推理ミステリの観点から言えば、海堂センセの作品のなかでイチバン好きかも。
なにが起こっているのか見通しのきかない中で、次第に浮かび上がってくる事件像。
犯人はもちろんわかっているのですから、あとはそれをどうやって行ったか、なぜ行ったか。
それら真相が浮かび上がるたびにドキドキが加速していってですねーっ!!
そしてもちろん物語のウェイトが推理ミステリにあったとしても、作品としてのウェイトは現代医学をとりまく諸問題への警鐘という点にあるあたりも海堂センセらしいトコロ。
地域医療の崩壊、代理母出産、論文主義の医学界……etc。
ことに地域医療のなかでも大きなしわ寄せがきている産婦人科と小児科のお医者様不足についての見解は舌鋒鋭くて。
海堂センセご自身がお医者様ということもあって、内側から見ることのできる実情を真摯に語ってくれているものと思います。
おりしも先日には出産時に妊婦を助けられなかった産婦人科医師への判決がおりたばかりのご時世です。
現場は既にフィクションの世界へ追いついてきてしまっているのです。
……というか、あの事件をモチーフに今作は描かれてる?
だとすれば、現実は海堂センセの見通したとおりに進んでいるのですね。
「少子化対策特命大臣、なんて人気取り部署を創設するくらいなら、時代遅れの司法判決に即座に噛みつくくらいの反射神経がないと、何の意味もないわ」
これはもう海堂センセの本音でしょうね……。
たとえば日本の現代医学をもってしても出産時における赤ちゃんの死亡率は0.4%あるのだと。
「そのとき」お医者様が全力を尽くしたのかは別に明らかにされる必要があるとしても、わたしたちのほうもお医者様の助けを受けるときには「死」の可能性を受け止めなければいけないのだと思います。
作中でも触れられていましたけれど、病とはマイナスからのスタートであるということ。
お医者様が治療をしてくれて完治したとしても、それはマイナスがゼロになっただけ。
それゆえに患者と家族は治療という行為への感謝に不感症でいるのではないかと。
それではいけないと思うのです。
医学と医療のはざまでもてあそばれる現実を背景に、形を成していく事件。
権威に対して一矢を報いるも、それは一時の栄光でしかなく、真なるクライマックスはそのあと。
事件がどうあれ、現状がどれだけ非情でも、それでも生への賛歌こそが海堂センセの真意だなぁ……と思わずにはいられないクライマックスでした。
そしてその余韻にひたることのできるエピローグ。
なんというか、もう、パーフェクトすぎやしませんか?ってカンジ。
海堂ワールドとしては浮いていた感のあった『医学のたまご』も今作をもって十分につながりを持つこととなって、いよいよ桜宮市の世界が広がります。
これからの展開がますます楽しみになってまいりました!(≧▽≦)