故、そんな物があるのかなどと問いかけたくなるほどには。これでも、マックスとミリアの孫であり、歴代のバルキリーを、一応全て見てきた人間だ。それでも、知らない物や、新型機があるのだから。
それは、それで多量の話をしたくなるが、本人の眉間に皺を寄せた表情を見ていると、そうも言ってられない。
「んで、命に会いたくない?」
「そりゃ、会いたいけど……貴女のベッドの上にいるわけ?」
「うーん、帰って別れてから、別行動かな。それから暫く会ってないの。」
「何で?」
「ちと、考えさせてあげたくなってさ。」
あれから帰ってこない。
謎の美少女が戦艦に潜入し、そのまま、命と陽美を連れ去ってから惑星ARIAに降ろしてから、どっかに行ってしまったと言うのが現状。何かを言おうとしたが、敢えて、彼女一人にして何処かに向かってしまった。歌が通じなかったから、今頃、自殺でもしているのではないのだろうかと思って探したら、意外となれたようにサバイバルをしていたので驚いた。
とりあえずは、場所も解ったし、そこで出した提案がこれだ。
「会いに行かない?」
「……それ、あの子、歓迎する?」
「しないかもね。でも、会いたいじゃん。」
「そう、ね。」
二人の探し求めている物、自然と母性本能を燻らせてしまう存在。だから、今は休戦をしつつ、彼女と少しだけ話をしたいと思った。
「ところで、命のことだけどさ。やっぱ、私たちのせいなのかな?」
「さぁ、ね。ま、私も会いたいから、会いに行きましょう。」
一瞬的な出会いだったと言うのに、なぜ、ああも好きなってしまったのか。それこそが、彼女の持つアイドルとしての資質としての本当の力なのかもしれない。二人の中に命を中心として絡む赤い糸を感じていた。
「お前、何も解ってないのな。」
熱気バサラが呆れたように言葉を発したのは自分に対してではなく、偶然、遭遇した芸能関係のレポーターの取材に対してだった。正直、昼のデザートを味わいたいと思っていたが強引すぎるレポーターが席に座り話を聞き出そうとする。
だが、バサラは、その質問に対して露骨に不快な顔を浮かべて、まともに応えようとしなかった。
園命に対して取り扱いたいと言いながら、その核心に迫る質問と言うのはしてこなかったからだ。命のことを言いながらも、結局は、バサラに対する功績を知りたいだけと言う部分が強かったレポーターに対して失望に近い溜息を吐いていた。
「あ、あの、何が……」
当然、解らないし、解ろうともしないだろう。
「お前、命のこと、命として見てねーじゃねーか。俺の弟子だなんだって、そういう部分しか見てねーから、何も解ってねーって言ってんだよ。」
「しかし……」
「解ってる奴は解ってるんだ。あんたも、こいつはこいつとして接しろよ。」
それは、以前、出会った少女達のことを言っているのだろうか。
バサラに露骨に不快な顔をされた記者は黙って立ち去って行った。
「いつもなら、歌を聞かせるのに、今日はしなかったね。」
とりあえず、そういう人間を前にして、いつもは歌を聞かせると言うのに、そういうことをしなかったのは一瞬、不思議だと思った。
「デザートの時間だからな。」
「あぁ……」
命と一緒にデザートを食す、この時間を邪魔されたことに対しての不快感だったのかもしれない。
「あ、嬉しかったよ。私を私として見てあげて。って言ったの。」
「そうかい。」
穏やかな笑顔を浮かべながら、バサラは目の前に運ばれてきたパンケーキを口にした。
「ま、頑張れよ。」
何かを知っているかのように、バサラは常に歌った後の自分に、その言葉を言う。頑張ることは、頑張るが……ふと、懐かしい夢を見て園命は昼寝をしていたことに気付いた。
「私にとって歌ってなんだったんだろ。」
陽美と美月の言葉から、考えてはいたものの、結局答えなんて、そんなものは簡単に出る訳が無く、なんとなく一人で考える時間が欲しくて外に出たモノの、やっぱり考えは出る訳が無い。
ふと、そうして昔のことから思い返してみれば答えが出てくるかもしれない。実はいうと、AKB48の歌に、そこまで魅力を感じたことは無かった。寧ろ乃木坂であり、そういう部分から園家では異端ではあったと思うが、まだ音楽と言う文化が、あの世界では発展途上、いや、再生期の初期とも呼べる中、やはり殆どのアーティストの楽曲は捨てられた中、延々と流れるAKBだけでは正直、飽きてしまう。
あの世界において、そういう歓声を持てる存在と言うのは、バサラのいる世界であれば当然の存在ではあるが、命のいる世界における、そういう人材と言うのは異端に近い存在である。彼らはAKBしか歌と言う文化を良く知らないからだ。
しかし、乃木坂でも、何れは聞きすぎていれば飽きてしまうこともあるという、当然の認識、まだ、音楽と言うものが全盛期だった時代、これは良い歌だけど、楽しめただろうか。そう考えることもある。それを普通にアイドルをしていた母に話した時、怒られるだろうか?そう、考えていたが、だが、母は、それ以上にもっと凄い歌手の名前を教えてくれた。熱気バサラのことだ。
乃木坂の楽曲も好きだが、だが、それ以上に自分で歌を作り、そして、全身から激しい魂の奔流を好みに感じることが出来た。熱気バサラのように、自分でも歌を作詞して、作曲して、それで乃木坂と言うグループに自分が自分として、新たに名前を刻むことが出来たなら。
熱気バサラの歌は、少女に、確かに、そうさせたいと思えるほどの強い力を持っていた。しかし、それでもやはり、他人の歌と言うのは物足りない部分がある。自分で何かをしたくなる。
そういう意味でも、乃木坂0046に入れば、何か、自分自身が全てを変えることが出来るのではないのか。バサラの歌から感じ取った肉体が魂の奔流を感じ取っていた。
何かあれば、それなりに新曲と言うものが生まれるものの、それは、自分の望んだものでもない。あの世界で言えば、そういうこと自体が贅沢な話なのかもしれないが。芸能開放の象徴としては、少し軽い曲調も多い気がするし、元より歌という文化が衰退した、あの世界では、それ以外の曲の聞きようもない。
だからいやでも飽きが来ると気が人には必ずある。
AKBの歌に魅力を感じたことの無いからこそ、そういう部分があったからこそ、この世界に来たのかもしれない。最初はそういうことを思っていたが、最近は、考えることも無かった。ここに来てから、熱気バサラの音楽に触れて自由な発想と情熱的な演奏の音楽と歌の楽しさを知った。
そして、本当の芸能活動とは、こういう物ではなかろうかと、自問自答するも答えなんて、そう簡単に出てくるわけがない。
何となく、人との接触を絶って、自分のことをおさらいしてみる。それに、何の意味があるかどうかは解らないが、ただ、昔から、そういう風にして自分を見つめ直してきた。母に怒られた時も、何処か、孤独に駆られた時も。
「バサラって、こういうことで、歌に対して悩んでた時ってどうしてたの?」
帰ってきた答えは、放浪していたらしい。自分の歌の存在価値や、そういう物に悩んだときは、何処か別世界に飛んだり、そういうことをしていたりと自然に触れ合うと言うことにして、新たな糧として生きていたと言う。命は、あの戦艦から脱出して陽美と別れてから、かつて悪魔の名を冠した少女の姿をした何かに礼を言い、こうして、惑星ARIAの自然溢れる場所へと自力で歩き向かう。
自分の荷物と、一週間ほどの食料を適当に盗んでからだ。
後は、YF-29の中にあったキャンプセットを取って、適当に、こうして自然の風を浴びて貴重な飲み水も確保できるしで、それは、それで調度良い。そして、意外だったのは。
「バサラもいるんだよね……」
意外と言っても、それは同じ場所でという意味だ。バサラもここで野宿をしていたらしい。陽美の部屋で眠っていた時も、こうして自然の中にあるオーラ的な物を感じつつ、唄っていた。そう言えば、こういう人間であると言うことをすっかり忘れていたような気がする。
主にバルキリーの中で宇宙や、他の惑星の夜は一日を過ごし、こうして野宿をすることなどが当然と言うのもあるのかもしれない。
ついでに、戦艦に入り込んでいた時、何もしなかったのは、ARIAに降りてきた美月の部下を歌で全て静かにさせたらしい。
海賊に歌を聞かせるついでに、和平の使者となっていたと言う、ここのところ脅迫や攻撃、そういう物が全く無いと言うのはバサラの歌が良い感じに作用されていると言う物らしい。
何気に影で凄いことを成していたのだから、この人と言うのは凄い。そこ行くと、バサラと言うのは凄いのだと、嫌でも実感してしまう。それに比べて、二人の女の喧嘩すらも止められなかった自分の歌と言うのはなんだったのか。
改めて思う。
ミレーヌ・ジーナスいわく、それはバサラが常軌を逸した歌バカだからこそできるということを言ってはいたが、そうだとしても、それはそれで持っている才能だから羨ましいと思ったが、実際に相手をすると違う。そして、普通の人は、熱気バサラほど歌に情熱を捧げられるものではない。
そもそも、熱気バサラに思春期とか、そういう物があったのかどうなのか、バサラの知人の話を聞くと、そういう時期があったのかすら怪しいと思えてくる。一緒にいても、そのバサラという人間の歌という部分ですら未知の物なのに、それ以外の部分は本当に解らない。
いっそのこと、そうなれば楽になるのだろうが、そこまで行くにはかなりの冒険があっただろうし、命はバサラのような特別な歌を愛する物ではなく、普通の人間なのだ。普通の人間は、何処まで行って何かを越えることはない。だからこそ悩んで自分の出来ることを探すように手探りで動き出す。
悩みとは人の持つ素晴らしい力と説くドラマがあった。自分が選んだ答えが正解なのだと言うが、そこまでの自分の選ぶべき答えに辿りつくことが大変なのだとも思う。
「私の唄って、何なんだろう……」
口で一つ一つ、自分の作ってきた歌を惑星ARIAの誰もいない丘で静かに歌う。
一瞬、だけでも、キララが光った時の状況を作ろうとしても、その時、どういう心境にあったのかが解らない。
母である智恵理は一時的に襲名せずに、きららを最大限にまで輝かせたと言う。そして、もう一人の母である凪沙も襲名する前に暴徒になったファンの集団を輝きだけで引き止めたらしい。そういうものを目指しているのだろうと、自分は思っているし、必然的に自分も、そういう風になりたいと思っていた。
ただ、世の中というのは、そういう風に上手く突破させてはくれないようだ。それが気怠さとなって今を生み出している。
目指すのであれば母以上のアイドルだった筈だし、元より、襲名に拘らず、我が道を行くと言うスタイルで乃木坂0046に入ればいつの間にか白石麻衣の魂が勝手に入り込んで襲名していたと言うことが。煩わしいと思っていた物。襲名すれば、オリジナルの姿を求められる。自分と言うこを出すことは、あの世界では許されることはない。皆、アイドルの中にいる偶像を求めて、理想のことを求め、それ以上のこと、それ以下のことをすれば蜜蜂のような顔を浮かべていた連中は、雀蜂のように凶暴になり、アイドルに恐怖を与えることもある。
そういう話しもあるからこそ、襲名せずに自分は自分で行きたいと思っていたと言うのに自分の中には、かなり厄介な存在がいたことには呪い始めた。この世界で行けば、ならば、独立していけばいいというのであるが、その術を知らなかったという部分も強いのだから……所謂、無知と言う罪……しかし、あの世界じゃ、アイドルになるということ=AKBやら、その手の派生アイドルになるということでもあるのだから、そういう思考になるのも無理はないのだろう。
それでも、白石麻衣として生きなければならないことに窮屈さを感じていた少女は、己の心を封じてアイドルとしての自分を作り上げていた。その方が、あの世界では生きることが楽だから。襲名すると言うことには魅入られた時点で、強制的に、そうなってしまう。認められたと言えば、それまでだが、あの世界では名誉であると言うのが良く解らない。皆、それが嬉しいと良感情と言うのが解らない。
あの本来での世界での常識が今は異様に見える。
そして母が凄いからこそ、襲名前に二人の母親が凄いことを為したからこそ、襲名をしなくても人と言う物の持てる凄い力と言う物は、オリジナルメンバーを越えるはず。だからこそ、その部分を強く持っていた。
「まだ、14歳だから。って声もあるけど……」
結局は、凪沙も智恵理も襲名し伝説のアイドルと化しているし、今では3児の母である二人のアイドルとしてのポテンシャルを見ていると羨ましさもある。年を食った現役を退いたアイドルだった存在の母に負けるというのは悔しさもある。だからこそ、まだ世界にちゃんと浸かっていないからと自分に言い訳をしながらも、何も無く、がむしゃらにやっていたというのに、そのまま気に入られてしまったように白石麻衣を襲名した。
思えば、母達だって、襲名したのは、このころだ。ただ、あの場合は、時代が今以上に芸能弾圧が厳しかった時代だと言うから、乱暴でも、そういうのが求められていた時代でもあったのかもしれない。あのころの母たちの話を聞くと暴力に支配されたアキバスターの住民が暴徒と化した存在が二人の力によって一気に暴力からの支配から心を解放した。
一見、お伽噺のように聞こえることが本当にあったというのだから、命からすれば夢物語のような現実に頭がくらくらした。
奇跡を実際に起こしてしまえば、その真実を知ってしまえば武装せずに歌で解決した集団についていくことに対して強い説得力がある。恐らく、あの世界の政府はアイドルがカルト宗教的な危険性が孕んでいたこと、それが実際に形になってしまったことを知っていただろう。アイドルと言うのは、そういう物だと言うのは何かしらの資料で呼んだ。
此方が正統性を叫んだとしても暴走した何かを心に産み落とす危険な存在、それが、オカルト的なパワーを出すのだ。政府からすれば危険以外の何物でもないし、神秘的だ。聖書の物語のように人は神秘的な力に心を惹かれる。かつての、この世界も、神秘的に人の心を躍らせるアイドルを利用したプロパガンダやら、支配を目的とした洗脳が行われたということもある。だが、支配する側の思惑を持つ人の心と、その役目を帯びたカリスマ的象徴が望まぬままであれば、それは意味がなくなる。
むしろ、反政府の象徴として面倒なことが起きることだろう。そういう意味では、あの世界で芸能弾圧ということをしたのは、支配するということでは正解そのものだったのだろうというのは、第三者的な視点で見つめていれば思うことだ。
アイドルの宗教的な恐ろしさというのを肯定的に描く恐ろしさを描いた何とかSEEDシリーズなんてのは、特に、それだと、この世界で見た60年近く前のアニメの一片を見てアイドルの持つ力の怖さなんてものを理解した瞬間でもあったが。ただ、そういう部分から想像以上に力を持ったアイドルの力というのは制御できない神に等しい存在と同じ。
だからこそ、自分たちの思い通りにするために。そのエゴをむき出しにした無茶苦茶な法は執行された。とりわけ気まぐれに、この世界の住民に自分の世界の話をすれば、どんなアニメの世界だと言われる。
ただ、人の心というのは、それだけでどうにもなるものではないというのも園命は知っている。芸能という文化とともに人の世界が成り立ってきた以上、それをいきなり取り上げてしまえば予想以上に反感を買うし、より宗教観念的な強さを持ってしまう組織だって生まれるだろう。本人たちが意図しないところで、AKB0048なんてのが取り上げられたのは、そういうことなのだろう。
もとより文化の抑圧なんてものは手っ取り早いのかもしれない。そして、それに対抗し過去の偉人扱いされているAKB0048やら他の姉妹グループのメンバーを利用している、あくまでも過去の亡霊を使い発展しようとする姿に命は憧れを感じたことはない。
だから、自分は自分としてアイドルの力を奮いたい。
そして新たに自分が、あの世界で過去の亡霊ではない”自分”というスタイルの、本来のアイドルとしてのスタイルを蘇らせて自分として立ち上がりたいという夢へと繋がっていった。本来の世界では異質なのかもしれない。しかし、ここの世界では、それが当たり前だ。
襲名せずに自分は自分でいたいと言うこと。
その考えについて、二人の母は認めて応援はしてくれた。
だが、長くたてばファンという質は変わるように、ある程度、緩和され始めてから横暴な部分が目立つようになる。覚悟はしていたものの体験したことは自分というものを否定されたようなものだった。
”白石麻衣らしくしていれば良い。”
”それ以上のことを白石麻衣はしていなかった。”
”白石麻衣を穢すな”
などと、本当の彼女を知っているのか、どうなのか、そういう発言を繰り返す。それでも反発して自分を強く出そうとすればするほど、当然、反発が来る。
研究生であれば許されたのに、襲名すれば、それに近いことを求められるようになる。
襲名すれば、自分は自分であると言うアイデンティティを否定されていくような気がした。自分で決めたこととはいえ、やはり、それはきつい。さらに年頃の少女が強く暴言を吐かれると言うのは予想以上に精神的に苦痛を伴うことであると言うのを知ったのも、この時からだった。
自分の中に静かな獣が生まれたのは。
「振り返れば、きつかったんだよね。」
時代は、よりらしさを求める人も多くなる。魂の器として見られることに対して、他のメンバーは努力するように頑張るが、もとより、襲名というシステムに如何せん、疑問に思う命としては襲名に拘る同期の気持ちがよくわからない。
自分として見られていないことにも等しい発言であるというのに。所謂、オリジナルのメンバーに対して疎ましく思っていたころ、キララは、この世界に導いてくれた。
「難しいね。この世界。」
もとより、自分には、出来る姉たちのように資質はないのだろうかとアイドルとしての魂の資質を測る未知の存在が、キララと呼ばれる物体を見て口にする。
「もう、私からアイドルとか、そういう要素は消えたのかな。」
バサラが歌えば楽しそうに輝く、この不定形の生物は輝くというのに、自分の前になると輝くことを忘れたかのように光を失っていく。そういうことを考える中で、様々なことを考える切欠になった。だから、襲名というのは何もない少女を輝かせるための偽りの光をもたらすものなのだろうとか。
改めて自力で輝く難しさというのを理解した。そこから、襲名とは何か、あの世界の異様な雰囲気とはと考えた意味を考えるようになった。
「何で、輝かないんだろう……」
目の前を飛ぶクラゲの様な生物を突いても何も起こるわけがない。悩んでいた時に、あの、言葉が、陽美と美月の言葉が脳裏に入り込む。陽美の言っていた通り自分の中に引きこもることに対する安心感と辛さは、いつの間にか、どうにでも出来なくなっていたし、それがいつの間にか楽になっていた。
だから、歌に打ち込んでいたが、打ち込んでいたのだが、今度は美月が心に殻を作って閉じこもってしまっているから、本当に響かないと言われてしまった時は八方ふさがりになった。改めて気づかせてくれたことに対して、こうして余計なことを考えつつ、考え込んでいたが、だが、それを打ち破るためにはどうしたらいい。
そんな自分なりの結論なんてのは出てこない。それでも余計なことの思考に対しては、何故か答えと言うよりも自分で辿りついた思考と言う物は良く出てくる。
これは、あくまでも第三者的な視点だからなのだろう。
自分のことに関すれば、そうそう今後を左右する物でもあるし、答えなんて出てこないし、結論を求めて、その先にある答えが怖いから思考はカバーされたかのように簡単に与えようとはしないのだろう。
「自分か。組織もファンも政府も理想と思想を植え付けて自分の都合の良い存在であってほしいと言うのが、世界を考えなのかね。」
余計なことを考えつつ、本来の自分の思考と照らし合わせることで、なんかしらの答えを導くことがある。さらに陽美と美月が導き出させたヒントを思考に溶け込ませて自分の導き出した未熟な結論の中で、それでも、世界はそういう物を押し付けようとしても、自分は自分としてありたいとは思うし、誰かの器では無く自分として前に出たいのだと言うことも思う。
如何なる思想を持っていたとしても、それを押し付けられてもだ。
それでも、己でいたいという単純な物ではあるが、立派な物だと思い込みたかった。
そして、陽美と美月の言っていた通り、それで良いのだと単純な言葉が一つの思想になって結論となって生まれ出る。遠回りしてきて得た簡単な答えだからこそ、何処か、暖かさの様なものを感じる。だからこそ、より、そうでありたいと1人自分で見つけた答えを纏めた。
「そういや、バサラも……」
サウンドフォース時代のバサラは、そうなるのが嫌だったと、そんな話があるのを思い出す。
だからこそ、あえて自分を出していたのだと。それでも無理やり、自分を出すこと、ただ、あの押しつけられた世界に汚染された己の心をどうすれば解放できるのか。自分の中に救う化け物を、どうすれば排除できるのか。
「解らないから唄う。迷ったら唄う。ね……」
バサラに感化されたのか、むちゃくちゃだが、そうして行けば、何かあるかもしれない。
口を動かし唄いながら、この星で得た物を考えて、己の考えを唄ってみた。言葉にはしてはいないが、自分の理想を押し付けずに、自分と言うその物を受け入れてくれていることに対して好意に近い感情を抱いているし、陽美と美月は大切なことに気づかせてくれた、改めて本当に今の自分を気づかせてくれた人。
だからこそ、あの二人の争いを自分の歌でどうにかしたかったのに、結果は、あの様だ。何が足りないのだろう。その思い出が脳裏によぎるたびに声を強く唄う。
使命感を強く持って純然たる思いを持って歌ったが、それだけでは足りない。だから、今は、がむしゃらに唄った。唄っていると、やはりバサラの力なのだろうか。白石麻衣の霊がいなければ何も出来ないのだろうか。
変な考えが頭によぎり、今度は唄うことすら辛くなってくる。短い時間の間に唄うことをやめて、地面にあおむけになって再び眠りにつこうとした時、バサラとの旅の思い出が蘇る。
ごちゃごちゃとしていた時、この世界の様々なアイドルやアーティストと出会った時のことを思い出。バサラと旅をしてきた時に出会った人達の出会いは楽しかった。その人達の歌を聞くことも、その人達の前で歌を唄うことも。バサラの弟子として見られることに対しては、違和感もあったが、誰かの代わりとして見られることよりは何倍も良い。
だから、唄っていたのだが、それでも、陽美と美月のようになっていたから、聞くだけ聞いて、何もせずに帰っていく。人を惹きつけながらも心に響かせることが出来なかったのは、自分が原因……
「お前、何をしてる?」
「シビルさん……」
考えていた時、唐突に自分の顔を覗きこんでくるエキゾチックな美人がそこにいた。
実は、と言う形で何度か出会ったことがある。バサラが存在していない時にテロなどに巻き込まれてしまった場合、助けてほしいと頼まれていた部分もあるようで、常に見つめていたと言う。
思い返してみれば思い当たる部分がかなりある。あの時とか、あの時とか。
「こうして、一人になってるんです。自分のこと考えるために。ってか、いきなり、お前って、なんなんですか……後、今回も助けていただいて、ありがとうございました。」
バサラが、わざわざ、美月の艦隊に乗り込んでこなかった理由と言うのは地上の海賊集団に歌を聞かせ戦闘をやめさせようと唄っていたそうで、艦隊の中に入り込んだ命達に対してはシビルに任せていたらしい。シビル自身も歌を聞かせつつ、人を殺さず動いたものの、そこまでの力はまだ無いようでなるべく殺さないようにスピリチアを吸収しつつ難なく救出に成功したということだ。
「お前、スピリチア、弱い。歌から、魂を感じない。」
「私……そうですよね……どうしたらいいのか解らないんですから。」
熱気バサラにも変な知り合いがいる物だと最初は思っていたが、少しだけ考えてから、隣に座りこんだシビルの膝の上に頭を置いてブツブツ喋る。最初の印象と一度接して見てからの印象はだいぶ変わり、年上の頼りになるお姉さんという側面も強く出てくる。頭を撫でながら、何かが来てくれるまで待ってくれているような優しい姉。思えば、自分の姉と言うのは、こういう部分を見せたことはなかった。
「メイズ・スピリチア……」
「はぁ……・」
時折、造語を交えて何かを言うが、それが何かが解らない。
「お前、心に何かを抱え込みすぎてる。」
「解ってますよ……」
そして、その後に、自分の心を手に取るように教えてくれるのだが、でも、どうすればいいのか解らない。
「なんだよ。さっきのひでぇ歌は。」
「うっ……聞こえてた?」
「そりゃーな。」
「ってか、ここに来てから、ずっとだ。」
「へ?」
「ここにきてからの、お前の歌を聞いてると、今まで以上に、自分のハートに迷ってる感じがするぜ。その中で、お前の今の歌は一番酷い。」
「う……それは、解ってはいるんだけど……どうすれば良いのかわかんない……」
「自分の中にある余計なものを取っ払うように唄ってみろよ。野望とか、そういうやつをさ。」
実のところ、それは自分が一番わかっている。とはいえ、そういうとき、どうすれば良いのかわからない。自分の歌と言うのは通じているのか、それとも、そういう余計な部分が気になる。
思春期特有の、他人の評価が気になってしまう、そういう年頃なのだし、それを気にしてしまう世界にいたからこそ、この問題からどうすれば良いのかわからない。それを解っているからこそ、バサラも強くは言おうとしなかった。
そして、こういうときはあえて聞いてみる。
「そんなときは、どうするの?」
そして、決まった答えが返ってくる。
「爆発させるのさ。爆発させて、余計なものを取っ払って、自分のハートに素直になるのさ。そして、自分が何を思っているのか、何故、唄うのか、見えてくる。」
「爆発か……」
「ボンバー」
ヘッと笑いながら、平然と口にするものの、どうすれば良いのかわからない。しかし、バサラらしい回答だと思わず苦笑する。と、さらに明確に、その答えを表示するようにバサラは
「AHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
命の魂を響かせるように叫んだ。
「コォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
それに合わせるようにシビルも叫ぶ。
「HOLY LONELY LIGHT……」
バサラの選曲と言うのは、そこに何が秘めているのだろうか。
そこに、確かな答えがあるような気がする。
随分と毒されたと思いながらも、一見、世間から理解されていなさそうな思考を持っているが、結果としてはかなり理にかなっていることをするのが熱気バサラと言う男だと言うのは、嫌と言うほど知っている。これだけは熱気バサラと言う男のつかめた部分だ。
全てと言えば、傲慢だろうが。強烈なシャウトを響かせて、熱く歌う姿に、思わずシビルも釣られて飛び起き、一緒に唄い始める毎日。だが、そこにあるのは、曇り、迷いの無い、清々しい歌そのものだ。ギター一つだけで、人の心を動かすほどの強烈なサウンドを鳴らすバサラの歌に、思わず、命も立ち上がった。
だが、その歌は、今、自分という立場の中、その物だと感じ取ることのできる歌詞を聞きとり、思わず口にしてしまいそうになる。
一つ一つのパズルのピースが、自分の中で、答えを見つけてくれそうなほどには熱い何かを感じ取っていた。最初の部分を触れて、間奏の中でギターを延々とバサラはギターを掻きならし始めた。
その奥にある物、何があるのか。
自分の心の中にかかったもやが晴れそうなほどの清々しい音が全身を駆け巡る。それが中に入り込み、何かが消えて行きそうな、その中にある何かが消えそうだった。言葉にできない、何か、その何かが掴めそうにもない。しかし、今の自分の心、これを解き放たなければ、目がくらみそうな蒼いダイヤもガラスに変わってしまいそうだった。
だから、急がなければならない。闇の中から、答えを見つけ出さなければなるまい。だが、その歌で命は、まだ答えを見つけ出すことは出来なかった。
(もっと、勢いをつけて、ガーっと……バサラに歌を聴いてもらったときは、そういわれたっけ……)
だからこそ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
叫んだ。
宇宙を全部くれたって、譲れない愛もある……
全力で「HOLY LONELY LIGHT」を唄う。
「今までの辛気臭い感情より、よっぽどいいじゃねーか!もっとハートを爆発させちまえよ!!」
「それで、どうにかなるわけないじゃん!!」
もう考えるのが辛いから、意味なくシャウトすることにした。
こうして、色々としているだけで、どうにかなると言うのなら、なっているものの確かに違うような気がした。しかし、その時、生の感情に応えたからなのか、今、叫んだだけでキララが輝きを増した。
しかし、気づかずに命は叫ぶように唄い続けた。
全てのしがらみを取っ払って、自由に自分の叫びを、とにかく自然に言い聞かせた。
一定の時間を過ぎれば、考えることをやめて唄うことの楽しさが芽生え始めていた。
心の中を拘束する鎖を解き放って唄う中で、何か、光の様なものを感じ取ろうとしていた。そうして見えて行くうちに、自分に好意を寄せる二人の勝手な女のことが脳裏によぎった。
心配をかけておきながら、刻一刻と陽美と美月の最新鋭機を使った壮大な大げんかが始まろうとしている。しかも、勝利した時の景品は自分。なんて自分勝手なことをしてくれているのだろう。
一番、人を心配させるようなことをしていた。
(まだ、好きとか、そういうの言ってないんだけどね。でも、この自分の中に眠る思いは……あの二人の中にある思いは……)
自覚がある。
それが、恋であるということ。
二人とも好きだから、二人とも……
だから、贅沢なことをしよう。
だからこそ、その身勝手さを思い出すと、想い立ってくるのは苛立ち。
「私の気持ちも考えないで、勝手なこと言って!!こっちの気も知らないで、勝手に盛り上がって!!勝手に決めるな!!まだ、好きになるかどうかんなんて、これからなんだから!!勝手に盛り上がって!!!そりゃ、私だって悪いよ!!!私だって、あの時、色々とあったんだし!!大体、まだ、付き合うなんて決めてない!!だって、二人とも同じくらい、どうしようもないくらい好きになったんだから!!!」
なんだか、あの二人のことを考えていたらむかついてきた。
勝手に盛り上がって、ああいうことを言う。本当に、あの二人は勝手だ。その全てを振り払うように不満を爆発させて、何度も何度も「HOLY LONELY LIGHT」を唄った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!もう!!!!!!!」
「ファイヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バサラに続いて、
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
もう一度叫んだ瞬間、隣にいたシビルが叫んだ。
「コォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
そして、シビルも吼えた。
3人のセッションが一瞬、銀河を震わせたような気がした。続くように、風が吹いていないと言うのに木々が揺れている。しがらみも、なにもを取ろうとしている、心の中に襲いかかる鎖を解き放とうとしている。無理やり、歌で。確かに、考えるよりかは、こうした方が良いのかもしれない。自分を見つめ合うだけでは朝が遠すぎる。それだけでは、何が本当か、嘘なのか解らない時がある。だからこそ、歌に己を抱きしめさせて身体に火を付けるように唄いまくった。
それこそ、二度と心は後ろを振り向く前に、身体の芯まで燃やすように。
その瞬間、自然と一体感を迎えている時、何かを感じ取っていた。
根源的な怒りと言う感情を昇華させて恋を自覚して自然とシャウトすることによって、何もかもが抜けていく。
そうなっていくうちに自然とキララが輝きを帯びてきていたことに気づいていなかった。人類の叡智、野心、義務感、そんなものを忘れるほどに何も考えずに久しぶりに叫ぶだけの、この行為は、どこかハートが爆発するような全長が沸々と肉体に起こるような感覚。
今まで、自分の縛っていたものさえも忘れてあふれ出てくる大きな叫びに自然が共鳴したかのように震え走る。
そして、自分もブルブルと肉体が震えるほどのシャウト。
何か、剥がれていくような、そういえば何も考えずに、こういうことをするのは久しぶりだ。
命の心が震え、何か、忘れていた感情が呼び覚まされるかのようだった。なぜ、こんなことを忘れていたのだろう。今まで、普通に忘れていた自分の感情は何だったのだろう。どう過ごしてきたのだろう。いや、当たり前すぎて忘れていたのだ。普段は、そういう感情を得ているというのに、肝心な時に抜け落ちて解らなかった。
なぜ、歌に力が入らなかったのか、なぜ、静かなバケモノが来たのか。
今まで、野心や、そういう柵に囚われていたからこそ、今、忘れかけている感情を手にした時、それがどういうことなのか理解した。
そして、なぜ、今、その思いを感じているのか、自分の声に合わせて揺れる自然達が震える、それに感動したからだ。自分たちは、今、自然と唄っていると、自然の歌声も身体に入り込んで一体化して唄うという、この感情を楽しいと思えたから。唄っていた時、ずっと感じていなかった感情を知り、思い出し、そして帰ってきた。少女は、まだ、それに気づいていなかった。
「ホント、元気だ。」
自分専用のバルキリーを美月は駆り、近くに降り立った。バルキリーのキャノピーを開けた瞬間、いきなり、命のこれ以上に無いパワーを感じる歌を聞き、流石に驚いたが。陽美はアスモデウスが大破したせいか陽美は大型バイクで登場。掛け声一つでパワードスーツにもなる優れものだ。名はガーランドと言うらしい。
「貴女、それで私と戦うつもり?」
「今、あたし専用の新型、整備中なのよ。慣熟飛行も、まだ、完全にしてないし。」
先行量産型と言う部分に甘え、かなりの贅沢を振り込んだと言うが、それを慣熟飛行して無いと言うのに、わざわざ、好きな女のために頑張ると言うのは余程、惚れたと見える。
「見慣れないマシンね。」
「YF-XXC+BRAVER。恐らく、そっちで手掛けてるVF-31とは違うラインの新型よ。」
「盗品って奴ね。」
「まぁね。」
大型にも思える、そのマシンを見つめて、陽美は「こいつがやり合う相手のバルキリーか。」と息を飲んだ。此方とて、VF-19の芸術的ラインから、YF-29、YF-30の要素を取り入れた芸術品だ。目の前の全く違う生産ラインのマシンに完勝は難しいにしても確実に勝てると、そういう自信は生まれてくる。恐らく、それは、美月も同じ思考でいることだろう。
クァドランで、あれでも、バルキリーでは。
未知の力を感じた。
パイロットとしては、美月はクァドランよりも、バルキリーの方が相性が良いのかもしれないと、この扱いにくそうな大型のバルキリーを手足のように自在に振る舞う姿を見て久しぶりに恐れを抱いた。
それに、あの時は人質もいたのだ。本来、そういう物が無いバルキリーとしてのパイロットの美月・イルマ。あの女が下りてきた時だ。
「陽美さんに、美月さん……」
騒動に気付いたのか、喧嘩していた二人が現れて流石に言葉ではそうは見えないが驚いている。
「元気そうだ。」
「そんなこと、無いし。ってか、二人とも、仲良くなってる……」
「単なる休戦協定。」
「戦いになれば殺しあう関係よ。」
闘争心的なものは剥がれることは無い。バサラも流し目で二人を見つめつつも、陽美のすること、美月のすること、この二人の明暗はどうなるのか、命が握っていることに気付いていながらも、何も言わなかった。
この後から、3人の会話は続くことはなかった。そうでなくても、自分の歌で二人の争いを止められないことを知ったし、当事者である二人は、そのことに罪悪感を抱いていたりと会話は続かないし、それでも反省することなく自分を取り合うという、人の意志を無視して話し合う。勝手なことだ。顔は大人なのに、そういう部分は自分と同じ、強情な子供なのだろうということは、こうして接してみると嫌でもわかる。
それをワイルドとでも言う人間はいるが、当事者からすれば迷惑なことだ。
こうして顔を見合わせているだけで、何かに遮られているようで声を発しても聞こえないだろう。そうして行くうちに、得られた感覚を忘れたそうになった。何か触れてはいけない領域の様なものが3人の間に出来あがっている。
二人は顔を逸らし、一人は子犬のように震えているようにも見える。陽美の飄々とした部分も感じず、美月も何処か先ほどまであった気高ささえ消えているように見える。
何があったか解っている筈だと言うのに、いや、様子を見に来ただけのだから、このまま帰ることも出来る。出来るが、何故か、帰ることが出来なかった。何かを口にしようとしても、いざ、何をすれば良いのか、何を話せばいいのか解らなくなる。愛の台詞を囁くなんて、そんな簡単なことが出来るわけでもなく、重い空気は、ただただ流れていた。しかし、それが、命にとっては、まだ、心地が良かった。
また、二人が余計なことでもして、喧嘩でもしてしまえば、また自分の歌で止めることが出来るだろうか。そういう不安だって流れ出てくるのだ。だから、このまま、何も無く終わってしまえば良いと思考は渦巻き、結論付け、二人は、こうなるのであれば、やはり、会いに来るべきでは無かったと思った。
感情に任せてやってきたとしても、何か気不味い雰囲気すらも、こうして流れてくる。陽美と美月の考えつく先が、後悔という言葉に埋め尽くされていく。あまり触れ合っていないからこそ、何を言えば良いのか解らない。
このまま、一緒にいても命と言う女に何を伝えれば良いのか。
ここで、何か、思うことを言っても再び命を傷つけることをしてしまうのだろうとは思う。それでも、何れは決着を付けるつもりではあるとしても。そもそも、そういうことを考えている辺りで会うべきでは無かったのかもしれない。陽美は己の軽薄さに頭を抱えつつも、このままどうしたらいいのかを考え込んでいた。既に、どうにかすればどうにでもなるわけがない。
まさか、こうも空気が重くなるとも思っていなかったと言うところがある。
同じ女を好きになった者同士、そして、自分の好きになった女が目の前にいるのだから、何か明るいポップコーンでも食べながら話すようなことを考えていたのだが、甘かった。まだ、三人の状況と言うのは、そこまで出来るほどの時間にもなっていない。美月とは話せたが、ここに命がいると、こうも重苦しくなるものか。
やはり、欲しい存在、ライバル、永遠のモノにすることのできない危うさ、そういうものを持った存在であるといえよう。気に入らない存在、同族嫌悪からくる、不快さ。
友好的な雰囲気と言うのは生まれてこない。
しかし、今からでも周りを制圧してでも、命を奪おうとすればいいのだが、そうならない。それを為せば、命に嫌われるかもしれない。肉体を奪っても、自分に靡くことは無いと、あの時の接触で、今、理解した。これが、世界を轟かせている海賊組織の首領なのだろうか。
元より、勝手に好きになって、そこに恋敵がいる状態。命からすれば身体が張り裂けそうなほどにはと言えば、大袈裟だが、やはり自分に影響を与えた二人が傷つくのは辛い。
命もヒントを与えてくれたとはいえ、日が浅い絡み相手、そんな友人と同じ位にしたしくなった二人が喧嘩になるなんてのは余程の性悪でも無い限り、嫌なものだろう。命にとっての立場が立場であるが故に、やはり痛い。歌を唄っても、未だに無能なままで片付いてしまうのだから。
何かを掴んだ確証はある。
だが、やはり、前の失敗を思えば不安にもなってしまう。
沈んだ表情を浮かべて、それをばれないように隠していたときだ。
「お前の歌、メイズ・スピリチアから、ライト・スピリチア。」
そんなときだ。空気を、あえて読んでいるのか、読まずにいるのか、シビルが3人の合間に入り込んでシビルが命の目の前に立った。威圧的な物は感じないが、その表情は笑みでこぼれている。
「良い物、見せてやる。」
優しく微笑んだとき、そっと軽く唇を重ねた。プロトデビルンが現れたからか、前回の様に片頭痛が二人のゼントランの血を煽られて倦怠感が襲われて一瞬の隙が生まれた。
「「?!?!」」
「ちょ、何をしてやがりますか!?この牝はぁぁぁぁ!」
しかし、それ以上に、この状況、驚かずにはいられまい。
二人と言う自称恋人だと思い込んでいる二人がいる前で突然、唇を重ねると言うことをする。何をしているのかと思うのは、二人だけではない。唇を重ねられている命とてそうだ。
「え、え、え!?」
それはいきなりだった。
シビルの放つ光に包まれてバサラと命、陽美と美月は、文字通りに銀河に出た。
いつ、出たのかは解らないが、恐らく、考えていた隙に、そこにいたという表現が正しい程には宇宙服を纏わず、光の球に包まれて宇宙を見ていた。
銀河……銀河に自分の身体がいる。シビルと名乗った存在が光に己を包んで、銀河の周りを時間を飛び回る。ギラギラに輝いている銀河と言う世界、言葉で形容できないほどに、この感動は尊く素晴らしいものだった。
「凄い……!」
宇宙服を纏わずに、今、銀河と言う物を、今、この恐ろしくも輝かしい銀河の風を体験している。キララが輝き自分達を包みこむ。不思議と恐れの様な物は感じなかった。それ以上に、神秘的な物が勝っているのだろうか。ただ、ただ、ただ、ある物は、「楽しい!!!」自然と歌を口ずさんでしまうほどの心地良さが、この光の中にある。
光となった己の身体が、銀河を駆け抜けていく。
銀河、大きい、そして凄い。
この中で、歴史を垣間見た。
キララが輝き、人智を越えた現象を生み出して、この銀河の中で起きた歴史を映しだす。誰もが、この銀河を走る中で歴史と言う物を見た。
「リン・ミンメイ……」
自分に近い青い髪の女性が、そこで唄っている。
唄い、巨人たちがカルチャーショックを受け、そして、変わろうとしている瞬間だった。それから、世界の歴史の流れが駆け巡る。この時、意識と言う物が持つ理解力は、常人の何万倍にもなっているような錯覚を受けて、宇宙の歴史を垣間見て、学んだような気がした。一番最初に南アタリア島に初代マクロスが落ちた瞬間から、鳥の人、リン・ミンメイの奇跡、シャロン・アップル、ランカ・リー、シェリル・ノーム、数々のアイドル達、そして
「Fire Bomber……!」
そして、これからの物なのか、かつて出会った
「美雲……」
が複数人のアイドルを率いて唄っている。
そして、再び時は進み、自分によく似た青い髪の女性が唄っている。
手に取るように、この世界の歴史が解ってきた。アイドル達の苦悩も命の中に沁み込んでくる。人智を超えた力が歴史を見せる中で、様々な物を垣間見ていることに気づく。銀河の中でバサラ、シビルの二人と一緒に歴史を垣間見ながら歌いまくった。
喉は枯れると言うことを知らずに、どんどん、歌いたくなってくる。
そうだ。
また、大事なことを忘れていたのだ。
忘れていたのだ。
唄う時、自分が楽しむと言う感情を根本的なことを忘れていた。まず自分が唄うことを楽しまなければ自分の歌は誰かに届かない。そして、それから己の恋心から来る歌を伝える。
歌を楽しむことも忘れていたし、誰かに伝えたいという思いだけ持っていたとしても、それは空回りして義務感を抱いて不安定なだけ。
だからこそ、あの頃から感じていた本来の世界で何の為に唄いたかったのか。自分の心の弱さが生んでしまった封じた自分の大切な歌を楽しむという心。
忘れていた物が、こうして解った気がする。
熱気バサラとシビルの二人の出会いの様なものまで。
さらに、自分の歴史をも垣間見た。
自分の世界の歴史をだ。
そこにあるのは、自分が知らなかった真実もあるし、遥かに違う思想もある。
まだ、14の子供には想像もつかない世界の出来事と言うのは、この身に染み込んでくる。
シビルは、この出来事が不思議であるかのように、あちこちを見まわしていた。プロトデビルンとしての力とキララの力が共鳴して生まれた銀河の歴史を見せる力と言うのは果てしなく凄まじい物がある。
同じ時を生きている実感と言う物を感じているほどに、いや、下手に言葉に出してしまえば、この時の感動は……命の中で蹲るように思考が生みだされ、そして、探究心となった思いは子供のころに戻ったような、童心に戻った気分だ。
「バサラが、ママ達と唄ってる……」
非公式に残されている記録を見たことがあった。
凪沙達は覚えていたが、時空の振動によって集まった0048のメンバーには唄った記憶はあるものの、そこに誰がいたのかは全く解らなかった、覚えていなかったという証言まであるほどだ。そして、暫くして歴史を見せて、自分の目の前に1人の女性が現れた。あぁ、自分の中にいる疎ましいと思っていた女だったと知った時は不思議と今まで抱いていた不信感の様な物は消えていた。
この世界の中で入り込んでくる者と言うのは、どうやら、引き延ばされた理解力でも解らない物以上に不可思議なもので出来ている。そして、キララがオリジナルの魂と共に輝いた時、言葉通り、すべての記憶が刻み込まれた。
白石麻衣の魂は自分を拘束させようとしていた物では無かった。
何故、彼女の魂は、此方の世界に導いたのか。
熱気バサラのいる場所に自分を導いたのか。
あの世界では得られることの出来ない物を与えるために自分に力を貸していてくれたのだ。
周りが、そう思っているだけで、命の中に入ってきた白石麻衣の魂は、命を器では無く次世代の乃木坂46を自分たちの魂では無く個々の力を使い引き延ばし、最終的には自分たちの魂やなを必要としなくなるほどに、さらなるステージに導くためにサポートをしていたのだ。
だからこそ、その向上心が強い魂の持ち主である園命を選び力を貸した。
そして、それは自分の意図と違って自分の魂が命にとって重荷のような存在になっていたこと唄う楽しみを忘れさせてしまったという事を、自分は心に閉じこもっていた状態までに苦しめたことに対して謝罪した。
彼女の真意が解らない間、意固地になって使命感に囚われて自分が、まずどういう人に歌を聞かせたいのか、そして、自分が楽しんで歌うと言う最も大切なことを忘れていた。
そして、この世界に来たきっかけが知った。
だからこそ、だからこそ、自分の歌を戦場に響かせても戦闘は止まることは無かったのだ。
バサラは、それに気付き、ヒントを出してくれていた。
だが簡単に言葉で答えを教えられても、乗り越えることは出来なかっただろう。こうして自分が、今、心の底から楽しんで歌いながら歴史を垣間見ることによって全てを見ることが出来た。
徐々に心から殻が取れて行くのが自分で解る。抱いていた強い野心という闇や抱いていた負の感情が浄化されていくのを感じた。
「もう、大丈夫?」
「貴女は……私。」
「私は貴女。」
そして、目の前に現れたのが静かなバケモノだった。
いや、静かなバケモノなんて最初からいなかったのだ。
「大丈夫……かもしれない。でも、また、こうなったら……」
「大丈夫だよ。」
自分の手が触れる。目の前にいる、彼女、いや、もう一人の自分は化け物ではなかった。
それは自分がただバケモノと称していただけで、歌うことを楽しむという感情を忘れてしまっていた自分が、その感情を取り戻すまで、自分の姿形をコピーして、自分があくまでもアイドルとしていられるために、もう一人の自分と白石麻衣の魂が作り上げた自分の精神の複製品。
普段の生活は自分が行っているが、アイドルと言うことになると、歌やダンスを楽しめない自分がいるとなると、何も出来なくなるだろう。
未熟な精神が、そういう願望を抱き、そして作り上げた存在が野心を糧に生きる醜い仮面を付けた静かなバケモノと呼んだ存在だった。
静かなのは当然だ。
自分に対して従順であるから。
常に周りの求めるアイドルという、自分が象徴化した他者の求めるアイドルという名の醜い仮面を付けてパフォーマンスしていたのが、彼女だったのだ。
命の負の思念をすべて受け入れて、表に出さないように、ずっと従順になって頑張っていた。
元より静かなバケモノなどいなかったのだ。
仮面を外して本来の顔、いわば、自分の顔が現れる。もう一人の自分は優しく微笑み、真相が解って泣きそうになる命の頬を優しく撫でた。
「一度、思い出した日常の当たり前は忘れないから。大丈夫。歌は楽しいこと。って、思い出したんだから。」
白石麻衣の魂は何故、歌うのか、それを導くためにキララを通してバサラに巡り会わせた。静かな獣と呼んでいたもう一人の自分は、あの世界で汚れた己の心が唄う楽しさを忘れさせたからこそ、かつての自分を見せて唄う楽しさ、ゆっくり思い出させるために。
柔和な笑顔を浮かべて、あ、これが自分の笑顔だったと、そういうことも、忘れかけていたことがパズルのように完成していく実感に、今、体は震えている。
高揚感というものが解る。今まで、こういうことすら唄っていた時は忘れていたのだ。
頬に触れて、もう一度、優しく強く抱きしめた。
そして、もう一人の自分が光の粒子になっていく。
それが、徐々に自分の肉となり血となり、そして精神に入り込んで一つになる。
もとより、一つだった存在が、自分の精神の未熟から、新たに己を作り上げ、パフォーマンスに対して楽しく何もできない自分の代わりにアイドルとして活動していた、静かなバケモノと呼んでいた歪な仮面を付けていた存在。
そのまま光になって一つになる瞬間、一瞬、繭のようなもの包まれたような、そういう柔らかさが身を包み、命を一瞬だけの目覚めに置いた。あの彼女も、今の自分も、全ては大切な園命を形成する大切なファクターである。
それが光の繭の中で一つになる。
そして、一瞬だけ自分はこれほどまでにない開放感が全身を駆け巡った。
体が軽い。
背中に翼が映えたかのようにも思える。
このまま、羽ばたけば、銀河も簡単に旅行が出来る存在になることにできるだろう。
それほどまでに、今、自分は何でもできるような高揚感が身を包んでいた。
輝ける。
もっと輝ける。
歌える。
そう、もっと、歌えるのだ。
手を伸ばしてしまえば、なんでもつかめてしまいそうなほどの確かな何かがある。
少し歌を唄えば、凄く心地いい。
自分の作った歌を、改めて口にして改めて、命は唄うことの楽しさを大切に抱くように改めて感じ取っていた。
全身が沸騰しそうなほどに厚く、そして細胞全てが狂喜しているのを、五感で理解する。
今なら……
「いける。」
少女が歌を口にしたとき、久しぶりに生気が戻った。
傍らで見ていた陽美と美月は蛹から蝶が飛び出る瞬間を、今、目の当たりにしているのだと言う興奮が生まれていた。
やはり、自分の好きになった女は違う。そう互いに思いながら、同じ考えに至った互いのライバルを見つめあっていた。
「陽美さん、美月さん……」
二人の言葉がきっかけになって、今の自分がいる。恐らく、これを見ただけでは、自分は答えに辿り着くことは出来なかったし、いあのようなことになることもなかった。二人から自分に対する真心と自分に抱く下心までも含めた好意を受け取り、自分の身体の中に取り込んだ。
そして、落ち着いてから、改めて自分の中にある好意を再確認し、その答えをまだ出すことなく命は恋の歌を口ずさむ。
「聞いてね。」
バサラとシビル、そして命を交えたセッションが宇宙を銀河を震わせる。
完全に生まれ変わった姿を見せられていた。そこにいたのは、かつての少女の姿ではない。
向上心は大切だが、それだけではどうにでもなるわけがない。
ただ、失くしていた物を思い出して、それを取り戻して歌う姿は命を選んだ二人の女にとっては予想以上に虜になってしまうほどの可憐さを持った少女だった。唄うたびに、何かが弾けて輝く。銀河が一緒に唄っているようだった。そして、はじけて行くたびに忘れていたことを思い出し、自分が、どうしてアイドルになったのか。
それは単純に一人の少女にとっては嬉しいことだった。そして、陽美と美月の命に対する本心が伝わってくる。それは、それは……思わず赤面してしまいそうなほどの。
あえて言葉に出さずに命は心の中に仕舞いこむようにしつつも、そっと頬を紅く染めながら陽美と美月を見つめた。そうすると、自然と胸が熱くなってくる。それが、どういう物なのか、知ってしまった時、それは、バサラとの旅の終わりを告げるのではないのか。だからこそ、敢えて、命は語らなかった。
「シビルさん!凄い!!また銀河が見たいよ!!」
地上に舞い降りて、命の瞳に輝きが戻り、銀河のすべてを見た感動に対して子供のような表情を浮かべて駆け寄った。シビルは何も言わずに命の頭を母親のように撫でた。ただ、表情は母親のように「あ……」ふと、自分の中で、既に、あの人の魂が中にいないことを知る。
感じようと思った時には、既にいなかった。
今までは、重荷にしか思っていなかったが、真相を知ったとたん、ちょっとだけ罪悪感を持ってしまった。ただ、この世界に連れて来てくれたことには感謝をしている。
超常的であろうとも、元は同じ人間だったのだと言うことを感じ取りつつ内心、次の子は上手くいくように祈り未練も無く送りだした。もう少し、そういう存在と話しあえるように出来ていれば、もっと変わっていたのだろうが、世の中、上手くいかない。自分の心に鍵をかけていたのだ。
彼女の意見に耳を澄まして聴こうともせずに。
詫びを入れながら、軽くなった身体を改めて実感していた。
心の枷と言うのは自分の中でも、相当、重いものだったのだと、今、実感している。
そして、枷が取れて改めて理解する。
あぁ、どうすればいいのか解っていたのだ。
難しく考えすぎて忘れていた。
使命感だなんだと囚われず、まずは自分が歌を楽しむことを根本的に忘れていたのだ。
「これが、貴女の本当の笑顔か。」
「とっても、可愛い……」
自分の求めていた存在が、確かに、あの世界で外れた枷は外れて、今、こうした笑顔を浮かべている。そう簡単に陳腐な言葉で、彼女の中にある枷を取れるとは思ってはいなかった。
「今の自分ならどうにでもできる。」
なんて、自惚れはしないが、ただ、隣にいることで忘れてくれればと言う淡い願望はあった。
そういう表情を見とったのか、命は二人に向けて言う。
「でも、こうなったれたのは二人が考えさせてくれたおかげ。感謝してるし。」
偽りの無い本心を述べたつもりだ。多少、緊張と言う物があったのか、頬が赤く染まっていて二人の女野中に強い思いが芽生え始める。
「でも、貴女を巡る戦いはする。」
「どうして!?」
独占欲は、それから強くなる。
命の声が張り裂けそうなほどに叫んだ。顔には悲痛さを浮かべて、それが、命にとって望まぬ道であることは二人には良く解っている。それでも
「どっちが強いか。」
「まだ、貴女には解らない牝と兵士のプライドって奴よ。」
「こいつがいれば、貴女を手にしてもいずれは奪いに来る。」
「それだと、こっちはあまり楽しくないの。安心して貴女が欲しいから。」
自分を心配した二人は、一緒に命を心配していた女の表情ではなかった。
虜になったからこそ芽生える独占欲と言うのは何よりも強い。それだけを告げて二人は互いの乗ってきたバルキリーとガーランドに乗って本来の場所へと戻っていく。
好きな女が欲しいという欲望と兵士としての安心できない危機感が混ざり合い、厄介な存在が生まれる。
「私が、なんとかしなくちゃ。」
命の中には、それでも、大事な二人だからこそ。
あの輝きは二人が考えさせてくれからこそ、今日と言う今がある。二人の自分に対する真剣な思いが、今の自分の形に戻してくれたということもあるのだから。
だからこそ、二人とも自分の必要な物に気づかせてくれた大切な人だからこそ。自分の様な女でも真剣に好きになってくれたからこそだ。
「バサラ、私の歌を二人に聞かせたいの。」
バサラは無言で微笑み、そこには心配している様子など微塵もない。
命は悲痛な顔を浮かべる前に、両頬を自分の手でたたき、己を立ち直らせた。
「うん。大丈夫だよ。今度こそ、絶対に。」
聞かせたい相手がちゃんといる。
だから
「なら、私は2人に自分の歌で挑戦する!だから、手伝って!バサラも、Fire Bomberも皆も!」
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| マクロスLily
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2016.09.12 Mon

第4話
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負けたというか、どうというか。ほぼ、相討ちに近い状態だったと、試合には勝ったが勝負には負けたとでも言うべきか。無事、敵戦艦に入り込んだ時に安心した。しかし、マクロス5を復活させたり、様々な兵器が、ここにはある。まるで、存在が出鱈目そのものと言うのが良く解るだろう。
厄介な破壊兵器がうじゃうじゃと、未だに、こんな兵器の塊が、そこらにあるというのはメカニックの樹里が見たら喜びそうだ。VF-0から、流石に最新鋭のYF-EXは無いものの、殆どのバルキリーが揃っているし、かつて資料で見た試作段階のYF-XXまでもが、そこにはあった。他にも試作段階、設計段階であるはずのものが、いや、まさか、もう作れる段階のプラントが、此処にはあるのだから、それは可能なのかもしれない。
VFシリーズの技術が反体制ゼントラーディの手に渡り、それを応用して作られた兵器、フェイオス・バルキリーなるものと戦ったこともあるが、それとは違うようだ。無論、フェイオス・バルキリーもある。
此処での生産能力などに驚きを抱く。ここでの戦力は既に海賊と言う言葉の範疇を越えていた。よく、統合軍は、こんな組織を放っておいたものだと。下手に手を出せば、他のマクロス艦隊でさえも破壊してしまいそうな、打撃を受けるだろう。噂に聞けば略奪だのなんだのとするらしいが、それとも、ボドルザー艦隊に良く似たそれなのか。
かつてのマクロス7が遭遇したというクロエ艦隊か、それ以上の規模のような気もする。一種のハグレゼントラン艦隊が、さらに力を増した存在とも言えると陽美は踏んだ。確かに下手に手を出せば返り討ちだ。リリィ艦隊が手を出せば、まともではないだろう。
「一国家レベルじゃない。これ。まさか、稼働段階にあったものを盗んだ?ってか、こんだけ揃えて海賊は何をするつもり?宇宙海賊バンカーじゃあるまいし。」
かつて見た巨大ロボットアニメの敵組織の名前を口にしたくなるほど、強大だった。まさか、少女一人のために、無茶をしたくなるとは。自分の中で、やはり意外なものがある。言葉が力を与えるように、あの歌には、確かに力があるというのを感じ取ることができた。一瞬、掻き立てられた闘争本能が浄化されていくような、あの感覚は忘れられるものではない。二人を思う感情が胸の中に染み渡る、あの感覚。
そこから感じ取る、あの確かな部分で自分を刺激してくれる人間に素気ないのは、恐れがあるからなのだろうが、その時に浮かべる表情の可愛さが、心の可愛さが、その奥にある確かな純真さが言葉から感じられた。どうも庇護欲に駆られる少女だし、そういう部分を自分からアピールしない、頼ろうとしないで一人で行こうとする危うさが、常に助けを求めたくなる。そして、今が、その状況だ。
「奪った力で、此処でやるかぁ?」
当然の反応であると言えよう。気づけば策略にはまって乗機が破壊された隙に、こうして入り込んだ。思い返してみれば、アスモデウスを失ってでも、此処に入り込んだ甲斐と言うのはあったものかもしれない。
そして、なんかの儀式なのか、独自に成長した文化なのか、衛兵たちを残して殆どのメルトランや地球の女性たちは美月達の部屋にいる。命は、そのままウェディングドレスのまま美月の太ももの上で頬を赤くさせながらぐったりとしていた。
そして、それを知らないからこそ、惑星ARIAで、その住民たちは恐怖で奮えあがっている。あの惑星の破壊映像だけで震え上がらせる敵の心理と言うものには効果的だと思わずにはいられなかった。こうして、この戦艦の中に潜入しながら、その前のことを陽美は思い出していた。そして、それを美月の艦隊を、文化を覚えた悪魔の名を冠した存在が、ゆっくりと青い髪の少女を見降ろしていた。
「良い……」
挫折を味わったような、そういう経験をした特有の女の顔を浮かべつつも、それでも、なお努力する姿。打算も無く努力する命の姿は、破滅的に見えて、それが愛しい。無論、それが開花すれば良いが、だが、そのまま努力が徒労に終わり自分の胸に甘えてくる姿も悪くはない。
本来なら、マクロスリリィの存在などスルーするつもりだった。今回、惑星ARIAに降り立ったのも観光だ。侵略、破壊の意図は無い。しかし、そこで、欲しいものが出てきてしまった。それが、園命の存在だ。
以前、一度だけ美月は偶然だが、目の前で唄う命を見たことがある。その歌声と容姿は美月にとっては欲しくなってしまう毒を持っていた。歌を聞き入れて、徐々に内面から侵略されてくるような「ゾクゾク美……って奴。」呟いてから一人、このまま、口ずさむ。
この海賊の頭領は目を瞑り、園命の思いが充満する。
そして、この惑星ARIAに来ていると知った時、強行偵察と同時に強襲することによって狙われていることをアピールする。自分の脚で、まずは赴き、そこに園命がいることを知った。発見したと同時に強行偵察部隊が舞い降り、あのまま戦闘になったことはタイミングの悪さだが、一つは、マクロスリリィ自体の戦力の分析もあった。あの戦闘で敗北した部下たちは帰ってきたが、白いバルキリーにはトラウマさえ覚えるような戦闘力だったと口をそろえて言う。マクロス・リリィと言う戦艦自体は脅威ではなくなっていた。
それ以上に厄介だったのは、自分の持てるパイロットたちを一人で蹂躙した白いバルキリーのパイロットだ。それが、あの命に手を出していた時は本気で殺意を抱いた。
「さぁ、参りましょうか。」
自分専用のカスタムされたクァドラン・ジーリョに乗り込み、さらに、ジーリョの中に搭載されているマイクローン装置でゼントランに戻り、クァドランを送りつけたメンバーを焚きつける。
全ては美音の華嫁のために。その彼女が選んだ女を得るための戦い、全て、彼女に心髄しているがゆえに。魅了されたがゆえに、彼女のために働く。男から逃げて美月の艦隊に加わった女もいれば、彼女の寵愛は無限に等しい。その寵愛を一心にすべて受ける者がいたとしても、自分に寵愛が向けられないというわけではない。それを理解しているからこそ美月が喜ぶことをしたい。全てが美月の美貌に魅入られているからこそ、美月の欲しい物を得るために全力で行動を起こす。此処までくるとカルト宗教のような物に近いが、メルトランの血と言う物を考えれば、そうなるのも無理は無いのかもしれない。一種のユートピアなのだ。若いまま美貌を、そのまま手に入れることを許された種族とも言えるメルトランは。
「ありがとう。此処までしてくれたのだから、私は絶対に得なければならないわね。」
そう胸に誓いながらクァドラン・ジーリョは飛び出した。
欲望に満ちた、その顔で。
それに続いて、美月・イルマの艦隊から飛び出るバルキリー、ゼントラン系の兵器。
しかし、そこにパイロットはいない。
バサラの歌で戦意を喪失した者たちが、あの戦場にはいた。故に、ここにあるのは全て無人機である。ジーリョにも、彼女専用のバルキリーにも、管制誘導プログラムが改編されており、ジーリョのブースター先端に設置されたフォールド通信誘導システムとDIシステムの改良型を採用。さらにパイロットの脳と機体側のセントラルコンピュータを光学回路で直結することで、さらに無人機を12機コントロールすることができる。
むろん、その中にはゴーストも存在している。
そこまで出来るのは、美月が戦闘・戦術に特化したゼントランだから、とでも言うべきか。メルトランとしての強さ、パイロットの技量としてはそういう部分においては一騎当千が出来るように設定されている。二人の両親の遺伝子を混ぜ合わせたゼントランの技術で生まれ、そして、遺伝子を戦闘特化型に改造された、彼女は、その与えられた力を発揮して人一倍目立つ、その紅い百合の華を駆る。多量の無人機を連れて。
惑星アリアの上空に配置されている、その巨大戦艦の群れ。マクロス・リリィ政府が、それを確認したときはすでに星を食らう口が狙っている。
フォールドをして、マクロス・リリィの眼の前に立ち、他の無人機達は辺りに銃口を突き付けて、下手な動きが出せないようにしている。所謂、ホールドアップと言う状況にまで、手際よく追い込まれた。それだけ、マクロス・リリィの中枢は混乱していると言うことだろう。
最初の襲撃と同時に、さらに、近くにあった大型惑星の消失、これはインパクトとして大きいものがあった。当然のごとく、マクロス・リリィのブリッジは大混乱である。
「ったく!!悪徳艦隊ばっか、叩くんじゃないのかよ!?」
「まさか、うちの艦長の不倫疑惑とか、そういうの?」
「それだけで、大型無人惑星を消失だとか……なんか、えらい物でも隠してるんじゃないの?」
オペレーター達は最悪の状況と、スキャンダラスなことを妄想する。
「わ、私は知らないわよ!!うちの幕僚たちが、何かしてるんじゃないの?!」
出来れば航海と言うものはトラブルや、そういうものなど無しで望みたいものである。思えば、この惑星ARIAに辿り着くまでバジュラや、プロトデビルン、ハグレゼントラン、ゼ・バルマリィ帝国、帝国観察軍なんてものにまで遭遇しなかった何もなかったと、言うのは奇跡そのものとでも言うべきだろう。
それは、それで小さい海賊との小競り合いのようなものはあったが、SMSの活躍によって、それは回避されたし、最低限のもので終わった。それで、安住を感じていたら、こうなるなど。マクロス・リリィの艦長レイカ・ワカツキは頭痛が痛いという言葉が似合うほどには現状に対して異様なまでの憤りを感じずにはいられなかった。終われば査問委員会を開かなければなるまい。
「あ、マクロス・リリィのコントロール停止。ジャックされました。」
「そんな軽々と言わないで!」
『スタート。』
美月の声がブリッジに響き渡る。電子戦によるマクロス・リリィのジャック、現場は混乱しているが故に、これほど楽な侵入もない。と思いつつ、簡単な宣言をする。既に、この星全体がホールドアップ状態である。と言うことを。
「我々とて、無暗に争いをするつもりはありません。」
全ては自分が思った可愛い女のために。無性に手にしたくなる、あの少女の念。惚れさせたつもりが、忘れることの出来ない、あの歌声に魅了されていた。そうして彼女こそが自分の華嫁になるべきだと心髄しているかのように口にする。
「何を言ってやがる……あんなに口を開いておいて、無暗に争うつもりも糞もないって……」
マクロス・リリィに所属する正規の軍人が誰もが同じことを思う。宣言が続く中で、ふざけたことに対する、いや、これでもかつては戦争を終わらせたマクロスの名を冠する戦艦のエリートスタッフたちだ。舐められたと思って殺気立っている。
『今回の要求は楽なものです。園命を此方に引き渡すこと。』
「園命って……」
「バサラと一緒にいる女の子の名前だろ?ってか、そんなことのために、こんなバカげたテロをすんの……?」
しかし、誰もが、それだけのことで。誰もが、そんなことで。まさか……バカげている。と、脳裏に言葉が走る。しかし、十分な戦力を持っているとはいえ、そこは海賊。彼らも大切な獲物を得るためには、それなりに慎重にということなのだろうか。絶対的な状況を作り出し、確実に欲しいものを得る。
そういうことなのだろう。
それが、たかが一人の女の子であろうとも。
とはいえ、もしものことがあれば、この組織は非合法の犯罪組織。手痛い目にあうのは、彼女たちも簡便と言うことだ。危険を冒しても欲しいと思える、一人の女の子。
人が見れば愚かだと思えてしまうほどに、余りにも常識外れにもほどがある話……
だからこそ、こういう連中を怒らせるのが一番怖いということも。
『この要求に従えない場合は……』
考える前にピッと美月が指を鳴らした瞬間、再び、あの映像が今度は完全に美月の艦隊が大型無人惑星を破壊し、そして、その大きな口が惑星ARIAをホールドしている状態の立体映像が町の上空に現れ、全ての町民に見えるように脅迫した。
”彼女たちの母艦が惑星を破壊した映像を見せられた。”
市民はもちろん、全ての軍人に恐怖感を与えるには、調度良い素材であると言えよう。さらに、その母艦がエネルギーをチャージし終えて、此方に向けて大きな口を開き、いつでも殺せますよ……と言っている。
「さぁ、惑星ARIAも、こうなってほしくなければ此方の条件を飲みなさい。要件は簡単。園命さんを私の元に。」
(ホント、あの娘は毒ね。)
あの場で攫えば良かったものの、近くには、常にあの金髪の女がそこにいた。それに、海賊であれば、海賊らしく奪いたいと言う、そういう無意味な拘りのようなものもある。それが、過去にもたらした結果は思えば、何故、統合本部に目を付けられなかったのかと知らぬ美月は、クァドランの中で考えていた。
些細な言葉が人を殺し、言葉が人に力を与え、そして、言葉が浄化する。命は言葉の力強さを信じて歌に変えるのがアイドルと言うのなら、そういうものなのだろう。挫折を通して、がむしゃらに努力し、目隠しされた状態でひたすら己の道を探している。
この世界は14歳になると、一定の子に何かチャンスを与えたくもなるのだろうか。ミレーヌ・ジーナスがFire Bomberで頭角を現したのも、この時期だ。そして、命は、その年齢の時に、この世界に来訪した。
状況、敵機が数多く存在しているというのに、それに対して恐怖以上に勇気と言うものが満ちているのは、この状況に、余りにも慣れてしまっているからかもしれない。昔の世界から、そして、この世界において、無力でありつつも、なぜか、こういう状況に恐れを抱かないのは慣れてしまっているのと、今の命自身における確かな力、そのものだろう。最初の、本来の世界における頃は、その状況に普通に離れせずに泣いて、顔を乱して、さらには苦しいほどに声すら出なかったことを思い出すが、あのころに比べて随分と自分も変わったものだと、リラックスして静かに微笑んだ。
近くにいるクァドランが銃口を向けている時点で、此方は何も出来ないような物。バサラは敢えて唄う。そのようなことをしても無駄だと陽美の常識的な思考が駆け巡る。そして、目の前の歌を司るアイドルは先の行為で自信を付けたのか。
「私、行く。」
「ちょっと、何を言ってるの?」
さっきの表情とは打って変わって自信に満ちた顔だ。止められるという、いや、先ほど止めたという自信にも近い傲慢さが、そうさせているのだろうか。
流石に、現実を知らなさすぎる。陽美の舌打ちだけで、どこか苦しさと苛立ちから生まれる何も出来ない悔しさと言うのは、これほど悔しさと殺意を感じたことは無い。何故、どうして。この少女は無知でいられるのか。いや、自分も、この年代は無知だった。そういうことに対する己の無力感と言うのはどうにも出来ない。
自分が無知であったからこそ、その危険性を理解している。この年代は何でもできると思い込んで、バカなことをやらかすことが多い。そんな過去のつまらなくもどうでも良い思い出を過ぎらせながら目の前の唄うことすら、しかも不完全な少女に対して確かな苛立ちを覚えていた。兵士として、この状況、今、無力な自分が何をすればいいのか。無力だからこそ、何も出来ないからこそ、今、ここでジッとしているしかない。
少なくとも、バカなことをしない限りは殺すことはしないだろう。既に、そうするのであれば、このようにホールドアップをするつもりもないのだ。
殺すつもりなら、当に殺している。
そして、目の前のくぁどらんのパイロットの目当ては。
「それに、今の私、なんかできそうな気がするから。」
園命。あぁ、やっぱり、そういう感情がある。
「それで、どうにもなれるわけないでしょ。」
しかし、その目は止めることはできない。ただ、あの声からして、さっき一緒にいた女の声だろう。妙にシンパシーを感じた、あの性格は同族嫌悪の様なものと同時に波長が合ってしまうが故の物。今、もし、命が、あの場に行けば確実に自分の物にされてしまうだろうが、陽美は命の思考が手に取るように解るが故に助け出すことが出来ると、そういうのもある。何かが切っ掛けで、そうさせたのだろうが、命の何処か輝かしい目は止めることは出来ない。ただ、周りに飛んでいる、それが輝くことは無い。
「巨人がいるなら、普通に光の巨人とかいないんですかね。」
「残念だけど、それは、この世界にいないよ。」
「海賊って、どういう人達なんです?」
話題に興味が無いのか、それとも恐怖を感じてしまっているのか、すぐに上空にいる存在の方がやはり気になるのか、そっちに話題を映してしまう。
「無類の女好きだって。」
「陽美さんみたい……」
「……だろうね。私も同族嫌悪してるわ。」
何かしら、別の話題で引きのばそうとしても、その目を持つ人間は無理だろうと、かつての、ミレーヌ・ジーナスと同じ瞳をしている命を止める自信は無い。あの、何処か向こう見ずな部分は言葉で制しても意味は無い。
「行くのか?」
「バサラ……」
歌を止めて近くにいたバサラは、止めること無く、ただ、その信念を見据える瞳で尋ねる。今のところ、逃げても無駄だと解っているのだろう。だからと言って、何かをしない訳ではない。自由を得ることが出来ればYF-29を乗って助けると言う信念を感じることは出来た。
「まぁ、お呼ばれしたし。もしかしたら、やめてくれるかもしれないじゃん?私の歌で。」
「……そうか。」
そこには不安の顔もある。
バサラとて、本来は格納庫に戻ってバルキリーを借り、歌いたいだろうが、物理的な距離をそれを不可能にしている。歯がゆさが、この場にいる3人に負の感情を抱かせる。それでも、命を不安にさせないように父親のような笑顔を浮かべながら、くしゃくしゃと特徴的な青い髪の頭をバサラは撫でた。
「あんまりムチャすんなよ。」
「うん。ってか、行くな。って言ってくれないんだ。」
「そうしたくても、そうさせてくれなさそうだからな。」
近くに降りたクァドランは、此方を見透かしているような顔だ。いや、信じているからこそ、その見解が出来るのかもしれない。そうそう悪い連中では無いと言うのは、美月を見たからこそ解っていることなのかもしれない。いざとなれば、バサラ自身も乗り込むつもりではいるだろう。解っているかのような瞳、ある種、その父性的な瞳には、これから起こる試練に全力で挑み、そして、考えろと言う意味も潜んでいるように思えて仕方ない。ただ、何かあれば助け出すと言う信念を命は見て取れた。
「馬鹿げてる!そんなことして、上手く行くわけが……」
その無謀さを批難するように陽美は叫んだ。
「でも、そうは言ってくれなさそうだけどな。」
クァドラン・ジーリョは動きだし、先ほどの場所にいた命を発見し、その大地に降り立つ。無人機達は要所をホールドをさせながら、移動してクァドランと言う巨人用パワードスーツの向こうにいる己の巨大な体を見せつけるように介抱した。
「解っているだろう?これから、何をするかくらいは。要求に従わなければ何をするのかも。」
「本当に何もしないなら、私は行きます。」
「じゃぁ、契約は成立ってことかな。」
先ほど、一緒にいたと言うのに、どうやってここまで。あれから、まだ、少し経っていないことに対する疑問が陽美の中に過ぎる。フォールド機能を自在に使いこなせると言うのなら、それは脅威だ。厄介と言う言葉が、そのまま降臨したような技術だ。その胸中、戦う人間として面倒くさい存在になるかもしれないと言う嫌な感触が肌に触れたような気がした。
「巨人を見るのは初めて?」
「いえ……」
キララが周りに飛んでいる。助けてくれる人のことを考えながら、その口で危ないことをしている自覚はある。ただ、もしかすれば、今……
「いろんな人たちを、この宇宙で見てきましたから。」
「そっか。」
美月の誘導に従い、そのクァドランのコクピットの中に入り込んだ。
『命……』
命の脳裏に陽美の言葉を思い出す。こういう状況になって、なぜ、あの人なのか。行かせようとしない心は、本当に自分を心配してくれていたのだろう。ただ、もしかしたら、何とかできるかもしれない。あの時、二人の争いを止めたのだから、今、あの状態のままの自分なら。
「解った。じゃぁ、行きなよ。何かあれば、絶対に助け出すから。」
「うん……何かされそうになった時は来てくれる。って信じてる。」
信じている。そう言われれば信じないわけにはいかなくなる。信じてくれなければ行くことは出来なかっただろう。とはいえ、陽美の場合は仕方ないからこそ、信じた。ある種、命も信じていたが、それ以上に自分が、どうにかできるという、己を信じていた。既に陽美の瞳の中の命は歩きだしていた。
「ねぇ、バサラたちは連れて行かないの?」
「うちは男禁制なの。」
呆気なく言い放ち、クァドランのコクピットを閉じて完全に動き出す。まだ、その頭の上にキララが飛んでいるのが唯一のとでも言うべきか。
そうして、陽美は命を救いだすための算段を立てるために携帯電話を取り出して、SMS本部に繋いだ。今からでも、アスモデウスを、此方に持って来てもらうことだ。これでも、バンローズの娘であると言うことには誇りを抱いている。フロンティア船団のエース、オズマ・リーの師であると言っても良い金髪の鬼畜見境無し絶倫隊長を子供を産んだ身体であったとしても簡単に撃破までした女の娘である実力は確かに母から「若い頃の自分に近い」と、評されたほどだ。
あれくらいの連中を止める自信はある。だからこそ、VF-27+アスモデウスを送ってもらうために要請を出す。随分と、SMS本部も焦っていることが、この状況からは手に取るようにわかる。
「あたしのバルキリー、出せるでしょ?」
『そうなんだけど、YF-EXの調整で色々とさ。まだ、27+、使ってんのよ。』
「んなもん、後で、私が手とり足とり覚えさせるから、早く送れ。」
『いや、そろそろ、終わるし。今、焦っても仕方ないでしょ?それに、こっちには関係のない女の子一人の回収なんだし。』
良く、冷静でいられる。
こちとら、自分の女神が見知らぬ女に寝取られそうな雰囲気だと言うのに、こういう状況で焦っても仕方ないとは、随分な親友を持った物だと、蹴り殺してやろうかと殺意すら芽生えそうになる。確かに、今、この状況に向かって焦っても、何も無いが、それ以上に、黙って寝取られるくらいなら暴れたいと言う陽美の個人的な殺意衝動から来るものである。
信じている。
命から、そう告げられても、本心は信じてるなら行くんじゃないと言う傲慢な支配欲が、そこにはある。
「あぁ、もう、早く、こっちに私のバルキリーを寄越せ!って言ってんの!私がよこせって言ったんだから、よこせ!無人誘導でも、連中に持ってこさせるとか、色々とあるでしょ!?命は、もう投降したわよ!目の前に、あいつが出てきて」
『あぁ、もう解ったわよ。』
命が美月の嫁にでもなれば、これから、陽美にとって不快なことが続く。惑星の命運やら、そんなことよりも、こっちの方が大切だと軍人としての本文を捨てて、心は女を優先する。
しかし、この大胆なアクションの割には、そんなバカなことはしないだろうと言うのが樹理の考える美月と言う女の行為である。何を目的としているのか、あの集団は"毎日、楽しく過ごしたい"と、言う単純明快な理由である。そのために、欲しい物は力づくで得ようとする。そこ行くと、今まで破壊された艦隊と言うのは彼女の意見と言う物に反していた物なのかもしれない。とはいえ、統合軍から何も無いと言うのは、そこにやましい物があったのだろう。
樹理としては、あの声だけで理解はした。あくまでも推測ではあるが。
『大体、あれは単なるクソレズだろう?』
「そのクソレズに可愛い女神を寝取られそうだから、こうして動いてるんでしょうが。」
止められなかった己と、美月の元に向かおうとする命の、此方の意思を汲み取ってくれない傲慢無態度には、流石にあきれ果てた。
『あんたも十分なクソレズだよ。』
あの声明から樹理が感じたことはクソレズであること、同時に、一種の拘りがあること、一人の女を手に入れるために、随分と大げさなことうする大バカ者と、言うのが樹理の抱いた美月の感想だ。
それを推して、自分の女神を守る女騎士になりたくてバルキリーのパイロットになった。と、言う陽美も樹理からすれば夢見過ぎなアホと評したことを電話で伝えずに、無人設定、光学迷彩をONにして陽美の近くにいるエリアに送りだした。
目の前には、巨人になった命すらも一口で食べてしまいそうなほどの大きな口と豊満と呼ぶには異様すぎる巨人の胸がある。
「胸の谷間に入りなさい。クッションになるはずだから。」
「あ、ありがとうございます……」
言われたまま、胸の谷間に入るが、少し汗ばんでいる。クァドランの中には冷却装置があり、多少は涼しいとなっているものの、人の体が密着されることによって生まれるジメっとした暑さは、どうにもできる物ではない。ただ、それでも、言われたとおりにした方が良いだろうと踏んで命は、それでも柔らかい感触に包まれて我慢することにした。人の持つ胸の暖かさと言うのは、そうそう変わるものでは無く、内部の湿り気よりも心地いい。
「フォールドは、ちょっと気持ちが悪くなる。」
「知って、ますから……」
随分と優しくしてくれる人だと感じた。先ほど脅迫してきた人と、本当に同一人物なのだろうか。自分のためだけに、これだけ大掛かりなことをしたくなるのだろうか。それと、これだけ人に気を使いながら、何故、あの時、戦闘などを起こしたのか。優しさは偽りなのかもしれない。複雑な何かが命の中に入り込む。
「どうして、惑星ARIAの上空で、私と初めて会った時に戦闘なんてしたんです……?」
「あれは、ここの戦力を知るための強行偵察。」
「何で、そこまで……」
「貴女が欲しいから。それだけのためよ。」
ドラマや少女漫画では喜ばれるシーンにもなるのだろうが、度が過ぎると流石に血の気が引いてくるほどには意識が奪われそうな発言だった。何を考えているのだろう。この人は。本当に自分を手に入れるために、そんな無茶を強行することに対して好意的に捉える人など少ないだろう。それを平然とやる。元より、ただの愚か者なのか、それともとても臆病者だからなのだろうか。
「地球に、こんなことわざがあるでしょ?獅子は兎を狩るにも全力を尽くすって。」
「ことわざ……でしたっけ?それ……」
「まぁ、そこは気にしない。私は今、気分が良いから。」
そう思っていた時に、すぐに気分を地獄に突き落とされるような奴が現れた。白いバルキリーが見えたのだ。どうやって、ここに来たのか。いや、命を完全に手に入れたと思った物から来る傲慢さが、あの白いバルキリーの潜入を許してしまっていた。
「聞こえた。」
不快なクァドランの音が。陽美は視線に殺意を漲らせて既に狙撃の体制に入っている敵の無人ヌージャデル・ガーをロックしていた。いつの間にか、雲を突き抜けていた白いバルキリーが隼のように自分たちの頭の上に君臨している。頭の中でイメージを描き、自分の獲物を横取りする敵を潰す方法を狩人は知っている。
「返してもらう!」
「あの女かっ!」
命の意思としてより、女の勘として、美月の元に行けば命は帰ってこない気がした。身を呈して守るべきだったろうか。簡単に目の前に敵がいたとしても、行かせるべきでは無かったと自分を愚かしく思う。バサラが何もせずに送りだした理由、あそこまでしておいて、本当に何もしないと命に対して何もしないと思いこんでいたら、陽美はバサラに対して怒りを感情を覚える。上空から獲物を狙う隼は醜い形をした巨大な鉄の人を睨みつける。
二人には共通点があった。この女にだけは奪われたくない。それだけ、ある種の女としての意地があった。
「テロリストに譲歩する気は無い。ましてや、あたしの女神を狙う海賊にはね!折角のキスを邪魔して!」
出会い頭の挨拶として、いきなりマイクロミサイルポッドを敵の首領機を避けるように向かって射出した。高性能AIを使っているようだが、高度な命令は出来ない。それを見抜かれたのか!?と知った時には、既に無人機達はアスモデウスのはなったマイクロミサイルによって鉄屑になり果てている。
クァドランを狙わなかったのは、そこに命がいるため。
「無人機が、こうも一瞬でやられるか……命令を怠ったとはいえ、流石に……」
「命を抱いて安心してるから!!」
樹理から、その無人機のタイプを見抜かれて連絡が入ってきた。
脳波コントロールタイプ、さらに脳波を送るのに少しのラグがある。そこを強襲してしまえばと、言う楽な方法だった。先ほどの統率のある動きも、何もかも、別のことに気を紛らわしている美月の前となると、そこにいるのは鉄の形をした人形に過ぎない。
さらなる挨拶として、無謀にも戦闘機で突撃を噛まそうとしたが、そうとなる前にアスモデウスの機体全体に衝撃が走った。
「っ!?」
原因を知ったときは、それよりも早く高速で回避しつつ、さらに多い量のミサイルを放ち反撃した。
何発かは撃ち落とされた実感と言う物はある。爆発する度に機体に走る衝撃はゲロすら吐きそうになる。
「うちの連中は、なにして……っ!」
「自己顕示欲が強いことっ!!」
この状況で自らが、挨拶の返しとして、さらにクァドランからミサイルが放出された。既に、顔を見なくても、あの女であると言うのは解っている。律義なことだと毒づきながら、再び別角度から襲いかかる敵の集団の攻撃に身を翻すように避けながら、見つめたとき、そこには黒い塗装のされたバルキリーが君臨していた。
「美月様!!」
「相手のバルキリー……」
フェイオスに、VF-25……識別は真っ黒でパイレーツウーマンのエンブレムが特徴、しかし、VF-25はSMSにも多数所属している。同士討ちにならないかと心配になる。唇周りを舌で舐め回し1人で、何処まで相手にしようかと考えていたベストタイミングに同僚たちが戦闘に参加する。
「助かった……!」
すぐさま、惑星ARIAは戦場になる。青い空に似合わぬ殺意の色に空が染まることは、そう遅くは無いことだった。
「バカね!貴女が手を出さなければ、こんな無駄な戦いは起きなかったのに!」
「連れて帰ったら、ここからフォールドして離脱するつもりだろうがっ!」
そうなれば、SMSに所属している陽美は追えなくなる。そんなことを出来なくなるのが歯がゆい。ならば、やはり、ここで仕留めて捉えるのがベストだと陽美は判断した。急速回転で敵の攻撃を回避し、バトロイド形態に高速変形をして一気に後ろに振り向き、そのGに脳は頭の中でバウンドしまくっているかのような衝撃に肉体を耐えながら、思わずゲロを吐きながらも、すぐ様、コントロールを取り戻す。
圧倒的な加速や運動性能を持ってはいるが、それについていけるための身体はあるものの、やはり、きつい物はキツイ。トルネードパックを装備したアスモデウスは基部に姿勢制御用バーニア、翼端に前方に推力を向けての急減速も行える回転式の双発エンジンポッドを左右に1基ずつ装備しているが、その性能は凡人はもちろん、エースでもきつい部分がある。
その名の如く、相手の攻撃を避けながらも反撃をして数機を撃墜する。苛烈なGがかかっているものの、コクピット全体に注入されている惑星ARIAで発見した物質を用いた特殊な混合液を満たしており、この液体に電力を通して急激なGに対応できる。さらにBDIシステムを装備し、瞬時に変形し、臨機応変に対応でき、その際に生まれる衝撃も緩和されると言うことだ。それをSMSのエースパイロット専用マシンに使用しているのだ。
多少の人間離れした動き等、造作もないことではあるが、それ以上の過負荷には無意味な部分が多い。だが、無ければ無いで、その無茶な軌道は出来ないし、コクピットの中で死んでいただろう。陽美だからこそできることである。
機体の性能をフルに活かし、相手を食らい殺す。敵から見れば、アスモデウスの姿は、まるで1人のパイロットからは戦闘機が縦横無尽に変形機能を駆使してダンスを踊っているかのようにも見えた。また、別のパイロットからは空を自在に泳ぐマーメイドにも見える。
更に、今回は陽美にとって樹理に頼んでおいた命の歌をコクピットに響かせてあるシステムがある。それ以上に能力を発揮されていた。アスモデウスの、ほぼ、間近で全長約16mの長身型ビーム砲から多量の光の弾丸が放出されるが、その直前にバトロイドの拳で叩き上げて、上空に多量の弾丸を放出させている好きに精密機械のつまっている頭部を潰し、そのまま、叩き落とした。瞬間に前方からのミサイルに後方からは全長約16mの長身型ガトリング砲が火を吹いた。光の球のような弾丸がに飛び出て、全てを薙ぎ払うように周りのアスモデウスに照射したが、相手もバカではない。それを一斉に受けるほど、愚かでは無かったが、無事で済む機体は少なくは無い。
しかし、そこまでしても、SMSが参加してもクァドランには迫れない。逃げようとしているのか、そこに立ち止まっているようにも見える。
「流石は、統率がとれている……」
しかし、命を顧みずにファイター形態となってクァドランに突っ込んだ。
「バイラリーナ……!」
思わず美月は、アスモデウスを、そのように評した。流石に、そう自分が駆ってとはいえ無意識に口にした奴を、このまま放っておくことも出来まい。だが、命がいる以上高速戦闘など出来る筈もない。
「こいつ、人質がいるからって高速戦闘が出来ないと思って……!」
しかし、肉体を一瞬でも仮死状態にすれば。だが、そうはさせたくない。しかし、そうさせてくれない。状況を選んでいるような場合ではない。
「ごめん……!」
「え……」
一瞬だけ揺らして軽い脳震盪を起こさせ巨大な胸をクッションにさせてから、自分を確実に殺しに向か存在を相手にした。悪役の様な貪欲さに、軽く翻弄されそうになる。
白いバルキリー、アスモデウスは考えている刻一刻と近づいてくる。飛び上がり、奴と距離を取る前に、一度、拳を構えてすれ違う瞬間に、その身体に叩きこもうとした時、圧倒的な速さで、それを見きったかのようにガトリングポッドをアスモデウスは叩き込み、一度、ひるませたところで一斉発射を叩きこんでやろうと考えている。
自由自在に、空を創作物の円盤のように動きまわる白いバルキリー、アスモデウスは厄介だ。そこまでの軌道をして、何故、人体が普通でいられるのか。考えられる最新技術を想像しても勝てるわけではないが、そこに差があると、自分に持っていない物を感じて苛立ちが出てくる。何があるのか、気になっては来る物の、こちらとて最新のバルキリーの技術等を使ってカスタマイズされたクァドラン・ジーリョであるとはいえ、それでも基本は作られて当初の設計思想のまま。最近のバルキリーの進化には、既に遅れている部分とて技術では追い詰めることが出来ない部分まで来ている。
しかし、己のパイロット能力とて自身があるし、VF-25程度なら、このクァドランでも余裕ではあるが、あのVF-27と、そのパイロットの力量で、クァドランで当たるには、やはりキツイ恐ろしさと言う物がある。
これほど、3次元の戦闘と言うのを体で表現しているようなパイロットは、今までの相手には存在していなかった。容赦なく奪い取ると言うことのつもりではあるのだろう。しかし、それで、殺すつもりなのだろうか。こちらには人質がいる。相手にとっては女神と評しているほどの存在が。
そして、奴は恐らく
「人質は殺さない。でも、私に奪われるなら殺す……かぁ?!」
それを同じ女を好きになった人間だから知っている。それくらいのことはしそうだ。人質がいても、どういう動きをしていても、負けると言う言葉は自分の中には無い。だが、正直に言えば、今は、もう帰りたいと言う思いがある。厄介な奴からは、身を置きたいと言う心理のような物が出ていた。此処から、さらにフォールドするとなれば、まだ時間がかかるからこそ、このまま一気に上昇した方が楽にはなるが。
「ちぃ!!」
近接用超高機動ミサイルランチャーを一気に射出するも、その軌道を見きったかのようにアスモデウスは全てを撃ち落とす。
「所詮、過去の機体を強化しただけじゃ、こいつには追いつけないよ!!」
メルトランが扱う最強の機体と誉れの高いマシンであるとはいえ、確かに旧式であることは間違いない。YF-XXであれば、ある程度は、同等であるのだろうが流石にクァドランでは本当に相手にならないと言うのだろうか。そこに行くと、やはり、あの白いVF-27δ+の性能と、それを操る陽美の実力を認めざるをえない。
「厄介なマシンを……あいつで駆ってくればよかった……!」
回りつつインパクト・カノン、レーザーパルスガン、ミサイルランチャーを全弾一斉発射しつつ、そのまま上昇を図ったが爆発的なスピードはアスモデウスの方が早い。互いに多少のダメージを食らいながらも、どちらかが、ある程度、ダメージを与えれば。
「ちっ……流石に、白いマシンに乗ってる訳じゃないか……伊達にカスタム機に乗ってる。ってわけじゃないのね。」
多少のコーティングはされているとはいえ当たれば僅かな振動で気を許してしまうことになる。向こうの射撃の腕も確かなようだ。ある程度のタイミングを見計らって撃ちこんで当ててくる。人質と、確かな旧式のマイナーチェンジと言う部分は嫌でも差が出てくる。性能から来る差は確かなものを持っている。
「パイロットの技量は恐らく、互角……そして、激情に駆られながら、判断は物凄くクールだ……蛇のように……隼のように。」
「旧式のマイナーチェンジを持ち出すだけあって、やっぱ、強い……でも……」
徐々に、その性能の差と言う物に寄って出てくる弊害は徐々に時間が経つたびに出てきている。向こうは、まだ、限界と呼べるほどではないだろうが、此方はフルに性能を駆使してもチーターに追われるガゼルのように食い殺されそうな危機感を抱いていた。
「ちぃっ!?」
一瞬の被弾が命取りになった。だが、それでも此方を劇はするような行動は取らずに近寄ってくる。それに一瞬の不信感を覚えた美月は、その判断に同じ女を好きになった存在だから解る思考がよぎり、美月も冷静に判断を下しつつ、機体を上昇させる。相手は一気に詰め寄ってきた。
ガウォークになってハッチを引きはがし、取り戻すつもりだったのだろう。だが、それよりも早くバーニアをふかし母艦に戻る信号弾を出して、此方を援護するように味方に頼む。さらにミサイルを一気に放出して煙幕と弾幕を同時に作り上げた。向こうも向こうで取り戻す物がある分、それが甘い判断を下していた。
ある種、同じ条件であると言うことを忘れ、自分だけで盛り上がっていたことに気づく。
「宇宙を全部、捨てたって譲れない愛もあるって……ね。」
その恋人を取り戻すと言う行為だけが、唯一、ここから、逃げ出せると言うチャンスを与えてくれた。そして、さらに幸運は美月の元に割り込んで来るかのように脱出のチャンスを与える。
「HOLY LONELU LIGHT!」
心理的な揺さぶりは成功した。そして、それ以上にバサラの歌が戦場を止めた。全てを何も無かったかのようにリセットしたのだ。そこには、かつて争いが無かったかのように。誰もがその歌を聞いて、思わず攻撃する手を止めた。そして、隙が出来る。バサラの歌が響き渡る。その隙に再び、バーニアを吹かして上昇する。
「流石に特別なマシンに乗ってるだけはあるね……強いよ。」
脱出しつつ、戦略的には勝利したという幸運を呼び伝えた。
「でも、今の私の場所は、もう母艦に近い。この子は海賊らしく、頂いていくよ。離脱するよ……!」
一つの歌が、戦場が静かになった一瞬を利用し、クァドラン・ジーリョは離脱する。それを追うように何人かは、バサラの歌で投降したかのようだが、それでも、こちらは、それ以上に大きな収穫を得た。
「こっちも、自分の勝利の女神を奪われる訳には行かないのよね。だから、おわせてもらう。」
「貴女も惚れているわけね。この娘に。でも、ダメ。貴女にはあげない。この子は、私の華嫁になるのだから。」
既に隙を見て大気圏近くまで移動していたクァドランを見つめて、それでも、取り戻すという覚悟を持ってアスモデウスは独断で突っ込み始めた。
「おい!陽美!あんた、天才だからって、そこまで出来るわけが!!」
樹理のVF-25JSから連絡が入るも、それを無視して上昇を続ける。
「殺されるだろ!?何を考えて!!イサム・ダイソンとか、熱気バサラのつもりでいるの!?あんたのママだって、こんなバカなことはしない!!」
そう気取っているつもりはない。ただ、ただ……あの女に奪われるのは癪だと言う感情だけが陽美を支配していた。大気圏を突破し、目の前に現れた強大な艦隊に対して諸共せず、この場に反応弾でもあれば撃ちこんでやりたいと凶悪な顔を浮かべたが、そんな物は無いし、撃てば命も死ぬだろう。
「ステルス機能、最大限にして。」
そうしてVF-27δ+が敵の懐に入り込む。美月は命を求めるだけあって強い女だ。クァドランは多少のハンデを持ちながらも、それでも、VF-27δ+と互角の戦闘を繰り広げた。互いにクァドランの最新鋭とバルキリーの最新鋭に近い存在が戦いあっていたのだ。
「嫌な奴。」
だが、ぎりぎりで宇宙に上がることが出来た。そう、安心していたときだ。格納庫付近に入りこんだ瞬間には敵の兵器が此方をロックオンし、既にうちはなっていた。だが、爆発的な加速力は完全な崩壊を逃れながらも、アスモデウスは中破し、徐々に連鎖的な爆発が起こりそうになる。
そのまま、陽美は爆発しそうなアスモデウスと運命を共にする前にコクピットブロックだけを射出し、宇宙空間に放り出されようとしたが、巧みにコクピットブロックを吹かせて極自然にクァドラン・ジーリョがいる格納庫の中に入り込んだ。
「奪われてたまるか。ってのよ……」
まさに、維持と執念である。急ぎ、コクピットブロックから出て、連鎖爆発して、大破状態にまでなったアスモデウスに対して、今までの感謝をしつつ、何処かで響く、命の歌を聞きおきながら潜入を開始した。
大した敵だった。
帰還したと同時にクァドラン・ジーリョが黒煙をあげた瞬間、あのパイロットの恐ろしさのような物を肌身で感じ取った。マイクローンに戻り、命を横抱きしながら、全裸のままで己の部屋に赴きベッドの上で眠りにつかして、あのパイロットの絶対に己のものにしようとする態度を隠さなかったことに対しては、同じレズビアンとして尊敬に値する。
「クァドラン・ジーリョ、暫く実戦では使えないかと。YF-XX辺りを投入されるのが妥当かと。それに、こいつの力じゃ、27クラスのバルキリーには勝てないですって。」
「そう。残念ね。」
「まぁ、大破したとはいえ、色々とね。」
「あぁー、一応、クァドランは修理します?ばらしちゃいましょう。そろそろ、限界は感じてたし。」
「そうですね。」
「良いわ。そろそろ、本格的にYF-XXで、どうにかするわ。」
「後、敵の白いバルキリーのコクピット、面白い物があったので、それをYF-XXに流用してみますね。」
「えぇ。」
メカニックの女性の話を全て受け入れ、聞き流し、全てを委ねた。出て言った後にYF-XXのことを脳裏に描き飛行させる。クァドランよりも数値上では性能は遥かに上。バルキリーの操縦も気分で行ってきたし、慣れているつもりでもある。しかし、あのマシンの性能は巨人だった存在の物たちの要求を応えてくれる。既に、アスモデウスを失った陽美に勝ち目も無いだろうと踏んだ。
いや、それだけで、終わる人だとは思わないが。暫くしてから、命を己の太股の上に頭を乗せて起きるまで美月は待った。恐らく、潜入しているかもしれない。そういう野生的なことが出来る嫌な女。同族だから解る、そういうワイルドさは。このまますぐにフォールドと考えてはいたが、あの女がいれば、フォールドしても同じ。ただただ、気配のような物を、あのさっきか、そういう雰囲気を感じる。
「お姉さま、命ちゃんに似合うドレスを持ってきたんですが。」
「あぁ、じゃぁ、寝ている隙に着替えさせちゃいましょうか。」
あの女が来ても、来なくても。妨害をしないのであれば。
「ど、どうするつもりなんです……?」
此処に来て、目覚めてから、いきなり下着やら身に着けていた衣服を全てを脱がされた。そうして、純白のウェディングドレスを着せられた。流石に、心は焦る。
「美月さん……」
「あら、覚えていたの?私の名前。」
「それは、まぁ……印象深いですし。リゾート惑星で話しかけてくれましたよね?」
身も震える喜びとは、まさに、このことか。
今すぐ、彼女の歌を聞きながら、美酒を飲み抱きしめ愛でたいと思えるほどだ。あの時の会話を未だに覚えているのは嬉しさが募る。目覚めてから、こんな恰好をさせられて驚きつつも、考えてみれば、陽美と同じスタイルのレズビアンだと知った時、この格好で、即刻、意味を理解することが出来た。
それと同じ位に驚いたのが、目の前にいる海賊の首領と言う女が、やはり、あの人だったというショックと同時に、自分以上に綺麗だと思ってしまう、その女性が美人過ぎたことに、不釣り合いなのでは?と思いこんでしまうし、あの時分に何かを考えるきっかけを与えてくれた一人の女性が、こういうことをしているというのには、流石に悲しみも出てきてしまう。それなりに幻滅をした分、ただ、今は、何処か……
「何で、こんなことをするんです?」
「貴女に一目惚れしたから。それだけ。」
「それだけ?!」
「そうね。貴女を求めた理由は言って無かったわね。まぁ、一目惚れした理由もあるんだけど。」
「さらったのも!?」
「貴女を私の華嫁にするためよ。」
「んなっ!?」
解っていたこととはいえ、やはり、そう直接言われると驚きもする。
妖艶な顔つきで顎を優しく指先で撫でられるようにされてしまえば、嫌でも心臓の鼓動が激しくなる。頬が紅潮し、思わず、変な思考が頭脳を刺激する。このまま、愛されてしまう。押し倒されてしまっても良いと思えてしまうほどには、理性は崩壊することを望んでいるかのように思えた。
何かをしていても、何があっても、これでは。
こういうシチュエーションで、一糸纏わず、自分の部屋で華嫁と呼んでいる存在に対して何をしようと言うのか、いや、でも、まだ、出会って、暫くしか経っていない。数えるほどだと言うのに、どうしろとで言うのか。破裂しそうな衝動に襲われて、瞳は美月の褐色の肌と黒髪を焼きつけるように離そうとしない。
特徴的なエキゾチックで美人な顔立ちは、確かに真髄させてしまうほどの強力な武器であると言えよう。メルトランの集団には出会ったことはあるし、確かに、全員、乃木坂0046の容姿は子供のそれと思ってしまうほどにはメルトランの美貌と言うのは反則だ。だが、その中でも、目の前の、この人は、今まで出会った……いや、陽美もメルトランの血が流れていると言ったか。そこ行くと、この二人は今、思えば、この惑星で出会ったメルトランは全員、反則的な美人だが、あの二人は特別すぎる。
自分が惨めに思えてしまうほどには。美貌、そして、淑女的な対応だけで、こうして、この海賊の女統領に惹かれてしまうことは無理もないことだ。自分を曝け出してまで、相手に自分と言う物を見せつけると言うことは。ただ、まだ、何故、好きになったのかは言われてない。だから、まだ、完全に惹きこまれてはいなかった。いや、それを必死に抑えようとしていた。
「薬とか、盛りました……?」
「いいえ。貴女は私を恐れなかった。私のような存在が周りにいると、それだけで恐れてしまうか、心髄してしまう子が多い。でも、貴女は、今、こうして私と対等の存在として接しようとしてる。だから、欲しいと思った。それに、挫折しても向こう見ずで我武者羅に努力する姿も可愛いしね。」
「それだけで……」
「あら、恋愛するのに大それた理由はいらなくてよ。ドラマや、小説のように求めすぎる恋愛は破滅よ?どんな理由であれ、私が貴女を、どんなきっかけであれ好きになったのは事実なのだから。貴女が知らなければ、今から、私との関係を始めればいい。」
あの時、確かに好きになってしまいそうなほどのオーラを出していたが、まだ、知らない人だから、そういう部分から何かいけない領域に入りそうにもなった。男でもここまで程ではない物の美系に出会ったことはあるが、口説かれても、そこまで来るものは無かったと言うのに、この惑星で出会った二人の美女に対しては、どうして、こうも身体の中から情熱が湧いてくるほどには。
「貴女がラブコールを送ったからね……」
陽美と似ている。
そういうところも。
外見を除けば、内面がこれほど似ている人と言うのは当たり前なのか。実は姉妹じゃないのか?と、思うほど似ているが、違うらしい。
「そうやって無理やり人の心を自分色に染めて幸せなんですか?」
「私の女になってくれないなら、そうね。悪くないわね。」
そっと、顎下を指で撫でながら、思い切り顔を近づけてくる。
「暴力的なことをするつもりはないよ。」
「全部、服を脱がして、こんなものを着せた女の言うことですか……」
「それもそうね……でも、それは、これから貴女は私の伴侶にするためだから、許してほしいわ。」
強引だ。
あの侵略的な行為まで行っておいて。首筋を舌によって愛撫され、未知の感覚は命の中に電流のように走り出すと同時に、歌のインスピレーションのようなものが心地よさによって生まれてくる。惹きこまれている気がする。近くの侍女たちが、命の感じる姿を見て甘い吐息を吐いた。その気持ちは解らなくもない。
「何で、私を……」
「さっきも言った。」
「また……」
「貴女の歌を聞いて私は解った。私が、貴女をどれだけ好きかって。」
「歌?」
「そうね。もう一つ理由を挙げるなら、貴女の歌が好きだから。ミンメイも、シャロン、ミレーヌも、ミルキードールズも、カナリー・ミンメイも、パッセルも、エルマも、エミリアも、シェリルも、ランカも、今まで聞いてきたアイドルは素敵な歌を唄うけど、でも、貴女のは違うでしょ?貴女のことが手に取るようにわかるみたいな歌ばかり。」
嬉々として語る、その姿に命は惹きこまれていく。やはり、熱気バサラの部分を多く褒める人の方が多かったが、自分と言うものを語ってくれる人は少ない。常に熱気バサラの弟子として見られている記事は大きい。ただ、徐々に園命として見られていることに関しては喜びを感じていた。
そして、この人は今、目の前で、それを伝えてくれた人。まだ、14歳の単純な心は、それだけで伝えてくれるだけで惹かれてしまう物がある。
「それに、私は、ARIAに来る前に、貴女の歌を聞いて、惚れ込んだの。」
「ホント、ですか……?」
「そうよ。」
惑星ARIAの前に立ち寄った惑星で、偶然、バサラのギターに合わせて歌う少女に出会い、その歌と歌唱力に惹かれた。まだまだ、有名どころほどではないものの、それを越えるか、並ぶほどの力を持っていると、あの時、歌を聞いて感じ取った。
それを、嘘偽りなく、真っ直ぐと見つめて離しこむ。徐々に、その話を聞いて、命が自分に惹きこまれているのを感じ取っていた。
「たぶん、他のアイドルは他人に歌を作ってもらったから歌唱力が凄くても惹きこまれないのね。」
「そんないいかたされたら、好きになっちゃうじゃないですか……」
「良いんだよ。好きになっても。」
「ほ、本気にしちゃいますよ!?」
心がかき乱されるかのような、その胸の表情、14歳、まだ、子供だ。だが、子供だからこそ、持ってしまう、その心と言う物は純情な部分がある。手に取るように伝わってくる彼女の思考と言う物は可愛らしい物があるのだろう。だが、次の美月の表情は悲しみだった。それこそ、自分の全てを知っているかのようだ。
「でも、どうしてかしら。今の貴女の声は歌を忘れてしまったカナリアのよう。」
「歌を忘れた、カナリア……?」
「貴女は、自分の歌と言う心に向き合っていて?」
言われて、思わず言葉を失った。この経験、前にもあったことを思い出す。陽美に言われた、あの台詞だ。自分にとって引っかかりを覚える言葉が常に募る。そして、短い時間の間に、どうシュミレートしても思うのだ。何かが自分の邪魔をする。そうであってはいけないと言うように。
「貴女の歌には感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が……封じ込めていたのね。そして、自分の中にいる静かなバケモノを殺そうとして我武者羅に努力している。でも、殺せないのよ。自分の中にいる自分って。結局、自分だから。」
「前にも、前にも、貴女に同じことを言われてました!そして、考えていました!でも、解らない……」
考えても、考えても答えと言う物は出ない。自分が求める結果と言う物なんて、そう簡単に出るわけがない。
「考えるきっかけ、自分でも解らず、がむしゃらにやらずにヒントをくれたのは、凄い感謝してます!」
そこにあるのは、そこにあるのは……
「貴女は、他人にアイドルと言う他人の望む偶像を押し付けられた子。」
この人もそうだ。自分とあまり接していないのに、自分の心を見透かしているような表情……この人も、これだけの女性に慕われているのだから、それなりに女性を見る目と言うのはあるのだろう。
「私は、貴女を私の女にしたい。それは、同時に、貴女の心にある……」
これほどドストレートな愛情をぶつけられたのは二度目だったからか。思わず、心が昂った様な気がした。自分の心を燻らせる、思考を与えてくれる人……こうして見透かされて、心を丸裸にされる感覚には、妙に浮ついたようになる。美人に視姦されるのは悪いことではないなんて、こうした状況の癖に、随分と肝のある精神だと一人嘲笑する。
「そうやって自虐して楽しい?」
「え……」
「自然と、そうやって人を敵として見てしまうのね。」
「そんなこと……」
「貴女に、そうさせたのは……哀しき風習。」
強く抱きしめられて、初めて人の柔らかさと言う物を認識した瞬間、心の中にあった何かが融解されたような気がした。こうして触れ合うことの忘れて人を敵として見てしまう感覚が、いつの間にか頭脳でプログラムのように作られていた。
「貴女の本当の歌は、もっと美しく気高いものであったのに、誰かに植え付けられた誰かの心が貴女の自由を拘束しているのね。」
こうなれば、では、この因果のような物から脱するには。
「じゃぁ、どうしてくれようと……」
胸の中で、そっと呟く。
「そうね……忘却によって、貴女の鎖を取り除くことはできるのではないかしら?そう思ったの。」
「忘却って、それ、逃げることなんじゃ……」
「逃げることは非難されることではないわ。逃げることで、その後、何をするか。それが重要なの。逃げるって、自分を見つめなおすことでもあるのよ?」
そうして、真剣に、この人は自分と接しようとしている。その奥にある了承を得ることが出来たのなら、彼女はすぐさま行動にも映すだろう。人形のように抱きかかえられているのは、このまま、望むことをしたら
「貴女は壊れてしまいそう。」
「逃げて、何をしたいか……」
「そのために、貴女は、まず思い出さなければならないことがあるでしょう?」
「バサラも、陽美も同じことを言う!貴女も……でも、それは……」
「言葉にしたら、余計に、言葉に囚われて貴女はできなくなるわ。だから、私は、そのサポートは出来ても明確に言葉で答えを教えてあげることはできない。」
だからこそ、
「自分で考えるしかない。でも、それを為すためのサポートが、忘却。私が、貴女にしてあげること。そして、貴女の中にいる、もう一つの存在を消す方法よ。」
この人も、見抜いている。自分の中にある何かを。でも、それは殺せないと言う。自分の中に救う静かなバケモノの存在を知っている。間接的にしか言わなかったが、恐らく、陽美も気づいているだろう。この人たちは、それがどういうものなのかを知っている。だから、どうすれば良いのかも、どう対処すればいいのかも知っている。それは、言葉では理解できても簡単に実現できないことであることも。
それが解っている。だが、どうしようもできないことがある。その壁に何度も挑んでは破れている命の顔が暗くなる。唇が犬のように震え、小刻みに震えている。あらためて、どうすれば良いのだろうかと考えても、そんなもの、今まで我武者羅に努力しても報われなかった分、迷路に迷い込んだようにわからなくなる。本当は、単純なものなのかもしれないし、思うほど以上に難しいことなのかもしれない。まさに、この世界は迷宮とはよく言ったものだ。
小動物のようなしぐさに、思わず、美月の口の端が釣り上がった。こういう少女こそ、快楽に染め上げて、全てを忘れさせたいと思うものの、そういうことを無理やりすれば、心は完全に奪えないだろうと、自分色に染めるためには、まだ早いと決める。肉体的な緊張が伝わり、 何を考えているのか、命の思考が手に取るようにわかる。ふあっとした長い髪を揺らしながら、そっと、抱き寄せて頬をこすり合わせた。
それが、妙な暖かさを覚えて、命は肉体の内側にいる何か、片意地の張った存在がどこかに行くのを感じた。ふわりとした、この人の温もりと言う名の感触は、やはり、陽美に抱きしめられていたかのような、そういう趣味に打ち込むような熱さではなく、不思議と、心の内から電流のような情熱がほどばしるような暖かさだった。
己の中にいる、静かなバケモノは……何もしなかった。
そして、それは生きる糧を得るかのように自分にとっての唄う意味を奪っていった。
「でも、大丈夫……私の処にずっといれば、そんなものを忘れさせるくらい、甘えさせてあげる……そうすれば、良い歌は出来るわ。」
そっと尻を撫でられ、ビクッとなった。それでも、思わずそれを行った人間に対して甘えるように抱きついてしまった。
「年上の女性に迫られると弱いでしょ?貴女、甘えさせてもらえなかったんじゃない?」
「どうなんだろ……でも、早めに自分の彼女は欲しいかな。ってのはあるけど……あの世界にはいなかったし……」
母は確かに甘えさせてはくれたが、もう一人の、母親が、それ以上に独占する。姉たちから、そういうものだというのは教えてきてもらったが、それでも、理不尽に甘えさせてくれるときは、もう一人の母が入り込んでくる。思えば、そういう部分もあったし、早めに乃木坂0046に入ったのかもしれない。何もかも見透かされている。暖かい体温を持っている何かに求めてしまいそうになる。そうこうして友人はいたものの、甘えるとは違った。
だが、それと、これは
「関係無いよ……」
大きな胸に顔を埋めて、でも、まぁ、考えてみれば甘えたのは陽美を含めて久しぶりって言うのはある。あの時の陽美の言葉が、その身に蘇ってくる。だから、陽美は……
「よしよし。」
何を考えているのか解る、だが、これからは、その思考は自由であると同時に自分が入る。だから、それで良い。だから、このまま命を。
「随分と悪趣味なことしてくれんじゃない。」
「陽美……」
「アスモデウス、ぶっ壊して、わざわざ、この戦艦に入り込んだ甲斐はあったわ。」
この手を破瓜の血で染めようとした時だった。陽美が天井を突き破り、侵入してきたのは。
「よく、ここが解ったわね。」
「女の勘よ。」
目の前で、敵意を剥き出しにする二人。似た者同士。命の中に生まれるのは二人に対して抱く特別な何かが抱きつつあった。女性と、こうして触れ合い、一つ一つのインスピレーションを貰うたびに送られてくる、身体に染み込んで来る二人の何か。
「でも、あなた、此処から逃げられて?バルキリーを破壊されて、そして、彼女を取り戻したとしても、ここの戦艦にいるのは全員、私の部下よ?」
「どうかな。もう一人、此処に、入ったこと気づいてないんじゃない?」
「何?」
「や、やめてよ……」
二人に戦ってほしくなくなっている。何処か、二人を考えると二人のことを考えると胸が熱くなる。
「だから、私には勝算がある。やらしてもらう……!」
陽美が拳を振るった瞬間、命の背中にゾクっとした嫌な予感が走った。美月も、それに反撃するように拳を振るう。どこぞの格闘技をマスターしているのか、その動きには、乃木坂で習った格闘技よりも実戦的に思えてきた。
それは、互いを傷つけあう行為そのものだ。それは、望むべきものじゃない。望んじゃいけない。ここで、どちらかが倒れるなど、自分の後味が悪いし、嫌な物が出来る。だから、この場で二人の喧嘩を止めなければならない。
何をすれば良いの解っている。
熱気バサラは、何をしていた。
止めるために、喧嘩をやめさせるために何をしていたのか。それは、先ほど、自分に出来たこと。だから、だから、出来る。出来ることだから……拳を握り、その拳を胸に当てて、ゆっくりと己を落ちつかせた。
出来る。
あの時、出来たのだから。その心を思い出せば、止められる。あの時と同じように。何か、何かをするために。ゆっくりと口を開き、その時のことを思い出す。だから、命としては心を込めて歌った。部屋が響くほどに大きな声で。だが、その先にある結果は……
「唄っても、なにも、無い……」
さっきはできたことだと言うのに、あの時に出来たことが、今、出来ていない。それが、どういうのことなのか得られることの出来た自信が塩の柱のように見事に崩れていく。キララは再び、輝くことが無かった。
「どうして!!!!」
自分の歌は、通じた筈だった。通じた筈だったのに、どうして通じない。改めてぶち当たる壁に対して、絶望の咆哮をあげた。無論、それに対してキララが輝くことは無い。あの時、感じた思いは何だったのだろうか。
己の中にあったはずの環境が、喧嘩を止めなければならないという義務感に煽られて、何が何だか、忘れて歌っても、何も出来なくなっていた。
「もう!!!二人に死んでほしくないのに!傷つけあうのも嫌なのに!」
自分の力は、無力なのか。自分の歌は、それほどに力と言う物が無いのだろうか。
バサラは、それを解らせるために、ただただ、何も言わなかったとでも言うのだろうか。今、こうして現実を知ってしまった時点で、自分が非常に小さい物に思えてくる。二人を責めるようなことはしない。おのれの無力さがただただ嫌になってくる。
何故か、二人の魂に響くことは無かった。
魂よ、響けと、そこに願い、そして、二人の争いを止めると、己の中に傲慢があったのだろうか。
すぐさま、マイナスの思考が肉体を駆け回る。
自分の中に、あくまでもいるかのような感覚だった。どうして、どうして、歌が通じない。何がいけないのか。今までの戦闘中に歌っても、皆、そうだった。皆、歌で戦闘を止めてくれない。まだ、そこに、足りない物がある。だが、先ほど、それが出来たと言うのに、今、それが出来ていない。
手を伸ばしても、伸ばしても、そこにある世界と言う物をバサラの見ている世界と言う物が見えない。いや、この世界で、銀河を震わせるほどの歌にも行ったことが無い。
どうすればいけると言うのか、行けるのか。
悔しくて悔しくて、身体が芯から熱くなって涙が頬を伝うのを感じた。やっぱり、自分は、そういう存在なのだろうか。あの組織に入れたのも、元の才能ではなく、母の二人の……
自分と言う存在が、徐々に解らなくなっていく。
でも、それでも、悔しいからと言って止めることの出来ないことをしている世界に入り込んだのだから、泣き言は今だけと解っている。しかし、それでも止められない。白石麻衣の器だったのだろうか、そのために、あそこにいたのだろうか。
所詮、自分は、キララや名が無ければ輝けない存在なのか。
輝く魂を導かせるためだけの器なのだろうか。そうした思考が肉体を独占した。
二人は、流石に戦いを止めた。大切な人が、こうしてなっている状況で、各党やら、なんやらしている場合ではないが、自己中心的な思考が流れた。
「今の歌、聞こえたでしょ?あの子、私たち二人に傷つけあってほしくないんだよ!」
「だから、どうしたいと言うの?」
「大人しく私によこせ。って言ってるの。」
やはり、この女は気にしたくない。
命の歌よりも確実性を狙っている。
歌よりも戦闘で得られるこ高揚を求め、宣言をした後に、歌が止まり一瞬だけ絶望の表情を向けた命の方に顔を振り向いき近づいた瞬間、美月は陽美の一撃を腹部で思い切り食らい吹っ飛んで、壁に打ち付けられた。
(不意打ちして、ごめんね。)
「かっは……」
ただ、この場所にいた命の歌、二人には、あの時の口論を止めたときほどのパワーを感じなかった。まだ、小鳥は何故、唄うのか、その理由を思い出せなかった。あの時、この身体にみなぎった感情が、歌をエネルギーに変えた自分の力が解らなかった。
代わりに響いてきたのはミサイルよりも爆発力があるサウンドだった。
「コォォォォォォォォォォォ!!!!!」
その叫びに合わせるように美月の部屋のモニターが、その声の持ち主を映した。
「バサラ……?」
いや、違う。
戦意は失っているが、それは歌によるものではない。何者かが多少の精神的な力を死なない程度、少し眠ってしまう程度に吸いながら美月艦隊の人員を眠らせていた。
「ちぃ……」
脱出するタイミングが既に、こうして出来ていた。
「まさか、プロトデビルン……?」
陽美が、その名前を呟いた。
その名前を知らない物はいない。
バサラが生きる術を与えて和解したという伝説を持つ、たった一つでゼントラン一個師団を壊滅させる存在。
「ほら、先に行きな。」
奪還し、陽美に抱かれる前に、命は意識を失わず立ち上がろうとする美月を見つめていた。不意打ちとはいえ、自らの精神動揺が招いた結果。
「命の状態を見て、一撃、食らったんでしょ?」
「……」
「不意打ちとはいえ、あんたも命のことを心配するんだ。」
「そう、ね。」
「だから、やり直そう。同じ女を好きになった仲だ。どうせなら、今度は真剣に1対1のドッグファイトでやろう。そうすれば、あんたも満足するでしょ?」
気に入らないが、命に対しての愛の情熱は本物だ。
「解ったわ。切り札を出す。」
「えぇ。楽しみにしてる。」
気に入らないけど、シンパシーは感じる。
同じ女を好きなった人間にしか解らないような、この感情が。3度ほど、やりあったが、それくらいでわかると言う部分は、それなりにある。戦っている間に嫌でも感じ取ってしまう物があるらしい。
かつての、パイロットたちも、そうして解りあってきたと言うが、こうして、ファーストコンタクトからやりあい、短い日の中、まだ、最後の格闘で嫌でも、解ってしまう部分が出てきた。互いに変わらない、この他人から見ればたんなる愚かな行為にしか見えないようなやり取りの中で、感じあえる物と言う物がある。
根底にあるのは、解りすいほど単純で人から見れば小さくて、本人かあ見れば、かなり重要なことであると言えよう。
同じ、アイドルに一目ぼれして、そして、こんなバカなことまでやらかしているのだ。本人の気持ちも無視して、迫って、その気にさせてまで、一度、肉体的関係を持ってから真剣に付き合おうと言う卑怯なことまでして、そこまで欲した二人が。
欲しているからこそ、渡したくないと言う感情が生まれている。そこまでして、落ちているような部分があるからこそ、あそこで歌を唄うなんてことをしてくれたのだろうが、しかし、あの時ほどの何かを感じなかったのは、それを自分達の原因だと考えてしまいそうにもなると、二人の間に罪悪感的な物も出てしまう。
そうさせないためには争わない方が良いのだろうが。抑えきれない闘争本能の浄化解放を行うべきなのだろうが。そういうわけには行かない。だからこそ……だからこそ!
「次で終わりにしましょう。」
身勝手に決められた思いが駆け抜けて、陽美は命を連れていく。
「こっちだ。」
先ほどの謎の青い髪の少女が発した二人を光に包み惑星ARIAにゆっくりと降りて行った。
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2016.09.03 Sat

第3話
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「はぁ……」
「結構、大変でしょ?バサラと一緒にいると。」
ミレーヌ・ジーナスに、そう告げられた時、思わず、そうなのだろうか?その言葉に翻弄されそうになったことを思い出す。
「命ちゃんも、結構、苦労すると思うよ。」
「そう、なんですか?そんなに困ったこと、無いんですよね。」
「嘘……」
流石に、苦労されたこともあったのだろうか、ミレーヌの表情は扉越しの向こうにいる存在に向かって思わず凝視した。
「なんだよ。」
「な、なんでもない……」
ミレーヌの反応を見てしまえばバサラは、どれだけ、ここにいる人たちを振り回したのだろうと考えたくなる。だが、命自身はバサラに振り回されたことは無い。それほど自分と言うものを目の前で迷惑をかけないように接していたからかもしれない。
「唄うとき以外は静かだったのかな。」
口にして少女は改めて外の世界を見た。
惑星ARIAに来訪する前、暫く、マクロス7船団に暮らすことになった時、そこでFire Bomberのメンバーに曲作りや、楽曲の基礎などを教えてもらった。此処にいたのは、半年ほどだった気がする。しかし、楽しい時間であったことは間違いのないことだった。
YF-29改の全体的なオーバーホールと同時に、久しぶりにFire Bomberのメンバーに会いたくなって、ライブすると言うことをバサラが想い立ち、この時、そして、マクロス7船団に暫く長く居候することになった。そこで、初めてFire Bomberの面々と出会うことになる。
「しかし、バサラが戻ってくる時は子連れだとは思わなかったぞ。」
レイ・ラブロックが冷やかすように、命を見てさわやかな中年の笑顔を見せて、そう口にした。ビヒータ・レイズは此方を見て、口の端をあげてドラムを叩いただけ。それが、彼女なりの歓迎なのだろう。
「知り合いの娘でさ。降ってきたから、預かったんだよ。」
「降ってくるって……」
「いや、事実なので、すいません……」
本人が、そう言っているのだから信じるしか無いのだろうが、どうもバサラの周りにいる人間は不思議な力を呼びよせると言うのは、解っているかのように溜息をついた。
「貴女、バサラに変なことされなかった?」
「お前なぁ!!」
それはミレーヌなりのジョークだったのだが、流石に、そんな扱いをされればバサラだって名誉棄損で訴えかねないほどの権幕で迫って、流石に、あのころとは違うミレーヌも「ご、ごめんごめん。」と、謝る。
この瞬間が、このマクロス7にいる時間は、今まで、一番楽しかった気がする。
Fire Bomberと接するのは半年ほどだった気がする。そうしている間に陽美の祖父と祖母であるマクシミリアン・ジーナスとミリア・ジーナスと接して、そして、ミレーヌ・ジーナスの家に泊ることになった。
「命を、こんな家に住まわせるわけ行かないでしょ?」
至極、最もな思考だ。
「前までは、ガキのお守はどうのこうのって、煩かったんだから。調度、私が、貴女と同じ年のころ。」
「そんなこと、言ってたんですか……」
夜は女同士、一緒に寝ることもあったし、昔のバサラの話を沢山、聞くことが出来た。そんな、懐かしくも楽しかった夜。
「貴女の歌には感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が」
「何?それ。」
「昔、唄っていた時にお客さんに言われたんですよ。」
「そっか……」
バサラの話を聞くたびに、こうして世間話をするたびに、ミレーヌに触れあうたびに、何か、バサラと一緒の時と同じ暖かさのようなものが内に宿るのを知る。そして、一時的にFire Bomberの追加メンバーとして、ライブにして参加した。これは、バサラ切っての願いでもあり、これが、今にして思えば試されていたのだと思う。此処で、自分が何かに気づくか問うか。
「バサラ、解ってやってるの?」
「解ってるさ。でも、自分で気づかなきゃ仕方ねーだろ。」
その歌は素人は騙せても、やはり、ミレーヌや、レイ、ビヒータは騙すことが出来なかった。ミレーヌが言葉の意味を理解したかのように、それが切っ掛けだったのか、だからと言うか、どうと言うかミレーヌが自分に楽器を、ギターを教えてくれたのは凄い嬉しかったのだ。
3か月の間は、こうしてミレーヌにギターを教えてもらい、音を奏でる楽しさを学んだ。いつの頃からだろうか。久しく、こうして沢山の人と触れ合うことを忘れていた気がする。そう言いつつ、マクロス7船団で手とり足とりギターを教えてくれるミレーヌの優しさに触れながら、なんとか物になり、その後はギターも使いながら旅に出かけ、そうして改めて曲作りの楽しさに目覚めることにもなった。ただ、陽美と美月に触れた時のような、そういうものを感じることは無かった。
目覚めたのは、4:59だった。
自分にとっての歌とは何だったのか、考えていた瞬間に眠ってしまっていた。
ふと、気づけば命は自分から陽美を抱きしめていることに気付いた時は離そうとしたが、陽美も命を抱きしめており、無理に、その拘束を解除することなく夜明けの世界を部屋の窓から見ていて明け方の交差点が妙に目についた。これ以上、上手く立ち回れるだろうか、この前の結果を見て少し、自分に自信がなくなっていく。朝と言うのは人を鬱な気分にさせる力があるように命はこれまでの日々を思い返していた。
普段着のまま眠り、隣には大人の色香を発して乱れる金髪をバラしながら眠りについているお姉さんと言う存在の頬に、そっと口づけしたくなるほどには美人だ。手を出しても、良いのだろうか。太陽の名前を持つ女性の暖かさは命の肉体と心に、忘れていた温もりを与えていた。こうして抱きしめられていることが、ここちよくて朝の憂鬱な気分が園命には何かをする気すら消えていった気もしていた。
以前、熱気バサラに、こうなったことは無かったのか?と、聞いた時は、笑ってごまかされたことがある。どうだったのだろうと気になっても、自分の中では、今の熱気バサラのように、さわやかに新しい朝を迎えられるほど強くは無いのだと、自己嫌悪しそうになる。ただ、マクロス7船団に一度、立ち寄った時、同じFire Bomberのメンバーであるレイ・ラブロックからは色々と聞かされた。
人を守るために歌ではなくミサイルを放出したこと。バサラも、最初からすべてがそうではなかったという話を聞くたびに信じられなくなる自分も、そこにはいるし、同時に凄いバサラも同じ人間なのだということを触れ合うだけで理解はできる。そして、今にして思えば意外だったのがミレーヌ・ジーナスが、意外と御淑やかだったことか。
この人と比べ、どこで、ジーナスの血は狂ったのだろう。確かに、マクシミリアン・ジーナスは、そういう70を越えても20代の外見で衰えを感じさせず女性にはモテていたし、ミリア・ファリーナ・ジーナスも、この世界では巨人だったということを聞いた時は命は訳が分からなかったが、そういうことらしい。
「なんか、まぁ、でも、良いか……って、苦い。」
朝起きてから感じる乾いた喉の気持ち悪さを感じて、まず、無理やり陽美の抱擁を解放して軽く歯を磨いてからうがいをし、そのまま冷蔵庫の中にある麦茶を取り出して口の中に含み飲み込んだ。
何となく、今日、この星に来てからのことを思い出し、そう答えを導き出して、もう一度、ベッドの上で横になった。
「デートに行きましょう。」
「いい、ですけど……」
起きてから憂鬱な気分を消すために二度寝を決め込もうとした命に、そう呟いた時は既に決定権があったような気もする。普段着のままに眠りについていてしまったようだ。寝ぼけた頭では、何を考えているかもわからないまま、了承してしまうところがある。
母である智恵理の低血圧を受け継いだのだ。凪沙から、そういわれたときは、心なしか智恵理を恨んだ時がある。そういうのを見抜ける人間なのか、陽美は、命の性格を理解したと言うことなのだろうか。手に取られているような感覚が気持ち悪いくせに、それと裏腹に、なぜか嬉しがっている自分がいる。そしてキララが妙に懐いていることに驚いた。
「あぁ、この子?良い子だったよ。」
それは、そうとして、デートもいきなりのことで了承してしまったことに後悔のようなことをしている気がする。安易に受けるべきではないだろうに。そして、気になることと言えばだ。
「昨日、何かしました……?」
この人の性格を見れば、どういう人なのか。それが良く解っているからこその、己の貞操の心配は無理もないことだろう。何かしていそう。そんな思考が脳裏に走った時だ。
「してない。」
はっきりと、嘘のない目で、それを言う。
瞳はまっすぐに命を見て昨晩は何もなかったと訴える。
「そう、ですか。」
していれば、キララが懐くこともないだろう。
調教されるような、そんな軟な存在でもない。キララを通して信じ、昨日は一緒に寝た事に関して、そこに、何か覚えることがあった。
それ以上に寝る前の、あの会話の一連は掴まれるようなものがある。心を鷲掴みにされたかのような、そういう錯覚を、好みに覚えた、あれはなんだったのだろう。今日のデートで、それは解明されるだろうか。
朝食を摂りながら、適当に着替えつつ、陽美と外に出ることへの楽しみを陽美は、その美女の表情を隠そうともせずに常に命を見つめてきた。さりげなく手は恋人繋ぎで、いつかは気づけば気を許してしまいそうだと、そういう何かを覚えそうにもなる。
「唄うの、いつからだっけ?」
「子供の時からかな。唄うのは好きだったし、でも、なんか、乃木坂0046に入って暫くしてから、なんか、つまんなくなったんだよね。んで、ここにきたらさ、バサラと出会って……って、感じ。」
「今、歌うのどう?」
「なんか、覚えているようなんだけどわかんないんだよね。」
「そう、か。」
やっぱりとでも言うかのように陽美は命に足りないものを悟ったような顔を浮かべていた。陽美もFire Bomberを通して歌と言うものに興味を持った存在だ。そこに、伯母であるミレーヌ・ジーナスがいたこと、そして、バサラの弟子として園命がいる。Fire Bomberを通しての、この出会いに運命を感じずにはいられなかった。やはり唄っているときに伯母であるミレーヌ・ジーナスとは違う顔を浮かべている。あの伯母の顔は……
「何?」
イベントなどで、人を見ることに関しては、それなりに鍛えられた命は、その顔を見逃さなかった。そこに、何があるのかと聞こうとした時、樹里が目の前に現れた。
「これからデートなんだけど?」
「数分で終わる。」
そう口にして、樹里に呼ばれた陽美は不満な顔を浮かべている。表情がころころ変わる人だと思いつつも、此方は客と言う立場なのだから、前に出る必要はない。
だからこそ
「あ、待ってるからどうぞ。」
命は、そのまま本来のバルキリーに搭乗して荷物を取り出す。
いつ、どこで歌のネタが拾えるかどうかわからないから、インスピレーションの保護と言う部分で何か形に残すためである。しかし、あの何かを言いたげな陽美の顔の自分に秘めていた部分に気付いたかのような部分になってはいるのだが。そうこうして、此方の準備は終わっても軍関係の事は簡単に終わらない。
気になりつつも、ここにある兵器の群れを見ていると、この世界のバルキリーと呼ばれる兵器や、デストロイドシリーズと呼ばれるものは、自分の本来の世界にあるDES軍やら、昔、祖父が開発に携わっていたゾディアックの兵器類と似ていると、そういうことを思っていた。ゾディアックは新中州重工とか、そういう名前だったのを思い出しつつも、色々な意味で立場の逆転しているように見える兵器群、個々の世界と言うのは、どういうものなのかというのを考えてみたくもなるが、いまいち、興味もわかないし、そんなことよりも歌のことを知りたいから深く考えることはしなかった。
命は暇な間、機械の音を打ち消すように無視して陽美と樹里の会話を耳にしていた。
「YF-30くらい、こっちに寄越せばいいのに。」
「YF-30って……あんた、何も知らないのね。悪いけど、同じYFだけど、YF-EXはあるわよ。ほら、そこでシートを被ってる奴。19タイプの血も混ざっているようだけどね。正式の30代はVF-31ジークフリートとして生産されるそうだ。」
「それはまた。19シリーズの血があるなら、行けるじゃん。んで、31の候補だった高価な新型のカワイ子ちゃんは、誰専用なのかしら?」
「あんたしかいないでしょ。千人斬りの女食いを達成した陽美・ジーナスに。性格に難はあるけど、リリィじゃ最高のパイロットのあんたに。」
「そりゃ、どうも。でも、イサム・ダイソンにシュミレーターじゃ勝ったけど、本人と実際にやりあって、勝利したことは無いのよねー」
「それだけでも十分だって。でも、運よく勝ったじゃない。」
「あれは、手加減された……手加減されて、やっと互角よ。互角!しかも、旧式で!」
世界最高峰のパイロットと呼ばれているイサム・ダイソンと名誉ある10番勝負をして、結果は陽美が述べたとおりだ。普通にロートルゆえに勝てると思っていた驕りが、最初はあった。しかし、負けたがゆえに、次に本調子で戦えば勝てると思ったが、やはり負けた。限界を超えようとさらに頑張ったが名誉ある敗北。イサム・ダイソンはノーマルの19で、陽美はVF-27+だ。
シュミレーターと実戦は違う。改めて、現実の厳しさを思い知った瞬間が、陽美をパイロットとしての成長をさらに促す事件でもあったのだが。VF-19EF/Aではなく、ただのVF-19だからこそ陽美の悔しさは相当なものだったのだ。
「大したもんじゃない。他のメンバーは瞬きした瞬間に敗北したんだし。」
「そうかもだけどさ。ついでに、ダイアモンドフォースのガムリン大佐にも負けたし。エメラルドフォースのドッカー中佐には勝ったけどね。」
「フロンティア船団の連中はフルボッコにしたのにねー。」
「まぁ、ねー。死んだと思ってた人に狙撃されたから、仕返してやったけどね。」
「あれを避けるなんて、どれだけ、こっちに負担がかかったか。シュミレーターなら、まだしも、実機を使った模擬だもん。」
イサム・ダイソンと戦った後の出来事だ。
フロンティア船団の連中と演習をしたものの、それは、そこまで気にされるようなものでは無かったかのように、以前の対戦相手とは違うと良い意味でも悪い意味でも、そういう意味では懐かしき思い出である。
「んで、YF-EXの事なんだけどさ。」
クロノスを元にした新型の制作は決まっていたようだ。その中の候補として作られたのが、このシートを被ったままのYF-EX。このEXが改めて真剣に19の思想が取り込まれたのは性能の向上によって殆どはパイロットのおかげとはいえVF-19EF/A がYF-29 デュランダルにも匹敵する性能を発揮を得たからだ。とはいえ、EXナンバーの名の通り、正式採用されずに使えるパイロットに渡すために、こうして送り込まれてきたわけだが。
「いや、YF-EXのことも大事だけど、本題は何よ?」
「あぁ、そのYF-EXをあんたのものにするから、少し、調整を手伝え。ってこと。」
「あぁ、そういう。って、何で、そういわないのよ。」
「あんたが、勝手にアスモデウスのことと誤解したんでしょ?」
犬のように嬉しそうな表情を浮かべている、その顔は新しい玩具を手に入れた子供のようだ。
「アスモデウスじゃご不満?」
「ま、不満は無いけどね。やっぱ、つけ刃だからバランスが悪いのよ。」
「なるほどね。」
「楽しんるところ、悪いんだけど……」
「あぁ、命、もうちょい待ってね。」
母の血筋と言うのもあるし、これも大事な話だというのも解るが、やはり、誘っておいて、そういうのはーと、少女自身、大人の事情は分かっているものの、もう少しと、年相応な態度は見せてしまう。
「ってことで、好き勝手しろ。」
「あんた、こいつのパイロットって自覚あるの?大体、27+じゃ、綱渡りしてるようでーって言ったし、そういう意味で、回されたこいつを、あんたに渡そう。ってなったんだけど?」
「あぁ、そうだけどさ。」
アレも良いマシンだというのは解ってはいるが、何となく、欲望的なものが欲してしまうのだろう。それ以上に、アスモデウスのとってつけたような感覚は、どこか綱渡りをしている感覚、バランスが悪いのだ。そういう部分も含めて、EXを渡されることにはなったのだが、陽美が、この状態である。
「あるけどね。19タイプの方がよく私の感覚にダイレクトに答えてくれるのよね。27+も、19と同じ感覚になっているとは思ってたのに。ダイレクトに伝わってきたんだけどなー。」
それでも、全性能では大きくアスモデウスは勝っているというのに、それすらも覆したイサム・ダイソンの強さには戦慄を覚える。流石は、ギャラクシー船団の反乱時に19ADVANCEでサイボーグ専用のVF-27を噂によると1000機は血祭りに上げた存在だということが良く解る。
「その戦績は大げさ。」
本来はピーキーな性能であるはずのVF-27+を制御できている陽美も陽美だ。と、樹里は頭を抱えながら天才の言うことは解らないと口にする。
「あんた、天才すぎるからダメなのよ。VF-1Jでエクスカリバーを翻弄する女傑の濃いメルトランの血が良い感じに出ちゃってるし。これくらいの性能じゃーねー。その一方で、おじいさんの女好きまで受け継いで。陽美・マリアフォキナ・フォミュラ・ジーナス」
「考えてみれば、うちのママって化け物よね。」
「オズマ少佐の先輩のエイジスさんも、そりゃー大変な思いをしたそうよ。」
「ママは昔はヤンチャして「ビンディランス」なんてものを作ってたそうだけどね。」
「ヤンチャで反統合軍組織とか……」
「それに比べれば私はマシ。」
「同じようなもんよ。従妹のミラージュ・ファリーナ・ジーナスに手を出そうとして拒絶されただとか、何してんの?大体、あんた、レズサキュバスの異名を持ってるのは御存じ?」
「ほら、うちの家系って美人、多いし。可愛い子には手を出したいし。ミラージュはからかっただけだし。」
「そりゃ、ね。でさ、命の味はどうだった?」
「手、だしてないよ。」
「え?」
「あ、ホントですよ?」
嘘だろ。このレズサキュバスが手を出さなかった。あれだけ夢中になっていたのだし、それはワンナイトラブの可能性はあったはずだ。結論としては(飲むつもりが互いに飲んじゃう状態になっちゃったか。)と、そういう答えを見出すことになった。
「それよりも、YF-EXの調整しちゃおうよ。」
無駄話を、ある程度、繰り返してから、YF-30のクロノスをモデルにした19の流れを含むYF-EXの白銀のボディが露わになる。女性とのセックスでぎっとぎとの黒い陽美とは正反対だ。なんて内心、毒づきながら、軽い調整に入る。
「ってか、よくバサラはあんたのような女に命を任せられたね。」
「アタシも驚いてる。ミレーヌおばちゃんとか、エミリアおばちゃんと出会った。って言うし、そういうあれからかな。ミリアお婆ちゃんとは、最近、会ってないなー。マックスの爺も。」
驚いたと口では言いながらも自慢するように、勝ち誇った顔を浮かべる陽美をスルーしてから、バサラは陽美のどこを信用して命を任せたのか、天才の考えることは解らないと言いながら思考することから逃げた。
「あ、YF-EXの、あんた専用のペットネームは?」
「YF-EXMIKOTO……で、どうよ?データとかは適当にやっちゃっていいよ。こっちが無理矢理、合わせるから。」
「あんたは……まぁ、いいや。後は、こっちでやっちゃうから。」
「え、本当に、この名前……?」
「そりゃ、自分の名前なんて嫌よね。」
樹里が指摘したように命は頷き、陽美はジトーッと見つめていた命を抱きしめて、その胸に埋めた。この人は、どこまで本気なのかと考えてしまうが、そういう裏が無い人間なのかもしれないとも、考えてしまうが。
「どこまで本気なんですか?まさか、自分のバルキリーのペットネームに、一応、好きな人の名前を付けるし、貴女の性格上、手を出すかと……」
「好きだよ。でも、乗ってくれないでしょ?今の命は。だから、手を出さないの。でも、出したいけどね。」
「そう、ですか……」
「うん。」
「ぁぅ……」
思わず、陽美の偽りのない表情で俯く姿に、思わず肉体全体が赤く染まるような暖かさを感じ、陽美から自分の肉体を離した。何か、おかしい。一緒に寝たりとか、言葉一つで手玉に取られたりとか、何か、そういう部分を感じ取ってしまう自分の軽さ的なものに驚いてはいる。これまで、様々な女や男やら、そういうものに言い寄られてはきたものの、惹かれることは無かったというのに、なぜ、この人には。なんで、こんな思いを抱かなければならんのか。 昨日今日、いや、だいぶ前に出会って、それでいて一緒に寝ることまで許してしまった、この女をと。
自分も、母である智恵理に似て変な部分でレズビアン的な同性には甘い部分が目立っている。惚れた弱みのようなことを口にしていたが、そういうものなのだろうかと命の中で、いつまでも変なもやもやが燻っていそうになっていた。
「嫉妬?可愛いな。」
「そんなんじゃないです……」
頬を膨らませている自分に違和感を抱く。いや、違和感しかない。デートに誘っておきながら、って言うのもあるのかもしれない。樹里と仲睦まじそうに話している事がなぜか嫌になっている。約束をしておいて、そういう態度と言うのが嫌いなのか、出会ったばかりの女に、何を求めているのか。一度、あったとはいえ、まともに話してないではないかと自分で息を吐き捨てる。まさか、恋愛でもしているのではないのか。
「そんなこと……」
考えてから否定する。だが、考えると、妙に身体が熱くなるのを感じた。
そのまま、こんな気分を忘れて外にデートしに行く中で、こういう感触、同じ乃木坂0046のメンバーである2代目松村沙友理と一緒にいたとき以来だと思いだした。そして、妙に、あの時以上に楽しい。
「じゃぁ、いこうか。」
昨日の襲撃がウソのよう。デストロイド達が、街を作り始め、昨日の戦場でビームによって抉られ、腐臭に近い不快な匂いが漂うコンクリートすらも既に舗装されて、昨日のような状況があったというのに人の力を感じさせ、惑星の発展に尽力を尽くす。そこには、バサラの楽曲や、リン・ミンメイと言った歴代の歌手たちの歌から発せられる言霊が紺碧の空に舞う。そして、惑星ARIAの気候は地球と言う惑星の春に流れる爽やかな風のような心地よさが吹きすさぶ。
そうこうしてってわけではないが、心にたまった靄のようなものを感じ取りながらも何処か、そういったものが取り除かれるような心地よさが肉体を襲う。歩いて、歩き回って公園に辿り着き、二人でクレープを食す。何で、こんなことが楽しいのかとぼけーっと考えるも陽美の妙な手つきに思考がどうでもよくなった。
「女神に、そういうの似合わないわよ。」
「女神なんかじゃ……」
「自覚ない?」
「あるわけないじゃないですか。それに、そういうの好きじゃないです。」
「そうじゃなくてさ、アイドルとしてーってこと。」
「あぁ……」
乃木坂0046時代、似たようなことを言われたことはあるが自覚と言うのは今まで抱いたことは無い。ああいうオカルト的なパワーでライブの邪魔をする連中と戦うと言えば、アイドルにあるまじきことだが、そういうことをしてきた。そこから、どこか、カルト宗教的な組織の何かになっていくことに対する何か抵抗のようなものがあった。
「んで、嫌になった?」
「わからないんですよね。そうして、何かに抗おうとした時にはキララのゲートの中にいて、此処にいて……」
今にして、思えば、どういう理由で、この世界に導かれたのか。改めて色々と考えてみる。
「逃げたかった、だけなのかな……」
「そうかな?自分を変えたかったんじゃない?もっと、自分をさらけ出すとか、そういうこと出来なさそうだし。」
乃木坂0046にいたときは、白石麻衣になりきることを求められていたし、襲名された時点で、”流石は園凪沙と園智恵理の娘”として見られてしまう。それで、求められた以上のことをすれば、余計なことをするなと言われる。魂の器、代替品として求められることも多かった。
己と言う個に対して非常に敏感な年ごろに、襲名と言うことをしてしまうのは、苦痛だったろうと、もし、そうではない普通のアイドルとしてデビューしていれば、この世界じゃ、運さえあればランラ・リー程にはなっていただろうと、曲がりなりにもアイドルを家族を持つ陽美は単純な分析をする。
「じゃぁ、バサラの弟子ってあれは?」
「どうなんでしょうね……このまま、ここでデビューしても、そういう肩書に惑わされてそう。バサラは関係ない。とか言いそうだけど。それ以上に、今の状態じゃデビューしてもうまく行かないだろうけど。」
「変に敏感になっちゃうんだよ。ま、有名人を弟子にしたりとか、そういうのを親に持っちゃうと面倒だよね。」
「まぁ、ね。」
何を知っているのだろう。なんて、そんなことを考えたくなる。いや、それなりに、アイドル未満の少女も見て愛されてきたのだろう。だから、人の心がある程度、掴めるようにわかるということだろうか。
「お姉ちゃんが二人いるんだけど、それを言われると、一番上のお姉ちゃんは喜んでた。綺麗だけど、すっごいマザコンだったから。そして、もう一人のお姉ちゃんはね、スッゴイシスコンで、一番上のお姉ちゃんが喜べば彼女や彼氏ができること以外は、凄い嬉しそうだったんだよね。ま、一番上のお姉ちゃんは凪沙ママ以上の人がいない限りは結婚しない。って言ってたけどさ。まぁ、関係は無いけど……でも、私、解んないまま。」
ただ、此処にいて、バサラと歌うことは、今までにない心地よさに抱かれた気がした。そして、熱気バサラのやること賛同して、今、こうして曲を作って歌ってはいるが、結果は、あの様だ。でもバサラのように歌で戦いを終わらせる、ミサイルよりもすごい爆発音なんてものが出せない。
「そりゃ、まだ、14でしょ?それが当然だよ。」
街頭モニターに映った蒼い髪の男性と緑の髪の女性を突然、指さして口を開いた。
「あれ、うちの爺とおばあちゃん。」
「随分と若い外見の祖父母ですね……」
「この不老を証明するために、おじいちゃんはゼントランになった。そして、寿命と若さが永遠に近いものになった。って映画が出たときは笑ったけどね。ね、命。」
「はい?」
「愛・おぼえていますか?」
この言葉から、どういう意味なのかが理解できずにポカンとするが、陽美は優しく抱きしめてくれる。含み笑いもありながら、ぽんぽんと頭を撫でられるのは、悪い気持でもない。
「は?」
「まぁ、それはさておき。」
構造がシンプルなのだろうか、こうして優しくされるだけで妙に心が落ち着いて嬉しい。バサラの父性的な物とは違う、そういう年の近い女性から、これがトキメキと言うものなのだろうか。そうだとしたら、これも単純なのだろうとも思うし、これこそ恋愛なんてものを体験していないからこその、そういうことを体験する年齢だからなのだろうか。
「それで、私も、当然、パイロットになったらそういう色眼鏡で見てくる人もいたよ。」
似たような境遇なのかもしれない。
「だから、私は命を好きになって愛したいって思ったんだろうねー。だって、普通は私を知れば、その名声がほしくて抱かれてくる女だっているんだよ?知らないとはいえ、そういうのを気にせず、こうして接してくるの樹里と隊長と、他のメンバーと命しかいないし。ジーナス家の女……マックスとミリアの血を引く女だからね。バサラのパートナーのミレーヌおばさんや、一時的とはいえ、バサラとパートナーを組んだエミリアおばさんなんて有名人がいるからさ。」
目的で近づく輩も多くいる。
「だから触ってやるだけ。触らせないの。打算的なのもいるけど、それだけで好きになられてもね。」
「あぁ……」
「レズサキュバスなんて呼ばれてる理由は、それかな。」
これが理由か。
そういう部分があるから妙に親近感のようなもの、と言えば、そういうことは無いのだが、偉大なる存在を持っている者同士と言うのか、そういう名前を背負ってるもの同士と言う部分、結局は、こうした似た者同士だから。なんだか、嬉しくなって思わず命の表情から笑みが零れた。
「やっぱ、笑った顔は可愛いね。」
「唄って喜んでもらって、一緒に笑いあうこと以外で、こうして笑うのずっと忘れてた気がする。陽美の、おかげかもだね。」
「命……」
こいつめ。
可愛い、食してやりたい。
触れさせてやりたい。
自分の処女を捧げたい。
陽美の中で渦巻くサキュバス的な欲求は止まることが無い。
真顔で見つめてくる美貌の女性を見て思わず気を許してしまいそうになる。それでも良いとは思っていル心境の変化と言うのは、どこから来たのか。ただ、何となく、秘密のようなものを共有できたのが嬉しかったのかもしれない。
「キス、していい?」
「で、でも……そんな……」
「そこから始まる恋愛もあるよ。」
手に手を取り合いながら、もう片方の手が優しく腰に触れた。そのまま、引き寄せて唇を重ねるつもりなのだろう。胸の中にかかるトキメキと言う名のエンジンは爆音のように命の身体全体に走り出す。
そういえば、両親も恋愛した時は自分と同じ年齢だったことを思い出す。
自分も、そういうものになってしまうのだろうか。このまま、導かれて愛されて、弱みを見せて真実を話す目の前の人に対して。
「そういえばさ。ミレーヌおばさんがFire Bomberで活動してプロトデビルンと戦った時は14才だったらしいよ。命と同じだね。」
そのまま、このまま、身を委ねてしまいそう。
ただただ、同じ境遇だから、通りで解ってしまうけど、そうしたことに対する解りやすさと言うのは人と人を繋がらせるのには調度良いきっかけになるのかもしれない。だから、だから……一緒にいれば、どうにかなるだろうか。考えると、なぜか、楽しそうなヴィジョンが脳裏に流れる。
しかし、一瞬、唇を重ねようとしたとき、その脳裏に美月の姿が一瞬、入り込んだ。なぜ、あの人の影が脳裏に走ったのか。
「お待ちなさい。」
考えていた時、鋭くも美しい声が命の耳の中に入った。その先にいたのは、まさに脳裏で考えていた人だった、美月……明らかに不快な顔を浮かべて、細い目を吊り上げて、背中にゾッとするのが走る感覚が陽美の中に走り込んだ。確かな殺気。脅すつもりであるのだろうが、それ以上にナイフを持って、これから殺し合いすることも厭わない危険さを持っている。ただのお嬢様でないことを兵隊としての勘が見抜く。
「ど、どうして……」
「貴女に会いに来たから。そうしたら、変な雌猫と絡んでいるんですもの。」
ただただ、それが不快だ。吐き捨てるように、目の前の美月にとっては金髪で下品な女がとにかく気に入らない。まして、この一日、ずっと一緒にいたような雰囲気が、自分の中に後悔を生んだ。敵を殺してしまえば、このまま、八つ裂きにしてしまえば。いや、あの出会いの時に、斬り裂いておけばと、自分の愛する姫は何処まで狙われたのかと苛立ちと同時に心配な性格が芽生えていた。
「……失礼ね。同意の上よ。」
「同意?この状況が?貴女が押さえつけているようにしか見えなくてよ。」
勝ち誇ったような声、その美貌を象徴するストレートロングの髪を揺らして背中から命を抱きしめた。
「命、こんな女の処にいないで、一緒に来なさいな。私が貴女を最高級の場所にいつでも連れてってあげるわ。」
「財力で奪おうとするんだ。それって、自分は財産しかない。って言ってるようなもんじゃない?」
「あら、お望みなら力づくで奪ってあげる。」
命は、陽美と美月が出会ってはいけない二人が自分を通して出会ったことに気付く。目の前で二人が良い争いをしている。それに関して、何を思えばいいのか、ただただ、黙るだけ。
何か、自分のことについて言い争いをしているのは解るが、それをまともには聞きたくない。ただ、何か、それが嫌だった。自分を思ってのことのケンカなんてのは、そんなのは傲慢な女の妄想だと思っていたが、どうも、こういう会話を聞いていると、そうではないらしい。
片や天才パイロットと、片や良い処のお嬢様だ。その陶器、作られた人形のようにも見える美貌の持ち主である二人が一人の少女を巡って。二人が男であれば、一部の女性にとっては嬉しい物なのだろうが。こういう時、どうすれば良いのかわからない。経験をしていないというのもあるが、それ以上に、それが嫌だと、言うこともある。逃げ出したくなった。
このまま、後ずさりしている自分がいた。思えば、こういう争いが、そんな好きじゃなかった。
あの世界の時だってそうだ。芸能の解放と謳う行動のための武力行使。理不尽なのはわかるがと口にしつつも、必要であれば暴力で打って出る行動。あぁ、思えば、母たちは最後のライブで、それを為したのだ。歌の底力に酔った。だから、唄うということが好きになったんだと。バサラの思いに共感したのは、こういう部分があったのかもしれない。
その過程で何かを忘れて、それが出来なくなった。だが、あそこにいたときは魂に縛られるだけで、望んでいたものが出来なくなったから。それに、こういう状況ですら、自分は何もできないし、歌っても無駄だ。自分の歌をどうにか出来ない自分が、目の前の二人の言い争いを止めることなど……
後ろを振り向いて逃げようとした、そのときだった。
「それでいいのか?」
「バサラ……」
神出鬼没なのはわかっているからこそ、そこに保護者である熱気バサラがいることに驚きはしなかったが、タイミングがよすぎると内心、突っ込みを入れながらも、この状況に来てくれたのは嬉しかった。同時に正直、助かったと思った。何に助かったのか。逃げるチャンスじゃない。
その言葉を聞いた時、ハッとするものがそこにはあった。
「ギスギスしてんな。歌でも聞けよ。そんなんじゃハートが爆発した時、とんでもないことになるぜ?」
「関係ないでしょ。突っかかってきたの、この女なんだし。」
「あら、貴女には勿体ないだけと言っただけで、突っかかった。訳じゃなくてよ?」
売り言葉に買い言葉とは言うが、まさに、この状況がそれだ。その状況をどうにかしたいのか、バサラがギターをかき鳴らす。そのメロディはバサラが唄わない歌、そして、イントロと思われる部分を優しく弾き鳴らす。しかし、唄おうとはしなかった。バサラは、唄うことをしなかったのだ。
”どうして唄わないのか”
そう、聞こうとしてもバサラの表情はどう見てもこたえてくれそうにもない。バサラは、何をしたいのか。命は最初は良く解らなかった。当然、喧嘩している二人は罵詈雑言を散らしながら、バサラのギターに対して聞く耳すら持とうとしない。バサラの顔を見て、どうすれば良いのかと訴える。
顔は相変わらず優しく、知らないメロディを口にするだけ。何をすればいいの。
教えてほしい。
いや、答えは出ているのだろう。
バサラの、その行動すべてがバサラの答えなのだ。
だが、命は気づかない。
その奏でている音楽でさえも。
ずっと、イントロの部分をかき鳴らしながら、命を待っていることに気付こうともしない。
心を落ち着かせて、止まることのない雑音を掻き消し、バサラのギターのメロディに耳を傾ける。どうすれば良いのか。
(何を……)
何をすればいいのか、その先の答えを見つけるために必死に動き出した。身動きを取らなければ行けないのに、現実から逃避したくなる自分が、そこにいる。だから、まともに考えずに逃げようとしてしまうのかもしれない。
ただ、一度、その場でゆっくりと落ち着いて、どうしようと考えてしまっている。改めてよく聞きなおし、そこにあるのは、自分の作った歌であるというのが良く解る。熱気バサラが奏でている自分で制作した楽曲。
ここまでの旅、バサラは常に誰かに歌を聞かせる為に動き出すのを思い出していた。
何のために歌を歌うのか。改めて立ち止まり、自分は誰の為に唄うのか考えていた。考えたことも無かった。だが、少なくとも元の世界にいる自分の価値観を押し付ける白石麻衣の価値観を押し付けるファンと名乗る傲慢な連中の為じゃない。
誰の為に。
だれのために唄うのか。
それが苦しくて、でも唄いたくて、気付けば、この世界にいた。
何のために唄うのか、何故、誰の為に、そんな問答を繰り返している中で唄う曲は歪なメロディに聞こえたのかもしれない。バサラは、それを解っていたのだろうか?
今は、二人が争っているのが何故か哀しい。
これで、二人をどうしたのか。
今は止めたい。
どうやって。
バサラのように歌で止めたい。
どうして?
いつのまにか、大事な人になっていたから。
陽美も美月も、自分を追いかけてきて、色々なことを話して教えてくれて見守ってくれた。
気にかけてくれる自分の歌を歪だっただろうに、それでも好きだと言ってくれた、自分を愛してくれた二人の女性の為に自分の歌を聞かせたい。
恐らく、この二人に対して何か胸の奥が燻るような熱い何かを命は感じていることに気付いた。熱い。身体が熱くて内側から全身が火傷してしまいそうだ。
熱い。
この身も心も蕩けてしまいそうなほどに熱い感情は、なんなのだろうかと胸も何もかもが熱い。まるで、心は高次元に達してしまったかのような熱さが全身を包み込む。
これが、これが忘れていた、自分の中にある必要な感情だったのだと命は思い知る。ゆっくりと口を動かせば、その自分の中に迫る熱いシンパシーが我慢できないと、枷から放ってほしいと口にする。
自分は今、この惑星ARIAの郊外にいるというのに、ここは、自分の全てを曝け出せる熱い空間にいるような錯覚を受ける。
だが、これが大切な自分の中に宿る歌への思いの原石なのだと感じ取る。それは何なのか解らない。まだ、掴めない。下手をすれば、このまま炎となって消えてしまいそうだ。
この心が、まだ、何であるのかはわからない。ただ、それでも、この胸の中に眠る思いのまま唄えば、変えられる。
この感情は、いずれ消えてしまうかもしれない。だが、一度、自分の中に宿った歌への思いは、再度、不死鳥のように甦ると確信して、保証のないまま、その思いが何なのか解らないまま……
変えられると思った瞬間には、もう命は……
唄っていた。
再び、一瞬だけバサラの顔を見た時、ニヤッと笑う。それが、バサラの狙いだったのだ。なら、唄うしかないだろう。しかし、自分に、それが出来るだろうか。
その中で、バサラは、どう唄っていたか。
自分を信じて、そして、争いを止められるように、そして、何より自分の中にある思いを曝け出すように信念をこめていた。そして、何よりも歌うことを楽しんでいた。命の葛藤のもとにオーロラが下りてくる。あの打ちひしがれた夜を、こうして思い出す。だから、園命は己を信じた。己の出来ることを。いや、己の作った歌を、この二人に。
目の前で自分のことで喧嘩している二人に。
「夜は封印……戸惑い混じれば……」
命がバサラのギターに合わせて歌い始めた。自分の唄を奏でていた。唄うこと、唄うことを、今。言葉の一つ一つを丁寧に紡ぎながら、バサラのメロディに合わせながら歌い始める。
これで、喧嘩が止められるなら、止めたい。
だからこそ、精いっぱい唄う。いっぱい、いっぱい、唄って、一つ一つ大切に言葉を口から紡ぐ。
一つ一つ、そこにある言葉を大切な二人に届くように紡いだ。命の唄が響くように聞こえたとき、陽美と美月は言葉を発するのやめていた。ただただ、呆けたように命の顔を見ている。そうして、徐々に姿勢を崩し、命の唄に耳を傾ける。何か二人の肉体から浄化されるような何かを感じ取った。
ただ、ただただ、聞き入れていた。
その言葉を。
そこに、どういうものがあったのか。何があったのか。
己の心境の変化に気付かないまま、ただ、二人とも喧嘩を止めていた。
そして、夢中でバサラのギターに合わせて歌い続ける命の姿を目で追っていた。
リズムを取りながら、聞き惚れていた時、気づけば周りには自分たちと同じギャラリーが集まっていた。
どこからか、聞きつけて、そして、報道のカメラマンもその命の歌う姿を映していた。
「ソノミコト」その存在を、この世界に示すかのような歌だった。熱気バサラ目当てもいるだろうが、確かに、此処で、今、人が集まったのはその命の持っている歌の力である。周りにいる人達が命の歌に全身を震わせるような興奮を味わいつつあった。
(え!?)
唄うことに夢中になりすぎていた命は、その世界を見て驚いた。いがみ合っていた二人が喧嘩を止めた。たった一つの迷いがチャンスをダメにする。
しかし、今、この些細な二人の喧嘩を自分の唄が終わらせた。
バサラが与えてくれた前へ通し進ませるチャンスを迷うことなく行使した結果が、今の二人を生んだのだ。
そして、周りの観客の多さに驚いた。いつの間に、夢中に唄っていたら、こんなにも多くの人が聞き惚れてやってきていた。一瞬、言葉を失いかけたが、それでも、バサラのメロディに合わせて命は最後まで気持ち良く唄った。
証明するかのように、久々にキララが光り輝いていた。
「中々だったぜ。命、今の、お前の唄は。」
「う、うん。」
自分で、何をしていたのだろう。
ただ、目の前の最悪な状況だった喧嘩を止めることが出来たのは凄い嬉しかった。物凄い満足感が今、命の身体の中を生まれて包み込み、支配している。
「良い笑顔じゃない。」
「ホント、流石は私の命ね。」
互いに認め合うように陽美と美月が命を抱きしめた。
今は、敵味方関係なく、命を抱きしめ、そして、周りのギャラリーたちは喝采の拍手を送る。
(だから、欲しくなるのよ……余計に自分のものにしたくなる。あぁ、私のシンボルにしたい。私の子供を、この子に産ませたい……)
しかし、それでも邪な考えと言うものは出てきてしまう。
美月の中に、強い欲求が確かに生まれたのだ。
陽美の中にも、また強い欲求は生まれてくる。
二人が考えていた時、SMSを呼ぶ連絡サインが陽美の電話に鳴った。同時に街に緊急事態を示す大きなサイレンが鳴り始めていた。そして、美月は命の頬にキスをしてから、ここから走り去った。何かを知っているような顔だった。バサラは怪訝な顔を浮かべ、陽美は美音を追おうとしたが、命が放っておけずに舌を打って命を抱きしめた。
命の疑問の言葉が恐怖を告げようとしたとき、その回答は空が割れるように現れた多量の機械兵器の大群の登場と同時に、その意味を教えられた。
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| マクロスLily
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