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2012年3月29日木曜日

スマートテレビ考 前編


スマートテレビ考 前編

 融合研究所で開催してきた「スマートテレビ研究会」の報告書を執筆しています。民放連でぼくが座長を務めた「デジタル・ネット研究会」も取りまとめに入りました。大阪のテレビ局などがスタートさせ、ぼくも顧問として参加している「マルチスクリーン型放送研究会」も実験に向け動いています。出演予定のNHK放送記念日特集もテーマは「スマートテレビ」。スマテレ熱が高まっています。
 スマテレのイメージはまだハッキリしません。さまざまな提案が宙を舞っています。大画面テレビにネットサービスをかぶせる、ビデオオンデマンドを通信経由でテレビ端末でできるようにする、タブレット端末で番組を観られるようにする、テレビ画面とスマホでのソーシャルサービスとを連動させる、いろいろあります。そういうモヤモヤした新しい端末+ネット+ソーシャルの最小公倍数、それがスマートだというわけです。
 ただ、基本論調は「黒船来港」。アメリカからGoogleTVAppleTVHuluNetflixがやってくるぞーっ、電子書籍の次の波だぞーっ、というあおり感。
 でもぼくは、逆だと見てるんです。これはチャンスだぞ、と。アメリカとは違う、日本の強み、特性を活かせるんじゃないか、と。それは、1.メディア環境、2.ユーザ力、3.産業構造の3ポイントです。
 
1. メディア環境
 日本は通信・放送融合ネットワークが完成しました。地デジが整備され、世界最高水準のブロードバンド網が全国整備されています。それを柔軟に使うための法制度:融合法制も昨年、施行されました。環境的には最高です。スマートテレビは、マルチデバイスと広帯域ネットワークとソーシャルサービスの組み合わせですが、日本にはそれが十分にあります。
 50年普及したテレビ、15年普及したPCとケータイ、これに次ぐ第4のメディアが一斉に普及していることは繰り返し述べていますが、スマテレもその一つ。マルチスクリーンは、テレビから辿ってテレビに戻る一種の回帰現象と言ってもいいでしょう。
 なお、地デジ論議が高まった20年ほど前には、そのメリットは高画質=キレイにあり、楽しく便利にする、つまりデジタル+コンピュータ化するメリットは後ろに隠されていました。旧来のテレビなる機械をPCに変身させることがアメリカのデジタル放送の目論見だったので、実は高画質などどうでもよかったのですが、日本はその意図をごまかしつつ進めようとしたので、いざ地デジが完成し、毛穴まで見られるようになっても、白黒がカラーに転換したほどの効用を視聴者に与えられずにいるのです。白黒→カラーは質的変化ですが、高精細は量的拡充ですから。
 そこでアメリカの目論んだテレビ→PCが地デジ整備とともに正体を現した、それがスマテレ。いわば50年間進化しなかったテレビがやっと変身するぞ、という号砲ですな。

2. ユーザ力
 その号砲は、テレビ受像器が受けるんじゃない。ソーシャルサービスを介したユーザ側が受けて、変身させるんです。参加するテレビ、それがスマテレの胆でしょう。
 元来テレビはコミュニケーションの手段でした。茶の間にうやうやしく鎮座したテレビの周りで家族が時空間を共有する。それが1人一台になって、家庭コミュニティとコミュニケーションが分散した。それを今度はバーチャルなコミュニティーで結び直す。それがスマテレの意図するものでしょう。
 となると、視聴者、いや、ユーザのコミュニケーション力がスマテレの質を規定します。その点で、日本は負けません。
 昨年129日、「天空の城ラピュタ」の滅びの呪文「バルス」が、秒間ツイート数25088件に達し、世界記録を樹立しました。それまでの記録はビヨンセの妊娠発表の8868件だというから圧倒的な記録です。東日本大震災時でも5530ツイート/秒。
 テレビの番組、それもアニメの再放送をみんなで見ながら、つながり感を共有して、「バルス!」それが圧倒的な世界記録。どうですか。このテレビ+ソーシャル度。外国に真似ができるとは思えません。
 213日、ぼくが理事長となって「ニューメディアリスク協会」を設立しました。ソーシャルメディア上の炎上対策のための社団法人です。日本は炎上大国と言ってもよいほど問題が発生するのですが、これもユーザの発信・共有力の現れでもあります。
 テレビ、PC、ケータイの3スクリーンを同時につかいこなす若者が大勢いる。世界のブログで使われている言葉を総計すると日本語が英語を抑えてトップ。そうした若い世代のネット利用力はスマテレの発展を下支えするはずです。

3 産業構造
 日米のテレビ産業には大きな差があります。
 アメリカはプレイヤーが多様。スマテレを巡る動きをみても、放送局がHuluを仕掛ける一方、タイムワーナーやコムキャスト、DirecTVなどケーブルや衛星も力を入れています。AT&TVerizonなどの通信系もIPTVでアピール。そして何より、GoogleApple、マイクロソフトなどIT系、コンピュータ系が全体を引っ張っています。逆に言えば、放送局はそれほど存在感がありません。これは制作・伝送分離など過去の政策による帰結でもあります。
 日本のテレビは放送局が中心です。電波もコンテンツも握っています。放送局に対する規制は緩く、新聞社と結びついた政治力もあります。スマテレの立ち上げを促すのであれば、この状況を「活かす」のが近道とも言えるでしょう。逆にアメリカ型の構図を持ち込もうとしても順調には進みますまい。
 ただ、20年前に通信・放送融合の論議が始まった際もぼくは同じことを政府内で話していました。日本はコンテンツ力が放送局に集中しているので、それと高度な通信網を組み合わせれば世界に先んじてサービス展開ができる、国益にかなう、だから放送局から攻勢をかけましょうというもの。全く受け容れられませんでした。
 当時、アメリカでの融合議論は放送=CATVと通信のネットワーク競争環境整備が中心で、放送局やハリウッドを巻き込んだ話ではなかった。だから日本にはチャンスだったのです。でもそれを20年間逃し、GoogleAppleがネットで攻めてきてようやく本腰を入れるようになった。スマテレは、先んじたい。

 融合メディア環境を活かし、ユーザのコミュニケーション力を発揮させ、放送局が力を入れてサービスを開発する。これがスマートテレビへの日本型アプローチでしょう。それはGoogleTVAppleTVが提案するスタイルとも異なる、日本の強みを発揮した独自のサービスであり得る。チャンスを活かせるかどうかが問われる場面です。

2012年3月26日月曜日

IT 復興円卓会議「政治」 4/10

IT 復興円卓会議「政治」 4/10

 IT復興円卓会議「政治」の第4回。
 藤末建三民主党参議院議員、高井崇民主党衆議院議員、世耕弘成自民党参議院議員、池田信夫さん、菊池尚人さん。

国会対策

-ここまで、与野党で提言を出しておられますが、実行していくためにハードルになっていくことは何かありますでしょうか。(中村)



-うまくやっているところもあるのですが、とまっているところもあるのです。国民の皆さまにはぶつかっているところしか見えていません。例えば4つの法案を通しても、ドーンと大きいものが通らないとなると国民の皆さまから見ればやっていないじゃないかとなってしまうところがあるのです。やっているところがキチンと報じられていないというのは一つのハードルです。(藤末)



-でも、復興に関してはITも含めて今までの路線を続けていけばよいと思います。少なくともITに関しては与野党の向いている方向は近いです。あとはどう実行するかです。実行するときに現場の人が嫌がることも出てくるでしょうし、中央省庁の縦割り行政も弊害となって来る場面が出てきます。そういったところをどうぶち破っていくかです。やはり政府のシステムや行政のITの改革をするときは組織がとても大きいので、ITを良く理解したスティーブ・ジョブスのような強烈なリーダーシップ、思想が無いとなかなか実行は難しいですね。最終的にはそういった組織論が難しいところだと思います。(世耕)



-そのようにIT分野を引っ張っていくリーダーは誰がいますでしょうか。(中村)



-我々が官邸に入れれば、とは思いますが。あとはそういった舞台を政府の中に作らなくてはいけないのではないでしょうか。今までもIT戦略本部とかを作ってきましたが、もっと強力に、法律で権限を持たせて、そこがある程度思想を持ってやっていくくらいではないと難しいでしょう。(世耕)



-先程キチンと報じられないという話がありましたが、政治家から見た政治報道とはどうだったかというのをお伺いしたいのですが。復興に向けた政策立案の動きというのは余り注目されない印象があります。(中村)



-取材する側はもめているところの方が面白いわけで、そちらを優先的に報道してしまうのではないでしょうか。国会でも実際には大部分の法案は決まってしまうわけで、可決する法案は通常取材の対象からは外れてしまいます。ITや復興は与野党が対立する分野ではないと思いますので、淡々と通して、対決すべきところにエネルギーを集中したらどうでしょうか。(池田)



-政局的な話になってしまいますが、民主党は国会対策があまり上手ではないです。自民党時代は良くも悪くも、国会対策委員会が力を持っていました。国会対策委員会はまさに通す法案と通さない法案という整理をやるのです。この組織をもう少し有効に使い、民主党に相談して欲しいと思います。国体政治と言って、裏で決めるのではないかという批判もありますが、そういった交通整理も必要なのです。(世耕)



-議論は表でやるけれども、議論内容の順番などを決めることが必要です。(藤末)



-政府と民主党が上手く話せていないということも問題ですね。(世耕)



-政治主導という建前を民主党はまともに信じてしまっていてそのままの仕組み作りにしてしまっているところに原因があるのでしょう。民主党が議席の圧倒的多数をとっていれば、それは内閣が決めて法律を出してしまえば、自民党が反対しても法案は可決します。国会がねじれていると、結局自民党がOKしないと何も決まりません。党同士で話さないと内閣が何を言っても決まらないという、現実と政治主導の理念がマッチしていない状態にあります。そういう意味で残念ながら国会は機能しにくいと言えます。ですので、現実に対応した仕組み作りを民主党がしないと、空回りしてしまうのではないでしょうか。(池田)



-先程政治が機能しているという話がありましたが、ねじれているからこそ機能している部分もあるのかもしれません。それはしっかりと調整をしないといけないということですから。(中村)



-先日民主党大会があったのですが、大会の前に内輪の会議がいくつかあり私も参加していたのですが、その場で世耕さんがおっしゃったようなことが反省点として上がってきました。その際、民主党の国対委員長が、まさに国対が与野党との話し合いの場として機能するよう、メリハリのある国体を、という話をされていました。なんでもかんでも相談で通すってことではなく、対立することに関しては国民が判断を下すことになるわけですから、我々も腹を括ってやろうということになりました。(高井)



-IT分野の法案に関しては比較的スムーズに通ってきましたよね。(菊池)



-国対の議員同士の打ち合わせの場とはどこなのでしょうか。(中村)



-これは国会対策委員長室というところです。自民党ではここは修業の場と言われています。時間厳守、自分の予定は聞いてもらえません。しかしある意味、勉強の場としても機能しています。1年生議員は皆ここに来て国会運営のやり方や法律の処理などを勉強します。(世耕)



-今の、例えば総理とか現職の閣僚も、あまりそういったことにピンと来ている人が少ないのでしょうか。(菊池)



-そうなのです。この国対の感覚というのは非常に重要で、どんな立派な法案を出しても、スケジュール的にどうなのだとか、他に野党とどんな交渉をすれば法案が可決するのかということを頭の片隅においていないと、現実の政治は難しいです。(世耕)



-ただ、本当はそういったやり方はあまり好ましくないのではないでしょうか。昔民主党が言ったように、テーブルの下で政党同士が駆け引きをして実質的な落とし所が決まってしまうようでは、何のために政府や国会審議があるのかということになります。この建前論はわからないこともないのですが、残念ながら国会の実態が建前と合っていないのです。原則論から言えば国会の選挙制度も含めて、恒常的にねじれが続く状態は何とかしなくてはなりません。それは短期的にはどうしようもない面もありますが。もう少し実態に即した部分で機能的にやる仕組みを考えなくてはならないのではないでしょうか。先程権限をどこかに集中するという話もありました。今の国対のやり方は自民党政権がずっと行ってきた昔ながらのやり方に回帰している印象があります。(池田)

2012年3月22日木曜日

カーネーションが、終わってまう


■カーネーションが、終わってまう




  名作です。コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコ三姉妹の母、小篠綾子さんの生涯を描いた渡辺あやさんの作品。ストーリーその他の説明はここでは不要でしょう。 半年間、朝に椎名林檎の歌声を聞き続けるのは重いかと思いきや、これほど日々待ち遠しい連続ドラマはありませんでした。
 NHK大阪は近年、「ちりとてちん」、「てっぱん」という傑作を続々と打ち出してきましたが、それを越える作品だとぼくは思います。まもなく最終回、今からもうスタンディング・オベーションをしておきます。
 
3月に入ってからのカーネーションは蛇足感が否めませんが、これも2月までの快進撃のまま閉じる寂しさを自ら和らげてくれている、と都合よく解しております。)

 最も好きな映画と問われたら、川島雄三「女は二度生まれる」と河瀬直美「萌の朱雀」で迷います。ただ前者はDVDでしか見たことがない。その際もテレビ画面の前でスタンディング・オベーションしましたが。後者はリアルタイムに館で見て、わんわんと恥ずかしく声が出た唯一の経験をさせてくれた作品です。

 ラスト近く、「あんな、好きやねん」と消え入るようにつぶやいて鮮烈に世界デビューした尾野真千子さん。あれから15年になりますか。デビューでカンヌ映画祭カメラドール、次の2007年「殯の森」でカンヌ映画祭グランプリを獲得した2作品に主演されているのだから、もう国際大女優ですが、国内ではさほど知られておらず、毎朝の国民番組に起用するリスクをNHK大阪はよくぞ負ってくれました。

 創作家としての顔、経営者としての顔、厳しい母の顔、恋人の顔。語りやセリフではなく、表情やたたずまいで見事に演じ分けていました。これは、他の登場人物にも課せられていました。役者さんにはキツかったでしょう。

  セリフのキレ、展開のリズム、画面アングルのアイディア、劇中に流れるアンサンブルや打楽器のメリハリ。文句ありません。
 ふとしたセリフが後になって効いてくる構成、ムダなセリフを排して引きの表情や画面構成で語らせる演出などは、「てっぱん」に引けを取りません。
 しびれる脚本と、うなる演出でございまし た。毎朝、うひょ〜、と声を出しておりました。BK(馬場町カド)、やってくれるやんけ。

  女たちの讃歌。主人公を軸に、耐える母、正しい祖母、ついていく妹たち、爆発する娘たち、天国と地獄を見た幼なじみ、女たちがみな真っ赤に生きている。
 怒鳴ったり、涙したり、ひれ伏したり、抱き合ったり、寝込んだり、押し黙ったりしつつ、生き生きとしている。
 女たちを女として讃える視線はフェリーニ的です が、かくも全世代の女たちが輝く劇は初めてです。

 「ちりとてちん」も「てっぱん」も女のものがたりでした。ただ、その両者が「生きる」ドラマであったのに比べ、カーネーションは「創る」ドラマ。洋服を、 仕事を、ビジネスを、家族を 女たちが創る。その魅力。「坂の上の雲」や「龍馬伝」で使われたプログレッシブカメラで撮った映像の魅力も加味されているの でしょう。

 「ゲゲゲの女房」、「おひさま」など、最近NHK東 京のドラマは、女性が主人公であっても、平穏な暮らしを望み、男に依存するようなお話が多くてイライラしておりました。てゆーか、目をそむけるものが多かった。
 そりゃ朝っぱらから緩い日常を共有するのは心地よい安心かもしれんが、ひねくれ者のぼくからは、国民を去勢し手懐ける治安装置に見えてですね。
 とことん体を酷使するのにテッテ的にぶつかり合いを避けさせるバスケットボールは黒人の暴動を抑える治安装置だと解しているぼくは、同じような臭みを感じて しまうのです申しわけないが。

  ちりとてちん、てっぱん、カーネーションは、それらとは違う。女の自立のおはなし。
 これに加え、カーネーションは、男たちもいい。父親と近所の友人たち、 大丸の支配人、パッチ店やロイヤルの主人、戦死する夫、組合長、周防さん。
 岸和田という荒くれの町で虚勢を張りながら、実は気が弱くてお人好しの男どもが、従順そうに振る舞いながら実に芯がぶれない女性たちの掌で、ねっちゃらねっちゃらと、結局いつも丸め込まれていく、その過程の泣き笑い。
 小林薫、國村 準、トミーズ雅や団時朗(!)、そして板尾創路、ほっしゃん。、近藤正臣ら、花登筺が生きていたらこうしたろうと思われる、妥協なく煮詰めたキャスティン グの勝利でしょうね。


2012年3月19日月曜日

IT 復興円卓会議「政治」 3/10

IT 復興円卓会議「政治」 3/10

 IT復興円卓会議「政治」の第3回。
 藤末建三民主党参議院議員、高井崇民主党衆議院議員、世耕弘成自民党参議院議員、池田信夫さん、菊池尚人さん。

個人情報保護
-これまでこの場でも官僚VS政治か、政治主導か霞が関かという議論がありましたが、今の話だと見方はそうではなく、行政府から立法府に機能が移行しているという状況にあるということなのでしょうか。(中村)



-今は大きな変革点にあるかもしれません。内閣でダメなところを議員立法で補完していくというかたちでやっています。批判という意味ではなく、ICTについても政府の対応を見ていると同じものを作ってしまうのではないかという危機感がありまして、自民党は新ICT戦略特命委員会というのを元々震災の前から作っており提言をしていたのですが、震災復興を短期・中期・長期の3ステージに分け、なるべく政府に欠けているところを埋めていこうということでやっています。
特に問題意識を持っているのが津波で行政の資料がなくなったというところです。これはまさにクラウドを導入する機会です。復興となると、急いで元に戻すということに意識が向きがちですが、少し思いとどまり、もう1度新しくクラウドで組み立てていくこと必要です。
そして今回強く思ったことが日本のネットワークの脆弱性です。特に海外との繋がり方において、です。今回海底ケーブルが地震で分断され、海外とのネットワークスピードが落ちるという事態にありました。というのも、ネットワークルートの多くが集中している設計になっていたという理由に起因しています。従ってどこで大きな地震が来てもダメージが最小で済むよう、分散させるネットワークを再構築すべきだという提言をしています。(世耕)



-今世耕さんがおっしゃった自治体クラウドは予算に計上しています。雲の中にサーバーがあって、皆で使いましょうというシステムです。現在は、各市町村は独自にコンピューターを持っており、フォーマット・様式が異なっています。従って各市町村によってデータが違うという事態になっています。色々な市町村が同じフォーマット・様式・コンピューターに統一をすれば、データの安全性を担保できるしコストも安く済むということで、自治体クラウドの導入が有効なのです。(藤末)



-その際私が一つ検討して頂きたいのが、個人情報保護の緩和です。特に行政機関は少しでも漏れるとマスコミに叩かれるという状況で、危なくて個人情報を触れない事態に陥ってしまっています。実際の業務に支障があるレベルなのです。今後、税金の扱いで納税者番号というのが必要になって参りますし、この機会に個人情報保護法を改正するか運用を弾力化しないと非常にややこしい事態になってしまうと思っています。(池田)



-今の個人情報保護法の延長でクラウドを作ってしまうと非常に使いにくく、コストが高いものになってしまいます。これは我々時代の失敗で言えば、個人情報保護に気を使うあまり、住基カードという非常に使いづらく、しかも行政しか使えない閉じたシステムが出来上がってしまいました。今政府で議論されている納税者番号制度に関しても同じような危惧を抱いています。この際もっとシンプルに、個人情報を漏洩した場合の罰を厳しくすればよいのです。扱う人のことを信用せず最初からガチガチに固めたシステムでは、誰も使えなくなってしまいます。(世耕)



-2003年の国会で法案は可決しましたが、その時代はメインフレームのコンピューターにアクセスをして情報を集中管理する、ビッグブラザー的な手法が取られていました。ところが今は全く時代が変わっています。Google検索で私の名前で検索をかければ数万件がヒットする時代です。プライバシーの考え方そのものが変化しているのです。もう一回プライバシーの考え方を根本的に考え直すべきです。(池田)



-おっしゃる通りだと思います。私は国民IDの民主党検討委員会のWTにも参加しているのですが、ここに三条委員会、公正取引委員会とか国家公安委員会のような、最低でも100人規模のしっかりとした事務局を作り個人情報保護の制度を検討することが必要だと思っています。(高井)



-まず個人情報を使う側に立った観点で法案を検討しなくてはならないでしょう。そのあとに個人情報をどうするかという順番で考える必要があります。(世耕)



-番号と個人情報保護とクラウドというのはある種一つのセットで、震災復興でクラウドをやっていこうというのが、変革の大きなきっかけになるかもしれませんね。(中村)



-少し住基の時と違うのが、技術が進歩することを見越した設計というのは、今回の自治体クラウドの提案である程度できています。従って何とかこれを通したいなと考えています。そのうえで(復興するにあたって)きめ細かく社会保障を行う、税金を徴収することが出来ていないという問題を解決しなくてはならないでしょう。(藤末)



-消費税の逆進性を緩和するために給付申請税額控除で何とかしましょうと民主党は言っていますが、あれは納税者番号が無いと運用できないのです。昔国民背番号などと言ってヒステリックに反対した人はいましたが、さすがに今はもう状況が変わっています。ところが当時、非常に叩かれてしまった官僚のトラウマになってしまっているので、過剰防衛化してしまっています。それを政治家の皆さんが理解をして、きちっと厳重に番号をつけて管理することが国民の利益であるということを徹底すべきです。(池田)



-いつ頃法案は出そうでしょうか。(菊池)



-もう法案は作っていますので、GW前じゃないでしょうか。(藤末)



-これは一体改革の一部なのでしょうか。(菊池)



-インフラでしょうね。共通番号は基盤ですね。(世耕)



-税制改革が無くても、社会保障制度をいじらなくても、この番号が無いとまずいと思います。自治体クラウドはシステムにかかっているコスト、オペレーションコストも含めて相当圧縮できます。色々な計算がありますが、そこでカットできるコストは数百億円に上るとも言われています。税の支出を減らすという意味でも是非実現したいです。(藤末)



-公務員を減らすということも是非考えて欲しいですね。日本の電子政府は仕事を増やすことばかりです。役所のやっているペーパーワークは電子化すれば要員削減が可能になります。このことは国会から言って頂かないと実現しないでしょう。(池田)

2012年3月15日木曜日

熟議より決議


■熟議より決議
 小幡績さんが書いた「小泉にあって橋下市長にないもの」それは竹中平蔵、という面白いコラム(http://blogos.com/article/32059/?axis=b:226)に刺激され、考えました。橋下市政より現政権の国政の方が問題を抱えているではないか、と。

 政治の役割は「企画・議論」より「決断・実行」です。熱量でいうと1:9ぐらいの比重とみてよいでしょう。自民政権では、前者を霞ヶ関、後者を永田町が担当していました。正確には、「企画・議論・実行」を霞ヶ関、「決断」を永田町というところが実態。
 しかし、戦後復興、安保紛争、中ソ国交、沖縄返還、オイルショック、政治の季節が過ぎ、政治家も小粒になるにつれ、霞ヶ関:企画・議論が永田町:決断・実行のパワーを上回りすぎ、バランスを崩していきました。
 そのバランスをいったん引き戻したのが小泉ー竹中ライン。竹中さんは小泉さんを乗せ、企画を続けました。小泉さんは竹中さんに乗り、決断を続けました。そして、小泉政権は政治主導でしたが、実は官僚機構を巧みに使いこなし、企画から実行までを周到に進めて行ったのです。

 民主党政権は「政治主導」というかけ声のもと、見かけ上これを推し進め、あえてバランスを崩し、企画・議論も決断・実行も全て永田町が仕切ることとしました。そして、それが裏目に出ました。政治主導を官僚排除と翻訳してしまったからですね。 
 そして民主党議員は頭がいいから、企画・議論が得意で大好き。そちらに体重がかかりすぎ、決断・実行ができないというぬかるみにはまったのです。企画・論議のたまものであるマニフェストを決断して、政権取得後に実行に移す!その頃の意気はよかったのですが、それにつまづいた後は、一から企画・議論を重ねています。
 ぼくが携わる知財戦略も教育情報化も議論議論の繰り返しで、決断と実行が見えなくなってしまっています。党の会合などに参考人として呼ばれて行っても、議員たちから政策の有効性やらコスパやら質問を受けるのですが、えっ、その問題、まだ「議論」するんですか?要するに、まだ「やらない」んですか?という場面が多い。政府の審議会などでも同じです。
 民主党の「民主」は「話合い」という意味で、コンセンサスに達しなければ動かず、と。でも民間が政治に求めているのは、「熟議より決議」なのです。小泉政権時は決断・実行が速かったので、ぼくは産官学の議論を!とあれこれ場作りを仕掛けたのですが、今は逆。もうわかったから速くやろうよ、の場面です。

 橋下さんは逆にやみくもな決断・実行への偏重が批判の的ですが、同時にそれが支持される理由でもあり、いま政治的に正しいと思うのです。
 橋下市政の企画を担うのが脱藩官僚ブレーンなのでしょうが、政治をも引き受ける「竹中役」がいないのがネックになり得るというのが小幡績さんの指摘。というより、橋下さんは、小泉さんのポピュリズムと、竹中さんのサンドバッグとを一身で引き受ける、という覚悟なのでしょう。それは小泉さんが竹中さんを乗りこなしたように、橋下さんがブレーンをどう使いこなすのか、その人材操縦術にかかっているのでしょう。
 それよりぼくは、橋下さんにとって重要なのは、ウラで役人を取り仕切る「飯島秘書官役」だと思います。そういう強面の懐刀はいるのかな〜?

 なんてことをと考えていたら、飯島勲/大下英治「官僚」という書を見かけました。飯島さんの証言で、小泉長期政権と安倍福田麻生鳩山菅の短命政権の違いが浮き彫りになっています。何点かメモしておきます。
 財務、外務、厚生など出身の4人の秘書官、5人の参事官からなる「チーム小泉」はほぼ毎日、首相・秘書官と昼食を共にしていたといいます。それが全省庁への司令塔だったと。つまり、官から民へ、の小泉政権が実に官僚機構の操縦にチームとして腐心していたということです。
 飯島さんは言います。「官僚を道具として使いこなす手段は、働いた官僚を人事で報いること」。そのとおりです。いい仕事をした官僚を処遇すればよい。官僚排除を進めても動かないことは民主党が実証済みです。地震後の動きについて、自衛隊、警察、消防に加え「国土交通省、農林水産省、厚生労働省の迅速な動きをわたしは高く評価します。」こういう声は政権内から上がってくるべきものですね。

 「官僚は国有財産。どんな大手企業のエリートよりも、人的なネットワークや情報量では霞ヶ関の官僚にはかないません。」かつてはそうだったんです。ところが、最近のバッシングや官僚排除で官僚は引きこもり気味。ネットワークが弱まってます。これは国有財産の毀損。
 「事務の官房副長官にとって政策は二の次で問題は日程作り」だとして、副長官に仕事をさせず次官会議を廃止した民主党政権に疑問を呈しています。政策の企画は各省で行うが、どう決定・実行するかが政治。そのメカニズムを知らず走っても動かないということです。
 飯島さんは言う。予算を作るには、都道府県締切、概算要求、本予算、通常国会のプロセスがあり、これを経験しているかどうかが官僚として重要。法律を作る場合、全省庁との調整、法制局協議、省議・閣議、与野党根回し、国会成立。「キャリア官僚とはこれだけの作業を1人でこなせる人種。」イエス。しかも、作る前には審議会や業界調整やマスコミ対策などうんと長いプロセスがあるのです。官僚出身ではなく政治の場から見て来た飯島さんの官僚評は客観性とリアリティーがあります。
 
 ぼくは30代で役所を出ましたが、それでも、新法2本、法改正1本をリーダーとして担当しましたし、官房の審査役や駆け出しチーム員で参加した法律を合わせると20本ぐらいにはなります。それで得たのは、企画力より、へこたれない根性、一個一個潰していく足腰、のようなもの。ひとまとまりの政策を実現するリアリティーです。
 繰り返しますが、政策作成は企画1:実行9ぐらいの仕事。WhatよりHowが重要です。9の仕事は官僚を使わないと進まないのですが、現政権は19も官僚排除でやりたがり、結果、1の仕事もできなくなっているように見えます。
 ぼくも霞ヶ関を飛び出したクチですから、官僚機構への疑問は多々あります。しかし、官僚の仕事やメカニズムを知らず叩いても国益を損なう。飯島さんのように官僚のリアリティーを踏まえて、どう仕事をこなすか、それは国政でも市政でも同じでしょう。

2012年3月12日月曜日

IT 復興円卓会議「政治」 2/10

IT 復興円卓会議「政治」 2/10

 IT復興円卓会議「政治」の第2回。
 藤末建三民主党参議院議員、高井崇民主党衆議院議員、世耕弘成自民党参議院議員、池田信夫さん、菊池尚人さん。


民主・自民の復興提言について

まず前半では、復興に向けて政治家の方々がこれまでどのようなことに取り組んできて、これからどうするのかというのを伺いたいと思います。与野党問わずIT分野では復興に向けて様々な動きが出てきています。政策の中身については後半議論しますが、まずは各党からIT分野の復興策について提言が出ていますので、簡単に紹介したいと思います。まず民主党です。高井さんが事務局長を務めている情報通信WTの案では

●情報通信インフラの復旧

●暮らしの安心・安全の確保

ICTを活用した事業再建・雇用創出

●災害発生時の行政サービスの確保

ICTの活用による電力供給への対応 など

このように、幅広く提言が出されています。そして自民党ですが、

●当面の復旧・復興を最優先

●復旧・復興で築いたICT基盤を成長基盤とする

●政策を呼び水として民間活力を活用する

となっています。中でもITを成長基盤とすることと民間の力を活用することが強調されていまして、経済成長重視の色彩が民主党よりも強いと、私はそう認識しています。いずれもITを成長のエンジンにしていきましょうよという提言がなされているということです。ではまず高井さんから民主党のIT復興に向けた取り組みと、ご自身で取り組んでおられることについて説明をお願いできますでしょうか。(中村)



-情報通信WTというところで、震災1ヶ月後の4月に会合を持ちまして、計12回合計で20数社と有識者にヒアリングをしとりまとめたものが先程ご紹介頂いた提言です。
これらの多くは第三次補正予算案に取り込まれました。第一次、第二次はIT以外の、まさに瓦礫の処理などが最優先でしたので。
まずは災害に強いITインフラを再構築すること、特に携帯電話と防災無線ということを多く言われています。現在でも防災無線は全国で整備率は75%くらいです。整備されている自治体でも、例えば家でテレビを見ていたら聞こえないだとか、車内でラジオを聴いていたら聞こえないという状態がありますので、いかに防災無線の情報を色々なメディアで伝えるか、「多メディア化」の推進が重要です。
そして情報の「バックアップ」が必要です。震災時、役所そのものが津波で流されてしまい、住民の情報を失ってしまったというところが数多くありました。また、病院でも同様なことが起こって患者の情報であるカルテを失ってしまい、医者も薬もあるのに患者に処方できないという事態を招いてしまいました。情報のバックアップをクラウドで行っておけばこのような事態は起こらなかっただろうということが言われていました。
もうひとつ考えなくてはならない問題が、情報が連携しなかったことです。私は第一回目のIT復興円卓会議に出席させて頂きましたが、その際ウェザーニュースの石橋さんが「津波は到着まで40分かかっている。しっかりとすべての人に情報が伝達されており、40分の間に避難しておけば被害は防げた」ということを主張されていました。私はこのことがとても心に残っており、いかに迅速に正確な情報を様々なメディアで伝えるかということを提言に盛り込んだつもりです。(高井)



-藤末さんはいかがでしょうか。どのような活動をこれまでされましたか。(中村)



私は超党派で日本新生プランと言うのを作成し、菅総理に持って行きました。プランの内容ですが、例えばスマートグリッドの導入の提案などです。スマートグリッドとは何かと申しますと、現在電力というのは、大きな発電所があり、そこから電力を送るという仕組みになっていますが、太陽光発電・風力発電・自動車の自家発電など色々な電力源を繋いで、電力の配分を効率化しようとするものです。
例えば太陽光発電は晴れているときにしか発電しないので電力が不足します。その際、余っている電力源から太陽光発電分を補う電力を供給できるようにします。ただの配電網じゃないかと言われることもあるのですが、それは違います。なぜなら電力配分は非常に緻密なコントロールが必要になるのです。ですからその緻密なコントロールを実現するためにITを使うわけです。
スマートグリッドは例えて申しますと、インターネットと配電網が組み合わさったようなものです。アメリカでは第二のインターネットと呼ばれていて、グーグル・マイクロソフト・シスコなどが導入しています。今回の震災では配電網も被害にあっていますので、復興する際は災害に強い新しいシステムを導入し、そしてこれを導入することで、更に雇用も創出することにも繋がりますので。(藤末)



-第三回のIT復興円卓会議である「通信」の回でも、一番の問題は電力だというような話もありましたし、最近では経済産業大臣から発送電離という意見も出ました。電力に関しても色々な動きが出てきそうですね。さて、世耕さん。今は野党のお立場ですが、これまでどういう取り組みをされてきたのでしょうか。(中村)



-はい。それではまず番組冒頭での中村さんのご意見へのご指摘からさせて頂きます。私は議員を14年やっておりますが、少なくとも復興に関しては今ほど国会が機能している時期はないと思っています。ただし内閣はダメです。国会が機能している実例として、内閣が出来ないところに関しては我々野党が議員立法を提出する、あるいは内閣が出してきた法案については野党が提言をし、与党が真摯に提言を受け止め修正を行うといったやりとりを何度も行っています。
政治が混乱していて被災地をほったらかしにしているというメディア報道がありますが、決してそうではありません。例えば、原発被害で避難している住民に対して賠償金が支払われることになりますが、賠償額が確定するまでは非常に長い年月がかかります。そのため、おおよその賠償額の半分を仮払いするという仮払い法は我々野党が提出し可決した法案になります。そして被災した企業への補償策の一環として2重ローン対策法も提出、民主党は乗ってきました。これは、今までローンを抱えていた企業が被災し生産設備が流された時、また再度事業を行う際、これまでのローンに加えて更に新しいローンを背負うことになるリスクを嫌い、再度事業を行うことを取りやめるといった状況が起こらないよう、最初のローンに関しては何らかの形で国で買い取る仕掛けがを作ろうということで出来た法案です。
あるいは、これに派生して出てきた再生可能エネルギーの買取法などは、最初民主党が提案してきた内容についてはあまりにも高い買い取りになってしまうかもしれないということで、我々野党が金額を算定する第三者機関を設立してはどうかという提案や、品目別に分けて計算すべきだという提案もし、それらが盛り込まれました。
ですので、我々野党も提言型でやっておりますし、与党も問答無用ではなく野党の意見に耳を傾け真摯に受け止めていますので、現在の国会は健全に機能しています。実際に今成立している法律などを見てもらっても、与野党合意のもと成立したものは数多くあります。予算に関しても、野党としては叩きますが、特に復興に関するものはスピーディに成立させる姿勢は維持しています。国会がダメなのではなく、内閣がダメなのです。(世耕)

2012年3月8日木曜日

改めて「初音ミク」


■改めて「初音ミク」
  ここにきて初音ミクに関する取材をよく受けます。
 もう5年も前に誕生した音声合成DTMソフトが36000曲の作品を生み出し、11万作品の動画がアップされ、再生回数が数百万回にのぼるという、世界最大の持ち歌を誇る歌手に育ちました。
 今年1月、ロンドン五輪のオープニングを歌って欲しいアーティスト投票で、並みいるアーティストを抑えて1位を獲得、それも日本ではなく海外のサイトからの投票が多かったという。アメリカで初音ミクのライブを開くと、ほとんどの客が日本語でミクの曲を合唱するという。
 政府はクールジャパンの旗を振り、コンテンツの海外展開に躍起だが、それをミクは1人でやっちゃったわけです。


 それはなぜか。初音ミクのパワー源は何か。取材の多くはそれです。
 ぼくは「技術、ポップ、みんな」の3点、と答えています。
 まず、ボーカロイドという「技術」。誰もが専属歌手を持つことができるようにした技術。作詞・作曲から演奏への壁を取り除き、一流のプロも使う歌唱クオリティを開放したわけです。
 そして、カワイイ「ポップ」なキャラクターという身体性を与えた映像表現。16歳、158cm42kg、これぞ萌え、という要素を盛り込んだコンテンツです。東浩紀さんのデータベース消費ですね。
 ものづくり力=技術と、表現力=コンテンツという日本の2大強みをドッキングしたところにミクは実像を結んだのです。

 さらに、「みんな」が作る産業文化の形成。ニコ動やYouTubeといったソーシャルメディアで二次創作、三次創作、n次創作と曲や映像の連鎖が広がり、新しいコンテンツが派生していった。みくみくにしてあげたり、メルトしたり、はちゅねミクが生まれたり、ネギ好きという設定が加わったり。
 作詞・作曲する人もいれば、映像を作る、歌う、演奏する、コスプレ、踊る、さまざまな様式での参加が許され、奨励される。ユーザによる創作、共有、拡散の文化です。公式ソング、公式アニメ的な囲い込みではなく、外へ外へと増殖していく。
 オープンソースです。ソフトウェアのオープンソースは、技術の増殖でした。初音ミクはコンテンツのオープンソース。文化の増殖です。誰もがマンガを落書きし、誰もがタテ笛を吹くことができる「みんなの表現力」がクールジャパンの源。初音ミクの産業文化が日本から生まれたのは必然です。

 それはすんなりを海を渡りました。J-Popとアニメの組み合わせが国境を越え、伝搬力、発信力、浸透力を発揮しました。初音ミクの発声技術は日本語を前提にしているのですが、それがかえって日本語の魅力を発信するのに役立っています。
 いまやミクは世界的アイドル。コンテンツビジネスとしてユーザがCDやゲームを売るというチャンスも広がります。これまでミクはPC+ネットベースでしたが、これから世界的にスマホやタブレットが普及します。ソーシャルサービスの利用も本格化するのはこれからです。世界市場でのコンテンツビジネスはこれからとみてよいでしょう。

 それ以上に「リアル」の市場が期待できます。既にオモチャやお菓子などのグッズが販売されています。さらに、ライブやコスプレイベントを展開するなど、ユーザの「もりあがり」をビジネスにしていく路線です。音楽業界が注力している方向ですね。
 クリプトンフューチャーメディア社の拠点、札幌は観光の目玉として大々的に担いでいます。コンビニのディスプレイに大きく登場させたり、フィギュアやおにぎりや衣装を売り出したり、路面電車や雪まつりのキャラクターとして採用したり、カードや記念切手を発行したり。
 ユーザみんなが自分で作品を作る、という新しいビジネス。みんなで1人のキャラクターを使って作品や商品を生むというのは、これから発展が見込めるビジネスモデルです。

 課題もあります。次々とユーザが作り、ビジネスが生まれていく、その権利や処理ルールをどうするのか。さまざまな企業が関連してくることにより、係争も発生するかもしれません。
 さらに大きな課題は、第二、第三の初音ミクをどう生んでいくのか、長期的な環境の整備です。たまたま生まれ、みんなで育てた初音ミク。こうしたイノベーティブなよい子を、もっともっと生み続けたい。そのメカニズムを国内に内包したいと思います。

2012年3月5日月曜日

IT 復興円卓会議「政治」 1/10

IT 復興円卓会議「政治」 1/10

 IT復興円卓会議第6回、テーマは「政治」。2012年1月17日@融合研究所。
 パネリストは藤末建三民主党参議院議員、高井崇民主党衆議院議員、世耕弘成自民党参議院議員、池田信夫アゴラ研究所所長)の各氏、モデレーターは菊池尚人さんとぼく。これから10回に分けてログをアップします。

はじめに

—第6回目のテーマは「政治の役割」です。もともとこのシリーズは5回で終える予定だったのですが、これまでの議論で「政治を何とかして欲しい」という意見を多数頂きましたので、今回は特別にこのテーマで議論したいと思います。
東日本大震災が発生して以来、政治では色々なことが起こりました。昨年9月、総理大臣が変わりました。菅総理が6月に曖昧な辞意を表明してから野党が内閣不信任案を出し、野田政権に変わったのですが、例えばTPPや消費税増税問題など、まだゴタゴタは続いてと思う方もいらっしゃるかもしれません。あれほどの震災があったにも関わらず政治はまだ混迷をしていると言えるでしょう。先週も内閣改造が行われ、岡田さんが副総理で入閣したのですが、支持率は上がっていません。政治は落ち着いてくれるのでしょうか。
ただ、それでも復興に向けて動きが出てきました。復興予算が3次まで成立。5年で19兆円を投じる計画だそうです。今年2月には復興庁が成立します。復興特区、予算の一括要求などの権限があり、復興の司令塔を担えるかどうか、注目をされています。しかし震災から1年後に出来るのはあまりにも遅いのではないかという意見もあります。関東大震災の際は、帝都復興院というのが26日後に出来るというスピードでした。今の政治の混乱が復興の遅れにつながっているのではないかと、そのあたりも本日は議論できればと思っています。
そこで今回はゲストとしてIT分野に詳しい政治家の方々をお迎えしています。向かって右側、民主党参議院議員の藤末建三さんです。藤末さんは総務委員長もお勤めになっています。そしてお隣は民主党の衆議院議員、高井崇さんです。高井さんは民主党の情報通信議員連盟の事務局長もやっておられます。そして、自民党参議院議員、世耕弘成さんです。世耕さんは自民党の国会対策委員会の委員長代理でもあります。そしてアゴラ研究所所長の池田信夫さんです。
さて、前回放送の「ボランティア」では、情報支援プラボノ・プラットフォームの会津泉さん、ボランティア・インフォの藤代さん、Googleの賀沢さん、富士通の野口さんをゲストにお迎えし議論し、様々な提言を頂きました。今回にも大きく関係する内容ですので、ざっとどういった内容だったかを振り返ってみたいと思います。(中村)



—まず会津さんは「自分の問題として続けること」というメッセージをくださいました。人のため、だけではなくて自分にとって意義のある活動にしようと言うことを呼び掛けておられました。
ブロガーとしても有名な藤代さんは「信じる」。自律型の社会にしていくためには企業も行政も信じて任せることが大事であり、そこにITが貢献できるだろうということでした。 
googleの賀沢さんは「人を助けることに理由はない」というメッセージをくださいました。まずはやってみることの重要性を主張しておられました。
富士通の野口さんは、東日本復興の総括リーダーでもあられますが、「ケイゾク」が大事であると主張しておられました。被災地で活動している立場から、支援の継続性が不足しているのではないか、途切れてしまうのではないかということを心配して仰っていたわけです。

このように前回は一人一人の自発的な動きをどう復興に役立てるのかということを「ボランティア」とし、議論したわけです。ITを活用したボランティアの動きが数多く出てきている一方で、被災地以外では震災への関心が薄れてきているのではないかという声もあります。震災への関心が薄れるということは、自分たちの問題ではなく人任せの問題、政治家任せということになってしまいかねません。ということで、まず自分の周りの空気がどうであるか、アンケートしてみたいと思います。



<アンケート> 「自分の周りは今でも復興に関心があるか」

結構ある・少しはある・あまりない・全然ない

結構ある・少しはあるが両方23.7%、あまりない・全然ないが26.3



-もう少し関心ある方が多いと思っていました。メディアの報道スピードが早いのでしょうか。(藤末)



-地域によって受け止め方が全然違いますよね。阪神淡路の時は東京と関西でまるで違っていたように、今回は東北と東京、そして関西で意識が違うのだと思います。(世耕)



-瓦礫処理の受け入れを各自治体に受け入れてくれという話を政府がしていますが、あまり芳しくないのです。当社はやるぞと手を挙げてくれていた自治体も、放射能の問題などで地域住民の理解が得られず、なかなか進まないといった状況があります。その中でも受け入れを行うという自治体は、東日本に多いのです。ですので、やはり地域による意識の差というのは存在していると思います。(高井)
 

2012年3月1日木曜日

あんぽん 孫正義さん


あんぽん 孫正義さん
   佐野眞一著「あんぽん 孫正義伝」を読みました。雑誌に連載されたシリーズに大幅加筆とありますが、雑誌記事を読んでいなかったことを悔やみます。衝撃でした。強烈な貧困、差別、暴力、冒険、成功。あまたの小説を凌ぐスペクタクルであり、空想では紡ぎ得ないリアリティーがあります。書いたほうも書かれたほうも、すさまじい。

 11点、メモします。



1)「無番地とつけられた朝鮮部落に生まれ、豚の糞尿と、豚の餌の残飯、そして豚小屋の奥でこっそりつくられる密造酒の強烈なにおいの中で育った。」冒頭のこの記述だけで全編を期待させ、感動を約束する。

 かつてブログで書いたことだが、ぼくの幼少期、静岡にいたころ、近くの川原にあった朝鮮部落(韓国系・北朝鮮系の区別がつかないのであえてこう記す)で、豚小屋と得体の知れない雑多なニオイの中、嵐のたび住まいを流されてしまう同級生連中と遊んでいたギラギラした日々が自分の奥底に横たわっていて、その若年層コミュニティのリーダーが後の巨人軍・新浦投手なのだが、今やその場所は見事に忌まわしい記憶を抹殺するかのように荒涼たる公園と化していて、そこは新幹線で東京から静岡駅を越えてすぐ右向こうに見える、その落差に対するショックがあるものだから、この記述に人一倍強くアタマを殴られた。



2)生まれ舞台を「にあんちゃん」「豚と軍艦」になぞらえるシーン。今村昌平監督のモノクロ映像が見事にオーバーラップする。そういえば、にあんちゃんの一家も「安本」さんなんだよね。



3)孫さんの帰化申請に対し法務省が「名字に前例なし」と抵抗、これに対し奥さんが先に孫姓に改名し前例を作ったエピソード。こういう闘い方をするんだなぁ。勉強になる。



4)起業時の孫さんの一億円の保証人になったシャープ佐々木正さんが、退職金と自宅評価額を計算して受諾。説得するほうも、受けるほうも、凄い。ぼくはどちらにもなれそうにない。



5)豚の子に自分の乳を飲ませていたという孫さんの祖母に「フェリーニ映画の圧倒的な破壊力と猥雑な画面」を思い出した、という表現にぼくも映像を重ねる。まさに「激しい愛憎が織りなすアジア的曼荼羅世界の前衛性」。同時にぼくはアッカトーネあたりのパゾリーニの映像も脳内に重なった。モノクロでなければならない。今村昌平監督がこの話を知っていたら、吉村実子あたりで撮っていたと思うなぁ。



6)クライマックスは孫さんの父上。松の皮を食う、密航、新聞紙でできた天井、アル中、ケンカ、ケンカ、ケンカ。養豚、密造酒、金貸し、パチンコ屋。孫正義への無防備な愛情。愛くるしいほどの破壊力だが、周りは大変だろうなぁ。映画化したら「にあんちゃん」「豚と軍艦」の長門博之に演じてもらいたかったところ。



7)孫さんの同学年にゲイツ、ジョブス、マクネリー、シュミット、西和彦がいる、という。偶然じゃないんだろうな。デジタルの技術と産業が爆発するひととき、その瞬間に、そのエネルギーを導き出して点火するにふさわしい世代があり、それを実行した数名の人たちの名前が今も輝く。



8)被災地で地べたを這う孫さんも描かれる。震災後まもなくぼくが仙台の瓦礫に埋もれていたとき、孫さんから電話がかかってきて、震災復興財団を作るから協力してくれと言われた。凄い人だと思った。佐野さんは記す。「大津波に襲われた三陸地方に大物政治家と呼ばれる男がいるけど、その男が被災地に入ったなんて聞いたことがない」。論評は控える。



9)石炭は炭坑節を、川筋者は東映ヤクザ映画を生んだが、原発は40年以上たって歌も物語も生んでいない、という記述。資本や科学よりも、貧困や混乱が産み出すものがある。ジャズ、パンクしかり。



10)孫さんの叔父さんがヤクザになり、大阪・釜ケ崎暴動で警察に加勢し日雇い労働者と乱闘するくだり。くらくらする疾走感。これだけで躍動する映像シーンができる。



11)テレ朝買収を共に画策したマードックが失墜した話。96年。ぼくが孫さんに初めて会ったのはこの頃。

 森ビルの森社長と孫さんが仕掛けようとしていた通信回線整備プロジェクトの会議に呼ばれ、規制緩和策について論議した。そのころぼくは郵政大臣官房で通信・放送分野の行革を担当していた。だがぼくはそれよりテレ朝の件が気になり、政府幹部と調整しているか孫さんに聞いてみたのだが、誰とも話していないと言う。

 役所に戻り、事務次官はじめ幹部に、孫さんと話すべきと説いたが尻込み。オレが会うよ、と乗り出してきたのが高田昭義総務審議官。さてさてやってきた孫さんは、衛星を安価に調達し、映像ビジネスのコストを劇的に下げ、業界の構造を変える、とこれまた放送方面がギャーと吠えそうなことを息巻く。守旧派の権化たる高級官僚にガツンとかました、というところだろう。

 ところが高田さん、「ギョーカイ秩序を崩すよーなそーゆーことはもっと早くガーンとやってくれ」と言ったので、孫さんが目を白黒させてビックリしてた。おかしかった。

 霞ヶ関とも話せる、と孫さんは思ったかもしれない。でもそれは早計。高田さんはぼくが知る中で最も破天荒な官僚で(溝畑観光庁長官と肩を並べるかな)、しかも現役官房長のときに亡くなってしまう。ただ、乗り込んだ霞ヶ関で最初にそういう人に会ってしまうというのが孫さんのもつドラマ性なのだろう。

 その後、孫さんは通信やら電力やら、競争相手という経済原理だけでなく、霞ヶ関や永田町も撃破しなければならない面倒なインフラ事業にますます踏み込んで行く。

 これからも孫さんは新しい物語を生むことだろう。だがそれは「あんぽん」に描かれた貧困・差別からの劇的な飛翔という形ではなく、別の意味で厄介な、映像になりにくい、どっしりとした物語ではないか。そうではなく、これからも「あんぽん」に登場する極めて魅力的な一族の躍動感そのままに突き進んでくれるなら、物語の視聴者としてこの上ない傑作ではあるが、身近なかたがたには「おつかれさまです」と申し上げるほかない。