私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

アフリカが、コンゴが危ない

2011-10-27 15:34:23 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 
この記事はカダフィが殺害され、日本の新聞各紙がリビアについての社説を出した10月22日(土)に書いています。読売,朝日、毎日、産経、日経、西日本をチェックしましたが、今回のリビア紛争を大局的に見た場合の核心がアフリカ問題であることにいささかでも触れた社説は見当たりません。この事の他にも心の凍る想いのする共通点がこれら六つの社説にありますが、今日はリビア問題がアフリカ問題である事を、これ以上の明確さは望めないような形で説いた John Pilger の論説の翻訳を試みます。この論説はカダフィ死亡の直前の10月20日に発表されました。原文は下記のサイトにあります。
http://www.johnpilger.com/articles/the-son-of-africa-claims-a-continents-crown-jewels
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『アフリカの息子、大陸の王冠宝器を要求』  ジョン・ピルジャー

10月14日、バラク・オバマ大統領はウガンダの内戦に参加するUS特殊部隊を派遣すると声明を出した。これからの数ヶ月間USの戦闘部隊が南スーダン、コンゴ,中央アフリカ共和国に送られるだろう。アメリカ兵たちは“自衛のため”にのみ“参加する”ことになろうとオバマは諷刺か何かのように言う。リビアを確保した今、アメリカのアフリカ大陸侵略の幕が切って落とされたのだ。

オバマのこの決断は“高度に異常”とか“驚くべき”とか、“不気味だ”とさえ新聞やテレビで記述された。そのどれも全くの的外れだ。この決定は1945年以来のアメリカ外交の論理そのものである。ベトナムをとってみよ。帝国主義的ライバルの中国の影響を止めるのがまず第一の目的、それにインドネシアを“保護”する狙いもあった。インドネシアを、ニクソン大統領は“あの地域の天然資源の最も豊かな宝の山、最大の掘り出し物”と形容した。ベトナムはたまたまその邪魔になったわけで、3百万人以上のベトナム人の命、ベトナムの大地の荒廃と毒物汚染はアメリカが野望を達成するための代償であった。その後の中南米、アフガニスタン、イラクと続く流血の軌跡が示す、アメリカのあらゆる侵略戦争の口実は常に“自衛”あるいは“人道主義”、これらの言葉は辞書にあるその意味をすべて空しいものにしてしまった。

オバマは、アフリカでの“人道主義的使命”はウガンダ政府が「神の抵抗軍」(LRA, Lord’s Resistance Army)を打ち負かすことを援助するにある、と言う。オバマが言うように、“LRAは中央アフリカで何万もの老若男女を殺し、レイプし、拉致してきた。”これは確かにLRAのやってきた事だ。だが、それは、アメリカが寄与し、執行させた幾多の残虐行為を想起させる。例えば、コンゴ独立の指導者で最初の合法的選挙で選ばれた初代コンゴ首相パトリス・ルムンバの、CIA主導による暗殺とCIA主導のクーデター、モブツ・セセ・セコの擁立に続く1960年代の大量殺戮、セコは金次第で何でもするアフリカの最高に腐敗した暴君と見なされた男だ。

オバマが口にする他の正当化もまた諷刺を招く。“アメリカ合衆国の安全のため”と言うのだ。過去24年間、LRAはひどいことをやってきたが、アメリカとしては殆どどうでもよい事だったのだ。現在、LRAは400人弱の戦闘員を持つだけで、すっかり弱体化している。しかし、アメリカの“安全をまもる”とは、通常、アメリカが手に入れたい「何か」を持っている腐敗した暴漢的政府を買収することを意味する。ウガンダの“終身大統領”ヨウェリ・ムセベーニは、既に、オバマお気に入りのdrones(無人攻撃機)を含むアメリカからの“軍事援助金”4500万ドルをほぼそっくり懐にしている。アメリカの最新版の幻の敵、ソマリアに根拠を置く烏合の衆のイスラム軍団シャバーブに対する代理戦争をアメリカに代わって遂行するための賄賂の分け前だ。そのRTA(リアル・タイム・アタック)は、間断なきホラー物語で米欧のジャーナリストの目を紛らす広報活動の役を果たすだろう。

しかしながら、アメリカがアフリカを侵略している主な理由は、ベトナム戦と同じだ。中国である。前米軍総司令官、今はCIA長官のペトラウス将軍が言う所の不断の戦争状態を正当化する、自己利益本位の組織的パラノイアの世界では、アメリカの公式の“脅威”として、中国がアル・カイダに取って代わったのである。昨年ペンタゴンで、私が国防長官補佐のブライアン・ホイットマンをインタビューした時、アメリカに対する“脅威”の現状についてコメントを求めると、ありありと言葉に窮した様子で“非対称的脅威、・・・、非対称的脅威”と繰り返した。こうした“脅威”がアメリカ政府が後援する武器製造巨大企業体のマネーロンダリング(不正資金浄化)と史上最高額の軍事予算を正当化している。オサマ・ビン・ラディンが抹殺されると、今度は中国というわけだ。

アフリカは中国のサクセス物語である。アメリカは無人攻撃機と不安定かを持ち込んでいるが、中国は道路や橋やダムを持ち込んでいる。中国がの欲しいのは天然資源、とりわけ石油だ。カダフィ支配下のリビアはアフリカ切っての石油埋蔵量を誇り、中国の最も重要な石油源の一つであった。リビアで内戦が勃発して、カダフィがベンガジで“大虐殺”を計画しているという捏造の理由を根拠にして、NATOが反政府勢力の支持を表明すると、中国はリビアで働いていた3万人を避難撤退させた。それに続いて国連安全保障理事会は米欧の“人道主義的介入”を許すことを決議したが、その理由が、先月のフランスの新聞リベラシオンによって直裁に明らかにされた。リビアの国家暫定評議会(NTC)が、リビアの全石油産出量の35%の提供と“引き換え”に、“全面的かつ永続的”な支援をフランス政府に対して行なっていたのだ。先月、“解放された”トリポリに星条旗を高々と掲揚しながら、US大使ジーン・クレツも“石油がリビアの天然資源の王冠を飾る宝玉だということは先刻承知している”とうっかり口を滑らしてしまった。

USとその帝国主義的パートナーによるリビアの事実上の征服は、19世紀末のScrample for Africa(アフリカの争奪)の現代版の開始を告げるものである。

イラクでの“勝利”と同様、ジャーナリストたちは、リビア人を価値ある犠牲者と価値なき犠牲者に二分することに決定的な役割を演じた。最近のガーディアン紙の第一面に、怯えきった表情のカダフィ側兵士とそれを引き捉えて狂気の目を輝かせる反カダフィ側兵士の写真を掲げ、“いざ祝え”とキャプションを付けた。ペトラウス将軍によれば、今や“ニュース・メデャを通じて行なわれる「知覚(perception)」の戦争”があるのだ。

これまで10年以上、アメリカはアフリカ大陸に攻略指令拠、AFRICOM、の設立を努めてきたが、それが引き起こす地域的緊張を恐れてアフリカ大陸のすべての国がその受け入れを拒否し続けてきた。リビア、そして今後はウガンダ、南スーダン、コンゴが、AFRICOM設定の主なチャンスを与えるだろう。ウィキリークスとUS対テロ国家戦略が明らかにしているように、アフリカに対するアメリカのプランは、暗殺班を含む6万人の特殊部隊がすでに世界の75カ国で活動していて、間もなくその活動範囲は120カ国に及ぶというものである。ディック・チェイニーが彼の1990年代の“防衛戦略”プランの中で明言したように、アメリカは、ひと口で言えば、全世界を制覇したいのである。

この状況が“アフリカの息子”であるバラク・オバマの贈り物だとは、何とも至上のアイロニーである。いや、そうだろうか? フランツ・ファノンが“黒い皮膚、白い仮面”(Black Skin, White Masks)で説いたように、肝心なのは皮膚の色ではなく、むしろ、オバマが奉仕する権力と、オバマが裏切る無数の人間たちのことであろう。
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リビアの問題は、そのままアフリカの問題なのです。この視点が失われては、何も見えてないのも同然です。


藤永 茂    (2011年10月27日)