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2017年5月29日月曜日

デジタルサイネージ2020

デジタルサイネージ2020

 「デジタルサイネージ2020」。改めて注目を集めるメディア、デジタルサイネージの基本、実践、近未来を描く書籍をデジタルサイネージコンソーシアムが刊行しました。
 冒頭、あいさつ文を寄せました。


 デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)は、設立10年を迎えます。10年前を振り返ると、「電子看板」であった屋外広告は、今やみなネットワークでつながり、屋内の小型ディスプレイも活躍していて、広告だけではない公共的な役割も果たすようになっています。

 その間、スマホやタブレットも普及しました。テレビ、PC、ケータイのスキ間を埋める第4のスクリーンは、サイネージもスマホも入り乱れ、定義も住み分けもうまくできなくなりました。屋内外、大小、その区別なく全てが面的につながったデジタル空間が現出したのです。

 やがてサイネージとスマホの連動がテーマとなり、その中味も、コンテンツの提供から、ソーシャルメディアを介したコミュニケーションへと軸足が動いてきました。デジタルサイネージは、新しいコミュニケーションメディアとして、街の中で確固たるポジションを得つつあります。

 ところが、そのとたん、デジタルの世界は、「スマート」から「IoT」や「AI」へと舞台を変えつつあります。全てのモノがネットでつながり、それが知能を持つようになる。これによってまたしてもデジタルは、街の中での位置づけが問われようとしています。

 デジタルサイネージは、IoTやAIの時代に、どのような役に立とうとするのか。今年は新しいポジションを模索する動きが現れます。そしてその動きは、先進的なサイネージをプロデュースしてきた日本が世界をリードするのではないかと期待するところです。

 注目すべきは日本政府の動きです。総務省が2020年の東京オリンピック・パラリンピックをにらみ、多言語・防災「おもてなし」デジタルサイネージを整備すべく動いています。整備を強化するICTインフラの中でもデジタルサイネージを再重点事項と位置づけて、方策をDSCと連携して練っているところです。

 これは、DSCが発出した「都内1000箇所に3 ヶ国語によるおもてなしサイネージを設けること」「4K8K パブリックビューイングを数万箇所に設けること」といった提言を踏まえての動きです。DSCとしても公益的な責任を果たすべく協力していく所存です。


 昨年、DSCは一般社団法人となりました。デジタルサイネージの一層の発展に向け邁進致します。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。


※恒例のデジタルサイネージジャパン@幕張、いよいよ6月7日〜9日です。DSC10周年パーティーも開催します。お越しください。
 http://www.f2ff.jp/dsj/

2017年5月25日木曜日

知財本部・映画振興会議「はじめに」

■知財本部・映画振興会議「はじめに」

 知財本部・映画振興会議。これも座長を務めました。
 東宝、東映、松竹、角川、吉本興業、フジテレビ、講談社などの社長・会長がずらり並ぶ重たい会議でしたが、何とかとりまとめにたどりつきました。

 しかし大きな問いは「今なぜ映画を語るのか」でした。それを報告書冒頭に記しました。ポイントを挙げます。



 アニメ・マンガ、映画、音楽、ゲーム、放送番組等のコンテンツはクールジャパンを代表する要素・・。このうち、我が国の映画産業は約 2,000 億円の市場規模を有しており、長らくアメリカに次ぐ世界第二位の市場として、世界マーケットの中でもその存在感を示してきた。

 近年、台頭する中国市場にその地位を明け渡すこととなったが、昨年、2016 年には、過去最高の 2,355 億円の興行収入を記録し、また、映画館へ の入場者数が、42 年ぶりに1 億 8,000 万人台を回復するなど、改めて映画の持つ力に注目を集めることとなった。 

 昨今、インターネットを活用した動画配信サービスの登場等により、これまで映画ビジネスを支えていたビデオソフトの売上げが減少傾向にある一方で、動画配信サービスの隆盛など、資金回収の手段たるメディアを巡る状況が大きく変化を遂げつつある。

 我が国人口の減少に伴い、国内市場そのものが縮小していくことが懸念されている。これらの変化に対し、魅力的な作品作りを維持・強化していくことにより、国 内の市場を更に拡大していくとともに、海外展開を抜本的に強化し、資金回収 の基盤となるマーケットの維持・拡大を図っていく必要がある。 

 古くは、ハリウッド映画の世界への発信に伴い、ジーンズや家電といった米国のライフスタイルが世界中に浸透していったことに象徴されるように、映画は、その国のイメージ、ライフスタイルを海外市場において浸透させる力を持つ。 

 近年、政府は、「クールジャパン戦略」を推進し、 アニメ・マンガ等のコンテンツを含むクールの海外への商品・サービス展開、そしてこれを通じてインバウンドの国内消費に結びつけること等により、世界の成長を取り込むべく、官民一体となった取組を行っている。

 映画は、原作(小説・漫画等)・音楽・映像・アニメといった要素を含む総合芸術であり、それが故に、各分野への波及効果も大きい。映画は・・海外市場における先導役としての期待が大きく、映画が浸透していく事に伴って、財・サービスの輸出やインバウンド需要の拡大という拡がりが期待される。

 大ヒットとなった「君の名は。」は、国内でも聖地巡礼といっ た動きをもたらし話題となったが、同様に、中国、韓国といった諸外国でも、日本映画の過去の興行成績を更新する等大きなブームを巻き起こしている。・・日本という国のイメージを変え、日本の存在感を示す力を有していると言えよう。 

 オリンピック・パラリンピックは、スポーツの祭典であるとともに、文化の祭典でもある。これを契機とし、映画を我が国が誇る総合芸術として世界に発信し、そして成長産業として更なる飛躍のステージに引き上げて行くことは、・・極めて重要な要素となる。 


 知的財産戦略本部では、上記の認識に基づき、検証・評価・企画委員会の下に、「映画の振興施策に関するタスクフォース」を設置し、集中的な議論を行った。「知的財産推進計画 2017」に反映させることによって、政府の施策を力強く 前進させることが期待される。 

2017年5月22日月曜日

創造的なんだけど創造的じゃない日本

■創造的だけど創造的じゃない日本

アドビが4年ぶりにクリエイティビティ=創造性の調査結果を発表しました。
米英仏独日それぞれ1000人の成人、計5000人に聞いた結果。2016年10月の調査。
(グラフは調査データを元に自作したものです。)

前回の結果はこちらに。
Creative Japan」

今回も同様の傾向ですが、チェックしてみましょう。

1. 最も創造的な国は日本
 日本は世界から創造的だと見られています。ありがとう。
 ぼくもそう思います。




2. 最も創造的な都市は東京
 東京は世界から創造的だと見られています。ありがとう。
 ぼくもそう思います。



3. 創造性は社会に価値があるか?
 さて、ここからが問題です。
 日本は創造性の社会的価値を評価していません。日本だけが過半数割れ。



4. 創造性は経済に価値がある?
 そして、日本は創造性の経済的価値も評価していません。



5. 創造性は経済成長のカギ?
 そう考えるのも日本が最下位です。
 日本は創造性を大事だと考えていないのです。



6. 自分は創造的か?
 これが最も深刻なデータ。
 日本は自分のことを創造的だと思っていません。圧倒的な最下位です。



 日本は世界からスゲーって思われています。でも、自分たちは創造性が社会にとっても経済にとっても大事だとは思っていません。そして、自分たちのことを創造的だとも思っていません。

 自分たちの創造性をもっと発揮できるのではないでしょうか。

2017年5月18日木曜日

知財本部・映画振興会議

知財本部・映画振興会議

 知財本部・映画振興会議。座長を務めます。東宝、東映、松竹、角川、吉本興業、フジテレビ、講談社などの経営トップ全員集合。とても重た~い。今回は製作支援策と海外展開策がテーマ。

 石原宏高副大臣の説明では、2016年の国内興行収入は2355億円で前年比184億円の増加、入場者数も42年ぶりに1億8千万人を超えたとのこと。この勢いを維持・強化するための施策は何か、との問い。

 内閣府、経産省、文化庁、外務省から映画施策の説明がありました。他のコンテンツ領域に比べれば、けっこう手厚い。総額100億円程度の予算。
 海外展開支援でも3年間のJ-LOP事業で、4700件が採択され、それにより海外売上1585億円増、新規に海外展開した企業は405に上るとのこと。

 しかし、青山学院の内山教授によれば、映画政策予算100億円に対し、フランスは8億ユーロ(1000億円)、ドイツは4億ユーロ(500億円)。実に見劣りがします。

 フランスは映画とTVに3億ユーロずつ配分していて、そのうち53%が自動補助です。審査委員会で選択するスタイルではなく、前作の商業・文化的成果を算定式に入れて次回作への補助金を自動的に決めるシステム。政府が内容にコミットせず客観的・公平な仕組み。

 日本にも企画・制作の支援を考えるのであれば、松竹・迫本社長が唱えるように、政治や政府との距離を気にすることになる、そして恣意性も入り得る仕組みではなく、税制措置等のインフラ的な仕組みがうるわしい。法人税控除、消費税還付、地方税減免など。ただ、これは財務省の壁がぶ厚いです。

 内山教授は流通・興行フェーズの支援として、8Kパブリックビューイングの整備支援を示唆しました。妙案だと考えます。(が、ぼくは利害関係者になるので黙ってます。)また、インバウンド来日外国人対応の映画館を作る案も。アプリとメガネ端末で字幕を見る。いいですね。

 無料型のYouTubeやニコ動が先行普及してきたが、スマホ普及に伴い、定額視聴できる有料動画配信のユーザも拡大、動画配信ビジネスが伸長。dTV(ドコモ+AVEX)、hulu(日テレ)、abemaTV(テレ朝+サイバーエージェント)、LineLive、Tverなど多様な事業者が参入しています。

 2015年にはNetflixとAmazonプライム・ビデオが日本上陸。特に両社とも製作出資でオリジナル作品配信も実施しており、コンテンツ資金の出し手の登場という面で、これまでのような「黒船」扱いではない刺激を市場に与えています。

 映画政策を検討するに当っては、映像産業を取り巻くこうした環境変化を踏まえておく必要があります。映画業界としても、映像・コンテンツというスコープで検討すべきことを自覚している状況です。

 東宝・島谷社長が中国市場の開拓とアニメへの集中を唱える一方、東映・岡田会長はネット活用するに当たって編成権を確保すべく映画界がまとまることを提唱しました。角川会長はスコセッシ監督が日本の俳優を激賞していると言い、プロダクションを集めて国際俳優を育てる施策を求めました。

 松竹・迫本社長は、政策の効果は上がっているものの、省庁タテ割りがネックになっているとし、文化と産業の間をとりもつ「文化情報通信省」の設置を提唱しました。
 その意見、もっと言って!

 萩生田官房副長官(シン・ゴジラの主人公のポジション)は、映画と政治の「間合い」に言及、口をはさまないいい距離に配意することを強調しました。
 施策としては規制改革で活性化させたり、海外展開の障害を取り除く、といったものが中心になります。

 よろしくお願いします。

2017年5月15日月曜日

知財本部・新情報財委員会 座長コメント

■知財本部・新情報財委員会 座長コメント

 新たな情報財検討委員会の報告書のとりまとめに際して、共同委員長の東大・渡部俊也教授とぼくの連名でコメントを発しました。全文コピーします。

 IoTや人工知能の進展に伴う「データ駆動型イノベーション」においては、様々なデータや学習済みモデル、またこれらによってもたらされるコンテンツが、業界や国境を越え、サイバーとフィジカルに跨り、幅広く円滑に利活用される仕組みが不可欠である。

 現在官民挙げて第4次産業革命に向けた投資が検討されているが、これらデータ等の利活用を導く役割を担う「知財システム」が十分機能しないと、データ利活用が進まず、これらの投資が無駄になる恐れもある。

 本委員会では、このような背景から、第4次産業革命に向けた未来への投資を、我が国の産業競争力の強化へ着実につなげていくことを目指し、新たな情報財に関して、「知財システム」面での課題について幅広い検討を行ったものである。

 もとよりこれらの新たな情報財は、それ自身知的財産権制度の対象であるかどうか不安定で、整理された形での保護の対象ではないところ、現行制度の特許、著作権、営業秘密、さらに契約を利用した利活用促進について、産業財産権およびコンテンツの両分野の有識者に参加いただき議論を行ってきた。

 知的財産戦略本部の議論は従来から両分野の有識者をメンバーとした検討を行ってきたが、過去の論点は、2つの異なる分野ごとに比較的明瞭に分かれていたことに比べて、今回の検討は、まさしくこの両分野にまたがる総合的検討が必要であり、幅広い視野が必要とする複雑な議論を必要とするものであった。

 その意味で本検討委員会は、我が国の知財戦略において、はじめての本格的な分野横断プロジェクトとして、意義ある挑戦であったといえるのではないだろうか。

 それはIoTや人工知能の進展が、従来の知的財産制度の垣根を揺るがすようなインパクトを与えていることを如実に示すものであったということもできる。

 この検討委員会の経験は、今後の我が国の「知財システム」についての抜本的在り方の議論や、政府における検討組織、さらには民間における知財部門の体制や組織、そして人材育成の在り方にも大きな影響を与えていくことになるだろう。

 今回の報告書は、その大きな環境変化の過中において、新たな情報財についての先進的な検討を行った結果をとりまとめたものと位置づけられる。
 
 今回の検討内容は、現時点で国際的にも先進的なものであると言える。国際競争力強化の観点から、報告書において最終的に検討を進めるべきとされる事項については、知的財産推進計画2017に盛り込まれ、各省庁により早急な取り組みが行われることを期待したい。

 一方判例法の制度下においては、より先進的で法的リスクの高い試みが行われやすいという点も加味して考えれば、引き続き検討すべきとされた事項についても、今後さらなる状況の進展に合わせて不断の検討を進めていくことが求められるだろう。

 第四次産業革命を乗り切るのに十分な「知財システム」を、早急に確立していくことが求められる中で、今後も不断の検討を続ける必要があるとはいえ、その第一歩を示すことができたとすれば、それは大いに意義あることと考える。

 今回の議論に積極的に参加された構成員の皆様に心から感謝いたします。


共同委員長 渡部俊也、中村伊知哉

2017年5月11日木曜日

知財本部・新情報財委員会「おわりに」

■知財本部・新情報財委員会「おわりに」

 知財本部・新情報財委員会。報告書の「おわりに」にも強いメッセージを寄せました。ポイントをピックアップします。

1 データ・AIの利活用促進の基盤となる知財システムとして、著作権等の対象とならない価値あるデータの利活用促進のための知財制度、AIの学習用データの作成の促進に関する環境整備、AIの学習済みモデルの適切な保護、AI生成物の知財制度上の在り方について課題と方向性の整理を行った。 

2 本報告書で示した方向性を具体化するためには、検討結果を踏まえ、関係機関において、産業の実態などの把握を更に進めつつ、検討を深め、適切な措置を早期かつ確実に 実施することが求められる。
 ※議論からアクションへ。

3 諸外国の検討状況等を注視しつつ国際的なハーモナイゼイションを取るべく我が国から積極的に発信・提言するなど国際的な議論を惹起することも含めて、 更なる措置を行う必要があるか検討することが求められる。 
 ※この検討は世界に先駆けての取組であり、また、その内容は一国で完結するものではない。日本から海外に発信することが重要です。

4 現時点においては、著作権等の対象でないデータに権利付与をせずとも流通・利活用が進んでいくのか、多大な資金と労力を投じた学習済みモデルや人間の創作的な寄与が少ないAI生成物を保護する新たな仕組みがなくても作成や利活用を促進するうえで支障が生じないかなどを見通すことは困難。
 ※これは正直な心情。来年になれば、前提が変わっていることも考えられます。

5 「デジタル時代において保護すべき創作性とは何か」、「企業間の業界の垣根を越えた連携・協働やオープンイノベーションを前提とした知財制度はどうあるべきか」などといった根本にも立ち返りつつ、必要であれば、時代に即して、法体系を見直していくことも求められる。
 ※法律を見直す、だけでなく、法「体系」を見直す、としています。著作権法、特許法、不正競争防止法などの体系を見直す時期が迫っているのかもしれません。

6 ここ十数年のデジタル・ネットワークに対応したイノベーションが海外主導で進んできたことを念頭におき、・・データ・AIの利活用によって新たな付加価値と生活の質の向上がもたされる環境を我が国が世界に先駆けて実現するにはどうすれば良いのか・・不断に議論を行っていくことが必要。 
 ※委員会で辛口のコメントを発し続けた東大・喜連川教授は、最後にこうした「場」が重要とおっしゃいました。アクションが重要ですが、不断の議論もまた大切。

7 本報告書に示した方向性が政策として実現することにより、データ・AIの利活用促進による産業競争力強化が図られることを期待しつつ、技術動向等を踏まえ、データ・ AIの利活用促進に向けた知財システムを含む議論が継続されることを期待するものである。 
※委員のみなさま、政府関係者のみなさま、おつかれさまでした。

2017年5月8日月曜日

知財本部・新情報財委員会 報告

■知財本部・新情報財委員会 報告

 知財本部・新情報財委員会。AIやデータ等に関する知財戦略をとりまとめました。

 <<新たな情報財の創出に対応した知財システムの構築>> (人工知能によって自律的に生成される創作物・3Dデータ・ビッグデータ時代のデータベース等に対応した知財システムの検討) という知財計画2016を受けてのものです。

 「データを利活用したビジネスモデルやデータ流通基盤が十分に確立されていないことや、不正利用された場合の対応に関する懸念や不安などを背景に、必ずしも十分なデータ利活用がなされているとは言えない。」というのが背景の認識。

 現行制度上、データは、営業秘密として秘匿する以外には、逆に無制限・無条件で利活用させるしか選択肢がなく、一定の条件で広く利活用が進むことを支援するような法的な枠組みもない。オープンイノベーションが阻害されている可能性があります。 

 検討の結果、3点について具体的に進めることとなりました。
1) データ利用に関する契約の支援:契約ガイドラインの策定等
2) データ流通基盤の構築 :データ取引市場などのデータ流通基盤の中で、利用や利益分配等のルール化
3) 公正な競争秩序の確保 :新たな不正競争行為の対象となるデータや行為について検討

 また、利活用促進のための「権利」についても、必要かどうかを含め引き続き検討することとしました。

 AIについても検討を進めました。機械学習を用いたAIの生成過程の要素(学習用データ、学習済みモデル、AI生成物)について、学習用データの作成に支障があるとの指摘や、多大な投資等を行う必要がある学習済みモデル等の現行知財制度上の保護が不十分との指摘もあったためです。 


 具体的に検討を進めるものとして、学習用データの作成の促進に関する環境整備(著作権法の権利制限規定に関する制度設計や運用の中で)、学習済みモデルの適切な保護と利活用促進(まずは契約による適切な保護について)といった事項が挙がりました。

 AIのプログラムは、当面、現行法とは異なる権利を付与する等は行わず、引き続き技術の変化や利活用状況を注視していくこととしました。AI生成物に関しても具体的な事例に即して引き続き検討することとしました。 


 これを親会に上げ、政府・知財計画2017に反映させていく運びとなります。

2017年5月4日木曜日

知財本部・新情報財委員会「はじめに」

■知財本部・新情報財委員会「はじめに」

 さきごろとりまとめられた知財本部・新情報財委員会報告。ビッグデータとAIの知財問題。「はじめに」に、6段落にわたり重要なメッセージが込められています。ポイントを掲載し、コメントします。

1 大量に集積されたデジタルデータとAIの利活用によって、新たな付加価値と生活の質の向上をもたらす第4次産業革命・Society5.0の実現が期待されている。政府としては「日本再興戦略」において、IoT・ビッグデータ・AIによる産業構造・就業構造変革の検討を主要施策の一つとして

※政府がAIやIoTをトッププライオリティの政策と位置づけたのは正しい認識です。ここに乗り遅れると、失われた25年どころではない閉塞状況となります。

2 「第5期科学技術基本計画」において、・・『超スマート社会』の実現(Society 5.0)」として、AI・IoT等を活用した取り組みをものづくりだけでなく様々な分野に広げ、・・ 産学官・関係府省が連携・協働して研究開発を推進することを決定した。 

※文科省、総務省、経産省などが連携して研究開発に力を入れるようになりました。ただし、国の予算でのR&Dはあくまで補助にすぎません。問題は民間の活動をどう刺激するかです。

3 こうした流れを受け、日本経済再生本部の未来投資会議においては、構造改革の総ざらいを行うとともにAI・IoT等の技術革新の社会実装・産業構造改革を促す取り組み等について検討が行われ、

※社会実装を促す。そう、日本はAI・IoTの生産・開発大国を目指す以上に、利用大国を目指すべきです。AI・IoTの産業化よりも、産業全体のAI・IoT化を促すことで、産業構造改革とイノベーションと競争力強化を図るのがよいと考えます。

4 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部)のデータ流通環境整備検討会においては、情報銀行を含め、ITを活用 した円滑なデータ流通・利活用環境の整備について検討が行われている。

※IT本部ではデータ流通・利活用のインフラ整備を進めています。IT政策と知財政策との連携・合体はこれまでも重要な課題でしたが、AI・IoTではますます大事になります。

5 知的財産戦略本部においては、平成27年度に次世代知財システム検討委員会を開催し、AIによる自律的な創作(AI創作物)や3Dデータ、創作性が認められにくいデータベースに焦点を当てて、主として著作権の観点から、知財制度上の在り方について検討を行った。

※昨年の委員会では、著作権法上の柔軟な權利制限規定の策定と、AI創作物の權利について突っ込んだ議論が行われました。骨の折れる委員会運営でしたが、世界に先駆けた重要な論点整理がなされました。

6 知的財産推進計画2016において、「AI創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財について、例えば市場に提供されることで生じた価値などに注目しつつ、知財保護の必要性や在り方について、具体的な検討を行う。」等とされた。 

※「新しい情報財」に着目して知財政策を練ることになったのですが、これは従来の枠組みを超えて論点を整理する必要に迫られるものでした。これまで知財本部はコンテンツ系と産業財産權系とを別系統で論議し、最後にドッキングする手法だったのに対し、今回は最初から一体で取り組みました。

7 新しい情報財については、今後、その利活用が小説、音楽、絵画などのコンテンツ産業に限らず、その他の幅広い産業・・にも波及することが想定され、その基盤となる知財システムの構築を進めることが産業競争力強化の観点でますます重要になってきている。 

※つまりコンテンツ=著作権と、その他の仕組み、特許や営業秘密、契約など知財システム全体を陸続きにとらえて検討することになったのです。

8 IoT等で大量に蓄積されるデジタルデータや、AI生成物とその生成に関する「学習用データ」及び「学習済みモデル」などの新たな情報財の知財制度上 の在り方について、・・新たな情報財検討委員会を開催し、著 作権・産業財産権・その他の知的財産全てを視野に入れて、精力的に検討を行った。 


※ということです。

2017年5月2日火曜日

林敏彦先生を見送って

林敏彦先生を見送って

 林敏彦大阪大学名誉教授が亡くなりました。4月28日。享年74歳。ぼくがスタンフォード日本センターの研究所長を務めていたころ、理事長として4年間お仕えした上司です。神戸での通夜には「弟子」と記帳しました。棺の先生は、いつものように、穏やかなお顔でした。

 ノーベル経済学賞を受賞したケネス・アローに師事してスタンフォード大学で博士号を取得した理論経済学者でありつつ、通信の競争政策などアカデミズムの公共政策への実践に熱心でした。「現代政策分析」は平易にして要諦を押さえた名著です。ぼくが官僚の頃には既に重鎮としての風格がありました。

 2002年のこと。故・青木昌彦さんが中心となって設立したスタンフォード大学の日本拠点、スタンフォード日本センターが今井賢一理事長・安延申研究所長のコンビから、林・中村コンビへ、通産省系から郵政省系へ交代することとなりました。

 今井・林両大先生との下鴨での初面談には、経済学徒落第の身として緊張して赴きましたが、林先生は芋焼酎のロックにキュウリをたくさん切って入れさせ、「こないしたら体にええねん」とガバガバ飲む。緻密さがみられません。その瞬間から、仰ぎ見る飲み仲間となりました。

 常に笑みでした。優しく、包み込むように、大きな判断をズバッとなさり、豪快な差配をなさいました。そのたびに「先生、軍人でも出世しましたね。」とぼくはコメントしていました。
 
 あれほど美しい英語を操る日本人もいませんでした。国際会議やパーティーでのスピーチはお手のもの。手練のスタンフォードと交渉するメール文も見事で、ぼくはよくコピーして例文集を作っていました。でも普段はベタな関西弁で、ときに「アカデミズムをバカにするやつがおってホンマ困るわ」などと政治への不信を軽くつぶやいたりしていました。

 スタンフォードとの兼務で放送大学の副学長も務められ、大阪大学の大竹文雄教授と3人でテレビ授業を受け持ったこともあります。大竹さんはぼくの京大経済の同期で、林先生は大先輩に当たります。ぼくは自称・弟子ですが、きちんとした数多くの林門下生がアカデミズムの系譜を継いでいます。

 ぼくが林先生としたことといえば、スタンフォード大学というプラットフォームを使って、産学連携プロジェクトを日本に根づかせるための奔走です。京都・岡崎を足場に、あちこち行きました。ぼくがいま慶應義塾大学で続けているプロジェクトの多くも、そのころ種をまいたものです。

 スタンフォード大学に乗り込んでプロジェクト強化策をギリギリと交渉したり、大学がジャパン・パッシングを強めて中国シフトを敷く中、上海でのパーティーにヘネシー学長を追いかけて談判したりもしました。

 出張中、先生と歩いたサンフランシスコの公園がたいへんな賑わいで、しかし進むにつれ様子がおかしい。美しく化粧したオッサンや、下半身まる出しの小太りや、男同士キスしてるやつらがいて、何やらこちらに色目を使ってくる。あ、これゲイのお祭りや、先生ぼくら誤解されてまっせ、と抜け出しました。

 結局スタンフォード大学の方針変更など事情が重なり、センターの研究部門を西海岸に大政奉還して休眠すると先生がスパッと判断なさいました。正しい判断、とぼくも同意しました。そして2006年、ぼくたちはまたそれぞれ別の道に進みました。

 亡くなる直前まで病室で論文を執筆していた先生。スタンフォードの研究所を日本に再興するミッションを帯びたまま、ぼくは先生に成果を見せられずじまいでした。不肖の弟子、恩返しはこれからのことと心得ております。


 合掌。

2017年5月1日月曜日

知財本部・新情報財委員会、終了。

■知財本部・新情報財委員会、終了。

 知財本部・新情報財委員会、終了。ビッグデータとAIの知財問題と格闘してきました。AI創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財について検討を行ったものです。紛糾したものの、なんとか報告書がまとまりました。 
 データ利活用については、データ利用に関する契約の支援、健全なデータ流通基盤の構築、公正な競争秩序の確保の3点を具体的に進めることとしました。
 AIについては、学習用データの作成の促進に関する著作権法 の権利制限、学習済モデルの契約による保護策や特許化の具体的な要件等を検討することとしました。
 最後に座長としてコメントしました。

 昨年の次世代システムでは、主に著作権領域について、AI生成物も含む論議をしました。かなり挑戦的な取組でしたた。しかし、それを通じ2点に直面しました。

1) AIやIoTによる第4次産業革命が国の中心課題となる中で、データそのものの扱いが戦略的に重要と認識されるようになったこと。
2) 著作権だけでなく、特許、営業秘密、契約など知財システム全般にわたる整理が必要となったこと。

その結果、今回も世界に先駆けての挑戦となり、現時点で到達可能な整理ができたと考えます。知財計画2017への反映を通じた国家政策にもちこみたい。知財本部での議論は毎年紛糾するのに、毎年うまい報告がまとまってよかった、となるんだが、報告ではいけない。実行が大事です。

この知財システムは報告書「はじめに」で指摘されているとおり、政府全体の取組とセットでなければならない。特に、IT本部が手がけるデータ流通のインフラ整備と対をなすもの。知財とITの政策連携を望むところです。

報告書「おわりに」には、日本から積極的に提言し、国際的な議論を起こしていくこと。知財制度の根本に立ち返って法体系を見直していくこと。を指摘しています。はじめに、おわりに、に強いメッセージが込められています。

しかし、この議論は専門的で地味なので、我々の議論や認識が十分に世の中に伝わっていません。


第4次産業革命、データ駆動型イノベーションにとって、知財システムを整備することが重要であり、今回こうした整理をした、ということをわれわれ自身がプロモートしていく必要があります。