私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

裏切り者(traitors)

2017-12-27 22:22:17 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
 これまで、シリアのアサド大統領はクルド人問題について、私の知る限り、ほとんど全く言及してなかったのですが、ここに来て(12月18日)、米国の支援を受けているクルド人軍事勢力を「裏切り者(traitors)」と呼びました。多数の報道記事がありますが、シリア政府に最も近いと思われる「シリア・タイムズ」の12月18日付の記事によると、アサド大統領の発言は
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"Whoever works under the leadership of a foreign country against his country, his Army, and his people is a traitor, especially those who work with the Americans."(誰であれ、彼の国、彼の軍隊、彼の国民に逆らって、外国の統率下で動いている者は裏切り者だ、特にアメリカ人たちと一緒にやっている者たちは。)
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http://www.syriatimes.sy/index.php/presidential-activities/34024-those-who-support-terrorism-have-no-right-to-talk-about-peace-president-assad

といった風になっています。この記事でアサド大統領はロシアとの関係を主に論じていて、来年1月に予定されているソチ会議について「(この会議では)シリアの憲法が、現在の憲法のままでで良いのかどうか、改訂を必要とするのかどうか、シリアは新しい憲法を必要とするのかどうか、を議論する」として、「もし、改訂されることになれば、それに基づいた選挙が行われる」ことを強調しています。この長い記事の中で「クルド」という言葉は一度も出ていません。
 しかし、アサド大統領の発言で“アメリカ人たちと一緒にやっている者たち”というのがクルド人部隊(YPG-YPJ)を主体とするSDFを指しているのは明白ですから、他の報道機関は陽にクルドの名をあげた記事を掲げました。例えば、イランのプレスTVには:

http://www.presstv.com/Detail/2017/12/18/546047/Syria-Russia-US-Bashar-alAssad-Dmitry-Rogozin-YPG-Daesh-economy

“All those who work under the command of any foreign country in their own country and against their army and people are traitors, quite simply, regardless of their names, and that is our evaluation of the groups that work for the Americans in Syria,” President Bashar al-Assad said on Monday, responding to a reporter’s question about Kurdish activities, according to state media SANA.

となっています。

 シリアのクルド人たちについての、アサド大統領の初めての公式の敵対発言に対するSDF(YPG-YPJ)側からの反応は迅速かつ激烈でしたが、真の含意をはっきり読み解くのは困難です。どの発言にも、すでに米国の息がかかっている気配が感じられるからです。関係記事は多数目につきますが、その主な主張傾向の一つは、(1)もともとアサド大統領こそがシリアの住民を裏切る独裁者であり、彼の方こそ「裏切り者」だというものです。例えばSDFの声明:

http://en.hawarnews.com/sdf-we-are-one-who-overthrew-treason-al-assad-is-last-to-speak-of-betrayal/

この「裏切り者」という言葉ですが、裏切りとは、以前に志を同じくしていた筈の人間集団の仲間内で生じる現象であることを忘れないようにしたいものです。
 二番目の主張は、(2)アサドはトルコを助けている、というものです:

https://anfenglish.com/features/democratic-federation-s-response-assad-plays-with-fire-23739

https://anfenglish.com/rojava/foza-yusif-assad-s-accusation-against-kurds-serves-turkey-23756

アサド大統領の「裏切り者」発言に対する反論として、「アサドはエルドアン大統領と“ぐる”になっている」と断定するのは明らかに馬鹿げたことですが、この(1)と(2)の主張の背後に米国の言論操作の影を私は見ます。
 三番目に注目すべきは、SDF(YPG-YPJ)側が表明する、(3)SDFが占領した地域を守りぬく、という決意です。これはよく注意して接しなければなりません。例えば次の記事です:

https://anfenglish.com/rojava/people-of-tabqa-respond-to-assad-we-are-all-sdf-fighters-23875

これは、SDFがIS を追い払った北部の要衝タブカで、12月26日、行われた「アサドの裏切り者発言に対する抗議集会」の報道ですが、要点は「ISが攻め上がって来た時にはアサドはタブカの住民を見捨てて遁走したが、やっとSDFがやってきて我々を救ってくれた。今や我々すべてがSDFだ」というものです。このブログでも以前取り上げたことですが、トルコと米国がアサド政権を痛めつける手段としてISを支持し利用していたことは、少なくとも、SDF(YPG-YPJ)の幹部たちには分かっている筈と思われます。ラッカで表面化したこの事実は、タブカの攻略戦でもすでに存在していた可能性が十分あります。
 タブカでのこの抗議集会の声明では、次のように、クルド人だけでなく、他のすべての人々も SDFを一致して支持することが強調されています:
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“We strongly condemn Bashar Assad’s immoral comments that accuse our forces of treason. The whole world knows that these forces are fighting against terror in Syria and enable the unity of Syrian people. Kurds and Arabs are working together, having fought in the same emplacements in Tabqa.
Those who label Syrian Democratic Forces “traitors” do also label Kurds, Arabs, Syriacs and Turkmens “traitors”. We state that we will give our struggle with the Syrian Democratic Forces that we support.
Bashar Assad’s irresponsible comments aim to deepen the crisis in Syria.
We all know that the Syrian regime conducted attacks, too, while the Tabqa city faced terror attacks. The regime abandoned Tabqa city into the hands of gang groups that later handed the city over to ISIS gangs. After a long while, Syrian Democratic Forces came to our rescue. There are hundreds of young women and men from Tabqa in SDF ranks. Those young people liberated our city with their blood, paying the heaviest price. For this reason, we do not accept Assad and others labelling such a force “traitor”.
On this basis, we declare that we will continue working with the Syrian Democratic Forces under the Syrian Democratic Council where our children are present. All together, we will build a Syria on the basis of peoples’ brotherhood, that involves all peoples and faith groups.
We call on all segments to unite around Syrian Democratic Forces. We are all SDF fighters.”
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 現在、実質的に米軍指揮下にあるSDF(YPG-YPJ)勢力の支配する地域の面積はシリア全土の面積の30%近くになっています。SDFの幹部たちがどのような言葉を使うにしろ、これは米国がシリア国内で不法に占領している地域です。米国がSDFの軍事力を利用して、このままこの不法占領を続けるならば、シリア戦争は終結することなく、だらだらと継続することになります。
 私としては、シリア北部のロジャバのクルド人がロジャバ革命の理念を堅持しながらも、スペイン北部のバスク地方(ゲルニカの町はそこにあります)の人々と同じように、今のシリアの国土の中で大幅の自治権を獲得して、とにかく今のシリア戦争が終焉することを強く希望します。
 ロジャバ革命については、Hitoshi Yokoo さんから、これまで有益なコメントを数多く頂いています。次回には、そのことについて私の思いを綴ってみることにします。

藤永茂(2017年12月27日)