Twitter

2012年5月31日木曜日

第一回デジタルえほんアワード


第一回デジタルえほんアワード
 電子書籍という新しい出版のカタチが誕生して以来、日本でも独自性のあるすぐれた電子書籍が作り上げられています。多くの人にとって、初めて手にする書籍である「絵本」も例外ではありません。子どもたちに夢を与え、想像力を喚起し、現実の世界をより豊かにさせる「絵本」は、デジタルでもさらに子どもたちを魅了するコンテンツとなるでしょう。
 そこで企画されたデジタルえほんアワード。主催のデジタルえほん社は2011年に設立された新会社で、ぼくも取締役として参加しています。ここではタブレット、電子書籍リーダー、電子黒板・サイネージ、スマートフォン等テレビやパソコン以外の新しい端末を含む子ども向けデジタル表現を総称して「デジタルえほん」としています。
 アワードは2部門。企画部門と作品部門。企画部門のグランプリは賞金100万円orデジタルえほん化。豪華です。
 審査員は、いしかわ こうじ(絵本作家)、伊藤穰一(MITメディアラボ所長)、角川歴彦(角川グループホールディングス取締役会長)、香山リカ(精神科医・立教大学教授)、小林登(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長)、杉山知之(デジタルハリウッド大学学長)、水口哲也(クリエイター・プロデューサー)、茂木健一郎(脳科学者)。こちらも豪華でしょ。

 約200件の作品応募。ありがとうございました。
 選考結果は2月のワークショップコレクションの場で発表・授賞式がありました。
 作品部門 グランプリ:tocco「ちょんちょんちょん」
      特別賞:ラジオえほんプロジェクト「とんでけおふとん」
      準グランプリ:チームこえのわ「こえのわ」



 企画部門 グランプリ:西野つぐみ「アカリ・トモス・ユビサキ」
      特別賞:チームわれら「ホニャかわ!!」
      準グランプリ:滝原宏野「ねこみっけ」



 企画部門準グランプリ「ねこみっけ」は制作が進み、321日にiPadアプリとして配信されるなど、既に成果も出てきていますので、これら作品も順次紹介していきます。

 その表彰式、茂木健一郎さん、香山リカさん、水口哲也さんは映像で参加。

 授賞式で審査員のかたがたから寄せられたメッセージをメモしておきます。
 
 いしかわ「デジタルえほんは、紙のよさとデジタルのよさを併せ持つ。その両面を評価したい。」
角川「iPad登場から2年でこんな作品が現れるとは驚き。
   これまでは絵本の中の人物・キャラが主役だったが、これからは遊ぶ人が主役になる。」
小林「遊ぶ+学ぶ、という二つの力がデジタルえほんにはある。
   感性と理性を刺激し、教科書にも発展していく。
   チャイルド・ケア・デザインが重要となる。」
杉山「絵本はクリエイターの想いを伝えやすいメディア。
   それがデジタルでエンパワーされる。無限の可能性を秘める。
   ワークショップコレクションに来る子どもたちはデジタル教科書を使っていく世代。
   クリエイターには大いなる挑戦のチャンスが広がっている。」
角川「絵本のデジタル化というより、デジタルえほんの制作という考え方になる。
   デジタルえほんは電子書籍の基本となるだろう。
   小学生のランドセルがなくなって、iPad一枚になる。
   これはさまざまな重荷からの解放だ。」
いしかわ「絵本は世代を超えて楽しめるモノ。
     デジタルでもそういうものを作っていきたい。
     0〜100歳まで一緒に遊べる、それが魅力。
杉山「大手企業だけでなく、個人がアパート一室からでも創出できる。
   多言語で世界に配信できる。
   フォーマットもない。だから実験的なものができる。
   それが教科書にも広がる。面白い。」

 各界を代表するかたがたのコメントは実に刺激的で、未来を展望させます。しかも絵本の分野は日本が強い競争力を持っています。それがデジタル技術でさらにパワーアップ。文化面でも産業面でも、期待がふくらみます。

2012年5月28日月曜日

IT復興円卓会議「総括」-3/10


IT復興円卓会議「総括」-3/10

 IT復興円卓会議「総括」第3回。岩手県大槌町碇川豊町長、ミクシィ小泉文明さん、福島県南相馬市桜井勝延市長、ニワンゴ杉本誠司さん、高井崇民主党衆議院議員、総務省谷脇康彦官房企画課長、フォアキャスト・コミュニケーションズ田村和人さん、池田信夫さん、夏野剛さん、松原聡さん、菊池尚人さんとぼく。

—マスメディアに対する厳しい苦言であったが、マスメディアだけではなく震災後ITはどうだったのか、何か変わったのかということを聞かせて欲しい。(中村)

リアルな災害(地震や津波災害)とバーチャルな災害(風評被害)に分けて考えた方が良い。牛肉からわずかなセシウムが出ると売れなくなるというのはリアルに対して何か被害を与えているわけではない。心理的にパニックになってしまうバーチャルな災害というのは我々が落ち着けば抑制できるものもある。恐怖を煽れば皆が見てくれるというマスコミのビジネスとしての習性がある。その部分のマスコミが持っているバイアスは直らないと思う。NHKは数字取る・取らないというのはあまり関係ないので落ち着いて放送すると思うが、他のマスメディアが過大な報道をするのは、しっかりしてくれたほうが良いがその性格上仕方ないと思う。一方でソーシャルメディアはもっと落ち着いた情報発信があるのかと思っていたが、むしろソーシャルメディアの方が激しく騒ぐ人の意見を拡散してしまうというのを見ていると悪いスパイラルが起こったなと思う。(池田)
ソーシャルメディアで情報がフロー型にどんどん流れているので、吟味せずに拡散していくという話はあったと思う。マスメディアはそうした情報を整理して流すという役割分担はあってもいいのかもしれない。ソーシャルメディアは震災後、信頼度が上がったメディア2位でもあったが、下がったメディアでもある。使い分けというのがあると思うが、メディアの使い分けについては議論してもいいと思う。(小泉)
今回のこういう話は政府が一番悪いと思う。私はTVをそんなに悪いメディアだとは思っていない。政府が信用を失ったという前フリがあった中で、何をいっても信じられないという前提ができてしまっていた。政府がどういうふうに情報を出していくべきかというのをはっきりっさせていなかった。政府はソーシャルの展開を忘れていたのが風評等を盛りたてるきっかけになってしまったのではないか。(夏野)
政府は都合の悪いものを隠すのは当たり前なのではないか。政府とマスメディアの間に緊張性が足りなかったのではないか。マスメディアがツッコミきれなかったと思う。記者クラブの廃止等で緊張感をつくろうとしてきたけど上手く行かなかったというのを今後どう考えるかだと思う。(松原)
TVのインターネットに対するアレルギーは減ってきたと思う。小沢さんがニコ動に出たり、尖閣の話からYouTubeの動画がTVでソースになったりするようになってきた。TVがインターネットとのスタイルを考え始めた矢先の震災だった。今後、もっとこういう流れができてくるようになるだろう(夏野)
自分もインターネットは否定しないが、TVがインターネットを認めはじめたのは動画が出てからである。主に2000年頃から動画サービスが目立って認めるようになってきたと思う。(田村)
話を戻してしまうが、原発報道で一度逃げて、セシウム報道で戻ってくるという話だが、市から見ると当然その通りで非常に不愉快な思いをなさったということでメディアも反省すべきだと思う。メディアにも色々理由はある。例えば、雲仙普賢岳の火砕流事故での記憶というのは根強く残っているし、本社デスクの責任者もリスク判断が出来なかったところがある。自信を持ってクルーの安全が判断出来なかったと思う。(田村)

先程あった政府が情報を隠しているという話で少し、違う感想を抱いた。先週、出版した原発危険神話という新書に詳しく書いてあるが、炉心溶融という言葉は保安院審議官が口を滑らせたことから英訳されてメルトダウンと訳された。まだ炉心が溶融しているかどうかも確認されていない中で言ってしまったことが海外メディアでメルトダウンと報じられてしまい、騒ぎになった。結果として3ヶ月後に炉心が溶けていることは確認されたが、あの直後の段階では情報を言い過ぎた。政府が隠すほどの能力や情報があったわけではない。マスコミは行政を買いかぶりすぎている。情報系統が混乱していたのは間違いないが、意図的に隠したことはなかったと思う。(池田)

そのとおりの面もあると思うが、大丈夫だ、大丈夫だの繰り返しに対してマスコミのツッコミが足りなかったのではないか。(松原)
でも政府が銀行が潰れます潰れますといってはいけないようように出来ないこともある。(池田)
だからこそ、そこにツッコミが足りなかったと思う。マスコミの在り方としてNHKのシンポがあった。震災後の一連の報道でNHKが国民に評価されているという数値があった。しかしこれはNHKの公共性が評価されたというより、NHKの取材網が評価されたのではないかと思っている。NHKと民放の二元放送というスタイルがあるが、マスコミの公共性を担うのはどこかという議論はしていくべきだ。(松原)
情報公開どうするのか、通信放送の融合どうするのかという話に入っている。この後、どうするという話をテーマに進めていくので、ここで一度ユーザーの質疑応答に移りたいと思う。(中村)

2012年5月24日木曜日

がんばれradiko


がんばれradiko
 ラジオのネット配信radiko。ぼくは当初から関わってきました。ラジコよ。息子とは言えないが、まぁ、甥みたいなもんです。そいつが、そろそろビジネスとして独り立ち、ぼくの手を離れます。小学生ぐらいにはなりましたか。
 過日、総務省の会議で、radikoの親である三浦文夫さん(電通→関西大学)がそのおいたちをプレゼンしました。それを基にぼくも讃歌を送ります。

 ラジオのビジネスが低迷する一方、ネットビジネスが興隆する中で、ラジオのIPサイマル配信は90年代からさまざまなトライアルがありました。しかし、放送局のネットアレルギーや権利処理の複雑さ、エリア限定されている放送とエリアフリーのネットビジネスの整合など、さまざまな障壁もありました。
 しかし、ラジオをネットを巡るボーダレスな環境変化はいよいよ激しさを増す。そこで20074月、関西が動きます。「IPラジオ研究協議会」です。在阪ラジオ6局と電通で、宮原秀夫大阪大学総長(現NICT理事長)を会長にいただき、ぼくも理事に就き、発足させました。
 インターネットを使うのですが、「有線ラジオ放送」の要件を整えることにしました。通信と放送では著作権法上の扱いが異なります。通信として個別に全ての権利処理を行うのは非常にしんどい。そこで放送免許エリアに限定し、マルチキャスト(IPv6)で配信することにしました。

 それでも実験開始には1年を要しました。放送とはいえ、主な権利者には三浦さんらが十全な説明を行ったのです。音事協、音制連、芸団協、ジャニーズ事務所、レコ協、JASRACJRC、プロ野球球団、高野連・・・。
 そして、始めてみれば、当然のこと、radikoはリスナーから大うけでした。ラジオのコンテンツ力がネットでも再認識され、ラジオが若い世代にも発見されたのです。関係者が恐る恐るスタートさせるために課したさまざまな制約、たとえばIPv6マルチキャストなどが利用者を制限していることがかえって問題視されるようになりました。

 さあ2009年、東京進出です。年末には在京7局も加わり、「IPサイマルラジオ協議会」が発足しました。こちらもぼくは理事として旗振りの一角を務めました。2010年末には株式会社radikoも設立、研究・実験から本格ビジネスへの移行です。20124月には全国70局が参加することになるそうです。
 しかも、スマホとソーシャルメディアの普及でメディア環境も変化しています。ラジオ番組とTwitterなどのソーシャルとを連動させる新しいビジネスも用意されています。ラジオで放送されたCMに同期したコンテンツをスマホなどの端末に表示、ラジオからネットやソーシャルへ自然に誘うモデルです。
 実は在阪テレビ局などが集まり「マルチスクリーン型放送研究会」というのも発足しており、テレビとスマホ、タブレット端末などを組み合わせた日本的なスマートテレビ戦略を関西で組み上げるプロジェクトもありまして、それもぼくは関わっているのですが、そうしたラディカルな動きを西から全国へ、そして世界へと広げていくのはワクワク感があります。
 手塚治虫も、カラオケも、ファミコンも、西から。

 このように書くと存外、radikoは順調に推移したかのようですが、スタート以前にはさまざまな調整、説得、議論を重ね、慎重に慎重を期した「研究」としての船出で、んでイザやってみたらホラやっぱ行けるじゃん、という結果論でありまして、まぁリアリティーというのは霞ヶ関の審議会のテーブルで言い合っているのとは全く異なります。
 ぼくは20年前から通信放送融合推進の旗を振ってきて、放送局からもケシカランやつと目の仇にされつつ、同時に、日本固有の産業構造やビジネスモデルや規制構造が壁となっていることを承知しつつ、だからあえてそれを打ち壊すために旗を大きく高く掲げて被弾して参りました。
 だから、radikoの成長はうれしい。放送局が業界として自ら動き、リスクを取った。エリア外配信を可能にしろ云々の声も聞きますが、みな事情があり一足飛びには行かない。大事なのは、こうした実ビジネスの成功例を1個、2個と具体的に生んでいくことです。
 次のradikoは、何だろう。

 そうだ、もう一つ付記しなければいけない。
 IPサイマルラジオアプリ「ドコデモFM」のことです。全国のFMラジオが全国どこでも月額315円で聴けるスマホアプリ。FM東京を中心とするJFN38局が提供しています。
 radikoは広告モデルの無料配信で、エリア限定ですが、ドコデモFMは有料で地域制限なし。radikoとは違うラジオ配信モデルが登場したのです。
 2009年末に実証実験として開始、2011年にはauLISMO WAVEをスタートさせ本格化しました。FM東京はradikoにも参加しており、無料・有料、エリア限定・非限定、PC・スマホの各モデルに札を貼っているわけです。
 面白く、なってきました。

2012年5月21日月曜日

IT復興円卓会議「総括」-2/10


IT復興円卓会議「総括」-2/10

 IT復興円卓会議「総括」第2回。岩手県大槌町碇川豊町長、ミクシィ小泉文明さん、福島県南相馬市桜井勝延市長、ニワンゴ杉本誠司さん、高井崇民主党衆議院議員、総務省谷脇康彦官房企画課長、フォアキャスト・コミュニケーションズ田村和人さん、池田信夫さん、夏野剛さん、松原聡さん、菊池尚人さんとぼく。

【<アンケート> 「東日本大震災からの復興は進んでいますか」】
進んでいる(6.8)・少しずつ進んでいる(32.8)・あまり進んでいない(41.4)・進んでいない(19.0)

・もう少し悲観的なイメージがあると思っていたが、部分的には評価はされている所もあるということか。(菊池)
もう少し、厳しい評価だとは思っていた。政治が決断できていない状況で、復興予算が11月、復興庁が2月ということで阪神淡路大震災と比べて遅いのは事実。(高井)
まもなく一周忌を迎えるというわけですけど、今朝も一斉捜索の場で激励を行なってきた。復興計画は立てたけれども、これから住民の皆とすり合わせをしていくのはまだまだである。(碇川)
震災が起きた後、情報通信政策をどう見なおすかという議論はたくさんしたが、やらなければならないということはあまり変わっておらず、ICTを果たす役割が大きいという話になっている。自治体によって実情はそれぞれ違うが、ハードを整備して終わりというのではなく人的サポートといった息の長い復興活動には繋がらないと思う。(谷脇)
復旧という意味では進んでいるが、復興というとまだまだなのではないか。地元の人は復旧というところに意識があるが、現地に居る方と遠隔地にいる方との気持ちの格差はあるのではないか。(杉本)
出来る限り、現地の復興計画の意思を後押ししたいという声も多い。現地はなかなか復興計画を立てるという状況になかったが、各市町村の復興計画は今月でようやく9割程度復興計画が完成してきたということでこれからの活動が望まれるのではないか。(高井)
40人の職員を失った我々としては、復興計画を7月から立案し12月に議会の承認を得たが、住民の声を聴き周知するというプロセスを考えると意外と早く立ち上がったと思っている。(碇川)
震災が起きた後は、行政のいろんなところで変えないといけないという議論がでてきた。道州制にして権限移譲する、復興庁を州都であろう仙台におくといった大きな議論があったのに、金だけは出たがシステムは変わらなかったと思っている。(松原)
意見は確かに与野党問わず多く出ていた。ねじれの状況だけのせいではないが、決断できない政治というのが表れてしまった悪い例なのではないか。(高井)
我々はどこに向かって復旧、復興しようとしているの議論がなくなってきた気がする。去年の3.10の状況を目指すのか。3年後の3.11という街を作るのか見えてこない。過去に戻っても仕方がないのに、元通りにしましょうというムードが盛り上がった。被災地の方はもっと前向きに考えていると思う。被災地に大きな権限移譲をしないと被災地で大きいことはできない。そういう意味で復興庁が東京にあるなんておかしい。ここ一年で気持ちを新たに、どこを目指すのかというターゲットを官邸が設定して欲しい。(夏野)
元々、夏野さんがおっしゃる通りITはこれからどう復興するのかということが会のスタートだったのだが、前に進んでいるようで進んでいない。やっぱり何をするのかということを産官学皆で練っていきたい。ここまで行政や政治が一年どうであったかという話だったが、メディアはどうだったのかということについてさわっておきたい。(中村)

—桜井市長ビデオメッセージ(Q:マスメディアの震災報道について)
マスメディアの肯定的な部分と否定的な部分や裏側をだいぶ見させていただいた。日本全国に取材した内容が届けられるというのは大きなプラスであると思う。ただ原発災害の時は、海外のメディアの方でYouTubeをご覧になってきていただいた方や日本のフリーランスの方を除けば、マスメディアの方はほぼここから立ち去ってしまった。マスメディアとして、起こっていることを包み隠さず放送していただけるという役割から一部の作られた映像だけが流されているように見える。原発事故直後にマスメディアの方は立ち去った一方で、7月に牛肉からセシウムが出たという報告があった際にマスメディアの方から農家の方に集中して攻撃的な報道をする状況を見ると、自分たちは一番厳しいときに逃げて行って放送せず、線量が落ち着いてから圧倒的にインパクトを持つような放送をしている。それによって農家や地元の住民が傷ついていく。ニュースソースとして素晴らしいものを見つけたかのように報道するだけで、たたきつけられる住民の感覚には全く配慮していない。マスメディアに期待することとしては余計な解説や細切れではなくて、現実をその通りに伝えるというのが求められるのではないか。また事故の時点で誰を優先されて放送されるべきなのかということを考えて欲しい。自分たちの使命感を持って仕事を為すべきなのに、残念ながら見られなかったというのがある。

2012年5月17日木曜日

映像コンテンツ権利処理機構「aRma」


映像コンテンツ権利処理機構「aRma」
「映像コンテンツ権利処理機構」。略称aRma。日本音楽事業者協会(音事協)、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)、日本音楽制作者連盟(音制連)、映像実演権利者合同機構(CPRA)、ミュージックピープルズネストによって20096月に設立された社団法人です。
 映像コンテンツの二次利用に関する権利処理を円滑にして、コンテンツのネットワーク流通と実演家への対価の還元を進めようというもので、映像コンテンツの二次利用に関する許諾申請の窓口業務や不明権利者の探索などの業務を行っています。
 珍しく、ほめます。

 数年前、ネット権・ネット法の議論がありました。放送番組をネットで流通させるために、権利者、実演家の許諾権を制限しよう、という主張です。賛否両論が戦わされたのですが、おおよそその主張は正当ではないという方向に議論は収斂していきました。
 つまり、放送番組のネット配信が進まないのは、実演家が権利を悪用してブロックしているからではなくて、単純にビジネスの問題。ネット配信の収益性が悪いから。
 だから、ネット配信=二次利用を促進するには、法律を作って権利関係を強制的に変えるよりも、民間でビジネスを創出すること、おカネの流れを生むことで解決することが適当。ぼくもこの意見です。

 aRmaはこの考えに基づき、設立されました。ほとんどの放送番組には、音事協とCPRAの実演家が出演しているのですが、放送局はそれぞれが扱う実演家が誰かを把握して別々に申請を提出する必要があり、非効率的でした。aRmaはその許諾業務を一元化するものです。
 まず、Web経由で申請許諾を実施するシステムARMsを開発、音事協とCPRAの実演家データベースを統合し、放送番組送信可能化の許諾窓口業務をスタートさせました。放送局から年8000件の申請があるそうです。放送局がネットビジネスを本格化させるタイミングで、重要なインフラが立ち上がったわけです。

 20101月には、不明権利者の探索も始まりました。過去のコンテンツに出演した人で、権利が不明な人は多数にのぼります。それを放送局が個々に探索するとコストがかかりすぎ、それがネット配信を阻む一つの理由です。
 一つの番組に参加した出演者のほとんどが二次利用にOKを出しても、わずかな出演者の連絡先がわからずに頓挫するという例も多い。それはOKを出した出演者の二次利用収入の機会を失うことでもあります。
 ただ、現状ではほとんどの探索依頼はNHKからのもので、民放からの依頼はわずかなんですと。NHKは古い番組のネット展開が多い一方、民放は新しい番組から配信しているからなんですね。

 さて、放送番組のネット配信が本格化し、海外番販への取組も積極的になるにつれ、aRmaへの申請件数は増加、放送直後の二次利用も増え、体制を強化したり業務フローを見直したり、対応に追われているそうです。
 ぼくはこれまで何度も、著作権問題は政府の審議会や委員会で法改正を巡って関係者が不毛な議論に何年もの時間コストを費やすより、民間でステークホルダーが組んでビジネスを組み上げることで解決していくことを主張してきました。
 ネット法を巡っても、文化庁著作権審議会、総務省情報通信審議会や知財本部コンテンツ調査会などの場でも繰り返し議論されましたが、そこに巻き込まれている人たちの人件費をビジネス換算すれば、かなりの仕事ができるのに、というのがぼくの主張でした。
 その点、aRmaは民間がビジネス対応で解決策を打ち出そうとする動きであり、それを政府がサポートするのは、今まさに推奨すべき政策モデルだと考えます。関係者のみなさまのご努力に頭が下がる次第です。

2012年5月14日月曜日

IT復興円卓会議「総括」-1/10


IT復興円卓会議「総括」-1/10

 4月から開催してきたIT復興円卓会議もとうとう最終回。今回はいつもの融合研究所オフィスを出て、渋谷のmixi本社にお邪魔しました。10回に分けてログを置いていきます。以下のかたがたによる「震災1年、次への提言」です。

 碇川豊さん(岩手県大槌町長)、池田信夫さんアゴラ研究所所長、小泉文明さん(ミクシィ取締役)、桜井勝延さん(福島県南相馬市市長—動画出演)、杉本誠司さん(ニワンゴ代表取締役社長)、高井崇志さん民主党衆議院議員、谷脇康彦さん(総務省大臣官房企画課長)、田村和人さん(フォアキャスト・コミュニケーションズ常務取締役)、夏野剛さん(慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授)、松原聡さん(東洋大学経済学部教授)。モデレーターは菊池尚人さんとぼく。

【はじめに

あの3.11の大震災からまもなく1年が経とうとしている。この1年、色々な動きがあった。今回のイベントでは一体、何が変わったのか、変わらなかったのかを議論して次に繋げるメッセージを打ち出したいと考えている。(中村)

IT復興円卓会議について
東日本大震災を受けて、ITの分野では日本はどう復興出来るのかということを考えるきっかけにしようと昨年4.13に慶應大学で開催した。その後、月次の分科会として6つのテーマに分け、月に一回という形で議論してきた。
1回目行政のテーマでは総務省、経産省、内閣府の方にお越しいただき、自治体クラウドや官民連携のプラットフォームについて議論した。
メディアの回は新聞・TV・ラジオの方にお越しいただき、どうやって情報を発信していくのかという議論だった。
3回目の通信インフラの回では、NTT、ソフトバンク、村井さん、夏野さんにお越しいただきオールIP化、周波数オークションなんていう話もあった。
4回目のソーシャルの回ではミクシィ、ニコ動の方などにお越しいただきキュレーションの考え方などを共有した。
5回目のボランティアの回では、実際にボランティアに携わっている方、富士通、Googleの方にお越しいただき、またも官の情報をどのように使うかという話になった。
前回の政治の回では、衆議院・参議院、自民党・民主党の国会議員の方にお越しいただき政治としてどう捉えるのかという議論を行った。
今回は、4.13の全体会、分科会にお越しいただいた皆様に声掛けを行い登場して頂く。(中村)

1年間の振り返り】

—復興に向けた国の動きについて
復興に向けた国の動きとしては、昨年の6月に減災という理念を盛り込み、7月に基本方針が決定。5年で19億円という予算投入方針を打ち出し、昨年11月に復興予算となる第三次補正予算案が成立した後にようやく復興庁の発足となり、予算の分配や特区の選定などが動き出した。この間、首相の変化等もあり随分時間がかかって、ここまで来たというのが偽らざる実感ではないか。(菊池)

—桜井市長ビデオメッセージ(Q:南相馬市の復興の現状について)
南相馬市はご存知の通り地震と津波、原発事故という相次ぐ災害によって極めて稀な被害を受けた市となった。一時期避難していた25万人という避難者の4人に1人が南相馬市民という状態であった。これは原発事故が最大の原因である。物流や情報が滞った被災直後の状況からは想像できないぐらいに戻りつつある。幸いにして線量が低い中で、除染も進めながら子ども達も就学児童が3000人戻ってきている現状であり、人の数としては多く戻ってきた。大地震と大津波によって破壊された海岸のインフラ整備は全く進んでいない。警戒区域内は手付かずのままである。こういうことを政府は見ているが、できるだけ積極的な支援をして欲しいと考えている。経済活動も一時期0となっていたが、7割の事業者が事業を再開している。しかし生産高は6割に過ぎない。残念ながら従業員として、子育て世代として若い人達が戻れていないので必要な雇用人数を確保できていない。放射線量の問題はまだまだあるが、当時の厳しさからすれば製品輸出に関する検査にも前ほどきつくなくなりつつある。一方で農産物については風評被害が圧倒的に多く22年度のものでも差し戻しになったと聞いている。そういう意味で原発事故というものが我々の経済活動に影響を与えたのは現実である。我々としては復興に向けて、計画を策定し復興元年と考え動き出している。(桜井)

・動き出しているけれど、問題は山積みである。大槌町の現状としてはどのようなものか。(中村)
・荒涼たるもので、瓦礫の集積はしているけれども、まだ町外に出ていない状況で、復興計画を早急に進めなければいけないという状況である。(碇川)

2012年5月10日木曜日

The Change of Japanese Contents Policy 3/3

The Change of Japanese Contents Policy 3/3


     UCバークレー大学での講演メモ、第3回。

3 Tomorrow

A) What D brings about
  Contents is a word that was born with digital technology, and has been expected to grow up through digital technology. But in Japan, it hasnt come true. In the decade between 1995 to 2005 just after the penetration of PC and internet, the market growth of Japanese contents was 5.8%. Its almost the same with the growth of GDP. In my research, the scale of the contents market depends on GDP. The coefficient of determination of contents market and GDP in the last 35 years was 0.988. It suggests that contents industry policy that aims at expanding the market scale is not effective.
  However, digital totally changed contents. The biggest change was the increase of creators and contents quantity. Contents creators are no more only entertainment professionals but include ordinary corporations and individuals. Corporations information, public information such as medical information, digital textbooks for schools, governments websites, individuals blogs and tweets, all are digital contents. Contents is not only 14 trillion yen entertainment market but also relates to 16 trillion yen communication market. It indicates that contents policy should have a scope of treating totally 30 trillion yen market.
  With regard to the quantity of information, our calculation using data of the Ministry of Communication showed that the total amount of information generated in Japan became 20.9 times bigger during 1995-2005, in the meantime market scale showed only 5.8% growth. Contents policy has been focusing on the industry, and has not taken attention to users information activity. But now contents policy shifts to communication policy that focuses more on the total IT users creativity and expression.

B) New Stage
  Since last year, new trend of media has been spreading over in three dimensions, multi-screen, cloud network, social service.
  1st, Device. Multi screen has come. The 4th media after TV, PC, and cell phone including smart phone, tablet PC, eBook reader, digital signage, smart TV, etc. are in our hands.
  2nd, Network. Nationwide digital TV network was established and the construction of broadband network has been achieved. Both telecom and broadcasting network has become digital delivery circuit. A Legal framework that allows them to be used flexibly was also provided.
  3rd, Service. Contents business is stagnated but SNS gets traffic and money. Contents is now used as catalyst for communication on SNS, and SNS is becoming the main stage for information business.
  Contents policy will come over to a new stage based on these basic changes. We should pay attention to the fact that these trends of technology, business and service are all spreading to the world from US. I believe new issues are also three. Three Ps. Platform, Public, and Pop.
  1st, Platform. For example, platform of mobile contents were occupied by telecom carriers. Such as iMode by NTT Docomo. It has been argued if these platforms should be regulated or not. And now its shifting to Google, Amazon, Apple. With regard to the platform, an argument whether some kind of competition or open policy should be introduced or not is starting in the government.
  2nd, Public. Digital textbook, digital medical care, eGovenment are becoming important issues. What should the government do for expanding these public information? How should this kind of intellectual property be treated? It is also being argued in the context of contents policy.
  3rd, Pop. Through penetration of new devices and services in the world, new markets will be formed up. How does contents industry, especially Pop culture industry that Japan has competitiveness take advantage of this situation?

2012年5月7日月曜日

IT 復興円卓会議「政治」 10/10

■IT 復興円卓会議「政治」 10/10

 IT復興円卓会議「政治」、最終回。
 藤末建三民主党参議院議員、高井崇志民主党衆議院議員、世耕弘成自民党参議院議員、池田信夫さん、菊池尚人さん。


質疑応答

Qクラウドより、行政書類のフォーマット統一と電子文書の保存フォーマット統一の方が重要なのではないでしょうか。


Aおっしゃる通りだと思います。ただ、これは「たまごとにわとり」の世界なのです。フォーマットを統一してくれとだけ伝えても反発を招く可能性があるのです。それよりも、クラウドを使うとコストが下がりますよ、ですからクラウドを使ってくださいねとお願いした方が、結果としてフォーマット統一にも繋がるのです。(藤末)



フォーマットだけではなく、データ化すらされていない行政情報もかなりあるのです。今回調べたら被災地の東北三県の方が、その率は低かったという結果でした。クラウドにしてバックアップしておかないとデータがいつか無くなってしまうのですよと伝えることが重要です。(高井)



話はさっきのところに戻りますが、住基ネットの使用が非常に制限されているからやり辛いのです。エンドユーザーからスルーになっていなくて、役所の中では使えるが、ICカードを入れないとユーザーは使えません。数パーセントしか住基カード持っていない状況では、住基番号というのはクラウドやなにかのインフラにならないですよ。そのためには規制を緩和して、パスワードだけで使えるよう、せめて使いやすくは出来ないのでしょうか。私は住基カードをICカードとして使うのはダメだと思います。あれだけのためにカードリーダーを買う人はいませんよ。(池田)



—ある意味でe-japanのやり直しのようなことが必要なのかもしれません。(中村)



当時、個人情報保護は非常にうるさかったので、過剰セキュリティにシステムがなってしまっているのです。(池田)



番号も個人情報もクラウドも選挙運動も、一体で繋がっているように思います。(中村)



Googleでこれだけ個人情報が出回っている世の中にあって、行政が握っている個人情報などごく僅かです。そこだけガチガチに守ってもどうしようもありません。ネット上の名誉棄損なんかは山ほどあります。むしろ事後的に流れた個人情報による被害の救済をしっかりし、その代わり事前利用のハードルを下げることが必要です。(池田)



Q—支援物資や義援金を受け取る体制は機能しているのでしょうか。上手く配分されているかが気になります。


A—支援物資に関して申しますと、例えば福島県庁に行くと大量にある、しかしそこから避難所まで適切に物資が渡っていないという状況がありました。そして水ばかり届いてしまっている避難所やパンばかり届いてしまっている避難所もありました。
避難所のニーズはどんどんと変化していきます。そのニーズの変化をリアルタイムで伝える仕組みをITでやろうという取り組みをしていました。最初は政府でガチっと作るべきだと思っていたのですが、民間主体でNPOが頑張って作ってくれたので、体制は機能しています。
ただ私は、今後も災害はいつ起きるかわかりませんので、災害が起こった翌日にサイトが立ち上がるぐらいの準備をしておくことが必要ではないでしょうか。そのためには政府で予算措置をしておくべきだと考えています。(高井)



—避難所ポータルのようなものを作っておいて、それぞれの避難所の位置情報や今何が欲しいなどの情報を流せるようにすればいいのではないでしょうか。日本のITと防災という観点ですと、もっと位置情報を公共プラットフォームとして活用できると思います。誰がどこにいる、というところまの把握は必要ありませんが、何人くらいいるか、どのような人の動きがあるか、これらの大まかな情報でも充分使えます。(世耕)



—防災の今後を考えると、私はNHKにいたとき防災班にいたことがありまして、一緒にやっていたのが池上彰さんなのですが、二人で「NHKスペシャル 東京大地震」などを作ったことがあります。その頃の見込みで15万人が亡くなるような規模の大地震が東京に来ることを予見しているデータがありました。
それは今来てもおかしくないのですが、誰もそこに緊張感は持っていません。ですから、災害が起きる前に防災のデータや情報を蓄積しておかないといけないのです。起きない災害への備えは誰もやらないですから、起きた時にどこに何があるか、普段からしっかり備えをしておく仕組み作りが、防災で出来る最小限のことじゃないかと思います。(池田)



復興への提言(116分〜)



藤末—「夢と雇用」

夢と雇用を作るということです。現地では15万人分雇用が失われており、そこの雇用を回復し更に増やすということが一番大きな私のポイントです。それからもう一つ、新しい東北を作りたいです。先程スマートグリッドということを申しましたが、ここから新しいものが産まれるという場所に東北がなるよう、政治家として応援させて頂きます。



高井—「人と情報」

被災地、未だに石巻市の例ですが、131か所の仮設住宅があり、この仮設住宅を担当する職人はたった4人しかいません。そして仮設住宅ごとに集会所のような公共スペースがあるのですが、誰も鍵を持っていません。通常ですと例えば町内ですと町内会長がカギを持っているのですが、仮設ですから管理する人がいないのです。
管理する人間がいないので、仮設住宅や集会所があっても、誰もそこに集まれる状態になっていません。人が被災地にまだまだ足りないのです。
ですから、本日のテーマとやや逆行してしまう部分もあるのかもしれませんが、IT分野の復興、インフラ整備よりも、まず人を増やすことが優先なのではないかと思っています。
ただ、そうは言っても情報共有・連携の不備が災害被害の拡大を招いた原因でもあると思っていますので、ITの分野での情報共有・連携は非常に重要だとも思っています。



世耕—「公共プラットフォーム構築」

日本はプラットフォーム作りでITでは世界に後れを取ってしまっています。音楽や電子書籍などの分野でプラットフォームを日本が取るのは難しいと考えています。
一方で最後残されたチャンスは公共的なサービス、コミュニティ、教育、防災、医療という部分でプラットフォームをとれるのではないでしょうか。
今回の震災復興はそこを芽生えさせる機会にすべき、ある意味でピンチをチャンスに変える機会だとも考えています。
しかし、政治家が構想できるレベルでもないと思っていますので、ユーザーサイドに立って出来る方に思う存分やってもらい、我々はその邪魔をしないということも重要だと考えています。