goo blog サービス終了のお知らせ 

逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

共和党はなぜペイリンを副大統領候補に選んだのか

2008年09月20日 | 宗教
オバマと民主党大統領候補の座を最期まで争ったヒラリー・クリントン支持の女性票を当てにして、共和党は副大統領候補に全く中央政界では無名で経験の無いサラ・ペイリン・アラスカ州知事を選んだとする見方は、副大統領候補の性別に惑わされている皮相な見解であり完全に間違っている。
公的健康保険推進の民主党リベラル派のヒラリー・クリントン支持層と、サラ・ペイリン支持層とは全く関係ない。
ペイリン副大統領候補は、中絶や同性婚や銃規制や進化論や男女同権、ヒューマニズムやリベラリズムに反対し嫌悪することで有名なアメリカの原理主義勢力(宗教右派)の代表なのです。

『米大統領選』

共和党副大統領候補サラ・ペイリン・アラスカ州知事は12日ABCテレビインタビューで答える。
そこで明らかになる『若さ』『庶民的』『女性』『普通のママ』のイメージの背後にある戦慄の真実。
米国の外交政策に関する無知と狭い政治的理解。
司会者の質問には全く答えられずブッシュ・ドクトリンについて聞かれた時には、それについて司会者が説明した後ですらそれについて知らないという失態を演じている
にも拘わらずロシアとの『直接軍事対決』をも辞さないという好戦的な姿勢だけは鮮明にした。
何故共和党はブッシュジュニアばりの此れほど未経験であるばかりでなく無知で無教養な候補を、何故わざわざ選んでしまったのだろうか。?

『科学授業で創造説』

世界では100年以上前に決着が付いている生物の進化を認めたくないペイリン副大統領候補の特異な世界観。
2006年に行なわれたアラスカ州知事選の候補者討論会において、Palin氏は、進化論と創造説の教育について、
『両方とも教えるべきだ。教育を恐れてはいけない。
全な討論は非常に重要であり、学校においては非常に価値を持つ。私は両方とも教えることを支持する』
進化論を信じるかという地元紙の質問に対し、Palin氏はそれには答えず、
『授業で議論が持ち上がったときに、議論そのものを禁じるべきではないと思う』
『生命がどのような過程をたどってきたかについて、わかっているふりをするつもりはない』と語っている。

『進化論と創造説の争い』

1925年のテネシー州で高校教師が、進化論を教えたとして起訴されたスコープス裁判までアメリカでは、進化論を学校で教えることを法律で禁じていた。
連邦最高裁判所は1987年に、いわゆる創造科学(旧約聖書の天地創造)を公立学校で教えることについて、科学というより宗教だとし創造説を教えることは教会と州の分離に反する、との裁定を下している。
2005年のドーバー学区進化論裁判で、表面上は宗教に中立的な立場をとっている『インテリジェント・デザイン説』(知的計画、ID説:生命や宇宙の精妙なシステムは知性ある設計者によって作られたとする説)が、宗教的な創造説だと判断された。
しかしそれでも、キリスト教保守派による創造説教育推進の動きは大いに盛り上がっている。
進化論(科学)教育を擁護する人々は、Palin氏が副大統領候補に選ばれたことで、このような州に対する教会の優勢に弾みがつくことを懸念している。

『創造論の反撃』

サウスイースタン・ルイジアナ大学の哲学教授で、創造説に基づく科学を批判しているBarbara Forrest氏は、
『共和党の大統領候補マケイン氏が、このような特に反科学的な見解を持つ人物を選んだのは残念だが、驚くには値しない』
『Palin氏は宗教右派を喜ばせるために選ばれた。そして宗教右派は、進化論教育に反対する主力的な位置を占めている』と語る
今年2月にはフロリダ州の教育委員会が、進化論を『それに代わる説』と比較対照させることを求める決議案を僅差で否決している。
『それに代わる説』とは、創造説の婉曲表現として広く認識されている言葉で、ID説を推進する団体のDiscovery Instituteが考案したものだ。
同団体が提唱する『くさび戦略』(wedge strategy)は、教室での進化論(科学)教育を徐々に減らし、最終的には『キリスト教および有神論的な信念に合致する科学』(反科学)に置き換えることを目指している。
テキサス州では目下、法廷で有利になる方法を使い、州の教育カリキュラムを創造説(反科学)を支持するものに改定することを検討中である。
6月には、ルイジアナ州のBobby Jindal知事が『ルイジアナ州科学教育法』を可決させた。
これは地球温暖化や人間のクローニング、進化論に代わる説を学校で教えることを奨励するものである。
同様の試みは、サウスカロライナ、フロリダ、アラバマ、ミズーリ、ミシガンの各州では否決されている。

『宗教国家アメリカ』

アメリカ合衆国という国家は極めて宗教的意志を持った(先進国では唯一の)特殊な国である。
『歴史におけるアメリカの存在意義は何か?』という根元的な問いと真剣に取り組むことのない思想が、アメリカ国民に強い影響を与えたためしはない。
そして其の存在意義は極めて宗教的な価値観で語られる。
そしてアメリカという国は『共通の過去』を持っていないために『共通の未来』についての意志を欠くと『昔の民族的アイデンティティ』へ、簡単に逆行してしまう。
アメリカは元々、特殊性(例えば天皇制)よりも普遍性(共和制)を、地域性(例えば血=民族の論理)よりも世界性(イデオロギーや教義)を評価する姿勢持っていたしアメリカ自身も其れを目標とし誇りにもしている、と多くの人々に思われていた。
対して日本は、『普遍性よりは特殊性を、世界性よりは地域性を評価する』という姿勢である、と言われ日本のアメリカ化(民主化・グローバル化)が『良いことである』と何の疑いも無く信じられている。

『普遍性(universal)、世界性(global)』

困ったことに、『普遍』と呼ばれるものの多くは『大きめの特殊』に過ぎず、『世界』もまた『大きめの地域』に過ぎないケースが多い。
例えば、経済におけるグローバルスタンダードや新自由主義の様に、大きめの特殊が、自らを『普遍』『世界基準』と称して小さい特殊を虐め排除し支配しているだけではないのか。?
メイド・インUSAでしかないユニバーサルモデルやグローバル経済を世界中に押し付けている現在のアメリカ合衆国自身は、決して普遍的(universal)でも世界的(global)でもない。
普遍的や世界的は単にアメリカ自身が描く自己宣伝、自己欺瞞に過ぎない。
真実の姿からは程遠い。
真実のアメリカ合衆国という国家は、人類史上稀にみる宗教国家(Theocracy=神権政治)で、普遍的でもなければ世界的でもなく、偏狭で狂信的で特殊な、そして狭い地域エゴの国である。
例えるならアフガニスタンを支配していた偏狭なタリバン政権のキリスト教バージョンの相似形の国家なのである。

『宗教右派(Religious Right)』

アメリカにおける宗教右派(Religious Right)の発生は其れほど昔の事柄ではない。
ベトナム戦争の敗北で大きく傷ついたアメリカの威信。
ヒッピー・麻薬・フリーセックス・同性愛・ロックンロール・中絶・ウーマンリブ等のいわゆる『カウンターカルチャー』(対抗文化)が1960~70年代にかけて盛んになった。
伝統的な『家族』の崩壊や犯罪の増加、戦争で打ち負かしたはずの日本やドイツの経済的追い上げ等によって、『強いアメリカ』のイメージを崩壊させられていった。
1980年前後になると、これらの社会現象対する『伝統的価値観側』からの猛烈な反撃が始まった。
其の象徴が『強いアメリカ』を掲げて登場したレーガン政権である。
西部劇のヒーローのようなレーガン大統領が『悪の帝国』ソ連をやっつけるといったステレオタイプ化した図式がもてはやされた。
このレーガン政権誕生の背景にあるのが『宗教右派』の運動であった。

『神を信じるアメリカ人』

アメリカ人の宗教心は、われわれ世俗化された日本人や西欧人が想像するより遥かに信仰熱心で、『神の存在を信じますか?』というギャラップの世論質問に、アメリカでは95%もの人がYesと答えていた。
この数字は9・11事件以後にはさらに跳ね上がリ、粗100%と言っても良いくらいになる。(信じていない人は口を塞ぐ以外の選択肢は無い)
『イエス・キリストを救い主として受け容れるように、他の人に伝道したことがありますか?』は51%。
『聖書を実際に神の言葉として、一語一句文字通りに(神による創造や世界の終末など)真実なものとして受け止めますか?』でも31%。
この様な極端な聖書原理主義(根本主義)の人達を福音主義(Evangelical)者と呼ぶが、
『あなたは福音派の基督教徒ですか?』に、38%の人が『Yes』と答えている。
(何れも9・11以前の低い数字で、事件以後には大きく宗教心が高まったとされています)
なるほど、『公立学校で、進化論(彼らの主張だと「進化という一仮説」)だけでなく、(旧約聖書に書いてある)神による創造説(いわゆるアダムとイブの話)も教えるべきだ』というような法律が通る筈である。

『レーガン政権成立以後』

レーガン以前は、宗教右派勢力が政治的に大きな影響力を行使することはなかった。
『与えられた民主主義』の国である日本では、選挙権も成人になれば自動的に与えられる。
『民主主義を勝ち取ったと自負する』アメリカでは、選挙権に達した人が自分で『選挙登録』しなければ有権者にはなれない。
4割のアメリカ人が『聖書を実際に神の言葉』として、一語一句文字通りに、真実として信じている。
『世界の終末』や『キリストの再臨』や『至福千年王国=ミレニアム』が今すぐそこに迫っているのである。
『現世よりも来世』
今の世界はもう直ぐ終わるのであるから宗教右派は、この世における現実の政治的選択には、あまり関心を示さなかった。
ところが、『アンチ・カウンターカルチャー』(反対抗文化)勢力が形成されるや、Moral Majority(道徳的多数派)やChristian Coalition(クリスチャン連合)と言われるような保守派の団体が次々と結成される。
レーガン政権成立前後の経済不況で職を失った『怒れる中流白人』たちが大量にこの運動に流れ込んでいった。
時を同じくして世論に大きな影響を与えるようになっていたテレビ伝道師(Televangelist)たちも、その論調を大きく右傾化(原理主義化)させていった。

『アメリカ宗教右派の目標とは何か』

アメリカ宗教右派とは、大まかに下記の特徴的な『三つの目的』を持った原理主義の政治的な諸集団を指している。
(1) 『Humanism批判』
日本にでは、ヒューマニズムは『良い意味』で使われるが、アメリカのコンテキストでは、『人間中心主義』であるヒューマニズムは、全ての事象を『神抜き』で説明してしまうので、ネガティブな意味に取られる(リベラルと同様)。
地域の公選制である教育委員職を奪取して、公教育の場において進化論を批判し、公立学校での祈祷(聖書の朗読)の時間を復活させるのが目的。
(2) 『Pro-family』
『伝統的な家族のあり方』を大切にする。
男女同権には反対。なぜなら、男女同権を認めると、同性愛者が夫婦になることを拒絶できなくなるから。
(3) 『アメリカ至上主義』
アメリカ=神の側、神意を実現する国。ソ連(中国でもイランでも日本でもいい。
ともかくアメリカに楯突く国)=サタンの側。これをやっつける

宗教右派とは、カウンターカルチャー(対抗文化)に対するアンチ・カウンターカルチャーなので中絶や同性婚や銃規制や進化論や男女同権、ヒューマニズムやリベラリズムに反対する伝統回帰的な宗教運動(キリスト教原理主義)なのです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アメリカの金融破綻とグラス... | トップ | ダーウィンの進化論とアメリ... »

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

宗教」カテゴリの最新記事