ありがとう。
読み始めてすぐにそんな気持ちが浮かびました。
この本は、きっと、恐らく──いや絶対に大きな売上を残すような「商品」ではありません。
説明も、解説も、そして前巻からの引きを取り繕うような散文もなにもなく、冒頭から始まるクライマックステンション。
これはもうこの作品は「ここまで付き合ってくれた読者のみをターゲット」にしているものだと感じられたのです。
それは読者への贈り物といって良いくらいです。
もちろん作品を完結させることは著者にとっても利あるところです。
なので一から十まで読者へ贈るものではないとは思いますけれど、それならばそれで「著者と読者のみが共有できる世界」がここに存在していると言えると思うのです。
最初に言いましたように、この作品の売上は決して芳しいものではないでしょう。
でも、それを見越してなお刊行まで辿り着けた編集サイドの尽力と判断、そしてきちんとした形で完結させてくれた夏海センセに感謝したいです。
そんな気持ちにさせられてしまったので、水無瀬一佐率いる反アポストリの先鋒<水車小屋>の暗躍が結果を見せ始め、アポストリ側が次々に追いつめられていく状況から展開していく冒頭でもう興奮ですよ!
そうした現状を眺めなにが最も自陣営の利となりうるのか、自分の利となるのか見定めようとする者たち。
踊る会議と、猛進していくタカ派の一団。
腰の重い日和見を動かすために、そしてタカ派の動きを牽制するために、学たちの一進一退の攻防が緊迫感あってもーっ!
ひとつの問題をやりこめたと思って興奮していると、すぐにそれを打ち消す厳しい現実が待っていて落ち着くヒマも無いったら!(><)
今巻はもうずっとそんな上げ下げテンションでした。
それでも諦めずに次々と問題を乗り越えていく学の姿には素直に感動できましたなぁ。
このシリーズって、なんの力も持たない高校生が、自らの身一つで諸問題を乗り越えていくところがスゴイと思うのです。
それも火事場の馬鹿力といったものですらなくて、知恵と勇気と優しさの執念で乗り越えていくのですよね~。
設定段階で構築しているのではなく、文脈の中で、あるいは物語の中で答えを明らかにしているっちう。
軍事モノはライトノベルでは大成しないと感じていますけれど、理詰めできちんと物語を構築できる人が少ないせいでもあるのかなー……と思ったりします。
そんな次第で善戦しながらも追いつめられていく学たち親アポストリ派および親人類派ですが。
終盤へ向けての大逆転劇を生む伏線があちこちに見えていて。
これがまた熱いったらないですわー!
これまで学と関わってきた人が学を通じてひとつの流れになって反撃の狼煙を上げて。
才能っていうのは物理的にどうこうできるもの「だけ」ではないのだなぁ……と。
それだけを才能と言ってしまっては、学が勝つ理由なんてなくなります。
学が活動してきた全ての結果が、ここにひとつに集約されていくのです。
個性という面だけの「キャラクター」ではなく、南方学という「人間」が今作では描かれていったのだなぁ……と感じます。
で!
そんな緊迫した状況が途切れなく続いている状況であるにもかかわらず、しっかりと絆を結ぶ学と葉桜のラブっぷりも、もうねもうね!!!(≧▽≦)
「あのシーン」では、もう、どこのハリウッド映画かと思いましたよ!(笑)
しかぁ~も!
灯籠参事官がここにきて急展開!
いや、学に固執していたようなトコロを鑑みるに、それもまぁわからないでもないですか……。
ここらあたりのこと、どうなのかなぁ……。
どうなっちゃうのかなぁ……。
外伝求む!(笑)
主人公は走り出し、ヒロインは主人公を信じ、そして彼の名のもとへと集うオールスターキャスト。
まさにクライマックス。まさに大団円。
ここまでの勢いが止んで、ホッと余韻にひたれるラストでした。
そしてエピローグ。
今回の事件は終息しましたけれど、また再び同じようなことが起きないとも限らないワケで。
それは人間とアポストリの共棲関係が変わらない限り変わらないばかりか、生物の種として背負った業が運命付けているのかも。
それでも学と葉桜は手を取り続けていくでしょうし、そうした姿は違う場所でも見られるかもしれない。
一年前の夏に出会ったふたりが、また夏を迎える頃にこうして世界の行方を変えるような存在になれた。
出会いが、世界を変えたのです。
なんて見事なボーイ・ミーツ・ガール。
ステキな物語をありがとうございました。
夏海センセの今後のご活躍を期待しております。