連載
水説
毎日新聞朝刊に毎週水曜に掲載している記者コラム。2024年3月からは赤間清広・専門記者が担当します。
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世界をリードする「魔法」=赤間清広
2024/12/11 02:00 991文字<sui-setsu> 熱を閉じこめるには、どうすればいいか。欧州の科学者たちが画期的な解決法を編み出したのは19世紀後半のことだ。 ガラスで二重の壁を作り、その間にある空気を抜くことで真空状態を作り出す。さらに壁を鏡状にすることで、断熱効果を一層、高められることも発見した。 この原理に目を付けた
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「トランプ劇場」の危うさ=赤間清広
2024/12/4 02:00 991文字<sui-setsu> 「ついに劇場の幕があがりましたね」。メールでこんなメッセージを送ってくれたのは海外経済を専門とする研究者である。 主演俳優は米国のトランプ次期大統領だ。 自身が運営するSNS(ネット交流サービス)「トゥルース・ソーシャル」で爆弾を落とした。 俳優は言う。米国にはカナダ、メキ
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老舗「はかり店」の夢=赤間清広
2024/11/27 02:02 981文字<sui-setsu> 秋田県能代市の「平山はかり店」は明治元(1868)年創業という老舗だ。 その名の通り、商売人が使うさおばかりや、米をはかるマスなど計量器を扱う専門店だった。 しかし、はかりの取り扱いは徐々に減少し、近年はたばこや宝くじも販売する雑貨店として生き残ってきた。 先代が亡くなり、
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「本屋」の始め方=赤間清広
2024/11/20 02:00 998文字<sui-setsu> 「本屋って、どうやって始めればいいんだろう……」 豊かな自然環境にひかれ、東京から山梨県北杜市に拠点を移したコピーライターの渡辺潤平さん(47)は途方に暮れていた。 子供のころから本が大好きだった。「おいしい空気の中で大勢の人に本を楽しんでもらいたい」と移住を機に自分で本屋
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「愛する」ということ=赤間清広
2024/11/13 02:00 979文字<sui-setsu> 不思議な光景だった。 10月下旬、東京・代官山で開かれたのは、ペットと一緒に映画を楽しむイベントだ。 全国から集まった約30人の傍らに、「愛犬」たちがちょこんと陣取っている。 よく見ると、いずれもソニーが開発したコミュニケーションロボット「aibo」だ。手づくりの服を着せる
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IT業界「覇者」の没落=赤間清広
2024/11/6 02:02 967文字<sui-setsu> 約半世紀にわたって、世界の産業界はこの言葉に支配されてきたと言っていい。 「半導体の集積度は2年ごとに2倍になる」 提唱者は米インテルの共同創業者、ゴードン・ムーア氏である。 電子機器の「頭脳」ともいえる半導体は、シリコン基板の上に焼き付けた回路が細かくなればなるほど性能が
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情報社会支える「御三家」=赤間清広
2024/10/30 02:01 967文字<sui-setsu> 住友電気工業、古河電気工業、フジクラ――。いずれも明治時代に創業した老舗企業である。 かつての主力商品は電線だ。電話をはじめとする電線網を競うように全国に張り巡らせてきた。 「電線御三家」。いつしか、こんな呼び名が定着した。日本の情報伝達環境を縁の下で支えてきた実績にふさわ
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人の役に立つ「冒険」=赤間清広
2024/10/23 02:00 958文字<sui-setsu> 高い評価を受けている実績を捨て、新たな分野に挑戦する決断は容易に下せない。 あえて困難な道を選べるのは、未知のものを追い求める「冒険者」の証しだろう。 東京理科大の小林宏教授(58)は間違いなく、その一人だ。 専門は、ロボットなど「メカトロニクス」。人間さながらの多彩な表情
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「世界最強」の生みの親=赤間清広
2024/10/16 02:05 989文字<sui-setsu> 「世界最強」。心が躍る4文字だが、何をもって最強と呼ぶか定義は難しい。どの業界でも王者をなかなか絞れないのが現実だ。 ただ、こと磁石の世界では違う。他を圧する磁力の強さで40年以上、絶対王者として君臨しているのが「ネオジム磁石」だ。 誕生したのは1982年。生み出したのは、
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「立って接客」誰のため?=赤間清広
2024/10/9 02:05 967文字<sui-setsu> 「何とかしたいとは思うけど、客の目が気になって……」 首都圏でスーパーマーケットを経営する男性の表情が曇った。 スーパーの仕事の多くは立ち仕事。たとえ客がいない時間でも、レジなどで立ったまま待機するよう指導してきた。 だが、海外では座ったまま接客をすることも珍しくない。 従
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「ミスター円」の処方箋=赤間清広
2024/10/2 02:01 1011文字<sui-setsu> 世界経済から国家財政、歴史に教育問題まで何でもござれ。博覧強記ぶりは秀才、英才が集う霞が関でも際立っていた。 7月末に財務官を退任した神田真人氏は「宇宙人」とも呼ばれた異色の官僚である。 財務官は財務省の国際部門トップ。近年、このポストがこれほど注目されたことはなかった。
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「ミスター普通」の決断=赤間清広
2024/9/25 02:01 990文字<sui-setsu> 米国の中央銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)の影響力は絶大だ。 トップである議長は「大統領に次ぐ権力者」とも言われる。発言一つで世界が大きく動くからだ。 歴代議長の顔ぶれはまさに多士済々といった観がある。 1987~2006年の約20年にわたりFRBを率いたのが、アラン・
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自由と保護主義=赤間清広
2024/9/18 02:01 976文字<sui-setsu> 経済に国境はない。共通のルールを守りながら、国籍に関係なく品質やサービスを競いあえる自由な空気こそが発展の源泉だ。 外国企業との合併・買収(M&A)や事業の提携も、今や当たり前となっている。 だが、ほんの少し前まで国内の雰囲気はまるで違った。 海外の企業やファンドから買収提
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「価格」は誰のものか=赤間清広
2024/9/11 02:00 1008文字<sui-setsu> 手元に本があれば、裏表紙を見てほしい。税抜きの本体価格の脇に「定価」と書いてあるはずだ。 一方、加工食品などのメーカー発表価格を調べると「希望小売価格」と表示しているものが目立つ。何が違うのか。 あらかじめ決めた価格で販売する「定価」の強制は独占禁止法で禁じられている。小売
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菓子業界の地殻変動=赤間清広
2024/9/4 02:02 1002文字<sui-setsu> 快進撃が止まらない。2021年に長年君臨していた王者をかわすと、その後はぐんぐん差を広げている。ファンも新顔に夢中だ。 スポーツの話ではない。栄枯盛衰が激しい菓子業界で起きた歴史的な地殻変動のことである。 王者から陥落したのはガム。国内市場はこの20年で6割減となり、「キシ
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立体パズルの王様=赤間清広
2024/8/28 02:00 1005文字<sui-setsu> おもちゃ業界に革命を起こした偉大な発明は1974年、ハンガリー・ブダペストにある大学の一室で生まれた。 建築学を教えていた教員が、学生のために27個の木のブロックを組み合わせ立方体の模型を作ってみせたのが始まりだ。 教員の名前は、エルノー・ルービック。彼の模型を発展させた「
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ビアガーデンの復活=赤間清広
2024/8/21 02:01 986文字<sui-setsu> 酷暑で気分がめいると、ついつい足を運んでしまう場所がある。ビアガーデンだ。 唐揚げや枝豆をつまみに、ひたすらジョッキでビールをあおる――。こんなイメージはもはや過去のものだ。 先日、足を運んだのは高速バス大手WILLER(ウィラー)が今夏から始めたレストランバスのビアガーデ
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暴落は止められるか=赤間清広
2024/8/7 02:00 1008文字<sui-setsu> 1987年10月19日、月曜日。異変は香港から始まった。株式市場が大幅下落し、その波が勢いを増して米国や欧州に拡大した。 ニューヨーク市場のダウ平均株価は22・6%も急落。翌20日の東京株式市場の日経平均株価の終値も3836円安となり、史上最大の下げ幅を記録した。 「ブラッ
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「蚊取り線香」がつなぐ縁=赤間清広
2024/7/31 02:01 992文字<sui-setsu> 地中海原産の多年草「除虫菊」の栽培が日本で始まったのは1887(明治20)年。和歌山県出身の上山英一郎が米国の植物会社から種を仕入れ、広めたことがきっかけだったとされる。 その名の通り、除虫菊の花には虫を死へ追いやる成分が含まれている。米国では家畜のノミ取り粉などとして重宝
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エンゲル係数の警告=赤間清広
2024/7/24 02:02 982文字<sui-setsu> エンゲル係数に異変が起きている。家計の消費支出に占める食品の割合を示す有名な経済指標である。かつて学校で習ったという人も多いだろう。 世界に広がったのは19世紀。ドイツの統計学者、エルンスト・エンゲルの論文がきっかけだ。 日々の食卓などに欠かせない食品は、他のものに比べ削り
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