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2014年8月28日木曜日

リヨンの街角から

■リヨンの街角から
 この町、路地が多いです。トラブールというんです。重い扉を押して建物に入ると、狭い小路。奥には数平米の吹き抜け空間と、作業場と、塔。そして向こうの道へと抜けます。かつて絹織物の職人たちが、巻物を濡らさずに運び、しかもデザインを盗まれぬよう知財管理の工夫として設けたそうです。


 19世紀には蚕の病気が広まり、日本の生糸と蚕が大量に入ってきたとか。逆にフランス人技師が日本に招かれて富岡製糸場が造られたとか。そうして互いに世界遺産になっているのですね。
 ガダーニュ博物館には絹をまとう文楽の人形が威容を誇っていました。
 


 もちろん、さすがヨーロッパというデザインにもでくわします。
 窓の少ない壁一面に描かれただまし絵。リヨンの古い建物は、表向き窓が少ないのですが、裏側に回ると窓が多い。昔、ぜいたく税として、窓に税がかけられていたんですと。
 だからですね。外は粗末にしておいて、中に入ると空間を備えて、窓から光を取り込む。それは京町家の造りです。路地が多くて絹織物の産地とあれば西陣を想います。ローヌ川とソーヌ川が合流して、川が町の中心を貫く、そんな点も京都を想わせます。
 町を川がヨコに区切って、中之島(シテ島)があって、通天閣(エッフェル塔)がある点でパリは大阪だと思っておりました。リヨンは京都です。フルヴィエールの丘、円形劇場が遺るとおり、フランスがガリア地方だった時代の都がリヨンなのです。人口もほぼ同じ。
 なのに姉妹都市は横浜なんですよね。



  ぜいたく税のような政策は、町の姿も変容させます。でも、より直接的に町をプロデュースして注目を集めているのが「コンパクトシティ」。中心市街地への集中を促し、公共交通機関を充実させたエコな都市のモデルとして、リヨンはバルセロナやビルバオなどと並び、国際的な注目を浴びています。
 世界遺産の旧市街の古い建造物と好対照に、ローヌ川とソーヌ川の交わるあたりには過激な建築物が並びます。


 街を縫うトラムはそのデザインで世界に知られます。そしてトロリーバスとメトロ。エコな公共交通機関が面的に整備されていて、車が少ないというのもコンパクトシティの条件。
 EVカーシェアリングもあります。電力をIT管理するスマートシティの実験も進められています。東芝が主導で進めている、そう、福山雅治さんがCMで伝えているプロジェクトです。



 そうそう、リヨンの空港はサン・テグジュペリ空港って言うんです。スキなんですね、サン・テグジュペリ。ぼくがパリに住んでいたころ出回ったこの50フラン札。星の王子さまが小さくたたずむ。使うのが惜しかった。今は使えないのが惜しい。 パリの空港はシャルル・ド・ゴール。軍人にして英雄。さしずめ東郷平八郎元帥。日本に東郷平八郎空港はできそうにないですね。東郷ビールはフィンランドのものだし。サン・テグジュペリに当たるのは誰でしょう。愛されたアーティストであり、郵便飛行士。手に職のある芸術家。医者でもあった手塚治虫か。手塚治虫空港ならできるかね。



  ぼくにとってリヨンのハイライトはリュミエールさんのおうち。映画の発明から120年になります。フランス語で光、その兄弟がここで最初の映画「リュミエール工場の一日」を撮りました。おかげさまで映像の20世紀を経て、スマートの21世紀に突入しています。
 でもリヨンのメトロで観察していると、スマホより読書率のほうが高い。にわかにデジタルの軍門にはくだらない。フランスは。訪れたころ、あちこちの店が「8月は休み」と閉めていました。営みが変わらない。




 もう一つ、リヨンのハイライトは、リヨン美術館カフェにあるデュフィの壁画。でも、デュフィのことは長くなるので、別途。

 で、まぁリヨンですから美食ということですが、安い食堂に入れば仔牛の頭とか肝臓とか胸腺とか、素敵なメニューがある。腎臓を頼んでみたら、グロ注意、1個まるごとニョロンと現れた。この上なく粗野にして繊細、ゴツくてクサくて、たまりません。
  日本語でジンゾウ、英語でキドニー。どちらも濁音だけど、フランス語でロニョン。愛くるしいね。またこれを食べに参ります。

2014年8月25日月曜日

危機とサバイバル

■危機とサバイバル

ジャック・アタリ「危機とサバイバル」。38歳でミッテランの片腕となり、英サッチャー、西独コールらと渡り合った知性による21世紀の展望。
 個人・企業・国家への啓発書となっていて、アタリを初めて読むと鼻につくかもしれません。同著者の「21世紀事典」「21世紀の歴史」から入ることを薦めます。

 多くの読者が関心を示すであろう個人・企業に対する啓発はぼくにはピンと来ませんが、終盤の「国家のサバイバル」はアタリ的で楽しかった。「国家はすべて滅亡してきた」。これをどう読むか、という観点です。
 愛国心は「国家の自国の尊重」に現れるとし、国家による態度を問います。その指標として防衛、生活、規律に加え、文化財保護と(公共建築などの)デザインを挙げています。フランス人ですなぁ。
 その上で、自国を尊重している国として、イギリス、日本、オランダ、一部の北欧諸国を挙げています。他方、欠如する国として、アフリカ諸国、中国、インド、アメリカを挙げています。面白い。
 他国との共感力に乏しい国として、米・英・日・イランを挙げています。独創性として米・日・韓を挙げています。同意したり反論したり、ムズムズします。自己の尊重を示し、存在意義のある都市として、シンガポール、パリ、ロンドン、東京、ストックホルムを挙げています。これはかなりうなずきます。

 本文とは別にいくつものコラムが設けられていて、そちらのほうがうんと楽しいので少しかいつまんでみましょう。
 経済情勢、技術進歩、政治活動・テロなどの状況からみて、1913年と2013年が酷似しており、第三次大戦が勃発してもおかしくない状況といいます。 リーマンショックを予測したとされるアタリの言だからギョッとします。
 コラム「ビデオデモクラシー」では、全てが映像で記録される事態を予期しつつ、「映像が持つ信憑性は失われ、動かぬ証拠にはならなくなる」と見ています。なるほど、映像が自由になることで、逆に個々の価値が下がると言うんですね。
 2013年3月にローマ教会と中国が新代表を選出したが、この両者の組織も指導者選出法もよく似ているとします。確かにどちらも閉じたシステムで、どちらも同様の問題を抱えています。違いは前者が1800年で、後者はまだ数十年という点だとも。

 国家の将来性を見極めるにはGDPはあてにならず、「人口統計、料理、音楽」の3指標だといいます。人口統計を見て、料理=文化・生活様式を味わい、音楽=創造力・美を聞けばわかるというんです。この乱暴な見解がアタリ的です。
 その枠組みには同意するものの、人口統計はともかく、料理、音楽で判断すると、殴り合いになります。例えばアタリは日本を料理しかすぐれた点がないと評価しています。日本は音楽もすぐれてるよ!さらにアタリは、ドイツ・ロシアは3つともないと酷評。フランス人ですなぁ。
 中国は「世界に通じる普遍性を獲得しようという野心を持ったことがない」とします。なるほど、それを中華思想と定義するのですね。
 こうも説きます。---- ソ連解体で敵を失った米軍産複合体は中国を敵と想定する。そのためには日本を守るという口実が必要なので、日中が敵対し続けなければならない。これが米国の基本戦略であり、今後も日中を対立させようとする。--- これもフランス人らしい見解ですが、にわかには同意しかねます。

 こんな言葉も残しています。 ---- これまでの人類の総数は1000億人。メディアの発達により、一人の人間が接触できる人の数は1000人まで高まったが、これが急増する。「同時代に生きる人間同士の結びつきの数は、過去のすべての世代の結びつきの数を上回る」。
 人類はそのパワーをどう活用するか。その問いは、ぼくらが引き受けて、考えてみたい。

2014年8月21日木曜日

もっと光を:プロヴァンス、コートダジュール

■もっと光を:プロヴァンス、コートダジュール

 輝度が大事だって言うんです。精細度より。アメリカの会社の人が。あたし、そんなこと思ったこともなくて。だって、そうでしょ。HDとか。4Kとか。ううん。となりの奥さんなんか、宅はもう8Kよ。なんて。くやしいじゃないですか。それなのに、キドなんて。 
 って宇能鴻一郎で始めてみましたが、そうなんです。輝度を高めた映像は、精細度を上げた映像以上に鮮明で、驚く視覚効果を得ます。そんな映像会社のプレゼンに接し、うなっておりました。日本は精細度を競い、地デジから4K8Kへと突進する勢いですが、映像の進化はこのままタテに進むのがいいのか、ヨコはどうなのか、ちょっと冷静に考えてみたい。
 ということもありまして、もっと光を、とのゲーテ最期の言葉、人類の見果てぬ思いではありましょう。もっと光を求めて、南フランスのプロヴァンスとコートダジュールへ、来てみました。旅日記です。



 マルセイユ。濃紺の海、濃紺の青。間にぽっこりと浮かぶ島は岩肌がベージュで間抜けです。このイフ島はモンテ・クリスト伯の舞台。そんな歴史より、2016年、欧州サッカー選手権はこの地です。W杯、日本は全敗でも帰国する選手にごくろうさんムードですが、フランスは8強でもすこぶる不満。特にここはジダンやカントナを生んだ町であります。

  マルセイユは20年ぶりなのですが、前回はコルシカ島に向かうトランジットで立ち寄ったのみ。じっくり訪ねるのは初めて。
 4年前にラ・ロシェルの島を訪ねた際、「『冒険者たち』-36年の宿題」というブログを書きました。中学生のときに見た映画のシーンをジジイになってたどってみた記録です。
 http://ichiyanakamura.blogspot.fr/2010/08/36.html
 

 マルセイユに踏み込んだのも、そんなジジイの映像追憶。
 ミッシェルはマルセイユで車を盗んでゴダール「勝手にしやがれ」は始まります。「気狂いピエロ」のフェルディナンが爆死するのもマルセイユとカンヌの間、ポルケロール島なんですよね。リュック・ベッソン「Taxi」の舞台もマルセイユ。最近では、レア・フェネールという女性監督の驚愕の初作品、「愛について ある土曜日の面会室」がマルセイユでした。
 しかと歩きまわりました。でも、ミッシェルやフェルディナン、どっちもジャンポール・ベルモンドですが、どちらもクルマが大事なアイテム。あやかってクルマで繰りだそう。



 エクサンプロヴァンスからアビニョン、ポンデュガール。光に満ち、熱が降り注ぎ、水があふれる地。ローマ時代から中世を経て、文明を継いできた地。 --- アビニョンの橋って、狭くて踊りにくい。
  ローマ水道ポンデュガールは、いつの間にか観光地になっていました。子どもたちが文明の発掘と水流とを学ぶワークショップ会場。遺産を学習に転化するのは正しいね。
 プロヴァンスからコートダジュールへ、海岸線を東に進みます。ニースです。光が強まった気がするのは、エクサンプロヴァンスのセザンヌより、ニースのデュフィの印象がぼくには強いからかもしれません。デュフィのことは長くなるので、別途。
 でもマチスもシャガールもルノワールも、光を求めたからこそコートダジュールに居ついたわけで、その光のおすそ分けはいただきます。
 


 ニースから少しカンヌに向かえば、カーニュ・シュル・メールにルノワールの庭があります。ジル・ブルドス監督「ルノワール」の舞台になった場所ですね。知らぬ間にずいぶん美しい美術館に変身していました。
 


 そこから山に向かう。サン・ポール・ド・ヴァンスはシャガールが住んでいた村。天国に近づきます。
 







 ニースのシャガール美術館は、ほぼ天国です。
 


 さらに山に向かうと、マチス礼拝堂のあるヴァンス。ここはデュフィもたくさん描いています。より天国に近い。 

 これもニースにあるマチス美術館は、ほぼ天国です。

 





 逆側にアクセルを踏む。すぐにイタリア国境だ。その直前、やおら斜面に高層の建物群が現れたと思えば、眼下の港に突っ込む道路は急なスピンを求める。こえ〜。モナコです。モンテカルロのGPコースです。一周のコースには19のコーナーがあり、レーサーは4000回のシフトチェンジをするとか。あり得ない。
 目的地、モナコ海洋博は、他のどこにもない、光と装飾の粋でありましたが、そこに行き着くまでの過程は、ほんのり死を覚悟させました。だけどモナコのGPで死亡事故はわずか2件と現地人は胸を張る。まぁ、張っていいのかもしれない。
 「勝手にしやがれ」のミッシェルも「気狂いピエロ」のフェルディナンも、ぶざまに死にます。そしてぼくらに残ります。このあたりでは、年老いた画家が光を浴びるならいいけど、若いのが暴れるのはまずいのかもしれません。
 以上、報告まで。

2014年8月18日月曜日

「第五の権力」と「ビッグの終焉」

■「第五の権力」と「ビッグの終焉」
エリック・シュミット/ジャレッド・コーエン「第五の権力」と、ニコ・メレ「ビッグの終焉」を読みました。
 「第五の権力」は、五番目の権力たるネットがもたらす国家、革命、戦争の未来を、夢物語ではなく警鐘を鳴らしつつ展望します。いま求められる論考です。
 そして「ビッグの終焉」は、個人がネットで接続することで伝統的な組織や権力など「大きいもの」が崩壊するという警世書。特に目新しい視点はないが、ネットが引き起こす変化を総覧する好テキスト。マスメディア、政党、ハリウッド、政府、軍隊、大学、大企業。これら「大きいもの」がネットで連結した個人に覆される数々の事例。全てのセクターで、これが未来図ではなく現実になった、ということでしょう。
 合わせ読むのがよい書物です。

 まずは「第五の権力」。
 10年以内に仮想人口は地上の人口を超え、市民は仮想空間の自分の情報をコントロールできなくなり、それが現実世界に影響を及ぼす。民主主義政権も独裁政権も治安維持、違法取引阻止等のため、技術やその利用に制約をかけ監視を強化する。政府の規制により、インターネットは国ごとの網の寄せ集めとなり、バルカン化する。
 そう説きます。オンラインのIDがオフラインのIDより重要になるのではないかとぼくは思います。そして国家の監視は、それが有効か否かを問わず、強まることでしょう。国による対応の差は混乱を引き起こすでしょう。中国型、トルコ型、ドイツ型、既にそのようなまだら模様はみられます。Googleらグローバル企業と各国政府との折り合いがつかなければ加速するでしょう。それをGoogleのシュミット氏が見据えているのはどう考えればよいのか。

 ビンラディン氏は5年パキスタンに潜伏し、ネットも電話も使わなかったが、隠れ家が特定された理由は、都会の大邸宅なのに通信回線が敷かれていなかったことだったといいます。オフラインももはや安全ではありません。
 ネットで革命は増えるのか。ガス抜きが増えるのか。ドローンと3Dプリンタはテロを増やすのか。マイノリティへの電子的隔離政策は増えるのか。ロボットが人間の兵士にとって代わるのか。本書はこうも問いかけます。
 ぼくらのグループはスタンフォード大学と共同でIT政策研究会を開始し、未来展望からみた政策を論議します。このテキストが提示する論点も下敷きにして、どうすべきかを考えたい。もはやこれまでのようなインフラ政策やコンテンツ政策ではありません。

次いで「ビッグの終焉」。
 バネバー・ブッシュ、エンゲルバート、テッド・ネルソン、ティム・オライリー、ジョン・ペリー・バーロウ、エリック・レイモンド、シェリー・タークル、サルマン・カーン・・デジタルの先人の系譜を学び直すカタログ。
(プログラミング言語LOGO、ARPANET、96年通信法、OLPC、OCW、ファブラボ・・(ぼくがMITなどで関わった仕事の影響を再チェックするのにも役立つメニュー集でした。)
 小さなアーティストが情報を直接発信する一方、YouTubeなど「さらに大きなもの」が産み落とされるパラドクスを提示します。しかし、それは単なるパワーシフトではないのか?このように本書は、学生諸君にどう考えるかを問いかけるテキストとして使うとよさそうです。

 "「さらに大きな」プラットフォームが「小さなもの」というロングテールに力を授けて「大きなもの」の終焉をもたらす。"
 "大手映画会社が6つあるのと、8億人の自称監督がいるYouTubeが1つあるのと、どちらがいいのだろう。"
 "アラブの春に関する論評は、テクノロジーの役割を過大評価するサイバーユートピアと、独裁者らが反体制派を弾圧するために使ったテクノロジーを誇張するものとに二分される。"
 大学は必要か。"1000人の学生を週二回、講義室に詰め込んで、終身在職権のある教授が体系化した凝縮された知識を受け取らせる従来のやり方は、意味を失っている。"
 "世界屈指の規模と富を誇る会社(MS)が19歳の少年とボランティが作ったフリー商品(Firefox)に市場の支配権を奪われた。"

 こうした技術の功罪、そしてパワーシフトによる産業の未来、学生諸君、どのように考えますか?
 3つの提言が示されます。個人の力を活かす機構、有能なリーダーの選択、プラットフォームのコントロール。3つめのfacebook、Google、twitterなどプラットフォームをどう管理するかはIT最大の政策課題ですが、方法論は描かれていません。学生諸君、どう考えます?
 ところで、アメリカの選挙投票日が必ず火曜日なのは、日曜に教会に行き、水曜は市場が立つので、人々は月曜に馬車で出発して火曜に投票していたという馬車時代の名残りだといいます。技術が普及し、産業社会が急激に変化するかのようにみえる一方、他愛もなく続いていることも身の回りには多いはずです。

 "アノニマスは新しい社会機構の幕開けとなる/大規模なパワーシフトの一端"だと説きます。リーダーも階層も拠点もない、プロセスも文脈も仲間もいない。4chanというコミュニティから生まれた匿名集団のことを考えると、「2ちゃんねる」の先進性が浮かび上がります。
 「大きいもの」を連結した個人が破った先例は、2001年TIME誌のパーソン・オブ・ザ・イヤー、ネット投票で2ちゃんねるの連中が田代まさし票で1位を取った事件。これを逃してはパワーシフトは語れませんね。
 「第五の権力」にしろ「ビッグの終焉」にしろ、スマホ/クラウド/ソーシャルが定着した影響を総括し、ウェアラブル/M2M/ユビキタスへの変革を展望する時期だという現れです。ぼくもスタンフォード大学との共同研究を通じて深堀りしようと企画しています。

2014年8月14日木曜日

知財計画2014年、議論大詰め

■知財計画2014年、議論大詰め
  知財計画2014年策定の大詰めの会合にて。角川さんと川上さんが並んで座っているのは、五十音順だからです。
 2014計画、最後は座長一任とされました。ぼくの総評コメントです。

 コンテンツ政策はファンド設立、著作権法改正など各種施策が講じられてきていますが、成果を上げるのはこれから。今年は更に前進すべく、デジタルネット基盤整備とソフトパワー強化、国内基盤と海外展開の2本柱を議論。それぞれ深堀りのため、アーカイブと音楽のタスクフォースを設置しました。
 議論の結果、クラウドサービス、オープンデータ、教育情報化、アーカイブ利活用、音楽データベース整備といった意欲的項目を挙げることができました。これをどう実行に移すかが問題。政権の実行力を強く期待する次第です。
 一方、事態は動いている。KADOKAWA・DOWANGO報道には驚きましたが、IT・コンテンツ産業は世界的にもまた次のステージに進む気配です。他方、TPPの交渉模様も報じられており、危機感を抱きます。その進展次第で知財計画も根本的な影響を受けます。知財計画をまとめ、実行を期すと同時に、事態の変化にも対応できるよう身構えておきたいと考えます。

 さて、その会合はやはり簡単には収まらず、数々の発言がありました。

Google野口委員:ビッグデータが日本独自のプライバシー規制をしくことを危惧する。営業秘密保護強化に逆行。ITと知財を統合した政策を講ずべき。 
→重要な指摘です。

瀬尾委員:アーカイブにおいて国会図書館の位置づけが重要だが、国会のものなので政府計画に言及されない。政府を超えたヨコ串を考えることが必要。 
→別の議論の場が必要ですね。

角川委員:クールジャパン特区を作り、海外からの来訪者が行ける場、インバウンドの受け皿を作るべき。 
→竹芝でも考えてみたいです。

角川委員:かつてジャポニズムは政府支援もなく立ち枯れた。クールジャパンも21世紀のジャポニズムになりかねない。

宮川委員:グローバルな違法ダウンロード対策には、権利者-ISP連携によるブロッキングが効果的。より踏み込むべきだ。

川上委員:日本と海外企業との競争に不公平が生じないようにすることが最大課題。その視点が欠けている。海外サーバに日本の制度をどう適用するかをまず考えるべき。 
→ぼくもこれが今の最大課題だと考えます。本件について、山本一太大臣も本件をIT政策の文脈で取り扱うと確約しました。

重村委員:現地向けサイトを作って継続的にプロモーションをすることを支援する施策を希望する。 
→発信サイトの支援は効果的・効率的だと考えます。ぼくも以前から主張していますが、なかなか施策に結びつきません。

斉藤委員:各企業の取組が点から線、面に広がるようにしたい。成功例を作ることが効果的。
→御意。

迫本委員:今回かなり政策が明確化・具体化した。PDCAで継続的に見ていく仕組みが大切。
→御意。

喜連川委員:教育IT化が遅れている。オンデマンド教育を容易にすべく著作権制度を変えたい。
→ぼくもその議論を進めてもらいたいと考えます。

喜連川委員:アカデミックなクラウド・ネットワークの構築が必要。ビッグデータ対策は遅れている。後押しが必要。

久夛良木委員:現実のパブリックデータとソーシャルメディアのリアルデータを集めて遊ぶゲームが登場しているが、これは日本では生まれない。それはなぜか、を考えるべき。
→考えます。

大崎委員:ドラマ、映画、音楽の人材を育成する拠点を設けるべき。
→竹芝を拠点にしたいと思いますが、大崎さんの意中は沖縄ですかね。

山本一太大臣:検証とフォローアップが重要。知財戦略を成長戦略・経済問題としてとらえる。
→実行のほど、お願い申し上げます。


 知財計画2014の内容ですが、コンテンツ関連は「デジタルネットワーク基盤整備」と「ソフトパワー強化」の2本柱です。
 デジタルネット基盤整備では、クラウドサービス促進、プラットフォーム構築、オープンデータ・ビッグデータ、教育情報化といった重要項目を掲げました。
 教育情報化は、デジタル教科書の制度整備について本年度中に課題整理、2016年度までに措置、と時限を明記。遅い、という不満はあるけれど、前進です。
 また、アーカイブについてタスクフォースを設けて深堀り。2020年を目標として利活用を進めます。そこでは孤児著作物の利用促進措置が論じられています。超重要課題です。アーカイブ対象として、映画、音楽、マンガ、アニメ、ゲーム、デザインを明記しました。ポップカルチャーに力を入れたいところです。

 ソフトパワー強化について。aRma、J-LOP、クールジャパン機構など施策は積み上がったが、海外売上/国内市場は3.8%とか。低下してますよね。ううむ。
 音楽タスクフォースを設けて海外展開策を検討しました。海外拠点の構築、データベースの整備、海外市場の調査、権利保護の強化、人材育成など数多くの項目。音楽をモデルとして海外展開の成果を上げたい。
 特に、「コンテンツに関するデータベースの構築、国際的に共通化されたコンテンツの管理システムの導入に向けた民間での取組が促進されるよう、必要に応じて支援を行う」という項目が光ります。これに力を入れたい。
 コンテンツとファッション、食べ物、観光との連携策も重視しています。ぼくもTokyo Crazy Kawaiiのような異業種活動に力を入れつつ、竹芝でそうした場づくりを進めたい。
 
 もちろん、海賊版対策+人財育成は引き続き重要項目として列挙されています。6月末に工程表を加えて知財計画2014が完成する運びです。
 ところで山本一太大臣があいさつで、ぼくと5時間メシ食いつつ少年ナイフの歌を歌ったことをバラしてしまったのですが、それは議事録に残るのだろうか・・・

2014年8月11日月曜日

知財戦略:教育情報化

■知財戦略:教育情報化

 知財計画は、実行すべき施策を担当省庁名とともに列挙し、工程表を添えて、政府の行動指針とします。それを毎年、検証しつつ、施策を上塗りしていきます。
 各省庁も成果を上げるべく取り組んでいます。例えば海外展開策について。経産省によれば、国際見本市などで成約件数が1年で20~25%増。総務省によれば、放送コンテンツ二次利用の権利処理を進めるためaRmaを設立。カバー率9割で、処理時間が3割削減とのこと。成果が現れてきました。
 とはいえ、コンテンツの基盤整備と海外展開策に政府を挙げて取り組み始めてから、さほどの年月はありません。実績はこれから。緩めずまいりましょう。

 知財計画2014年の議論、大詰め会合のメモです。
 
・松竹迫本さん:継続性が重要。コフェスタ、クールジャパン機構、BEAJなど長期施策が進んでいる。省庁タテ割りから横串の策も進んでいる。
 →はい。ただ、まだ始まったばかりです。

・ドワンゴ川上さん:著作権侵害、海賊版について、海外企業だけでなく、海外企業のふりをする企業もいる。対策が必要。
 →そこは毅然とした権力の行使が必要ですね。

・竹宮恵子さん:中国等の留学生の大半は海賊版で学習しているが問題は理解している。ユーザの教育やコミュニティを活用した啓発も大切。
 →ハードな対策とソフトな教育。双方に力を入れたい。

・ドワンゴ川上さん:パーソナルデータのルール化はGoogleなどグローバル企業を利するもので、日本の競争力を削ぐ。
 →国内ルールとグローバル企業の問題は今IT政策の最重要課題。だが政府は鈍い。


 政府・知財計画には教育情報化も含みます。特に、デジタル教科書を正規教科書とするための制度整備に関し、知財計画2012では「検討」、知財計画2013では「措置」の文言が明記されました。これについて議論が集中しました。
 まず山本一太大臣から「知財計画にある"デジタル教科書の制度"をどうするのか」という質問。文科省は「未検討」との回答。ぼくは「デジタル教科書の制度検討は2年前に政府知財計画に明記されたが、まだ検討が始まっていない」と指摘しました。座長は控えていないといけないんですけどね。
 そこで大臣から「知財本部の場にて、デジタル教科書制度を巡る課題を文科省が整理し、議論せよ」との指示。はい、動かしましょう。

・竹宮恵子さん:ICT教育はサーバ管理などネットワーク対応が重要。
 →はい、端末や教材よりそちらのコストが大きくなると思います。

・東大・喜連川さん:大学のためのクラウドサービスを提供している。そうしたシステムをインフラとして共通利用すればよい。
 →学校ごとに閉じたシステムですから大いにムダですよね。オープンデータも教育情報化も、知財本部とIT本部の連携、ハード・ソフト一体化が重要。よろしくおねがいします。

 ということで、このあと知財計画2014の策定へと進みます。その内容は、別途。

2014年8月7日木曜日

道後オンセナート


道後オンセナート

 日本書紀にも残る日本最古の温泉と言われる道後温泉。その中心、道後温泉本館改築百二十年の大還暦を迎えることを記念して、アートフェスティバル「道後オンセナート2014」が開催されています。年末まで開催中だそうで。

 道後温泉本館が、アート作品へと変貌するほか、9軒のホテル・旅館の各一室を著名なアーティストたちが手がける、泊まれるアート作品群「HOTEL HORIZONTAL(ホテルホリゾンタル)」が誕生。  

 ちょいと見てきました。


まずは道後温泉本館。
中谷芙二子「霧の彫刻」。
20ミクロンの霧が1日7回3分、本館を覆います。



















福田泰崇「サイバー百椿図屏風」。
資生堂「百椿図」を3DCGで絢爛に映像化した4面デジタルサイネージ。
本館2階の和室に鎮座。
湯上がりのじいさんが一人ぼうっと眺めていました。










浴衣プロジェクト。
スポンサーのBEAMSがプロデュースしたオリジナル浴衣を貸し出しています。
着流すアートね。



















街に出てみました。
市営「椿の湯」の壁面を飾るリリアン・ブルジェア「寓話」。
鷺伝説に始まる道後の歴史物語を立体化。




















 「ゆだまん」。
湯玉をモチーフに商店街との協働で作られたオリジナルキャラクター。
ワークショップも開かれ、いろんなゆだまんが作られていました。 













ワン・ジュンジェ「霊湯大発見」。
道後の姉妹都市、台湾の新北投温泉をつなぐ架空の物語を立体化。
スナックの跡地を使った怪しい空間。  











道後の9ホテルが参加したアートイベント「ホテルホリゾンタル」。
各ホテルがアーチストをフィーチャーして客室を改装。
2軒訪れました。










「宝荘ホテル」。
草間彌生さんの「わが魂の記憶。
そしてさまざまな幸福を求めて」
--とんでもないです。










ロビーやカフェは水玉だらけです。
ぜんぶ草間さんプロデュースだそうです。 














そして問題の部屋。706号室。泊まれるのです。カギからして怪しい。  カギ














入口を開けると等身大のご本人がお出迎えです。
ありがとうございます。






















 706号室の洋間、上下左右360度、草間ワールドです。
ホテルは1室を潰してよくぞこのリスクを取られました。 














このハート、「愛はとこしえ」という作品。













かつての作品が壁を覆い、
























その銀球を天井に配置しています。
寝転んだ自分がそこに投影され、草間ワールドにひたる。














ふすまを開けて和室に入ると、
黄色と黒のリゲインな草間ワールド。





















遠大なるかぼちゃの宇宙空間です。
















テーブルも草間さん。













畳も水玉で。
























小さなクローゼットを開けると、小さな草間さんがいて、ご本人自作のうたをご本人が歌う声が流れてきます。
おつかれさまです。

 








 



「ホテル古湧園」荒木経惟さん。
これもホテルオーナーがずいぶんリスクを取りました。
901号室。
泊まれます。






















作品「楽園」。
花は女、怪獣は男。
これはアボラスですよね?










作品「緊縛」。
4枚屏風。
この部屋、18禁だそうです。