高潔な英雄が術にかかり俗へと堕し、その姿に契約していた精霊は落胆しつつも縁を切れないでいて。
やがて高原を舞台に広く政変が起こり、元英雄と精霊もその中に巻き込まれていく物語。
いやー、入りがスゴイですよねー。
英雄が、魔術?に遭ったとはいえ俗人へと堕ちて始まるんですもん。
しかしですよ?
この尊敬すべきところがほとんど無くなった元英雄、だからこそイヤに人間くさいんですよー。
人を疑い、事件の裏をさぐり、とにかく信用することをしなくなった元英雄。
怠惰とも自暴自棄とも違う、むしろなにか達観したような風格さえ感じてしまうのですがー。
世の中は綺麗事だけで成り立っているワケではないっちうかー。
慕ってくれる女の子に対しても「一般的に考えると」酷いことを言って突き放すのですけれど、それもまた逆の側面では女の子の心を試すものであったようなカンジ……と言うのは持ち上げ過ぎかなぁ(^_^;)。
酷い言葉でしたけれど……それで、それだけで恋を貫けないなら、その試練止まりの恋だった、ということですし……。
んー……。
それに元英雄のほうも「ウソの言葉」は使ってないですし……。
いやま、ウソでなければなにを言っても良いとはいいませんよ?
でも、真実を前にしてどう行動するのかを試されたということはあると思うのです。
で、この女の子、先へ進むと元英雄の友人と見合い結婚してお子さんを……。
読者感覚だと、なんというNTR展開かと!(笑)
元英雄がとった行為があれば仕方ないとは分かりつつも、この展開はツライわー。
で、高原に巻き起こる政変はこの子を中心に回っていくのですけれど。
そうなったときの元英雄の立ち位置が傍観者であるところもすごいな、と。
こういう大きな世界の動きがあったとき、主人公はそれに深く関わっていくものがパターンだと思うのですが、しかしこの元英雄はそんなことを望まず、そしてその通りに風を避けて進んでいくのです。
うはぁ、なんという主人公……(^_^;)。
そりゃ契約している精霊も悲しむわ(笑)。
でもです。
何度も繰り返しますけれど、元英雄は積極的な望みを失っただけで間違ったことはしていないのです。
もちろん正しいことをしている、とは言えませんけれど。
うん。尊敬には値しないと思う。
でも、そういう彼の目を通すからこそ、世界の醜さ、あるいはその反対に美しさも見えてくるような気がします。
元英雄を慕っていた女の子と、見合いで結婚した旦那様。
経緯が経緯だけに夫婦仲が良かったとは言えないのですけれど、事件をきっかけに歩み寄りをみせた場面。
「ファム、一つだけ言っておきたいことがある」
シェンルンは妻の肩を掴み、
「私はきみのことが……」
「わかってる。ゴンバ・ルドの精霊があなたの想いも、ジュエルを助けてロワールに国を建てたことも、傷ついた体で私を助けに行こうとしてくれたことも見せてくれたわ。あなただけが、私への想いを貫き通してくれた。今やっと思える。あなたが夫で、よかった」
いやー、もう、こう言われる/言うのって、主人公とヒロインですよねー。
これを見ているだけの主人公は、ホント傍観者(笑)。
わたしとしてはこの情けない旦那様が駆けつけたときの――
「間に合わなかった!」
「いつも一歩遅いのよ、あなたは!」
――には大笑いしましたけど(^-^)。
先述のセリフにしたって、今更言うな遅いわ!感がありまくりでしたしー。
表舞台から退いた元英雄。
再び立ち上がってくれることを期待する精霊。
ふたりがこのまま傍観者であるのか、それとも時代が彼らを表舞台へ押し上げるのか、この先が楽しみな新シリーズです(よね?)