沖縄返還協定に関する機密公電を外務事務官から入手し、国家公務員法違反罪で有罪が確定した元毎日新聞記者西山太吉さん(76)が、違法な起訴で名誉を傷つけられたとして国に損害賠償と謝罪を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は9月2日、原告側の上告を棄却する決定をした。訴えを退けた一、二審判決が確定した。
一審東京地裁は、西山さんに対する起訴から今回訴訟を起こすまで20年以上経過していることから、民法の「除斥期間」を適用し、請求を棄却。二審東京高裁もこれを支持した。
日本政府が返還に当たって米国側費用を負担するとした密約の存在については一、二審とも判断しなかった。
またしても最高裁は、誰の目にも明らかな目の前の真実を退け、白を黒と言い黒を白とする違法無法な下級審判決を支持し被告側の上告を棄却した。
『西山事件』
1972(昭和47)年3月27日
衆議院予算委員会で社会党の横路孝弘議員・楢崎弥之助議員が外務省極秘電信を暴露。
(返還に伴う軍用地の復元補償で、米国が自発的に払う事となっている400万ドルを実際には日本が肩代わりする旨の密約)
1972年4月4日
外務省女性事務官が国家公務員法(秘密を守る義務)、毎日新聞の西山記者を国家公務員法(秘密漏洩をそそのかす罪)で逮捕する。
1972年4月5日
毎日新聞は朝刊紙上に「国民の『知る権利』どうなる」との見出しで正当性を主張。
1972年4月15日
起訴状は「ホテルに誘ってひそかに情を通じ云々」と三流エロ週刊誌並みの代物で、裁判所で読み上げられた公文書としては前代未聞の内容。
この破廉恥なエロ起訴状を書いたのは当時東京地検検事の佐藤道夫(現民主党参議院議員)であった。
こうして司法やマスコミやは問題の中心を米密約の有無や国民の知る権利などの大事な問題から、男女のスキャンダルという極小の問題に摩り替えて全てを隠蔽する。
毎日新聞は記者を守る責任が有ったにも拘らず権力に全面的に屈服し、夕刊紙上で「道義的に遺憾な点があった」と謝罪。編集局長を解任、西山記者を休職処分とした。
1974年1月30日
一審判決。女性元事務官には懲役6月執行猶予1年の判決、西山記者は無罪。
1976年7月20日
二審判決。西山記者はして無罪を破棄し逆転有罪になる。懲役4月執行猶予1年の判決。
1978年5月30日 最高裁判所が上告棄却。
2000年、
米国立公文書館保管文書の30年経過での秘密指定解除措置で、この密約の事実を示す証拠文書が公開された。
密約当時の実務責任者、外務省アメリカ局長で、密約文書に署名した吉野文六 氏は、米公文書が見つかってもなお否定し続け、政府は吉野氏の証言をもとに否定を崩していない。
02年にも別の証拠の米公文書が見つかったが、この時も吉野氏の証言をもとに、政府は否定した。
「そういう密約はなかったと報告を受けている」(安倍官房長官)
「この話は終わっている。外務省の態度に変化はない」(麻生外務大臣)
2006年。『吉野文六氏、密約を認る』
吉野氏は、
『沖縄返還協定を批准するためには密約が欠かせなかった 』
『国会で何度もウソをつかねばならなかったので、西山事件で世論の流れが変わり、助かった』
『2000年当時の河野洋平外相から密約の事実を 否定するように要請されたので、ウソをついた』と告白する。
西山氏は05年4月、「違法な起訴で記者生命を閉ざされた」として、政府に 対して損害賠償と謝罪を求め提訴する。
この事件は、裁判所が、憲法が保障する取材の自由に対する制限を明記した点で、大きな致命的な問題を残した。
従来の判決の趣 旨は、
『公務員の守秘義務よりも、報道によってもたらされる国民の利益の方を尊重する』という姿勢だった。
しかし、この判決では「(取材の手段・方法が)社会 通念上是認することのできない態様のものである場合、違法性を帯びる」とし、 これでは国家が国民をだますような取材しにくい内容のテーマでも、行儀良く取 材しなければならない、ということになる。
米国では、情報はその内容の価値がすべてであり、取材方法の良し悪しはまた 別の問題、とする考え方が根強い。
西山事件では日本人の政治感覚の未熟さをさらけ出した。
民主主義の基本「知る権利」よりも、男女の「下半身問題」に関心を向け、国民をだま した政府密約の重要性を国民の大部分が理解できなかった。
『歴史の真実から逃げた西山裁判』
アメリカ公文書よって,沖縄返還協定内外の密約は計5本,2億0700万ドルにも上る巨額なもの。
密約の大枠は1969年11月の日米共同声明発表の折の柏木雄介大蔵省財務官とジューリック財務長官特別補佐官との間で交わされた「秘密覚書」で決められていた。
国会の承認を得ず密約を交わすことは憲法73条3号但書違反である。
予算の執行を伴う以上,予算に嘘を盛り込むので虚偽公文書作成・同行使(刑法156条,158条)に該当する。
国税を目的外支出をさせることになるので詐欺(刑法246条)ないし背任(刑法247条)にも該当する。
正に沖縄返還密約は佐藤栄作首相,福田赳夫蔵相,大蔵官僚らの権力中枢の国家組織犯罪であった。
沖縄返還密約が国家組織犯罪であることを認めるとなると,西山太吉氏を起訴し,公訴を追行した検察官の訴訟行為は違法となる。
西山記者を有罪とした最高裁自身が犯罪行為に加担したのである。