高校卒業と同時に選択の余地無しで林業の現場に放り込まれたオトコノコのお話。
文明から遠く離れた田舎暮らしに当初は辟易しながらも、なにごとにも大らかな村民と触れ合い、都会では見られない自然のダイナミズムを目の当たりにする中で見事に順応していくオトコノコ。
都会では生きる目的を見つけられずにくすぶっていた彼が田舎暮らしを経て「大人へと成長する標」を見つけるまでの物語。
林業という昨今話題の後継者難な職業現場を舞台にするあたり、三浦センセらしい嗅覚というか視点というか、面白いものを感じ取る作家としてのセンスを感じます。
林業のみならず生活上不便が多い田舎暮らしって、こと現代の物語を書き下ろすにあたっては一筋縄ではいかない部分が多々あると思うのですよ。
都会モノへ向けての共感性とか、反対に田舎暮らしへの好奇とか。
そういうったものをどちらか一方に偏ることなく、ことさら堅苦しい雰囲気を醸成せずに語っていくのは見事なバランス感覚ではないかとー。
なんといってもキャラ配置が絶妙ですよね~。
主人公の勇気は10代の少年?として年相応に反発しつつも、ただ逃げることは負けだと受け止める負けん気とかー。
アタマで理解するより先に大事なモノ大切なモノを感じ取れる積極性とかー。
その行動力とか気概や性格がまったくもって主人公(笑)。
そんな単純な勇気が主人公だったからこそ、この作品は物語になっているのだなぁ……と思ってしまうくらい。
その兄貴分の与喜は無茶と無理を通しながらも細かな気遣いは忘れてませんし、言葉より行動で道を示す頼りになるガキ大将(笑)。
ほかにも仕事の先輩たるおじいさんたちが脇を固めて、勇気の成長を厳しく温かく導いていくという。
うーん……。
こりゃファンタジーのビルドゥングスロマンですかいの?(^_^;)
とくにキャラクターというものが用意されていなくても村中みんな顔見知りな田舎村独特の交流があって、それがまた都会にはもう見つからない絆として描かれているんですよね~。
たしかに鬱陶しい部分もあるのでしょうけれど、そうした関係をうらやましくも思えるのです。
一点、惜しむらくは、そんな村で出会った年上のワケあり女性とのロマンスがかなり省略されてしまっているところなのですがー。
今作においてロマンスはちょっと的はずれな方向性でもあるでしょうし致し方ないトコロでしょうか。
オトコノコにとって恋心は起爆剤である――その意味づけは十分に描かれていますし(笑)。
林業という仕事についての描写以外にも、村の祭りや四季と共に姿を移ろう山の情景とかまでもしっかりと書き込まれていて。
ステキなスローライフ読本ですわ~。