こ、これは……今年デビューする幾人ものライトノベル作家の方々には非常に厳しい年になってしまったなぁ、という絶対的な印象を抱かせるほどの完成度。
卑屈にならざるを得ない少年が、その卑屈さ故に少女を傷つけてしまうのだけれど、しかしその過ちに気付いて少女を守りぬくことを誓うお話。
まっさっに! ビルドゥングス・ロマンのはじまりを予感させる今作です。
主人公のハルユキを陰性の気質の持ち主にしたことで、スタートの位置が低くなっているのですよね。
なので「這い上がる物語」としては、もう舞台が整っている、と。
しかしそこでいつまでもウジウジしていると物語のテンポも悪くなりますし、読み手の興味も薄れていってしまいますし、それどころか動かない状況に嫌悪すら覚えるかもしれません。
んでも今作では「社会における下層民」ということを必要条件だけ提示したあとは、誰もがうらやむヒロイン≪黒雪姫≫との出会い、興奮をかき立てる仮想世界≪加速世界≫との接触、さらに意味もわからぬままに始まる初陣……と、めまぐるしく状況が変化していくのですよね~。
この仕掛けの速さがとても好感!
≪加速世界≫という魅力的な設定を擁しても、それに筆致が追いついていかないような速度では困ります、が。
んでも今作では設定をなぞるような勢いが筆致から感じられるのです。
またオンラインゲームを舞台として用意した作品はこれまでもありましたけれど、オンととオフの相関性を活かした作品って少ないのではないかなーと。
あるいはどちらかが従属するような関係だけであったような。
アバターとリアルの差を物語の中に仕掛けたのは珍しいように思います。
ハルユキという少年の成長譚としても見応えが。
先述のようにハルユキの立場は社会の低いところにあったわけですけれど、ヒロインに見出されるというきっかけが彼を高みへと引き上げていくのです。
きっかけがあるのは当然です。
そこから物語が始まるのですから。
でも、そのきっかけが偶然であったか否かで、物語への心象は変わってくるのではないかなーと。
そのきっかけは、ハルユキが、社会に抑圧されながら鬱積していく想いをただぶちまけていたモノでしかないです。
んでも、それはハルユキが行動していたから示すことが出来たわけで。
ただただ不満と不平を自身のウチに溜め込んでいただけでは、≪黒雪姫≫の目に付くこともなく、彼女との邂逅も無かった。
少年の行動が未来への扉を開けた。
これほど真っ当な物語の始まりは無いと思います。
それは偶然などではなく、少年が起こした、少女が願った奇跡なのです。
そして動き出した物語のなかで少年は過ちを犯して少女を傷つけてしまうワケですけれど、そのことを自戒し、省みて、次になにをすればいいのか、なにをしなければいけないのかを彼自身が考えて辿り着くところが素敵なのです。
傷つけてしまった少女への贖罪だとしても、少年はそこでひとつ大人になったと感じることができるのです。
しかし少年が成長することを安易に達せられることも今作はしていません。
願っただけで叶うのでは興醒めです。
そんなの、物語じゃない!とも言えます。
願いを叶えるための通過儀礼。
叫び、駆け、拳を振り上げて邪魔するモノを打ち破る。
血を流し、その身をどれほど痛めようとも、叶えたい願い――少女のためなら、少年は諦めない。
いくつもの代償を払うことになっても、少年は少女のために戦うのです。
それが、願うということだと。
まだ13~14歳の中学生だからこそ思える甘酸っぱーなやりとりも面白くて。
素直でいられる時代は過ぎてしまって、かといって気持ちを伝えるすべをまだ巧くはできないでいるもどかしい世代。
気付いて欲しいんだけれど、自分から伝えることを恥ずかしく思ってしまうワケで。
そこにすれ違いが起こって、物語が始まり、動くのですよね~。
理性的、理知的にふるまっている≪黒雪姫≫とはいっても、所詮は14歳の女の子なワケで。
彼女が見せた情緒不安定さは、いわゆる「デレ」とかいうこととは違って年相応の愛らしさだと思うのです。
で、ハルユキよりも一足飛びに思考が達してしまうのは、オトコノコよりもオンナノコの方が成熟が早い……ということなのでしょうか?
≪黒雪姫≫もチユリも(笑)。
しっかし、表紙&カラー口絵の≪黒雪姫≫は見事ですねぇ……。
大丈夫?と掲載を不安に思うくらいの扇情さですよ。
すごく……14歳らしい……ふくらみが……(えー)。
さて、物語は始まったばかりで、今後の展開に激しく期待せざるを得ません。
久しぶりに大賞らしい存在感を持った作品でした。