■大川功さんを想ってみた。
西和彦さん「反省記」を読んで、大川功さんが亡くなってもう20年かとしみじみしました。
CSK、セガ、ベルシステム24を上場させた、叩き上げの大経営者ですが、もう知る人も少なくなりました。
iU生で知る子はいますまい。
あのおっさんを忘れてしまうのは、実に損失であります。
2001年3月に亡くなった大川さんの追悼を、当時ぼくはたくさんしたためました。
役所を出てMITに渡り、以後、学の領域でふにふにする舞台を与えてくださったのが大川さんであり、MIT Okawaセンターはじめデジタルと子供のプロジェクトが成就する直前に世を去る無念を存じ上げていましたので。
追悼文のひとつ。
ご一読ください。↓
2001.3.22「大川さんが遺したもの(中村伊知哉)」 日経デジタルコア
http://www.ichiya.org/jpn/NikkeiNet/nikkeinet_010322_vol5.pdf
つまり大川さんは、その後MITを核に広がったプログラミング教育やら一人1台PCやらの火元であり、教育デジタルの世界的な大貢献者なのです。
でもぼくが伝えたいのは、偉業と裏筋の、ハチャメチャで色気のある、その後会ったことのない昭和タイプのお大尽の姿。おもろいおっさんでした。
最初にお見かけしたのは役所の新人のころ。1984年。
通信自由化を実現すべく電気通信事業法案を策定していた郵政省電気通信局。
毎日のように大川さんが幹部に談判していました。
ソフトウェア会社の社長なのに通産省を敵に回す民間将校の立場でした。
ぼくは日々お茶出しをしていました。
その後、ぼくがパリでスパイをしていた95年、情報G7でお世話をしたのは追悼文に記したとおり。
帰国してぼくは、マイクロソフト成毛眞さんが赤坂で毎月開くサロンに出入りするようになります。
そこに来ていた大川さんと再開、でもぼくは35も年上の大立者と口をきくような立場ではありません。
酔っ払って遠巻きに眺めていました。
トイレのドアをガッと開けたら大川さんがパンツ下ろしてオシッコしてて、あ~見たらあかんヤツや、黙って応接間に戻ってまた飲んでたら、「ワシのケツ見たん誰や」と大川さんが戻ってきて騒ぐ。
こいつこいつ。
そいつどいつ、と吉本芸人コンビ名のような尋問がなされ、覚えられていまいます。
西和彦さんがアスキー救済からのMIT出資、研究所設立という案件を大川さんと進め、おまえ役所やめてMIT行かんかい、となったのはその少し後のこと。
大川さんによる首実検は飲みながら行われました。
「役所出るの、問題あるか?」と大川さんに聞かれました。
ぼく単身で渡米しますが、スカンピンで、家族の住むとこがありません。
「この部屋空いてるさかい住め。」
あてがわれたのは永田町のものものしいマンション。
家族が入居しました。
隣の部屋がハマコーさん。
向かいは金塊が出てきた金丸信さんの事務所でした。
うちに届く郵便物の宛先が「温故知新の会」となっていることも多数。
渡辺美智雄さんに貸していた事務所だったんです。
そこに住む怪しい一家。
その後一家はどうなったかというと、
実はまだ四階に住んでいるのです。
大川さんは大舞台に立ってCSK社歌に準ずる歌「東京ラプソディー」を熱唱したり、ゆったりと名取級の日舞を舞ったり、芸達者でしたが、一番の芸は、「おひねり」でした。
夜な夜な赤坂の料亭で芸者さんたちの袖に、ひょいひょいとポチ袋に入ったおかねを入れていくのです。
ポチ袋には1万円が入っていて、毎度たんまりと持参し、バカ話エロ話をしながらそばにいる芸者さんにひょいひょういとなんべんも入れていく。
お大尽。
サラリーマン社長にはできません。
ベンチャーで成功した人がこうして文化を守っていく。
ぼくはおひねりにお札を入れる準備作業を何度か手伝いました。
お大尽。
橋本大二郎さんが高知県知事に当選した時、お祝いにシャガールの絵を県立美術館に200点以上寄贈したことがありました。
なぜ?「シャガールて、死んだやろ、死んだヤツは、ええねん。」とヒトコト。
小錦さんとか生きてる人への支援は熱心でしたもんね。
(一枚ぐらい欲しかった・・)
お大尽。
エルメスのパリ本店で「ネクタイこっからここまでくれや」と注文されたときは、通訳を躊躇しました。
そのあと牛乳を6本買ってこさせて、定価で買い戻った秘書に「なんでまけてもろわへんねん」と小一時間問い詰めていた。
船場から叩き上げた商人の2面を見ました。
官から民に出て最初に仕えたひと。
民間に出たら、こんなムチャクチャな人がたくさんいるんだ。
と覚悟したのですが、あんなムチャクチャな人にはその後会っていません。
西海岸に畑を持っていて、大川さんのそばにいればベリンジャーがなんぼでも飲めました。
1999年の一瓶だけ、とってあります。
20年の命日に開けます。
改めて、ありがとう、大川さん。