ノーベル賞どう生かすかは“みんなの宿題” 老いるヒバクシャの警告

「これからは、私たちがやってきた運動を、次の世代のみなさんが、工夫して築いていくことを期待している」。日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)が受賞演説に込めたのは、将来を担う世代への希望だ。
「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救おう」。日本被団協は1956年8月10日の結成宣言で示した決意をもとに、核兵器の廃絶と原爆被害に対する国家補償を求めて運動を続けてきた。
「核のタブーの形成に大きな役割を果たしたことは間違いない」。演説でそう自任したように、国連など世界の舞台に赴き、身をもって体験した核兵器の非人道性を証言した。82年の国連軍縮特別総会で「ノーモア・ヒバクシャ」と訴えた代表委員の山口仙二さん(故人)が有名で、5年おきの核拡散防止条約(NPT)再検討会議には役員らが毎回渡米している。
国際社会への度重なる訴えは「ヒバクシャ(Hibakusha)」という言葉を世界に広め、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約の前文には「ヒバクシャの苦しみに留意する」と盛り込まれた。
一方で国家補償は今も実現せず、94年制定の被爆者援護法による対策は放射線被害に限定された。田中さんは演説で、日本政府が補償を拒み、「償いをしていない」と二度繰り返した。韓国やブラジルなど海外に暮らす被爆者への法の適用も遅れ、裁判などで勝ち取ってきた。
今回の授賞は被爆者が積み重ねてきた運動を称賛するものだが、組織の活動は厳しくなっているのが現状だ。運動を長年先導してきた主要メンバーの多くは世を去り、田中さんは演説で「10年先には直接の体験者としての証言ができるのは数人になるかもしれない」と言及。被爆者健康手帳所持者の平均年齢は85歳を超え、かつて全ての都道府県にあった日本被団協の地方組織は11県で休止・解散し、役員を被爆の体験者でない被爆2世らが担う県もある。
被爆者の運動が浴びた脚光をこれからにどうつなげるか。…
この記事は有料記事です。
残り599文字(全文1418文字)
【時系列で見る】
-
「国家補償していない」 田中熙巳さん、受賞演説で「予定外」発言
84日前 -
「核も戦争もない世界を共に」 日本被団協、ノーベル平和賞受賞演説
84日前 -
「核と人類、共存させてはならない」 被団協・田中熙巳さん演説全文
84日前 -
「核のタブー形成に大きな役割」 日本被団協、ノーベル平和賞演説
84日前動画あり -
「式見守れて幸せ」 長崎でノーベル授賞式PV、被爆者は喜びの声
84日前 -
「命を返せと叫びたくなる」 原爆資料館で被爆者リレートーク
84日前 -
ノーベル平和賞の日本被団協 旅費募ったCF、賛同者5000人目前
84日前 -
ノーベル平和賞の授賞式始まる 日本被団協の田中熙巳さんが演説へ
84日前 -
「ようやくここまで」 平和賞授賞式、亡くなった被爆者の遺影持ち
84日前 -
ノーベル賞どう生かすかは“みんなの宿題” 老いるヒバクシャの警告
84日前深掘り -
予想の上を行く「核の脅威」 ノーベル平和賞の被団協、託された警鐘
84日前深掘り -
ノーベル平和賞で核禁条約オブザーバー参加に風 ジレンマ直面の政府
84日前深掘り -
広島の原爆を生き抜いた「被爆樹木」の種、オスロ大植物園に贈呈
84日前 -
「微力だけど」原爆被害を伝えたい 高校生平和大使、オスロで活動
84日前 -
街は歓迎ムード ノーベル授賞式の現地で核廃絶願う若者が見たもの
84日前 -
「憎むのは米国人でなく…」平和運動リード、土山秀夫さんの言葉
84日前 -
首相、核禁条約オブザーバー参加に含み 「役割を果たせるか検討」
84日前 -
「私みたいな子は二度と生まれちゃいけん」 原爆小頭症の岸君江さん
84日前 -
日本被団協、ノーベル平和賞授賞式へ 官房長官「極めて意義深い」
84日前