■デジタル教科書法案
デジタル教科書教材協議会(DiTT)がデジタル教科書を正規教科書とせよとの政策提言を発出したのが2012年4月5日。政府が知財計画でそれを検討すると正式決定したのが5月29日。事態は急展開しています。
言いっぱなしはいけない。そこでDiTTは教科書会社やメーカなどの会員企業のほか、衆議院議員、官僚、弁護士、経済学者などを招き、プロのWGを形成して、法案を策定する作業に入りました。
まずは論点整理。デジタル教科書を教科用図書とするためには、以下の制度改正が必要であることを確認しました。
1. 学校教育法
「教科用図書」(第34条)の中に「デジタル教科書」が含まれることを明確にするための法改正が必要。
2. 教科書検定制度
紙の教科書を前提としている検定事務の取扱(申請・審査手続きの様式等)について、「デジタル教科書」の審査を行うための修正が必要。
ただし、これは省令及び告示レベルの規定改正。また、紙の教科書と同じ内容のデジタル教科書(pdf等)の場合、改めて検定を行うことは不要となる。
3. 教科書発行法
「教科書」(第2条)の中に「デジタル教科書」が含まれることを明確にするための法改正が必要。
併せて、紙の教科書を前提としている規定のうち、「デジタル教科書」の発行に対応した文言の見直しが必要。例えば、教科書の表紙と末尾への必要な記載(第3条)、発行指示における「部数」という概念(第8条)。
4. 無償措置法
無償措置法の「教科用図書」は、学校教育法上の「教科用図書」と同義なので(第2条第2項)、1.で「デジタル教科書」が学校教育法上の「教科用図書」に位置づけられれば、義務教育段階における無償措置の対象となり、法改正は不要。
5. 著作権法
公表された著作物を掲載することができる「教科用図書」(第33条)の中に「デジタル教科書」が含まれることを明確にするための法改正が必要。
その上で整理・公表したのが下記の「デジタル教科書法案概要」です。
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デジタル教科書法案概要
第一 前文
資源に乏しい我が国が、文化及び経済を更に発展させ、社会の活力を維持するためには、豊かな人間性と創造性を備えた人間を育成する必要がある。特に、世界的に進行する高度情報通信ネットワーク社会を生きる世代には、情報活用能力を駆使して創造力、表現力及びコミュニケーション力等を発揮することがこれまで以上に求められる。
このような資質を備えた人間を育成するには、二十一世紀にふさわしい教育の機会を保障することが重要であり、その実現のためには、教育においてコンピュータやインターネット等の情報通信技術を最大限に活用するとともに、主たる教材である教科書については、デジタル教科書で学べる環境を全ての児童生徒に保障することが必須である。
このような基本認識に立ち、ここに、デジタル教科書の普及及び利用を促進する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。
第二 目的及び定義
一 目的
教科用図書としてのデジタル教科書の普及の促進を図り、もって二十一世紀にふさわしい教育の実現に資することを目的とする。
二 定義
この法律で「デジタル教科書」とは、児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形、音声又は映像を組み合わせたものに係る情報を電子計算機を介して提供するためのプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わせたものをいう。)をいうものとする。
第三 学校教育法等の一部改正
一 学校教育法関係
学校教育法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十六号)第三十四条第一項中、「教科用図書」を「教科用図書(デジタル教科書法第二条に規定するデジタル教科書を含む。)」に改める。
二 教科書の発行に関する臨時措置法関係
教科書の発行に関する臨時措置法((昭和二十三年七月十日法律第百三十二号)第二条第一項中、「図書」を「図書(デジタル教科書法第二条に規定するデジタル教科書を含む。)」に改める。
三 著作権法関係
著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)第三十三条中、「児童又は生徒用の図書」を「児童又は生徒用の図書(デジタル教科書法第二条に規定するデジタル教科書を含む。)」に、「掲載すること」を「掲載すること並びにデジタル教科書にあっては複製及び自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うこと」に改める。
第四 責務
一 国の責務
国はデジタル教科書の普及の促進等のために必要な措置を講じるものとする。
二 地方公共団体の責務
地方公共団体はデジタル教科書の普及の促進等のために必要な措置を講じるものとする。
三 学校の責務
学校は児童及び生徒がデジタル教科書を適切に活用する能力の習得の促進に努めるものとする。
第五 規格等
一 規格
国はデジタル教科書、それを表示する端末及びデジタル教科書等に関する情報の電磁的流通について標準的な規格(障害のある児童及び生徒へ配慮したものを含む。)を策定し、公表するものとする。
二 障害者対応
国は障害のある児童及び生徒が読み上げ、拡大等の機能に対応するデジタル教科書を使用することができるために必要な措置を講じるものとする。
三 端末無償給付
国はデジタル教科書を表示する端末(読み上げ、拡大等の機能に対応するものを含む。)を児童生徒へ無償で給付するものとする。
四 調査研究
国はデジタル教科書に関する調査研究等を推進するものとする。
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この法案では、デジタル教科書を定義したうえで、学校教育法の「教科用図書」、教科書発行法の「教科書」及び著作権法の「教科用図書」がこの「デジタル教科書」を含むと規定することとしています。ここが本丸です。
これらにより「デジタル教科書」は、法律上、現行の紙の教科書と同等のものとして、検定及び無償配布の対象となるとともに、現行と同等の著作権法上の特例を受けることとなります。
また、この法案は、下記の3点の整理に基づいています。
1.紙かデジタルか
ア)紙の教科書のみの利用
イ)紙の教科書とデジタル教科書の併用
ウ)デジタル教科書のみの利用
上記3パターンの利用形態が想定され、いずれも可能とする。
学校及び自治体単位で上記3パターンを自由に選択できることとする。
2.デジタル教科書の内容について
ア)紙の教科書とほぼ同一の内容(例:紙の教科書のPDF版)
イ)デジタル教科書ならではの表現を活用した内容
上記2パターンの内容が想定され、いずれも可能とする。
アの場合は、別途検定する必要はないと考える。
イの場合には、別途検定対応することが必要となる。
3.デジタル教科書の内容(コンテンツ)と端末との関係
デジタル教科書は、コンテンツのみを指すよう定義する。
そのデジタル教科書を正規教科書とするため、無償配信の対象となる。
しかし、デジタル教科書は表示端末と切り離した利用は不可能であるため、表示端末の配布に関する整理が必要となる。
表示端末の配布について、無償、各家庭負担等議論の余地があるが、本法案では、表示端末も含めて、デジタル教科書の配信を受けるすべての児童生徒に保障するため、無償配布すべきという考え方をとった。
この法案は、議論を始めるための叩き台です。立法論から言えば新規立法は不要で、関係法をそれぞれ個別に改正すればよいという意見もあるでしょうし、まして前文など不要という声もあるでしょう。そこは自信をもって、ツッコミどころ満載の案を提出致しますので、煮るなり焼くなりしてくだせえ。なんにせよ、結果、デジタル教科書を実現してくれることになれば随喜の涙でございます。